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第十一話  「白狐乱舞」



クロムウェル達が庭園にて敵の周囲を引き付けている間、シトゥラとスクルトは全速力で館内を駆けていた


「・・シッ!!」


縦横無尽に駆けるシトゥラ、その刃に一切の慈悲はなくうろたえるゴロツキを切り払っていく

彼女と同じくらい気合に満ちていたスクルトであったがこの力量の違いに出番はほとんどない

(副隊長・・本気で怒っている・・)

普段は温和なシトゥラの冷酷な動きにスクルトは思わず生唾を飲み込む

絆が強い白狐族、それゆえに一族の一人の危機は全員の危機と感じているのであろう

広いとは言えない通路、迎え撃つゴロツキ達は多少腕に自信があるようだが手にする得物からして勝負が見えている

彼らの大半はロングソードか両刃のアックス、傭兵崩れには相応しい武器でありクロムウェル達が

外で蹴散らしている輩と同じく全て白銀を使用したと思われる逸品。

しかしそれらは室内、しかも広いとは言えない廊下で戦闘を行うには不向きである

それに対しシトゥラが持つは獣骨と永久凍土を使用して加工した白狐独特の2対の骨短剣。

リーチこそ短いもののいかなる場所でも最大限活用できる長さ、

加えてそれを扱う獣人は自然界と人界、その両方で戦い抜けてきた一流の戦士。

結果は最初から見えておりシトゥラは何のためらいもなく手に持つ骨の刃にて相手を切り裂いた

相手に対して全くの容赦はない・・、獲物を狩る狩人に情けなどはないのだ

「・・スクルト、遅れているぞ」

全く息を切らしていないシトゥラが軽く振り向きスクルトに言う

「すみません・・」

「これは訓練などではない、隙を見せれば自身が傷つく。私より早く敵を仕留めるつもりでいろ」

厳しいシトゥラの声にグゥの音も出ないスクルト

彼にとっては本格的な戦闘は今回が初めて、しかもその相手は自然界にいる魔物などではなく人間

多少の怯みはあろうものなのだがそれ以上にシトゥラの気迫に飲み込まれているのだ

だが彼の目的はシトゥラの後ろに付き戦闘の見学をしにきたわけではない

深く深呼吸をし静かに目を閉じるスクルト、精神を集中した後再び開眼したその顔つきは戦士の物へと変わっていた

その時・・


ドォン!


まるで地震でも起こったかの如く館の壁が揺れる。

天上より塵が舞うのだが流石に丈夫な館だけに軋む音がすれども崩壊する様子はない

「・・ふっ、館が丈夫なのかフィートの力加減が絶妙なのか・・。」

的確な援護に思わずシトゥラの顔がほころぶ、が緊張が解けた訳ではない

「それで・・副隊長、クロムウェルさんと打ち合わせしていましたが・・ツェーラは一体どこに囚われているのですか?

これだけ広いと探すのが・・」

「何、お前は下界の生活が浅いからわからんだろうが・・こういう輩が取る行動なんぞ大抵統一されているものだ。

それに鼻を活かせ・・、いくら悪臭がする輩の相手をしているとは言えお前は私よりもツェーラの匂いを知っているはずだ」

「わ・・わかりました・・。えっと・・・あっ、こっちですね!」

「・・正解だ。いくぞ・・!」

スクルトの頭を優しく撫でシトゥラは再び駆け出し、彼もまた同族の身を案じ風となりその後に続いた


・・・・・・・・・・


二人が感じたツェーラの匂い、そしてシトゥラが学んだ貴族犯罪の心臓部は見事に一致した

それは地下室、こうした館には悪事をするためなのかそうでないのか、必ず地下に広大な空間が存在している。

大抵の場合、表向きはワイナリーとされているのだがここはどうやら武器倉庫として扱われていたらしく地下に続く階段の壁には

装飾剣などが飾られ槍が束になって壁にもたれていた。

そして二人の読みが正しかったかの如く今までと少し違った黒いスーツ姿の男達と

少しうろたえている軟弱そうな貴族がシトゥラと鉢合わせになった

「ツェーラはすぐそこだ・・!」

キッと問答無用に加速を強め、階段を滑るように駆けながら男達に接近し・・


斬!


瞬く間に全員切り払った。スクルトに戦闘に参加するように指示をしているのだがこれでは彼に出番がないのも無理はない

「・・副隊長・・、里にいた頃とは少し・・戦い方が変わっていませんか?」

「ん・・?ふむ、スクイードと共に過ごすようになってから少し突っ込むようになったか・・、彼の影響・・だな」

白狐の戦いは避ける戦い、防具をつけないシトゥラは一撃必殺を心得え風のように駆ける戦法を得意としている

しかしスクイードとともに行動するに当たり彼の後に続く機会が増えたために以前よりもより突っ込むような戦いが体に染み込んでいるらしい

スクイードは丈夫な配給鎧と気合で多少傷つきながらも突貫しており、シトゥラはスクイードのすぐ後ろにつきながら援護を行う。

突っ込み癖が災いをしているスクイードに対してシトゥラには技量もあるために積極的に突っ込む戦いというのはプラスに働いているのだ

「スクイードさんの・・・影響・・」

「そんな事より急ぐぞ・・、ツェーラの体を穢されない内に・・な」

「は、はい!」

静かに微笑みながらシトゥラは階段を降りた先にある鉄板で出来た扉に対し勢い良く突っ込む。

迷いなどは無く心技体全て揃った渾身の突きは骨の剣でありながらも鉄を突き破り吹き飛ばした

一流の戦士という者は不可能を可能にさせる力を持つ・・

そしてその先には・・

「ツェーラ!!」

全裸のまま両手拘束され吊るされるツェーラの姿が・・

殺風景な地下室には天上より拘束され体を曝け出してまま眠る獣人女性が数人おりその中でツェーラも気絶していた

「・・なっ、もうここが・・!」

そんな中、急ぎ鞄に書類を詰め込むモヤシのように細く不健康そうな顔色の男が・・

「ジョージア=ザン=ラベンティーニだな、我が同族に危害を加えた罪・・その身で償ってもらおう・・」

「くぅ・・よもやここまで対応が早いとは・・おい!」

彼を取り巻く黒服の男が剣を取りシトゥラに襲い掛かる!

「舐められたものだ・・!」

キッと睨みをきかした途端シトゥラの体は瞬時に消え、次の瞬間に男達は襲い掛かる姿勢のまま前のめりに倒れ

女性を拘束していた鎖を切断し、解放させた。

正しく一瞬の芸当・・

だが一瞬にラベンティーニは姿を晦ました・・

部屋にはシトゥラが入ってきた入り口しかないのだが・・

「隠し扉だ・・!私は奴を追う!スクルトはツェーラの保護だ!」

「りょ・・了解です!」

返事を待たずしてシトゥラは駆け出しさっきラベンティーニがいた壁に突っ込む、

するとその付近の岩壁は一つの板状に切られており返し戸の要領で隠し通路が姿を見せた

罠の可能性もあるのだがそんな事気にせずシトゥラは一気に標的に向けて駆け出した・・・


「・・え・・っと、ツェーラ!ツェーラ!」


一人薄暗い地下室に取り残されたスクルト、周辺の女性達を介抱するよりも先に眠りこけるツェーラの元に近寄る

「う・・ん・・あ・・」

ぼやけながらも目を醒ますツェーラ、すぐそこにスクルトの顔があるのに呆然と彼を見つめ続けている

「ツェーラ!大丈夫!?」

「ス・・クルト・・?」

「ああ!僕だ!大丈夫かい!」

「私・・、あ・・そういえば・・変な男達に・・連れ攫われて・・」

「そうだよ、だから僕が助けにきたんだ!」

『僕達が・・』と言わないのは彼なりの見栄なのかそれとも慌てているだけなのか・・

それに対しツェーラは静かに微笑む

「流石、スクルトね。成人の儀を乗り越えただけあるわ」

「ああ、さぁ立って・・。クロムウェルさんやシトゥラ副隊長が暴れているんだ。皆にツェーラの無事を知らせないと!」

ツェーラの両手の自由を奪う鎖を切り払いながらスクルトは鼻息を荒くする。

全裸の女性が多数寝転がっているのだがそんな事気にしてもいられない

「もう、こんな時ぐらい優しく・・」

それに対しツェーラは潮らしい事を呟きスクルトが凍りついた・・


だがその時・・


ドォン!と大きな破壊音と共にシトゥラが駆けて行った隠し通路のある壁が崩落する・・

それと同時にノソノソと地下室に入り姿を見せるは熊型の魔獣、首が二つあり一つは熊、一つは獅子の物となり

どう見ても自然の産物とは思えない

そしてその異形はスクルトに視線を合わせる。

四つの瞳が一人の狐人とそれを見た途端に部屋中が揺さぶられる咆哮を上げた!

「・・ちっ!僕を餌とでも思っているのかな!?

ツェーラ!今の咆哮で他の女の子が目を醒ます!暴れていたら被害を受けちゃうから幻術で眠らせて!」

「わ、わかったわ!スクルトは・・」

「僕があの変な獣を倒す!武器がないツェーラはそこで皆を守って!」

「スクルト・・、わかったわ!」

危機に陥りながらも凛々しく活路を見出そうとするスクルトにツェーラは静かに微笑みながら事態を把握できず呆然としながら

目を醒ます女性達を再び夢の世界に誘う作業に取り掛かった

「さぁこい!僕が相手だ!」

振るう刃は骨の剣、相手は人の造りし狂気の兵

だが彼は怯まない、後ろにはツェーラだけでなくか弱き女の子が無謀な状況でいるのだ

意を決し高速で駆け合成された獣をかく乱させる、

瞳が四つあり獲物を捉えていようとスクルトの速さにはついていけず死角ができる、

そこをスクルトは狙い死角となった熊の首に刃を走らせる!


ズブ・・・


手ごたえはある・・だが、鋭く放った一撃は合成獣の皮膚を切った途端に勢いを殺される

「な・・んだ!?これ・・!」

異様な手ごたえに一瞬立ち止まる・・、だが次の瞬間すかさず反撃をする合成獣・・

骨も軽く切断しそうな巨大な爪を振りかざし目で見えずとも感覚で払いのける!

「・・!?うあ・・!」

凄まじい風圧を肌に感じながら急いで飛びのく・・、流石に反応は良く呆気をとられながらもギリギリでそれを回避した

距離を置いた瞬間にスクルトがこの獣に与えた傷は自然に塞がっていきジュクジュクと嫌な音を奏でた

「な・・なんなんだ!?こいつ・・!」

余りに早い再生力に呆気を取られるスクルト・・

「・・気をつけて、スクルト・・!どうやらこいつの体は刃が通しにくい上に再生能力が高いみたいよ!」

「ツェーラ・・、確かにそうみたいだね。おまけに目の動きが遅い割には良い反応をする・・

僕達には相性が悪いみたいだね」

「スクルト、剣を貸しなさい!ここは私が・・」

すっ裸でも全く気にせず・・、スクルトの援護を行おうとするのだが・・

「ダメだ、ここは僕が何とかする!」

「スクルト!」

「・・ツェーラ、僕だってもう白狐の戦士なんだ。大切な人を守れないなんて戦士じゃない・・そうだろう?」

「・・ス・・スクルト・・」

「何とかする!たぁぁぁ!!」

気合とともに幻術を使用しながら高速で飛び交うスクルト!

幻影が映し出す彼の姿に合成獣は完全に翻弄される

それを狙い・・


斬!斬!斬!!


残像と共に斬る!斬る!斬る!!刃の通りが悪い分斬る動作の途中で

彼の姿が見えてしまうのだがそれを除けば視界に捉えるのが困難なほど・・

「ガァァァァァァ!!」

それに対しスクルトの攻撃をまともに浴び奇声を上げる合成獣・・

だがそれは切り刻まれる痛みからではなく自分の攻撃が当たらない苛立ちによるもの・・。

スクルトの一撃はそれなりに深く切りつけられているのだが再生力がそれを上回りきりつけては回復し斬りつけては回復しの繰り返す

それの繰り返しで戦いは平行線を辿り続けている

だが・・

「・・くっ、そ・・」

攻撃を止め後退するスクルト、息が上がっており動きに翳りが出だした

「スクルト!」

「幻術の使いすぎと・・少し、実戦で緊張しちゃったみたいだ・・。だけど・・僕は・・!」

「もういいから!剣を渡しなさい!」

「嫌だ!僕は・・僕が・・君を守る!」

「スクルト・・」

彼の意志の強さに言葉を失う・・

「僕は・・君のおかげで戦士に慣れた。でも・・君の気持ちには気付かなかった未熟者だ。

だから・・せめて君を守ってみせる!」

「・・・・馬鹿・・」

「さぁ・・今度こそ!!」

脅威のしぶとさを見せる合成獣に特攻をかける!

このままではジリ貧と感じ取ったスクルトは相も変わらず動きは鈍い獣に渾身の力で刃を突き刺した・・


ズン・・


手ごたえは合った、スクルトの刃は深く突き刺さりそこからは血が迸っている

だが・・

「グルルル・・!」

致命傷には程遠い、脇腹に突き刺さった剣など目もくれずスクルトを睨みつける・・!

「スクルト!逃げて!」

ツェーラの必死の叫びとともスクルトは飛びのく・・・瞬間、彼がいた空間を豪腕が通り抜けた・・

「く・・しまった・・!」

なんとか無事逃れたスクルトであったが剣が深く食い込み過ぎて抜けず突き刺したまま飛びのいてしまった

素手で戦うにしても切り刻んでも無事なその肉体、拳が通用するとは思えない

「・・スクルト・・!」

「ツェーラ、いざという時には逃げて・・」

「ダメよ!そんなの!スクルト!」

「・・ごめん!」

決死の覚悟で青年は特攻をかける、敵を怯ませ得物を奪い取るため・・

合成獣は全く動じる事なく息が切れているスクルトを見据えている、知能がそれなりに高いらしく

目が彼の動きになれてしまっているのだ

「ダメ!スクルト!」

「くっ・・うおおおおお!!」

完全に動きを読まれている中、スクルトは拳を振るう!!


『ブースト・・スティン!!』


動きを捉えられ、スクルトの一撃にあわせるように合成獣が腕を振るう瞬間、雄々しい叫びが木霊する!

それと共に合成獣の体は吹き飛び石壁に衝突された

「無事だったみたいだな、二人とも・・」

そこにいるは板金鎧を身に包み身長大の斧槍を手に持つ一人の騎士・・スクイード

「「スクイードさん・・」」

「何とか間に合ったみたいだ・・急いで正解だったよ・・」

「スクイードさん、どうして・・ここに・・?騎士団の皆さんは皆待機のはずじゃ・・」

「始末書一つで君達を救えるなら安いものさ。さぁ、今はこの化物を倒す!ツェーラ、君用の剣も発見した!」

そう言い懐から投げ渡すは白狐の骨剣、対となるそれを彼女の前に突き刺してスクイードは静かに笑った

「君に世話になったのはスクルト君だけじゃない・・」

「スクイードさん・・ありがとうございます!スクルト!一本使いなさい!一緒に行くわよ!」

「わかった!スクイードさん!」

「ああ・・僕が奴を止める!それが合図だ!」

「「了解!!」」

全員の呼吸が揃ったところで合成獣はゆっくりと起き上がる、力任せの一撃は伊達ではなく

傷口は相当大きい、だがそれ以上に相当激情しているらしくスクイードを睨みながら耳障りは咆哮を上げ突進してきた・・

「スクルト君を相手にする事を思えば・・目を瞑ってでも当てられる!!!」

振りかぶる豪腕、それよりも速くスクイードは踏み込む!

「でぇぇぇぇぇぇぇい!!!」

接近して渾身の力で斧槍を振り上げる!


斬!!


スクルトの攻撃を受け続けも無事であった合成獣の腕は一人の気合の篭った一撃で見事切断される!

「まだまだぁ!!」



斬!!!


おまけとばかりに切り上げた斧槍を今度は力任せに振り下ろしもう片方の腕を肩からばっさり切り落とした

「今だ!二人とも!」

「了解!スクルト!行くわよ!」

「わかった!僕達の手で!!」

両腕を切り落とされた合成獣にスクルトとツェーラが飛びかかる!

二人の姿が重なったと思った瞬間・・その姿は無数に増え一斉に斬り払う!

腕を失った合成獣は獅子の牙や尻尾で払おうとするもそれらが捉える二人の姿はいずれも幻・・

獣を取り囲むようにスクルトとツェーラの姿は現れては消え、消えては現れる。

幻影が無数に現れ高速で入れ替わる中獣の体はまるで削られるように切り払われていき皮膚は飛び血は吹き出る

それは乱舞、白狐の戦士達が幻影を駆使し相手に回復する間も与えず斬って斬って斬りまくる!

一人で挑んだ時と違いどちらかがつけた切り傷をどちらかが同じ箇所を狙い傷を広げる

それを繰り返す内合成獣の姿は無残な物へと変化していき・・


「これで!!!」


「終わりだぁぁぁ!!!」


二人揃って脳天直下から勢いをつけての切り下ろし・・、

「ぐ・・が・・あ・ああ・・・」

獅子首と熊首が合わさった箇所に二人は横に並びながら短剣を振り下ろしそのまま一気に真っ二つに切断をした

致命傷となるその一撃を受け合成された獣は断末魔の叫びもそこそこに無残な肉の塊となり直ぐに煙を上げて蒸発していった

「・・流石、白狐の戦士だ・・」

「・・・・いえ、スクイードさんの援護がなければ危ないところでした。ありがとうございます」

「僕の手助けなんて微々たる物だよ。さぁ・・被害者の女の子達を保護して脱出しよう・・」

「あ・・はい!」

「そ、その前に・・・ツェーラ、何か・・着たほうが良いよ。目のやり場に困るから・・」

スクルトの指摘に思い出したかのように自分の姿を見直す

白い肌は見る見る赤くなり・・

「え・・あ・・・ああ!何を見ているのよ!スクルトの馬鹿ぁぁ!!」


パチーーーーン!!


今の今まで全裸で雄々しく戦ってきたのもどこへやら想い人だけならばまだしも無関係なスクイードまで見られた事に取り乱したツェーラ

・・とりあえずスクルトに当たり、この戦闘一番の快音が館に響き渡った・・


・・・・・・・


「ハァハァ・・クソ・・クソ!」


慌てて夜の路地を駆けるラベンティーニ、

自分が所有していた館から隠し通路で通路に抜け出た先その館の敷地を包むように竜巻が包んでおり

この超常現象にも見た景色に驚愕し一目散に夜の貴族地区を走り出している・・

「何なんだ!?あいつらは・・!」

汚らわしい獣人が攻めてきた・・そう思っていたのだが館を包む竜巻からしてただの押し入りではない事は彼にもわかる

それ故に恐怖に身の毛もよだっている

そのせいなのか夜とは言え人気が全く無い事に気付く事なくガムシャラに逃げる

その時・・


ズン・・!


「うぐ・あ・・・あ!」


瞬間にして体が鉛のように重くなり動かなくなった・・、突然訪れた変化に思わず大切に持っていた鞄を落としてしまう・・

だがそれを取る事もできず体中に冷たい汗が吹き出てくる

『どちらに行かれるのですか〜?余り逃げ回られるとこちらも迷惑なんですがね・・』

静かな声とともに夜の闇より姿を見せるは一人の魔術師・・フィート

人の良さそうな表情をしていながらもその表情にはどこか薄寒さを感じさせるものが含まれている

「な・・んだ・・?貴様・・!」

「まぁ通りすがりの何でも屋ですよ・・、おっと、来た来た。シトゥラさ〜ん!」

明るい声で手を振るフィート、それに対しシトゥラは風のように駆けながら二人の前に姿を見せた

「む・・フィートか、先回りされたようだな」

「あの手の館には非常用の出口は用意されているものですからね。ツェーラさんは大丈夫ですか?」

「スクルトが保護した。後はこいつを仕留めるだけだ・・、異論はないな?」

冷たい口調のシトゥラにラベンティーニは小さく悲鳴を上げる

「人の命を奪うのは良くない!・・なんて言う気はさらさらありませんよ、世の中自業自得というものが付き纏うものですしねぇ・・。

ですが、その前に少し聞きたい事があるんで・・よろしいですか?」

「・・好きにしろ」

軽くため息をつき一度短剣をしまう、今ラベンティーニがどういう状況なのかシトゥラもよくわかる

フィートの術にかかってしまえば逃れる事などできないのだ

「さて〜、聞きたい事は一つです・・庭園で僕を襲ってきた少女・・実物を見るのは初めてですが

僕の記憶が正しければあれはレイアードが造り出した戦闘用ホムンクルス『MV』のはずです・・、

貿易都市ルザリアの助役クラスがどうしてそんなものを持っていたのか・・説明して頂けますか?」

「お・・まえ・・?何故レイアードの事を・・!?」

「まぁ耳歳増って事にしておいてください。それよりも質問の答えをしてくれませんかね?」

「わかった・・あのMVは裏のマーケットで私が護身用として買った物だ・・」

「護身用に・・ね。確かに・・あんな物所有しているのなら態度もでかくなるものですか・・・で・・そのマーケットは?」

「あれは・・グラディウスの・・!?」

説明をしかけた瞬間、ラベンティーニの声は突如として途絶える・・

そしてその胸には深く突き刺さる白銀のロングソード・・

「・・っ!?敵か!」

咄嗟に身構えるシトゥラ、だが敵の気配は全くしない・・

対しフィートは警戒する様子は全く無いようだ

「・・逃げたようです。・・僕が張った結界内に行き来できシトゥラさんの感覚をも通り抜けてこの男を仕留める・・

随分な芸当ですね・・」

「やはり、口封じのためか・・」

「そのようです。僕達を仕留める意思はなかったのでしょうね・・ともあれ、詳しい事は全員揃ってから話します。

まずは・・当初の予定通り・・館を壊しますか。何なら、切り刻みます?」

「いや、ツェーラが無事でこの男に罰が下ったのならばそれでいい」

「流石です・・そんじゃ、見つからないように工作と行きましょう」

笑顔のまま死骸を持ち上げ夜の街へと消えるフィート

その夜、突如として起こった竜巻により一つの館は見るも無残に倒壊された・・


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