「聖魔VS妾龍」vol5


空へと爆散する銀色の液体、それは緩やかに二人 サブノックとイリアへと降り注ぐ。

二人が驚愕に「神の毒」を浴びようとしている。
それを視界に納めている皆が思う。 この速さなら、まだ間に合う と。
皆が考える。  二人を突飛ばせば、「神の毒」を浴びさせずに済む と。

だが、どんなに精神が認識していようと
手を伸ばす腕は、前へ進む脚は、周りの速度と同様に緩やかにしか動く事無く
二人の露出している皮膚を銀色の液体が滴るのがハッキリと見えた。
「「「サブノックっ、イリアっ!!?」」」
己の身体を抱締め膝を着いて俯き戦慄く二人に駆け寄る皆。
しかし、その歩みは次第に遅く・・・そして、完全に歩みが止まり
Ohhhhhhhhhhhh!!!
仰反ったサブノックとイリアの顎から吐き出されるのは正しく、魔の咆哮。
そのままイリアは地に手を着きピクリとも動かないが、
仰反で紅に怪しく光りを放つ瞳に恰も何かが皮膚の下を蠢いているかのよう
モーフィングし始めたサブノックは身体そのものから噴出す紅の闘気に
衣服のみならず人の皮膚をも吹き飛ばし、人間から悪魔へ変身。
赤の眼光を覗かせる顔見えぬ兜に漆黒の翼の禍々しい鎧姿で身体から
紅の陽炎の如き闘気を溢すその姿は正しく狂戦魔。
恐ろしいまでの威圧感に、仲間ですら歩みは前に進むどころか後ろへ。
それでも唯一彼女が怖気づかず歩みを進めるのは、その狂戦魔が肉親であるからだろう。
 「父上っ!!!」
真紅漆黒の狂戦魔を純粋に無垢の瞳で見上げるラミアの瞳に一切の迷いはない。
その細首へ緩慢な動きで伸ばされるのは狂暴なまでの甲手。
少女の細首など一瞬で砕骨ところか斬首も容易なのは誰の目でも瞭然。
 「ん・・・・・・」
そして篭る力に息は詰り、ラミアに苦悶の表情。もう少し力が入れば娘は絶命。

                ・・・正義
理不尽な運命
         に抵抗

地を這いずり廻り生き恥を曝そうと
                 愛しき者を護り
                        己の幸せの為だけに
                                 拳を揮う。

         理不尽な運命は断ち斬るのみっ!!!           

「・・・ならば・・・ならばっ、我が娘の命、我が手で奪ってなるものかぁっ!!!」
破壊の要求を求める肉体を、屈強な意志で屈服させ己のモノへと獲返し
メキメキャと粉砕音を立てて揮い広げる腕は、今や狂戦魔ではなく闘士のものである。


 怒涛の展開のサブノックに対し、イリアは地に四這いのままに沈黙を保っていた。
だからこそ、皆の注意はサブノックへと向いていたのだが・・・
それ以前に戦聖女 妾龍の字に恥じぬ無欲な聖人格者を見せていたイリアが
悪魔や精霊,神などの霊体には兎も角、人間には効果が極端に弱まる「神の毒」に
犯されるわけがないと、皆々然程心配していないというべきなのかもしれない。
しかし、狂戦魔降臨の心配が去った今その沈黙に気付く者がいた。
それは恰も、嵐の前の静けさ 大津波の前の潮引。 
龍天使と見紛う龍人化を、魔導や召喚憑依等ではなく自身の特性で行う者が
霊体よりも人間よりのわけがない。 となれば、これは正しく前兆。
そんな事に気付くはずもなく、悪魔の姿のまま皆の処へ行くサブノックに安心し
ラミアはピクリとも動かないイリアへ駆け寄るとしゃがみ気遣い
 「イリアさん、大丈夫ですか?」
 「・・・・・・」
子供なだけに全くの無警戒でしゃがみ妾龍の様子を伺うが・・・
顔を伏したままで長い黒髪が邪魔する者の顔の様子が見えようはずもない。
・・・以前に、前日髪が邪魔と切ってついさっきまでショートヘヤだった髪が
何時の間に腰へ容易に届くほど長くなったのか? それに誰かが気付く前に
 「???」
吹っ飛ばされた幼女ラミアは、何が起こったか理解できぬままに尻から着地でキョトン。
そして、それだけ吹っ飛ばしたのが、何があろう妾龍イリア その人。
本来ならばとてもそんな事をしそうにない聖女が・・・
だからこそ瞬間その狂行で、気付いた事は確信に

寧ろ、破壊神の巫女っぽいか?

破壊神の巫女

破壊神

 「皆さんっ、イリアさんへ攻撃をっ!!!」
元天使レイブンの悲鳴のわけを誰も理解出来ず、間に苦笑のタナトス
「レイブンさん、何を言って・・・」
 「貴方の好きな方に、意識無いとはいえ世界を滅ぼさせる罪を犯させる気ですかっ!!
今なら未だ、間に合うかもしれませんっ!! 彼女の破壊神が暴走するまえにっ!!」
っ!!?
見れば、イリアと呼ばれていた女性は幽鬼が如く立っていた。
俯き加減で髪に顔は隠れ、確かに其処に存在しているのに気配は感じない。
もはや疑いの余地はない。
「すみません、間違っていたら後で・・・」
「うっ・・・くそおおおおおっ!!!」
「仕方あるまい。許せとはいわんっ!!!」
 「・・・・・・」
アルの紅の魔弾が、タナトスの灼熱の閃光が、サブノックの悪魔光線が、
レイブンの破邪真空刃が、一見無防備な女へと襲い掛かる。
それでも、アル,タナトス,サブノックの攻撃が真部を狙っていないのは気遣い故だろう。
それも余波だけでも十二分に致命傷を与えられる攻撃なのだが・・・
レイブンは一切の手加減無く必殺。殺し恨まれる事になっても皆を護るため。
そして、戦聖女 妾龍は絶望的な爆発に包まれた。
 「ああぅ・・・」
也は少女とはいえ・・・見た目通りの成長をと遂げたとしても
大人であってもそんな理不尽を納得出来るわけがない。 しかし、それをするのが大人。
親友を己の親しい者達が討つ悲劇。 ラミアは混乱にオロオロするしかない。
一人成す術がないマリーが側で支えなければ、爆風で昏倒しそうなくらいに。
そして、風に爆煙は流れ・・・
 「イリアさんっ!!!  ・・・イリア・・・さん?」
現した影 無傷なイリアに、その意味分らず喜びの声をラミアが上げるのは罪ではない。
その意味、普通の人間が  普通でなくとも、その攻撃に無傷で耐えられるはずがない。
ましてや攻撃を受けた時、イリアはその対処を全く行っていなかったのだから。
それ故に驚愕せざる得ない皆々に対し、爆風で長い黒髪が後ろへ流されたイリアは
全くの無表情で異種生物な金色の龍眼。
最初に見た金色の龍眼は例え爬虫類的であっても人の情が確かに見えたというのに・・・
だからラミアも安堵の喜びから未知のモノに対する恐怖が帯び戸惑う。 と、
GAAAAAAAAAAAAA!!!
雄叫びを上げて空よりイリアの背後に堕ち、立つ熊のレッサーデーモン。
戸惑う皆々に、それは動くなと意を込め醜悪な笑みを向ける。
戸惑いの意味が人質を取られた故ではなく、手加減されたとはいえ猛攻を
無防備で無傷に耐えた・・・否、攻撃が受け付けなった存在が人質になるのか
という事を理解できるはずがない。
だから、見せ付けるように振り上げられた剛腕は狂爪を煌かせ振り下ろされ
斬っ!!!
と、音と共に凍る時。 それを、解除したのは ザクッ!! と音と共に
「うをっ!!?」
タナトスの目の前に落下突刺さった剛腕。黒髪が寄集まり生じた龍尾に斬断された。
その断面を超鋭利な刃物で斬ったように血管や筋肉を健在に蠢かせ・・・
GAa?
レッサーデーモンも目の前の異変に気付いたのだろう。
しかし、恐怖を知る前に揮われる龍腕で綺麗に唐竹割にされてしまった。
四肢が先から黒曜石の如き龍鱗に覆われて狂暴な龍のものと化し、
露出している肌にも刺青のような魔導回路に覆われた戦聖女 妾龍に。
否、もはや準備は整ったと破壊の意志が具現化された彼女は、破壊女神 妾龍。
そして、暴走起動
オオオオオオオオオ
レッサーデーモンが灰化に散る煙もあり、狂龍の形相で放たれるのが明白に分るのは
禍々しいほどに金色の闘気。 ・・・それが闘気と呼ばれるものの範疇に入るなら。
地の土砂を巻き上げ、砕くのではなく 燃やすのではなく、
無に還すのは、闘気などとは言わない・・・
それを分析して対抗出来る者と分かるのは、たった二人だけ。
神に準じたモノ。 そして今は、人として 人の意志をもって運命を退ける者。
「まさか、敵ではない者に対してこの力を使うことになろうとは・・・
しかし、イリア殿の身体で破壊神に世界を 家族を滅ぼさせるわけにもいかんっ!!!」
『陽強まればそれより生じる陰もまた栄えん。 天かける一条の光よ!我に力を!!!』
 「彼女を倒さねば・・・ 殺さねば、私たちは生き残れません」
「何でこんな事に・・・それでも・・・戦わなくちゃいけないのかっ!!!」
『力の螺旋、ここに束ねる。 我は汝、汝は我なり!天人融合!』
格違いの気配を放つ二人に、破壊女神は迷う事無くそちらへ歩みを進める。
獣みじた動きで緩やかに、獣ほどすら戦術のセの字すら見せることなく・・・
それを迎え撃つ二人に、友を気遣い手加減するほどの余裕は無かった。
 当人達の性分と違い卑怯ではあるが、破壊女神を挟み込んで連携に
破壊の神気を相殺のため、二人は闘気を纏わせた猛連斬撃を繰り出す。
しかし、破壊女神は元のイリアが有していた戦闘技術を見せる事なく手刀で弾き
・・・達した刃も龍鱗を貫くことが出来ず・・・
「「っ!!?」」
刃を無造作に龍鱗甲手で掴み、二人同士を叩き付ける。体勢を整えるため一時距離を取るが
 「アヒャッ!!!」
瞬間、天人アルの前にあるのは笑みとも怒りとも取れる表情の破壊女神の顔。
「くっ!!?」
聖魔の援護も間に合わず、揮われる龍腕に弾かれ殴られ龍尾で鞭打たれ、更なる追撃に
 破っ!!!
「ぐあああっ!!?」
と牙剥出しに放たれた咆哮は、正に竜の咆哮(ドラゴンブレス)の威力のままに
破壊の閃光(ブラスター)となって天人アルを包み込み・・・
 「・・・フシィ〜〜」
口から残滓の煙吐く狂気の破壊女神の前には必殺攻撃の術で相殺して辛うじて耐切り
身体から煙立ち昇らせて構え立つ天人アルが。 それも瞬後閃光を放ち
残されたのは力尽き地に伏すレイブンとアル。
そして破壊女神が滓に興味がないと双眸を向けるのは、もはや唯一残された力
聖魔サブノック。
暴大な力を前にして、力無き者が出来ることと言えば迫る運命を受入れるのみ。
それは、普通な人間の戦士であるマリー然り、魔導士のタナトス然り、
未だまだ若い戦士の幼い半悪魔ラミア然り。
と、静かな激戦の最中、不意に紡がれた旋律は その歌詞と合わせて哀しい。
「っ、こんな時に何をっ!!?」
その元は、ラミア嬢。
 「イリアさんに突き飛ばされた時、私は殺されていたかもしれませんでした。
・・・だから、私は信じませんっ!! イリアさんが破壊神だなんてっ!!」
 「あ・・・いや、だから何で歌うの?」
その剣幕にタナトス,マリーは疑問符。 それは御尤も。
 「イリアさんはこの世界を愛しています。
だから歌います。イリアさんが最も好きなこの歌を」
〜〜〜♪〜〜♪〜〜♪〜♪〜〜♪〜〜〜♪〜〜♪〜〜♪〜♪〜〜♪〜〜♪
それは本来、残酷な世に生まれてきた事を嘆く歌。
しかし、彼女はこの世の中が満更捨てたもんじゃない事を知り、故に好いていた。
そして、ラミアはそのことを良く知っている。(タナトスもそうだが、置いておいて)
だから謡うその歌は、彼女と同様に正に命の讃歌。 以上の、祈りが込められて。

 最凶の破壊神に立ち向かうのは今や聖魔のみ。
肉弾戦のみに、揮われる腕をを交し蹴りを防ぎ・・・黒龍翼を広げ空へ逃げても
スカートはためかせ暴龍脚で空駆り追い迫る攻撃。
異質な存在相手に、サブノックは劣勢で追い詰められ・・・それでも未だ無傷なのは
破壊女神が最凶ゆえにまともな戦技を用いないからだろう。
もっとも、その腕力は人のものに在らざぬ神威で驚異的に圧倒しているのだが。
「!!?」
と、不意に止る破壊女神。 その表情も憑き物が取れたかのように狂気が失せ・・・
それも一瞬で、着地の衝撃で再起動暴走に
 「ヒャッ!!」
地を蹴り跳んだ破壊女神はサブノックに切迫。しかし、先程と違い心なしか威は弱い。
違うのは・・・風間に聞こえる幼き歌。
「・・・戦っているのは我のみでは無かったっ!! ラミアも・・・イリア殿もっ!!!」
サブノックの一蹴で地に叩き付けられた破壊女神は、
己のダメージをも破壊したのか意もせず、生じたクレーターの縁に立つ。
其の頃には聖魔サブノックもまた地に降り立ち、構えていた。
「破壊神・・・否、イリア殿、これで全てを決しようぞ。 我が正義魂でっ!!!」
前に出された両甲手、身体から立ち昇る紅の闘気は生じる先から其処へ凝縮。
それが眩いばかりの光源となった時、腰溜に漆黒の甲体は紅の残像を残し撃出した。
破壊女神もまた、決着を悟ってか以上の黄金の神気を纏い龍腕振被って撃ち跳出す。
そして、激突で生じる爆発に二人は覆われ・・・
姿を現したサブノックは地に片膝付き、鎧は一部割れ砕けて鮮血に濡れ
兜も一部砕け欠けて覗かせるのは闘志失わずとも血滴らせるモノノフの顔と悲惨。
破壊女神は・・・全くの無傷の感で無表情に立ち、待機状態なのかのよう。
もはやマトモに対抗できる力は残されておらず、それでも
 「父上っ!!!」
「ラミア!!? 来るなっ!!」
皆の制止を振り切り父の制止も聞かず、少女は駆け寄り父を庇う。
束の間に再起動し歩み始めた破壊女神に、抗える者はいない。
 「ち、父上は、殺させませんっ!!!」
「・・・ぐ、無念。」
サブノックは自分が囮になっている間に逃げさせたいが、
己の娘がこの時ばかりは頑固に己の意志を貫くことぐらいわかる。
結局は死の運命から免れぬのかと、かかる影に最後の時を待つ・・・
・・・・・・・・・
が、
 「・・・・・・まだまだ、・・・終らんよ♪」
「イリア殿・・・」
 「イリアさん?」
父娘して見上げた其処には、未だ破壊神な龍人にも関らず微笑の表情が。
覚醒した破壊神に霧散したイリアの意志は、ラミアの歌によって紡ぎ治され
サブノックの正義魂の刺激で破壊神を退けて身体の主導権を取り戻したのだ。
だから、龍鱗に覆われた無骨に狂暴な手はラミアの頭を優しく撫で
「ありがとう ・・・んにゃ、ただいまって言うべきかな?」
戦聖女 妾龍へと戻ったイリアに跳びこんだラミアを優しく抱擁し抱締める腕は
狂暴な龍から、龍鱗は空へ溶けて人の女性の優しい肌のものへと変わっていくのだった。
そして、龍尾だった漆黒の長髪は解けて穏やかに風に舞う・・・


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