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終話  「兵どもが夢の跡」




「ようやくさっぱりしたかと思ったのじゃが・・のぉ・・」


「大丈夫ですよ、それに・・考えたところでどうなったのかはわからないでしょう」



そこは雲一つない青空の下、赤茶けた古墳の上に軽く座り込むアイゼンとツクヨ

周辺は異形の肉塊とその血が散らばっており天候に似あわず地獄絵図と化している

だがそれも時ととも音もなく蒸発していっており徐々に悲惨な光景から血で汚れた墓が見えてくる

二人は古墳の上にある小さな岩に腰掛け突如として消えた巨岩があったはずの空を見上げている

切り倒した異形は千を越えているが彼らの着衣には殆ど返り血がついていない

だが流石に息を切らしておりしばらくそこから立てそうになさそうだ

「突然消えおったからのぉ・・。切り払い続けていた故に何がどうなったのかさっぱりじゃ」

「消えた・・っという事はここより違う場所に移動したと言う事、あの状況からして『扉』の向こうへ転移した・・っと考えるのが自然でしょうね」

十字槍『雅』にもたれながら状況を判断するツクヨ

彼女も久々の死闘に疲労困憊のようだがそれでも気丈に振舞っている

例え息も絶え絶えでも彼らは決して弱音は吐かない、それこそが武士の証というもの・・

「恐らくはそうじゃの・・。だが・・それでも異変は起きぬ・・。それに見よ、寧ろ全てが終わったかのように空は晴れ渡っておる」

愛刀の鞘で肩を軽く叩きながら静かに笑みを浮かべる・・



「つまりは・・・」



「・・そういう事じゃな」



互いに顔を合わせず微笑む・・。

その瞬間、彼らの頭上に突如として空を裂くかのように閃光が走り

その渦からゆっくりと姿を見せる漆黒の武神・・

見慣れた若き巫女を抱き上げ、ボロボロになった戦友の剣を持ち彼はゆっくりと二人の前に降り立った・・・

「アイゼン様!ツクヨ様!」

勢い良く彼の胸から飛び降りる巫女ミズチ・・、体の傷の痛みも忘れ再会を喜んでいる

「・・・良く無事でした、ミズチ」

戦いを切り抜けたミズチを優しく抱きしめるツクヨ、その優しさにミズチは目に涙を浮かべだす

「・・ご心配をおかけしました。ホカゲは確かに・・仕留めました」

漆黒の武神は見慣れた三白眼の男へと姿を変えアイゼンに深く礼をする

「ご苦労じゃったの・・。ほんの少し見ぬ合間に・・気が黒うなったの・・あの欠片の影響か?」

「はい、ですが・・」

「皆まで言わずとも良い。決して揺るがぬ不屈の心、それこそが鋼の魂・・我らが等しく持つ心の剣よ。

それがあるならば何の問題もあらんわ」

「・・ありがとうございます」

深く一礼をするサブノック、それに軽く笑うアイゼン・・

すると再会を見守っていたが如く彼らが現れた光が萎んでいく

そのまま異世界を繋ぐ光は扉を閉じるかのように静かに消えていった、

だが光が完全に消える前にそこから何かが落ち、ミズチの手に納まった

「・・それは・・?」

彼女の手にあるのは碧色の小さな勾玉・・、表面は細かい傷だらけであり高価そうには見えない

「・・・叡智・・です」

それを握り締め静かに呟くミズチ・・、ホカゲが操っていた刃の正体に一同警戒をするのだが・・

「安心してください。もう、ホカゲの意志はありません・・。主を失った・・ただの武器ですよ」

「・・左様か・・。ともかく、無事を祝うにしてはここは余り空気は良くない。

少々くたびれたがツクヨの家に向おうぞ・・・詳しい話はそれからじゃ」

そのアイゼンの言葉に誰も異論を唱える事はなく死闘を潜り抜けた猛者達は静かに戦場を後にするのであった


・・・・・・・・


一行はその後事態を見守っていたイザナギ達と合流し事の顛末を伝えた後兵士達を還し、

その後によもやこの国を揺るがす事件が起きた事など知る由もない田舎の村へと戻っていった


「・・懐かしいですねぇ・・。昔はこのような道場で良く五人で相談をしたものです」


その中、なぜか一行に同行したのはイザナギ・・兵士達の帰還を適当な人物に任せた後有無を言わせずについてきたのだ


「イザナギ殿・・、御主がここに来る必要はないじゃろう?」


道場の居間・・多少人数が多くなった今、茶を啜りながらアイゼンが仏頂面になって言う

道場は出陣の時のまま・・。戸締りをせずとも盗みを働く輩などこの村には一人もいない

それが、今のこの国の誇りでもある

「何をおっしゃるのですやら・・。私は引退をしてこそいますが国を導く者には変わりはないつもりです。

この度の事件についてより詳しく知っておかなければなりません」

雄弁の熟女姫様、いつも放つ威厳は微塵もなく寧ろ子供じみた雰囲気すら出している

「・・それでしたらば後ほど書にて報告するつもりでしたが・・」

イザナギの隣でツクヨが眉を歪ませる、陣羽織は綺麗に折りたたみ『雅』は壁に掛けなおした後に

一同に茶を淹れた彼女、いつでも何処でも、冷静である

「まぁツクヨまで・・。久方ぶりに昔の同志が集ったのです・・いいではありませぬか?」

「全くに・・。このじゃじゃ馬が国を平静に導いた事が未だにもって信じられぬわい」

偉人達の雑談にミズチは萎縮しきりで、サブノックもなんともいえない顔になっている

「それは置いておきましょう・・。サブノック殿・・ですか、此度の一件、真に大義でした」

「いえっ、小生は何も・・」

「ふふ・・立派な働きです。それに・・ミズチさん。貴方も・・」

「きょ・・・きょきょ・・恐縮です!」

言葉どおりに恐縮なミズチ、彼女にとってはイザナギという女性はホカゲよりも大きく見えているに違いない

「そうかしこまらなくてもよろしいですよ、・・ですがサブノック殿・・ふふ・・

あのゼンキの魂を引き継ぎ禍々しき欠片の力にも屈せぬ殿方・・私も後十年若ければ・・ねぇ・・」

はふぅ・・っとため息を付くイザナギさん、それが本気なのか戯言なのかわからないサブノックは恐ろしく動揺をしている

大聖魔、名君主に敗れる・・?

「これ、イザナギ殿。サブノック殿の家庭は恐妻家での、その気になろうものならば八つ裂きにされてしまうわえ・・のぉ?」

「まぁアイゼン殿、八つ裂きだなんて大仰な・・。夫婦の仲にそのような凶行などございませぬよ?」

「・・いや・・ははは・・・」

イザナギの呑気な応えに笑うしかないサブノック・・、

あの妻ならば本気でやりかねないだけに表で笑って裏で泣く。

神威に近い力を得ても妻の威光の鋭さはどうする事もできない・・、それが彼の最大の弱点・・か?

「それにしても・・ホカゲが狂ったのはやはりアラストルの欠片が関係していたようですね」

戯言など無視、ツクヨはそのまま話を進める


「はい・・、やはり先天的にアラストルの影響を受け火燐の里にて再びアラストルの力に触れてしまい破壊の衝動に囚われてしまったようです」

「ふむ、では二度目に触れるまではまだまともな方であった・・わけじゃな」

「そのようです。だからこそ火燐であの日まで、人に手を出さなかったのだと思います。・・彼女も被害者、なのです」

彼女に止めを刺したミズチ・・それ故にホカゲに対する感情はいまや特別なものとなっている

すでに憎しみはなくそれは寧ろ同情、哀れみに近い

「・・被害者がいるならば加害者もいます・・。サブノック殿、その欠片・・そもそもは力を失っていたのですね?」

「ええっ、天魔戦争の決戦にてアラストルはその力を失い破壊されたはずです。

それが力を取り戻すには世に人の悪意が溜まりそれが覚醒させた・・かと」

「悪意が・・ですか」

「この件については何か黒幕がいるような気がします・・。悪意などそう世界を覆うものではありません」

自然というのは必ず循環するように出来てある

人が手を食わなければ不自然な事は起こらない・・、それ故にこの一件も何者かの手によって引き起こされた感がするのだ

「・・・・、なるほど・・。アラストルの力を使い何かよからぬ事を目論む者がいるかもしれない・・っということですね」

先ほどまでとは打って変わって名君の顔を見せるイザナギ

戦乱を鎮めもはや二度とこの国に災いをもたらさぬと言う決意は老いても尚消えず・・

「まぁ、この国にそんな阿呆がいるとは限らぬが・・少々気に留めておいたほうがよさそうじゃの」

「・・そうですね・・。ですが、とりあえずはこの一件・・。無事解決と行きました。

サブノック殿、ご協力いただき感謝します」

指を添え深く頭を下げるツクヨ・・そもそも彼女の頼みがあって彼はこの地に留まった

それ故のけじめのようである

「いえ・・小生は・・」

「まぁまぁ、本来ならばあ奴の遺髪を納めて帰る処をだったのじゃ。感謝されて当然よ」

「アイゼン殿・・」

「それはそうと、ミズチ・・主はこれからどうするのじゃ?」

少し照れくさいのか軽く笑いながらミズチの今後について聞くアイゼン

「仇討ちはもう終わりました・・。

しばらくはツクヨ様の元に留まろうかと思うのですが・・ゆくゆくはアラストルの欠片についての調査をしてみたいと思っています」

「・・ミズチ・・」

「私もこの一件に関わった者です。それに・・欠片についてはまだ解決はしていません」

「良い心がけです、では・・手が必要ならばカムイまで来なさい。イザナギの名において協力は惜しみません」

「イザナギ様・・ありがとうございます!」

「・・ならば・・、機会があるならばアルベルトにも連絡を取り協力をさせましょう・・流石にいい加減祖国を目に出来た事でしょうし」

「ア・・アア・・・アルベルト将軍・・ですか!?」

一瞬にして彼女の顔が真っ赤になる・・

純朴さ故に内面は全く持って丸わかりである

「ほっほう・・。ミズチはあの坊ちゃん将軍が好みか、ならば御主がリードせないかんぞ?あの坊ちゃんが女子を押し倒すとは思えんからのぉ!」

「・・そういうところは変わりましたね・・アイゼン殿・・」

「はっはっは!男というものはこんなもんじゃ!のぅ、サブノック殿?」

「あ・・いや。小生に聞かれましても・・」

「困っていますよ・・、とにかく・・今日はゆっくりしてください」

「おうよ、久々に酒を交わそうか。サブノック殿やミズチも付き合えい」


「「・・・は・・はぁ・・」」


上機嫌なアイゼンに圧されるがまま、

二人はその夜この国の現在を作った三人と杯を交わし問答無用に夜遅くまで賑わったのだった

因みに、アイゼンは言うまでもないが盲目の女戦士ツクヨは意外にうわばみで表情を変える事なく黙々と酒樽を開けたのだとか・・



・・・・・・・・・・・・



出会いがあれば別れもある、傷の具合の治すがためにしばらくツクヨの家に滞在していたが

いつまでもそうしているわけにもいかずその日ついにサブノックはカムイの地を離れるために大陸との便がある港へと赴いた

「わざわざ出迎えに来ていただかなくてもよかったのですが・・」

波止場にて彼の見送りにきたのはアイゼン、ツクヨ、ミズチ・・そして何故かイザナギ

流石に大陸との交流を担う場所だけあって周囲の人通りは多く帆船も一際大きな物である。

それ故かここより少し離れたところでは大陸から来た客相手の商売のために出店すら開いていた・・

「何を言うか、此度の一件・・御主がおったからこそ解決出来た。このぐらいはやらねばのぉ」

着流し姿に着替えて見送るアイゼン、水臭い事をっとほくそ笑みながら言う

「その通りです・・ですが・・イザナギ様・・は、お暇なのでしょうか?」

「まぁまぁ、よいではありませぬか」

呆れ顔のツクヨに苦笑いのイザナギ・・。そもそも彼女はアイゼン達が敗れた時の伏兵として同行したのだ

その役目も不発に終わった以上異国の一戦士の見送りをするなど立場としておかしいのも当然である

「お忙しいところ、恐縮です」

「いえいえ、それに・・ただ見送りにきただけではありません。貴方に少し・・頼み事がありましてね」

「小生に・・ですか?」

神妙な顔つきになるイザナギにサブノックの表情も変わる・・

「そんな大層な事ではありませんが・・もし、・・もし、大陸にて『リュウビ』という男の名を耳にしたのなら、私に連絡して欲しいのです」

その顔に浮かぶのは深い哀しみ、ただならぬ訳があると思いサブノックも黙り込んでしまう

それはアイゼン、ツクヨとも同じであり瞬時にして重い空気が場を支配した

「・・・リュウビと言うと・・・、四天王の・・」

「うむっ、御主に言っても変に広まらんから言っておこう。

かつてイザナギの従者として忍軍団を纏めていたリュウビなる者はな・・

主とただならぬ関係になっていた・・っという事じゃ」

「え・・・アイゼン様・・それ・・では・・、タケル王の父君が戦時の際に亡くなられたというお話は・・」

もう一人の第三者ミズチ、その真実に開いた口が塞がらない

「まぁ、あながちの嘘ではない。二人の仲の事を考えてそれを伏せていたのでな・・。実子であるタケルも知らぬ事じゃろうて・・。

よいか・・他言無用じゃぞ?」

鋭い眼光で制するアイゼン・・それにミズチは口を広げたまま顔を縦に振るのであった

「そのような事情でしたのならば・・。

小生は今は一つの場に留まる生活をしておりますが、機会がありそれを耳にしたのならば・・必ずご一報お伝えします」

「・・・、ありがとう・・」

目を細めて礼を言うイザナギ・・それは正しく女の声。

平静を装っても彼女の中にはある忘れられぬ想いは今も燻っているのだ

「ふぅむ・・。イザナギ殿が頼み事を言うならばわしも少し頼もうかの?」

「はぁ・・小生に出来る事ならば、なんなりと」

「この包みを弟子の元へと届けて欲しいのじゃよ。奴らは確か〜・・プラハという処に住んでおったかの」

そう言いながら彼に渡すは唐草模様の小さな小包・・持った感じからして小さな木箱か何かが入っている

「かしこまりました、確か・・プラハならば立ち寄った事があります」

「おおっ!それは好都合・・クラークとクローディアと言うツガイでの。まぁ中に軽く書状があるゆえ渡すだけで結構じゃ」

「わかりました・・。ツガイとなると・・ご夫婦ですね?」

「応とも・・(ニヤリ)」

その顔には陰謀の影が・・、しかし頼み自体はまともなものなので彼にはどうする事もできなかった・・。

「そ、それはそうとミズチ・・これからもがんばるのだぞ?」

「はい!サブノック様!向こうでもお元気で!!」

向こうでお元気に過ごすためには愛妻のチェック後なのだがとりあえずは首を縦に振る・・。

果たして妻はこの予想外の滞在延長を許してくれるのか、今の彼にはそれがただ恐怖であった

「・・サブノック殿・・、そろそろ船が出ます」

「そのようですね、ツクヨ殿も世話になりました」

「いえっ、御暇があるのでしたならばまたカムイにいらしてください・・。貴方でしたら歓迎いたします」

少し微笑むツクヨ、想い人を継いだ男なだけに彼女にとっては彼がただの客には思えないらしい

最も、それを表に出す事は決してないのだが・・・


「ありがとうございます、では・・皆さんお達者で!」


深く一礼をして大型帆船に乗り込む聖魔、程なくして搭乗のためのはしごが取り外され船は波止場からゆっくりと離れる・・

青い海に吸い込まれるように消えていく帆船を3人はいつまでも見送り続けたのであった


・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・



村を空ける事約一月・・、道中連絡は入れたのだが返事はない。

っという事でこれ以上待たせるのは危険だと判断したサブノックは船がハイデルベルクに到着すると同時に人気のないところで

聖魔姿へと変身し荷物を落とさないように気をつけながらニースへと向った

その時の彼の表情は正しく必死、何も疚しい事はしていないのだが疑惑は極力ゼロにすべきと

空を駆けあっという間にニース村がある森へと降り立った・・。

・・

村に続く林道は出掛ける時に比べて整備は進んでいた

これを見る限り村に異常がないと判断でき人形態に姿を戻す、残すところの心配事は後ひとつ・・。

腹を決めてサブノックは整備された美しき林道を進んでいくのであった



「変わりは・・なさそうだな・・」



村の入り口に辿り着いた彼・・、森林の中にある村は以前のままであり平穏そのもの

広場では子供ははしゃいでおりその近くでは井戸端会議を開いており他愛のない話をしていた

そんな中、ふと見れば自分の帰りに気付いたのか黒銀長髪の美しき女性が近づいてきた

純白のカジュアルなドレスを身に纏った清楚な女性、レイブン

聖魔と相対的な存在である天使であった女性・・

「お帰りなさい。随分と慌てていますが・・」

「う・・うむ、セリアの様子は・・どうなのだ?」

「いつもと変わりませんよ、事情を書で伝えてからはしばらく還って来ないと言ってましたので」

「そうか・・」

安堵の息を漏らすサブノック、どうあれ、妻を恐れもし心配もしておりそこが夫婦の証

それでも手が自分の意志に反して震えているのは彼の予知能力か否か・・

ともあれ、久々の再会を祝うがために微笑むレイブンの後に続きサブノックは唾の飲み込みながら詰め所に向うのだった


「師匠、お疲れ様です!」


「父上〜!」


詰め所に到着するや否や愛娘と彼の弟子が出迎える・・、他の面々も動揺で遅くなった彼の身を案じていたのは目でわかった

「心配をかけてすまなかった・・。だが・・表の騎士団・・とは?」

詰め所前に小さな金属の看板が掛けられておりそこには『ニース騎士団』と掲げられている

彼が村にいた時には自衛団となっていたのだが・・

「サブノックさんが留守の間にそういう話があって・・、昇格したんです。今では小さいながらハイデルベルク騎士団の傘下に入ってますよ」

ゆっくりとハイデルベルク騎士団の正式採用制服を着たアルが説明する。

当人としては彼がいない間に話が進んでしまった申し訳ない・・っと思っているようだ

「そうであったか・・。長い間空けてしまったから・・な。そ、それで・・セリアは・・?」

「セリアさんなら最寄りの街まで出かけましたよ?サブノックさんからのお手紙がないか確かめるのが日課になってましたから〜、

もうすぐ還ってくるかと思います」

相変わらず活発そうなバンダナ単発少女マリー、レイブンとともにお茶を入れてサブノックの旅の疲れを癒そうとする

一通り再会を祝った後以前よりも大きくなった応接スペースに全員座り茶を啜る、元気そうな一同を見て微笑んでいたその時・・


「サブノック様!」


勢い良く詰め所に戻ってくる黒髪の美女・・セリア、林道を歩きやすいように丈夫な革製のブーツを履いているがそれ以外は普通の街娘ドレス

一見するとかなりの美女、それだけなのだが彼女こそが聖魔最大の天敵(?)

「セリア、しばらくの留守、迷惑をかけたな・・」

「いいえ、頼まれて断る貴方様ではありません、それは構いませんよ」

微笑みながら夫に抱きつくセリア・・人目も憚らずに彼の逞しい体をきつく抱き寄せた

サブノックも迷惑をかけたと彼女の髪を撫でて気を使う

だが・・

「仕事はお疲れ様です・・・サブノック様・・。ですが、この髪の毛は誰の物なのでしょう?」

「!!?」

サブノックが驚く瞬間に光の速さで胸より飛びのくセリア、見てばどう見ても彼のものではない長い髪を摘んでいる

「・・『鑑定』」

目を閉じゆっくりと髪の毛を指でなぞる・・小さな魔法陣が出現しているのが気掛かりである・・

「セリア、ソレは世話になった・・」「・・・ふむふむ・・十代後半の処女の女の髪ですね、どう言う事か・・ゆっくり説明してもらいましょうか?」

問答無用の気迫・・、それにはアラストルの力を得た彼も成す術がない

「だ・・だから、世話になった人の・・」

「さぁ、ここでは皆さんに迷惑がかかります・・ゆっくりと・・説明してもらいましょう・・」

氷の微笑で聖魔を掴みゆっくりと詰め所を後にするエルモア夫妻、夫婦喧嘩は犬も食わぬ・・

二人を仲裁するにはそこにいた面々は余りにも若かった・・・。


・・・数日後・・


時間をかけて妻を説得したサブノック、それまでに負った傷は正しく漢の勲章・・、

無数にある勲章と引き換えに妻の機嫌を取り戻し

ようやく今回の一件をアルとレイブンに説明する事ができた


「・・・・、アラストルの欠片・・」


カムイで起こった狂い巫女の話にレイブンの顔色は優れない

対しアルはアルで怪訝な顔つきになっている

「天上界でも問題として残っていただろう。力を失いただの破片となったものを回収する必要なしと放置していたのだろうが・・」

「恐らくは・・。今も動かぬ理由はわかりませんが・・ね」

もはや天使ではないレイブン、かつて居た場所の事など今となってはわかろうものではない・・。

それはサブノックも同じでこの騒動の根源にあるものが未だにはっきりとはわからない

「いずれにせよ・・欠片の影響はこれからも出てくる。機会があるならばそれを調べて見なければならぬかもしれんな」

「・・サブノックさん、実はサブノックさんに見てもらいたいものがあるんです」

珍しく神妙な顔つきのアル、小さな木箱を取り出し蓋を開けて中身を見せる

それは小さな漆黒の金属片・・

「・・っ!?これは・・間違いなくアラストルの欠片・・」

「やはり、そうでしたか・・」

「アル殿・・これを一体どこで?」

「森の中で発見しました・・。竜のゾンビがこれを持ち災いを起こそうと・・。結局それは僕達を試す行為だったようですが・・」

「・・不思議な事にその一件後もこの欠片から放たれる力は弱まる事はなく逆に何かに共鳴するかの如く微量ながらも力を増してきています。

悪魔の魔剣については私も詳しくはなかったのですが只者ではない欠片と踏んでいました・・」

重い口調のレイブン、流石の彼女にもこの欠片が何だったのかは断定できなかったのだ

「そうか。止む終えん事だ・・気にしない方がいい。それに・・こちらから先手も打てない事態だ。

しばらくは様子を見るしかなさそうだな・・。二人とも、今の話は他言無用で頼む」


「わかりました」「はい・・」


一応は最年長になるのか・・、彼がいるのといないのではまるで違う

「それと、その欠片・・小生に預からさせてもらえないだろうか?」

「・・えっ?どうするのですか・・?」

「アラストルの一件、何が起こるかはわからんが・・備えは必要だ。先の戦いで愛刀が痛んでな・・

その補強の素材に使おうかと思う」

サブノックの提案にレイブンの顔つきが険しくなる。確かに見せてもらった悪滅の刃の痛みは酷かった。

もはや武器としては扱えないとすら思わせるのだが・・

「体にその力を身につけているのに得物にも使うのですか・・?その体の負担は計り知れませんよ?」

「・・案ずるな、レイブン殿。小生には不屈の魂がある、例えアラストルであろうがその力には・・負けん」

破壊の衝動に耐え、胸に秘めた力と共に己の道を貫く・・これこそが大聖魔。

その真っ直ぐな眼差しにレイブンは軽いため息を付く

「わかりました・・ですが、もし貴方が力に飲み込まれた時は・・この私が引導を渡します・・よろしいですね?」

「うむ・・、レイブン殿ならば安心できよう」

「余り物騒な話はしないでおこうよ。二人とも・・・」

身内の始末のつける話などアルには気のいい話ではない。

そこらが彼をさらに「か弱さそう」に見させているのだ

「それもそうですね、ですが・・鍛冶匠などこの村にはいません。出掛けるならばセリアさんの許可を取ってからにしてくださいね」

「う゛・・・承知・・」

「所帯を持つって・・大変ですね」

「アル殿・・・。アル殿も、直にわかりますよ・・」


懐かしき自分の居場所に戻りつつも安堵の息をつくにつけないサブノック

しかしそれこそが平穏、今日もニースには穏やかに時間が流れるのであった


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