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第十三話  「誇り高き者」




流石にただやり方を教えるのと頭の中にその方法が入ってくるのとでは

習得するスピードってのが全然違う。

一日屋敷の中庭にてファミリアと訓練をしただけで

ベイト達に教えられた技はほとんど使いこなせるようになった

訓練に付き合ってくれたファミリアの実力もすごいものであり

少しでもフォームに違いがあると的確に報告をしてくれる

そのくせスタミナがメチャクチャあり防御の堅さも見事

謙遜していたが実力としては俺が本気でやっても辛うじて勝てるかどうか・・だ

それだけの力量を持つだけにベアトリーチェの目的ってのが気になったのだが

まぁそこは触れない約束だったからな

わかっている事はレイヤードと敵対していて今はまだ表立って動こうとはしないだけ・・それでいいか

そんでもって習得した技だが、とりあえずジョアンナとアイヴォリーの技は完璧、いつでも放てる

ベイトの投げは流石に難しく成功率は完璧とは言えないが

よほど変則的な攻撃でない限り返す事はできる

最後にミーシャの・・

これは予想通りでヴァイタルチャリオッツで身体強化しないと音速拳は放てなかったので

ここぞという時に限定される・・が威力は流石だ。

4つの中で唯一ファミリアにダメージを与えられただけあったからな

 

そして一日経過したルザリアは〜・・とりあえずは変化はない。

相も変わらず魔物が都市内を闊歩しており相も変わらず住民は避難をしている

何とか手を打とうとタイムもこまめに討伐隊を出しているのだがほとんど効果はない

・・一体領主の屋敷には何体用意しているのやら・・

だけど消耗戦となるとこちらが明らかに不利、

多数の住民の避難をさせており外部との繋ぎもままならないようで

食料がいよいよ尽きてきているようだ。

今のところその問題が一番深刻か・・、

テント群とかだと貧困にゃ慣れているようだから文句を言う者も少ないのだが

貴族地区とかは悲惨な状況になっているらしい

──まぁ、我が侭だからな。状況も理解できていないようだし・・

結局は有事の際でも文句しか言わずに強引に他人のせいにする奴らなんだ、

大通りに蹴りだしてやろうかとも思ったよ

だがそれを抜きにしても直に限界がくる。

ハイデルベルク騎士団の応援で食料も到着しているのだが量も限られているからな・・。

もっと応援部隊を要請するべきか検討もしているらしいのだが

こうした事態に対応できるほど連中にも余裕がないらしく
現状が精一杯らしい

・・まぁ、魔物との戦闘になれている騎士はそうそういないからな・・

下手に増援をしても怪我人が増えて物資の減りが早くなる程度しか意味がない

・・・さて、これはいよいよまずくなってきたもんだ・・

 

・・・・・・・

 

「・・厳しいな・・ベアトリーチェ、ファミリアとか使って食料運搬とかできないか?」

 

団長室にて今日も作戦会議、

俺も体調が元に戻り訓練も一段落ついたので加わる事にした

・・・まぁ各部署の連中はそれどころでもないらしいから俺やタイム、アンジェリカぐらいなものだけど・・

「あのな〜、そう上手く事が運ぶとは思わない事だね。

あの二人で持ってくるにしてもたかが知れているよ。

このルザリアの住民、および騎士団で一日どれだけの食料が消費されると思っているんだい?」

ごもっとも・・、だが食料の輸送するのも護衛が不可欠だからな・・

「・・・オサリバン総団長に物資輸送部隊を編成しているのだが・・到着までにはしばらくかかりそうだ。

ライフライン確保に不手際があったと認めざるを得ないか」

苦い顔のタイム・・うむ・・休憩は取っているようだが流石に疲れが溜まっているようだな

無理もない、今この街を守る事に全てを掛けないといけないんだからな

「貴女の不手際なんかじゃないわよ。この状況で死者を出さないだけでも優秀な指揮よ・・

でも、何とかしないとまずいわね」

「アンジェリカ、結界は後どのくらいで解けそうなんだ?」

「早くても後一日は必要ね。

ご丁寧にあの結界は数種・・色んな防御効果があるものを層にしているの。

それを判明させてやらないと効果がないのよ」

・・鉄壁ですね。

けっ・・・、忌々しいな!

 

「どうにもならない・・か。ベアトリえもん!何か道具出して〜!」

 

「は〜い!クロ太くん!そんな都合良く行くとは思わない事!

そっちに関しては協力しようがないと最初に言っただろう?」

 

ノリが良いが冷たいな・・。

早期決着はまだ難しいか、俺もベイト達の技だけではまだヘキサには適わないからな・・

白風(ホワイトソニック)対策が出来ていない。

それに関してはベアトリーチェはグローブが出来てからと一点張り

幸いリュートががんばってくれているからもうほとんど出来上がっているらしいが、

そこからで間に合うのかが・・な

 

コンコン

 

・・っと、この状況で客か?

「開いている、どうぞ・・」

一応ここの主であるタイムが疲れた声で返事をする、そしてゆっくりと入ってきたのは・・

「うっす、失礼します」

・・マー坊だ。

非常事態だから構ってやれないのだがテント群で奮闘しているらしい。

生傷が絶えない状況だがハティぐらいなら撃破できるようにまで慣れたんだとさ・・

まぁ人数が少ないテント群じゃ新米でも重宝するのだろうなぁ

「君か、報告かね?」

「・・あ・・ええ。テント群避難所の食料、底を尽きました、工業地区の方もそろそろまずいらしいです」

「・・そうか・・、わかった。ありがとう」

嬉しくない報告でもちゃんと聞かないといけないのが現場指揮の辛いところ・・だな

まぁ空気も暗くなった事だし、ちょいと変えますか

「よう、マー坊。ヘタレなのによくここまでこれたな?」

「う、うるせぇ。俺だってこの状況でも成長しているんだぜ?

それよりもてめぇだって格好悪く負けたらしいじゃねぇか?情けない」

うぬっ!?

「それこそうるせぇ!俺だったから痛み分けで済んだんだよ!

てめぇだったら3秒で首引っこ抜かれていらぁ!」

「ふぅん、クロムウェル教官が負け惜しみかぁ・・?」

こ・・こいつ・・!しばらく見ない内に口だけは達者になっている!?

「・・その性格の悪さが出たしゃべり・・、カチュアだな!カチュアの影響を受けているんだな!?」

あの愚妹の口の悪さも一級品だ!

この性悪男がそれを学べば輪に掛けて歪になるはず!

「さぁ〜ね〜?へへへへ・・」

「・・はぁ、マーロウ君。君も任務に奔走している身だ、

クロムウェルの相手などいいから早く配置に戻りたまえ」

・・ううむ、冗談で和むレベルでもなかったか・・

「・・って事だ。まぁ大変だろうがもうちょいがんばれや・・その内俺がなんとかしてやるよ?」

「なんとかするって、クロムウェルにはこの食料危機はどうにもできねぇだろう?」

・・痛いところを・・

「じゃあてめぇならどうにかなるって言うのかよ?」

「・・ああ、できるぜ?」

ニヤリと不敵に笑ってみせるマー坊、こいつに?この状況を?

「マーロウ君、それは一体どういう意味かしら?」

今まで黙っていたアンジェリカも意外そうだな・・

「状況は各部署からの備蓄状況を交換してわかった。

ハイデルベルクからの応援隊の配給もままならないしな

・・だから、俺個人で食料を発注したんだよ」

・・ナンデスト?

「ちょ、ちょと待て。お前そんな事できるのか?」

「ルザリアの人口と騎士団関係者の消費量はニクスが計算してくれた。

とりあえず一週間持つように手配している・・俺の部下を使ってな」

──あ〜、こいつそういや都市の外に出ると爆死するんだったよな・・

ってか部下ってなるとあのごつい兄ちゃん達か・・まぁ脱出ぐらいはできるよな

「しかし、今のルザリアでは警備を付けないと危険だ。

そんな大量の食料を護衛するには相応の部隊が必要となる」

「それもわかっているよ・・まぁ、ニクスに教えてもらったんだけどな。

俺の全財産を掛けて手配している。もう到着しているはずだぜ?」

「・・マー坊・・お前・・」

「へへっ、忘れたのかぁ?俺はベネディクト家の御曹司なんだぜ?」

──まさか、財の力がここで役立つとはなぁ・・

「そうか・・。助かる、マーロウ君」

「ははは、ようやく俺って認められたか?」

「とりあえずはな・・。でも本当に来るのかよ?

貿易拠点変更でルザリアの厳戒態勢は周辺に伝わっているはずだぜ?

食料運搬もそうだが護衛役も早々引き受ける物好きなんて・・」

 

『ところがいるのよね〜、その物好きが・・』

 

扉越しに急に聞こえるは・・背筋に寒い物を走らせる女性の声

知っている・・この声は・・

「え・・あ、貴方・・」

タイムも呆然としている、そしてゆっくりと扉が開かれそこに姿を見せるは・・

「は〜い、タイム。大変そうじゃない」

長い金髪が特徴の絶世の美女、

蒼く銀色に輝く鎧に纏う姿は正しく聖女とも言える

金獅子セシル

ハイデルベルクで最も有名な女騎士として神格化されている女

・・そこまでは表の顔、裏は・・まぁメチャクチャな女だ・・

「セシル!どうして・・」

「ルザリアの危機となっちゃ黙っていられないっしょ。

ちょいと依頼で遠出していたから・・気付くのに遅れてごめんなさいね?」

「セシル、じゃあお前が護衛をやったのかよ・・?」

「ええっ、今も輸送隊の護衛にクローディアとキルケにも協力してもらっているわ。

今街の入り口で待機しているの・・後で案内してくれない?」

セシルだけじゃなくてユトレヒト隊で協力してくれるのか!こいつは百人力だ!

「予想以上に早いな!あいつらも必死だったか!」

「あ〜、あんたが依頼主のマーロウね?

とりあえず依頼品の用意は別の業者がやっているから後で確認しておいて。

それと私達の報酬はいらないわよ?」

当然のように言ってのける・・、まぁタイムのためにきたんだからな・・

「え・・あ・・そうか、気前がいいな。お前・・」

「当然よ・・。

ああっ、それと依頼品と護衛料はベネディクト家での支払いをするつもりなんですってね?

親御さんが大激怒しているらしいけど、何とかごつい兄ちゃんが説得したそうよ?

でも下手すりゃ勘当されるかもしれないわ」

・・まぁ、言ってみればマー坊自身の金な訳ないからな・・

だが、親も自分のコネで入団させた癖に薄情な事を言い出すもんだぜ

大体あいつらは他人のために金を使う事を極端に嫌うからな

「・・・・、そうか・・」

「・・マーロウ君。すまない・・その費用は我々が後で支払おう」

「いや!団長・・これは俺が言い出した事だ!

例え勘当されようがそれは俺が決めたこと、団長が手を貸す必要はないぜ!」

決意を秘めた瞳でタイムに反論するマー坊、こいつ・・

「いいのかしら?もう『ベネディクト家の御曹司』って言えなくなるかもしれないのよ?」

「へへっ、今はそれ以上に『誇り高きルザリアの騎士』が気に入っているんだよ」

「───あのヘタレの言う台詞かよ?」

「うるせぇ!ともかく!この一件は俺個人でやった事だから団長は気にしないでくれ!」

「・・わかった、君の意見を尊重しよう。そして・・善意の協力に感謝する」

深く礼をするタイム、うむ、嫌な相手でもきちんとしているな

まぁ、最初ほど嫌な奴でもなくなったか

「話はここまででいいかしら?

そんじゃ、詳しい話は落ち着いてからって事で輸送隊の案内は宜しくね♪」

「おっ、おい。お前も同行するんじゃないのかよ?」

「・・冗談、護衛ぐらいクローディア一人でも余裕よ。

私は他にやる事があるから先に失礼するわ」

そう言うとさっきまでの人柄の良さとは裏腹に

まるでこの部屋が氷付けにあったかのようなほど冷たい殺気があふれ出す

思わず息を呑む程の殺気だ・・、

マー坊なんざあまりの殺気に錯乱しかけている

「・・セシル・・」

「水くさい事言わないの、タイム。あの子が護ろうとし貴女が護る街だもの・・

それを踏みにじろうとする畜生は私が始末するわ・・。徹底的に・・ね」

美しい金髪を靡かせ部屋を後にするセシル

本気だ・・あれ・・

そりゃそうか、確かルザリアを護ろうとしたタイムの後輩はセシルの後輩でもあるんだからな。

「・・セシル・・」

「ありゃ本気で怒っているねぇ。私がいる事に気付きもしなかったよ」

意外そうに呟くはベアトリーチェ・・

「なんだ?ベアトリーチェってセシルと知り合いか?」

確かプラハの近くに住んでいるんだったな、まぁ別に不思議じゃないか

「まぁねぇ〜、しかし、あれをあそこまで怒らした以上無制限に召還しようが問題なさそうだねぇ

こりゃ、風向きが変わったか」

「──なぁ、クロムウェル。あのパツキン姉ちゃんそんなにすごいのか?」

「マー坊、あの殺気でわかるだろう?

いいか、一応依頼主とは言え前にタイムにやろうとしたような真似は絶対するな。確実に死ぬぞ」

それも肉塊ぶちまける程度じゃすまないほどの凄惨な最期だな・・

「マ、マジか・・」

「追いかけ回された俺が言うんだから間違いない・・

見ていろ、街にはびこる魔物なんざあいつが皆殺しにするだろう」

「・・へぇ・・」

「でも、良い戦力を連れてきたじゃない。

これで良い方向に向きそうね・・それじゃ、私は数人連れて食料部隊の案内をするわ。

マーロウ君は配置に戻りなさい」

「アンジェリカ教官・・あ、あのさ・・前から気になっていたんだけど・・

この首飾り、なんか俺がヤバイ状態になったら光って相手を退けてくれるんだけど・・ひょっとして・・」

「───、ふふふっ、さぁ・・もう行きなさい」

「・・あ・・ああ、そんじゃ俺はもう戻るけど・・負けるんじゃねぇぞ?クロムウェル」

釈然としない様子だが減らず口を叩いて出て行きやがった

「良いところあるじゃないか、アンジェリカ」

最初からそういう仕組みだったのか途中で設定を変えたのか・・

「さてね。それじゃ私ももう行くわ・・」

涼しい顔で団長室を後にするアンジェリカ、根はいい人なんだけどな・・

「それじゃ〜私達も行こうかねぇ。

クロムウェル、そろそろ出来上がっていると思うから見に行くよ〜」

「あ・・おおっ、タイムはどうする?」

「食料状況を確認するために各部署を廻る事にするわ」

「わかった、気をつけてな」

「セシルの流れ弾にね」

静かに微笑む、うむ・・少し余裕ができたようだ。

こうともなったらひとまずは安心・・後は俺が何とかしないとな!!

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

屋敷を出るとそこは別世界だった

・・っというか氷殺地獄とでも言うのですか・・、

誰も通っていない事を良いことに通りのあちらこちらに鋭く天に向かって伸びる氷の刃

それはいつもの飛び道具とは違い両手剣ほどの大きさで地面から生えていた

そしてその刃はハティの体を貫き宙に浮いている、

それも2,3本で串刺しにしてそのまま放置しておりその凄まじさを物語っている・・

通りにはそんなの氷殺オブジェが至る所にありあのブロンズゴーレムでさえ

動力部分を破壊され滅多刺しで動きを止めていた

本気も本気・・

どういう理屈なのか召還されたハティが地面に足をついた瞬間そこから氷刃が生え貫いている光景を見た

召還と同時に駆逐・・恐ろしいな・・

さらには浮遊して襲いかかってくる骸骨兵、

アンジェリカが言うにはファントムというゾンビの類の奴に対しても氷矢にて狙撃、

俺を襲おうと向かってくる途中に撃墜されたりした。

恐らくはセシルはどこか見晴らしの良い屋上からファントム中心に狙撃して

地面の足音か何かに反応して氷刃を生やしているらしい

流石にルザリア全域ってわけにはいかないようだがテリトリー内では正に無敵だ

 

──ってか、やり方は騎士じゃないよね?絶対・・

 

まぁ、世紀末金獅子伝説に新たに恐怖の1ページが刻まれたのは間違いない

本当・・あいつを怒らしたら駄目だな・・

 

そんな訳で全く戦闘をする必要もないままにリュートが作業をしている店へ到着した。

相も変わらず入り口ではスレイブが静かに仁王立ちして周辺を警戒しておりここは安全なのが一目でわかる

休憩も取らずにただただ与えられた任務をこなす。

それが人間ならば違和感を湧くのだがホムンクルスだと妙に納得してしまう

・・がそれでは道具と変わらない、

店に入る時にベアトリーチェが労をねぎらっているのがやけに印象的だった



 

「自分の工房とは少し違うので少々手間取りましたがいいできです!どうぞ!」

 

到着してまもなく、興奮した様子のリュートが出来上がった代物を見せてくる

こいつも徹夜した割には全く元気だな・・流石は鍛冶野郎

「おお・・いいできだな」

ナックルと角手甲が分けられた状態で置かれている。

ナックルは漆黒のグローブにブラックダイヤを鋲状にした物が等間隔に散りばめられている

拳骨に4つ、そして手首に向かって逆三角形を描くように付けられており裏拳でも痛そう・・

予想以上にスッキリとしているがブラックダイヤは前の奴に比べて透明度が高い

それだけ質がいいのだろう、

ブラックダイヤの製造はベアトリーチェ、加工はリュートだからな

そして角手甲、形状はまさに篭手、

手の甲はしっかりとしており内側に指を通して固定させる

グローブ装備時でも装着できるように型でも取っているのか

ブラックダイヤの鋲に合わせたような凸凹があった

最大の特徴である角は人差し指と中指の間と薬指と小指の間の根元に付けられちょうど拳骨で殴りつける位置

角は透明なブラックダイヤだが長さは予想以上に短い・・刺すのにはちょうど良いな

だが〜、この角手甲、パーツの色が凝っているというかなんというか・・

黒い金属に赤縁ってなんかいかにも曰く付きな武器って感じだよなぁ

「う〜む、予想通り・・流石はリュートだねぇ・・でもこの赤い縁は意外だねぇ?」

「クロムウェルさんのパーソナルカラーは黒、

それに対してタイムさんは赤ですからまぁちょっとした演出ですね」

・・そんな意味を・・・、曲者鍛冶野郎め!

「まぁいいや。そんじゃ付けてみるぜ」

「はい、どうぞ!」

自信満々なリュートだがさてさて・・どんな感じかな・・

う〜む、付け心地は実に良好・・グローブは重さも感じず良い感じだ。

さらにその上から角手甲を付ける。

腕を守るは繋げられた金属篭手、グローブの上からかぶせるも違和感は全くない

刺突特化としての角も良い位置で固定されており、殴る動作でそのまま突ける。

だが指の動きは制限されるな・・

付け根から指の第一関節までをプレートで覆い角を固定させているようだし。

つまりはこの状態では手刀とかには向かないようだ

「良い感じだ、角手甲もすぐに付けられる・・けど、重いな・・」

軽量された金属を使用されているとは言えども腕をガードして

角まで付けられているのなら重さはどうしても出てくる

まぁそれでも普通に考えれば格段の軽さなんだけどな

「そんくらい我慢しろよ、角手甲は防御能力と刺突攻撃に特化した構造なんだ、

拳速低下はしょうがないだろう?」

「わかっているよ・・。でっ、この角の部分は折れる心配とかなのか?」

「そのために全体的にやや短くしました、

ブラックダイヤ製ですので元々の頑丈さは一級品、よほどの事がない限り折れはしないでしょう」

丁寧に解説するシャン、ううむ・・良くできた相棒だな

「オッケー、まぁこっちはそれほど使う機会もないか。ともあれありがとよ」

篭手を装備する事を思えばそれでも動きやすい、中々使い勝手は良さそうだな

「よし〜、そんじゃクロムウェル・・一端外してグローブの方をテーブルに置きな〜、

ヘキサ対策の最終段階、いくよ」

最終段階・・っともなると白風(ホワイトソニック)対策か

グローブが何か関係あるのかな?

「わかった・・けどそろそろ説明してくれよ」

「今からするよ。そもそも、失われた(ロスト)魔術(マージ)に登録されているとはいえ

白風の性能自身は非常に優秀だ。

近距離戦闘を得意とするヘキサがそれを使うとなると正に鬼に金棒、オーガに肉棒って奴だ」

・・・後半は違うと思うが・・

「あ、ああ・・それはわかっている。まともに受けたらこのブラックダイヤだってやばいんだろう?」

ベアトリーチェ特注のブラックダイヤとは言えどもあの白風は防げないだろう

もっと違うレベルでの効果らしいからな

「そう・・とどのつまり白風対策はそれを受けずに倒すか

相手にそれを使わせないようにするかの二択だ。

だが前にも言ったがヘキサほどの戦闘能力を持つ相手に全ての攻撃を回避する事はまず無理だ。

・・まぁ、クラーク=ユトレヒトぐらいのレベルならば可能性としてはあるかもしれないがねぇ」

クラークさんか、まぁ身のこなしバケモノだからなぁ

だがそれでも一発二発は受けるだろう・・

それだけでも当たった箇所が悪ければ致命傷だ

「・・それじゃ、ヘキサに白風を使わせないようにするしか勝ち目はないか」

「そう、そのために今からこのグローブ、『()崩す(タン)戦牛()()()』に細工を仕掛ける。

クロムウェル、もう一つお前さんは新しい術を覚えなければならないのさ」

新しい術・・?

何だかよくわからないがテーブルに置いたグローブを見つめながら

ベアトリーチェは懐から小さく折った紙を取り出した

そしてそれをグローブの前に開く、そこには赤いインクのような物で描かれた魔法陣がある

中央に円が描かれそこに集まるように中心に線が集まっている、簡単な放射線って奴だな

紋様としては単純なのだが・・

よく見ればそれを描いている線はただの線ではなく小さい文字になっている

「なんだよ?これ・・?」

「まぁ・・、見ておきな。説明してもお前さんにはわからんさ・・さて・・設置(セット)

目を閉じて・・いるんだろうな?

グルグル眼鏡からは良くわからんが精神集中している様子のベアトリーチェ

そのまま手を軽く紙の上に置いた

 

「・・回路術式(サーキットコード)・・読取(ロード)

 

手が軽く光る・・そしてゆっくりと手をずらしたら・・紙に描かれていたはずの紋様が消えていた

手のひらにあるのか?

そしてそのままベアトリーチェはグローブに手を重ねた

術式書(コードインス)(トール)・・開始(オン)

そう言った瞬間再び手のひらからほの明るい光が放たれる、

何が何だかわからないが再び手をずらしたらグローブの表面には紙に描かれた紋様がうっすらと浮かんでいた

呆然としている俺を余所にベアトリーチェはもう片方のグローブにも同じ様に紋様を付け

その瞬間、手のひらの光は儚く消え去った

「・・・ふぅ、成功だよ」

「お見事です。流石はベアトリーチェさんですね」

リュートにはそれが何なのかわかるようだが・・

「成功って言われても俺にはわからんぞ?」

「あ〜、説明するよ。このグローブに回路を組み込んだのさ。

これでこいつに魔力を通すと自動的に術が発動する・・

魔術的な効果を持つ武器ってのはこうして回路を組み込むのさ・・まぁ、別に方法もあるんだがね」

へぇ・・、だとしたら小難しい術式も必要ないって訳か

「じゃあ今組み込んだのが対白風用の魔術か?」

「まぁ当たらずも遠からずってところかね。

こうした回路は複雑な術は組み込めない・・今やったのも基本的な術さ。

白風対策、ヘキサにそれを打たせないようにするには術を使えないようにするしかない

その効果を持つのが『失われた(ロスト)魔術(マージ)』の一つ・・蒼雷(ブルーレイ)だ」

蒼雷(ブルーレイ)・・そいつを使えば術を妨害できるのか?」

「ああっ、そうだ。

蒼雷には特殊な効果があってね・・回路(サーキット)破壊(ブレイク)と呼ばれる魔導回路を麻痺、破壊する効果だ。

完全に破壊せずに一時的に使用不可にする程度だが戦闘中においては相手の手札を大きく崩す有効な手になるだろう」

「すげぇな・・・。ってか、めちゃくちゃ便利じゃないのか?」

原動力を破壊するとなれば魔術師に対する特効とも言えるし

「これも条件があるのさ、まぁ理由は白風同様・・接近戦でしか使用できないためだ。

蒼雷っては普通の雷じゃない。

それを圧縮させて一点に集中させて発動させる特殊なモノだ・・」

「雷を・・圧縮?」

「その通り、お前さんも雷術使っているならわかるだろうが・・雷ってのは常に動き放射線を描くように分散される

中には指向性を持たせて威力を集中させる術もあるだろうがこれはもっと強力だ

そのエネルギーを逃げないように一点に集中させとてつもない高エネルギー体となるんだ。

それが蒼雷・・、高度に圧縮された雷は触れるものに凄まじい電撃を与え

体の細胞は愚か魔術的なモノまで影響を及ぼす、魔法陣なんかにも有効とされているのさ

しかし効果が高い分リスクも高い。

通常の雷術に比べ常に圧縮させていないと発動できず、

二つの行程を同時進行させるために魔力消費は半端じゃない」

「そりゃ・・な。じゃあ飛び道具とかでは蒼雷はできないのかぁ・・」

「できていたら失われた(ロスト)魔術(マージ)に加わっちゃいないさ。

圧縮作業ってのはこれが実に厄介でね、

有効範囲が限られているために手のひらで蒼雷を作りあげても

投げて距離が離れると
圧縮が解けて普通の雷になっちまうのさ・・」

なるほどな、威力が高くても接近戦でしか使えないのなら魔術師は使わない・・か

そうした点では白風と同じ性質だな

「それじゃ・・そのグローブに組み込んだのは圧縮の術か?」

「その通り。術の行使自体は難しくないが一定の効果を保つのが難しい術でね、

初心者のお前さんが安定して使うにはまだ難しいんだよ。

だからこのグローブに圧縮魔術を組み込みその上で雷を造り出す。

それで蒼雷の完成ってわけさ」

つまりはグローブ装備時でなければ蒼雷は出せないのか

「・・ってか、グローブに魔力を流しながら雷を造り出すのか・・難しそうだな・・」

「文句を言わない!これでも大分簡単にしてやったんだよ?ほら・・やってみな!」

そう言いながらグローブを投げてくるベアトリーチェ・・まぁ出来なきゃ勝てないからな。

よし、やってみるか!

手早くグローブをつけ先ずは右手に雷を発動させる

これは今まで通り、バチバチと激しく放電しながら手を包み込むように黄金の雷がまとわりつく

この状態を維持しつつグローブに意識を集中させて魔力を供給・・っと

自身の体から線を伸ばし対象に結びつけるイメージを浮かび上がらせるのがコツなんだとか

ちゃんと伝わっているかはすぐにわかる、グローブからあの紋様が浮かび上がった

 

「・・感覚がないんだけど・・ちゃんと圧縮しはじめているのか?」

 

・・元々そんな目ですぐわかるような現象じゃないからなぁ・・

魔術に関しては素人な分実感がない

「ちゃんと発動しているよ、まだ慣れていないようだから度合いが弱いだけさ・・

まぁ、すぐに目でわかるようになるよ・・ほら」

おおっ、言われた通りにすぐに変化が出てきた。

さっきまでと違い放電がだんだん弱くなっていく・・

四散していった雷が徐々に飛ばなくなりまるでグローブに抑えられているような感じだ

これが圧縮か・・

「わかっただろう?それじゃ圧縮を強めな」

こんな感じか・・っと。

よし・・グローブの紋様はくっきりと浮かび上がり放電は完全に抑えられた。

バチバチって音がいつも鳴るんだけどそれもなくなりまるで俺の手に黄金光が集まったような感じ

雷という感じじゃないな。

「もう一押しだ。良い感じだよ」

・・そうとは言えども・・結構難しいんだが・・このっ!

「あっ、変わった!」

俺が驚くよりも先にシャンが驚いて声を上げた

圧縮の度合いをさらに強めた瞬間、手に集まった黄金光は蒼く変色を遂げた

音もなく澄んだ蒼色の光、それが球形となり俺の手を覆う・・。

どう見ても雷には見えないな・・正しく蒼い(ブルー)(レイ)

「成功だよ。後はそいつを叩きつければ良い・・威力は、わかるだろう?

その蒼い光は通常の雷の数倍の威力がある」

「・・ああ、こいつを受けたら無事な奴はまずいないだろう・・だが・・消費がきつ・・っあ・・」

気を抜いた瞬間に蒼雷は消えていつもの雷に戻った

バチバチ音が出ていて紋様が消えているところ、圧縮は解除しちまったようだ

「気を抜いた途端に解除かい・・まぁお前さんらしいねぇ。

まぁ今のは圧縮に時間が掛かりすぎた。

雷を発動しながらなんだから素早く蒼雷を出せるようにしないと幾ら魔力が合ってもおっつかないよ?」

「ああ、確かにすごい消費量だな。今のでも結構使ったし・・」

「慣れない作業を加えているからねぇ・・。

必要以上消費されているのもあるんだろう・・

まぁ、慣れたら雷と圧縮を同時進行させて一工程で蒼雷を出す事もできるだろうさ・・

基本的には、魔術師ではないお前さんが多用できるような代物でもないんだけどねぇ」

「確かにな。しかし・・雷以外に付加がないのに威力が格段に上がるものなんだなぁ」

「それだけいつも雷の能力を活かしていないんだよ・・。

さて、これで私の役割は終わりだねぇ・・後はお前さん次第だ」

「あ・・ああ、ありがとよ。ベアトリーチェ」

「礼なら勝ってからにしておくれ。現状でも五分五分と見ているんだからねぇ」

・・うわぁ・・はっきりと予想してくれちゃって・・

「勝つよ、絶対にな」

「・・はははっ、良い気合いだ。

そんじゃ、私は別行動をさせてもらうよ〜。スレイブたんもファミリアたんもね」

「なんだよ、ここまで来て別行動か?」

「一応、表立って動けない立場なんでねぇ。まぁ後で会えばいいさね。

でっ、リュート達はどうする?仕事は終わったんだ・・帰るならスレイブたんで送るよ?」

送るったって一瞬なんだろうけどな

便利だよなぁ・・ゆっくりと移動するのも風情があるんだけど・・

遠出するとなると何か時間が勿体ない気分になるもんだからな

「この状況で帰るのも気が引けますので僕達で出来る範囲でお手伝いしますよ。

・・まぁ、あのセシルがいる分にはやる事はほとんどなさそうですが・・」

何故かセシルに対して嫌悪感をあらわにするリュートとシャン。

プラハで店を構えているのなら・・あいつの本性を知っているクチだな。

感じからして被害に遭ったのだろう

「まぁ、現状だとあいつがお前達を襲ってくる事はないだろう。

ルザリアを襲撃された事に対してご立腹のようだからな

・・すまないが出来る範囲でもうちょい、手を貸してくれ」

「わかりました、とりあえずは住民の避難所付近の護衛に付きましょう。リュート、準備はいい?」

「何時でも大丈夫だよ。それじゃ、僕達はこれで失礼します。クロムウェルさん、がんばってください!」

「ああ、任せな」

深く一礼して鍛冶屋を後にする二人。

・・って・・

「あ・・料金払ってねぇや」

ブラックダイヤとかビーエムスリーって金属使っているなら相当な額になりそう・・

うわぁ、今月ピンチとかそういうレベルじゃねぇぞ!?

「あ〜、そこらは私が払っておくよ。

アークトゥクスなんざ人工レアメタルと言えども超々高級品だからねぇ・・

請求したところで尻の毛を抜いてもお前さんには支払えないて♪」

・・・そんなに高いの・・?

「アリガトウゴザイマス、ベアトリーチェサマ・・」

「気にしなさんな。それよりも、勝つんだよ・・。この状況を穿つにはお前がやるしかない。

セシルが張り切っているが流石のあいつでもヘキサは倒せやしないだろう」

ケダモノじみた身体能力を持っていてもタイマンではヘキサの攻撃は避けきれないだろうからな。

白風をまともに受けたらセシルでもまずいか・・

「わかった。だが安心しろよ、俺は勝つ・・わざわざここまで用意してくれたんだからな。負けられるかよ」

「・・良い気迫だ。そんじゃ、勝利を祈りつつも再び裏方に回らさせてもらうよ〜」

ニヤリと笑いながらそう言いベアトリーチェは何事もなかったかのように鍛冶屋を後にする

残されたのは俺一人・・

 

「・・やってやるさ。俺にはもう負けられない訳もあるんだからな」

 

もう誰もいない店内にて勝利を誓う、

ヘキサとの再戦まで後僅か・・、後は俺自身の力でやるしかない・・

 

 


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