第壱拾話  「大聖魔ネオサブノック」


異界と化した地、古墳の上で刃を振るう二人を余所に宙に浮く巨岩にはもう一つの戦いが幕を開こうとしていた

「おや・・ミズチさんまできましたか・・」

狂い巫女ホカゲが柔らかな物腰で話しかける、これからその相手を殺そうとすることなど微塵も感じさせない・・

それが彼女の異常と言える

「うるさい・・お前は私が殺す・・」

対し未だ平静を保てぬミズチ・・

岩は丈夫は彼らが立つ面はピタリと平らになっており足場は安定しているものの、そこから落ちてしまってはミズチには成す術もない

彼女にとってはこの決戦場はかなり不利と言える

「落ち着け・・、ここで決着をつける・・覚悟をしろ」

「サブノック様・・良い気配です。ふふふふ・・・」

にこやかに笑いながら軽く手を振ると彼女の背に現れる碧光の八剣『叡智』

その場に軽く立っているように見えてすでに戦闘態勢に入っている

「来なさい!鳳・・」

「ミズチ・・(それは切り札に取っておけ・・)」

『叡智』に対抗して『鳳雛』を出そうとするミズチを抑え軽く忠告するサブノック

相手は得体の知れない気配を放っているがために切り札を最初から出すのは危険極まりないのだ

それをミズチも諭し軽く頷きながら『森羅』を抜く

「・・連携ですか、それもいいでしょう・・。単体では相手になりませんからね」

「今度は負けん・・。いくぞ!」

そう言いながら『悪滅』を抜き一気に突っ込む!

漆黒竜翼が加速し剣持つ禍々しい姿は剣鬼の如くホカゲに迫る!

かつては防がれた攻撃も真の姿での豪腕から放たれる本気の一撃ならば違う


キィン!


結界に刃をぶつけ白い稲妻を放ちながらも衝撃はホカゲに伝わる・・

「・・っ・・」

その衝撃で数歩後方に圧される中、

「覚悟ぉぉぉ!!!」

ミズチがすかさず追撃を放つ!

今までならば到底間に合わない間合いだったが『建御雷』の加護の甲斐あって見事に体勢を崩すホカゲの懐に飛び込めた

だが、その動きにホカゲは瞬時に対応し彼女が放つ『森羅』の一撃を食らう前にその姿を消す

そして空振りに終わった彼女に対し碧光の八剣の切っ先が向けられており刹那の間にて一斉に彼女に降り注ぐ!

「ミズチ!」

「・・式神、泪・・!!」

回避は間に合わないと直感したミズチはすかさず符を取り出し印を切る

符を寄代に現れるは一見すると等身大な人骸骨・・、目の窪みから透明な液体が滴っており涙を流しているように見えるのだが

それだけでいかにもひ弱そうに見える

だが泪はミズチの前に両手を広げ真っ向から『叡智』の刃をその身に貫かせる

八剣全て泪の骨を突き刺したままでもそのままミズチへと突き進むのだが

泪は歯をカタカタ鳴らしながら・・


ポン!


っと可愛らしい音を立てて爆発させ『叡智』の刃を全て吹き飛ばし自らの姿をも消滅させた

「・・そこだ!」

その間にミズチの無事を確認したサブノック、すかさず相手の気配を読み取りながら腕より雷の弾丸を投げつける

放たれた雷弾が走る先は巨岩の上空・・赤い空に向って駆ける雷は突如として四方に分散しほとばしる!

するとそこからまるで空間を切り開いたかのように突如としてホカゲは姿を見せた

「くっ・・ふふ・・。短時間の間でここまでやるとは・・」

何もせずとも自然と宙を浮くホカゲ、だがサブノックの雷弾が多少なりとも効果があったのか右手が焼け焦げている

「私だって式神の扱いぐらいできるわ!」

「ふふふ・・、ようやく式神の扱い方がわかってきたらしいですね。いいでしょう・・・」

そのまま優雅に巨岩の決戦場の中央に着地、何時の間にか右手は蘇生されており美しく白い肌に戻っていた

四方に散らばった『叡智』もすかさず彼女の元へと戻る

「今日こそ・・お前を倒す!」

「例え我が力がお前に通用せずとも隙を作り出す事もできよう・・!」

ホカゲを挟むような位置となったサブノックとミズチが得物を構え鋭く睨む

上空は風がきつく吹きさらす異様な風がホカゲの美しくも不気味さを演出している

「なるほど・・では、私も本気を出すとしましょう・・」

ニヤリと笑いながら『叡智』を消し足は場を広げる

「やらせない!式神・・雷狐!!」

先手必勝とばかりにミズチは符を投げつける、それは閃光と共に雷を纏った小さな狐の姿となりホカゲに襲い掛かる!!



「虚空より来たれ・・鬼の力・・」



静かにホカゲがそう言った瞬間、赤き空より一筋の光が彼女に降り注ぐ!

光に包まれた彼女に対し雷の狐は放電しながら噛み付くのだがその光に触れた瞬間に雷狐の姿は消し飛ばされる

「何・・?そんな・・」

「うかつに仕掛けるな、ミズチ!今の状態では攻撃できん!」

睨みながらその様子を見守るしかないサブノック・・、ミズチも式神の攻撃が通じないが故に攻める事もできずにジッと光を見続ける

そして、彼女を包み込む光の筋は突如として閃光と化し吹き飛ぶ

光が止まったとともにそこに存在するモノが視界に移る・・

怪しい美貌を持つ赤髪の巫女はそこにはおらず・・

存在するは巨大な蟷螂の下半身に女性の全裸の上半身をもつ異形

女性の髪は真紅で両腕は途中から大鎌となっており見るからに巨大な蟷螂女と言える


『ふふ・・では、参りましょうか』


狂気に満ちた瞳でそう呟く蟷螂女・・否、ホカゲ・・

何倍も大きくなったその体を軽快に動かせウォームアップをしている

「ホカ・・ゲ・・?」

『ええっ私ですよ・・これが私の真の力です・・来なさい・・叡智』

ニヤリと笑いながら彼女の背に再び現れる『叡智』

その刃もまた彼女に合わせてか巨大化している

「叡智までもが・・」

『この剣は心の刃、持ち手の力が増幅すれば同じく成長をします・・。

素晴らしいと思いませんか?この力・・全てを壊する事ができる・・』

「冗談じゃないわ!気持ち悪い姿になっただけじゃない!」

『心外ですね・・、狩るという本能に特化した姿ですよ・・。異界の力には感謝しないといけませんね』

「戯言を!いくぞ!ミズチ!」

「はい!」

異形と化したホカゲに対し一斉に攻撃を仕掛ける二人・・!

先ずはミズチが先手を取ろうと符を取り雷狐を数匹召喚しながら森羅を振り上げる!

蟷螂の体は効果はないと見て、上半身、それも心臓目掛け突っ込む・・

『遅いですよ』

「っ!?」

建御雷の加護を得た加速をしていてもホカゲの目は確実にミズチを捉えている

巨大化した彼女だがその感覚は鋭い

捉えると同時に自分に襲い掛かるミズチに対しホカゲは鎌腕を振るう!

巨腕からは信じられない一撃にミズチはどうする事もできない・・

確実に鎌がミズチの体を切り裂こうとしたその瞬間!

「でぇぇぇぇい!」

サブノックが割って入りホカゲの鎌に自分の得物をぶつける!

ピシ・・!

凄まじい衝撃が起こった後、その亀裂音は確実に彼の耳へと届く・・

「な・・・っ!」

だが、次の瞬間・・

ドスドス!!ドス!

「くぅ!!」「きゃあぁ!!」

二人の体に碧光の八剣が次々と突き刺さりそのまま吹き飛ばしたのだ

サブノックの体はズタズタに突き刺され、ミズチは咄嗟に雷狐を盾にし致命傷を避けれた

だがミズチもそのまま地面に激突した衝撃に気を失いピクリとも動かなくなった

対しサブノックは流石に生身の人間ではないが故になんとか堪えながら着地するも膝を岩につきジッと得物を睨む

「悪滅が・・!」

叡智に吹き飛ばされる衝撃の中でも離さなかった愛刀・・、ホカゲの大鎌を受け止めた衝撃でその堅牢な刃は

無数に皹が入っている。決して浅い傷ではない・・

『流石の剣も我が腕にはかなわなかったようですね。刃を失い残すはその四肢のみ・・

その傷でどうします・・?』

ミズチの方には目もくれずサブノックを見つめるホカゲ、背に戻った『叡智』は血塗られておりまだ切り足りないが如く

ユラユラと揺れている

「不覚・・、よもやここまでの実力とは・・」

『貴方が魔ではなくその力を有しているのであったのならば・・ミズチさんの力などに頼らず良い勝負をしていたかもしれませんね。

まぁ・・この未熟な戦巫女をここに同伴させた事が貴方の敗因・・ですね』

虫の足をうごかしながらサブノックに近づくホカゲ、合計十の刃が彼を捉える

「・・止む終えん・・!」

今の傷の深さからして全てを捌き切るのは不可能、意を決して敗れた戦闘服から黒き金属片を取り出す

『・・っ!それは・・!?』

その姿にホカゲの顔色が豹変する・・、まるで金属片を恐れるかのようだ

「アラストルよ!・・・・我に力を!」


ズボッ!


叫びながら勢い良く腕を自身の心臓目掛け突き刺す!

猛烈に血が吹き出る中、アラストルの欠片はその血に塗れ光を強める

ドクン!ドクン!!

全身に駆け回る鼓動、駆り立てられる破壊の衝動・・

”ハカイ・・”


”スベテヲ破壊セヨ・・”


”ワレハソノタメニ存在スル・・”


「ぬ・・ぅぉぉぉぉぉ!!!」

『・・・・・』

うずくまりもがき苦しむサブノックだがホカゲはそれに対し手を出そうとはせず寧ろじっくりと様子を見ている

”ワレハ『アラストル』世界ニ散リバメラレシ剣ノ欠片・・

人ノ憎悪ガ世ニ満ル今コソワレハ再ビ一ツニナラン・・”

「黙れ!!」

頭に響く無機質な声に一喝するサブノック・・全身から放たれる気配は超絶なまでに濃密な殺気・・

そして頭の中から妻や子、アイゼンやツクヨなどの存在を消し去りながらアラストルの干渉が支配していく

”屈セ・・ソシテ我ノ手トナレ・・”

頭に響く破壊の衝動、そしてアラストルの無機質な声・・

サブノックはただ耐える事しかできない・・

「黙れ・・!小生は・・小生は貴様の手駒にはならん!」

”無駄ダ、破壊ノ衝動カラハ何人タリトモ逃レラレン”

「・・否・・、我には・・何事にも屈せぬ・・・・魂が・・・ある!」

”・・何・・?オマエノ中ニ違ウ存在・・ガ・・?”


「揺ぎ無き鋼の魂・・・受け継がれし物とは貴様などには屈せぬ・・その力、我が頂く!!」


”何者ダ!?コ・・ンナ芸当・・出来る筈ガ・・ウ・・・オオオオ!!”


アラストルの思念が悲鳴を上げるとともにサブノックの体に閃光が走る!

『・・・・、これは・・』

その光景を静かに見ていたホカゲだが、それに何かを察知したらしく口角が少し上がる

そして閃光をかき消し、彼は現れる

その姿は正しく黒い武神、鋭い双眼は紅く輝き、三叉の角は兜の如く額より後頭部目掛け伸びている

全身は黒い鎧の如く金属質な皮膚に覆われ、その表面は血管の如く深紅の紋様が浮き出ている

特に四肢そして腹にまるで血のように紅き紋章が浮き上がっており、龍翼はさらに巨大化し赤空に広げていた。

一回り大きくなった彼が放つは殺気ではなく闘気・・

その瞳から放つは聖魔と呼ばれる漢の意志の光・・



「我は・・・小生は・・!ネオサブノック!鋼の魂とともに昇華せし大聖魔也!!」



気合とともに叫ぶサブノック、否ネオサブノック・・その気迫だけでホカゲは圧倒される

『この力・・ふふっ、あの欠片を制したわけですか・・』

「小生のみでは飲まれていた・・流石は伝説の魔剣。

しかし小生にはあの方より継がれし不屈の魂、そして小生が守るべき者達との絆がある・・、この程度では屈服せん!」

眼光鋭き大聖魔、その雄姿にホカゲは静かに笑う

『なるほど・・、ゼンキ様の魂が飲まれかけたサブノック様の力を呼び起こし一気に爆発させたわけですか・・

まぁ、それでなければあの欠片を制するはずもありませんね』

「・・アラストルの事を知っているようだな・・」

『持ち出そうとしましたが・・それに触れてわかりましたからね・・・。私の力の源を・・』

「・・何・・?」

『世に言う超人種・・突然変異と呼ばれ原因がわからずとも強い力を持つ者・・言うなれば私もそのカテゴリーに分類されていました。

そしてその超人種とは過去にアラストルの欠片に関わりその力を遺伝された者を言うのです』

「・・・、なるほどな・・。その力が遺伝するとは信じがたいが・・」

『もちろん、直接的な影響を受け継いだわけではありません。その破壊の衝動に体の構造が変化されそれを受け継いだ訳ですよ。

そして・・「欠片」を体に埋め込まれるか何らかの干渉を受けた者が「魔人の仔」・・私が知っているのはそんなところですね』

丁寧に説明するホカゲ・・それに対しサブノックは警戒を解く事はないが耳を傾けている

「アラストルの欠片に関わった者の事はわかった・・。だが、そんな事などお前の成す事とは関係はなかろう?」

『ふふふ・・まぁ、そうですね。

私もアラストルに魅せられその力を持つ者の一人、生まれながらに持つ破壊の衝動を突き進めるのみ。

大聖魔様・・・、同質の力を持つ者としてこの決戦・・制させてもらいますよ』

純粋な殺気をむき出しにして構えるホカゲ、今までにない鋭い殺意が彼の体を突き抜ける

対しサブノックは皹の入った愛刀を手に取り構える

「よかろう・・。狂い巫女・・否、生まれながらにアラストルに見初められし哀れな巫女よ。

小生が引導を渡してくれる!!」

漆黒の翼広げホカゲに突っ込むサブノック、皹の入った『悪滅』からは赤黒いオーラが放たれそれが剣身を覆いながら刃の姿を象りだす

飛翔する大聖魔に対しホカゲはその鋭い鎌腕にて牽制をかけるがそれを掻い潜るようにサブノックは急旋回しながらホカゲに肉薄する、

その動きは慣性を無視したもので直角に近い旋回・・

相当な負荷が体に掛かるはずだが彼の瞳はジッとホカゲを捉えたままだ

『速い・・、ならば!』

ホカゲは鎌腕で牽制しつつも背に浮かぶ『叡智』を飛ばす、

碧光の八剣は今までにない速度で飛翔し全方位から時間差でサブノックに襲い掛かる

残像のみしか捉えられない刃は流星と化し宙を駆け目標に向けて尚も加速を続ける・・、

彼はホカゲに肉薄しながらも急停止しそのまま宙高く飛翔しながら襲い掛かる叡智を見ずして次々と回避し、赤空高く飛びあがった

そして竜翼で体を包み力を溜める!・・その魔力は黄金に輝き彼を包み込みだした・・

『小癪な!一気に貫いてさしあげましょう!』

守りの姿勢ながら力を溜め無防備なサブノック目掛けて一斉に碧光が襲いかかる!!

だが・・


「・・喝!!!」


『叡智』が竜翼に突き刺さるその刹那に溜め込んでいた力が解放される・・

翼を大きく広げながら放つはまさに大咆哮、体から放出されるは黄金の闘気

力の波動は襲い掛かる叡智と真っ向からぶつかり合い碧光の刃は一瞬で消し飛んだ

『叡智が・・これほどまでに簡単に・・』

「これこそ・・小生が得た新たな力!神妙にするがよい!」

『・・ふふ・・、ですが私も諦めは悪い方でしてね・・。ならば全力を尽しましょう』

穏やかな物言いから放たれるは今までにない殺気、蟷螂の半身を得、異形と化したホカゲが殺意を剥き出しにする

対しサブノックはその殺気に動じる事なく皹が入った斬馬刀を振り上げる

『皹が入って使い物にならない得物・・、それに頼るつもりですか?』

「笑止、確かに悪滅の刃は痛んだがゼンキ殿が使いし魂の刃・・・決して折れはせん!!」

そう言いながら翼を広げ急降下するサブノック!

剣を振りかぶりながら猛スピードでホカゲに迫る、対しホカゲは蟷螂の羽を広げ高速で動かす。

残像を残しながら蟷螂羽は擦れ合い耳障りな音を放つ・・

だがそれが目的なわけではなく羽の動きがさらに速くなった瞬間!

!!!!

不意にホカゲの周りの景色が揺らめいた

その空間のゆがみは彼女の周辺から全方位に向けて瞬時に走り、駆けるサブノックにぶつかる!


ドォン!

何もない空間にぶつかり突如として起こる轟音・・、衝撃にその体は圧され吹き飛ばされる

『ソニックウェイブ・・流石の大聖魔様もこの衝撃波の波は防ぐ事は・・っ!?』

吹き飛ぶサブノックを見ながら笑みを浮かべるホカゲであったがその台詞は途中で中断される・・

「笑止千万!我を止められると思うな!」

吹き飛ばされた衝撃を利用しサブノックは華麗に宙返ししながら再び特攻をしはじめる

通常ならば骨が砕けてもおかしくないほどの威力なのだが相手はそれ以上、

ならばとばかりホカゲは再び羽を振動させソニックウェイブを連続して放つ

ドォン!ドォン!!

見えぬ衝撃に襲われるサブノック・・だが一度その威力がわかったのであるならば対策はある!

「ぬ・・・うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

闘気を放出しながらとにかく突っ込む・・、ソニックウェイブにより動きが止まるのだが後ろに下がる事はなく

ホカゲの首元に迫り来る・・!

『無理やり・・振り切った・・!?ならば!!』

放つ衝撃波全てを受けながらも猛烈な勢い止まらずに接近するサブノックに鎌腕で応戦する!

巨腕の鋭き一撃は刹那にて確実にサブノックを捉えるのだが彼の動きはそれをも凌駕しており瞬時にすり抜けられ・・


斬!!!


皹の入った刃にてホカゲの左腕を跳ね飛ばす、武人の魂と大聖魔の闘気が込められた刃はホカゲの鎌にも勝る力を誇り

鎌部の根元から切り払った・・

『く・・ぅ!!おのれぇ!!』

壱の太刀を振り下ろした後、ホカゲの心臓部に目掛け止めの弐の太刀を放とうと姿勢を急回転するサブノックに

ホカゲは残った右腕を振るう!

「チェストォォォォ!!」

襲い掛かる巨大な鎌、しかしネオサブノックはそれを避けようともせずに突っ込みホカゲの胸部目掛け剣を下から切り上げる!

斬!!・・斬!!

ホカゲの胸を大きく切り裂く一太刀・・、それが決まった瞬間にホカゲの鎌がネオサブノックを捉え咄嗟に反転する彼の右翼を切り飛ばした

『ぐぅ・・!!』

「・・ちぃ・・!」

一瞬の攻防で傷つく二人、一端距離を空けつつ睨みあう

だが傷の深さからしてホカゲの方が不利であり、右翼を失ったサブノックは安定した飛行能力を失えどまだまだ闘える状況・・。

互いの体から流れる血は巨岩に染み込み足場を赤く染めていく・・

激戦が行われている中ミズチは未だ気を失ったままで遥か下ではアイゼンとツクヨが繰り広げる斬撃音が微かにここまで届いていた

『欠片を持つ者には・・勝てない・・わけですか・・』

胸を深く切られたホカゲは苦しそうにそう呟く、『叡智』は粉砕され左の鎌腕は切断、彼女に残された攻撃の術はもはや僅か・・

「違うな・・、欠片の有無が勝敗を分けるものではない・・・。お前の意志と小生の意志、どちらが強いか・・それだけだ」

皹が入った悪滅を手にさらに構える。

手傷を負おうが吹き飛ばされようが敵に向う姿勢を崩さないネオサブノック、その姿は悪魔ではなく正に武神・・

『ふ・・ふふふ・・、そうです・・ね。ですがこのまま終わるつもりはありませんよ・・。

扉を開き・・混沌を・・導くまでは・・』

「戯言も終わりだ!覚悟ぉぉぉぉ!!!」

左翼のみでの飛翔、それでも上手くバランスを取りホカゲの懐に突っ込む!

『・・きなさい・・』

ニヤリと笑いながらそれを迎えるホカゲ、鎌腕を振るおうともせずに無防備の状態なのだが

サブノックは構う事なくその心臓部に刃を突き刺した!

『っぐぅ・・!!』

「取った!!」

胸の谷間に深く突き刺さる悪滅、致命傷なのは言うまでもない

『・・ふ・・・お見事・・確かに・・取りました・・』

「・・何だと?むっ!?」

ホカゲがそう呟いた瞬間、彼らの足場である巨大な岩は赤く光りだし周辺の空間は白く輝く

『流石は大聖魔・・、扉を開く事などたやすいですね』

「貴様!何をした!」

『私の体を使って貴方の力を・・儀式への足しにしたのです・・・。さぁ・・参りましょうか・・狭間・・に・・!』

胸を貫かれた状態で笑うホカゲ、対しサブノックは周辺の状態を見極めようとしたのだが

それを遮るように閃光が周囲を包み込む

「うぬ・・!?扉が・・開く・・・!!?」

閃光は大聖魔の咆哮をかき消し、儀式の中心となった巨岩は光に飲み込まれ古墳上空から忽然と姿を消すのであった・・


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