第三話 「僕の子供を産んでください」
スクイードと共にスクルトを連れて屋敷に入る俺
幸いというかなんというかスクイードがいるので門番(受付)のサリーさんには軽く言ってスクルトの屋敷内での移動を許可してもらった
・・俺だったらたぶん却下されているだろうなぁ・・。
ほんと、受付が私情で拒否するなっての。
まぁこの際それは良いとして・・、やはり街の守りを担う騎士団屋敷だけにその場に流れている空気は荘厳たるもの
それにスクルトは完全に飲まれている
青いなぁ・・。こういう神聖な場所で女を抱けるぐらいでなければ男じゃない!
・・それはそれで問題?気にするな、・・団長公認だ・・
そうこうしている内にテント郡担当室に到着、スクイードが無造作に扉を開けるのだが
未だにシトゥラが淫らな姿のままで寝転んでいそうで俺としては少し身構えてしまう
しかし室内では何事もなかったかのようにシトゥラが事務処理をしていた
「帰ったよ、シトゥラ」
「んっ・・事務処理の方はあらかた終わっている」
・・流石はシトゥラ、発情してここで交わっていても仕事はきちんと終わらせているのか
「シトゥラに任せていたら安心だな。ああっ、それでシトゥラに来客がいるんだよ」
「私に・・?」
「副隊長!お久しぶりです!」
俺とスクイードの後ろにいたスクルトが勢い良く前に出て叫ぶが如く再会の言葉を伝える
上がっているよ・・おい・・
「・・スクルトか!懐かしいな・・!」
こんがりと焼けたスクルトにシトゥラも懐かしそうに微笑む。
ふむ、ただの仲じゃなさそうだな・・・
「はい!今回は成人の儀を無事に合格したのでその報告をしにきました!」
「・・そうか、お前もついに戦士として認められたか・・」
ふぅん・・人が良さそうな奴でもそれなりにやるみたいだなぁ
「・・おい・・変態、成人の儀って何なんだ?」
・・そうか、スクイードに取っちゃ白狐族の風習なんて知らないだろうしな。
「白狐族の風習だよ、詳しい内容は聞いていないんだけど命の危険を冒す度胸試し・・ってところだな。
成人とともに戦士として認められるために男はほとんどが受ける試練なんだよ」
「そうなのか・・、人間とは大きく違うのだな」
「まっ、シトゥラ達が少し違うのさ」
懐かしむように他愛の無い事を話しているスクルトとシトゥラ、これを見る限り別の世界の人間であった事を思い出させるなぁ・・
「そ・・それでですね、副隊長・・。報告とともに一つお願いがあるのです」
「・・ん・・?どうした?」
「成人の儀を終わらせるために・・僕の子供を産んでください!!」
顔を赤らめるスクルトに開いた口が塞がらない俺達・・
「ふむ、そのためにわざわざ来たのか。・・・私でいいのか?」
対しシトゥラは何事もなかったのように話を進めていくのであった・・
・・・・・・・・・・
「スクルトの奴、何度も試験に落ちても諦めずに戦士になりたかったようだな」
「・・・ああ・・」
「まぁそれも強いシトゥラに憧れ自分の子供を孕んで欲しい・・その一心であるとはなぁ・・」
「・・・ああ・・」
「白狐族の成人の儀で戦士として認められた男は自分の子を孕んでもらいたい女性を指名できるらしい。
シトゥラもさほど抵抗はないようだが・・な」
「・・・ああ・・」
昼下がりのルザリア騎士団野外訓練場、その片隅に三角座りをして白く完全燃焼しているはスクイード。
スクルトの大胆な願いとそれを断らなかったシトゥラに対し驚き燃え尽きたという事だ
因みにシトゥラはスクルトの仔を孕む事に異論はなし、
だがルザリアに世話になっている分そう簡単に承諾はできないとその場はそれで済んだ。
具体的な事は団長であるタイムが帰ってきたから・・ってな。
話によるとスクルトは落ちこぼれもいいところでよくシトゥラも面倒を見ていたらしい。
それだけにスクルトにとっては自分の最初の相手として仔を産んで欲しいという気持ちは強い
純朴なスクルトらしいと言えばそうだが現時点でシトゥラとただならぬ関係にあるスクイードに取っちゃ衝撃もいいところ
堅物な性格のスクイードに取っては想い人の妊娠というのは一大事・・それ故に可哀相なぐらいに燃え尽きている
「そんで、どうするんだ・・?」
「・・・・ああ・・?」
ダメだ・・上の空だよ・・。
まぁシトゥラの気持ちはさておきに一応は男と女の関係、スクイードも規律がなんだとか言いながらも馴染んでるしなぁ・・
こりゃタイムが帰ってきて長期休暇の承認がされたらほんと無断欠勤が続くかもしれん・・。
おまけにそれを機に下界見物が切り上げられる可能性もある、そうなったらこいつひょっとしたら・・
いやっ、考えないでおこう。寝起きが悪くなる
「う〜ん、ここは一つ!恋愛名人であるこのクロムウェル様がアドバイスをしてくれようぞ!!」
「・・・はぁ・・」
おいおい、無視かよ
”誰が恋愛名人なんですか〜、先輩〜”
むっ、この女の敵のような声は・・!
「フィートか、ここは一応騎士団の敷地だぜ?」
道路を隔てている木々の間から飄々と歩いてくるフィート君、エネとは一緒じゃないようだな。
・・・まぁ、仕事中なんだし・・な
「まぁまぁ、一応は顔パスな身分なんですから〜・・でっ、スクルトさんは上手く案内できました?
エネに確認しておいてくれって頼まれましたので・・。って・・スクイードさん燃え尽きてますね」
地べたに座り真っ白になっているスクイードに対してフィートも流石に引いてら
「まぁ、無事目的は果たせたぜ?そのせいで面倒な事になっちまったんだが・・」
「面倒?まぁ色んな意味でトラブルメーカーっぽい人みたいでしたしねぇ」
「純朴な迷惑だ。実はな・・」
簡単に説明してやるか、まぁそんなに難しいことでもないのだが・・
・・・・・
「なるほど・・、つまりスクイードさんはシトゥラさんをスクルトさんに取られかけているわけですね」
「ま・・、そんなところだ」
こいつにゃ細かい事等関係ない、だからこそ超エリートの道を捨てて何でも屋なんて気ままな事をやっているんだからなぁ・・
「う・・」
「っというかさ、今までなし崩し的に関係が進んでいたけど結局の所お前、シトゥラの事どう思っているんだよ?」
元々俺が仕組んだ事で当初の計画としてはスクイード、女と同居できずに路頭に迷うって事だったんだが・・
結局はそのまま同居になってしまったんだ
「そ・・それは・・」
「まぁ何とも思っていなかったらシトゥラさんを手放すでしょうが〜、自ら意志表示しなければ彼女には伝わらないんじゃないですか?」
「そんな事は!」
「シトゥラの事だ。お前が好きって言わなかったらスクイードの事をただの宿主か性欲処理相手ぐらいしか見ていないかもな」
「う・・うう・・」
あ〜らら、落ち込んでいるよ。ったくこいつも不器用だな・・
「だからこそ、今こそそれを清算するんですよ!『スクルトの子を孕むな!シトゥラの胎は俺のモノだ!』って宣言するんです!」
「い・・あ・・、だが・・スクルト君も・・シトゥラのために必死になってきた・・そうだし・・」
「この・・馬鹿者がぁぁぁ!!」
ドベシ♪
「ぬがぁぁ!」
腑抜けスクイードにドロップキック!!人がいいにも程がある!
「他人がどうだとかは関係ない!要はお前がシトゥラをどう思っているか!そしてこの事態に自分がどうしてほしいのかを伝える事だ!
だから今までチェリーだったのだ!」
「へ・・変態・・」
「そうです、人間なんて所詮エゴの塊、ここでスクルト君のためとシトゥラさんを譲ったとしてもそれで満足するとでも思いですか?
奪うんですよ・・全ては自分のため、自分さえ良ければそれでいい・・その心が大切なのです・・」
・・・こいつが言うとほんと悪魔の囁きだよな・・
「・・・・・・・」
まっ、確かに他人がかわいそうだと言う様な物分りが良い奴に恋愛なんざ無理だな。
独占欲ってのは大切なんだよ・・有りすぎるのも問題だが・・
「僕は・・僕は・・」
「まっ、俺達だけの意見だけで結論が出ないなら他の奴にも相談すりゃいいだろう?」
「そうですそうです、こうした問題は個人では中々切り抜けられないものですからねぇ」
そりゃな、タイムだってそれで何時までも悶々としていたみたいだし・・。
まぁあいつの場合は近くに相談できるほど気を許した相手がいなかっただけなのかもしれない。
セシルなんぞに相談されたら俺が氷漬けにされてお届けされただろうしな
「それでは、頼るべき仲間の元へ相談に行きましょう〜♪」
・・フィート・・暇なのかやたらと乗り気だな・・おい・・
・・・・・・・・・・・
テント郡室長のスクイード、タイムほどではないがあの若さの割には良い職位についており騎士団内での評判も悪くはない
悪くはないんだが・・シトゥラと同居している時点で独身男性騎士達から嫉妬の眼差しを受けている、
これが女同士だったのならばトゥーシューズに画鋲が入っていただろうな
まぁ、その難しい性格な故に私情を相談する相手ってのはそうはおらず結局頼る人間は限られてくるわけだ。
そんなわけでは相談相手となったのは・・・
「青いわね・・。それでも室長かしら?」
講義室にて書類作成していたアンジェリカさん・・加えて・・
「スクイード室長は押しが弱いんですよ、押し倒して犯して〜、記憶球で撮影したらこっちのもんですよ♪」
「犯罪だ・・・いや、シトゥラさんならば平気な顔をするか・・」
カチュア&キース、担当課に見知らぬ男がシトゥラと仲良くしているのを怪訝な顔で見ていたところを捕獲しますた。
そして後は・・
「まぁ・・、それでなくても押しは大切です」
金髪縦巻き髪美熟女メイドのアイヴォリーさん。偶然講義室の掃除をしていたところを鉢合わせして話に乗ってきた。
ベイト達だったらそれなりにいい相談相手になるかな・・
・・何故それなりだって?・・普通のメイドじゃないもん・・
「それでは人生の先輩であるアイヴォリーからは何かアドバイスはあるのかよ?」
とりあえずは年長者の意見を参考に・・
っというか〜、アイヴォリーの男関係なんて聞いた事がないしなぁ・・
「そうですね、恋愛というのは常に奪い奪われです。ライバルが出てきたのであるとしてもその私情に流されず我を通す必要はあります」
・・意外にまともな・・
「師匠・・恋愛なんてした事あるんですか・・?」
「何を失礼な・・。いいですか、カチュア。私はヴァーゲンシュタイン家のメイドの中でも一番男をたぶらかしたメイドです」
それって勲章デスカ?
「そんな事が・・」
「まぁ、ジョアンナの邪魔のおかげで沢山、血が流れましたけどね」
・・・・・・・、アイヴォリーとジョアンナの不仲には戦闘スタイルの違いだけではないらしい・・
”ちょ〜っと!聞き捨てならないわねぇ!”
この声・・ジョアンナさん!ってかどこに・・?
「・・窓よ、二階なのに何をやっているのかしら?」
・・おわっ、窓から首だけ見えている・・・。何だか怖いな・・
「あらっ?そこにいたの?館の壁の補修なんてもっと速く終わらせるべきじゃなくて?」
「うるさいわね!手が抜けれない仕事だからきっちりやっただけよ!」
窓を開け華麗な身のこなしで入室するジョアンナさん。
・・っうかそんなのメイドの仕事なのか?
「その言い方だと普段の仕事は手を抜いているように聞こえるわねぇ」
いつもながらこの二人って犬猿の仲だなぁ・・
「『特に!』気が抜けないだけよ!それよりもさっきの事・・デタラメ言わないでよね!私はあんたの男を奪った事なんてないわよ!
あんたのピンヒールが痛すぎるって私に泣きついたところを保護してあげただけじゃないの!」
「その泣きついた男をサンドバックにしたのはどこの誰かしら?」
「あ・・あれは・・あのおっさんが殴られるのが良いって言ったから・・仕方なく・・」
ある種の似たもの同士ですね
「っうかそれを恋愛というのか?」
「・・脱線しているわよ・・。今はスクイード君の事を話しましょう・・・」
アンジェリカがまともに見えてきた、まぁ色々と濃い事しているけど一応は面倒見はいいものな
「そうそう、室長!男ならバァンと言うべきです!」
「カチュア君・・だ・・だが・・」
「まぁだ悩むかぁ?周りの意見も同じだろう?何ならそのなよっちい根性叩きなおすために全裸で縛り上げてルザリアを練り歩いたろか!?」
堅物が女々しい!気に入らん!
「だぁ!そういう事じゃないんだ!ただ・・スクルト君の事も考えて・・」
「スクイード室長、シトゥラさんと全裸での練り歩きと・・二つに一つよ」
「アンジェリカ教官まで・・」
「なんなら事前にビラを配っておきますか?その方がスクイードさんの裸体の注目度が上がります」
「アイヴォリーさん・・本気ですか・・?」
相談しにきているのに周りが敵だらけになっているような気がするが・・まぁいい・・
決められないスクイードがだめなだけさ
結局しばらく苦悶の表情を浮かべていたスクイードも意を決したようにふらりと講義室を後にした。
どうなるかは・・見物だな・・。
・・・・・・
まぁ一応は俺も関係者ということなのでスクイードの後ろを静かについていきつつ到着するはテント郡担当課・・
中ではシトゥラとスクルトが仲良く話中なのだがスクイードの緊迫した表情に変化は無い
「それで・・ツェーラは元気なのか?」
「え・・、ああっ!元気ですよ!副隊長がいなくなってからはますます強くなって女戦士の中では1,2を争う実力です!」
「そうか・・ふふっ、あいつは妙に戦う事に執着するような性格だったからな・・。私がいなくなった事で火がついたのだろう」
「ははは・・そうですね・・」
「ん・・?どうした?」
「あっ、いえ・・僕が成人の儀を成功できたのも実はツェーラのおかげだったりするんですよ・・。何故か特訓に付き合ってくれて・・」
「ふむ・・そうか、思えば小さい頃からお前達は仲が良かったからな」
「そうですねぇ・・あの乱暴女に振り回された半生です・・」
・・・・、話に華が咲いていて切り込めない状況ですね・・・。
こうした『身内の話』を切り込んでいくには相当な話術を要する・・。
ましてやそれが相手にとってありがたくない提言ならばなおさら切り出しにくい
どうする・・!
どうする!?スクイード=キャンベル!!
「・・ん・・?どうした?スクイード?」
・・ふっ、シトゥラからの助け船か・・だが・・これで後戻りができなくなった・・。
ファイトだ!
「あ・・ああ・・。スクルト君・・いいかな・・?」
「え・・、ああっ、どうしたんですか?」
「じ・・実は・・(ゴクリ)」
生唾を飲み込み静寂が周囲を伝わる、切り出せない・・切り出せないのかスクイード=キャンベル!!
「実は・・?」
「き・・君がシトゥラに仔を産んで欲しいと言う事は聞いている・・だ・・だが・・、
シトゥラは僕達にとっても・・必要な存在なんだ。だから、シトゥラを行かせたくない」
目が血走りながら説明しているスクイード、こりゃ・・ある種の脅迫だな
「スクイード・・」
「だが、君の努力も理解できる。だから・・僕と勝負をしてくれないか。テント郡室長である僕が君に負けるならば何も言わない」
・・話し合いだけではすまさない・・か・・。
こいつらしいな、まぁただ納得してもらうだけの軽い話ではないだろうし
「ぼ、僕と・・スクイードさんが・・勝負ですか・・?」
「ああっ・・頼む!」
深く頭を下げる・・、必死さがにじみ出ておりスクルトも何とも言えない顔になっている
「・・わかりました。皆さんが副隊長を必要しているのはわかっています。このまま僕のお願いを通すのは気が引けましたし・・」
「・・ありがとう、シトゥラは・・それでいいか?」
スクイードの提案に珍しく目を丸くしているシトゥラ、本人としては何故そんな展開になっているのか全く理解できないのかな?
「・・・・、わかった。二人に任せるさ・・」
「ありがとう・・。日程は追って知らせる、それまで窮屈だろうがしばらく・・ルザリアに滞在をしてくれ」
思いつめたまま告げるスクイードにスクルトも圧倒されて頷く。
ううむ、何だか意外な事で決闘となったな。それに対してシトゥラがさほど感心をもっているようにも思えないところが・・
なんと言うか、哀しき決闘になるような気がするだけど・・
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