chspter6  「旅日の休日」


真龍騎公の屋敷は都市より離れた場所に建てられていた。
質実剛健な外見にセリアも息を呑む。
「いきなり客人泊めるったって用意できるかな〜?」
「二人分くらい何とかなりますよ。ヒルデさんもいますし」
「それもそだな」
ライに応える金髪の女性。その傍を歩く男性は先ほどから黙ったままでサブノックを見ている・・
「そういえばこちらのお二方は?」
まだ自己紹介してないのに気づきライにたずねる
「ああっ、そういやまだだったな。こっちがリオ、そっちがアレス
両方ともうちの家族さ」
指差しながら簡単に説明・・
「リオ=クラウスです」
「アレス=ルバートです」
手短に挨拶する二人。リオは優しく言うがアレスも笑いこそしないが丁寧に言う
「小生はサブノック。これは妻のセリア=エルモアだ」
「セリアです〜よろしく。でっ、お二人は付き合ってるの?」
いきなり変な質問しだすセリア
「こっ、こらセリア。いきなり何を・・」
「だって何だか二人一緒ですから〜。気になるじゃないですか?」
「ボソボソ・・(どう応えようアレス君・・?)」
「ボソボソ(リオに任せるよ・・)」
・・その態度がすでに解答になっているのだが・・

しばし世間話をしていたがやがて一行は屋敷の中の執務室に通された。
「じゃあアレスとリオはちびっこ使って部屋の用意をしてくれ」
ライが手短にお願いすると早速二人は退室していった。
かわって資料が沢山陳列する部屋の中には一人の女性が・・
スーツを身にまといおダンゴ頭に眼鏡をしていていかにもキャリアな
女性だ
「・・おかえりなさい。ライ」
「ああっ、この二人はお客人。この間言っていた悪魔だよ」
「・・はぁ」
黒狩犬と妊婦を見ていささか唖然とする秘書風の女性
「小生はサブノック、こちらが妻のセリアだ。しばらく厄介になります」
ぺこりと頭を下げるサブノック
「・・この方の補佐を勤めているレイハと申します。ご不自由な点が
ありましたらなんなりと私にお申し付け下さい」
落ちつき事務的な態度で接するレイハ・・

それからライの先導で屋敷を案内・・
この屋敷の住人は実に個性的で
やたら横暴なゴスロリ少女、寡黙な黒猫の女性、派手な服装の金髪薬師など
特徴のあるメンバーが揃っている
全員犬がしゃべってるのに全く動じず軽く挨拶をすませそのまま自分の
作業に戻っていった・・
「・・まっ、こんな連中だ。別に害はないから・・」
「さようか・・」
「それはいいとしてサブノックは人間には変身できないのか?
その犬姿は借りのモノなんだろ?」
「そういえばサブノック様は人間の姿にはなりませんね?」
妻も知らぬ様子だ・・
「・・実はできぬのだ。本来の形状と非常に似ているからな。
何度か試したがどうしても本来の姿になってしまう」
「ふぅん・・。じゃあ何で狩犬の姿にしてるんだ?」
「趣味だ」
「そ、そうか・・。なんか犬相手だとしゃべりづらいが・・・・・、まぁ耐えられなくなったらあいつに頼もうか・・」
「はっ?」
「いやっ、何でもない。さっ、くつろいでくれよ。そろそろ部屋の準備も
できているだろう」

執務室を出ようとするとそこに一匹の銀狼が入ってきた・・
「わう・・ワン?」 貴方は・・、サブノックさん?
「がう・・ガウガウ」 たしか・・、ルナ殿だったか・・、ここに住んでいたのか
「ワン!!」 そうだよ!貴方はどうしてここに来たの・・?
「がう・・がうがう」 まぁ・・、色々あってな・・
「ルナ・・、いきなり話し出したりしてどうしたんだ?」
一緒に入ってきた金髪の少年が銀狼に話しかける
「うふふっ、ワンコの話がわかるなんてかわいい子ね、僕♪」
「あ〜、ライさん・・?」
なにやら困った様子の少年
「・・まぁ、客人だしいつかばれるからな・・」
「ルナ、この人達に見せてあげなよ?」

「わう!!」 わかった!

ピカ―っと閃光を発した後に姿を見せたのは銀髪の少女・・、
狼が着けていたリボンをそのまま着けている
「わん!!私 ルナ!! 貴方 セリア?」
「ええっ、そうだけど・・。何で知っているの?」
「サブノック 聞いた!」
嬉しそうに応える少女ルナ
「むっ・・、こんな少女にも変身できるとは・・」
人間形態になれないことにさらに負い目を感じるサブノック・・
「でっ、どうしたんだ?ディ」
「ええっ、サブノックさんたちの部屋の準備ができたので報告に・・」
「んっ、わかった。そういうわけだ。ディの案内にしたがってくれ」
「承知した。頼み申すディ殿」
「いや、そんなにかしこまらなくてもいいですよ。さっ、行こうルナ」
「あっ、その前にルナちゃん」
いきなりセリアが話しかける
「わう?」
「ワンコに戻ってよ・・・?出来る?」
「わん!」

ピカ―っと輝き狼形態に・・

「きゃー!可愛い!!!!さあ!行きましょう!」
「わん!わん!!」 
銀狼を抱っこしながらご満悦なセリア
犬が大好きなのか・・?
「ルナちゃんバター好き?」
「わう?」
「やめなさい・・・・」


サブノック、セリア夫妻が屋敷の一室に世話になって数日・・
真龍騎公に会いたがっていたセリアも少しは落ち着きのんびりと
毎日が進行する・・
「あらっ?サブノック様どちらへ・・?」
部屋から出ていこうとするサブノックにセリア
「ああっ、なにやらライ殿が呼んでいたのでな。少し行って来る」
「わかりました、早く戻ってきて胎教の続きをしましょう♪」
早いか否か、この夫婦は大きくなった腹に向かって「正義魂」を
注入している・・。腹の中の子供もさぞ迷惑だろう・・
「ここの人達って変わっているわね〜」
部屋の中に残されたセリアがお腹の子に話しかける・・
「あなたも早くお父様みたくかっこいい戦士になってね〜♪」
どちらにせよとんでもない子になるのは間違い無さそう・・・・・
穏やかな日差しの中お腹をポンポン叩くセリア


「正直、犬な姿の相手に会話は凄く疲れるわけだ。
悪魔姿だとちょっと棘々しくて危なっかしいしな」
「も、申し訳ない、ライ殿。小生が人姿になれぬばかりに・・・」
「いやいや、これは単に俺の我侭なだけだしな。サブノックが謝る事じゃない。
だから、こう何かいい方法はないか? ぶっちゃけ簡単に人の姿に化けるよう」
と、一見ロリ少女なルーの前で黒狩犬と男が雁首並べ。
 「御主、珍客を連れて来たと思えば・・・挙句に、人に化けさせろ、と?」
「やっぱ、ちょっと無茶な話だったか・・・」
「・・・・・・」
 「出来るぞ。簡単に」
「「!!?」」
 「チョイ、待ってろ」
と、居間に二人を残して外見からは想像出来ないほど凄い魔導師なルーは行ってしまった。
普通 人が動物と会話する事など有得ないわけで、それでも意思疎通している人達は
動物の些細な表情,仕草,声などから その意思を読み取っているわけである。
まぁ、中には本当に会話している奴もいるが・・・そんな電波さんはさて置き
それを動物の方から人語を話されると、そうと分かっていても違和感バリバリ。
如何しても混乱してしまう。時間をかければ慣れる事なのだが、その時間すら惜しく
 「できたゾ〜〜〜」
「「はやっ!!?」」
早々に、ルーが持ってきたのは銀な腕輪。
 「犬に腕輪は付けられんからな、一旦悪魔へ化けれ」
「うむ、心得た」
一言、黒猟犬は閃光を発し・・・おさまると其処には
顔見えぬ兜に赤の眼光,背には漆黒の翼で禍々しい鎧姿な悪魔。
普通なら見ただけで怯モノだが、面々には今更。
ルーは平然と甲な手首にカチッっと腕輪を装着。すると
「うっ・・・」
腕輪から出た光が伝い、悪魔な身体を覆い始めた。
流石に気持ち悪いのか顔をゆがめるサブノック。 だが、苦痛があるわけでもなく
如何しようもない内に光は身体の殆どを覆ってしまい、完全に覆われ・・・瞬後
散る光の中から現れたのは、一人の青年。年の頃や背丈はライ達と同様。
性格そのまま精悍な面構えに黒赤な瞳の三白眼でザンバラな黒髪の燻銀系熱血漢。
そして、その身体は戦士な感に無駄なく鍛えられ・・・
「しょ、小生に何処か変な処が・・・(汗」
 「イヤイヤ。 ・・・中々に偉丈夫だナ」
「ほぅ・・・上手く化けさせたもんだ」
 「ナニ、単に悪魔な要素を人のソレに変換したまで。 つまり
コヤツは悪魔でも中々に偉丈夫だということだナ。 犬でも・・・」
「何であれ、これで話しやすくなったわけだ。
服、俺のを貸すから嫁さんにその姿見せてこいよ」
「小生のために・・・かたじけない」
何故か感極まりグッとなる男サブノック。感じから想像出来たが、ちょっと・・・
ライの使っていない作務衣をもらい 武士な感な彼はその愛妻へその姿を見せへ。
サブノックの人化は無事に済んだかのように思われた。


パタパタ
不意に足音が近づく・・

ガチャ

入ってきたのは見知らぬ男、精悍な面構えに黒赤な瞳の三白眼で
ザンバラな黒髪・・・
「あの・・、どちら様ですか?」
「小生だ」
見知らぬ男性が聞きなれた声を発する
「・・サブノック様?」
「うむっ、ルー殿が作った腕輪で人間の姿になれた」
「・・・・・」
「どうした・・?やはり変か?」
「きゃーー!!サブノック様かっこいいーーー!!」
いきなり抱きより頬を引っ張ったり髪を引っ張ったり・・・
「こっこらっ、止めなさい・・・!」
「すっごい男前ですよ♪」
「そっ、そうか・・?」
照れ気味の夫に誉める妻
「でもどうしたんです?人間にはなれないってことでしたのに・・」
「うむっ、ライ殿が話にくいということでルー殿に頼んでこの腕輪を作ったのだ」
腕にしてある銀の腕輪を見せる
「へぇ、でもよかったじゃないですか!これを機に『小生』から『私』に
変えたらどうです?」
「むっ・・、小生ではだめなのか?」
「なんだか古臭いですよ〜。」
「わっ、わかった。考えてみよう・・」
上機嫌の妻に嬉しげなサブノック
「じゃあ一旦犬に戻ってください。夜は・・、犬のほうがいいので・・」
「・・あ・・・ああ」
セリアの趣味にいつもながら唖然とするサブノック
「ではっ・・・・、んっ・・?」
魔力で犬形態へ変身する・・・、
がっ、何も起きない・・・
「・・・・・・・・サブノック様?」
「・・何かおかしい。変身できない・・」
「ええっ!じゃあ本来の姿にもできないのですか!?」
「やってみよう・・・とぅ!!」
・・・・・シーン・・・・
ポーズを決めるが何も起こらない
「・・・その腕輪のせいじゃないですか?」
「むっ・・・、一旦外してみよう」
ガチャガチャといらうが・・・
「・・はっ、外せない!?何故だ!?ルー殿に聞いてくる!」

慌て返って来るや否や開口一番、
「ルー殿、小生、元に姿に戻る事が出来ず・・・コレが外せませぬっ!!」
茶で寛ぐ幼女の目前に突き出した拳。その腕輪をガチャガチャといじる。
 「・・・あ〜〜〜、多分、それ、お前自身じゃはずせんゾ」
「!!?(ガーン」
 「元々、悪魔を捕らえ無力化する呪を転用したモノだからナ。
もっとも奴にゃクソ役にも立なんだが・・・お前、弱いナァ 悪魔として」
「!!?(ガーン」
魔導派からしてみればその系で見れば武闘派は歯牙にもかけないほど弱い。
その事に気付かず、モロにショックを受け膝間着く
 「カッカッカッ、力が返して欲しいなら嫁に頭下げて外してもらうんだナ(パシパシ」
ご機嫌にルーは行ってしまった。
サブノック、何故か完敗の味を知る昼下がり・・・

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