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番外  「斬魔大刀『悪鬼滅烈』


東国カムイで起こった奇妙な事件

それを鎮めた聖魔サブノックであったが彼の身も無事とは言い切れず愛刀である『悪滅』に大きな傷が入ってしまった

これからの事を思いサブノックは妻の機嫌を伺いながらも再び武器修理の旅に出るのであった



各地を渡り歩いてきた彼だけに鍛冶匠を見極める目はいい。

だが、今回のは斬馬刀という特殊な剣・・それもかなり痛んでいるがために名匠に頼む必要があると感じ

信頼できる鍛冶士に頼むため彼は大陸中央部に位置する町プラハへと向う。

流石に二度も妻を待たせるのは流石に気が引けたのかニース村から聖魔姿へと変身して高速飛行での移動となった・・

地上の人間に怪しまれないように高度を上げての飛行であるが荷物も少ない故にさほど困難ではなく

1時間も掛からぬ内にプラハの入り口へと到着するのであった・・


プラハ、最近までは小さな町として国内での認知度は極めて低かったのだが今では有名なモノが二つある

一つはハイデルベルク国で一番とも噂されている冒険者チーム『ユトレヒト隊』の拠点地である事

もう一つは若くとも腕の良さが評判を呼び名工とすら呼ばれるようになった鍛冶師リュートの店『HOLY ODRERS』がある事。

有名な店や集団がいるのだが町自体は平穏そのもの、それ目当ての観光客がいるわけでもないが所々見慣れぬ騎士の姿があり

発注をかけていたと思われる武器や防具をホクホク顔で抱えているのを見かける

人の姿に変わったサブノックはそんな輩に目をくれるわけでもなく真っ直ぐにリュートの店へと入って行った

因みに周辺の住民は三白眼で布にくるんだ馬鹿でかい物をもっている彼に少し警戒の眼差しを向けていたのだが

それも本人にとっては些細な事であった


・・・・・・


カランカラン・・


店の扉が開かれるとともにドアに取り付けてあったベルがなり来客を知らせる

ディスプレイ用の武防具が軽く置かれた程度の店内、カウンターにはエプロン姿の長黒髪の少女と栗毛の犬人少年がお茶を飲んでいた

「あっ、サブノックさん!いらっしゃい!」

「うむ・・、その節では世話になった」

珍しい来客に店主リュートとその相方シャンは驚く・その節とは以前彼の娘ラミアの初めてのおつかいに裏で態々二人に連絡を入れていたのだ

悪人面でも親馬鹿サブノック、悪魔なのにそこらは妙に人間染みているのだ

「いえいえ♪でっ、どうしたんですか?」

「武器の修理を願いたいのだ。・・少々特殊な物故ここで頼もうかと思ってな」

「そうなんですか〜、今日の仕事はもう終わったところです!早速取り掛かれますので奥にどうぞ!」

快く奥に招く店主リュート、サブノックは斬馬刀が店内にぶつからないように気をつけながらも彼の招く工房へと足を踏み入れた


工房内は必要な設備は揃っており休憩用のテーブルや鳥籠のような物まで設置されていた

布を解き痛んだ悪滅の剣身を見せ、それを見たリュートは唸りながらその具合の確認をしだした

「そういえば・・あの銀鳥の姿が見えないな」

黙り込んだまま剣身を見つめるリュートにやる事がなくなったサブノック、

世間話とばかりにシャンにかつて来店した時に見かけた奇妙な鳥の姿が見えないことを尋ねた

「ええっ、今・・出張中みたいなものですね。南の方に出かけております」

「・・ほぉ・・」

南海の向こうに浮かぶ島アルマティには銀鳥フィアラルはそこで戦う者に力を貸している。

平穏な生活よりも闘争の中にいた方が彼(?)には似合っているのかもしれない・・



その時


「う〜ん・・これは・・酷いですねぇ・・」

皹が入った剣身を見てリュートは顎を摩りながら重く言う

「駄目か・・?」

「いえっ、素材が良く技術も良い得物であるために甦させる事もできます。ただ元通りの強度が出るかどうかは・・やってみないとわかりませんね」

「そうか・・、ああっ、それと鍛えるのにこの金属を埋め込んで欲しい」

そう言い取り出すはアラストルの欠片・・漆黒の金属片にリュートの目は細くなる

「これは・・、僕が見たことがない金属ですね。一体どのような・・?」

「太古の争いで砕けた魔剣の欠片だ。どのような影響が出るかはわからんが・・頼む」

「・・、わかりました。やってみましょう」

アラストルの欠片を受け取りながらゆっくりと頷く犬鍛冶師、手が少し震えているのは武者震いか・・

「それと・・。これをもう一度使えるようにできるだろうか?」

胸のポケットから取り出すは碧石の勾玉、傷だらけのそれにリュートはさらに怪訝な顔をする

「勾玉・・、確か東国の祭具か何かですね。これを使うように・・とは・・?」

「これは仮初の姿・・のようだ。シャン殿、これを持ち心に『剣』を作るように念じてみてくれ」

「は・・はい・・」

言われるがままに勾玉を握るシャン、一見明るい町娘のように見える彼女だが実は元暗殺者。

それでなくてもリュートの相棒として出来上がった武器の試し斬りなどを行うがために

武器の取り扱いはどれも一級、多種多様な武器を簡単に扱いこなしている

だが、流石の彼女でもサブノックが言うこの道具の扱いは知ろうはずがなく戸惑いを見せている

それでも握り締めた勾玉を見つめながら精神を集中させると・・



フゥ・・


音もなく彼女の背に現れる一振りの刃・・碧光の大剣・・

かつての持ち主が扱ったような八剣ではなく大剣が一振りだけとなっているのだがそれでもシャンとリュートは驚いている

「これは・・」

「念じ操る刃だ・・『叡智』という。本来ならば持ち主に宿る物らしいのだが持ち主がなくなって主なき刃となった。

慣れれば誰でも使えるそうなのだが・・」

「・・・・」

サブノックの言葉にシャンは目を瞑りながら剣を扱うように念じる。フワフワと浮く大剣はヒョロヒョロと走り軽く一振りできた

「・・難しい、ですね」

「感覚的には難しいらしいな・・」

「・・興味深い・・ですねぇ。見る限りルーラーソードの一種みたいな感じだけど・・」

「ルーラーソード?」

「文献で見たことしかないけど特殊な魔導剣で剣を扱えない術師が護身用に開発した物で、フライングソードとも言われますね」

武器の知識は豊富なリュート、こうした雑学が鍛冶師として幅広い作品を作り出す事に役立つ

「ふむ、この『叡智』以外にも存在したのか・・」

「まぁ、ルーラーソードなどは通常の剣の鍔に専用の魔石による魔導回路によって浮遊し遠隔操作をしたり自動警備に使っていたようですが〜・・

この『叡智』はそれとはまた次元が違うみたいですね・・。シャン、触って良い?」

「・・え・・うん・・」

頷くシャンに対しリュートは遠慮なく碧光の大剣に触れる・・

「・・触った限りでは実在する物質ですが僕が知る者ではありませんね。

サブノックさんの説明からして・・人の思念に呼応して形を形成する物・・でしょうか。

刃の成分は勾玉と関係しているかもしれませんね」

「・・本来は八本現れる物だった。そうとなれば・・勾玉を直せば大丈夫か?」

「そう・・ですね。刃の数が違うのはシャンの精神力と勾玉の傷によるものと思います。

この勾玉がどういうものなのかを軽く調べて処置してみたいと思います」

「そうか、すまんな」

「いえ、こんな珍しい物を見せて頂いてこちらこそお礼を言いたいぐらいですよ」

中々お目にかかれない特殊な武器を見れてリュートも満足そうだ。

ここらが普通の犬人ではないところか・・・

「うむ・・数日したら様子を見にこよう。それと・・アラストルの欠片は持つ者に破壊の衝動を与える・・。

欠片を持つ時声が聞こえてもそれに応えてはならんぞ?」

「・・・、どうやら相当な物のようですね・・。それほどのまでの物ならば研究してみたいところですが・・

サブノックさんがそう言うほどの物ならば手にしないほうがいいですね」

通称”金属馬鹿”な彼・・もしここでサブノックが忠告しなかったのならば彼は確実にアラストルを調べその力に魅入られていたであろう

「・・懸命だ。出来上がりに期待している」

「任せてください!斬馬刀を扱うなんて・・体が疼いてきましたよ!」

気合十分なリュート、その様子を見ながらサブノックは一息ついて店を後にするのであった


・・・


その後彼が向うはもう一つの用事、ここプラハに偶然ながらも拠点にしているユトレヒト隊の館に訪れる事。

どうやらかなり有名であるらしく町人に聞いてみたらその場所を快く教えてもらい

表通りを真っ直ぐ進んだ町外れにそれはあった。

小綺麗な教会の隣に建てられた木造2階のしっかりとした造りをした館、中々の大きさであり外見も趣味がよい。

そしてその庭には手作りベンチに横たわりサングラスをかけて日の光を浴びている女性が1人。

臍丸出しな白シャツに際どいデニムパンツを履いた長金髪の美女・・

心地よそうに昼寝をしているようだ

「失礼・・」

そんな事はおかまいなしに声をかけるサブノック、彼にしてみればよもや昼から寝ている不届き者などいるはずもなく

寝転んでいるだけ・・っと思っているらしい

「ん・・あ・・?」

対しパツキン美女は寝ぼけながらもゆっくりと起き上がる・・。

見た目は清楚で美しいのだがそれに似合わないマヌケそうな声をしている・・

「失礼、小生はサブノックという者。ここにクラーク殿とクローディア殿は住んでおられるのでしょうか?」

「クラークとクローディア・・いるわよぉ・・。中で掃除でもしているんじゃないの?」

「・・そうでしたか。すみませんが・・」

「わかったわ、ちょっと声かけてくるから、待っていて〜」

まだ眠たそうなパツキン女性・・ことセシル、ベンチから飛び置き尻を軽く掻きながら玄関より中に入っていく。

見た目にともなわないだらしなさ・・だが、サブノックはそれ以外の事に気を取られていた



(あの娘・・、悪魔の気を持っている・・?だが見る限り人間・・そうともなれば悪魔の力を飼いならしているのか・・?)



常人では到底感じる事ができない気を察知したサブノック・・。

たぶん本人ですら忘れかかっていた真実を感じ取っている

・・っとその時・・

「上がってって〜」

開きっぱなしの玄関扉からセシルの声が聞こえ、サブノックは一礼しながら木造館の中に入って行った



・・・・・・・



適当にセシルに招かれて通されたのは中々に広い談笑室。

テーブルやソファが置かれた憩いの場に一組の男女が椅子に座り突然の来客を見つめていた

「・・失礼、クラーク殿とクローディア殿ですね」

初対面なれどアイゼンから放たれていた気配と良く似たものを持つ二人の男女にサブノックは直感で理解する

そして”流石にアイゼン殿のお弟子だ”っと彼らの実力を瞬時に把握するのだった

「ああっ、そうだぜ。俺達に仕事の依頼か・・?っても・・あんた・・俺達並かそれ以上の力持っていそうなんだけどな・・」

ニヤリと笑う小さな丸眼鏡装着なクラーク、彼もそこまで間が抜けてはおらずサブノックの実力を瞬時に察知した。

そして敵味方がわからない以上もしもの時に備えていつでも戦闘できる状態に・・

「あ・・いや。小生はサブノック、アイゼン殿から頼まれ事を任されて参上したまでです」

「お師さんが・・ですか?」

隻眼のクローディアが片目を見開いて驚いている

「お師さんとの関係かぁ・・。でもあんたみたいな悪人面の知り合い・・いたっけな・・・?」

三白眼は伊達ではない

「いえ、先日知り合っただけです。小生はここより南にあるニースに住まう者。東国に出向く用事があいアイゼン殿と知り合ったのです」

「ニース・・ああっ!アルが言っていた悪魔って・・あんたの事だったのか!」

突如知り合いの名が出た事に今度はサブノックが驚きだす

「ぬ・・クラーク殿は、アル殿とお知り合いでしたか・・」

「あぁ、昔世話をした仲だな・・。まぁそれならその力も納得行くな・・。そんでっ、お師さんからの用事ってなんだ?」

「はい、この小包を届けて欲しい・・っとの事です」

差し出すは唐草模様の風呂敷、律儀な彼はその中身を確認するような事はせずにきちんと配達を果たした

「風呂敷・・、失礼します・・・」

テーブルに置かれた風呂敷をクローディアが丁寧に解いていく。中身は小さな木箱とその上に置かれた二通の書状・・

一つは差出人がアイゼン、もう一つは・・

「・・ツクヨ先生・・」

懐かしき人の懐かしき字にクローディアの表情は自然とほころぶ

対しサブノックは何も言わずにアイゼンの荷物に自分も手紙を入れていた事に彼女らしさが現れており静かに微笑む

「ツクヨ先生とも会ったのか〜・・クローディア宛てだろうな」

「はい・・ではっ・・」

静かに封を開けその内容を読み出すクローディア。



かつて目が不自由な彼女に心眼という術を教え、彼女の支えとなったもう1人の師。

書の内容は他愛もない近況まじりの世間話だがそれだけでもクローディアの心は温まる

「なんて書いてあったんだよ?」

ジッと手紙を握り締めるクローディアに内容が気になってきたクラークさん

「・・他愛のない・・世間話ですよ」

それだけでも彼女にとっては大切な会話、もう1人の師が安息に暮らせている事を知っただけでも嬉しい事なのだ

「ふぅん・・。そんじゃ・・お師さんのも世間話か・・な?」

遠慮なくアイゼンからの手紙を取り出す



『前略

出来の悪い馬鹿弟子よ。サブノック殿にお願いしてお前達の無事でも確認してやろうと思い書を書いた。

まぁそのついでに土産を送ってやった・・。御主の事じゃ、どうせ毎日獣の如くクローディアに貪りついている事じゃろう。

これからはそれが役立つであろうか活用するがよい

それと、たまには顔を見せよ。最近シゴキをする相手がおらなんで腕が少々訛ってきてのぉ・・ アイゼン』



「・・・・・・・・」

クローディアとは違い全然ありがたみのない師からの手紙にクラークは言葉を失う・・・。

そして主室に風呂敷に包んであった木箱を開けると、そこに入っているは山吹色の赤子服・・

「あ、兄上・・これは・・一体・・?」

「あのじじいの戯れだ・・。俺とクローディアに・・だとさ・・」

「えっ!?」

一瞬で顔を真っ赤にし自分の下腹部に手を当てるクローディア、元よりその前兆は全くなし

ある種毎晩のように兄に熱い精を注がれ続けて子ができぬのも異常といえば異常なのだが、それはそれ、言うなればお約束である

「お二人とも・・夫婦・・ですか?」

「まだ違うよ。ったくすまねぇな・・サブノックさん。じじいの余興に付き合わされたみたいで・・」

今頃カムイではアイゼンがしたり顔で笑っているに違いない

それがクラークにとってはなお更腹立たしい

「いえっ、これもついで、ですので・・」

「それでも、ありがとうございます。この子供服は・・必要ありませんが・・」

愛する男に可愛がってもらいたいけれどもまだ子供は欲しくない。

それはそれで悩ましい事である

「いや、小生は渡すまでが頼まれ事でしたので・・使う必要がなければそちらで処分していただかれては・・」

「それもそだな。まぁ・・ありがとよ。」

しょうもない事に使い走りにされたサブノックに軽く詫びを入れる弟子・・

一般の師弟関係はないモノのやはり絆というものは存在しているのだ

「いえ・・。それでは・・小生は急ぎニースに戻らなければならぬのでこれにて失礼します」

ゆっくりと席を立つサブノック・・、得物修理の依頼は終えアイゼンからの頼まれ事も終わった。

そうともなれば急ぎニースへと飛び戻り妻の元へと駆けつけたいのだ

・・・それは、色々な意味で・・であるが・・

「ん・・?そうか、悪いなぁ・・もう少しもてなそうと思っていたんだけど・・。アルにもよろしく言っておいてくれよ」

「承知です。では・・これにて・・」

一礼して館を後にするサブノック、その瞬間に変身し南の空へと消えて行った

因みに・・

「・・たぶん、俺が本気出しても勝てない相手だろうが〜・・なんか焦っていたな?」


「ええ・・、何か火急の用でもある様子でしたが・・」


未婚の彼ら、特に気性穏やかな恋人を持つクラークには彼の苦労は到底理解できないもののようであった・・。



・・一週間後・・

長い間東国に出向いていたと言う事でその間しっかりと家族サービスをしたサブノック。

妻と肌を交え娘を鍛えようやくいつもの日常が帰ってきたと実感した頃にプラハのリュートから修理完了の一報が到着した。

知り合いの仕事は最優先して終わらせる彼にしては随分と時間がかかったのだがそれ相応の曰く付きな物ゆえにそれも仕方がない

数日間の家族サービスによりセリアの機嫌も上々、元より大切な事であるし

旅から帰ってきて少し経過したので今度は出掛ける事に何の異議も唱えなかった。



そして・・



「いらっしゃ〜い、あっ、サブノックさん!出来上がってますよ♪」

「うむ、すまないな」

いつも元気なシャンが挨拶をする・・、後ろのボードには沢山の注文書が貼られておりそれが彼の能力を現していた

「いえいえ、お隣の方は・・?」

「マリーと言います。サブノックさんに同行を頼まれて・・」

サブノックとともに来店した黒髪バンダナ娘マリー、

元よりニースの住民にてそれ以外の地には訪れた事はまったくないが故に田舎町でも緊張している

「そうですかぁ〜」

「ついでにここで買った武器の調整もお願いしたいんですけど・・いいですか?」

「はい♪それでは、どうぞ中に・・」

カウンターを開けて中に招くシャン、サブノックは遠慮せずに中に入りマリーは

『お店の中に勝手に入ってもいいの?』とキョロキョロと周りを見回しながら彼について行った

・・・

工房ではリュートがタオルを頭に巻いてカンカンとロングソードの刃の形を整えていた

だが、カウンターからの扉が開かれそこから入ってきた空気をすかさず察知し作りかけの鉄刃を水に突っ込む

「いらっしゃい!サブノックさん!」

「うむ、仕事中すまないな」

熱気に包まれた工房内、彼の後ろからついてくるマリーは初めて場所に萎縮している



イモ娘、都会に出る



「いえっ、今打っているのは先行分ですので大丈夫ですよ」

「ほう・・そうか、表の伝票を見る限り大忙しのようにも思えたのだが・・な」

「シャンがちゃんと管理してくれているので大助かりです」

他愛のない話はこれまで、ゆっくりとリュートが置くから取り出す布に包まれた大きな得物。

流石にリュートの力では持ち上げる事ができない故に天上に吊るした鎖に乗せて持ってきた

「中々の出来かと思いますが〜・・実際手にとって見てください」

「わかった・・」

リュートに言われるがままにサブノックはゆっくりと柄を握り布を取る・・

そこに現れるは新品のような輝きを見せる斬馬刀・・。柄はそのままにその形は傷を負う前のまま・・

ただその剣身は黒鉄を使用した刃のように漆黒色になっており広い剣身の中央に歪な形の金属片が埋め込まれている

「元の出来がいいので強度は以前のままです・・が、その欠片を埋め込んだ瞬間みるみる刃が黒く変色していったのです・・

調べてみても格段異常はないのですが・・」

「・・・、おそらくは欠片が元の姿に戻ろうとした影響なのだろう。ならば・・!」

両手で斬馬刀を握り大きく振り上げ力を込める!


それとともに剣身から閃光が走り瞬時にして斬馬刀の形状が変化する・・。

二周りも大きくなった刃は先端が扇状に広がっており斬撃特化されたものになっている。

「これは・・」

この変化にリュートも目を見開いて驚く・・自ら鍛えた物がこのような変化をするとは夢にも思わなかったのだろう

「・・アラストルの力・・だな。小生の力に反応して変異を起こしたのだ」

力を抜くとともに巨刃は閃光を走らせ元の斬馬刀へと姿を戻す

「・・・こんな力が・・・」

「なまじ手を出せば取り返しの付かない事態にあるわけだ。だが・・使いこなせれば力にもなる」

「そうですね。斬馬刀を越える巨大な刃・・まるで生まれ変わったかのようです!」

金属馬鹿、呆気に取られていた分徐々に興奮が増していっている。対し部屋の片隅で見学のイモ娘は開いた口が塞がっていない

「生まれ変わった・・か。そうだな・・この刃はもはや斬馬刀『悪滅』にあらず・・さしずめ斬魔大刀『悪鬼滅烈』・・」

「・・『悪鬼滅烈』・・良い名です!ああっ、携帯しやすいように帯剣用の剣布も用意しました、どうぞ使ってください!」

「うむ、ありがたく使わせてもらおう・・」

思ってもいない事態になったのだが結果は上々、新たな得物を見つめながら彼は自然と笑みを浮かべていた

「それで・・もう一つの勾玉のほうですね・・」

「ああっ、その前に・・マリー殿」

「え・・あ・・はい!」

「先に用件を伝えておいたほうがいい」

「あ・・はい・・。ラミアちゃんからもらった得物なんですけど・・少し切れ味が悪くなってきたので調整お願いしたいんですよ」

そう言って腰の帯剣ベルトから抜き出すのは二振りのショートソード。装飾などは一切ないのだが

刃の根元に特殊な紋章が刻まれているのが印象的でありただの剣ではなさそうだ

「ああっ、『炎翼刃』ですか・・。なるほど・・炎のルーンによる火力に剣身が少し負けて切れ味が落ちているようですねぇ・・」

かつて自分が造った得物は忘れないのが鍛冶師、対パッキンケダモノ用の武器が彼女に渡ったのは驚きのようだが

それよりも試作品の経過に興味があるようだ

「ええっ振った感じはいいんですけど・・ね」

「わかりました!再調整しておきましょう!」

「ありがとう!お願いしますね!」

屈託の笑みを浮かべるリュートにマリーも安堵の息を漏らす

「ええっ!そんじゃ・・勾玉の方の説明をしますね。

僕が全く知らない技術が使われていたようで・・どうやらこの勾玉はその形を模った紛い物・・っと言う事になりそうです」

工房の片隅に置かれている精密作業用の木机から取り出す『叡智』の勾玉、表面が傷だらけだったのがすっかり綺麗に研磨されていた

「紛い物・・?」

「ええっ、親友に頼んで解析してもらったのですが〜・・。魔素と特殊形状記憶金属粒子が結びついた物・・のようです」

「「???」」

悪人とイモ娘、まったく同じリアクションに?マークが乱舞している

「え〜っと要は決められた形に戻る魔法金属・・ってところですね。普段は勾玉・・しかし持ち手の波長に反応して粒子が刃の形になるのです。

以前シャンが八本ある内の一本しか出現できなかったのはこの粒子と魔素が不足していたから・・。だから剣が現れても勾玉は残ったままだったのです」

「ふむ・・、しかしそれの前持ち主は身に着けているような感じではなかったのだが・・」

「特殊な魔導回路が組まれていましてね・・、いや魔導回路に近い技術・・ですね。これも東国独特なものだと思います。

正当な持ち主と選ばれたのならばその回路が働き元あった形を解除して粒子状となり持ち手に寄生するんですよ。

だから何もない空間から剣が現れたように見えるわけですね」

「と・・と言う事は・・メチャクチャ細かい粉が体に入るって事・・ですか?」

「まぁそういう事ですね」

「うへぇ・・」

「まぁまぁ、粉なんですから。それ以外に人間は色んなモノに寄生されているもんですしね。

ともかく、前持ち主に寄生していた『叡智』は持ち主の生命反応の消滅とともに勾玉に戻りここにある・・そういう訳です」

「なるほどな・・しかし、良くわかったな?それに未知の技術なのに治す事ができたとは・・」

「僕の情報だけじゃ無理でしたよ。親友の協力を得て何とか復元できました・・回路の方は元々は特殊な人間にしか寄生できないようにプログラムされていたようで

それも傷とともに一部破損してました。まぁこれから使うには必要なので解除はしておきましたね

・・後は持ち手の精神力に合わせて元あった力を発揮できるでしょう」

そう言い勾玉をサブノックに手渡す、ひんやりとした碧色の祭具はどこか不気味さを漂わしている

「助かる・・、ではっ、マリー殿。これを・・」

「え・・!?私が・・それを・・つけるんですか?」

「もちろんだ。そのために同行させたようなものだ」

「う・・、でも・・」

詳しい過程を知らなければまだしも、構造をしり扱うためにはどうなるかを説明した後では流石に抵抗があるらしい

「ニース騎士団の中で一番戦闘能力が低いのはマリー殿だ。これからのためにも力は手にしておいた方がいい」

「・・・・、そうですよね。騎士団になったんだからこれから忙しくなるだろうし、変な人が住み着かないようにしなきゃいけないし・・」

戸惑いながらも勾玉を手に取るマリー、手にした奇妙な形の祭具が何故か生物のようにも見えてきた

「扱いこなせれば実に優れた武器だと思いますよ、何せ手が増えるのと同じ感じなのでしょうから」

「はははは・・、でっ、どうやればいいの?」

「手に握り精神を集中させた後、魔力を込めるんです。そして心の中でその勾玉が砕けるようにイメージしてください」

「・・うん・・」


ギュっと強く勾玉を握るマリー、やや室温が高い中黙り静かに集中していると・・


パァァァァン・・


手の中の勾玉が軽く音を立てて砕ける・・。しかしそれは砕けた瞬間に消え去り何も残ってはいない

「・・あれ・・?消えちゃったよ・・?」

「おそらくは〜、もうマリーさんの体の中・・でしょうね」

「・・なんかイメージしていたのと全然違うね・・」

「まぁ、詳しい原理など知らなくても使い方さえわかっていればいい・・後は心の中で剣を作り出すイメージをするのだ」

大雑把な聖魔さん、何事にも疑問を持つ事は大切なのだがそれをすると中々に日常の生活は困難なのである

「・・こう・・かしら・・?」

対しマリーは慣れない作業に悪戦苦闘している様子、目を強く瞑り頭の中でイメージをする・・



フゥ・・


そして音もなく現れる碧光の大剣・・。但しそれはシャンが使用した時と同じ一本のみ・・

「でた!でも・・八本・・でしたよね?」

「『叡智』とマリーさんがまだ馴染んでいないんですよ。常人が操る感覚ではないのでいきなり八剣を出現させるのは極めて難しいですし

マリーさんの精神疲労が心配です。

・・ですので安全装置を組み込んでます、精神状態が悪化した時は自動的にシャットダウンして

扱えないようになっていますのでそこはお気をつけてください」

「・・な・・なるほどね・・。要はそう頻繁には使えないのね」

「・・、そう考えるとあの狂い巫女、人並み外れた逸材であった事は間違いない・・か」

「前持ち主・・ですか。確かに念じて飛ばしながら自ら戦闘を行うのは卓越した空間把握力が必要ですしね。

八本を自在に操るのならば相当な能力の持ち主のはず・・」

「・・・、まぁ故人を悔やんでも仕方あるまい。ともかく世話になった。礼金を渡そう」

そう言いながら懐から取り出すは楕円形の金貨数枚・・

ハイデルベルク国のものではなくそれはカムイの通貨であり今回の一件での金一封としてイザナギから渡されたのだ

東国の通貨価値など興味がないサブノックなのだが農民が2,3年遊んで暮らせるだけの量をもらっており

サブノックは最初からそれを修理に当てようと思っていた

「え・・?いいのですか?」

「良いも何も仕事の依頼だ。報酬を渡すのは当然だろう」

「いやぁ・・知らない武器に出会えただけでも僕にとっては報酬でしたが・・でしたらありがたく受け取ります。

でも・・この金貨・・」

「カムイの通貨だ。換金・・できるといいのだが・・」

カムイとハイデルベルクでは貿易が行われている、それ故に換金するのは可能なのだが・・

「いえっ、せっかくですので一枚は取っておいて残りは溶かして色々と細工してみたいかと思います」

金属馬鹿ここにあり

「も・・もったいない・・」

これにはマリーも勿体無さそうに見つめている。彼にとっては硬貨はお金ではなくて材料に近いのであろう・・

「有効に利用してくれれば文句はない。では・・お暇させてもらおう」

「毎度ありがとうございました♪『炎翼刃』はまた後日連絡を入れますので!」

どこまでも元気な犬人鍛冶師、それに似つかわしくない仕事っぷりにマリーは感心しながらもサブノックに連れられ宙を舞った



「・・サブノックさん・・、何だか・・スピードが速いんですけど・・」



「・・日が暮れるまでに帰るとセリアに言ったのでな・・」



空を舞う大聖魔、だが見えない鎖というものが彼を束縛していたのは言うまでもなかった・・



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