第十話 「暴走牛と暴君術師」
フィートの話によると勝負の行方に落ち着いていられないツェーラがテント郡でうろうろしていた時に
やたらとけばけばしいゴロツキ連中が声をかけてきたらしい。
そうした輩への対処など知らないツェーラが鬱陶しそうに応対していたのだが突如として手を上げるゴロツキ連中に臨戦態勢に入ったそうだ
しかしその瞬間にツェーラの体が力なく倒れた・・
恐らくは、最初からツェーラを攫う目的で遠距離から麻酔矢でも放ったのだろう。
そんで周囲を睨みながらゴロツキは撤収していったらしい。
金も何もない貧民如き多少騒いでも問題ないと思ったのだろうが・・貿易都市ルザリアのテント郡に住まう貧民層は一味違う。
一応は統率しているのが天下の大怪盗だからな。
一人は素早くエネに連絡してフィート経由に俺達に伝え、もう一人は尾行をし居場所を突き止めている・・
まぁ大方の予想はついているんだけどな・・
ここの貧民がただの乞食なんかじゃないのはルザリアに住んでいる人間にゃ実はかなり知られている。
配給の御返しという事で都市内美化運動なんかしていてその時の手際のよさは商人が唸ったぐらいだからな
そんな訳で、テント郡で馬鹿するゴロツキなんかは余所からの流れ者である事は間違いないだろう
「恐らくは・・・、珍しい白狐の女性に目をつけた人身売買組織の犯行ってところか」
すでに決闘なぞ何処へやら、その場にいた一同で会議室に移動して円陣を組んでいる
「ですが・・先日こっぴどく壊滅してやったのに〜・・間が開かずに白昼堂々だなんて随分と自信がある組織ですね」
フィートの言う通りだな。裏の組織ってのはそれが明るみになる事は致命傷だ。
だから一つ逮捕劇なんか起ころうものならば闇にもぐりこんでほとぼりが冷めるのを待つってのが定石・・
「どんな奴でも構いません!ツェーラを・・無事に連れ戻さないと!!」
怪我も治ったスクルトだが頭に血が昇っている様子だ。
幼馴染で恩人・・ってだけの話でもないか
「落ち着くんだ、スクルト君・・。変態・・どうするつもりだ・・?」
「もちろん、尾行した爺さんの手下から奴らの巣を教えてもらい次第・・潰す♪」
そりゃもう・・徹底的に・・
「しかしクロムウェル・・決定的な証拠を掴まなければ突入は難しいぞ?」
「おいおい、タイムさん。そりゃ騎士の業務としての話だろう?」
「・・どういう事かしら・・?クロムウェル教官?」
ふふふ・・アンジェリカ教官殿、わかっているくせに・・
「教官はただ今休業中だ、今の俺はルザリアの何でも屋、気に入らなければ何でも潰すスタンピート、クロムウェルさ」
「流石は先輩、お供しますよ?」
「フィート・・おま・・本当に暇なんだな?」
「いいえ、この一件・・僕も腹立たしく思ってますからねぇ・・。人の恋路の邪魔する奴は地獄に堕ちてもらわないと」
こいつにはこいつの正義があるって訳か
「それなら僕もお願いします!」
「・・もちろん、私も同行する・・」
スクルトにシトゥラも怒りを露にしている
「スクルトはいいとして・・シトゥラ・・いいのか?」
「もちろんだ。私も騎士団の協力者に過ぎない・・それに白狐を侮辱する輩・・生かしておくわけにはいかない」
珍しく怒っているシトゥラ・・
普段は大人しいこいつも戦場で怒り出すと凄惨な光景を作り出すことができる♪
「だ・・だが・・、いきなり無差別に切りかかるなんて・・」
「あ〜、大丈夫ですよ。タイムさん。後で建物を倒壊させてうやむやにしますから・・」
流石は法王・・っというか所業からして法王は法王でも「暴君」だよな
「ならば僕も・・」
「スクイード、お前は後方待機でもしてろよ・・」
「変態!」
「お前やタイムは正規の騎士、『疑わしきは罰せず』なややこしいしがらみがある以上は何かあった後での登場の方が自然ってもんだ
・・なぁ?タイム?」
「・・仕方あるまい、フィート君・・いつもの手で頼む」
つまりは・・ルザリアに突如として異常気象発生!竜巻の発生した貴族館の救助に向う為に騎士団出動!
だがそこで見つけたのは貴族達の不正な事実であった!
嗚呼!あの風は正しく悪を裁く正義の旋風であったのか!
・・って感じ。
風は自然の産物・・って事だしそれが術師が造り出した物なのか判断するにゃよほど優秀な分析能力を持つ魔導師でなければ無理
だから用心深い貴族さんは魔法効果を打ち消す結界なんぞを張らせるんだけど・・ここにいるのはその筋のエキスパートだ
どんなすごい結界だろうがそれごと飲み込む、そうともなりゃ言い訳もできないって事さ
コンコン
「失礼します・・、偵察のツナギとして情報を持ってきました・・」
受付のサリーさんに案内されて入ってくるは貧民とは思えない中々清潔感がある中年紳士
着ている物こそ質素だが気品は馬鹿貴族よりもある・・まぁ、過去の事を聞くのはここじゃタブーだ。
それなりの過去があるんだろうさ
「ご苦労、目標の巣は見つかったのか?」
「はい・・皆さんの予想通り・・ゴロツキどもは貴族地区の大豪邸に消えていきました」
・・そりゃな、他にあると言えば工業地区で獣人に強制労働を虐げるぐらいだ・・
だが獣人の権利ってのを認めているルザリアじゃそんな事すりゃ表歩けない事などわかり切っている
「おつかれさん・・それで・・どこの馬鹿だ?」
「少々面倒な輩なのですが・・、領主が所有している館です」
「「・・・・・・」」
領主の名前にスクイードとタイムの表情が引き締まる。
金にしか興味がないできこそない領主なだけにルザリア騎士団、否ルザリアに住む人間の敵と言ってもいい
「・・じゃ、領主が黒幕なのですか?」
「いえ・・裏を取ったところ、最近ではその館には助役のラベンティーニが住んでいます」
「ラベンテーニ?」
「ジョージア=ザン=ラベンティーニ。お前がこの間いちゃもんつけた黄色いスーツをきた助役だ」
・・ああ、あのモヤシっ子か。
大層な名前だな・・オマケに『ザン』のミドルネーム・・
「・・タイム、確か『ザン』は大陸東部の中流貴族に使われる物だったよな?」
タイムの名前にもザンが使われいる、まぁこいつもそれなりの出身なんだよ・・
「ああ、だが・・中流貴族と言えども領主の助役など本来ならば勤めれる身分ではない・・」
「・・つまりは、裏でイケナイ事をしてその見返りに出世しているわけですねぇ・・人身売買とか」
ニヤリと笑うフィート、こいつに取っちゃ貴族だろうが何だろうが自分の邪魔なら半殺すだけだからな
「決まりだな・・。あんた、ありがとよ・・後は俺達がぶっ潰すから・・セイレーズ爺さんに伝えておいてくれよ」
「畏まりました、皆様、御武運を・・」
礼儀正しく落ち着いた口調で一礼をして出て行く連絡係、身のこなしからして・・かなり優秀なバトラーだった感じだな
「・・よっしゃ、そんじゃ・・作戦会議と行くか・・。タイム、騎士団はさっき言ったように待機だ」
「わかっている・・領主が関わる以上うかつに動くわけにはいかないからな・・スクイード君も待機してくれ」
「了解です・・」
倒すべき悪を目の前に動けない事に歯がゆいスクイード、まぁ・・その分暴れてやるよ・・
「潜入して暴れるのは俺とフィート、シトゥラにスクルトの四人だ。スクルト・・遠慮はいらねぇ・・」
「わかりました・・ツェーラの身に何かある前に救って見せます!」
「・・ならばその露払い、私が請け負う・・。スクルト・・奴らに白狐戦士の恐ろしさを味あわせてやるぞ・・」
「わかりました!」
怒れるスクルトとシトゥラ・・こりゃ・・止められないぜ・・?
「俺も暴れさせてもらうぜ、俺がいる限りルザリアで好き勝手やらせないってな・・」
「先輩と同じく・・それでは、スクルトさんはツェーラさん救出第一ですね。がんばりましょう♪」
ああ・・がんばろうぜぇ・・奴らに骨の髄まで恐怖を叩き込むためにな・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
事態が発覚したのは昼間・・、だが色々侵入する手はずを整えるために夜までかかった。
まぁ・・明るいうちから殴りこむのはセオリーじゃない。
『始末と悪事は夜に限る』って言うからな・・
そんな訳で詳しい状況確認、突入経路、突入してからの役割分担などの打ち合わせをしつつ夜の貴族地区へと乗り込んでいった
暴れるのは俺、フィート、シトゥラとスクルトの四人・・これだけ入れば何が起ころうが大丈夫だろう
スクルトはツェーラが陵辱される事を心配して落ち着かない様子であったがこればかりは仕方がない
相手の場所がわかれどもすぐに飛び込んでいくのは流石に無謀、それに・・あのキモモヤシっ子はスクルトを見て差別的な発言をした。
獣人差別者である以上は慰み目的で攫ったんじゃない。
まぁ、人身売買で間違いないだろうしそれだったら商品に傷がつかないようにそれなりな対応をされているはずだ・・
「それでは〜、楽しい楽しい『血の宴』の始まりです♪」
「・・お〜い、キルケの性癖が感染したか・・?」
夜が静まってから行動開始、目的である領主の館はここら一画で一番でかく壁がどこまで〜も続いている感じだ。
さっき確認したが中身も豪華そのもの、変な銅像だの池だの・・連中が好きな庭園が続いており
その先に質実剛健とも言える木製二階建ての豪邸がそびえている。
元々は騎士系統の館だったらしく貴族向きではないドッシリした造りだ、こうした家は飾りがない分崩れにくい。
それを領主は好んだのか〜、はたまた天災が起ころうが無事な館でイケナイ事したいのか〜。
まっ、それはどうでもいいや。民の生活向上のために奮闘すべき立場の人間がこんな物買っている時点で白か黒かは明白だぜ
「ははは、まぁ僕も血は嫌いではありませんので」
怖い怖い・・
「それで・・どう行くのだ?」
少し苛立った感じのシトゥラ、こいつが焦るのも珍しいな・・
まぁスクルトの世話だけでなくツェーラの面倒も見ていたらしいし何より同族の危機だからな
「正面から突破する・・、それなりの数はあるだろうが・・遠慮はいらんぜ?それなりの資料が出てきたなら全員処刑になるのは間違いないんだし」
軽く腕を回して愛用のナックルグローブを装着する、現在位置は館の正門前・・
見張りはすでに黙らせその間にフィートが人払いの結界を張った・・
だがここからが本番だ
「まぁ・・日頃たまった鬱憤を晴らしましょうか・・。では参ります・・『風獄壁』」
軽く指を鳴らすとともに館を包み込むような巨大な風の渦が現れる。
竜巻・・とは少し違いそれは館と同じ高さほどで止まり敷地をすっぽり包み込む風の壁を作り出した
「これは・・」
初めて見る風の壁にスクルトは呆然とする
「まぁ結界ですよ、これがある以上・・中にいる連中はここから抜ける事はできません」
「駆除の基本は逃げられないようにする事だからな・・そんじゃいくぜ!なんちゃってブースト・スティン!」
スクイードの真似して貴族連中にゃ珍しい木製の大扉をぶん殴る・・
・・まぁ器物損壊用の技だよな・・ほんと・・
ともあれ、この程度の扉なんか一発でぶち破れ、殴った瞬間にバァン!っと破裂音が広がって木片が吹っ飛んだ
扉の向こうにはすぐフィートが作り出した風の壁が渦巻いており
それに扉の木片が触れた瞬間・・
ガガガガガガ・・・!!!
まるで木片が踊るかのように激しく振動して粉砕されていく・・
「・・どういう原理なんだよ・・?」
「あぁ、要するに『疾空』を周回されて出来ている壁みたいなものです。
同じコースを回っている分加速されて威力も高くなってますからね・・人間の体ぐらいなら簡単に貫通しちゃいますよ」
なるほどな・・、中に入った瞬間全身風穴だらけか・・
・・っうか・・
「ならば・・我々はどうやって中にはいるんだ?」
シトゥラの冷静なツッコミ、そうだよな・・俺達入れないじゃん
「僕が作り出している以上僕が制御出来る物じゃなければいけませんよ・・はい」
軽く指を鳴らすと俺達の目の前の風壁の一部がぽっかりと消え中の庭園が見えた
「それでは行きますよ、罠に掛かった害虫の巣へとね♪」
意気揚々と中に入っていくフィート、そのあっ軽い気迫に拍子抜かれながらも中に侵入する俺達・・
敷地内に入ると同時に風の穴は閉じ出口のない空間を再び作り出した
すでに異常に気付いたのか庭園には数人のゴロツキ風チンピラがうろついている
「慌ててる慌ててる・・そんじゃフィート君。狼煙を上げたまえ」
「了解です♪狂風♪」
ズドォン!ズドォン!
最大限威力を上げた見えない凶器・・それが館の屋上付近に直撃させ軽く崩壊させる
相当な衝撃を与えたんだ、中の連中は異常に気付くだろう・・
「あの・・フィートさん、あんなの派手に撃って・・ツェーラは大丈夫なんですか?」
そりゃな・・どこに監禁されているかわからないんだからなぁ・・
「安心してください、スクルトさん。僕が撃ったところに人はいない事はわかっています」
「全ては計算付くか・・、では・・ここからは行かせてもらうぞ?」
鋭い目つきで得物を抜くシトゥラ、気合は十分・・
「ああっ、加減しろとは言わねぇ・・存分に暴れてこいや」
「ふっ・・スクルト!」
「はい!」
軽く笑いながら跳躍するシトゥラ、それに続いてスクルトも駆けこちらの存在に気づいたゴロツキ相手に切りかかった
高速で襲い掛かる白き狐達にゴロツキは碌に反応できずに腕やら足を刎ねられた。
シトゥラが仕掛けた後に仕損じなし、後に続くスクルトは何もできずに後に続いていた・・
・・・・・・・
シトゥラとスクルトは主としてツェーラの探索、俺達はそのサポート
そんな訳で派手に目を引き付けるために庭園にてフィートが巣を突っつき兵隊をおびき寄せる
もちろん手当たり次第なんて乱暴な真似をする奴じゃなく着弾箇所は計算づく、
派手に破壊音が出て中の馬鹿を誘き出すための・・な
「それそれそれそれ!」
噴水のオブジェに立ち放つは姿無き凶弾、強固に造られていようが木製の外壁なんぞで受け止められるはずもない
「野郎!殺せー!」
「ふざけやがって!!」
威勢の良い声を放ちながら巣から出てくるゴロツキさん。
悪い事している貴族が雇う連中ってのは数で勝負、続々と庭園に出てきて噴水の上で目立っているフィート目掛け襲い掛かる
だがそこには行かせない・・ま・・行かせてもいいんだけどな・・結果同じだし
「通行止めだぜ・・てめぇら?」
「何・・!?うあぁ!」
問答無用に蹴り飛ばす、それとともに情けない声を上げてゴロツキが吹き飛んだ。
「そらそらそらそらそら!!!」
そっちが数ならこっちは手数!遠慮なく急所を狙う!
武装しようがしてなかろうが関係はない、首を強打したり脳天に踵をくれてやったり♪
対多数戦なんぞ慣れている、雷は少々この馬鹿どもにはきついだろうがまとめて将棋倒しぐらいにはできるからな
相手も思い切り振りかぶってくるんだがそんなモノに当たるはずもない
それよりも・・
「フィート・・気付いているか・・?」
「ええ、ここの馬鹿さん達・・分不相応に良い得物を持ってますね」
どいつもこいつも持っているは白銀を使用したと思われる白く輝く剣や斧、果ては盾まで同じ素材のようだ・・
こんなよわっちい連中が使用するには上等過ぎる、だが配給するにしては実戦向きだな
あの助役の趣味か、はたまた見栄か・・?
それとも、戦争でもおっぱじめるつもりだったのか・・
「まぁ、どの道使いこなせていないんじゃ宝の持ち腐れだ・・。徹底的に潰すぞ!」
「了解♪それでは・・アンジェリカさんではありませんが実戦での『疾空』お見せしましょう!」
なはは・・、本気出す気だ。
こりゃ俺の出番取られるな・・
・・・・・・・
数分経過、結果は明白
いかに俺が体術に自信があろうとも一度に相手をする人数には限りがある。
対しフィートの場合は・・限り・・ないかもね・・
俺の周辺に顔の形が変形して痙攣している馬鹿がおおよそ2,30人、
そして庭園のいたるところに転がる数・・プライスレス・・、じゃない、まぁ無数だ。
まぁ・・スクイードレベルでも避けられない術を連発したんだ・・、遮蔽物の少ない庭園で被弾を受けなかった奴はほぼいない。
中には気絶した仲間を盾に迫ってくる馬鹿もいたんだが俺が落とさせた。
噴水周辺を俺が占拠している時点で連中に勝ち目はない、っうか元よりフィートがいる時点で勝ち目ないよな・・
「まぁ・・ざっとこんなもんか・・?」
「そうですねぇ・・、それにしても・・・ゴキブリみたいに出てきましたね。貴族の家ってのはゴロツキの巣ですか?」
「たぶん、そうじゃねぇの?」
身元がわからず使い捨てにはもってこいだからな・・その分能力は劣悪、俺みたいなのを相手にするにて力不足もいいところなのさ
ともあれ、フィートがオブジェから軽く飛び降りる
「・・問題の助役・・いますかねぇ・・?」
「さてな・・、まぁツェーラを救出できたらそれでいいさ。ともあれ・・俺達も探索するぞ?」
「了解です。まぁ・・感動の再会はスクルトさんに譲りたいところですけどね」
「シトゥラと一緒なんだ、結局はあいつが格好付ける機会はなさげだぜ・・?・・っ!?」
軽い雑談をしている最中に体中を悪寒が駆けた・・!
体が危険を知らせた・・?
「・・フィート・・」
「ええ・・」
悪寒の原因はわかった・・崩れかかった館の屋上に人影が月明かりで見える・・
そいつだ・・
「俺達に用があるんだろう・・降りてこいよ?」
「・・・・・・・」
俺の呼びかけに何の反応も示さない・・それが逆に不気味だ・・
「・・『狂風』」
フィートも相手の奇妙さがわかったのか狂風で無理やり挑発するつもりだ・・。
奴がいた処に見事着弾して爆発をするのだがその瞬間に人影は消えた、否・・飛んだか・・・?
「・・くるぞ、油断すんなよ」
「もちろんですよ、先輩・・」
相手がわからない以上手は抜けない、気を引き締めて飛来する敵に備える。
だが相手は攻撃の意志の意志がないのかヒラリと俺達の前に着地した。
「・・・、何の冗談だよ・・」
思わず唸ってしまう・・
そこにいるのは小柄な女性・・、純白で何の柄もない軍服調の戦闘服を着用しており蒼いポニーテールが特徴・・
手には連中と同じく白銀仕様の剣が握られているのだが・・
「・・どうしたんですか・・、先輩・・?」
「・・・俺は・・こいつの顔を知っている・・」
「・・ええ・・?では・・知り合いですか?」
「そんなはずはない、そいつはすでに死んでいるはずだ・・」
ファラ=ハミルトン・・、傭兵公社13部隊の一員でクラークさんが愛した女・・
最終決戦の時に総師に殺された・・はずだ
「てめぇ・・何のつもりだ!?ファラの真似事か!」
「・・・・」
俺のしゃべりに何の反応も示さずに剣を構える・・、問答無用、そして俺を敵と認識したか・・
「どうしますか・・?先輩・・」
「どうもこうも・・ファラであるはずもないし話が通用するとも思えない・・ぶっ倒すぞ!」
死亡後・・ファラはクラークさんの手で葬られた・・
だが、その後不完全な蘇生術により操り人形として甦ったらしいがそれもクラークさんが倒し・・逝ったはずだ
ならばこいつはファラじゃない!
「いくぜ!ライトニングブレイカー!」
拳に雷を纏って拳を放つ!
最初から最大で行かせてもらう!
「・・・・・・・」
無言のまま微動だしにしないファラもどき、このままだと心臓に直撃だ!
何者か口を割らせたいが手加減しない!
フッ・・!
・・っ!?
一瞬で消えた!
「どこだ!?」
「上です!先輩!」
フィートの叫び声と共に警戒しつつ上空を見上げる・・、あの女・・一瞬で館をはるかに越える高さまで飛びあがりやがった・・!
華奢そうな体でめちゃくちゃな瞬発力・・否、いくらなんでもあの動きは人間ができるもんじゃない・・!
「フィート!」
「わかってます!疾空!!」
腕より放たれる無数の風弾・・、上空となれば動きは制限される中・・全方位よりそれをみまうつもりだ・・
これだったら回避のしようがない!
「・・・・・・・・」
無表情のまま俺を見る女・・だが次の瞬間その姿がまたしても消え去る・・
疾空は宙を切りその音だけが響く中ほぼ瞬間的に俺の目の前にあの女が姿を見せた・・!
・・キィン!っと鋭い金音が響く・・、ファラもどきが放った一撃を『崩天』で受け止めた。
目で追える速さではない、体が反応した先に奴の刃があった・・。
感覚の鋭さが役に立ったか
「・・・・・・・・」
俺の目の前で白銀剣を握り力を込めるファラもどき・・先ほどからの化物じみた動きが納得できるほどその力は強い・・
だがこいつの瞳に意志の光はない。
当然、殺気、闘気も・・
一流のアサシンが感情を殺すとそうなるらしいが・・こいつは・・まるで人形みたいだ・・
「先輩!」
「おうよ!」
フィートの叫びと共に俺は体の力を抜きわざと圧される・・、相手の力を上手く流しながらタイミングを見極めて地に背を付かせその瞬間
反発してファラもどきの腹にバネを利用した蹴りを放つ!
東国投術にある『巴投げ』を改良し体のバネを使った突き上げ蹴りを加えた捌き技だ!
テクはいるが威力は抜群!
そして小柄な体が宙に浮いた瞬間・・
ドォン!
タイミングを合わせるように女の体が吹き飛ばされる・・。ドンピシャリで最大出力の狂風を放った・・
おまけに俺が吹っ飛ばした刹那に直撃で入った・・
その威力は折り紙付き、吹き飛ばされた女体は館の外壁に激突して大穴を空けた
「・・やったか・・?」
「まともに入ったはずです・・、先輩の一撃の直後・・肋骨は全部折れていて間違いないと思いますが・・」
安心はできない・・こいつはまともじゃない・・
「化物だぜ・・、これで無事なら・・全力で消滅させるしかねぇ・・」
「・・では、消滅させるしかなさそうですね」
そのようだ・・、ガレキの中から起き上がるファラもどき・・
口から血が流れており服から何か突き出ている・・、骨だな・・。
衝撃で肋骨が突き破った状況でも何事もないように涼しい顔をしている
恐ろしい戦闘生命体・・、そう言えばいいのかな・・
「あんな速さで動き回られたらアルティメット・ノヴァは当たらない・・グランプレスでまずは動きを止めてくれ・・」
「了解です、空圧で押し潰すつもりでいきますよ・・!」
「何やってもいいさ!くるぞ!」
軽く踏み込んだ瞬間爆発的な加速で俺に迫る、大怪我を負っているはずなのに全く動じない・・!
ブン!ブン!
痛覚なんてないんだろうな・・ド鋭い斬撃を繰り返し俺の命を狙う・・
動きは単調、得物自体も材質は特殊だろうが一般的なロングソードタイプ、それでも鋭さは一級で無駄のない動きでしつこく切りかかる
身体的な特徴からして簡単には振り切れない、ギリギリで軌道を見切り呼吸を合わせ
奴が大振りな一撃を放つ瞬間、その刃を掴むように手を出す!
手のひらには雷の網を張っている!そして刃が俺の手のひらに吸い込まれる刹那の瞬間・・!
「ディフレクト!!」
パァン!
「!!!?」
一気に雷を放出して相手の攻撃を跳ね返し衝撃を相手に伝わらせよろめかせる!
雷を使ったカウンター『ディフレクト』
俺が夢の中で思いついた技だ!・・いあ、夢っていうよりかは何時の間にか使っていたんだけどな・・
なんか・・どっか遠いところで・・開発したような気がするんだが・・
たぶん夢だろう・・
ともあれ、打ち込む力が強いほど反発する力は強い、ファラもどきの体は大きく仰け反りそれを勝機と見た瞬間、一気に飛びのく・・!
ドォン!
「・・・!!!」
それにあわせるようにファラもどきの体が少し地に沈む・・、グランプレスにての牽制・・タイミングは完璧だ!
「幾らなんでもこれで動けるなん・・て・・」
グランプレスの中・・ゆっくりと体勢を整えるファラもどき・・
なんだ・・こいつ・・!
「フィート!」
「・・了解です!」
こいつは危険だ・・!グランプレスを抜け出す前に仕留める!
「最大出力で・・疾空!!」
両手をかざし放たれる風の弾丸!最大数、最大速度で完全包囲・・!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!
ギリギリの瞬間でグランプレスを解除した瞬間に小柄な体に疾空がめりこむ・・、
その衝撃でファラもどきの体は宙に浮き後は間髪入れずに風の雨が命中し続ける・・
ダメージがあるかどうかわからねぇが身動きは取れないはず!
こいつで決める!!
「・・・・・」
コォォォォ!!
最後の一発に合わせるように・・・!!!
「スフィアストライク!!」
確実に捉えた!!
腕より発せられる陽気の光球・・、それはあれだけの攻撃を受けても感情を動かさないファラもどきの体を包み消滅していく
活動の限界を超えていたのか・・化物は抵抗もなく消え去った・・・
「・・や・・やりましたね・・」
「ああ・・、謎は残ったがな・・」
貿易都市にいるには危険すぎる存在だ。正直・・俺達がいなかったら奴一人でルザリアを崩壊できるかもしれないな・・
それに・・ファラにそっくりな顔・・何だ・・、俺の知らないところで何が起きている・・?
「謎は残りましたが今はあの女の子がまた出てこないうちにツェーラさんを救うべきですよ」
「ああ・・そうだな。とにかくもう動く奴も少なくなってきた・・一気に行くぜ!」
考えるのは後だ!今はシトゥラ達と合流しないとな!
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