「聖魔VS妾龍」vol2


希望都市の王で起こった異変
それより一週間程度経った
・・・処は真龍騎公が危惧していた男が住む小さな村、ここにはまだ波乱の余波は届いていなかった・・


大国ハイデルベルク東部、樹海の村ニース
広い領土を持つこの国の中でもかなり特殊な地形にある村で周囲を森に囲まれている。
村の入り口まで林道を通らなければならずそれ故あまり人々が訪れることもなかった
何故そのような不便なところに村があるのかといえばニース村は元々希少鉱物である『樹命石』が盛んに取れた
採掘の町だったのだ。しかしそれも枯渇し現在のように小規模になってしまった
さらにその一件のせいで森の加護が弱くなったために魔物が住む危険な森になってしまったのだ
それでも村が消滅しないのはやはりそこに住む人にとっては故郷であるがためか・・
・・・だが最近になって新たに設立された自衛団により少しはこの村も安全になってきており
人の行き来も少しは賑わいを見せるようにはなってきた・・


「いくぞ!レイブン殿!」

「・・いつでも・・どうぞ」

ニース村の自衛団詰め所の裏側の広場、そこに一組の男女が対峙していた
昼過ぎの森林の村は風が涼しいがそこだけは妙な熱気が・・
黒銀の髪が美しき女性、レイブンは軽い白いドレスを着て、左腕にバックラー、右手に飾り気のないグラディウス持ち
バックラーを突き出すように構えている
対し赤黒い瞳に黒いザンバラ髪の男・・サブノックは成人男性の身長はあろうかという諸刃の大剣を持っている。
着ている物もビシっとしたコート姿で目つきからして・・悪人面
そして二人を距離を置いて見ている外野が数名・・座って観覧こそしているが得物を持っている
彼らこそこの村の守護者、そして今日もそのための鍛錬をしているのだ

「・・破っ!!!」

瞬間、サブノックが鋭い踏み込みとともに大剣を振り下ろす!
得物が大きい分太刀筋こそ単調だが速さは尋常ではない・・、そして彼から放たれるのは正しく覇気
手加減などは一切ない

「・・・、この踏み込み・・そこです!」

対し明らかに華奢なレイブン、豪快な一撃に真っ向から対峙し襲い掛かる巨刃に挑む・・
「ぬっ・・!?」
小さなバックラーでは到底受けきれるものではないのだが彼女はそのバックラーで剣の腹を叩き軌道を反らせた
振り下ろされる剣撃を見切り尚且つ自身に当たらないようにするその業は派手さはないものの一流の腕でなければ
到底できない

ドス・・!

軌道を反らされたサブノックの剣はそのまま当たることなく地を斬った・・、砂埃などは起こらずスッ・・っと巨刃が
地に滑り込んだのだ。それだけでも異様な鋭さが垣間見れる
しかしレイブンはそんな事お構いなしに隙を作ったサブノックに剣を振るう
サブノックはその一撃をしゃがんで回避したかと思うと握りを持ち替え剣を振り上げる。
地に刺さった剣がそう簡単に持ち上がるものではないのだが彼はそれをいとも簡単に振り上げ、レイブンへと放つ!
「・・・っ!!」
流石のレイブンもそこまでは予測できなかったのか大きく距離を開けてサブノックの一撃を回避した・・

「・・お見事、小生の一撃がこうも当たらぬとは・・。流石は天上でその名を轟かせた剣士・・」
「ふふっ、そういう貴方こそ・・剣の扱いがうまくなったようで・・。魂を受け継いだ効果は恐ろしいものですね」

にやりと笑う二人、それを見て呆然とする面々・・・・
「い・・・いやぁ、師匠もすごいがレイブンさんもすごいなぁ」
緋色の髪の青年タナトスが胡坐をかきながら二人の戦いに感心している
「タナトスさんももっと精進すべきです!」
彼の胡坐の中で彼に持たれながら観覧していた少女が凛々しく言う
黒いおかっぱな髪に顔つきも凛としており歳の割りにしっかりしているのがよくわかる
「ラミアちゃん、・・まぁ近接攻撃系魔術師な俺だからそれももっともだけどさ・・」
上を見上げてくるラミアにタナトスも頭を掻き笑うしかない
「まぁ、二人がいるから・・そこまで接近戦を想定しなくてもいいんじゃないかな?」
そんな話に隣で同じく見学していた碧の長髪をした男性・・アルが言う
黒いズボンに軽いシャツ姿、ひ弱そうな外見だがそれでも歴戦の戦士・・そして彼らを束ねる柱な男として成長した漢だ
「団長、後方援護って格好良くないじゃないですか?」
「ははっ、格好良い悪いなんかは関係ないよ。大事なのは誰一人として無事に勝利することだよ」
「・・流石はアル♪もう団長職が板についたね!」
アルの隣で寄り添う黒髪女性マリー、バンダナで髪をくくり後ろの髪を括っている
「ま・・まぁ僕もしっかりしないとね」
「・・お二人はいつでもラブラブで♪でもあんまり羽目を外すとレイブンさんのグラディウスが飛んできますよ〜?」
「・・・、タナトス君。茶化すのは勘弁してほしいんだけど・・」
焦るアル・・女性をはべらすには彼はまだまだ度胸が足らなかったり・・
そこへ得物を収めたレイブンとサブノックが近づいてきた
「お疲れ様です。・・私の剣がどうかしましたか?」
どうやら話は聞こえていなかった様子で・・
「え・・いやっ、別に何もないよ。でもレイブンって本当に強いな〜、刀も簡単に扱っていたし」
「剣というのはどれも基本的な扱いは同じです。それにこのスタイルも本当の私のスタイルではありません」
軽くグラディウスを叩いてレイブンが微笑む
それは彼にしか見せない素顔の彼女・・なのだがアルはそこんところは全くに・・
「・・そうなの?」
「ええっ、私は元々双剣をもっとも得意としておりましたので・・それも下界に下りる際に捨てましたので今となっては当時の得物も
どこにあるかわかりませんが・・」
元天使にして人に転生した経歴を持つレイブンだけに重みのある言葉、それにアルも顔をしかめる
「・・そんな顔をしないでくださいよ。さっ、汗を流したことですし少し休みますか。
・・・・・ですがサブノックさん。その剣の持ち主の遺言を果たしには行かないのですか?」
「・・小生もそろそろ参ろうと思っていたところだ。旅支度も整っているのだがな」
何やらためらっている様子のサブノック、以前武者修行の旅の途中で出会った老剣士にとある約束をし、それをまだ果たしていないのだ
その内容は彼の遺髪とともに自分が逝った事をとある男に伝えてほしいというもの。
彼にとっては未踏の地故にその人物を探すだけでも時間がかかるのは間違いない
「何か問題でもあるのですか?父上」
父であるサブノックの歯切れの悪さに娘のラミアも首をかしげる
「ぬ・・、まぁ、先日の修行で村を離れていた故・・またすぐ旅に出ればセリアが寂しがるかと思ってな・・」
正義馬鹿だけでなく彼も妻を大切に思う一人の男であった。
「師匠もラブラブですねぇ、幸せの絶頂ですか?」
「・・タナトス、茶化すな」
「ははっそれは失礼。・・じゃあこのくらいにしますか?」
「そうだね、今日の見回りは・・マリーとレイブンか。・・大丈夫?」
「問題ありませんよ。」
「そうそう♪大抵のことなら私達二人で解決しちゃうんだから♪」
自信たっぷりな女性陣にアルも一安心・・、油断は大敵だがマリーの言うとおり二人とも並の腕ではないために
十分信頼できてしまう
「じゃあお願いするよ、僕は・・詰め所で事務かな?セリアさんの書いた物もそろそろたまって来ているようだし・・サブノックは?」
「小生はラミアを鍛える・・無論、タナトスもな」
「日々これ精進です!」
「まぁ・・こういう事です。」
気合十分な正義漢衆・・タナトスだけはやや嫌そう。
別に鍛錬が嫌ではなく・・この親子の修行は途中で止めに入らないと限度を知らないのだ
でっ、その役目が決まって彼であり・・
「はははっ、まぁ・・がんばって・・」
苦笑いでタナトスを励ますアル、かくして自衛団は別行動を取る
・・すぐそこまで迫った怪異に気づくことなく・・・



・・・・・
ニース村周辺の森は正しく自然の宝庫、自然に倒れた木には苔が生い茂り足場はあるいが生命が溢れている
木々は生い茂っているが光は十分に差しており薄暗さは全くない
これだけを見れば魔物が現れる森とは到底思えない
「アルもたくましくなりましたね、レイブンさん」
悪路をものともせずに進むマリー、彼女はニースにて一番の古巣ゆえに森には一番強いのだ
「ええっ、団長など似合わないと本人は言っておりますが・・様になっていますね」
それに続くレイブン、丈夫な革のサンダルを履いており彼女もしっかりとした足取りだ
この女性達が二人っきりになると出るのは必ずアルの話題・・
「これで後はきちんと女性と向き合ってくれたら言う事ないんだけどなぁ・・」
「ふふ・・アルコールが入ると、逞しいのですがねぇ」
「・・あっ、レイブンさんも試しました?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながらレイブンに近づく・・、偶然見つけたアルの意外な一面・・
酒が入ると人が変わったように豹変し男らしくなるのだ
因みに最初にそれを見つけたのはマリーでその夜はエライ目にあったらしい
「ええ・・、少々乱暴でしたが・・素敵でした」
マリーに勧められて早速それを試したレイブン・・結果は大満足
二人はライバルながらにして仲が良く抜け駆けはしないのだ
「ねぇ♪記憶が全く残っていないのが残念だけど・・溜まってきたらあの手がいいですね♪」
・・アルさん、道具扱い。まぁ女性のお誘いにあたふたと逃げる彼も悪いのだが・・
「そう・・ですね。・・っ!?」
苦笑いのレイブンだったが一瞬にして表情が引き締まる・・
「・・何か・・いますね・・」
「・・ええ、それも突然・・気をつけたほうがいいですね・・」
魔物とはまた違った気配、例えるならばドス黒い闇のような気配・・
生死の狭間をかいくぐった女傑はそれを敏感に感じ取り警戒を強める

ガサ・・ガサガサ・・

「「・・・・・・・」」
確実に距離を狭めてくる『敵』、レイブンはグラディウスを抜きいつでも斬りかかれる姿勢に
マリーも腰に下げた二振りのショートソードを抜き逆手に持ち構える
徐々に近づく物音・・、それが不意に止まったかと思うと

ザッ!!

黒い物体が飛び掛ってきた!!
その瞬発力に咄嗟にレイブンが前に出てバックラーをかます・・
「くっ!このっ!」
物体はバックラーにぶつかったと思いきやそのまま跳躍し後ろへ下がった
レイブンも衝撃で数歩後ろへ下がったがよろめいたわけでもなくすぐにその姿を確認する
「これは・・レッサーデーモン!?」
レイブンへ飛び掛ったのは猿・・だったもの。
その姿は正しく異形・・表面の肉はむき出しになり腕の筋肉が異常に盛り上がっている
爪は全て鋭く伸び硬化しているのか刃物のように鈍く輝いている
そして瞳、不気味に赤黒い輝いており満ち溢れた憎悪と殺意が漂っている
「レイブンさん!?何なんです!?」
マリーにも見た事がない異形・・、その不気味さに思わずたじろいでしまう
「低級な悪魔です、動物に憑依融合し・・集団で襲い掛かる・・タチの悪い敵です」
「だ・・・だったらこの他にも!急いで村へ行かないと!」
慌てるマリー、それを察知したのかレッサーデーモンは凄い跳躍でマリーに飛び掛る!
「マリーさん!」
「きゃっ!・・そう簡単には当たらないよ!」
鋭く走る爪の一撃をギリギリで回避しそのままカウンターに剣を構え・・

ザグ!ザグ!・・ドガッ!

素早く切り刻み蹴り飛ばす・・、一人で森を守ってきただけあって彼女も身のこなしを活かした戦法を取ればひけをとらない
対し明らかに腕が肥大化しているゆえに身体のバランスが悪いレッサーデーモンはその蹴りを受けゴロゴロと転んでしまう
「胸を深く切った!・・これで・・・」
致命傷は与えたと確信するマリー、しかし・・
レッサーデーモンは静かに起き上がる・・マリーが与えた斬撃は嘘のように修復されており傷口がぼこぼこと波打っている
「・・嘘・・」
「通常の一撃ならば・・効果は薄いです!ここは・・私が!」
マリーを庇うように突っ込みだすレイブン、グラディウスが淡く輝き出し
反撃の隙も与えずレッサーデーモンに斬りかかる!

斬!

光の軌跡を描きながらレイブンの剣はレッサーデーモンを真っ二つに切断・・そのまま悪魔は光の粒子と化した
「・・レイブンさん・・?」
「悪魔を倒し方は天使が一番詳しいです。魔法の加護がある武器があれば対抗はできます」
「じゃあ、私には難しい・・ですね」
「ここは私に任せてください、魔力にも限度はありますが・・退路は作れます・・」
「・・お願いします・・」
唸るようなマリー、敵を倒しても気を抜かない二人・・
何故なら木々の枝に今倒した猿と同じ異形が群れを成してこちらを見ているからであった


・・一方・・

森の見回りで異形と遭遇した二人と刻を同じくして
ニースの村にも異形の集団は迫っていた
異変に察知したサブノックとラミアの働きにより住民は一番広い村長宅へ避難、
その入り口にタナトスが居座り強固な結界を張り防御に努めている
ゆえに迎撃に向かったのはサブノック、ラミア、アルの三人のみ
すでに周囲から魔物の襲撃を許してしまったゆえに広場の中央にて迎撃・・
「レッサーデーモン・・下等な輩なだけに数に頼るか!!」
斬馬刀を握り雄雄しく構えるサブノック、ギロリと周辺に睨みを利かせる
「このような村に襲い掛かるのは変ですよ!父上!」
父の背を守るために棍を構えるラミア・・それもただの棍ではなく先端に刃を仕込んでいる暗器ですでに刃を抜いている
特注の革の鎧を身に纏背中には小さな翼がパタパタと・・
「今までにないケースのようだ・・。しかし・・悪魔が早々出現するものなのか・・」
アルも前線に立ち静かに睨みを利かせている
弓士である以上に団長であり戦士である彼・・、
接近戦が未熟ゆえに一時はレイブンに近距離を守ってもらったが
そうは言っていられないと自身での体術で鍛えて、十分に戦えるようになった
その証拠として身に着けているのが鉄製の手甲・・、中に刃を仕込んでおり今はそれを展開している
身動きを重視した戦闘服に背には一番の相棒である魔弓『カストロススター』・・
腰には矢を携帯しておりいつでも本領を発揮できる
村に侵入したのは森で襲撃を受けた猿ではなく、狗に憑依したもの。
猿と同じく全身の肉はむき出しになり牙は鋭く俊敏さを増している。
何よりも一番の変化は片目が異常に大きく膨れてギョロギョロと周辺を
見ているのだ。これで視界を確保し隙を突いて集団で襲ってきている
さらには狡猾さが目立ち彼らの視界に入らないようにと物影に隠れたり様子を見たりと一気に仕掛けてこないのだ
それゆえ下手に身動きが取れない状態で彼らは広場にて出方を待つしかないような状況に・・
「くそっ!森にはレイブン達もいるんだ!こんなところで・・!!」
「アル殿!焦りは禁物だ!それにレイブン殿は元であるが天使・・悪魔相手なら我らで一番優れている」
「・・くっ、わかった!にしてもなんでいきなり・・」
唸るアル、そこを狙うようにレッサーデーモンが物陰から飛び掛ってくる!
「アル殿!」
「わかっている!!」
優れた動体視力を持つ彼だけに死角からの攻撃にも難なくついて行き下から刃で切り裂く・・
半身を斬られ地面を転がるレッサーデーモンだがすぐに再生が始まる
そこへ・・
「いきます!悪魔光線!!」
ラミアが腕を交差するとともにピンクな光線が放射されモロにレッサーデーモンを焼き払う
相当威力があるのか再生しかかった体は瞬時に溶け消えていった
「面倒な・・・、ここは小生が動く。二人は援護を・・・ぬっ!?」
駆け出そうとしたサブノックだが自分の顔に影が差し少し唸る
だが次の瞬間

ザク!!

空より高速落下した影・・、サブノックは咄嗟に飛びのいて何を逃れたのだが彼がいた地点には四つの翼を持つ鳥が・・
異常に鋭く尖った嘴が地に刺さっている。
「鳥にまで・・この!」
空振りに終わった怪鳥にラミアは槍を突き刺し魔力を込めて消滅させる・・
しかし空にはすでに今倒した鳥の群れが集まりだしており・・
「まずい・・。空の敵は僕が相手する!」
弓を取り出し矢を構えるアル、篭手より飛び出た刃が邪魔になるのだがアルはそれの腹を押さえ器用に中に収納した
「アル殿・・任せる!」
それとともにサブノックが駆け出す・・
サブノックの動きに狗達は敏感に反応し姿を見せる、それは承知の上で・・
「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!!!」
気合十分に斬馬刀を振り回す、まるで竜巻のような疾風が巻き起こるとともに彼に襲い掛かったレッサーデーモンは
真っ二つに切り裂かれ消滅する
聖魔と言われる漢が振るう剣だけにその威力は再生能力の高い異形さえも滅殺させたのだ
一方
「いけっ!」
空の怪鳥の相手をするアル、上を見上げる分狗達のいい的になってしまうのだがそこはラミアが寄せ付けなく鉄壁と化している
そして放たれるアルの矢。それは炎の魔弾と化して天へと向かう
人化の法を巡る旅にて一度は砕け散った魔弓カストロススターの炎晶石だが再び探し求め見事に復活を果たしたのだ
それだけではなく・・
「砕け!!」

ドォン!!

矢が突如爆発し怪鳥達を纏めて巻き込ませる。
「・・タナトス君に教わった炎の魔法が役に立ったか・・・」
攻撃にヴァリエーションを持たせるために日々訓練をしてきたアル、炎術を得意とするタナトスに学び
火を操る術を学んだのだ
しかし、元々それほどの知識がないために無から火を起こすことまではできないゆえに炎晶石により発火した矢を
応用し爆発を起こしたのだ
それは中々の威力にて爆炎が収まったかと思うとその空域に動く物は何もなかった
「これで村の中の敵は掃討できました。ひとまずは・・」
「安心するのは早いぞ、ラミア。森から邪気が溢れている・・第二波到来だ!」
ラミアの気を引き締めさせるサブノック、悪魔である身ゆえにその感覚は鋭い
「くそっ、魔力を消費する攻撃じゃないと倒せないのなら・・こうも数で攻められたらこちらがジリ貧だ・・」
「数には限りはあるが・・、この波状の進軍・・どこかで操っている者が・・?」
舌打ちをしながら周囲を警戒するサブノック、そこへ森から二人の女性が駆けてきた
「レイブン!マリー!無事だったか!?」
言うまでもなく自衛団の女性陣・・、息は少々上がってきているのだが傷などは負っていない様子だ
「大丈夫です!それよりもアル・・!融合を!」
切羽詰まっている様子のレイブン、その訳はすぐにわかった

ガサガサガサガサ・・・!!!

木々の向こうから真紅の瞳がこちらを睨んでいるのだ・・それも尋常ではない数・・
「こ・・こんなに!?わかった!いくよ!」
アルは慌てながらもレイブンの手を掴み目を閉じる

『力の螺旋、ここに束ねる
  我は汝、汝は我なり!天人融合!』

カッ!

レイブンがそう唱えた途端に眩い閃光が辺りを包み込む・・
それも一瞬の出来事で光が引いたと思うとそこにはレイブンの姿はなくアルだけが立っていた・・いやっ、浮いていた
背には六つの白炎翼が揺らめいておりギリギリのところで軽く浮いているのだ
これこそが二人の奥義・・、天使にしか使えない魔法にて限界以上の力を引き出す切り札なのだ
「融合は成功したけど・・多勢に無勢、どうする?」
『悪魔を倒すのには天使が一番適してます。そして天使にしか使えない魔法・・それは悪魔にとっては正に・・』
アルの頭に流れるレイブンの声・・そしてその魔法の仕組みが彼の頭に伝わってくる
「これは・・なるほど。わかった!」
『これはそう何度も使えません、今レッサーデーモンはこの村周辺に集中していますので・・一気に決めてください』
「・・わかった!

『天の願いここ集い、慈悲と共に飲みこまん
  愚者に安らぎの死を・・、送る鐘の音!』」

天使の輪を連想させる閃光の魔方陣がアルを包む・・
それとともに周囲が白一色に染まる
何もない『白』その中かすかに鐘の音が聞こえるがそれを確認する前に光は消えうせた
「・・レッサーデーモンは・・いなくなった?」
しばし呆然としていたマリー、つい先ほどまでこちらに迫ってきた悪魔が光とともに完全に消えたのだ
「ぬぅ・・気配が完全に消滅した。流石だ・・アル殿」
「僕の力・・じゃないよ。二人の力か・・でもレイブンの言う通り連発はできない魔法みたいだな・・くぅっ!」

カッ!

アルが唸ったと思うと再び閃光が走りそれが収まるとレイブンとアルが倒れていた
レイブンは全身汗だくで疲労しきっている
「・・はぁ・・はぁ・・、やはり・・戦闘後にやるものでは・・ないですね・・」
「だっ、大丈夫ですか?レイブンさん?」
「な・・何とか。魔力の消費が著しい魔法を使ったので少し疲労しただけですよ」
「もう・・心配させないでくださいよ!」
マリーは本当に心配なまなざしでレイブンを抱き起こす、アルもヘロヘロなのだが何とか立っている状況だ
「・・ふぅ。だが・・・とりあえずは一段落か・・」
「はい、ですが父上。この連中は一体・・」
「うむ・・・、解せんな。」
襲撃した悪魔達の事を考えるサブノック親子、
それよりも先にアルが・・
「とりあえず安全になったのならば結界は解こうか・・お〜い!タナトス君!もう大丈夫だ!!」
広場の向こう側にある村長宅へ声をかけるアル
階段を上がった先の玄関前に腰を下ろしているタナトスに言ったのだ
当の本人は今までずっと結界を張っておりジッと座ったまま・・
アルのその言葉に安心こそしたが・・

「・・こういう事態って・・魔術師は損だよな・・」

自分も活躍したかったと少しため息
まぁそれでも村民が無傷なことはすごく大事なことなのだが・・
「今解きますよ〜・・んっ!?」
結界を解こうとしたが・・それよりも早く村長宅を覆っていた紅い膜が消えた
広場の向こうの面々には彼が解いたように見えたのだが・・
「・・何だ・・?これは・・解呪!?」
強制的な結界の解除に慌てて再構築させようとするタナトス。
そこへ

ドォン!!

急に空から何か降ってきた・・
見れば階段の中腹にゾンビのような人間。眼球はなく肉は剥き出しだが
「ひゃ・・はひゃひゃひゃひゃ!!!」
耳障りな声を上げ笑いだす
「レッサーデーモン!?まだいたのか!」
奇襲にタナトスは焦る、自分のすぐ後ろには村民が非難している。相手を一撃で始末すれば一番いいのだが万が一相手に
攻撃を許せば被害が出るのは確実
重要な選択を一瞬で迫られた故にタナトスの反応が一瞬鈍った
その隙にレッサーデーモンは異形とかした手を翳しどす黒い魔方陣を展開した・・
「まずい・・!今こっちくんなって!!!」
どのような魔法か想像できないが自分の結界を解呪させたのはおそらくこの悪魔、故にロクでもないことはすぐにわかり結界を
再構築を急がせる
後ろではアルやサブノックがこちらに駆けつけてきているのだが術の発動を阻止するには間に合わない

(・・まずい・・・!!?)

中途半端な結界状況で防ぎきれるか・・危険な賭けに出ようとしたその瞬間!!


斬!!!

鋭い刃音が空を裂いた・・
「・・えっ・・?」
「ひゃひゃ・・・ひゃ・・?あ・・ああ?」
見ればレッサーデーモンの体が袈裟状に少しズレている
当の本人も何が何だかわからない様子・・発動しかけの魔法もそのままに首をかしげているが・・

”失せろ・・”

女性の声がしたかと思うと次の瞬間その異形は光の粒子と化して破裂した・・
「・・な・・何が・・・」
”もうちょっと警戒すべきだぜ。俺が助けなかったらやばかっただろ?”
唖然とするタナトス、レッサーデーモンがいた地点には一人のマント姿の女性が立っていたのだ
黒い髪が特徴、背は高いが華奢だというのはすぐにわかる
そして・・この村の人間でもないこともすぐにわかる
「あ・・ああ・・すまない・・」
「まっ、危険な状態でも逃げ出さずに結界に集中したのは感心できるがな(二コリ)」
マントから見せる顔は正しく美女のそれ、さわやかに笑ってみせている
「・・!?(ドキン!)」
そんな女性にタナトス青年、純な胸を直撃・・
「まっ、それは言いとしてだ。・・おい!お前がサブノックとアルだな!」
振り返った先には同じく如何していいかわからない男二人が呆然としていた
「え・・ああ・・そうだけど・・貴方は・・」
「俺はイリア、真龍騎公の使いだ」
「???」「なんと!?」
片や誰それ?っと間抜け面になる男、片や珍しく仰天する漢
そんな二人の光景を見ながらもイリアと名乗る女性は涼しげに笑うだけだった


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