三章  「滅びの民」


彼らが次の瞬間立っていたのは全く別の空間だった
そこは薄くらい空間で周りに何かガラスの棺桶のような物が並べられている
「ここは・・」
周囲を見渡すアレス・・だがガラス菅の中に入っているものに目を丸くする・・
「アレス君・・これ・・人・・だよね・・?」
隣でリオも驚く、ガラスの中にいるのは液体に満たされた人間・・、額には彼らを襲撃した
シヴァやイフリートと同じように額に眼の紋章が刻まれている
「あいつらと同じ連中ということか・・、ゆりかごとは良く言ったものだな・・」
「って・・生きているの・・?」
「たぶん・・な。あいつらの言い方だと地上を滅ぼした後にこいつらを甦らせるつもりか・・」
「滅ぼすって言っても・・、どうするの?」
疑問が深まる中、突如そこに振動が伝わる・・!!

ゴゴゴゴゴゴ・・!!

”警告 警告 クレイドル浮上開始・・。地上駆除用ミサイルポット発射準備を開始します。
駆除用ガスの漏れの警戒のために職員は定位置は離れないでください・・警告・・警告・・”

「な・・何!?」
「なんだ・・、動いている・・?」
身体に重力がかかっているところフロアごと地上に向けて移動を開始しているのがわかる
それとともにフロアに明かりが灯る・・
一面にビッチリと敷き詰められているガラス菅・・、そしてその先にあるのは巨大な機械・・
魔導のパネルが幾つも自動展開しており沢山の文字が写し出されている
「私、見てみる!」
「俺も手伝おう・・!!」
魔導パネルに向かって走り、その情報を解読するアレスとリオ・・どうやら容易に理解できる代物のようで見る見る二人の顔色が変わる
対しそっち系の教育はほとんどさっぱりなキースとカチュアはそれを見てもさっぱり・・
文字体が普段使用しているのとは全く違うのだ
「・・ねぇ!何かわかったの!!」
「ここはあのグランドクレイドルがあった地点の天井の上にある保管室だ。」
「そして今浮上して地上を目指しているの・・
地表に出たらこの設備にある猛毒ガスを大気に撒き散らして自分達の土地にするんだって・・!!」
「なっ!・・大量殺戮・・だと!」
「ここが中枢が。こいつを地表到達までに破壊すれば・・!!」

”させるか・・!!”

ドォン!!

不意に響く銃声・・それはその中枢機械の上から・・
「!!二人とも危ない!!」
咄嗟にキースとカチュアは解読していた二人を抱きかかえ飛ぶ!

轟!!

二人がいた場所は炎と氷に包まれ完全に消滅した・・!
そしてそこに立つはシヴァ。表情は険しく鋭い殺意が放たれている・・、さらには額のホルスの眼が赤く輝いている
「シヴァ・・!生きていたのか!」
「「これは我等の悲願!・・地に追いやられ数千年閉ざされた我等の願い!・・貴様等如き邪魔はさせん!!」」
その声は男性と女性が重なったようなモノ・・
「しつこいわね!地の底で眠っていなさいよ!!」
不愉快千万・・カチュアは鋼の串を投げシヴァへと投げる・・
「『スキンファクシ』『フリームファクシ』!!」
振り向きもせずに串が襲う方に銃を構える
両手にはシヴァのリボルバー、イフリートのオートマチックが・・
そして・・

轟!!轟!!!!

炎の獅子と氷の孔雀が螺旋を描きながら超エネルギーとなって串を消し飛ばす!!
「うげっ!!まずっ!!」
「カチュアちゃん!!」
隣にいたリオがカチュアを抱いて全力で飛びあがる!!

ドォォォォォォン!!

強烈な爆発・・、二つの魔弾は何倍にも威力が上がっておりそこには跡形もなく消え去った
「ちぃ・・応戦するぞ!」
「応!!」
時間がなく焦るキースとアレス・・地上までの到達までそう時間がない・・
「おおおおおおおお!!!」
対しシヴァは我を失っているのか・・

轟!轟!轟!!轟!!!轟!!!!!

手当たり次第に魔弾をぶっ飛ばす・・!それは同族が眠るガラス菅をも破壊しフロアを爆発させていく・・
こうも高火力で攻撃を繰り広げされては流石のアレスとキースも仕掛けられない
「!?・・眠っている仲間を殺すか!」
「「所詮ここにいるのは第一陣!!都市の地下に数万人もの同族がいる!この中枢さえ壊れなければそれでいいわ!!」」
「ちっ・・狂ってやがる・・。カチュア!!動きを止めて仕留めるぞ!」
「わかったわ!!『五月雨』!!!!!」
リオに掴まれたまま着地をしたカチュアは懐にしまっている全部の串を雨の如く投げる!!
「「下らぬ!!」」

轟!!

炎の獅子がそれらを飲みこみ溶かして消滅させた・・が・・
「下らなくない!封縛!」
「「何!?」」
驚くシヴァ・・、彼女の周りの地面に4本のクナイが突き刺さっておりそこから光の糸が走って
彼女にまとわりついたのだ
「今よ!キース!!」
「おおおおおっ!!」
勝機と見たか先日教わったばかりの身体強化術を発動しキースが猛烈な勢いで突っ込む!
狙うはシヴァの首ただ一つ!
「「子供・・だましがぁぁぁぁぁぁ!!」」
ガンブレードの刃の接近にシヴァ無理やり光の糸を引き千切り銃で攻撃を受け止める!

キィン!!

「ちっ!」
「「死ねぇぇぇ!!」」
リボルバーで斬撃を受けとめてオートマチックで至近距離から魔弾を放とうとする!
「悪いがそれは断らさせてもらう!」
襲いかかる魔弾に対しキースは急旋回して上空へと飛ぶ・・!
身体強化した状態故にブレードでリボルバーを弾いた衝撃を利用して飛び上がったようだ・・!

轟!!

間髪入れずに炎の獅子が何もない空間を走った・・
「もらった!!」
そんなシヴァに何時の間にか間近まで接近したアレスが得物を地に滑らせながら切り上げる!
これも彼らの布石・・、絶妙なコンビネーションで仕留める!

斬!!

「「うああああ!!」」
胸を深く切られるシヴァ・・絶叫しながらも二丁拳銃を手放さず撃とうとする・・!
「これで・・決まり!!」
それよりも早くアレスの影から飛びあがる聖女・・リオ
正しく抜群のタイミングでシヴァの首に目掛けて剣を振り下ろす!

斬!!

その所業、電光石火・・見事な早さにてアレスとリオはシヴァを仕留めた。
狂乱の女性は血を流しながら呆然とした顔でゆっくりと地面に倒れた
「もう生き返ってこないでね・・化け物さん」
倒れるシヴァにカチュアが声をかける
しかし事態はそれどころではなく・・

”浮上・・最終レベルに移行・・カウントを開始します・・”

警告アナウンスが最後を告げる・・、フロアは赤いランプが点灯し4人を焦らす
「ちっ、時間がない!中枢を破壊するぞ!!」
中枢目掛けて勢い良く飛びかかるキース!

ガス・・!!

金属の強固な装甲を貫きガンブレードは中枢機械へとめり込んだ!
「・・ふん、銃剣というのも便利なものだな!」
突き刺した状態のままキースはにやけ、トリガーを引き・・

ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!!ドォン!!!

立て続けに全弾を中にぶちまけた・・。

ビー!ビー!!

”中枢ユニット中破!中枢ユニット中破!・・システムエラーにより全プログラムを一時フリーズします!”

ドォォォン!!

警告がなったかと思うとフロアは急停止し明かりが消された
「・・停止したの・・?」
真っ暗闇の中、中枢の漏電音のみがある状態でリオが不安げに言う
「アナウンスだと機能は停止したはず・・浮上はないだろう・・」
「じゃあ任務完了ね♪・・どやって出ようか?」
安堵の息をもらすカチュア・・しかし・・

ドォン!

”プログラム実行不可。計画続行不可能と判断し当フロアは自爆プログラムを作動します”

「何ですってぇぇぇぇぇ!!」
驚くカチュア・・同時に再び赤ランプが灯り中枢ユニットが急激に稼動し出す
「暴走しているのか・・!?リオ・・結界で沈めるのは・・」
「無理みたい!時間がないし・・」
「ちっ・・とにかくあの眼の紋章で逃げるぞ!!」
急いでホルスの眼の紋章まで走る4人・・
だが紋章は何の反応も示さない
「嘘っ!?閉じ込められた!!?」
「・・ちっ、他に出口らしきものを探すのも・・」
手の打ちようのない状態にキースもカチュアもどうしようもなく焦る
「・・リオ・・」
「わかっている、やろう。アレス君」
「・・?二人とも何を・・」
「見ていろ!」
二人が手をつないだと同時に周りに立体魔方陣が走り、光卵を形成する。
そして光卵に罅が入り砕け散り二対の翼が展開・・。
上に慈愛の白色天翼と 下に勇気の鋼色龍翼をもつ金色の戦天使がそこに立っている
瑠璃色の鎧、鷲の象った額当て、そして手に持つ長神剣・・。どれもが凛々しく神々しい
『勇風星霊セラフ、光臨。』

「な・・合体!?いやっ合身?いや・変身か!」
「何でも言い・・その姿は・・」
『大したことはしていない・・それより掴まれ・・一気に地表まで突き抜ける・・』
「・・、わかった・・お前を信じよう・・カチュア」
「つ・・突きぬけるってこのフロアを突きぬけてあの岩石の地層を!?」
『嫌なら置いて行ってもいいのだが・・』
「行く!行きますって!!」
おずおずとセラフの手を握る二人・・
『いくぞ・・』
四翼を展開し瑠璃の闘気が放出される・・それと同時に・・

轟!!!!

凄まじいスピードで地表へと向けて飛びあがる・・!!
翼から放たれる闘気はシールドと化し岩を砕き二人を守る
やがて遥か下から凄まじい爆発音と振動が・・・
しかしそれを聞くよりも早くセラフ達は赤い空へと飛びあがっていった・・


・・・・・・・・・
・・・・・・・・・


気がつけばそこは夕暮れ・・、荒野は赤く染まっており
洞穴があった部分は巨大なクレーターのようにポッカリと沈んでいた
「・・爆発で都市も沈んだせいでこんなクレーターができたのか・・」
その巨大な光景を呆然と見つめるキース・・、未だに夢でも見ているかのような表情だ
「・・ほんと・・、アレスとリオさんが合体してくれなかったら・・このクレーターの中に埋まっていたのね」
「これで終わったね」
「ああっ・・、団長の言っていた異変はこれで解決した・・もうあの都市は浮上することはないはずだ」
元の姿に戻ったアレスとリオ・・だが疲労の色は濃く今にも倒れそうだ
「だが・・君達は・・」
「俺は『甲装騎将』アレス、そしてリオは『聖嬢騎姫』・・そんな名をもらった騎士・・それだけだ」
「それだけって・・、もっと疑問が残るんだけど・・」
「お前に話しても理解できんだろう。ともあれ、俺達の仕事は終わった・・これで失礼させてもらう」
さっさとアレスが帰ろうとする・・原因はカチュアさん・・
「まぁまぁアレス君。キース君達も功労者なんだし・・屋敷に招いてもいいんじゃない?」
「・・それは俺達が決めることでもないが・・、キース、・・どうだ?」
「悪いな、手持ちの道具ではルザリアまで帰るのは少し難がありそうだ。・・少し厄介になっていいか?」
「俺が決めることではないが・・とりあえずは団長に話はしよう」
「私からもお願いするわ、さっ、行きましょう!近くに馬を待たせているの」
にこやかな笑顔のリオ・・、それにキースも微笑む
「全く・・用意の良さは脱帽する・・すまないが世話になる」
「ね〜!キース!それよりも合体とか気にならないの!」
「そんな特技を持つ人もいる。いつぞやの妾龍もそうだっただろ?」
「ああっ、イリアさんね・・。まぁそう考えるとそうだけど・・」
以前世話になった恩師の名を出す二人だがそれにアレスとリオが驚く
「イリア・・だって・・?」
「ん・・?ええっ、そうよ。シウォングの使者だって・・」
「この国からあそこまで・・」
「へ・・ここ・・シウォングなの?」
「カチュアちゃん地図ぐらい見ておいたほうが・・ともかくイリアさんと顔見知りなら大丈夫!
さぁ!行きましょう!」
夕暮れの中、屋敷へと帰還する四人・・

クレーターの中心にはあのホルスの眼が描かれた残骸が残っていた


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