×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

番外2  「東国の風」




青い空、白い雲・・

そしてどこまで〜も広がる大海原・・

潮風はやや冷たいが天気が良い分直射日光と合わせたらちょうど良い感じ

波も穏やかで船旅には快適であり乗客も安心して甲板に出ている

 

「思ったよりも豪華な船ね・・」

 

俺の隣で意外そうに呟くタイム、

プライベートの旅という事で身動きのしやすい格好をしておりしっかりしたブーツにデニム地のズボン。

それに白いブラウスを着ており清楚ながら活発そう

「カムイの観光事業が力を入れているんだよ。貿易するにしちゃこんな船の造りは大げさだからな」

日の下、木造客船の甲板に俺とタイムは船首付近のベンチに座り目の前に広がる景色を見つめる

タイムからのリクエストという事で俺達はカムイへの旅行に来ている

・・っても、まだ上陸しておらず船で移動中なんだけどな。

まぁ人気があるのだろう、

客船も木造ながらしっかりしておりなかなかの規模で、船員も細かな気配りをしている

「・・クロ、毎回こんな旅をしていたの?」

「まさか、船賃だけで路頭に迷うよ。いつもは貿易船に同乗させてもらっているんだよ」

木箱やらなんやらでぎっしり積まれた船内の空いたスペースで寝てます。

まっ、今までの人生経験からして全然平気なんだけどな。

「じゃあ、こういうのは初めてなんだ」

「当たり前だろう?タイムを連れてあんな狭いスペースには乗せられないさ」

「馬鹿♪」

人目を気にせず甘えてくるタイム・・、まぁそりゃそうか

ここにはタイムを知る奴はいないからな。

何の遠慮もなくイチャつけるってもんだ

「まっ、仕事も忘れて楽しもうぜ?」

「ええ・・、のんびりしましょう?──ああ・・こんなの初めて・・」

満面の笑みを浮かべるタイム、

時間の束縛から解放されただけに
のびのびとしている。

風に前髪が揺れてあの傷跡が見えたりするのだがそんなのもお構いなしだ

「とりあえずは向こうについたら姉御の墓参りと都の見学って事でいっか?」

「クロにお任せ♪」

「──おいおい」

「私はクロと一緒ならどこでもいいの、どこへでもついていくから」

そう言いニッコリと笑ってみせる・・

騎士団長という顔はどこへやら、そこにあるのは旅行に喜ぶ女性の顔・・いいねぇ・・

まぁ、基本何もないところらしいから、タイムとの優雅な一時を過ごすとしますか♪

 

 

────

 

東国カムイ

大きく西島、本島、北島の三つの島からなる国でありその島ごとに特徴がある

直接ハイデルベルクとの船便がある西島、

ここはカムイの文化とハイデルベルクからの文化が入り交じっており

やや見慣れた雰囲気がある

次に本島、ここに都があり大きさもカムイで一番。

流石は本島なだけありこっちには多くの人が自然と調和して生きているらしい

そして北島、ここらは基本的に秘境

処によっては神聖なる地とも言われており立ち入りを禁止している秘境もあるが

冒険者達にはおかまいなしらしくそうした連中はほとんどは北島へ行くらしい

他にも周辺に小さな島が無数ありひっそりと暮らしているらしい

その中、姉御の墓があるのは西島のとある寺院

元々姉御やクラークさんは西島で住んでいたらしく

その近辺にある人里離れた小さな処にそれは建てられている

順序的にはちょうど良いのでカムイに上陸した俺達はまず姉御の墓参りにそこを目指した

 

・・・

 

「ここが・・、不思議なところね」

 

そうタイムが呟いた

確かに、俺も最初はそう思った・・それでなくてもここまでの道中タイムはしきりに感心しきりだ

植物系統が違うとそれだけで雰囲気がまるで違うんだ。

カムイの樹木は赤い葉が特徴で木もどっしりとしている

それが何とも・・味があるというか・・異国情緒を出している

港はまだハイデルベルクにも似た建築だったが

ここらになるとカムイ様式ばかりになるから余計にそんな感じがするんだよな

そして寺院、

山間に建立されたそこは正しくカムイを一言で現した建物。

木材のみで造りだしたとは思えない繊細な装飾の門、

寺は質実剛健だが柱などは門と同じく古めかしい装飾がされており趣味が良い

「だろ?カムイではこういうのが一般的なんだってよ」

「ふぅん・・でも・・教会と違って・・落ち着く感じがする」

確かに、教会なんかと違ってこういう寺院は庭園があるからな。

自然と一体化しているというか・・

そういや東国は自然を上手く利用しているのが特徴だって以前貿易船に乗り合わせた学者が言っていた

対しハイデルベルクなんてのは自然を支配して人が造り出した空間を愛するとか言っていたな

最初は小難しい事で理解できなかったが東国の景色とハイデルベルクの景色を見比べて見たらよくわかった

ハイデルベルクの方だと人工の建造物で埋め尽くしているのがほとんどで

東国は庭にしても自然を極力そのままで保ちながら手を加えている

「確かにな、全体的に時間がゆっくり流れている感じがするだろ?」

「そうね、周りを見ただけでも癒される感じがするわ・・」

「不思議な魅力ってやつだな・・まぁともあれ、中に入ろうぜ?」

「う、うん・・」

なんだ?ここに来て怖じ気づいた感じだな・・

仕方ない、手を取ってやりますか。

 

・・・・・・

 

姉御の墓は敷地の隅・・

壁の近くで何とも寂しそうな感じで佇んでいる

紅葉樹の葉の下、小さな墓石には姉御の名前が刻まれていた

「これが・・」

「小さな墓だろう?姉御らしくないっちゃらしくないな」

そう言い、水の入った木桶を手に柄杓で水をかけてやる

軽く風が吹いて地に落ちた紅の葉がふわりと地を舞った

「クロは、ここに何度も来ていたのね・・」

「ああっ・・今回でもう何度目か・・。

ったく、俺もマメだねぇ・・自分じゃもう少しだらしがない奴だと思ったけどさぁ」

「クロ・・」

「・・あ〜、まぁ、そんな目で見るなよ。さっ、花を添えようぜ?」

「うん」

何とも言えない顔つきのままタイムは質素ながらも綺麗な花束を供えた

「こっちじゃ、手を合わせるだよ・・こうやってな」

向こうじゃ十字に手を言って両手を組むのが祈りの一般的な作法

だけどこっちじゃ手のひらを合わせるだけでシンプルなんだ

「こうね・・、ナタリーさん・・」

両手を合わせ目を閉じるタイム、

体を乗っ取られた事もあるが故に心の中で何を祈っているのかは俺にもわからない

「・・姉御・・」

そして俺も、姉御に祈りを捧げる



姉御の事、タイムの事、そして俺の事・・

全く・・俺が領主になるって事を知ったらどんな顔をするのやら。

──たぶん、クラークさんと同じで笑い転げていた事は間違いないだろうな

でも、俺は俺のできる事をやる・・





だから姉御、俺を・・、タイムを見守っていてくれ・・



 

「・・ふぅ・・、んっ?タイム?」

目を開いた時、タイムはまだ祈りを捧げていた

「・・ん・・あっ、クロはもういいの?」

「ああっ、毎回こんなもんだよ。

タイムもいいのか?やけに真剣に手を合わせていたけど・・」

「うん、もういいわよ・・。ふふっ、クロより長く祈っちゃ悪いでしょう?」

「べ、別にそういうのはいいんじゃないか?俺が短いだけなのかもしれないし」

「そうかしら?」

「な、なんだよ・・その目は?」

「別に?ふふっ♪」

嫌な目で笑ってくれて・・

んっ・・?

 

「あれは・・」

 

知らない間に墓地には老人が一人立っていた・・

ここで管理している僧以外に人を見るのは初めてだな

やや大柄で頭は禿げているが体が引き締まっているがここからでもわかる

着ている物は質素だが〜・・この感覚・・只者じゃねぇ

第一あれだけ近くにいるのに俺もタイムも気付かなかった・・

 

「ほう・・、意外じゃな。

その墓に花を添えにくる者がいるとは存じていたがよもや夫婦が来ておったとは・・」

 

近づきながら軽く言う老人

何気なく歩くもその気配は掴みにくい、なんだ・・この爺さん・・

「・・あ〜、まだ夫婦じゃないんだけどさ。

それで、爺さんは姉御・・っと、この墓に眠っている人と何か関係があるのか?」

「おうとも。そこでのうのうと眠っている女はわしの娘じゃよ」

姉御を・・娘・・?

「じゃああんたが姉御とクラークさんの師匠か?」

「ふむ・・クラークの名まで知っておるとはのぉ・・

左様、わしがナタリーとクラークを育てたアイゼンじゃ。

定期的に花が添えられているのが気になってな、

それらしい男がきたら知らせて欲しいと頼んでいたのじゃよ」

なるほどな・・、まぁ姉御の墓参りをしているとなれば師匠の耳に入るのも道理か。

でも・・納得したぜ。凄まじい力量だ・・・

「ははは・・興味を持つのも当然か。

まぁ、勝手に墓参りして悪かったよ・・」

「何を言う、縁があってこそ大陸からわざわざ参ったのだろう?それを咎める事などあるか。

そうじゃ、立ち話もなんだ・・わしの家にこぬか?」

「えっ?あ・・いいのか?」

「娘の世話になった礼ぐらいして当然じゃ」

娘・・そうとは言えども確か姉御とクローディアは養子だったんじゃ・・

──いや、それも野暮か・・。

「あ〜、でも悪いよ。それに俺達は旅行中だし・・」

俺個人ならまだしもタイムもいるんだからな・・

「いいじゃない、クロ。お世話になっても・・」

「タイム・・」

「今日の宿もまだ決まっていないでしょう?」

「そりゃ・・ま・・そうだけど・・」

二人の時間を大切にするタイムにしちゃ、随分と・・

「なるほどな。まぁ気にするな・・恋仲の旅行を邪魔するつもりはない。

茶の一つでも付き合えばいい」

「──わかった、まぁ世話になるよ」

二人からそう言われたら拒否もできない

まぁ、元々予定のない旅行だからな。

それもいいか・・

 

 

────

 

姉御やクラークさんの師匠アイゼンの家はあの寺院よりさほど離れていないところにあった。

ってか、近くを通ったこともあったんだが陸路ではいけない

ちょっと変わった地形にあるので気付かなかったんだ

なんせ川を移動してでないと到着できないからな・・

それも外見は林でよく見えないしな

そんな訳でアイゼンの隠居にて俺とタイムはお茶を呼ばれることになった

タイムは何故か上機嫌、俺は何だか微妙な感じ・・

まぁせっかくなので色々と雑談をすることにした

クラークさんとクローディアの仲だとか、姉御の墓についてとか・・

話してみるとアイゼンは中々に気さくで俺の話に笑いながら耳を傾けていた

 

「ほう・・、それでお主はクローディアと合わせてナタリーの墓を建て直すつもりか・・」

 

特にアイゼンが興味を示したのはやはり姉御の墓について・・

「まぁな、見窄らしいだろう?世話になったんだから〜、そのぐらいはな」

「ふふっ、なるほどな・・。

まぁわしとしてはクローディアから言い出すのを待っていたのじゃがそれもよかろう」

「・・ふぅん。様子からするに自分からは行動をしないようだな」

「それは過保護というんじゃよ。

姉の墓を直すのは妹の役割・・じゃがクローディアは節制が過ぎている節があっての・・。

自発的に金銭を使い行動をするのを待っていたのじゃよ」

あくまで見守るのみ・・か。大人の対応だ

「そっか、じゃあ悪かったな・・俺からそんな提案をしちまって」

「何の。それはそれじゃ・・

ナタリーが妹以外にもそれだけ慕われているという事は結構な事じゃ。

ならば墓の件、この老いぼれに任せよ・・責任を持ってあ奴にふさわしき墓にしてやろう」

「・・わかった、じゃあ任せるぜ」

この爺さんに任せていたら大丈夫だろう

俺も東国の墓については余り明るくないんだしな

「うむ、確かに・・。して、二人はカムイに墓参りをしにきただけでもなかろう?

観光かえ?」

「そ、そうです・・」

「ふぅむ・・なるほどな。タイムちゃんは日頃の職務に身を粉にしているようじゃな」

「っな!・・わかり・・ますか?」

「ははは、以前大陸・・否、ハイデルベルクに観光をした事があってな。

ルザリアというところも回ったのじゃよ。あの華やぎを守る職ならば過酷なのも当然」

「な、なるほど・・」

「そしてクロムウェル・・

お主は大きな職務を目の前にして自身の気持ちに整理をつけるためにこの地に赴いた・・か?」

っ・・、領主になる事は話していないのに見透かしている・・

「ご明察・・、まぁ気持ちの整理ってほど大したものじゃないさ。リフレッシュって奴だよ。

──しても、クラークさんが言っていた通りの人だな」

「むっ、あいつが何と言っていたのじゃ?」

「人の心を読んでいるかのような化け物・・だってさ」

「・・あのひよっ子が。口だけは達者じゃ」

しかめっ面なアイゼン、どうにも師弟愛ってもんは感じられないなぁ・・

まぁクラークさんの事だからな

「アイゼン老、確かに私達はリフレッシュ休暇としてこの地に参りました。

でも、ナタリーさんの墓参り以外は特に行く当ては決まっていません。

何か良いところはご存じですか?」

「良いところ・・なぁ、さても・・、この地は大陸のような華やかさはあるまいぞ?

都に行くにしてもお嬢ちゃんが守るルザリアと同程度の規模しかない。ここはそういうところじゃ」

確かになぁ・・、この地にそういうのは似合わなさそうだし・・

「そんじゃ〜、都に行ってもルザリアに行くのとは変わらない・・か」

「ふふっ・・この地は心を洗うのにはちょうど良い。

今のお主達は騒がしい処よりも静かな自然に包まれた方が良いじゃろう」

「・・そうね、ここの自然を見ているとそれだけで心が静かになる感じがする・・」

「ふむっ、そうじゃな。お主達いつまでこの地に滞在するつもりじゃ?」

「え〜っと、休暇が一月だからな。還る日数を考えると一週間もないか・・」

元々姉御の墓参りと都見物ぐらいで還るつもりだったからな・・。

「そうか、ならばその間ここに泊まるかえ?」

「え・・ええっ!?」

「何を驚く、路銀も馬鹿にはならんじゃろう。これも縁じゃ・・気にするな」

気にするなって言われても・・

「どうする?タイム・・」

「せっかくの申し出よ?断っちゃ失礼じゃない」

・・いあ、だけどなぁ・・

「んん〜?あぁ何、交わる事については遠慮はいらん。爺は夜が早いからなぁ・・・

それにここらは人通りも余りない。外で肌を合わせるのも一興じゃぞ?」

「「!?!?!?」」

いきなり何言ってまんがな!?じいちゃん!

「はっはっは!冗談じゃ・・まぁ遠慮はするな。我が家と思い滞在するが良い」

「・・まぁ・・そこまで言うなら・・世話になるよ」

 

・・ううむ、意外な事になったものだ・・

まぁこれも旅の醍醐味ってわけで、流れに身を任すとしますか。

 

 

────

 

何度も墓参りにこの島に来ているのだが

東国の生活ってのは本当に質素なものだ、練金技術もない故に火を起こすのも手間、

風呂を沸かすのも一仕事で生活用水も川から汲んで使用する

だが元々どこでも生活できる俺や妙な手抜きはしないタイムにとっては

そこらは極自然であり2日もする内にそれにもなれた

そして・・料理が美味い!!

正しくは野菜が美味い、菜食主義者って訳でもなさそうだが東国の料理はほとんどが魚か野菜。

だが調理法はシンプルにして素材のうま味を引き出しているために実に味わい深かった。

特に・・オツケモノ?

あの味と香りには俺もタイムも唸ったものだ・・。

東国には全ての家でオツケモノを作っているらしい、ううむ・・なんかすごい贅沢だな・・。

まぁそれはともあれ、

アイゼン宅で世話になるも日中は自由気ままに

タイムとどこかに出掛け日が暮れてから戻ってくるという生活になっている

西島でも自然は豊か・・、

ただ散歩しているだけでもルザリアの雑踏とはまた雰囲気が違い飽きがこないのが不思議だ。

アイゼンにしてもこちらの事は余り気にしていない様子で接してくれている、

初対面だったのにそれが妙に親近感を湧かせてくれる

あの爺さん特有の魅力って奴なんだろうな

そして一番驚いたのが爺さんに嫁さんがいたこと、

まぁ年齢的に当然なんだけど

それが同年齢の婆さんではなくタイムよりも年下の若い女となりゃ話は別だ

爺さんにべったりであり何だがすんごく犯罪的だった。


──何か見たことあるなっと思ったらありゃクラークさんとキルケの関係に良く似ている

・・師弟揃ってまぁ・・良い趣味という事で・・

 

 


「さて、では・・軽くもんでやるかのぉ」

 

「へっへ・・今日こそは一発でも当てるぜ・・」

 

アイゼン宅に世話になって三日目、

朝のトレーニングをしようとしたらアイゼンも何やら鍛錬をやっていたので一緒に鍛える事になった

・・・が、やっぱ流石というか・・組み手をするにしても一発も当てられず倒されてしまう

ってな訳でいつまでもやられっぱなしは恥ずかしいので今日こそは爺さんをあっと言わせてみせる!

「いくぜ!」

まずは牽制目的で速度のある蹴り!

初手で殴りかかったらいつの間にか投げ飛ばされるからこいつで揺さぶるしかない!

「ふむっ」

多少唸ったようだがその刹那・・

 

ドォン!

 

凄まじい衝撃とともに体が吹っ飛ぶ、

体勢を立て直し着地してみればどうやらアイゼンは俺の蹴りに合わせるように掌底を放ったらしい

・・が、全力で前に突きだしているのにその動作が全く見えなかった・・

「いつつ・・動きが見えないな」

「ふっ、蹴りを放てばその分動作はどうしても大きくなる。腹ががら空きじゃったぞ?」

「あのタイミングだとどうしても空くっての!」

「初手に蹴りを持ってくるからじゃ。

大陸の体術はどうにも隙が多いのぉ・・

そんな大振りの蹴りなんぞここでは誰もやらぬぞ?」

「その分威力があるだろ?」

「当たらなければ同じじゃ、たわけ」

「だって最初に殴ろうとしたら投げるじゃん!ヒキョーだ!ヒキョー!!」

「だったら投げられぬように努力するんじゃな・・

まぁ、クラークにすら負けるようではそれも適わぬか」

クラークにすらって!!!

・・まぁ、クラークさんが勝てないんだから当然だけどさ・・

「なら絶対当てる!チャリオッツ!」

ようやく体調が戻ったところでアイゼンに一泡吹かせてやる!

「・・ふむ、陽気術か。珍しいものを学んでおるな」

「へっへっへ!驚くのはこれからだ!」

全力で踏み込む!様子見の為かアイゼンは迎撃をせずに懐に潜り込ませた

甘いぜ!爺さん!

 

 

「音速拳!千手観音!」

 

突き出すは音速の拳!いけぇぇぇぇ!

「むぅん!」

 

バキィ!

 

うげっ・・初手で返された・・!

防御体勢取れていないから顔面にモロに頂いて地べたをゴロゴロと転がる

・・・うそん・・

「嘘だろ!?音速拳をカウンターで合わすか!?」

「たわけ、音速がいかようなものか。わしが放つは神速の一閃じゃて」

不敵に笑うアイゼン・・

「自分で言うなよ・・」

「ふふふ・・しかし、お主は本当に面白いな。

まさか『闇手闘舞』の千手観音を使うとは思わなんだ」

「闇手闘舞?」

「・・なんじゃ?お主、その技を使っておきながら流派を知らぬのか?」

知らぬのかって言われても知らないからなぁ・・

「あ〜、この技はちょっとした特別な方法で学んだからな。その技の背景は知らないんだよ」

「左様か。ならば教えてやろう・・

今お主が使おうとした音速の拳は闇手闘舞という流派の物じゃ。

まぁ簡単に言えば東国の暗殺拳じゃよ」

暗殺拳・・か

「確かにそれだけの威力はあるな」

「人を殺めるための拳じゃからの。

闇手闘舞は素早き連撃で急所を狙う、故にその体は余分な肉をつけられない。

しかし身のこなしは優秀で一撃は小さいが侮れない・・

千手観音はその中でも威力の高い奥義の一つじゃ、お主のような太い腕で良くもこなせたものよ」

太いって言われても・・まぁミーシャに比べたらそうだけど・・

「まぁ・・身体強化しなけりゃ到底できないし副作用もあるんだけどさ・・。

ってか・・ミーシャの奴そんな物を教えていたのかよ・・」

「・・ミーシャ・・?もしやその技はミーシャ=グランデから授かったのか?」

「え・・?爺さん、ミーシャを知っているのかよ?」

そういやミーシャは東国出身だったな

「ふむ、その様子じゃとあ奴の過去は知らないようじゃな・・。

お主、奴とはいかような関係じゃ?」

「う〜んと、一応はメイドさんとその主・・ってところか」

「・・・・左様か、ならば言わぬ方がいいかえ?」

「言わぬ方が良いって言われても『千手観音』は暗殺拳なんだろう?

そっから考えたら大体想像は付くよ」

それに、俺も色々紆余曲折な人生だからな

他人の素性にとやかく言う資格もない

「ならば良かろう。想像通りミーシャ=グランデは闇手闘舞の継承者じゃ。

昔は表向きは女中として豪族に仕え、裏では色々と始末を行っていた。

生粋の暗殺者と言った感じじゃったの」

「その言い方だと爺さんは会ったことがあるようだな?」

「まぁ・・な。とある一件で相まみえる事になった、

このわしに手傷を負わせた女はそうはおらん。

それに・・感情が読めん女じゃった。

おそらくは躊躇なく役目を果たせるように感情を壊されたのじゃろう」

──だが、ミーシャはいつもニコニコしていてのんびりとした口調をしている

爺さんが会った時からヴァーゲンシュタインのメイドになるまでに何かがあった・・のか

「なるほど・・なぁ・・」

「そういう経緯じゃ。

あの女が自らそれを打ち明けるつもりがないのならば今のことは胸の内にしまっておけ」

「安心しろ、ズゲズゲ昔の事を言うほど無粋じゃねぇよ。人に歴史有りってか」

「ほっほう、周囲への気配りはそれなりにできるようじゃなぁ」

「うるせ!雑談が過ぎた!続きやるぞ!」

「いやいや、今のお主では話になるまい。

わしに挑む前にまずは己を鍛えあの出来の悪い弟子を倒すが良いわ」

その出来の悪い弟子にボコボコにされているんですから・・ね。

うぁ〜・・凹むわぁ・・

「ちぇ・・どうせ俺は弱いですよ〜だ」

「拗ねるな、相手によっては実を結ぶ鍛錬と結ばん鍛錬がある。

今のお主にわしは合わんのじゃよ・・

それに、もうそろそろ出掛ける時間じゃろ?」

ニヤリと笑うアイゼンそこに・・

 

「クロ・・」

 

ゆっくりと縁側に姿を見せるタイム・・だが、その格好は東国の着物姿

せっかくだからとアイゼンが貸してくれた物で昔姉御が着ていた物なんだそうだ。

山吹色の着物は色合いからも落ち着いており紅葉の模様が描かれている。

それが緋色の髪とよく似合っており和洋折衷美女ここにあり・・って感じだ

「ほぉ・・似合っておるな。いやはや・・こりゃ娘達でも適わんな」

そう言い豪快に笑うアイゼンだけど・・、

姉御の思い出の品じゃないのかよ?

「ありがとうございます、サクラさんに手伝って貰いました」

ニコリ笑みを浮かべ頭を下げるタイム

・・うむ、こうしてみると余計に姿勢正しく見えてくるな

「似合っているじゃないか、タイム・・」

「クロ・・もう・・」

「おうおう、わかるのぉ。邪魔者は退散するとするか・・」

「えっ、あ・・すみません・・」

「はっはっは、まぁ気にするな。存分に楽しんで来なさるがよい」

そう言い豪快に笑いながら去っていくアイゼン、色んな意味で大物だぜ・・

「クロ、いいの?」

「えっ、ああいいぜ?訓練になりそうにないからな、そんじゃ・・出掛けるとしよう」

「うん♪」

嬉しそうに言い俺の手を取っていくる

・・いかんいかん、今回はタイムとの旅行が第一だったんだ。

一杯楽しまないとな!

 

 

────

 

 

今日向かったのは以前アイゼンが開いていた道場、

ここでクラークさん達が腕を磨き生活を過ごした・・

アイゼン宅からはそうは離れていない平野にそれはあり綺麗な状態で保存されていた。

付近に民家はないのだが近くの民の集会場として今でも定期的に使われているらしく清掃をしてくれている

それだけアイゼンの人柄が良いんだろうな。

そんな訳で鍵を開け戸を全部開けて空気を入れ換える・・

居間から見える景色はどこまでも続く平原と遠くの山々

吹いてくる風は非常に心地よく広がる絶景には目を奪われる

「綺麗・・」

思わず呟くタイム・・

確かに、この光景はルザリア・・いや、ハイデルベルク内でもお目にかかれないだろう

「そうだな・・、ここにクラークさんや姉御が住んでいたか」

道場もかなり使い込まれている、

この居間も生活用具はアイゼンが持って行ったのだが最低限の家具は置かれている

・・集会用として使うために住民が用意したんだろうな。

しかし、畳も良いもんだ・・。本当にのんびりできる

風ともに鳥の囀りも聞こえてきて本当に時間がゆっくり感じられる

いいなぁ〜、俺のボロアパートとは違いすんごい住みやすそうだ

「う・・ん、ふぅ・・風が気持ちいいわ・・。クロも隣に座ったら?」

「え・・あ・・、おお」

タイムに言われるままに縁側に二人並んで座る、

天は高く雲一つない快晴・・鳥がくるりと輪を描いて飛んでいた

「〜〜♪」

上機嫌で鼻歌を歌いながら遠くを見つめるタイム、

着物姿という事もあって非常に女らしい

余り関係のないアイゼンのところに泊まる事に拗ねたりするかと思ったがそんな素振りは全く見せず

ここ数日は素直に楽しんでいる・・まぁ、当てのない旅行だからな

「・・なぁ、タイム・・」

「『どうして東国旅行でそんなの上機嫌なんだ?』・・でしょう?」

爽やかに笑いながら先制してくる・・

「ああ・・、姉御が絡んでいるとは言え嫉妬深いお前がここまで無関係の世界に来るのは何というか・・さ」

「もう、私ってそんなに嫉妬深く見えるの?」

見えます

・・って言ったら殺されるな・・

「いや・・」

「ふふっ、ばか♪──前にも言ったけど見てみたかったの・・東国が」

「・・姉御か・・」

「まぁね、あの人の心に触れたの・・。

だからあの人が私の全てを知るように私もあの人の全てを知ったの

あの人はクロの事を本当に愛していた・・

辛く苦しい一生の中でクローディアとクロが救いだった。

体を売り盗みをしながら妹を守った事や、

剣を学びもう二度と悲しい思いをしないように沢山の敵を切り倒した事・・

そしてクロの事・・

知っている?

ナタリーさんはあの戦いを切り抜けた後

クロに自分の全てを打ち明けてその上で共に生きたいと考えていたのよ?」

・・・・・・・

「クロと出逢ってからあの人の中で光が見えだした、妹以外の大切な何か・・

最初はそれに戸惑っていたけどクロはあの人の想いに応えた。

だからこそ、あの人はクロに惹かれ弟分ながらも男として、肌を重ねた」

「タイム・・」

「──ふふっ、最初は私も妬けたわ。

だって・・ナタリーさん、私以上にクロを想っていたもの・・

だから、私はあの人の分もクロを愛したいの。あの人の想いも背負ってね」

「・・だから東国に来たかった、か」

「ええっ、まぁそれ以外にもゆっくりしたかったのもあるんだけどね。

・・クロは幸せ者ね、こんなにも想ってくれる人がいる・・」

確かに、姉御の想いは俺も良く知っている、だけど・・

「姉御は姉御、タイムはタイムだ。まぁ・・そう想われるのは悪い気はしないけどな」

「ふふっ、馬鹿♪ねぇクロ・・?」

「んっ?」

「愛しているわ・・」

そう言い俺に口づけを交わすタイム・・

甘い吐息、だが行為にイヤらしさはなくただただ想いを伝えるためのキス

「俺もだ・・」

俺もタイムの気持ちに応えるべくその細い体を抱きしめる

自然に囲まれた姉御の思い出の地にて、俺達はそのままいつまでも互いの気持ちを感じ合った

 

 

────

 

出会いがあれば別れもある

そんな訳でアイゼン宅での生活はあっという間に流れていった

基本的に毎日あちらこちら出掛けていったからなぁ・・

人が造ったとは思えない精巧な装飾のされた寺院や、透き通る清流の先にある見事な滝

一点の曇りもない珊瑚礁に全てが夕焼け色になる山々の夕暮れ

全てが幻想的であり美しかった

目的がなくのんびりするための旅とは言えども内容は非常に充実したものとなったな

それもこれもアイゼンのおかげ・・、

爺さんに会わなかったら姉御の墓参りをして後はウロウロしていただけだろうからなぁ・・

まぁ、そんな訳で今日でアイゼンともお別れ、わざわざ港まで見送りにきてくれた

「世話になったなぁ・・感謝するぜ?」

「気にするな。

しかし意外にお主も真面目よのぉ・・聞き耳を立てておったが喘ぎの一つもありゃせなんだ」

っ!?

客用の布団が一つしかないとか言いながら枕が何故か二つ揃っていたのはそういう陰謀だったのか!!

「他人の家で交わるかい!」

ほれみろ、タイムが顔を真っ赤にして硬直しているじゃねぇか!

「そのぐらいは気にせんのじゃがなぁ」

気にしない割にはなんで聞き耳立てているんだよ・・?

「・・エロ爺」

ってかそもそもあのサクラって若い女を妻として娶っているところからして怪しい

このロリコン師弟が

「わしはクラークとは違い幼児趣味はないぞえ?」

「んが!?」

この無駄に鋭い読みに何度動揺させられた事か・・!

「はっはっは!まぁ達者でな。墓の事は任せよ、次回来る時までには立派な物にしておく」

「ああ・・任せるぜ。

できたらクローディアには一報入れておいてくれよ、俺はあくまで代行だからさ」

「ふん、律儀よの。おっと・・そろそろ船が出るぞ?」

「そうだな、そんじゃお暇するか!」

「ええっ、アイゼンさん。お世話になりました」

「気にするな・・それよりもタイムちゃん

・・・・馬鹿娘の想いを汲んでくれた事、礼を言うぞ」

「・・えっ・・?」

「ふっ・・さぁもう出るぞ!乗り遅れたら一大事じゃ!」

「お、おう!そんじゃな!」

「あ、ありがとうございました!」

動揺しながらも一礼をし船へと乗り込む・・

それとともに船は出航しゆっくりとカムイの地より離れていく

甲板に出て港の様子を見るとアイゼンは何するわけでもなく俺達をジッと見つめていた

 

「不思議な御方ね、何もかも見透かしているみたい」

 

「化け物って言葉がよく似合うのは確かだな。ともあれ・・また、二人でこような?」

 

「そうね、そのお休みを取れるためにもがんばらないと!」

 

労働意欲が湧いてきたな、うし、俺もタイムに負けないようにがんばらないとな!

そしてまた二人でこの地にこよう・・

自然と溶け込み、姉御が眠るこの地へ・・・・・

 

 

────────

 

それから俺達はのんびりと帰路を楽しみながらルザリアに到着した

休暇は一月程度、ルザリアに到着して数日休むことができた。

その間にクラークさんが急ピッチで仕事をしたのか・・

別荘跡地に見事なまでの領主屋敷が完成していた

いあ、ほんとどんなペースだよ・・

でかいのよりも機能的なのが良いと言ったぐらいだが

ロカルノの設計はかなり細かく良くできていた

一階は助役のアンジェリカとフィートの私室とその書庫、

そして使用人としてベイト達の部屋もこの屋敷に設ける事になった

後は食堂から応接室、客間など一通り揃い

2階は俺のプライベートスペースって事で俺とタイムの私室が設けられている

まぁ一応客間とか応接室とか執務室とか色々あるんだが〜、使うことは滅多にないだろうな・・

因みに地下室は倉庫ではなくアンジェリカさんが使用するらしく勝手に何かやったそうです

見るの・・イヤだな・・

まぁ屋敷は住んでみればどうでも良い。

問題はここから、新領主のお披露目って事で広間で演説を行えってさ・・

事前告知していたらしく広間にはかなりの数の見物人が集まっている

ギーグはとことん不人気だがあれだけの一件だからな、

続投を誰がするのかって事は気になっているらしい

まぁ俺だとは誰も思っていないだろうけど・・

 

「先輩、演説考えてきましたか?」

軽く設けられた控え室代わりのテントでフィートが俺に言う

一応アンジェリカさんとフィートも助役だからな、俺とセットで顔見せをするんだとよ


「ああ・・、徹夜で考えてきたよ。ほれ・・」

チョビ髭の独裁者も尻尾を巻いて逃げる俺の演説文を見さらせ!!

 

 

 

 

 

 

─我々は一人の英雄を失った。しかし、これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!

─ハイデルベルクに比べ、我がルザリアの国力は30分の1以下である─

─にもかかわらず今日まで戦い抜いてこられたのは何故か?─

─諸君!我がクロン公国の戦争目的が正義だからだ。これは諸君らが一番知っている─

─我々は故郷を追われ、大国難民にさせられた─

─そして、一握りのエリートらが貿易都市にまで膨れ上がった貴族社会を支配して50余年─

─ルザリアに住む我々が自由を要求して何度踏みにじられたか─

─クロン公国の掲げる人類一人一人の自由のための戦いを神が見捨てるはずはない─

─私の下僕!諸君らが阻害くれたスクイード=キャンベルは死んだ─

─何故だ!?─

 

※一同「坊やだからさ」

 

─新しい時代の覇権を選ばれた国民が得るは、歴史の必然である─

─ならば、我らは襟を正し、この戦局を打開しなければならぬ─

─我々は過酷な貿易都市を生活の場としながらも共に苦悩し、錬磨して今日の文化を築き上げてきた─

─かつて、ハゲハーゲ=ハゲリバンは人類の革新は貿易の民たる我々から始まると言った─

─しかしながら貴族社会のブタ共は、自分たちが人類の支配権を有すると増長し我々に抗戦する─

─諸君の父も、子もその貴族の無思慮な抵抗の前に死んでいったのだ!─

─この悲しみも怒りも忘れてはならない!それを、スクイードは!阻害をもって我々に示してくれた!─

─我々は今、この怒りを結集し、ハイデルベルク軍に叩きつけて、初めて真の勝利を得ることができる─

─この勝利こそ、戦死者全てへの最大の慰めとなる─

─国民よ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ!国民よ!─

─我らクロン国国民こそ選ばれた民であることを忘れないでほしいのだ─

─優良種である我らこそ人類を救い得るのである。ジーク・クロン!─

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ〜、先輩?・・ルザリアを独立させるつもりですか?」


「それ以上に『独裁者の尻尾』の尻尾ね」

 

ビリビリ

 

「あ゛〜!!破った!破ったよ!!」

苦労して考えたのに!!

「ここまで出鱈目な事を平然と言うつもりだったの?」

「・・ネタだよ・・ネタ」

「全くに、問題だらけのネタね。自分の言葉で演説しなさい」

へいへい・・

「そんじゃ、時間ですよ・・」

「わかった・・じゃ、行ってくる」

余り気乗りはしねぇが行くか・・!

 

・・・・・・

 

待機用のテントから出て、設置された演説用の台に上がる

すごいな、広場が人で埋まっている・・そして・・全員マヌケ面で硬直している

 

「・・・あ〜、俺が新しいルザリア新領主のクロムウェル=ハットだ!!文句あっか!?」

 

周囲に一喝するように言う・・が反応なし

・・硬直したままだ・・

「驚くのも無理はねぇ、ってか俺が一番驚いているからな・・。

だがやる限りには最善を尽くす!

この都市の治安を絶対のものとし市民生活の向上に全力を投じる!

それだけだ!!」

・・ちっ、本来ならここで『ジーク・クロン』って叫ぶはずだが・・

 

「いいぞーー!クロムウェルーー!!」

 

「「「「クロムウェル!クロムウェル!クロムウェル!クロムウェル!!」」」」

 

一人の叫びとともに一斉に俺コールが沸き起こる・・

ってか最初に叫んだ声・・あれはマー坊か・・

けっ、余計なことを・・

まぁとりあえずは歓迎してくれるって事のようだし・・がんばってみるか!!

 

 

<<back top