第4話  「少女と野獣」


教会横の館から閃光が放たれたと同時に数人の人影が窓から飛び出て動き始めた
タイムの言った通りに彼らは固まって行動せず、かといって慌ててる様子もない
その中、一番小柄な影が先ほどまでクロムウェル達がいた森へと入ってきた

「う〜ん、やっぱり一人ってちょっと心もとないな〜」
森の中に入った途端とぼとぼと歩く少女。
まだ少女の面影を強く残しているがそれでも腰に剣を下げており
今回の訓練に参加するハメになった。
黒いケープを着ており、服装はゴスロリにも似た街娘の服装で髪は
綺麗な金髪をオサゲにして垂らしている
「でも王様の子供ってやっぱりズレているものね・・」
王女相手にそうとう苦労したようでため息まじりなトボトボ歩いている
そこへ・・

轟!!


突如火柱が木々の間から走ってきて少女を襲う!
「きゃっ・・と!」
普通の少女ならば間違いなく捲きこまれていたのだが、見事に反応して後に下がる
「ほう、手加減しているとはいえ・・、俺の炎を避けるとは中々だな!」
豪快な声が森に響いている
「ハイデルベルク騎士団の方ですか?」
「おうよ!俺はブレイブハーツが一人ディウエスだ!お嬢ちゃんの相手をさせてもらう!」
別に姿を最後まで隠すつもりはなく、火柱が飛んできた方向からヨッコラショっと出てくる
ミスタースキンヘッド、ディウエス・・
「騎士の方が不意打ちですか・・、ちょっと幻滅しますよ」
「がっはっは!不意打ちというわけではない、
それなりに腕がなければ一方的なリンチになるだろう?お嬢ちゃん」
「・・キルケです。じゃあ私の相手は貴方というわけですね」
少女、キルケはディウエスが相手ということに今一つ良い顔をしない
・・まぁ、体格差がありすぎるのだからしょうがないのだが・・
「俺も不満だがしょうがない!一気にいくぜ!」
豪快に振りかぶりキルケに向かって切りかかる!
ディウエスは騎士であるが戦士というほうが似合っている・・、
任務となれば全力で挑むつもりのようだ
「・・もう!!」

ゴウ!!

凄まじい音で空振りをする!
まともに受けてはキルケなんかは一たまりもないだろう
「こっちの剣も抜かせてくださいよ!」
「お嬢ちゃん、今は敵同士だ!」
さらに斬りかかるディウエス!赤い装飾のされた大刃がキルケを確実に捕らえている
「わかりました!・・ていっ!」
横なぎに襲う刃に対し、腰に下げている短剣マンゴーシュを逆手で取り

キンッ!!!ギギギギ・・・!!

マンゴーシュで剣を受けとめるのではなく衝撃を受けないように刃を合わせ斬撃を流している・・、
並の腕ではできない芸当だ
「ぬおっ!」
これにはディウエスを驚き体を流される・・
大ぶりなのが裏目にでたようだ
「えい!」
がら空きになったディウエスの脇にキルケは残った細身のレイピアを取り突き刺す!!

カァン!!

・・・ジィィィィィィィン・・

「い・・ったぁぁぁぁい!」
レイピアで突き刺そうとしたのだが、分厚い鎧には全く効かず衝撃は全て手に・・
もうしびれまくっているようだ
「がっはっは!甘いな!」
ノーダメージなディウエス、体勢も立て直し今度は隙を見せたキルケに斬りかかる!

キィン!

キルケも何とか反応しマンゴーシュとレイピアをクロスして受ける・・のだが
「きゃあ!!」
豪腕によるディウエスの一撃はひ弱なキルケでは押えきれなく防御をしながら吹っ飛ばされた
「力がないが腕はいいな、全く、大したお嬢ちゃんだ」
「いたた・・、流石に力だと適いませんね」
「遠慮はしなくていい、そろそろ本来の土俵でこい!
お嬢ちゃんの力に敬意を表してこのディウエス!
ブレイブハーツが一つ炎光剣『紅輪』にて全力で挑もう!」
そう言うと目の前に剣をかざし、刃から炎が噴き出てくる
剣は赤い柄のトゥハンドソード・・両手で持ち叩き切ろうものなら斧にも勝る切れ味を誇るだろう
「気性も武器も熱いですね。じゃあ・・いきますよ」
そう言うと目つきが変わり、キルケはマンゴーシュを収めながら精神統一しだす・・

『万有を引き寄せし大地の呪縛 今この時闇とともに解放せん・・
  集いて潰せ  グラヴィトン!!』

言霊を使用した呪文詠唱により、レイピアの刃にそれを覆うぐらいのどす黒い球体が発生し
それをレイピアを振る動作で投げ飛ばす!

「ぬぅ!闇魔法か!・・だが!!」
ディウエスは一反剣を下げ、ガントレットを付けた片手を広げ・・


ゴゴゴゴゴ・・・!!

闇の球体を片手で受け止める!!
球体はディウエスの手から進むことができず不規則に歪みはじめた
「て・・手で抑えている!?」
「ぬぅん!!」
ディウエスの気合いとともに闇の球体を握り潰す・・
「め・・めちゃくちゃですよぉ!」
「ふん!これでも聖騎士だ!闇の攻撃なんぞ慣れている!
お嬢ちゃんこそアーサー司祭の娘のわりには邪教の術を使うのは異常だぞ!」
ビシっと指差してディウエスが叫ぶ・・中年なのに実に熱い
「お・・お父様を知っているのですか?」
「教団とは関わりが深いのでな。そんな穢れた術を使っているとアーサー司祭も泣いているぞ?」
「お父様は関係ありません!私は私です!!」
「ぬぅ、親不孝はいかんぞ!俺が性根を叩きなおしてやろう!」

轟!轟!

炎光剣を振り地を走る火柱を幾つも出現させる!

『大気に潜む無尽の水 氷結の導きとなりて堅牢たる鎧となれ! フィンブル!』

襲いかかる火柱に対しキルケは素早く呪文を詠唱し、目の前に氷の壁を作る!
火柱VS氷壁・・
燃え盛る炎と堅牢な氷の勝負は相殺にて双方消え失せた
「やるなぁ!お嬢ちゃん!聖剣の炎を防ぐとはな!」
「セシルさんには適いませんけどね、もう・・高位魔法ばかりでバテますよ!」
額に汗を滲ませるキルケ・・、どうやらかなり魔力を消費しているらしい
「おおっ、見たことはないが金獅子セシルか!
お嬢ちゃんを倒してから相手にしようと思っていたところだ!」
「残念ですけどそれはできませんよ!貴方は私に倒されるんですから!」
「大きく出たな!じゃあ次で終わらすぞ!」
ディウエスは全力で剣を振り上げる!勝負に出たようだ
「いきます!」
対しキルケは両手で交差しタモトを隠す
隙間から見える目は碧眼から漆黒のモノへと変化していた

「チェストォォォォォ!!!!」

その時に、ディウエスが渾身の力で剣を振るい四方八方に爆炎が広がる!!
炎を瞬く間にキルケを飲みこむが、彼女は動こうともしない
「お嬢ちゃん!このまま焼け死ぬ気か!」
「・・・はっ!」
ディウエスの言葉を無視するように驚くべき跳躍でディウエスの頭を超える
その動きは先ほどまでの彼女のものとはとても思えないくらいの早さだ
「ぬっ!後か!」
ディウエスが振り向き様に横なぎに払う!
しかしキルケはの斬撃より深くしゃがみながら踏みこむ
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

黒眼のキルケが踏みこみながらレイピアで怒涛の突きを放つ!
しかし

カァン!カァン!カァン!カァン!!

「がっはっは!さきほどよりは鋭くなったがまだ甘いわ!!」

轟!!

鎧に傷がつきつつも構わずディウエスはキルケに炎光剣を叩きつけ、巨大な火柱を発生させた!
「く・・!!解除!!」
巨大な火柱が起こる前に素早く下がり、声と共に目の色が元の碧眼に戻る
さらに

『神々に祝福されし天の雷光 不浄に染まりし人の罪を問え!!
 シャインニングスピア! 』

後退しながら呪文を詠唱しレイピアの切っ先から現れる幾つもの白い雷・・
それはまっすぐディウエスの胸元に直進する

ドォン!ドォン!!

「お・・おおう!!」
鋭い衝撃がディウエスに直撃し体が大きくのけぞるがそれでも雷は胸に正確に突進している
「ぐ・・、さきほどの連撃でここに誘導させていたのか!」
見ればレイピアによる溝に向かって雷は進んできているのだ
「一撃だけ、魔が込めて突きました。そこは人体急所です!これで・・あ・・」
急にふらっとよろめくキルケ・・限界なのだろう
しかしそれはディウエスも同じで・・
「ぬぅ・・・、俺としたことが・・ぬかったわ!」
雷を全部受けきったが・・衝撃で口から血が出ておりにやりと笑いながらそう言ったと思うと

ズゥン・・

大きな音を立てながら大の字に倒れた・・
それとともに付近の木に移っていた火もピタリと消えた
「か・・勝った・・。でも・・やっぱりあの術を使うのって・・難しい・・」
勝者となったキルケも燃えていない木まで歩きもたれたとおもうと静かに眠りだした
結果、双方引き分け・・


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