第六話  「惚れた女のためならば」


冒険者チーム・・

まっ、何でも屋がパーティーを組んだわけなんだからハイデルベルク国内でもその数は無数にある。

騎士団が統括している国とは言えども国民の頼み事全てを騎士が処理できない分冒険者として活躍する場は意外に広い。

冒険者なんだから冒険しろって言うもんだが実際のところ、未開拓地に行くにしても金はかかる。

それの費用を稼ぐ事に仕事をするために「何でも屋=冒険者」って印象が定着したんだ。

だから冒険者にもピンからキリまで幅広く揃っている。

ピンの方はそれこそ騎士より優れた存在だしキリなんかはほぼゴロツキ、っうかチンピラ

それはチームでも同様で優れた冒険者チームってのは騎士小隊よりも実力が上である事が多い。

そんだけ世界を見てきているもんだからな・・。

ゴロツキ冒険者チームなんてのは大概馬鹿貴族の私設兵隊みたいなのになっているので割愛します

それは置いといて、これから俺達が厄介になろうとしている冒険者チーム『ユトレヒト隊』は

正しくハイデルベルク・・いや、周辺の諸国全てひっくるめた上での最強冒険者チームだろう。

面々の実力の全てを把握しているわけじゃないがなんつったってリーダーは元傭兵公社の剣聖帝クラークさん、

サブ?リーダーが義賊セイレーズを受け継ぐ天才騎士ロカルノ

そのお供に最狂のビースト、ことセシル=ローズって顔ぶれだ。

正直これだけで国滅ぼせます、三番目の人が特に・・。

まぁ他にも有能な人物が色々と・・、そんな訳で打倒スクルトに対して色々と助言ももらえるだろうって事で・・

場所的にもスクルトの目が届く所じゃないし暴れまわっても良いだけのスペースもある

後は、当人さん達の許可があれば・・って事でアポなしで突入・・




「いいぜ、別に」



ユトレヒト隊館に到着した処で偶然にも庭先で日光浴していたリーダーのクラークさんの返答・・

開口一番に泊まらせてくれって言ったのに即答するとは・・流石に流石・・

「いつもながら・・あっさりだよな〜・・」

それがわかって言っているんだけど、それでも口に出ちゃうな

「お前1人ならタイムさんと痴話喧嘩でもしたって事だろうが後ろに数人連れがいるんだ。それなりの訳があるんだろう?」

軽い白シャツにデニムズボンな格好、茶髪の髪に小さな丸眼鏡をかける姿は全然強そうに見えない・・んだが

中身は化物です・・いや、ほんまに・・

っうか・・

「喧嘩なんてしないっつうの!でもほんとにいいのか?・・なんだか・・また増築したような感じだけど・・」

前来た時よりも館が大きくなっている・・、まぁこの人、名大工でもあるからそのくらい軽いんだろうな

「ん〜、まぁ暇つぶしにな。折りよくロカルノ達はお仕事で遠征中だ。部屋も余っているんだし遠慮すんな。

とりあえずは中に入れよ」

「あ・・ああ・・」

いつもながらの呑気のペースに巻き込まれながらも俺達は館内に招かれた。

なんというか〜、スローライフって感じがするよな・・



・・・・・・・・


招かれた後に溜まり場みたくなっている談笑室に通され軽く腰を下ろす、

スクイードやツェーラは元より、フィートまで緊張の面持ちなのだがクラークさんは全く遠慮なし。

どうやらロカルノとセシル、そしてもう1人が出払っているらしく

騒ぎに気付いたのかクラークさんの女であるクローディアとキルケ、

そしてもう1人桃色髪で額から角を生やした巫女服の少女が入ってきた

軽く挨拶をすませた後、俺は事の成り行きを説明する。

スクイードとスクルトの対決、ツェーラの恋愛成就。

話をしていく内にメイド服姿の金髪ロリ娘キルケの顔つきが変わっていき鼻息が荒くなっていく・・

「がんばってください!応援しますね!ツェーラさん!」

どうやら・・その手の話に弱いのか完全ツェーラ支持らしい、目が輝いているよ、目が・・

「ありがとう・・ございます」

初対面ながらにその気迫にツェーラは圧されている・・

「実際がんばるのはスクイードだぜ?まぁ人助けって奴か・・・」

「じゃが・・珍しい話もあったものじゃのう。白狐族と言えば氷華草を守る一族・・そのような事で里を離れる者がこうもいるとは・・」

一角娘メルフィ、クラークさんの説明だとやっぱりというかなんというか、普通の少女じゃなくて実は飛竜なんだって

生活するにあたって不自由が少ない人の形態を取っているらしくこう見えて結構な年齢らしい

そのためか妙に威厳がある物言いだぜ

「メルフィたんは白狐族について詳しいのかな?」

フィート・・、あからさまに傲慢なメルフィを口説く気か・・?

「馴れ馴れしいぞ、法王・・。妾は高位なる飛竜!そのくらい知って当然じゃ。

氷華草は局地に住む者達の命の花・・霊的な存在でもあるが極めて希少な薬じゃな。

最高準の霊薬精製に必要な物とされておりそれだけでも死者すらも甦らせる花じゃ。言わばこの世界の宝とでも言うべきものじゃよ」

「そうです・・よく、ご存知ですね」

「ふっふん!御主達とは寿命が違うからのぉ・・少し、知識をひけらかしてしもうたかのぉ・・」

やたらと偉そう、でもひけらかして何気に嬉しそう。

苦笑いするクラークさんの様子から察するに、精神年齢は高くはないらしいな・・

「ともあれ、ルザリア騎士団にもツェーラさんにとっても負けられない戦い。スクイードさん・・御武運を・・」

真面目にスクイードを励ますクローディア、なんつぅか・・女っぽくなったな・・

「がんばるよ、クローディア。女性に対してここまで意地になるなんて、恥ずかしいんだけどね」

「いえっ・・大切な事だと思います」

「・・君も、変わったね・・。なんと言うか・・穏やかな顔つきになったような・・」

「私も、剣士である前に・・女ですよ」

静かに微笑むクローディア、クラークさんと結ばれてクローディアも幸せそうだなぁ・・

うんうん、姉御も安心して成仏できたわけだ。

「そんじゃ俺達は別に手を貸す必要はないようだな。・・必要ならこってりしぼってやってもいいんだぜ?」

「えっ、遠慮します!」

「クラークさん、スクイードの体力なら死ねるって・・」

実力の差が有りすぎるってなもんだ、冗談なんだろうがスクイードの奴顔が真っ青になってら・・

以前無謀にも挑んだ時に相当自信を奪われたようだな

「まぁそんじゃギャラリーもできそうだしスクイード、まずはお前の実力でも見せてもらおうかな。

お前のタイプからして装備も決めるから私服のままで裏庭に出なさい」

まっ、こいつの敏捷性がどれだけのものなのかで決闘スタイルも変わる。

鎧ってのは防御をあげるが機敏さを奪うからな・・

「変態・・わかった・・」

よしよし、そんじゃ強化合宿のはじまりはじまり〜・・


・・・・・・・・



「・・ってかさ、何で物見見物でゴザなんて敷くんだよ・・?」



裏庭に集合後、何故かキルケがゴザを敷き他の面々もお菓子片手に観客者状態・・

「何を言う、付き合ってやるんじゃ・・せいぜい妾を楽しませるがよい!」

「・・メルフィはん、趣旨わかってないやん」

「大事の前の小事じゃ、気にするな」

この娘には目付け役が必要だな。下手すりゃセシル並に危険な存在かもしれねぇ

「え〜っと、クロムウェルさんは米酒がいいですか?それとも葡萄酒にします?」

・・キルケ・・

「クラークさん、ここってこんな感じなのか・・?」

「まぁ何事も楽しむのが大切なんだよ」

「そうですそうです♪」

「・・あまり羽目を外すのもどうかと思うのですが・・」

クローディアのみがしっかりものだな、まぁ・・俺が言うのもなんだけど・・

「・・・まっ、いいや。そんじゃスクイードが攻めでツェーラが捌いてくれ。

とりあえずはそこそこ本気ってことで・・ツェーラ、いけるな?」

「・・はい・・!」

白い布ドレスのまま精神集中をしているツェーラ、得物はシトゥラと同じ骨を加工した骨剣の二刀流。

移動中に聞いたんだが白狐族の女戦士はこのスタイルが多いんだってよ。

でもスクルトは短剣一本でのスピードファイター。男と女とで扱い戦法が少し違うんだってさ。

「ツェーラ、全力で行くよ・・!」

対し気合十分なスクイード君。革のジャケットにデニムなズボン着用に得物は持参のハルバート。

黒ツンツン頭で真面目面なのにイッチョ前に私服は格好つけてますな・・

前はもっと無頓着なものだったんだが・・こりゃシトゥラの影響か・・

ファッションに気をつけてもシトゥラはなびかんよ、あいつは内側と強さを男の価値としてみているのだからな・・

「そんじゃま、はじめ〜」

パンっと手を叩き訓練開始!


「うおおおおお!!」


気合とともに走りだすスクイード、いつもながらに猪突猛進な戦法。

そして放つはハイデルベルク騎士団槍戦術教義本にも載っている突撃用の槍術『ブースト・スティン』

柄の底部を握り槍のリーチを活かした踏み込み突き、その手の技はどこの流派にもあるもんだが

このブーストスティンは一際無謀、勢いをつけて間合いに入り深く踏み込み渾身の力で突く。

当たればその威力は正しく絶大、現にこいつなんざ強行突入の際に門をよくぶち破っている

だけど外れれば途端にピンチだ。

「・・甘い!」

ほ〜ら、ピンチ。

獣人戦士であるツェーラの反応はスクイードの短絡的な攻撃を見切り飛びあがる

ただでさえ槍ってのは隙ができやすい武器、それをここまで大振りにしちゃまず過ぎでしょう

「く・・!?」

自慢の踏み込みが通用しないと焦ったのもそれまで、ツェーラは華麗に宙を舞いハルバートの上に降り立つ

それとともに軽く回し蹴りでスクイードを蹴り飛ばして勝負あり。

一応は手加減しているな

「は〜い、それまで〜。まぁ激しく予想通りだな・・」

「く・・ま・・まだまだ!!」

「落ち着けっての、まずは何故負けたかの反省点を考えろ」

いきり立つスクイードの軽くなだめる、まぁ流石に行き当たりばったりというわけにもいかないスクイード。

大人しくさっきの状況を分析する

「そんじゃツェーラ、今の感想をどうぞ」

何だか俺が司会進行みたくなっているけど・・まっ、いいや・・

「え・・っと、今のスクイードさんの一撃は威力が高くてまともに受けたらただでは済みません。

ですが踏み込みの速度は速くても軌道が単純で回避は容易です」

「う・・」

・・そうだろうなぁ・・

「っうかそれってシトゥラにかすりもしなかった技だろう?スクルトにも当たらないだろうなぁ・・」

「ならば・・もっと速く突くしか・・」

ダメだな、こりゃ・・

まぁ元々こいつって一撃必殺指向があるんだし〜

「クラークさん、スクイードに対して一言どうぞ〜」

「ん・・?俺か。そうだな〜・・スクイード、今の見る限りお前って単発で仕留めるのを得意としていそうだけどさ。

相手を良く考えろよ?」

「相手を・・?」

「俺は本番相手は知らないけれどもツェーラと同じ獣人戦士なんだろう?ならば大概機動性を活かした戦い方をするはずだ。

言うなれば防御を犠牲にして全て回避する戦い方、そんな奴相手にこれでもかってぐらい力を込めた攻撃なんか不要だ」

全くその通り、防具なんてつけない白狐族に対してそんな大振りな一撃は不要

「それに・・、突きでの戦いは命中精度が低いです。斧槍を使うのでしたらもっと切り払ったほうがいいのでは・・?」

「クローディア・・なるほど・・切り払う・・か・・」

「意見は皆同じってところかな。まぁ元々機動性に優れた戦士に対し槍で挑むのは分が悪い、

そんな相手に勝つには〜自分の間合いに入らせないように斬撃で応戦、決定的なタイミングがつかめた時にのみ突きを放つってところか。

そのためのハルバートだろう?」

重たく扱い辛いというハルバート、それでも性能としては至極優秀だろう・・こいつ、全然活かせてないけど

「そうですね、スクルトも動きはかなり早いです。懐に入られたら急所を狙われます・・

自分の間合いに入り込まれないように戦うのが一番でしょう」

「だ・・だけど、それだと斬撃を抜けられたらもう後がないって事なのか・・?」

槍は懐に潜られると危険だからな。機敏な動きをする相手ならばなお更・・

ううむ、今更ながらにスクイード、分が悪いな

「それを補うもんはあるだろう?」

んっ?クラークさんがニヤケてら・・

「クラークさん、それは・・一体・・?」

スクイードには理解できていないようだ、俺もわからん・・

「両手両足、それで応戦する。槍とは違って小回りも利くだろう?」

・・なるほどなぁ・・、そういや東国での槍使いってのは体術と槍をうまく使うスタイルだったな。

そういう戦い方なんて頭にないだろうな、騎士だと・・

「つまりは・・変態みたいに接近されたら体術を使う・・っという事か・・」

「まぁ、槍を持ちながらでもそれ相応の動きはできるもんだぜ?俺も似たようなスタイルだものな・・」

「そういやクラークさんは体術と剣術ベースだものな。まぁ緊急回避用に使用するのとは違うんだろうけど・・」

「当たり前だ、とにかく・・そうした点を意識してやってみろ。ツェーラは遠慮なく叩け、スクイードのためにならないからな」

「は、はい・・」

クラークさんの意見に飲まれるスクイード&ツェーラ、とりあえずはツェーラの動きについていくために慣れさせるところから・・だな。

徹底的にぼこられてもらいましょうか・・


「うおおおおお・・・!」


幸い、本人はやる気のようだ、こりゃ骨が折れても大丈夫かな♪


・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・



結局に日が暮れるまで訓練は続けられてスクイード君はボロ雑巾になりました♪

それでも最後まで意地でもツェーラに立ち向かったのは〜、やはり惚れた女のためなんだろうな

いやぁ、恋愛は男を強くさせるもんですねぇ・・


「打撲傷で腫れあがってましたけど、とりあえずは傷は完治して熟睡してます。打たれ強さはすごいですねぇ・・」


夕食後、東国の畳調の和室にて寛ぐ俺達にキルケが安堵の息をもらしながらやってきた。

ダウンしたスクイードの介抱をしてやったのだ。

この子は本来ならばエクソシストらしいんだけど治癒に関しての能力は高いらしくユトレヒト隊の治療担当を担っているんだとさ。

そんなわけで訓練終了と同時にぶっ倒れたスクイードの世話をして今終わったわけで・・

「ごくろうさん、まぁ〜頑丈さは評価できるな・・」

「まぁ、毎日俺にボこられているからなぁ・・」

・・って・・キルケが普通にクラークさんの隣に座りべっとりくっついている・・。

クローディアは流石にそうはできずに正座してら・・

ううん・・この三人の関係、複雑だなぁ。

まぁうまくいっている事には違いないんだろうけど・・

対しメルフィはもくもくと茶をすすりツェーラは少しやりすぎたのでは・・っと後悔している様子。

因みについでについてきたフィートは畳が始めてのようでツェーラと同じく結構戸惑っていた

意外に世界が小さいもんなんだ・・

「それで、先輩・・今日一日のスクイードさんの様子を見てどうでしたか?」

「う〜ん・・まぁそうすぐに自分のスタイルなんて変わらないもんだけど〜、それなりに様になっていたんじゃねぇの?」

攻撃はツェーラにかすりもしないんだが致命的な隙はだいぶ少なくなった。

ちょっとした注意で隙というのはなくなるもんだ

「だけど、一撃必殺指向なところはまだまだ・・だな。

今日のツェーラの動きからしてスクルト相手でも無傷で勝てるとは思えない。

零に近い距離でも攻撃を回避できるだけの動体視力を養う必要があるな」

キルケの肩を揉みながらクラークさん、流石に分析能力も長けているもんだ

「ですが・・ロカルノさんがいたならば槍の助言もできたのでしょうけど・・」

ただ今出張中・・だな。クラークさんもクローディアも刀、キルケは戦闘向きじゃないしメルフィは意味不明・・

まぁ元々ユトレヒト隊に頼むつもりでもなかったんだけどな・・

「そういや〜、なんか同じ部隊って言ってもクラークさんとロカルノで別れている感じがするよなぁ・・」

グループ別けされているような感じがするし

「まぁ、セシルが仕事に行くにはロカルノの保護観察が必要ってことも関係しているんだけどな」

・・なるほどな・・

「それにしても・・まどろっこしいのぉ・・、もっとぱっぱと張り倒せばよかろうに・・」

「それができないから難儀だっての。そんじゃ・・明日は動体視力の訓練だな。

う〜む・・フィート君、出番だ!『疾空』は使えたっけ?」

高速で連続に十数発の風の弾丸を放つ術『疾空』

元はアンジェリカさんが得意とする術なんだけど・・

「何を言っているんですか、先輩?アンジェリカさん如きができて僕に使用できないわけないじゃないですか♪」

棘があるねぇ、流石はアルマティ出身・・

「そんじゃ、近距離にて加減をした疾空にて動体視力訓練だな・・キルケ、今日よりか傷が増えると思うから一緒に様子を見るようにしてくれよ」

「は〜い♪わかりました♪」

元気なお嬢ちゃんだなぁ・・

「動体視力の訓練かぁ、ははは・・お前の時を思い出すな♪」

「あれは・・ほんと、風の弾丸食らうよりかきつかったぜ・・」

あれは俺が13部隊に配属になって姉御の元で体力増強のシゴキにあっていた時・・・

上半身のみで避けろって事で近距離から姉御が石を投げてきたんだけど、

何故か投げる石全てが刃物のように尖っているやばいヤツなのに全力で投げてきたんだ・・・

一切遠慮が無かった分夥しく血が飛び散ったもんだ・・

スパルタってああいうのを言うんだろうなぁ、まぁあれがあるからこそ今の身体能力に自信が出来るんだけど

「まぁ、傷が多いのは実のある訓練の証拠だ。存分に傷ついてもらおうじゃないかい・・」

「血が飛び散るほどやっちゃってくださいね、フィートさん♪」

「え・・あ・・うん・・」

爽やかな笑みを浮かべるキルケにフィートが引いている・・

なんだろうね、爽やかな良い子なのにどこか危なっかしい物を秘めているな。

まぁ方針が決まったんだ、スクイードには早々に眠りについて

明日からしごかれてもらいましょうか・・


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