聖魔VS妾龍vol1


二方を山に囲まれ二方を平原に囲まれた温暖湿潤な都市、その街外れ霧が遮る森の中の道を
独り裏家業風冒険者の男が確実に歩みを進めていた。目指す先には知る人ぞ知る「屋敷」。
一体目的は何なのか・・・それでも一歩一歩と地を踏み進み、おぼろげに視界に入る屋敷。
同時にそれは屋敷からも男の存在が確認出来ることを意味する。
だから、屋敷から駆けて来る一匹の白犬 もとい、銀狼は男の前で警戒に構え一吠え。
 「ワンっ!!!」何用っ!!!
「・・・・・・」
見かけと違い男の表情は何処か病的に虚ろで・・・否、正しく瀕死な重病人のそれ。
そして銀狼の存在に気が抜けたか、男はゆっくりと倒れ
 「っ!!?」
まさか自分が吠えたせいで男が倒れたかと銀狼は屋敷へ走り返るのだった。
暫く後、駆ける銀狼に続く青年と肩車された幼女、白衣に旗袍服姿の妖艶嬢。
別に銀狼は叱られると思って逃げたわけではなく、状況の判断が出来る者を
呼びに帰っただけである。念のため。
それはさて置き、白衣を着ているだけあって妖艶嬢の指示で青年が男を仰向けにさせ
手際よく診察。その結果はお手上げに
 「ダメね。衰弱しきっちゃってるわ。何を如何したらこんなに・・・」
「・・・・・・」
それでも青年は少し手も苦痛を和らげようと無駄な行為と解りながら
男の心に手を沿え仄かに燐光を纏いながら気を送り込む。
男が行き倒れならばこんな所まで来ることなく街で事がすんでしまっているだろう。
それが瀕死になりながらもココにいるということは、何らかの目的 
救いを求めているということ。命を賭けてまでして。
そんな者を無碍にあしらう青年ではない。 そして、ゆっくり開く男の瞼。
「・・・、無理するな。休め」
「・・・・・・、ライ殿、お願いしま・・・ぐ・・・げぼっ!!?」
 「退けっ!!?」
当初は穏やかであった男は断末に目を見開き跳ねる体。
そして、男の口から噴水の如く吐き出された銀色の液体は
瞬前、青年 ライと妖艶嬢のいたところに吹きかかっていた。
残されるのは、命の抜けた躯と・・・
もし二人の後ろで控えていた幼嬢が魔導で男を観測し指示しなければ、あるいは。
「・・・・・・善意に付け込まれた罠か、偶然か」
 「さあナ。どちらにしろ今覗くからまってろ。
あと、ソレには触れるなヨ。私の記憶が確かなら、ソレは・・・」
「何だ?」
 「                       
神の毒。そして、その男は善意の協力者で
コレは偶然・・・ンニャ、起こるべくして起こったか?」
死者の記憶を暴くという冒涜。それを禁忌とせず幼嬢が覗き語る死者の願い。
遠国で悪魔崇拝者が悪魔に神の毒を用いて世界を滅ぼそうという
普通ならば如何しても確実に一笑にふされてしまうこの事実を、この男は
証拠を己の身体に収めて態々ここまで持ってきた。
マジメに話を聞いてくれるだろう最も御節介な王 真龍騎公ライへ。
何故なら、その人の良さ故にこの都市国家は存在し、男はそれを知っていたから。
その想いを聞いても真龍騎公ライは表情一つ変えることなく話を促す。
「で、神の毒ってのは?」
 「ぶっちゃけ、モノの本性を露にする毒だナ。それは神に対してですら」
「それで「神の毒」ってのは・・・」
 「本性の露にされたモノの行き着く先なんざ凡そ滅亡だからナ。
神なんぞ創造であれ破壊であれアレを喰らった日にゃ己に破綻を来して滅んでしまう。
だから、「神の毒」っというわけだナ。違って世界も巻き込むが・・・」
「そりゃ・・・中々迷惑な代物で。 ・・・「神の毒」を使われる悪魔か」
ライの脳裏にのは浮かぶのはある一人の男 否、聖魔と呼ばれる悪魔。
 「・・・でも、この人が元住人でも他所で起こるか解らないイイ加減な事に
如何するのぉ? 態々使者を送るわけにもいかないわよねぇ・・・」
妖艶嬢も同じことを考えていたのか代弁してくれる。
寧ろ、その経歴だけに国家間のプライド的云々な話ならば十八番である。
「・・・だよな〜〜。如何するかな〜〜。 ・・・・・・動いてもらうか、彼女に」
 「彼女・・・か。マァ、妥当だナ」
 「彼女って・・・彼女ぉっ!!?」
「彼女」の正体を知るライと幼嬢は当然の如く「彼女」を思い浮かべ、
妖艶嬢は間を置き嘗て己の為に現れた「彼女」へ思い当たり驚愕するのだった。
人知れず起こる世界の危機の予感と共に・・・


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