第七話 「風を切れ!」
その日の夜は当然の事ながらユトレヒト隊館で世話になった。
流石はクラークさん、浴場まで凝った造りで旅館みたい・・。
二階に客室が二つあるのだがそこはスクイードとツェーラが使用して俺とフィートは1階の和室にて夜を明かす事になった。
軽い昔話をしつつも元々俺もクラークさんも何事もなければ夜は早い方なので就寝・・のはずなのだが
その前にクローディアに話があるって事で呼び出された。
・・そういや、前もこんな事あったなぁ・・
「すみません、夜遅くに・・」
誰もいない談笑室、テーブルに向かいあいながらクローディアは申し訳なさそうに言う
白い寝巻き、眼帯を外したその姿は正しく美女。俺もフィートもクラークさんというパートナーがいなければ声をかけること間違いなし
・・あ・・いや、俺は無理か。姉御の妹だもんな・・
「いいや、それよりも・・この間は騒がしかったけどクラークさんとうまくいっているようだな?」
「え・・ええ、それもクロムウェルさんがきっかけを作ってくれたおかげ・・です」
モジモジしながら礼を言うクローディア、日頃の礼儀正しく冷静な姿が嘘のようだ
「ま・・、きっかけというか口を滑らせたというか・・。そんで、何か用なのか?」
「ええ・・、姉上のお墓参りをしていただき、ありがとうございます」
深く頭を下げて礼を言う・・んだけど・・そんな事か・・
「別に礼を言われることじゃないさ、俺が好きでやっている事だ」
「ですが、ルザリアからカムイまで花を添えに行くのは・・」
・・まぁ、常識人にゃそんな事しないだろうなぁ・・墓参りに海を渡るなんて・・。
でも・・俺はそれが苦に思った事はない。
姉御がいたからこそ今の俺がいるんだ・・
まぁ、当初は旅に出るたび拗ねたタイムから酷い目にあっていたんだが、
タイムの体に姉御が憑依した一件からはあいつも姉御という人物を知って、何も言わなくなった。
それでも嫉妬の眼差しを向けるんだけどな・・
「気にするほどの事じゃないって。まぁ、流石に月に一回ってわけにもいかないんだけどな」
「ありがとうございます・・」
姉が命懸けで妹を思ったように、妹も姉の事を思っているんだな・・
これぞ姉妹愛か・・
「いあいあ、それよりもクラークさんとはどうなんだよ?姉御が心配していたぜ?」
「え・・!姉上が・・ですか?」
心配・・っうか警戒だったけど・・
「まぁ、行為がエスカレートしているんじゃないか〜って。なんせクラークさんってロリ姦、アナル、緊縛、媚薬、中出しオンリー属性で
クローディアも満足しまくりなんだろう?」
「!!!!!!!!!!!」
あらら、顔を真っ赤にして硬直しちゃったよ・・
「あ、いや・・姉御が見ていたらしくてな・・」
「そ・・そうで・・すか・・・」
気持ち良いぐらいギクシャクしているなぁ
「まぁ、端から見てもクローディアの変化はわかるんじゃないかな?胸・・おっきくなっただろう?」
「へぇ!?あ・・はい・・」
胸を隠しながらも正直に応える・・、律儀だ。
これは親しき仲ではNOって言えない性格だな
「ううむ〜、俺の見る限りには姉御を越えたな・・」
「姉上を・・あ・・クロムウェルさんは・・」
ははは、クローディアにとっちゃ俺と姉御が肌を合わせていた事なぞ想像もしなかった事なんだろうなぁ
「俺も今にしてみれば夢みたいな出来事だよ、まぁ・・ほんと、姉を越えたよ。
姉御って実は結構小さかったし結構見栄を張ってパットを・・・(パァン!)」
あら・・談笑室のラックに置いてあった酒瓶の口付近が勝手に割れた・・っつうか破裂した・・
「・・なんか、炭酸でも入っていたのか・・?」
「・・発泡関係は皆さん余りお好きではないので置いていないはずなんですが・・」
「・・・・、まさか・・な。・・で・・そのパットも実は特ちゅ(パァン!!)・・・・」
・・・・ナタリーさん・・いるんですか・・?
「あ・・ねうえ・・?」
「まっ、まぁなんだ。死んだ人の秘密をばらすは身内でも野暮ってもんだな。あは・・はははは・・」
「そ、そうですね・・」
クローディアも苦笑い、流石に姉御がいるとしても怒っている様子に動揺している。
「そ、そんじゃ中身洩れていないし片付けは後にしておいて、今日はもう寝ようぜ?ク、クラークさんも待っているんだろう?」
「・・あ・・はい。それではおやすみなさい・・。姉上も・・おやすみなさい・・」
何もない空間に声をかけクローディアは寝床に着きに行く。
「姉御・・ありゃ、冗談だから〜、怒っちゃだめだぜ〜?」
ピシ!
うお・・窓に皹が・・
「すみません・・」
今日・・無傷で寝れるかな・・?
・・・・・・・・・・・・・・
翌日
朝起きたら頭にでかい瘤ができていた・・かなり痛むのだが何かに当たったって傷じゃない。
まるで何かに殴られたような・・
ま・・まぁ、深くは考えないでおこう。
それはいいとしよう・・。今日は敏捷性を鍛える訓練、フィート先生のご指導という事でツェーラは見学。
昨日と同じくゴザを敷き観戦モードに入っている
「そんじゃ、頑張っていきましょうか!」
久々の登場と言う事で張り切っているフィート、まぁ存分に魔法をブッ放せるのは騎士団の仕事ぐらいだからな
「ああっ、頼むよ・・フィート君」
対しスクイードはやる気の炎に燃えている。
これが決闘まで持続すればいいものなのだが・・
「それにしても昨日の傷が嘘のように治っているな、騎士団の治癒魔法使いでもこうはいかないぜ・・」
「えへへ〜、あの程度なら朝飯前です♪」
メイド服姿で喜んでいるキルケ、治療に関しての腕がいいのはわかる・・
だけども何処か物騒な性格だな。スクイードが怪我をするのを心待ちにしているっぽいし
「優秀なエクソシストって奴だ。まぁ傷を負っても問題ない・・やっちゃいなさい♪」
対しクラークさんはいつもの通り、・・傷なんか無かったって事は未だ姉御の許容範囲でクローディアを抱いているわけか・・
ううむ、まともそうに見えてロリ好きなんだし・・いつ襲われるか・・
「それでは、まずはウォームアップです・・『疾空』」
軽くフィートの手より放たれるは白き空の弾丸、それが5つ発射され蛇行しながらもスクイードの上半身目掛け時間差で襲い掛かる!
「うおおおおおお!!!」
この程度ならばまだこいつでも回避可能、気合とともに軌道を見切り全弾回避成功
「ふぅん・・風魔法使いなんて滅多にお目にかかれないんだが・・中々面白い術を使うもんだな」
クラークさんが顎をさすりながら感心している、まぁ・・冒険者が普通に仕事をしている状態でアルマティの風魔法使いと遭遇する事は
まずないだろうな・・本来ならばエリートなんだし
「それじゃ、次は10発いきます〜『疾空』」
再び放たれる疾空、今度は倍の10発・・それでも通常の疾空のおおよそ半分。
放たれる速度からして威力よりも命中させる事に重点を置いている術故にこれを難なく回避できるようになればスクルトの相手でも
なんとかなる・・かな
「く・・ぅおおおおおおおおお!!」
気合声とともにスクイード、ウィーピングで回避する。
ボクシング的な動きはジョアンナさんが何気に教えていたりする。
ルザリア騎士団の変人メイド集団の中で基礎体力向上についてはジョアンナさんが一番詳しく良い指導をする。
それゆえにボクサー的なスキルが結構染み付いている奴がいるんだよ
「上半身だけであれだけの攻撃を回避できるなんて・・」
俺の隣で観戦しているツェーラも驚いている、まぁ能力は基本的にはいいんだよ、スクイードは。
ただ、活かせていないだけ。
「いいですね、10発で被弾なしだと常人より上ですよ?」
「あ・・当たり前だ!ボクはルザリア騎士団の一小隊を束ねる身・・こ・・の程度・・!」
少し、息が上がってますがね
「うし、動体視力は並より上って事でいいだろう。こっからは全身使って回避しな。フィート、レベルアップ♪」
「了解♪では、シゴキの手前の15発、全身モードでいきます♪」
「了解した・・」
気を引き締めるスクイード、それとともにフィートは狙いを定めるように手を突き出し
轟!
同時に15発発射、しかし速度はマチマチで絶妙な時間差でスクイードに襲い掛かる!
この芸当はアンジェリカにもできないらしくアンジェリカも愚痴っていた。
あいつは連続して速度と軌道を変えて発動しているらしく一気に発動しているわけじゃないらしい
原理はよくわからんのだが・・分割と一括みたいなもんなんだってよ
対しスクイード君、全身を使って数発回避するもその軌道を読まれているのかどんどん追いつめられ・・
ドゴ・・ドゴドゴドォン♪
「う・・わあああ!」
一発食らい足が止まったところで一気に食らい吹っ飛んだ。
「だ〜いじょうぶですか〜♪」
それに対し凄くステキな笑みを浮かべ駆けつけるキルケ、さっきから・・いつスクイードが怪我をするか待ち遠しそうだったものな・・
怪我を治すのが好きなのか・・あるいは・・
「う・・っう・・すまない、キルケゴール・・」
「いえいえぇ。さっ、治療しますよ〜。次はもっと吐血してくださいね♪」
軽く唇を切ったらしく少し垂れているのだが・・
「あ・・ああ・・」
スクイードもこの不思議少女に何ともいえない顔になっている・・。
「・・クラークさん、キルケっていつもあんな調子なのか?」
「ん〜・・こんなもんだよな?クローディア」
「そうですね、怪我をしてはすかさず治してくれる・・頼りがいがあります」
「・・あ・・いや、そうじゃなくて〜・・もういいや・・」
なんか調子狂う!ユトレヒト隊は皆変人!これで納得じゃ!
・・・・・・・・
それより一日経過、相変わらず繰り返されるフィートの疾空にスクイードはズタボロ状態になった。
その都度キルケが回復魔法で治療し復帰して繰り返しているのだが常人が耐えられる訓練じゃなくなってきた
昨日からダメージが蓄積されているんだろう
因みに、スクイードの傷が増えるたびにキルケのテンションは上がりつつ・・なんか、発情しているかのようにも見える
そういう気があるって事でキニシナイキニシナイ
「ま・・まだまだぁ!!」
それでもやる気は失っていない。15発全回避の厚い壁に挑んでいる
「・・すごいですね、あれだけの傷を受けてもまだ立ち向かうなんて・・」
ツェーラもスクイードの姿に感心している。キルケが回復しているとは言えその傷は0に戻るわけでもない
「肉体的なダメージはキルケが治しても精神的な物まではそうはいかない。
何度も傷を負いながらも目的のために突き進む度胸は評価できるな」
クラークさんも評価が高いな、まぁ本人はそれどころじゃないんだけどな
「じゃが、度胸があっても回避できなければ意味もなかろう。いつまでも食らっていては闘志があろうともやがては尽きるぞ?」
「ま・・、学習能力ってのはあいつにもあるんだ。それにいい加減目もなれるだろう?」
「そうだといいんじゃがの〜」
メルフィはほんと興味なさそうだなぁ・・
まぁ、ユト隊にとっちゃ完全他人事なんだろうけどさ
「ちょっと休憩しますか?スクイードさん?」
「気遣い無用だ、フィート君・・!」
「了解です、暑苦しさで乗り切ってください・・『疾空』」
遠慮なく放たれる風の弾丸・・フィート君は本当に気遣いをしないのだ!
まぁ、術の選択からして遠慮はしているんだけどね
「ぬ・・うぉぉぉぉぉぉ!!!」
咆哮を上げながら迎え撃つスクイード、最初の10発はもう目が慣れているのか引きつけながら回避する
これだけでも並じゃないんだけど・・ここからだ
軌道はフィートが読んでいる、狙うは急所と足。動きを止めるのに適しているからな。
スクイードも負けていない、今までしこたま倒されてきた分対処もわかっている
足を取られないようにフットワークを軽くして大きく移動し、15発回避成功・・
やればできるってやつか
「お見事です、これほど短期間で回避できるとは思いませんでしたよ」
「は・・ははは・・、時間はないからな」
息を切らして尻餅をつくスクイード、成功した事に悦ぶ余裕もないみたいだな
「だが、あれだけの手数を回避できるなら素早い相手でも渡り合えるだろう・・そんじゃ、それを踏まえてツェーラと組み手だ。
・・けど、少し休むか?」
「あ・・・あ、すまないが・・少し・・」
ゼーゼー息を切らしてら・・キルケも何気に気遣っている。
少し変だけど基本的には良い子なんだな。
「まっ、少し休んでおけよ。時間が空いたし今の奴・・俺にもやってくれよ」
「うお・・クラークさん、やるのかよ・・?」
腕を軽く回しながら立ち上がるクラークさん、見ているだけじゃ退屈・・っていうかスクイードのガッツに感化されたのかな
「いいんですか?クラークさん・・?」
フィートも流石に遠慮しているな、まぁ相手の凄さは俺が教えたようなもんだしな
「あぁ、遠慮はいらねぇぜ。法王の魔法ってのを味わっておくのも悪くはないからな・・余興だよ」
ニヤリと笑うクラークさん、不敵も不敵だ・・
「了解です♪ボクの術が剣聖帝に通用するか試しておきたいですしね」
・・法王VS剣聖帝なんてドリームマッチが意外なところで実現したな・・
「あ・・のぉ・・、止めなくていいんですか?」
俺の隣で観戦していたツェーラもなんだか不安そうだが・・
「心配無用さ、スクイードに疾空を回避させたほうがよっぽど無謀だし」
「・・はぁ・・」
ツェーラにはどうにもクラークさんが強そうには見えないらしいな
ま・・大抵の人はそう見えて、後悔するんだけどな♪
俺も最初はほんと痛い目にあったよ・・
「そんじゃ、遠慮なくいきます〜。疾空!」
遠慮なしの20発、スクイードの時に比べてはるかに軌道が複雑だ!
「すごいな〜、よっ、ほっ、・・っと!」
蛇行し交差しながら襲い来る疾空をクラークさんは難なく避けている、スクイードとは大違いで全て最小の動作で、
確実に捉えられた時は軽く横飛びして的確に外す。
戦場でも防具を装着しない剣士の凄さを垣間見るな
「お見事・・、疾空をこれほど華麗に回避した人は初めてですよ」
「ははは、まぁ・・敏捷性には自信があるからな」
「では、さらに強化したのがありますが・・試します?」
ニヤリと笑うフィート、こいつなりにアレンジした術か・・危険そうなんだが・・
「いいぜ?きなよ」
「では・・・、ストームブリンガー!」
轟!
フィートの腕より放たれる風の弾丸、それも一気に放たれる・・数は・・40発・・!
さらにその刹那に同じように疾空を上空に打ち上げる・・こちらはざっと見て50,60はあるな・・
なるほど、最初の40発で動きを止めてその地帯全体に雨のように降り注がせる気か!
「派手な術じゃのぉ〜、これはクラークでも回避できんじゃろ♪」
「・・メルフィさん、それは・・どうでしょう?」
笑うメルフィ、違う意味で微笑むクローディア・・
流石、クローディアは肌を合わせた仲だけあって慌てないな
「こりゃ、すごいなぁ!」
襲い掛かる風の雨にクラークさん、全く動じずに愛刀を鞘のままで居合いを放つ!
ドン!
放つ鞘居合いは足場に放ち衝撃で土を舞い上げる、それで疾空の軌道が少し変わった。
「おっ、とっ、とっ!!」
一瞬の隙ができれば後は回避しながら距離を開ける、背を向けず、素早く、確実に疾空を回避して安全圏まで逃れた瞬間・・
ドォン!!っと上空を舞った疾空の雨が一斉に降り注ぎさっきクラークさんがいた地点にでかいクレーターができた
・・えらい威力だな・・殺す気かよ
「いやぁ、回避されるとは思いませんでしたよ。これは改良の余地がありますねぇ」
その割には爽やかなフィート君、二面性バリバリっすね
「な〜に言ってんだよ、避ける事を予想した上でぶっ放したんだろう?」
「ははは・・お見通しですか。ともあれ、参考になりました。確実に命中させる術としてもっと改良できそうですよ♪」
「まっ、がんばんな。こちらも久々に紙一重ってやつが味わえて満足しているよ」
・・両方、化物だな・・
「でかい穴を掘りよって・・。これでは妾が遊べぬではないか!」
何故かメルフィが怒っている・・、うむ、精神年齢は見た目相応だな
「スクイードさんの特訓に支障が出ますね〜、メルフィさん、パパッと直してくださいよ?」
「む・・しょうがないのぉ・・」
「おいおい、お子様がどうこうして直るような穴じゃないぞ?」
スコップで埋めるとなれば〜、一月はかかりそうだな
「ふん、こんなもの・・あのヘタレの息が整うまでに終わらせてやるわ!」
大威張りで俺達から距離を取ったと思うと・・
ぺカー!
メルフィの体から眩い閃光が放たれそれと同時にそこには一頭の飛竜の姿が・・
竜騎士が乗るようなワイバーンとは違い大型で黒い竜燐を持っている、こりゃ・・並の竜じゃないな・・
『すぐに終わらせるぞ〜!』
念波により頭に響くメルフィの声・・
これってやっぱり・・
「竜人って、ほんとだったんだなぁ・・」
「まぁ、人間味溢れているので誰も最初は気付きませんからねぇ」
そりゃ、な・・
『ふん!』
対し飛竜メルフィは翼を広げ大空に羽ばたき、さっさと雑用に済ましにいった
・・・やっぱり、ユトレヒト隊は全員変人だな・・
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