番外  「暴れん坊領主」




貿易都市ルザリア

謎の魔物襲撃事件により一時は騒然となったのだがそれも落ち着き街はいつもの活気が戻ってきた

大通りには露店が並び行き交う人々が列を成し賑わいを見せている

この一件、ルザリア騎士団の奮闘は内外から高い評価を得ており住民からも褒め称えられていた

しかし当の騎士達は連日連夜の緊迫した防衛任務に疲れ果てており

体勢が落ち着くとともに順に休暇が渡される事になった

まぁ、勤務を続ける騎士達にも住民から感謝の気持ちとして

スタミナが付く差し入れが多数寄せられているのだが・・

結局の処、体を休める事こそが一番なのである

 

・・・・・・・・

 

「ふあ〜あ・・、寝ても寝たりねぇや・・」

 

場所は騎士団屋敷前の公園、時は晴天の中の昼下がり・・

賑わいを見せているルザリアだがこの公園はかなりの大きさで大通りからも少し離れている分

静かでありルザリア住民にとっての憩いの場となっている

その中、暖かい日差しの中でベンチで寝ころび昼寝を貪る青年が一人。

彼はマーロウ=ザン=ベネディクト。

タイムをモノにしようとルザリアに訪れたがうまくいかず

ルザリアの騎士として務める事になったボンボン貴族。

当然騎士としての資質はなかったのだがクロムウェルの拷問に耐えられるだけの根性があったようで

意地でこの一件を切り抜けたド根性野郎

なんだかんだで騎士という職に就く事を意識するようになり

今では一応ルザリア騎士として認められるようにはなった

しかし、基礎訓練も禄にしていない分この一件では幾度となく危険な状況に追い込まれたのだが

その都度アンジェリカによって強制的に付けられた首輪に守られてきたという

そんな彼も非番を貰い、ただただ体を休める事に時間を費やす

着ている物も白いシャツにズボンのみという質素な姿・・

多少肌寒いが風が心地よいという事で午前中から露店で摘むものを買ってゴロゴロしているのだ

昔ならば考えられない生活習慣だが、これはこれで自由であり彼も気に入っていた

 

「・・あ〜、通りは賑やかだけどどうにも繰り出す気分にはなれないなぁ・・」

 

そう言い露店で買ったサイコロ状のパンケーキを摘む

安値で味も良いそれはマーロウのお気に入り、

紙袋に決められた重さを入れて販売している分見た目の美しさはそれほどでもないのだが味は良い

素朴ながらも奥が深くできたてならば列ができるほどである

特段やる事がないマーロウ、

それを食事変わりに摘みながらこれからどうしようかと悩んでいたところ


 

「あっ、こんなところにいたんだ。マーロウ君」


 

軽く声をかけてやってくるは肩幅で揃えた綺麗な金髪が特徴の若い女性

身動きが取りやすいドレスを着ており正に清楚な女性と言える

彼女の名はニクス=フライム。

マーロウの同僚でテント群担当課で任務に就いている

二人が所属するテント群では最近できた小規模な部署であり合計で6人しかいない

それ故に二人ずつ休暇を取るようにシフトが組まれその日はこの二人が休みとなった

「あ、ニクス。どうしたんだよ?」

「まぁ・・休暇だって事だけど日がな一日寮で休むのも何だか面白くないからお散歩に・・ね。

マーロウ君は?」

「俺も似たようなもんだな。流石に自主訓練するほど元気じゃないからこうしてゴロゴロしてるんだよ」

そう言いながらもベンチから起き上がり頭を掻くマーロウ

「訓練は堅く禁止されていたものね、まぁ確かに今の状態で訓練しても逆効果でしょうけど・・隣、いい?」

「えっ、あ・・おお」

何とも無しに焦るマーロウに対しニクスは微笑みながら遠慮なく座り

紙袋からサイコロケーキを一つ取りそれを口に放り込んだ

さも当然のようなその態度にマーロウはしばし唖然と上機嫌のニクスを見つめていた

「・・よかったね、何とか切り抜けて・・」

「あ、ああ。そうだな・・実際何度も死にかけていたかもしれないけど」

「でも実戦の中でコツは掴めたんじゃないかしら?体の運びに冴えがあるわよ?」

「そりゃなぁ・・。あれだけ実戦の連続だったから慣れて当然だろう?

・・まぁ、室長やキース先輩に比べたらまだまだだしシトゥラ先輩なんて

どう動いているのかまるでわからなかったけどな」

テント群担当課はある種の異能集団でもある

特に白狐族の女戦士シトゥラの実力は凄まじく

ルザリア騎士団の中でも1,2を争う実力者として周囲にその名を知らしめているのだ

「シトゥラさんは特別だよ、

テント群はちょっと変わった人が多いらしいから・・比較しても良いことはないわよ?」

「わかっているよ・・正規の騎士は室長とニクスぐらいなものだろう?なんかすごいよなぁ・・」

「そうねぇ・・、そんな6人であのテント群を守り抜けたのもすごいと思うよ」

「はははっ、ようやく仕事したって感じだったけどな」

「ふふっ・・・・それで・・勘当されたの・・?」

チラリとマーロウの方を向き遠慮しがちに尋ねるニクス、だがマーロウの顔に特段変化は見あたらない

「ああっ、金輪際戻ってくるな・・だってよ」

「そう・・」

「まぁ〜しょうがねぇよなぁ。輸送物資の額みたら結構あったんだし」

今回の一件、日が経つ毎につれて食料等がなくなっていき

各避難場所ではそれが原因で騒動が起きそうになった

そこでマーロウは自腹を切り輸送物質を手配する計画をニクスに打ち上げ二人で実行に移したのだ

結果はそれが大成功、セシルという強力な助っ人を招いた事もあり

じり貧の状況を一気に覆し見事勝利を収めたのだ。

しかしそれだけでは終わらなかった。

物資やそれの手配料などの出費が予想以上に大きく

請求先のベネディクト家では財を削らざるを得ない状況となったのだ

これに激怒したベネディクト家はマーロウを勘当、

二度と家の土を踏むことを認めないと書状を送ってきた

だが、その事を知る者はほとんどおらずマーロウも敢えてその事を語ろうとはしてこなかった

「──マーロウ君、大丈夫?」

「えっ?ああっ、俺は平気さ。まぁ親の金を使い込むのはタブーだってわかっていたし・・

あの程度の物資で勘当を突きつけるような心の狭い親だと思うと、

勘当された方が清々するって思えてきてな

・・全く、以前の俺なら泣いて許しを乞っていたか・・。

あっ、それ以前にそんな事に金なんて使わないか」

「ふふっ、そうね。でも・・この一件で事態を動かしたのにそれも自慢しないんだ?」

「そう言うのが目的でやったんじゃないってわかっているだろう?

俺は俺でできる事をやっただけ。

正直、最初は騎士なんてものには興味もなかったけど・・

クロムウェルやニクスが必死なのを見て俺もそうなりたいと思ってさ

だから自分にできる範囲でやって結果が得られた、それだけで満足なのさ」

「マーロウ君・・でも、私はちゃんと見て、知っているから」

「・・えっ?」

「この魔物襲撃事件で事態を動かし

騎士団を勝利に導いたのはマーロウ=ザン=ベネディクトだって事は、

私が誰よりも知っているから」

彼を見てニコリと笑いそう言うニクス、その笑顔にマーロウは頬を赤らめた

「し、知るかよ!それよりも・・ニクスも家を勘当されたんだよな・・そういうの、大丈夫なのかよ?」

「私?そうね・・、私もマーロウ君と同じで、覚悟の上で騎士になったからそれでいいの。

まぁ、それでも今回の一件で家が無事なのかはちょっとだけ気になっていたんだけどね」

「・・えっ?家って・・」

「ああっ、言っていなかったけど・・私の家はルザリアにあるの

・・あっ、あったの・・だね」

「──複雑なんだな・・」

「そうでもないよ。勘当されたのならどこだろうと本来なら関わり合いがないだけだしね。

それに例え還る家がなくても私達にはルザリア騎士団って家があるじゃないの」

「・・・ああっ、そうだな・・。

そんじゃ、その家からも追い出されないように・・これからは一層がんばらないとなぁ」

「ふふっ、マーロウ君素行が悪かったから〜、がんばらないと周りが認めてくれないわよ?」

「は、反省しているよ!あれは・・」

「ええっ、クロムウェル教官に嫌ってほどしごかれたものねぇ」

「・・あれを思い出させないでくれよ」

地獄の拷問を思い出し顔色を悪くするマーロウ、

そんな彼に対しニクスは微笑みながら彼の頭を撫でてやる

唐突な行為にマーロウは驚くもそれに抵抗もできずなすがままとなっていた

そこに・・

 

『あ〜らあら、平日のお昼から随分と熱い事をしている騎士もいたものねぇ』

 

軽く声を掛ける女性の声・・

振り返ってみると臍丸出しの白いシャツにデニムな短パン姿の長い金髪美女の姿が・・

活発そうなスタイルながらにして手には花束を持っている

「あっ、え〜っと、セシルだったか・・」

「覚えていたの?意外に利口ねぇ・・マー坊君」

「あれ・・マーロウ君、この人が・・」

「えっ、ああ、輸送隊護衛で来てくれたセシルって女だよ」

「え・・ええ!?じゃあ・・この人があの『金獅子』セシルさん!?」

素っ頓狂な声を上げるニクスに対しセシルは悪い気がしないのか顎をさすりポーズを決める

「ふっ、そう呼ばれていた時もあった・・わね」

「すごい・・、いつの間にかギーグ容疑者をハイデルベルクへ護送するために都市を発ったって

聞いたからお会いできると思わなかったのに・・」

歓喜に震えるニクス、その瞳は何気に潤んでおりマーロウは呆気に取られている

「──なぁ、ニクス。そんなに有名なのか?」

「有名も何も!ハイデルベルクで一番有名な女性騎士よ!?聖騎士にも選ばれたエリート中のエリート!

『力』のセシルに『知恵とその他諸々』のタイムって女性騎士の憧れの的なんだから!」

声を荒げるニクスなのだがマーロウにはそれが今ひとつ理解できないご様子

「エリートな割には・・冒険者だよな?あんた・・」

「痛いところを突くわね・・マー坊、

それに何時の間に私は『力のセシル』って言われるようになったのだか・・

まぁ、騎士団に所属していたのは過去の話、今は冒険者として活動中なのよ。

でも〜、そういう過去の栄光ってのは中々消えないのよねぇ」

「うわぁ、何気に自慢している・・」

「そういうつもりはないんだけどねぇ・・何を話しても自慢になっちゃうかも♪」

「・・良い性格してんな・・。

ってか、ニクス・・目が煌めいているけど、団長尊敬した方が道徳的に良くないか?」


ボンボン、道徳を語る

「団長は団長で尊敬しているわよ!でもセシルさんはセシルさんで尊敬しているの!

すごいわぁ・・その強さはまさに中性的、一時期は男性説まで流れたのよ!マーロウ君!」

「知らねぇよ・・ってか・・男?

胸がでかいけど・・確かにそう言われてみれば言葉使いも何だかオカマっぽいし・・」

「マー坊♪それ以上の戯れ言は死を意味するわよ♪」

ニッコリ笑って背筋が凍る殺気を放つ中性的女、

それが冗談ではない事はマーロウもわかっている

何せ初対面で彼女の『本気』を見せられたのだから・・

「じょ、冗談だよ!」

「ふぅ、わかっているならつまらない事言わない。

・・にしても、そんな下らない容疑に掛けられていたとはね・・」

 

『貴女の素行の悪さは有名だったからね・・』

 

唸るセシルに対し優しく声を掛けるは紅の美女タイム、スーツ姿のまま彼女に歩み寄る

「あら、タイム。休憩中?」

「花束を持った貴女がいるってクロムウェルから聞いてね。ここだろうと思って休憩がてらにきたの」

「別に気を使わなくてもよかったのにねぇ・・」

「ふふっ、クリスのためなんでしょ?なら・・私もいたほうが良いでしょう」

「そう言われると照れるんだけどねぇ」

はにかむ笑顔を見せるセシルに対しタイムも今まで見せたことのないような穏やかな笑みを浮かべた

「クリス・・って確かこの間も言っていたよな?何か関係あるのか?」

「あ〜、あんたあの場所にいたわね・・そういや・・。

あそこの石像があるでしょう?あれよ」

軽く指さすは公園の一角に設置された天使の像とそれを包み込む花壇

質素ながらもよく手入れがされ花は咲きそこは華やかさに満ちている

「あぁ・・確かあの花壇は・・タイム団長がお手入れをしているんですよね」

「・・ッ、ニクス君。そんな事を・・」

「早出の時に手入れをしているのを見たことがありましたので・・」

「ふぅ、目立たないように動いていたんだけどね・・。

あれはお墓よ、私とセシルの可愛い後輩が眠っている、ね」

静かに天使像を見つめる二人、その表情は何とも言えないものがあり・・

「ふぅん〜、その後輩ってのがクリスなんだな」

「あんたねぇ・・、プライベートな事をずげずげ聞かないの。まぁ・・正解なんだけどね。

あの子のためにタイムはがんばっているのよ・・。まぁ、そういうわけ」

ニコリと笑い天使像の元へ歩いていく・・そして二人は並んで祈りを捧げ出した

 

「・・大切な、後輩だったみたいね」

 

「そうだな・・、だからこそセシルが大暴れしたわけか・・」

 

「戦友・・か、いいものねぇ」

 

「そんなもんかよ?俺は自分の事で精一杯だからなぁ・・」

 

歴戦の女騎士二人が亡き友の冥福を祈る姿をニクスはマーロウはしばし見取れる

しばらく二人は祈りを捧げた後、ゆっくりとニクス達の元へと戻ってきた

「ふぅ、でっ?マー坊は勘当行き?」

「──まぁな、これで心おきなく他力本願できなくなったってわけだ」

「ふぅん・・じゃあ、タイムと一緒ね?」

「えっ?団長も勘当を!?」

「そうよ、マーロウ君。ニクス君も同様・・貴族の女が騎士になるって事はそういう事なの」

「そうよねぇ・・、中流貴族に産まれた女なんて、家の名前を上げる道具みたいなものでしょう?」

あっけらかんと言うセシルに対しタイムとニクスは苦笑い

「あ〜、それはちょっと・・言い過ぎなような・・」

「あら、そう?でもがんばんなさいよ、マー坊。

あんた素行の悪さ全開でしょう?ちゃんと精進しないと相手にされないわよ?」

「そこらはスクイード室長がいるから阻害されないとはクロムウェルが言っていたよ」

「室長・・、シトゥラさんと同棲してますからね・・」

天下無双の阻害男スクイード、男共の嫉妬を一身に背負う姿はもはや男の中の男・・

マーロウ程度、足下にも及ばない

そんな中、いつの間にか人が集まっているマーロウ達の元へ

今度は屋敷からクロムウェルがやってきた

「よう、揃いも揃って何だべってんだ?」

いつもの如くあっかるい感じ・・なのだが全身包帯まみれでおおよそ大丈夫そうに見えない

「あら、クロムウェル・・何それ?まだ傷が治ってないの?」

「あ〜いや、先の一件のは完治したんだが・・な」

「・・・・」

言葉を濁すクロムウェルに拗ねた感じのタイム・・

普段は凛々しい女団長も彼と一緒だとどうしても素顔が出てしまうようになったようだ

「あ〜、なるほど。原因不明のケガをしたって言われていましたが

とどのつまり痴話喧嘩だったのですね!」

「ニクス!?」「ニクス君!?」

「ははは、中々鋭いみたいねぇ・・ニクスちゃん♪」

「・・・、別にニクスじゃなくても丸わかりな気がするんだけどなぁ・・」

あきれ顔なマーロウ、実際クロムウェルに此処まで手傷を負わせられるのは

タイムかシトゥラ、アンジェリカぐらいであり

タイムから私刑に遭い重傷を負うのが大概なのだ

「うるせぇ・・!あっ、そうそう・・こんなところでだべってんじゃなかった。

タイム、ハゲリバンが呼んでいるぜ?
セシルも来いって」

「げっ!?ハゲリバンが!?」

「・・ってかさ、俺は別に良いにせよお前はかつての上司だろう?」

「いいのよ別に・・。はぁ・・行きたくないけど逃げたらウルサイだろうし・・付き合うわ」

「無難だな、ついでだ。ニクス達も来いよ?」

「えっ?私達がですか?」

「ああっ、今回の騒動についての事だろうからな。

マー坊とニクスは功労者だろう?金一封ぐらいでもよこすように交渉してやるよ」

「まぁ、貰えるもんなら貰うけどさ・・俺、そういう行儀が良い事できないぜ?」

「大丈夫よ、マーロウ君。ここに行儀とはかけ離れた男女がいるのだから」

ニヤリと笑いタイムが肩を叩くは当然クロムウェルとセシル・・

二人はタイムを軽く睨みながらも反論できるはずもなく、

そのまま騎士団屋敷へと向かうのであった

 

────

 

屋敷内にいた本部の騎士に案内され5人が通されたのは大会議室。

中央に構える大テーブルにはルザリアの地図が綺麗に折りたたまれている

その中で姿勢正しく座り茶を啜るは総団長オサリバンともう一人、白髪まじりの老人・・

どこにでもいそうな年寄りなのだがその顔を見た瞬間タイムの体は凍り付いた

 

「カ、カーディナル王!?」

 

なんせその老人こそがこの大国を治める王、カーディナルだったのだ

正装をしていなければ誰だかわからないものなのだがタイムは諸事情によりその顔を良く知っている

・・が、同じ事情を持っているクロムウェルはその名前を聞いても誰だか今ひとつわかってはいないようだ

「待ちかねたぞ?タイム団長・・それにクロムウェルとセシルか・・。意外な面々が揃ったものだな」

「・・タイム、この人誰だ?」「私も・・教えて?」

「二人とも!自分の国の王の顔ぐらい覚えておきなさい!」

「・・あ〜、王さんか。っうかさ・・そんなどこにでもいる爺さんの格好していたらわからんて」

「そうそう、寧ろタイムがすごいのよ」

王が目の前にいるのに態度が変わらない金髪二人、やはり大物である

「雑談はいいからさっさと座れ・・。そっちは・・確かベネディクト家のマーロウ君か・・」

「ああっ、今回の功労者だからな。この二人に金一封ぐらい贈ってやれよ、ハゲリバン」

「そうだな・・報告で聞いている。まぁそれは考慮しておこう、とりあえずは座れ・・まずはそれからだ・・」

ハゲリバンという言葉には無視をして周りを諭すオサリバン

こうともなっては従わざるを得ず5人は静かに着席する・・。

タイム達はまだしもニクスやマーロウ達はこの大国の重鎮と顔を合わせている事にもはや何もしゃべれないようだ

「さて、まずはこの一件ごくろうだった。ハイデルベルク騎士団総団長として礼を言う」

「勿体ないお言葉です・・」

「それ相応の事だ。それに・・セシル、騎士団に戻るつもりで協力でもしたのか?」

「冗談、今の腑抜けた組織に戻る気なんてないわよ。

加勢したのはタイムとクリスのため・・それだけよ」

ばっさりと言ってのけるセシルにオサリバンは笑みを浮かべる

「お前はいつまで経ってもそのままだな・・。

まぁ良い、協力感謝する、マーロウ君とニクス君もご苦労・・。

団長の指示外でそこまでの行動をしたのは見事だ、

クロムウェルの言う通り特別報酬の用意をしておこう」

「いっ、いえ!そんな・・私はただ手伝っただけで・・計画はマーロウ君が・・」

「えっ!?あっ、俺だって・・ニクスがいなかったらうまくできていなかったんだし・・!」

「慌てるなよ、安月給で命張ってるんだし勘当されてんだろ?

金はあって困ることはねぇんだ、貰っておけ」

「クロムウェルの言うとおりだ・・。まぁ素直に受け取っておけ」

「「・・あ、ありがとう・・ございます」」

心の広い総団長に二人は静かに頭を下げた

「・・そんで、王さんまで呼んでどういう事なんだよ?」

「うむ、それだ。それについては・・カーディナル様・・」

「説明しよう、此度の一件で領主ギーグは逮捕されルザリア領主は空席となった。

元々ギーグは政界進出した貴族が推薦して任命した者でな、今回の一件で推薦した貴族の面目も潰れた。

そこでわし直々に次期領主を選ぶという事で話をつけたのじゃ」

何気に説明し出すカーディナルに一同息を呑む

話してびっくり、意外に普通の年寄りであり威厳というものがおおよそ感じられないのだ

・・まぁ、だからこそ毎晩のように夜の街に繰り出していても気付かれないのだが・・

「ふぅん・・、でっ、王様が指名するからここに来たって事はルザリア騎士団から選ぶって事?

もしくはタイムに適任者を推薦させるとか・・」

「前者、だな。

今回の一件でルザリア騎士団がいかにこの街の住民のために働いたかは誰が見ても評価はできる

彼らこそがこの街を束ねるのにふさわしい」

タメ口で質問するセシルに対してそれを気にも止めないカーディナル、

こうしたところが大物の証であるのかもしれない

「待った!!だからと言ってタイムにその役を押しつけるんじゃねぇだろうな?

それは俺は反対だぜ?」

説明を遮って言うはクロムウェル

恋人の健康のためにタイムを領主にするのは断固として反対のようだ

「・・クロ・・」

「わかっておる、タイム団長はこれだけ大きな都市の治安を見事に束ねている、

故にその細身の体にかかる疲労も並ではない・・これ以上の仕事は彼女を潰しかねない」

「──わかっていればいい。でっ、じゃあ誰なんだよ?新領主は?」

 

 




 

「・・・お前だよ、クロムウェル=ハット」




 

 

 

 

 

「・・・はっ?」

 

 

 

「だから、お前に領主をしてもらおうと言っているのだよ、クロムウェル」

真顔で言うオサリバンに対し目が点な間抜け面になるクロムウェル

だが呆気に取られているのは彼だけではなく一同凍り付いていた

 

「ちょっとちょっと!!本気で言っているの!?ハゲリバン!?」

 

「そうですよ!クロムウェルさんですよ!?ハゲリバン総団長!?」

 

思わずニクスまでご乱心、

「・・ニクス君、私はオ・サ・リ・バ・ン・・だ」

「えっ!?あ・・すみません!!」

「・・(セシルやクロムウェルには注意しないんだな・・)」

猛省するニクスを見ながらマーロウは静かにそう思う

因みに注意しないのはしても効果がないから、二人の行儀の悪さは伊達ではない

「し、しかし総団長・・それは突拍子もないといいますか・・・無謀といいますか・・」

「タイムの言う通りだ!俺がどういう人間なのかは知っているだろう!?」

「だが、この一件でお前は領主職として議案についての判断をしただろう?

中身は目を通させて貰った・・その判断力ならば問題はない」

「しっ、しかしよ!領主ってのはそれだけじゃないだろう!?」

ルザリア内の物事が領主職の全てではない

他にも各都市との会合等その職務は多岐に渡る

当然専門知識も必要である、適正だけでは務まる事は出来ない

「もちろん、クロムウェルの領主としての技能不足は承知している・・

そこでだ、サポート要員として助役を二名雇った・・入ってくれ」

オサリバンが外に声をかけるとともに大会議室の扉が開き助役となる二人が入ってくる

 

「予想通りの反応ね・・、まぁそれも当然かしら」

 

「先輩ですからね、まっ、僕も最初は驚きましたし」

 

黒いスーツとサングラスを付けて入ってくるはアンジェリカとフィート・・

まるで護衛役のように見えるのだが中身を見る限りには護衛以上の恐怖を持っている危険人物達・・

「アンジェリカにフィート!?どうしたんだよ!?」

「クロムウェル領主の補佐という話が来てね、

ここの騎士達も魔術に関しては後は自分で応用力を付ければ良いレベルまで来たことだし・・

元々時間が空いていたから引き受けたの」

「僕の方はまぁ・・正式な仕事を持っておいた方がエネも安心するということで・・」

「・・し、しかし、二人ともそんな事ができるの?」

「あら、タイムさん・・それは失礼よ?魔術を学ぶ事を考えれば都市運営なんて朝飯前よ」

「その通りです、ましてや法王レベルの魔術師が二人ですからね・・

先輩は寝ていても仕事はこなしますよ」

ニヤリと笑ってみせるフィートだが・・何やら危険な香りも漂ってくる

ある種、一番権力を持たせてはいけない人種であったりするのだが

優秀な事には違いはない

「まぁそういう事だ。クロムウェル・・引き受けてくれるか?」

「・・・・・・・、俺が・・なぁ・・」

「クロ・・」

「・・まぁ、わかった。大して役に立てないとは思うが引き受けよう

・・その分、法王コンビ!しっかり働けよ」

「了解よ・・ふふっ」

「ああっ!だけどハゲリバン!条件がある!」

「んっ?なんだ?お前にしては珍しいな・・」

「まぁそんな大した事じゃない、周期的に俺はちょいと東国に出向く用事がある。

それは領主になろうとも譲れない」

「そこらは助役がフォローを入れるだろう、問題ない」

「それともう一つ、タイムにちょっと長期休暇を取らせてくれ」

「クロ!?」

「・・自分ではなくタイム君に・・?どういう事だ?」

「あ〜いや・・それがな・・俺が領主になったら忙しくなるだろう?

その前に二人でどこかバカンスに行こうって約束していたからさ・・そのためのだ」

軽く言ってのけるクロムウェルだが見知った者達の前での発言故にタイムは顔を真っ赤にして俯いた

「はっはっは!!!意外にマメだなぁ!いいだろう!

どのみちタイム君はオーバーワーク気味だったからな、

この一件の終了を機に体を休めて貰おうと思っていたところだ!」

「・・総団長・・」

「まぁ他に要望があるなら伝えてくれ、

できるだけお前の意見は通るようにはしておこう・・クロムウェル領主殿」

「別に、自分からなりたいって言ったわけじゃないからいいよ」

「相も変わらずさっぱりした男じゃ。

あっ、そうそう・・この一件でここの領主用の屋敷は全壊した。

そこで新しいのを建てるとする・・設計はお前に任す、予算の方も何とかしよう」

「──話が大きすぎるぜ・・?設計って言われてもよ・・」

「ああっ、それなら()()ロカが引き受けてくれるわよ。

話を聞いたらクラークだって手伝ってくれるんじゃないかしら?」

敢えて『私の』を強調するセシルさん、近頃は余裕がなくなってきているようで・・

「それはいい。クラーク=ユトレヒトが担当した建造物はどれも優秀だと言われているからな」

「・・もう、どうにでもしてくれ・・」

盛り上がる話・・だが、当のクロムウェルはそれについていけずにテーブルに頭をつけて白旗降参

彼には領主という職が少し、重みを感じすぎるらしく

そんな彼に対しタイムは優しく背中を撫でてやるのであった

 

 

・・・・・・・・・

 

 

一週間後

カーディナル王が画策した「新領主クロムウェル計画」は着実に遂行されていた

元々アンジェリカやフィートはできる子なので政治学はお手の物、

二人の活躍による傀儡政権っぽくなりそうなのだがそれは目を瞑るという事で・・

他にも細かい交渉は進められ正式に領主になるよう手はずは整っていく

都市議会の方もクロムウェルが領主となる事に反対する意見が出てこなかった、

貴族地区は不満そうだったがどうやらギーグとの癒着があった分

強くは言えないらしく黙認という形になったらしい

タイムの長期休暇についても騎士団は大賛成、

すでに各部署がローテーションで休みを取り終えたが故に

後は
総員でタイムの代わりを務めるという事で一月ばかりの休暇を取る事ができた

 

そしてクロムウェル、中々に複雑な心境だが

これもタイムのためと覚悟を決め自分にできる事をすると観念したらしい

しかし、その出世にベイト達は涙を流しながら悦びセシルが周囲に漏らしたために噂は広がり

元第13部隊の面々から祝いの伝書まで届くようになったとか・・

さらには領主としてふさわしい場所に住まなければならないという事で屋敷の建造まで行う始末・・

場所は領主の別荘・・

かつてラベンティーニが人身売買を行った場所でガレキを撤去して突貫工事に突入

設計はロカルノ、現場指揮はクラークが快く引き受けて相応の居城を造るために奮闘をし出した

 

「・・・なんか・・ほんと意外だよな・・」

 

「そう?私も最初はびっくりしたけど・・良い人選じゃないかしら?」

 

肩を並べて倒壊した塀に座り話をするクロムウェルとタイム・・

目の前では大工さんが大勢、汗を流しながら工事を進めている。

それは普通とは違い明らかに数が多い。

彼のためにと有志で集まった人員も多いのだ

天気は快晴、風は穏やかで絶好の工事日より・・時たま怒号が聞こえるがそれでも着々と作業は進んでいる

「そうかなぁ?俺みたいないい加減な奴がやっていいもんでもないような気がするけど・・」

軽くため息をつく、流石にいつもの格好では領主として格好がつかないという事で現在はスーツ姿・・

ベイトやアイヴォリーが選びに選んだ末に黒いスーツが一番マシだということで決定、

髪は下ろして整えており見た目は街の荒くれ者から一転、

柄の悪そうな裏街道の人っぽくなっている

これに黒服なアンジェリカとフィートが付くのだ・・動じない貴族はまずいないだろう

「何言っているのよ、ギーグみたいなのに比べたらよっぽどマシじゃない」

「そりゃあな。まぁ・・細かい事はアンジェリカ達に任せますか・・」

「どの道そうなりそうな気がするんだけどね。

でも・・執務を騎士団の団長室でやるなんて・・王も良く認めたものね」

クロムウェルが出した条件の中では

事務をするのは騎士団の団長室が良いというとんでもないものがあった・・が・・

それもあっさりと承諾、

流石にこの時はニクスも「なんでもいいのかしら?」と呟いたとか・・

そんな訳で先だって騎士団屋敷も軽く模様替え、

騎士団長と領主が机を並べるというさも珍しい光景がそこに誕生したらしい

その代わりに愛用していたソファは撤去、

来客は応接室にて行うということで統一され、

いつも使っていたあのソファは
新居にて引き続き使われるという事になった

「ふふふ・・まさか本当に認めるとは思わなかったよ・・。

でもよかったな、これでこの街の最高機密があの部屋に揃う

・・これでベイト達もうかつには入ってこれまい!」

「・・ク、クロ・・もしかして・・」

「あそこで抱くお前の姿が忘れられなくてなぁ・・」

ニヤリと笑いサムズアップ、対しタイムはそんな事考えていたのかと額に手を付き大げさにため息をついた

「ははは・・まぁ、いつも一緒がいいだろう?

別のところでお互い仕事をし過ぎていたら〜、つまんないだろうしさ」

「・・そうね・・、クロ・・」

「ん・・?」

「がんばって、応援しているわ」

「おうよ、給料も大幅アップってな話だ。

それだけの仕事はしないとなぁ・・何せ住民の皆様の税金だし」

「・・あ・・クロ・・。今までの教官職のお給料も・・税金からよ?」

「・・え゛?」

「つまり・・そういう事」

顔を赤らめるタイム、

つまりは団長室で二人で悶々していた時もお金が出ています・・っということで・・

「──まぁ、いっか♪その分凶悪犯罪には皆勤賞だし」

「そうね、どこぞの穀潰しな貴族達とは違ってクロは働いているものね・・いざっていう時は・・」

「・・うるせっ」

そう言いながら静かに笑うクロムウェル、つられてタイムも微笑み返した

例え立場が変わろうとも二人の関係は変わることはない。

そこへ・・

 

「よ〜う、新領主様。浮かない顔してどうしたんだよ?」

 

ニヤニヤ笑いながらやってくるは茶髪に小さな丸眼鏡が特徴の大工姿をした男・・クラーク

「クラークさん。その言い方は早いって」

「あぁ、そうだったな。そういやまだ住民には発表してないんだな・・さぞかし驚くだろうなぁ」

「まぁ・・な。その様子じゃクラークさんも驚いたようだな」

「当たり前だろ?危うく腸捻転になるところだったぜ?思い切った人事なもんだ」

そう言いながらクロムウェルの肩をバンバン叩くクラーク

様子からするに心底おかしかったらしい・・

「そりゃあなぁ・・でも、よくここまで人が集まったものだぜ」

「俺が声をかけた。材木もシグマとアルが協力して思った以上に良いのが揃っている。

人手も沢山いる・・ここらはフロスが仲介しているらしい。

設計はロカルノがやっているしクローディアの奴も手伝っているぜ?」

「至れり尽くせり・・だな。

ってか・・クローディアが・・?」

「ナタリーの件でお前には恩義を感じているようだからな・・。

まぁ、そんな訳だ。

がっちりしたのを旅行から戻ってくる頃には仕上げてやるよ」

自信満々に言ってのける名大工、確かに・・それだけの人手がいるのだが・・

「あの、クラークさん。流石にそれは早すぎるのでは・・」

「ああっ、タイムさん。屋敷を造るからと言っても早々変わるもんじゃないって。

それに今回は魔術も使って組み立てを行う予定だからな・・」

「魔術・・?何する気だよ?」

「お前の助役が手伝うってよ。

魔術を使えば大きな木材の運搬も楽だろう?その分効率的にできるって訳だ」

「へぇ・・まぁ、アンジェリカとかならそれだけ器用にできるだろうけど・・な」

「まぁ、楽しみにしておけ。

またロカルノから詳しい解説はあるだろうけど・・

とりあえずはお前の私室とタイムさんの私室は廊下を挟まずに行き来できるように

隠し通路を設置するらしい」

「えっ!?わ、私の私室!?」

いきなりの新事実にタイムは目を丸くして驚いた

「えっ?聞いてないのか?

オサリバン総団長直々の注文でな・・、

年頃の女が職場に泊まり込んでばかりいるのも不謹慎だから

クロムウェルの部屋の隣に一室造ってくれ・・だってよ」

「・・総団長・・」

「ま、まぁまぁ・・いいんじゃないか?それもさ」

「ははは・・まぁ、趣味の良いレイアウトをしておくよ。

・・っと、そういやクロムウェル。

地下室は再利用してそこに回転ベッドと三角木馬を用意すればいいんだな?」

「・・なっ!?」

「ク、クロ!?」

「何だ?媚薬やら大人の玩具とか色々欲しいって事じゃないのか?」

「なんでだよ!?そんなもんまで注文した覚えはねぇっての!!」

「・・・ならセシルか・・全く・・」

「当たり前だ。俺は虐めて悦ぶ性癖はないんだよ。

地下室は埋めるのが面倒なら倉庫にでもしておいてくれよ」

「わかったよ、・・それで、二人して旅行って話だけどどこに行くんだ?」

気まずそうなタイムを察して話題を変えるクラーク、

最近では彼もそこまで気が利く事ができるようになった

「カムイだよ」

「・・・・・、何もないぜ?」

「言うと思った。

まぁのんびりできるからいいんじゃないか?

別にどんちゃん騒ぎをするために行くわけじゃないんだからさ」

「まっ、そういうのならいいんじゃないかな?

カムイは時がゆっくり流れているって言われているしな」

「違いない。疲れた大人の癒しの場って言われているしな」

「・・そういう理由で行くのも哀しいけどね」

「ははは、まぁタイムさんはがんばっているからな。

まぁゆっくりしていくといいさ。

その間ルザリアででかい事件が起きたら俺達で何とかしておくよ」

「・・えっ、あっ、でもそれは・・」

「気にするな、当然の事だよ。どの道、俺達は屋敷の完成までルザリア滞在になるんだしさ」

「・・ありがとう、ございます・・」

「ああっ、そういやクラークさん。

クローディアも来ているんだよな・・ちょっと、呼んでくれないか?」

「んっ?いいぜ?お〜い!クローディア!」

大きな声を上げて手を振る、すると行き交う大工の中で一人の女性が駆け足でやってきた

どんなところでもクラークの声を聞き逃さない・・そう言った感じだ

そんなクローディアは場に不釣り合いな黒袴に白道着姿、

襷掛けをしており懸命に兄の手伝いをしていたようだ

「どうしましたか?兄上?」

「ああっ、クロムウェルが何か用があるってよ」

「そうでしたか・・、クロムウェルさん。この度はおめでとうございます」

「・・あ・・ああ、ありがとよ。まぁ作業の邪魔しちゃ悪いから手短に言うぜ。

旅行でカムイに行くんだけどついでに姉御の墓参りをしようと思っているんだ」

「姉上の・・ですか。いつもありがとうございます」

我が姉を此処まで慕ってくれている事にクローディアは微笑みながら礼をした

「いいってことよ。それでだ・・俺も領主になるって事で前金に結構金を貰っているんだ。

ここいらで・・姉御の墓をもっといいのにしたいと思ってな」

「・・えっ・・」

「もちろん、こういうのは肉親でやるべき事だからな。

そんな訳で金は俺が出すからクローディア名義で作り替えるって事で・・いいか?」

「え・・ええ、それは嬉しいのですが・・本当によろしいのですか・・?」

「ああっ、あんなに見窄らしい墓だと姉御も不満で成仏できないだろうからな」

「・・わかりました。では・・私からもお金を出します。それで・・お願いできますか?」

「わかった・・そんじゃ俺が責任を持っていいのを頼んでくるよ。

クラークさんは?戦友なんだからそんくらいは・・」

「いやっ、別にいいんじゃねぇの。俺は何か邪険に扱われていた節があったしさ」

「・・そら、一つ屋根の下で暮らしていて全然クローディアの想いに気付かなかったからだろう?

姉御の性格的に良くも刺されなかったもんだぜ」

「言ってくれるな・・。

まぁ、特段俺に対する思い入れみたいなのはないらしいから〜別にいいだろう。

線香代ぐらいはカンパしてやるよ」

「・・なんか、せこいなぁ・・」

「そうでもないさ。元々遠慮もくそもない間柄だったしさ・・

それにあの脳天気さだ、元々そこらへんに骨を埋めても満足していたんじゃねぇか?」

 

バキ!

 

そう言った瞬間に突如クラークの体が舞った・・

それはまるで誰かに殴られたかのよう、

しかしそこには何もおらず誰も手を上げていない

「っ!?クロ・・今のは!?」

「あぁ〜、まぁ俺とクローディアがいる時限定で起こる心霊現象みたいなもんだ」

「え・・ええ!?なんでそんなに平然としているの!?」

「初めてじゃないから・・な。

まぁ俺とクローディアには姉御の魂の欠片みたいなのが守ってくれているんだよ。

でも二人が一緒にいるとその欠片通しがくっついて姉御の生き霊みたいなのになっちまうんだって。

その時に悪口を言うと反応して反撃をしてしまうとまぁそんなシステム」

「・・っつ・・忘れていたぜ・・。でもこの感触・・あの時のままだな・・」

「兄上は・・よく姉上に殴られていましたからね・・」

呆れ口調のクローディアだが様子的にその現象に特段警戒をしている素振りはない

慣れというモノは全くもって恐ろしいモノである

「まぁ、そういう事できっちり良いのを建ててくるよ。

・・あっ、それとクローディア、カムイに何か名所みたいなものあるか?」

「名所・・ですか・・。

そうですね、お寺とか・・」

「──名所?」

「え・・ああっ、由緒正しいところならば参拝する価値もあるらしく賑わっているようです」

「別に俺は信者じゃないしな。他には?」

「そうですね、やはり都ぐらいになりますか・・」

「都・・カムイか。確かにあそこは賑やかだったからなぁ・・」

「ふぅん・・まぁ都だもんな。参考になった、ありがとよ」

「はい、どうぞ楽しんでください」

ニコリと笑い一礼をしてクローディアは作業へと戻っていった

「まっ、そんじゃゆっくりしてこいよ。完成したら皆呼ぶから・・騒ごうぜ?」

「ああっ、ありがとよ。クラークさん」

そう言い握手を交わしながらクラークも現場へと戻っていった

 

「・・いいものね、昔の戦友って」

「何言ってるんだよ・・お前だってセシルが・・・あ・・」

「───そういう事よ。まぁ彼女は彼女で良いところがあるんだけどね。

素行が悪いのとは・・」

苦笑いのタイム、確かにセシルとは随分長い付き合いになるのだが・・複雑なところもあるのが特徴

「ははは・・、まぁ〜騒ぐのよりも先に・・二人でゆっくりとしなきゃな」

「馬鹿・・♪それじゃ、旅行用の準備をしないとね・・付き合ってくれる?」

「んっ?なんだタイム、旅行の用意とかないんだ」

「そりゃ・・王都までの出張とかは繰り返しているけど、こういう旅は・・やった事ないから・・」

「タイムらしい、うしっ、そんじゃ買い物と行くか!」

「うん・・あっ、クロ・・!」

立ち上がるタイムの手を握り歩き出すクロムウェル

予想外の行動に思わず彼女も慌てだした

「はははっ、この格好じゃ誰も俺だとはわかんねぇよ。んじゃ・・行こうぜ?」

「・・馬鹿・・」

やや拗ねた感じで手を握り返すタイム

そして二人はそのままルザリアの表通りに向かって姿を消した

 

 

・・・因みに・・

この日、ルザリアの商人はタイムが柄の悪い男と手を繋ぎ買い物をしている姿を目撃し

何か新しい事件が起きたのかと警戒をし噂は街中に広まったという・・




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