第七話 「正体ばれちゃいましたか?」


今回の旅の目的地はダンケルクの中でも南東に位置する小さな町フェルティス
ダンケルク内でも特にこれと言った名産品もない辺鄙な町だが町民全員が熱心な三神教者っていうのが一番の特徴か
まぁ宗教は自由な国とは言えこれほどまでの規模になる町は珍しい
普通ならば暴徒化するのを恐れて王が弾圧とか制限をするもんだ・・それほどまでに宗教に憑りつかれた人間ってのは何しでかすかわからん
しかし現ダンケルク王ヤスパール=カルディーノは全くにオープン
「信仰深きことは真に結構、他者にそれを強要しなければ無理に弾圧はしない」
っと声明を出している
まぁ技量が大きいわけだ、・・・たぶんそいつは豪快なおっさんだな
それは置いといてフェルティスはハイデルベルクからの移民で作られた町、故にハイデルベルク国教の三神教を信仰しているのだが
その聖地からはかけ離れてしまったために司祭様などとの合同祈祷ができなく町民はその時期が来ると態々ハイデルベルクの
三神教の聖地である総本山セントゴスペルまで足を運んでいたらしい
その時に司祭に一度町まで来て欲しいと願い出て今回の旅が決定したんだとよ
最も・・ほとんどの司祭は危険を犯してまで他国の小さな町には行かないだろう・・見合うメリットがないからな
人気目的にするにゃ国内で巡礼をしたほうがいいってわけさ
だから本当に教えを信仰をしているエイリークが名乗り出た・・それを損とも思わないで。
まぁそれだからこそそれを評価されたようなんだがな。
・・・・それで命狙われるっていうのも・・やっぱり何だかなぁ・・

「もうダンケルク内・・か?」
今日は一巡してシトゥラが隣に座り、俺に尋ねる・・。
そろそろ髪を括ったシトゥラの姿にも慣れてきたな
まぁ性格はまんまなんだけど
「・・ああ、そうだな。もう針葉樹とかが目立つようになったし」
草むら状態から徐々にツンツンの葉の木が並んできた。気温もだいぶ低くなってきたしな
地図だとちょうどダンケルク国内の最南端、目的の町まで後一日・・ってところだな
「そうか・・この風・・故郷を思い出すな」
「あそこはこんな程度じゃないだろう?」
シトゥラの故郷・・ここより遥か北東にある極寒の山アブソリュートのてっぺん・・
まぁ〜、寒かった!鼻水が凍る体験をしたからな
「ふふっ、ハイデルベルクに比べたらそんな感じがするのでな・・」
「そんなもんなのかね・・しかし・・ダンケルクか。昔来た時には王政崩壊しかけで山賊さんがワラワラいたが・・今では嘘のようだな」
「賊か・・、だが流行らない事をする奴は今でもいるだろう?」
「まぁな。フィン草原都市群よりも注意は必要・・か」
だだっ広い草原は見通しがいい。仕掛けてくるにも相手さんにはリスクがあるからな
確立的には森林が多いダンケルク内の方が奇襲に会いやすい
まっ、慣れているんだけどな・・そういうのも・・

「ね〜!クロムウェル〜!町に寄らないの〜!?」

・・またか、レスティーナ・・
っうか窓に腰掛けて話しかけるなよ
「ダンケルク内の町は俺は詳しくないんだよ。っうか後一日ぐらいで到着するし食料も大丈夫だろうが」
「えっ?そうなんだ〜」
「ちゃんと進んでいる位置を地図で見ておきなさい」
「は〜い!」
二コリと笑い再び馬車内に戻るレスティーナ、・・箱乗り神殿騎士め・・
アグリアスも注意しろよ
「・・このまま何もなければいいんだがな」
「それが一番、ただ罵られるだけで終わるのも癪だがな」
そうなればスクイード君の裸体晒しの刑を実行します。
・・何だったら王都ハイデルベルクの大道芸通りに吊るしてもいい
・・『現役騎士、ストリートキング芸で逮捕』
・・翌日の一面はゲットだな・・
「クロムウェル、また邪な事を考えているな?」
「何っ、俺はあいつを鍛えてやろうと思っているだけさ」
「・・ふぅ、まぁそれに意地になっているから・・お前の言う通りになってしまうのだがな」
「そこがスクイードのらしさ・・だろ?」
「・・違いない」
ニヤリと笑うシトゥラ・・やっぱり同居人という関係じゃなくなっているな
まぁおしどり夫婦みたいで似合いかもしれないけど・・

カッ!

・・っと突如馬車から閃光が・・
「用意がいいな・・」
シトゥラも感心する。別に大した事をやってはいない。レスティーナが符に魔力を込めているんだ
これを『スペルインストール』って言ってここらの符術師には絶対必要な下準備。これをやらないとただの紙切れだからな
だから戦闘毎にレスティーナはこうして符のストックを作っている
実際の戦闘での負担は少ない分面倒な作業があるわけだ。一回の戦闘でも結構消費していたし
「まぁあいつの生命線だろう?護符がなくなった符術師は矢がない弓士みたいなもんだろうし・・」
軽い口調のレスティーナだがこの時ばかりは真剣・・だそうだ。車内でしかしないから俺は見たことない
戦闘もきっちりこなしているし・・、まぁ根は真面目なんだろうな
ちゃらんぽらんに見えるのはキャラなんだろうさ
「では、私達もがんばらないとな」
「・・そうだな・・」
目で合図を送る・・それと同時に

疾!!

シトゥラが短剣を鋭く投げる・・、元々飾りのような代物なので投げ捨てる・・って感じか
狙いは前方の木の陰・・だが、何もなかったのように短剣は静かに木々の間に消えていった
「・・・・」
「・・・・」

「ね〜!どうかしたの〜?」
馬車内からレスティーナの声が・・流石に気配の違いに気付くか・・
「うんにゃ、でっかい猪がいてな。馬車からナイフで仕留めようとおもったけど・・仕留めそこなっちまった」
「え〜!猪なんておいしくないよ〜!?」
「ちゃんと料理すれば上手いもんだ」
「ふぅん・・」
それっきり何も言ってこない・・大丈夫だな
「ボソボソ(・・逃した・・な)」
「ボソボソ(・・ああっ、確かに俺達を監視していた。一人・・だな)」
木の枝から視線を感じ取った。まぁ中の連中には無理な芸当さ。獣人や感覚の鋭い俺だからこそわかったのだが
向こうもその対応にいち早くついてきやがった
ボンクラを雇ったわけじゃないようだ
「ボソボソ(やっぱり・・本格的に動き出したのはダンケルクからか・・気を引き締めるぞ。もう座席交代はなしだ)」
「ボソボソ(わかっているさ、彼女達に聞いてみれば人間を殺した事はやはりないらしいからな)」
・・っともなれば敵さんが化け物じゃない以上戦闘で頼りになるのはシトゥラのみ・・か
・・・、状況によっちゃ猿芝居も切り上げなきゃいけないな
まぁ、元凶を始末したらバレてもいいんだけど・・




翌日
警戒を強めたのが効いたのかは知らないが何事もなくついにフェルティスに到着
森林のど真ん中なところにある町でのどかにのどかなところだ
まっ、これがダンケルク気質というか・・建国と同時に獣人差別を無くして平等をモットーにしている分
国民は穏やかな性格の人が多いってな事らしい
「エイリーク様!ようこそフェルティスへ!」
「ありがたや・・ありがたや・・!」
「三女神様に感謝せねば・・」
到着するなりエイリークの周りに町民が群がる・・こりゃ町を興しての行事だな
まぁこういう集りたがりには触ったり引っ張ったりするもんだが宗教関係者なだけあってエイリークとは一定の距離を置いている
代わりに皆手を合わしているのが怖いんだけど・・
っというか指を十字に切らないんだな

「・・皆様、お待たせいたしました。以前お会いしてからここまで来るのに時間が掛かってしまいまして・・」

エイリークも凛々しく応対する。最年少の司祭だから余計に気張っているんだろうな
俺の隣でしゃべっていた時とはまるで違う
「いえ・・神殿騎士様もありがとうございます・・」
「我らの任務は司祭様をお守りする事・・お構いなど・・」
アグリアスとレスティーナもエイリークの傍に付きっ切りでガードしている
仕事熱心だこと・・正規の神殿騎士は真面目にこなしておりますな
俺とシトゥラは馬車の停車ってことで・・周りが良く見える位置にいておきたいものだからな

町は森の中にあるだけに木の造りが多い近くに牧地でもあるのかモグサを保管しておく塔もあり
余り暮らしとしては裕福ではないだろう
そんな中町の中央に建てられている教会は立派な物・・文句なしに町一番の大きさだ
「ね〜!クロムウェルにシトゥラさ〜ん!祈祷するんだよ!こっちにこないと・・」
レスティーナが叫んでくる・・こいつは信者の前でも変わらんな・・
「悪いな、こんな森中の町だ。全員が祈祷するとなれば魔物やら何やらが襲ってきたら危ないだろ?俺とシトゥラは見回りについておくよ」
「・・おおっ、貴重な合同祈祷にわざわざ我らを気遣ってくれるとは・・」
「神殿騎士さまはありがたいもんじゃあ・・」
手を合わせて拝むな・・、ったく熱心というか何と言うか。
シトゥラもなんだがこいつらを見て何とも言えない表情になっている
考えて見ればこいつがこうした人間宗教の信者集団を見るのは初めてか
「いいのですか?お二人は・・」
「護衛が仕事だからな。三人は存分にやっておくれよ」
「ああっ、そうだ。それで・・ここいらの魔物は・・」
「数は多くないですがたまに食料を荒らさせますだ。騎士様・・しばしお願いしますだ」
・・田舎な言葉だ。まぁそれはいいとして本来の魔物の襲撃は余りないようだな
「ありがとうございます・・では、一時間ほど祈祷に入りますので・・」
エイリークの後にゾロゾロ信者がついて行きでっかい教会の中に入ってきた



・・全員が入って祈祷が始まったのか周辺はシィィィィィン・・っと静まりかえってた
本当に町民全員が参加しているんだな、黙祷でもしているのか不気味なまでに静かだ
こりゃ俺達の話も中に聞こえてしまいそうだな
「・・さて、何もなければいいのだが・・どう考える?」
シトゥラも同意見なようで静かに話しかける
「司祭さんが考えるシナリオなんてのは大抵わかる。『信仰深い信者と一緒仲良く祈祷中に教会が火事、哀れエイリークは信者を救うために
犠牲に・・』ってなところかな」
「放火か・・」
渋い顔になるシトゥラ、まぁルザリアでも数ヶ月に一回火事・・それも放火がある。
これにや街に大打撃を与えかねないので現場検証にフィートやアンジェリカまで駆り出されてほぼ100%検挙される
まっ、法皇とその候補だけに全てお見通しってやつだな
もち、無差別虐殺になりかねない行為なので犯人の極刑は間違いなし
中央にまで連行されて3日以内にゃ首チョンパって事になる。それは全国共通だがルザリアでは被害にあった人との対面が義務つけられている
・・もちろん、被害者に棍棒を渡して♪
専門機関が裁きを言い渡した程度じゃ家や店を焼かれた奴は納得いかないもんだからな
復讐法っぽいんだが法律云々で人の心が満たされるといえばそうでもないとタイムがはじめたんだよ
被害者にとってはかなりありがたいらしく半殺し程度まで殴る奴もいる
・・まぁここで殺したら本末転倒だから周りに監視している騎士もいるし犯人も逆らう気力がないくらいまでに
すでに痛めつけているんだけどね
「まぁ、もっと直接的な方法を取るのかもしれないが・・とにかく警戒しようか。俺は教会の周りをやる。シトゥラは・・」
「そうだな・・この上から周辺を見ておこう」
そう言うとシトゥラはとんでもない跳躍力にて教会の屋根に飛び乗った、それも音もなくだ
やっぱりあの鎧はダミーアーマーだな
教会の屋根にて周辺を警戒している・・獣人戦士であるシトゥラならば町全体の気配を察知できるだろう
ともあれ俺も仕事しますか

・・・・・・

一時間弱後
賛美歌まで流れている中神経を研ぎ澄まして警戒していた・・んだが、
襲撃する気配は感じ取れない。だが・・森の中からこちらを監視している気配はある・・
それも俺が感じ取れるギリギリの範囲。
向こうも俺の気配を見てその線を決めているんだろう、かなりの技量だが・・
仕掛けてこないとなると様子見か。俺の力は相手にはわかっていないだろうが
シトゥラの手の内はわかっているだろうからな、教会内で祈祷をしているエイリークの命を狙うにはこの状況ではリスクが高いか
なんせ俺とシトゥラを振り切って尚且つ建物の中に入り狙うのだからな。放火も俺達が目を光らせていればモウマンタイ。
・・町民に紛れたとしても中のアグリアスとレスティーナが何とかするだろう
これは・・帰りが一番やばいかな?
「森の中に数人いたな・・」
「ああ・・殺気もないし完全な偵察だった・・っうか屋根の上から良くわかったな」
「ふっ・・静かな分神経が研ぎ澄まされてな」
流石はシトゥラ、頼りになるぜ
「相手も慎重ってことだな・・おっ、終わったようだぜ」
教会前の広場にて話していたらまた中からザワついてきた・・
祈祷が終わったようでエイリークを先頭に静かに出てきた
「二人とも、ご苦労様です。」
「いや・・仕事だ。祈祷は終わったか」
「うん!皆熱心だからきっと祈りも届いたと思うよ〜♪」
静かだったからなぁ・・たぶん俺が中で一緒に祈ろうものなら・・神経衰弱で倒れているだろうな・・
「でっ、目的は終わったんだろうが後のスケジュールはどうする?」
「そうですねぇ・・都市でのお仕事もありますが・・とりあえずは今日はここで一泊して明日発とうかと・・
町長さんとは話はつけてますので」
なるほど、流石にベットが恋しいわけだな。まぁゆっくり一泊するのも悪くはないか
「責任を持って案内させていただきます・・では・・こちらへ・・」
そうこうしている内に丸っこい体型のおっちゃんが案内をしだした
俺も今日はようやく良い寝床につけそうだ


・・
・・・
・・・・

その夜
町にある宿に人数分部屋を用意されてその日はご馳走を用意された
まぁ他人が作った食べ物も久々なので大いに馳走になって早々に眠りについた・・のだが
「・・・・、セオリー・・だな」
深夜にふと目が醒めた。何かわからないが警戒している時に体が勝手に反応する
・・まぁ、戦場を経験している者にとってはそれが普通らしい
この状況で自然と目が醒めたならその理由は一つ・・

夜の闇に紛れての暗殺

警戒をしなければならないのは当然だ
オマケにエイリークにせよアグリアスにせよ久々の暖かいベットならば深く眠りに付く
俺でさえ深く寝入っていたんだからな
「・・ともあれ、動くか」
鎧は着ずにそのまま黒服のまま・・剣もいいや・・

・・

廊下には蝋燭の灯りが静かに照らしている。・・流石にこんなに辺境の地ともなると錬金灯もないようだ
俺の部屋は一番突き当たり、そのまま一本の長い廊下にシトゥラ、レスティーナ、アグリアス、エイリークの順
つまりエイリークの部屋は一番端っこで一階への階段に近い
「・・!?・・」
ちっ!誰か動いてやがる!
急いで行かないと・・、だが騒ぎ立てて全員起こすのは面倒だ。混乱に乗じて被害が拡大することもある
ここは俺がなんとかしないとな
・・音もなく駆けエイリークの部屋の扉をスッと最小限の動作で開け侵入する
これが夜這いテクだ・・
っと!寝息を立てているエイリークにの横に人がいる・・
黒尽くめの服装・・そして手にはナイフ、間違いない!
「セオリーだな、だがやらせないぜ・・」
「!?」
俺の存在に気付き急いでエイリークに刃を立てるが・・

轟!

寝起きのサンダーショット!アンジェリカの協力あって命中には自信があり振り下ろされる刃に直撃、衝撃が伝い
男は吹き飛ばされる!
「・・ちぃ・・」
「逃がすか!」
体勢を崩した男に追撃をかける!ここで捕らえれば!!
「うん・・あっ・・れ・・?」
うえっ、サンダーショットの閃光でエイリークが目醒めたか!?
「・・・・!」
「あっ!くそ!」
一瞬の気を取られて男は窓から飛び去りやがった!
「ちっ!俺もヤキが回ったか・・」
急いで追おうとするが窓の外は見通しがいいものの今夜は新月
・・あの黒い服装を感覚のみで見つけ出すのは難しい・・
何とか捕らえたいが・・・
「クロムウェル・・さん・・?え・・あれ・・?」
・・完全に起きちまった。こうなったら逃げるわけにもいかない・・
ドタドタ!
「エイリーク様!物音がしましたが・・!」
急いで入ってきたアグリアス・・寝巻きのまま剣を下げている
・・・・・・、
なんか・・これって・・
「・・あ・はい、何ともありませんが・・クロムウェルさん?」
「き・・貴様!何故エイリーク様の部屋に入り込んでいる!?」
激怒なアグリアス・・、まさか暗殺者がエイリークの首狙っていたって・・言えないわな
言ってもエイリークはあの男を見ていないし
ここで正体ばらして彼女の命が狙われているって言うのも・・いやっ、できればこいつらにはそれを知られたくない
「何を押し黙っている、応えろ!」
「あ〜・・はははは・・実は夢遊病の気があるんだよ・・いや、ほんと・・すまねぇな。エイリークさん、ではごきげんよう・・」
「え?あ・・・え・?」
全く理解できてない様子・・よし、このまま振り切って・・
「そんな訳あるか、貴様・・司祭様相手に夜這いを行うつもりだったか!」
やっぱりそうなるよねぇ・・
「・・あの・・アグリアス、夜這いとは・・?」
「いえっ、エイリーク様は安心してお休みください。クロムウェル・・覚悟はいいな・・」
うう・・ヤバイよ・・タイム・・助けておくれ・・
「・・うう・・俺が悪かった・・許してくれ・・」
「こい!痴れ者が!!」
呆然としているエイリークを余所に連行〜・・暴行とはいかないが・・夜通しの説教は覚悟しよう


・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・


「・・それで、こってり絞られたのか?」
「・・ああ、徹夜での説教は・・・堪えるぜ・・」

翌日、町民の歓迎もそこそこに朝から出発した
エイリークは昨日の出来事には一切触れずにそのまま、レスティーナは全然気付かずにアグリアスはもうこれでもかってぐらい不機嫌
・・まぁあいつにとっては守るべき対象がが毒牙にかかりかけたものなぁ
「ボソボソ(それで・・ただ夜這いをかけたわけでもないんだろう?)」
唯一の理解者シトゥラ・・俺は・・お前という友に出会って嬉しいぜ・・
「ボソボソ(ったりめぇだ。あんな堅物のガードをしている状況でそんなことするか)」
「ボソボソ(・・ではっ、やはり・・)」
「ボソボソ(ああっ、ナイフ持った不審人物がエイリークを襲おうとしていた。経路からして窓からだな。・・俺の迎撃にすぐ窓から逃げていきやがった)」
「ボソボソ(ぬぅ・・部屋を二つ三つ向こうなだけだったのだが・・全然気付かなかったな)」
シトゥラの援護がなかったからな、寝入っていたのだろう
「ボソボソ(慣れない旅で疲れがたまっていたのだろう。久々に暖かいベットは格別だったろう?)」
「ボソボソ(・・まぁな。まぁ人肌のぬくもりの方がいいんだが・・ではお前は完全に夜這いをかけたものとアグリアスは思っているのか?)」
「ボソボソ(当たり前だ、暗殺者に狙われているとは口が裂けても言ってねぇ・・そのせいで説教だったがな・・)」
タイムだったら・・頭蓋骨陥没の刑ぐらいにはなっていただろうからまだぬるいんだろうけど
アグリアスの説教は精神的にキツイ
「ボソボソ(ふ・・よく我慢した)」
「・・っ、おい・・」
俺の頭を良い子良い子と撫でるシトゥラ・・恥ずかしい・・
「ご褒美だ・・これで気を鎮めろ」
「・・へいへい、シトゥラらしいな。ご褒美ってんならその胸に抱かれたいもんだぜ」
「・・ほう、私は構わないが・・タイムとアンジェリカは黙ってはいまい」
「うっ!!・・確かに・・・」
アンジェリカが加勢しようものなら・・散々しばかれた後に風による打ち上げに自由落下・・即ち、死あるのみ
・・・・・女の嫉妬は・・怖いからな
「ふふ・・どうする?お前の事だ・・タイムには隠し通せまい」
「っるせー、とほほ・・さっさと終わらせよう」
フェルティスを出て小一時間・・・再びちょうど見通しの良い平野を突き進んでいるのだが・・
そろそろだな・・

ガッ!ガッガッ!!

矢が一斉に地面に突き刺さる・・牽制か・・
「おいでなすった・・」
一斉にあちこちから現れたのはゴロツキ・・にしては立派な武装をしている連中
傭兵崩れってところか・・
板金鎧まで着込んでいる輩もいらぁ
「何事だ・・、むっ・・」
慌ててアグリアスが出てきたがこの様子に唖然とする
「・・、さて、不審者に聞くのも何なのだが・・お前達の目的は何だ?」
スッと座席から飛び降りるシトゥラ・・頼りになる女戦士さん見参!
「・・・・殺れ!」
一斉に得物を抜き出す傭兵達
「仕事熱心だ・・」
真っ向からシトゥラが駆け出す!双剣をフルに使い的確に相手の急所のみを狙う・・対多数戦もお手の物ってわけだ
「アグリアスにレスティーナ!敵さんだ!」
急いで二人に知らせる・・んだが、何だかたじろいでいる
「ええ〜、人間相手に符術なんて・・使えないよぉ・・きゃあ!!」
お構い無しにレスティーナに斬りかかって来る傭兵さん、それをアグリアスが庇いなんとか防ぐ・・
「くぅ・・!こいつ・・ただの野盗ではない!」
アグリアスが圧される・・、何とか切り返して手首を切り払おうとするが空振り・・、殺すつもりがない剣で
傭兵の相手をするのは・・キツイか
「遠慮すんな!連中はプロだ!」
「そ・・・そんな事言ったって〜!!」
レスティーナはもうパニック状態になっている・・三神教の信者故に行き過ぎた事はできないか・・
「くっ・・そ!狙いはエイリーク様か!」
アグリアスも圧されている・・数人掛りで切りかかっている上にレスティーナを庇っているんだからな
シトゥラも奮闘しているが・・連中はシトゥラの腕を見極めてまともに戦おうとはせずに時間を稼いでやがる
手馴れたもんだ・・
「皆さん・・どうなされ・・」
「エイリーク様!今外に出てはなりませぬ!!」
苦戦するアグリアス・・もはやこいつもまともには戦えない、おまけに標的を見つけて一斉にエイリークに向かって攻めだしやがった
こいつら・・確実にエイリークを仕留める気か!
「・・え・・・あ・・」
「エイリーク様!!」
呆然とするエイリーク、傭兵の剣が彼女を襲おうとする・・が

キィン!!!

「・・・、やれやれ・・ここまでか」
自慢のブラックダイヤのナックルグローブ『崩天』にて剣を殴り飛ばす・・
非常事態だ。このまま仮装したままエイリークの命が失われても仕方ない
「クロムウェル・・さん」
「中に入っていろ。こいつらはお前を何としても殺す気だ」
「!!?」
動揺するエイリーク、そんな事お構いなしに動きにくいダミーアーマーを外し本来のスタイルへ・・
「ク・・クロムウェル〜、剣もなしに鎧も脱いだら・・」
「いいから黙っていろ。アグリアス・・お前じゃプロの人間相手じゃ不利だ・・大人しくしていろ」
「戦闘もロクにこなせないスケベに言われる筋合いはない!」
歯軋りしながら唸るアグリアス・・まぁ言っても無駄か
「「・・・・・・」」
そうこうしている間に傭兵達は俺達の周りを囲んだ
「じゃせいぜいがんばれよ・・『サンダーショット』!!」
拡散番の雷だ!喰らえ!!

轟!!

「・・ぐわっ!!」
「ぬおっ!!」
いきなりの雷光に吹っ飛ばされる傭兵達・・俺の手の内は見せていないからな・・
だが見せる間もなく仕留める!

ゴキ!バゴ!ドス!

「・・すっごい・・強い・・」
後ろでレスティーナが感心する・・、まぁ大体の敵は急所に一撃かまして絶命させているんだがな
・・こいつらに遠慮はいらない。例え瀕死の状態でも相打ちを狙ってくる
戦闘のプロってのはそうしたもんなのだ
「・・さて、シトゥラも何とかなったようだし・・後はお前一人か」
無言のまま指示を出していた戦士が一人、他は俺とシトゥラで片付けた
まぁこいつらも並じゃないが俺達がその上を行っていた・・それだけの事さ
「・・貴様・・何者だ・・?」
初めて口を利く傭兵リーダー、強面で頬に傷を持っているおっさんだ。何度も死線をくぐりぬけたようだな
堂々としているぜ
「・・・、神殿騎士・・ってのはもう無理だな。
元傭兵公社第13部隊出身のクロムウェルだ・・」
今の肩書きを言っても知らないだろう・・
「!!!」
まぁ案の定、おっさんの顔が引きつっている
「貴様が・・・あの不死身の13部隊・・だと?」
「まぁ信じる信じないはお前の勝手だ。ともあれ、プロなら一度向き合った以上後退はありえないだろう・・こいよ」
スッと深く構える
「・・ふ・・ふふっ、とんでもないイレギュラーがいたものだ」
オッサンも得物であるトゥハンドソードを大きく振りかぶる
・・相当の腕だ・・が、馬鹿でかい得物を使う相手ならシグマで嫌ってほど経験した
それでなくてもクラークさんのド鋭い踏み込みに打ち勝とうとしているんだ・・
「イレギュラーだろうがイレイザーだろうが結構、倒させてもらうぜ・・・」

・・・・・・

一瞬の勝負・・、いくぜ!
「うおおおおお!」
「ぬおおお!」
速い!・・だが・・!!
チッと髪が少し切れたが紙一重で回避成功!!
「うおおおおおおおおおお!!」

ドン!!

強烈な一撃をおっさんの腹に叩き込み骨を砕く!
「グフゥ!!!」
「まだまだぁ!!」
ドン!ドン!ドン!ドン!!
同じ箇所に立て続けに突き上げる!!
「破っ!!」

バキィ!!

頭が下がったところに強烈な踵落とし!
おっさんは顔から地面にめり込みピクリとも動かない・・致命傷の攻撃を連続で叩き込んだんだ
・・即死に近い?
「・・ふっ、鬱憤はそいつにぶつけたわけか」
戦闘終了ってなことでシトゥラが話しかけてくる、こいつは決闘の手を貸すほど野暮じゃない
「まぁな、これで根こそぎ掃討できたか?」
地面に転がる死体に死体〜、一組織の人数ぐらいはいるか
「そうだろう、まっ、予想していたのとは違ったのだがな・・」
オークを操る集団、噂だけだったか
「・・・・・・、おい・・」
「・・おおっ、アグリアスにレスティーナ・・」
俺を睨みつけるようなアグリアス・・加えて疑いの眼差しのレスティーナ
「クロムウェルって・・何者・・なの?」
「・・お・・俺っ?」
「今の戦いぶり・・騎士のものではない、そしてそれだけの腕を持っていながら何故今まで闘わなかった?」
・・・まぁ、素性を見せたようなもんだからな
「・・クロムウェル・・」
「ああっ、わかった。素性を含めて話をしようか」

・・・・
・・・・

説明をしている内にエイリークとレスティーナの顔は青ざめ、逆にアグリアスは赤くなっている
「・・ってな事だ。お前らに黙っていて悪かった・・できればばれずに済みたかったんだがな」
「・・・・、そんなこと・・が・・」
「何故!!何故総団長や本部は我らを信頼しなかったのだ!!我ら二人の力を愚弄したのか!!」
激怒のアグリアス・・、まぁ・・こいつの自尊心の強さからしては屈辱以外の何者ではないのだろう
「念のためにハゲリバンが俺達に依頼したんだよ、お前らの事が信用できないんじゃない」
「だったな何故その事を話さなかった!我らの仕事は茶番なのか!!!」
火がついた感じだな・・こうなったら治まらない・・
「別にそうじゃない。大体二人は人間殺したことないんだろ?今の状況になったら危ないじゃないか」
「・・くっ・・だが!!」
「アグリアス・・静かに・・」
「エイリーク様・・」
「クロムウェルとシトゥラさんはそれを承知で同行してくださったのです・・彼らの意思も尊重しないと・・」
・・何とか気丈に振舞っているが・・どこか上の空・・だな
よもや暗殺されるとは思っていなかった分ショックもでかいか・・
「・・悪いな、結局はお前達を裏切った事になる・・」
「・・・・」
「ならば、これより帰還の旅は我らのみで遂行する・・いいな」
「アグリアス!」
レスティーナも驚く・・、まぁ〜頭に血が上っている相棒の言い出した事だもんな
「・・いいぜ」
「クロムウェルも〜!」
「まぁそれで気が済むならそれでいい。お前にもメンツがあるんだからな」
「・・クロムウェルさん・・」
「・・フッ」
シトゥラが静かに微笑む、口を挟まないところを見ると俺に従うってところか
「さっ、行けよ。ルートならわかるだろう?神殿騎士ならば乗馬技術もある・・馬車も地図と睨めっこをしながらゆっくり進めば無事に到着できるだろう」
「言われなくてもそうさせてもらう・・エイリーク様、行きましょう」
「で・・ですが・・」
「俺達の事はいいぜ、もう暗殺者はいないだろうが魔物はでるかもしれないから気をつけな」
「ふん!言われるまでもない!さぁレスティーナ!出発するぞ!」
「えっえっ・・わ・・・わかった・・クロムウェル・・御免ね!」
謝ってレスティーナも俺達の荷物を降ろして馬車に乗り込む・・・アグリアスもそうとう頭にきているらしく荒っぽい馬の扱いをし
馬車は一気に視界から消え去った
「・・・・・」
「・・・・・」
「やれやれ、頭に血が上るのは若さか・・俺も老いたな」
「フフッ、だがお前にしては良く耐えたじゃないか?」
また俺の頭を撫でてくるシトゥラ・・全くに子供扱いかよ
「まぁ・・な。そんじゃ草原都市の最寄り都市で馬でも買って帰るか・・」
「・・・三人を追わなくていいのか?」
「あん?もう大丈夫だろ?」
「・・・そう、か・・」
まぁ、阻止できたのならそれでよし、さっさと帰りたいんでな

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