第1話  「意外な形」


貿易都市ルザリア、
いつも〜の如く街を賑わっているなか裏通りとも言える暗い通りで住んでいる俺、クロムウェル・・
人ゴミってのは嫌いでな・・
だが、今日はこれでも仕事返り、相棒のナンパ魔術師フィートと
部屋で報酬を分けている最中なわけ
・・えっ、報酬分けている割にはそっちに集中していない?
・・・、それには訳があるんだよ・・
「先輩、銀貨一枚の報酬はいいんですが・・崩さないと分けれませんよ」
「俺だってどんだけの報酬だったのか知らないからしょうがないだろ?
・・晩飯の時に崩して分けるか」
「じゃあその晩御飯で減った分は〜・・」
「この間俺がおごったからお前の取り分から・・だな!」
「せんぱ〜い!!」
これは道理だ!
「っうかお前、弄んでいる女からせびればいいだろ?」
「それは僕の主義に反しますね。僕が女性から奪うのはプライド、そして恥じらいです」
流石はナンパ師でもあるんだけど・・、後ろの恥じらいって・・、調教師か?おのれ・・
「そうは言ってもお前、エネちゃんにだいぶ金つぎ込んでほとんどないんだろ?」
「しょうがないじゃないですか、何時までもテント郡で寝かしていること自体かわいそうなんですし・・」
「それを俺に回すな・・」
「別に先輩にこびたりしませんよ。いざとなれば・・、裏社会の人に無利子で借ります♪」
「そして返さず泣き寝入り・・か。お前、鬼やね・・」
「所詮は汚い手を使って善良な人から奪ったもんですし、
お金ってのは有意義に使われたがっているんですよ」
「・・、何に使うんだよ?」
「新しい催淫ざ・・おっと・・、恵まれない子供達に食料を・・」
バレバレやっちゅうねん・・、ともかく、銀貨一枚でいつまでもジロジロしているわけにも
いかないので俺が預かり後は晩飯までやることなし!
今はまだ昼を少し回った程度だから昼寝でもできるだろう・・


コンコン

「お客ですか・・、昼寝前になると結構来ますね」
「一般的には仕事中だしな。開いているぜ・・」

「失礼します・・」

入ってきたのはここルザリアに駐在している
ハイデルベルク騎士団の一部「ルザリア騎士団」の女性騎士・・。
いつもならルザリア騎士団をまとめているタイムが来るんだけど・・部下にこさせるって事は・・
「クロムウェルさん、タイム団長がお呼びです。」
「仕事か?それにあいつが直接こないとはな・・」
「団長は王都で何やら会議がありまして
団長が戻ってくるまでにクロムウェルさんを屋敷につれておくように・・
っと早馬で連絡がありました」
「王都の会議に早馬か・・・。大事のようだな・・、よし、じゃあすぐいく。」
「・・ありがとうございます。ではこれで・・」
よく教育が届いている騎士が静かに出ていった・・。内心俺の事が憎かろうに・・
「先輩、僕はどうしましょう?」
「あ〜、話によっては聞いちゃまずいだろうしな〜、俺一人で行くわ」
「そうですか、じゃあ僕はエネのところに行っておきますね♪」
自分に儲けがないとわかったらさっさと出ていくフィート・・
まぁ、そういうところがあるからこそ頼りになるというべきか・・
ともかく、大して用意するものもないのでさっさと騎士団屋敷に行きますか




ルザリアの中心近くにある騎士団屋敷
周りが公園になっており結構涼しい・・んだけど今はそんな事言ってらないのでさっさと屋敷へ・・
屋敷って言っても結構な大きさで作戦会議室を始め
武器庫から食堂、隣接する寮までといたれりつくせり・・。
貿易都市だけあってその分セキュリティー関係に力をいれているのか・・
まぁそのおかげでこの街の犯罪検挙数は抜群。
都市の外にあるテント郡でさえとりあえず穏やかだってのがこれまたすごいところ。
普通難民が窃盗とかして捕まるとか珍しくないだろ?
まぁ、そこらへんはタイムが炊き出しとかを頻繁にしているし
事実上テント郡の住民をまとめているセイレーズってじいさんのおかげでもある。
まぁ、多少ボケているけど昔はすご腕の盗賊なんだって・・。
すご腕のわりには俺の名前を何時までも『クロマティ』って言っているんだけどさ・・。

ともあれ、騎士団連中とは顔見知りなので顔パスで団長室へ・・
でっかい机に各種資料がまとめられた重厚な本棚、後は使いこまれたソファと接客テーブル
何時見ても重苦しい職場だこと・・。
普通の騎士団長室って言っても趣味全開に剥製置いていたりなんぞ
少なからず色がでるらしいんだけどここはさっぱり
必要最小限の物しかなく珈琲一つ入れるのも厨房まで足を運ばないといけない・・
傭兵時代のあの人の部屋でさえ刃物が飾っていたんだがね〜・・
因みにタイムはこの屋敷の屋上近くの一室に住んでいる
この屋敷の主である騎士団長が常に屋敷に住み街を見守る・・
そういう思いが込められているってわけだ。
・・まぁ、そこで住んでいても屋敷に人が一人もいないってわけじゃなくて
夜勤の騎士が数名、寝ずの番で職務についているらしい


ふぅ、結構時間があるな。一旦出なおすか・・

「待たせたな・・」
ソファから立とうと思ってたところにピチッとした服装のタイムが入ってきた
それでも髪で右目を隠すのは女の意地・・か?
いつみても綺麗な赤髪だけど・・なんだか表情が固いな・・
「まぁいいぜ。どしたんだ?早馬を使うくらいなんだから結構なことだろう?」
「ああっ、簡単に言うと・・王姫様が誘拐された」
!!!
「いいっ!誘拐だ!!?」
「声が大きいぞ」
呆れながら椅子に座るタイム・・落ちつきすぎだ・・
「そ・・そりゃあ声もでかくなるぞ!一体どうしたんだ?」
「誘拐ということで話をされていたが実際は姫さまが城を逃げ出して
とあるところで世話になっているらしい」
「じゃあ誘拐じゃないぢゃん」
「誘拐・・っということにするつもりだ王は・・。その世話をしている連中、誰だと思う?」
「・・・?誰だって・・お前にしては勿体ぶるな?」
「・・ユトレヒト隊だ」
「・・・なるほど」
ユトレヒト隊、このルザリアにも名を広がせている冒険者チームだ
しかしそれ以上俺達には因縁がある
リーダーのクラーク=ユトレヒトは俺の傭兵時代の隊長でもあり・・俺の目標だ
他にも元騎士のセシルローズ、こいつはタイムがライバル視していた騎士・・・。
それも『金獅子』と呼ばれるくらいのおぞましい戦果を持っているんだって
他に俺にわかるのは仮面被ったクールな男、ロカルノぐらいだが、
クラークさんとセシルだけでも十分一騎士団の力量を上回っている
「どうやらユトレヒト隊は以前あったカーディナル王襲撃の際王の命を救ったらしく面識はあるようだ」
「じゃあ直接クラークさんと話すればいいじゃないか。俺の出る幕じゃないぜ?」
「確かに話をすればいい。しかしそれで終わらせるには惜しい機会と王がおっしゃられて・・」
「はぁ?」
「先の王襲撃の一件で私達ハイデルベルク騎士団はその役目を守ることができなかった。
実際王都の城を守っていた兵もなすすべもない状態だったという。
そんな状態で犯人達を倒したのはユトレヒト隊だ。
だからこそこの機会にハイデルベルク騎士団は気を引き締められなければいけない」
・・・、なんか・・・すごいことがあったんだな・・
俺全然知らなかったよ
「じゃあどうするんだ?」
「ハイデルベルク騎士団が誇る『ブレイブハーツ』を扱う聖騎士を召集し
ユトレヒト隊から姫を取り返す」
「!!!いいっ!まじかよ!」
「王が直接そう言った・・。」
「し・・しかし!クラークさんは人質をとるようなことはしないぜ?
無理やり冤罪で襲いかかる気か?」
「そこはクラーク達にもすでに連絡をしたそうだ。訓練の名目でお前達を捕まえるって・・
もちろん事を表沙汰にはしない。その上で騎士の名誉にかけて挑戦する・・と」
「・・返事は?」
「『面倒事はごめんだけど何でもやるからこのうるさいのを早く連れていってくれ』だそうだ」
大国の王女に対して「うるさいの」・・、あの人らしい・・
「じゃあお前達はユトレヒト隊にドンパチするのか・・」
「ああっ、しかし今回の一件は聖騎士達と私、そしてオサリバン総団長だけとなっている」
「・・あのおっさん・・出世したのか?」
「文民を除いては国の軍事最高責任者だ。」
・・ハゲのくせに結構な肩書きな事・・
「じゃあなんで俺を呼んだんだ?騎士団の最高機密事項・・だろ?」
「私はセシルのことをよく知っているから今回の作戦に選ばれたんだ。
同様にお前もクラーク=ユトレヒトについて詳しいのだろう?」
「あ・・ああ・・。そりゃあな。でもそれだったらローエンハイツのフロスさんの方が身内だし・・」
フロスさんとは俺の実家がある港街ローエンハイツにある騎士団
ハイデルベルクに最近加えられたローエンハイツ騎士団団長、フロスティ=テンペストのことだ
俺やクラークさんがいた「傭兵公社第13部隊」の副隊長の勤め
初期からのメンバーでクラークさんのことも詳しいはず
「ああっ、名軍師フロスの活躍は聞いているのだが丁重に断ったらしい。
かわりにクラークのことをよく知っている人物を紹介するって・・、
それがきっかけで私も呼ばれたんだ」

・・フロスさん・・俺を売ったな・・?

っうか先日キースを転属させたのはその埋め合わせか!?
「・・この際それはどうでもいい。じゃあ俺はどうすればいいんだ?
クラークさんのことをそのブレイブなんとかを使う騎士さんに言うのか?」
「それだけじゃない、実際に戦闘にも参加してもらいたい」
「・・・マジ?俺騎士団じゃないぜ?」
「特別だ。お前はクラーク=ユトレヒトを倒したいのだろう?」
そりゃあ・・いつか倒すって言っちゃったけど・・急だぜ?
「・・まぁ・・わかったよ・・。」
「ん・・、臨時だがお前の肩書きを『ルザリア騎士団特別教官』をしておく
・・ブレイブハーツの人間はお前が騎士と無関係だとは思ってもないことだろう。」
「わ、わかった・・。じゃあ今後は・・」
「数日後に聖騎士達がこの屋敷に来る、そこで作戦会議を開き動き出す・・」
「そうか・・。わかった。じゃあその時に屋敷にくればいいんだな?」
「ああ・・、頼むぞ」
「了解だ・・ったく大事だな」
「・・・・・そうだな」
団長室の椅子に座り黙り込むタイム・・、こいつも緊張しているようだ
「だが・・、お前もセシルと戦う気か?」
「本気で戦うことなど・・ないと思っていた。
お前に言われてから張り合うのも止めていた・・けど・・実際こうなると・・」
「・・、けじめをつけたくなる・・か?」
「・・ああ、その割には・・体の震えが止まらない・・」
セシルの実力は俺も知っている。はっきり言って・・人でなし?
いくらタイムが腕が立つといっても分は悪い・・
「・・応援するぜ。ともかく、お互い少し落ちつこうぜ?」
そういうとおもむろにタイムの後に周りこみ優しく抱き締めてやる
「・・・クロ・・?」
こいつはこうされると喜ぶ・・、学習済みです・・
「感謝するぜ・・。良い機会だからな」

俺の力が今のあの人にどれだけ通用するか・・・。
答えが出せれるかもしれないな


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