第三話「行き先不安ですか?」


三人が乗ってきたのは流石に司祭様御用達な馬車なだけに質素ながらも重厚な造りだ
二匹の馬の状態も良好、座席も二つあり俺とシトゥラが乗っても十分スペースがある
まぁ後ろの馬車内はもっと豪華なんだろうが・・興味ねぇや

適度な準備をした後にルザリアを出発し現在はハイデルベルクとフィン草原都市群の国境沿い
・・まぁ草原都市群は国では・・ないから国境とは言えども何もない
そんな訳で次第に緑生い茂る平野から草木が少なくなってきているので判断しているわけ・・
「・・ふむ、しかし・・乗馬だけではないのだな・・」
隣でシトゥラが感心する・・まぁ馬なら任せろ
「まぁな、小さい頃から調教されたわけだし・・身体に染み付いているよ」
「そういえばお前は貴族出身だったな・・やはりこうした事も教えられるのか?」
「俺の場合は特別さ。ガキの頃から無理やり『教育のため』ってロデオみたいなのをやらされたわけだからな」
「・・???・・」
「まぁシトゥラにはわからないか、俺の家庭の事情は知っているだろう?本妻のあのクソ女は俺の事を死ぬほど憎んでいたんだよ
・・だから教育の名目で馬に乗せてわざと暴れださせ落馬させようとしたんだ・・あわよくば踏み潰せると思ったんだろうよ」
「・・・・」
「そんなクソみたいな陰謀に乗るのも嫌だからな・・、必死に落馬しないように踏ん張ってこの術も身に着けたってわけだ」
まぁ〜、よくいじめられたもんだからな。
「そうか・・すまないな、変な事を聞いて」
「うんにゃ、気にするな。それよりもキッツイのが後ろに乗っているよな〜」
ここからは聞こえないだろうから言うけどさ
「・・ふっ、任務に熱心なだけだろう」
「そうか?性格悪そうだぜ〜?」
「そうでもないさ、悪い人間と良い人間の区別はつく。・・私には彼女が悪い人間には見えない」
・・シトゥラは誰とでも付き合いがいいからな・・
「まあ騎士だものな。仕事はキチっとするだろう」
「ふっ、苦手か?」
「まぁああいうタイプはタイムで慣れているけど・・これからしばらくあの空気がまとわりつくとなると少々滅入るな」
「そうか?私はてっきり隙を見て襲い掛かるかと思っていたが・・」
俺は獣か!
「ったく、俺はタイム一筋だよ・・」
「ほぅ・・」
シトゥラが面白そうに笑う、いつもと違い髪をくくり鎧を着ているためにまるで別人だな・・
「な・・なんだよ・・・」
「アンジェリカに手を出したんじゃないのか?」
「でぇ!!?」
何で知っている!!!?
「図星か・・やはりな・・」
「い・・いや!そんなことはないナリヨ!!」
「語尾がおかしいぞ?」
「っうかどこからそんな出鱈目を!」
「ふふふ・・、アンジェリカのお前を見る眼からな・・。以前は物欲しそうにお前を見ていたがある日を境にそれがなくなった
・・代わりに諦めと悲しみが篭っていたが・・」
・・鋭すぎるぞ、シトゥラさん・・
「っうか皆、わかるもんなのか?」
「まぁ・・女にはわかるものなのかもな。実際のところはどうなんだ?」
・・・・・・、まぁシトゥラだったら言いふらさないか
「大当たり、アンジェリカは一夜だけ・・俺が欲しいって言って来てな。拒否するのもかわいそうだったから・・」
「・・ふっ」
「笑うなよ、でもその時にタイムが入ってきてな〜もう修羅場修羅場・・」
生きて帰ってきたよ・・俺はその状態から
「ほう、その割には周りには気付かなかったようだな」
「和解したからな、アンジェリカはもう俺には手を出さないって事で自分から言ったよ。・・だから、あいつが俺を見る目に
そんな気配が篭っていてもおかしくはないか・・」
・・・・、考えて見たらアンジェリカもいつも静かな性格で余裕を振りまいているけど・・
本心って今ひとつわからんよな
「お前ならば二人ともモノにできると思うのだがな」
「タイムがそれを許さないさ、俺もそこまで器用じゃないからな・・お前の里のようにはいかないさ」
「人間というものは・・難儀なものだな」
「そういうもんだよ。」
やれやれ・・話しているうちに日が傾いてきた・・もうフィン草原都市群に入ったかな?

「ねぇねぇ、クロムウェル〜♪」

「・・ああっ?どうした?レスティーナ」
馬車から顔を出すレスティーナ、まぁこいつを見ていると神殿騎士とは思えないよな・・
「もうそろそろ街につくかってエイリーク様が言ってるよ?」
「はぁ・・?あのなぁ・・草原都市群って言ってもそう点々とあるわけじゃないんだぜ?
どこかの少数遊牧民族の拠点ならあるかもしれないが・・今日中にたどり着けるところなんてないさ」
「ええっ!?じゃあどうするのよ!」
「夜営するに決まっているだろ?ハイデルベルク国内とは違ってここはそこまでにぎやかじゃないんだ
・・宿場町があるとでも思ったのか?」
「ちょ・・ちょっと待って!」
馬車内に戻るレスティーナ・・
おいおい・・
「あると思っていたようだな・・」
「やれやれ・・世間知らずかよ・・」
っうか・・夜営装備用意してないんじゃないじゃ・・・

・・・・・・・・

予感、的中。
国内の狭い範囲でしか活動をしていなかったエイリークと神殿騎士二人さん
まぁアグリアスとレスティーナは流石に夜営は騎士学校で習ってはいるようだが
・・あてにできない、使用しない知識は忘れていくもんだからな
ともあれ、用意には時間が掛かるものだから馬車を適度なところで固定させ準備に入る
折りよく丈夫そうな大木があったのでの枝に馬二頭を括り付けた
後は火を起こせばとりあえずは腰を下ろせるのだが・・
「問題は、寝具だな・・」
「うむ・・」
毛布はスペアを用意して合計四つ、寒空の中での必需品なのだが当然宿を利用するつもりだった皆々様は用意していないんだよなぁ
「・・しょうがない、俺は我慢する。残りでちょうどだな」
「えっ?いいの〜?クロムウェル〜?」
「いいのもクソもしょうがないだろう?俺がヌクヌクで寝ていてお前が震えながら寝ていたら後味悪いだろうし」
「すみません・・クロムウェルさん」
深々と礼をするエイリークさん、毛布一つでそこまで礼をするのも何か・・なぁ
「・・ふん・・」
「お前はお前で礼を言わないのね・・」
アグリアス・・毛布は持てども礼言わず・・
「私のようなキツイ性格の女は苦手なんだろう?」
・・げっ・・
「・・・・えっと・・」
「あっ、クロムウェル達の会話は馬車内でも筒抜けだったよ♪」
なんてこったい!丈夫な造りかと思っていたら・・
「あ〜、すまん!」
「・・ふん・・」
最悪な状態・・まぁ気にしてはいられないか・・・女性に嫌われるのは慣れっこさ♪
「それよりも食料もないか・・流石に私達が用意した分のみだけだと持たないぞ?」
「ごめんね〜、非常食ぐらいしかないよ・・」
「どの道毛布なしで草原の突っ切る事なんか無謀だ。最寄の都市で物品を補給すればいいさ・・」
「それもそうだな・・、では食事にするか」
「おう」
軽く言い食事の準備・・まぁこれは当分俺達の役割になりそうだ。

・・・・

用意した簡単な食事を囲み一行揃っての食事
男は俺だけで美女揃いのハーレム状態なんだけどテンションは上がらないなぁ・・
浮気は持ってのほかだしシトゥラいるしアグリアス俺の事を刺すように見ているし・・
「・・だが、フィン草原都市群やダンケルクの道までよく知っていたな?」
そんな俺を気遣ったのかシトゥラが軽く聞いてくる
・・ええ人やぁ
「ああ・・昔横断した事あるからな。ってもダンケルク国内は町関係はどこにも立ち寄らなかったからそこはわかんないぜ?」
・・思い出すなぁ、あれは傭兵公社時代にクラークさんが自分の得物を修理したいと言ってわがまま言い出したんだっけ
グラディウスから馬で草原都市群を横断してダンケルクまで・・
あの時も大草原で夜営したなぁ・・アルがガチガチに緊張していたのを落ち着かせてやったっけ・・
「クロムウェルって結構物知りだね?」
「ああっ?このくらいは当然だぜ、っうか騎士だったら最低限のサバイバルテクニックは知っていろよ」
一応手伝いをしてくれたアグリアスとレスティーナだったがレスティーナはとにかく・・ドジ
こいつ本当に騎士かよってマジで思った
食器ひっくり返すのも何回やったのか・・
「うう〜、得手不得手があるんだよ〜!」
「へいへい、それは俺もわかるからそのくらいにしておくよ」
「クロムウェルさんは・・良い方ですね、それでこそ神に選ばれた騎士です」
感心して祈りだすエイリーク・・このお嬢さんはまぁ三人の中でも一番の世間知らずだな
敬虔な信者で世間知らずってのも中々怖いんだが・・なぁ
「ま・・まぁありがとよ。」
「・・・・・・、ふん。ルザリアの神殿騎士は揃って口が悪いようだな」
食うだけ食ってもムスっとしているアグリアス・・っうかこいつはいつもこんな感じみたいだな・・ほんと・・
「悪いな、俺は口が悪い事で有名なんだ。まぁ俺の事はどういってもくれてもいいがシトゥラは勘弁してやってくれ
・・素だから」
「・・何がだ?」
それがだ
「・・ふん。タイム団長は素晴らしいお方なのに下は個性的なもんだ」
「っか、タイムって有名なんだな・・」
「そうだよ〜、ハイデルベルク騎士団で女性が長になるなんてブレイブハーツのフレイア様を除けばタイム団長ぐらいだもの
おまけに女性騎士って行事とかのお飾りになりがちだけどルザリア騎士団は全然違うもの。女性騎士にとっては憧れの的だよ!」
ふぅん・・っうかそんな人物を毒牙にかけた人物ってことに俺は見られているわけな・・
「フレイアが・・なぁ。優秀らしいけど・・」
性格がきっついのが難点・・っうかほんと俺の周りにはそんなんが多いな・・
「ええっ!?クロムウェルはフレイア様とも顔を合わせたことあるの!?」
「ああっ、まぁとある一件でな・・色々と難儀な奴だったぜ・・」
「難儀なのはお前だ。・・騎士にあるまじき態度を・・」
「まぁまぁ、アグリアス・・。さて、今日はもう寝ましょう。」
エイリークになだめられているアグリアス・・どっちが守る立場だよ
「そうだな・・じゃエイリークさんとレスティーナは馬車の中で寝ろよ、二人分ぐらいのスペースはあるだろ?
アグアグは前の座席で寝るといいさ」
「ええ〜!駄目だよ〜、司祭様と一緒に寝るなんて失礼〜」
・・同じ人間だろうが・・
「そんじゃ・・馬車内はエイリークさん一人か。座席は二人で決めろよ。俺とシトゥラは木にもたれて寝るわ」
「ふん、勝手なあだ名をつけて話を進めるな。・・レスティーナ。お前が座席で寝ろ。私も地べたでいい」
「・・いいのぉ?」
「ああ・・」
「ありがとう♪じゃあ皆おやすみ〜♪」
毛布片手に嬉しそうに座席に飛び乗るレスティーナ、・・仲間内では結構良い奴ってか
「では、私もこれで・・失礼します・・」
エイリークも一礼して馬車内に・・・優雅なもんだな
「さて・・じゃあ大木組ももう寝るか。・・ほれっ、あそこが一番寝心地いいだろう・・譲ってやるよ」
「恩を売る気か?私は馬車の横で寝る・・エイリーク様にもしもの事があってはいけないからな・・」
プイっとそっぽ向くアグリアス・・この態度のほうが神殿騎士として問題じゃん・・
「へいへい、仕事熱心な事で・・そんならほれっ!」
「なっ!」
俺の道具袋を渡す・・毛布や包帯などの布用品専用の分だ
まぁ今は毛布を出しているからだいぶ中は空いているんだがクッション代わりにはなるだろう
「地べたは冷える、それと毛布で体温を奪われないようにしていろ」
「・・・ふん」
馬鹿にするな・・っという目をしたが素直に袋を持って馬車前に引き出した
素直じゃないというか・・まぁ可愛くねぇな
「ふふふ・・、大人になったもんだ」
「なんだよ・・?」
「以前のお前ならここで喧嘩になっていたんじゃないか?」
「ば〜か、ほれっ、寝るぞ」
明け方までもつように焚き木に火をくべて俺達も就寝・・
木の根一つ跨いで俺とシトゥラは眠りについた
・・んだが・・

・・・
・・・・
・・・・・・

「へっくしょい!!」
・・寒い・・、元々薄着な分この草原の夜は堪えるな・・ったく、焚き木付近で寝なおすか・・
でも寝返りで服燃えたら嫌だし・・

フッ・・

「へ・・?シトゥラ・・?」
急にシトゥラが立ち上がり俺に寄り添ってきた
「寒いだろう?・・お前も無理するな・・」
身体を寄せながら毛布をかけるシトゥラ、髪の良い匂いがしてかなり魅力的な雰囲気にはなるんだが・・
当人はそんなつもりはサラサラない。ただ俺の身体を冷やさないようにとしてくれているんだ
ここがこいつの良い所・・か、普通の女なら躊躇するだろうしな
「・・ありがとよ・・」
シトゥラに甘えて二人でヌクヌク寝るとしますか・・

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