第三章  「マスク・ド・ダークネス」


ロカルノことグランセイレーンの登場により活気付いてきた仮面武闘会。

熱気が治まらないうちに第三試合が開始された



「それでは第三試合!ローズキラーVSレディストロンガー!!レディ・・・ゴォ!!!」



高らかに叫ぶは兎耳レフェリーのジルさん、

今回は変人が多くとも自分に危害を加える変態はいないので内心仕事が捗っている事を悦んでいる


しかし



「・・・・(シューコー)」

片や全身漆黒の鎧に包まれ、黒い鉄仮面を装着した騎士・・。



「・・・・・・・」

片や黒いレザーライダースーツを身に包みフルフェイスメットを装着した戦士。



騎士ことローズキラーは性別不詳、どこぞの宇宙戦争に出てくる御方みたく妙な息使いをしているが

手に持つは装飾がない黒いバスタードソード、ごつい体に負けないほどの迫力を放つ

戦士ことレディストロンガーも素顔を覗かせる事はできないがピッタリと体にくっつくライダースーツから女性である事がわかっており

両手には銀色に輝くバグナグを装備しており格闘重視なのがわかる

異様な二人の選手・・、しかも様子見なのか全然仕掛けないので観客の熱気は一気に冷めていく



「・・・・、少しはやるようだな(シューコー)」


呟く用に言うローズキラー、何やら特殊な装置でも使用しているのかその声は男性とも女性ともわからない異様なモノ・・

「・・・ふん、変声機能付きの鉄仮面なんて手がこんでいるわね」

対しレディストロンガーの勝気な声が響きゆっくりと構える

「なんとでも言え、私は負けられないのでな・・(シューコー)」

「それは私も同じ!いくわよ!」

遠慮なく突っ込むレディストロンガー、拳を固く握りファイティングポーズを取りながら踏み込むそれは正しくボクサーのソレ。

防具と言えばフルフェイスのヘルメットぐらい、剣を持つローズキラーに対して踏み込むのは危険もいいところなのだが

全く動じる事無く超高速の拳を繰り出す、それにローズキラーは鉄仮面からかすかに見える光景で

それを見切り重装備なのをお構いなしな機敏さで回避する。

だが、一撃のみで勝負する格闘家などそうはいない、レディストロンガーはそのまま連携を繋げ回避したローズキラーの軌道を見切るが如く追撃を放つ

対しローズキラーは敵の抜群の身のこなしに目をつけておりうかつに反撃に出ず防戦を守り続けていた


・・・



「どう見ます?あのレディストロンガーさん、すごい身のこなしですよ!」

「あれは・・拳闘ね」

「拳闘?」

「スポーツで言うところのボクシングだ。拳のみで相手を打ち倒す・・

拳闘ってのはそれをもっと殺伐とした感じになるのかな、実戦じゃ肘も使う事もある」

律儀に説明する黒服パツ金男、彼もその手の情報にはかなり詳しいようだ

「へぇ・・、拳だけ・・ですか。足も使った方が戦い安そうですけどねぇ・・」

「ところがどっこい、リーチがある足を移動のみに搾り込むように鍛えて瞬間に爆発的な踏み込みを可能としている。

それで拳の短いリーチというリスクを克服し体の重心や腰の捻り、さらには自身の筋力をフルに活かした拳をぶつけるんだ」

「だからああいう輩の相手ってのは実はすごい難儀なのよね。

リーチが短い分足の動きや拳の構えからして自分の間合いじゃ完璧に近い状態に守られているんだし・・

大抵剣で対処している騎士なんか良く痛い目にあっているわよ」

「なるほどぉ・・剣による攻撃も掻い潜られたら致命的な隙を作ってしまいますしねぇ」

「そっ、だからあの手の相手は同じく肉弾戦で挑むのがベターってな。それでローズキラーってのはどう出るか・・だ。

う〜ん、重たそうな鎧着こんで得物はバスタードソード、こりゃまた相手が悪いもんだな」

「でも・・、レディストロンガーの攻撃をあの装備で回避できているのは評価できるわ。

・・なんかどっかで見たことある身のこなしのような気がするけど・・」

「どこかで・・?ま・・まさか・・。でもそれならあの名前はまずいんじゃ・・」


キルケ達が静かに試合を見守る中でもレディストロンガーの猛攻は続く、流石に執拗に迫ってくるその攻撃を全て捌く事はできず

何発か被弾をするローズキラー、丈夫そうに見える漆黒の鎧が凹み突き刺した傷が見えた

拳そのものが凶器、そしてその指間から覗かせる刃がさらにその一歩先まで切り込む。

「・・やるじゃないの!そんな重たいのを着てこうも回避するなんてね!」

ステップを踏みながらローズキラーを見据えるレディストロンガー、先ほどから激しく連撃を繰り出している割には息が上がった様子などはなく寧ろ

今までのがウォームアップであったかのようだ。

対しローズキラーは多少凹んだ鎧など気にせずにゆっくりとバスタードソードを正眼の位置に構える


「良い動きだ。だが・・」


構えたまま強く柄を握る、次の瞬間にはレディストロンガーの足に氷がまとわり付きその動きを封じた

「っ!?これは・・・」


”おおっと!ついに反撃にでたローズキラー選手、何やら氷を扱いレディストロンガー選手の動きを封じた!

でかい剣を装備しているわりには姑息ですが実に巧妙な攻めです!”

ここぞとばかり叫ぶアナウス、だが会場の約三名は呆然とそれを見つめて固まる

「・・フ・・フレイア・・さん?」

「間違いないわ・・野蛮騎士よ・・」

「・・・・やれやれ、大層な鎧着込んでいてもあんなの使っちゃバレバレだっつうの・・」


「「えっ!?」」


「あ・・いや・・、氷を操るなんて難儀な技を使うな〜、一体誰なんだろう〜?・・あははは・・」

危うく本性をばらしてしまうところだった黒服パツ金男、役を演じきるには彼は若すぎるのであろう・・


「・・・、足を封じただけで私に勝てると思うの?」


それはさておきに動けなくなった足を軽く見てレディストロンガーは気丈に振舞っている。

虚勢ではない、足がなくとも闘えるだけの技量があるのだ

「ボクサーの反射神経は並ではない。それだけで優位に立ったとは思わない・・・(シューコー)」

「警戒はしているってこと・・?いいわ、きなさい」

「・・ふっ!」

遠慮なく突っ込むローズキラー、だがバスタードソードを地に刺して拳でレディストロンガーの相手をする気だ

「上等!!」

真っ向から打ち合う二人!


ガァン!!



ローズキラーの手甲はレディストロンガーのヘルメットにめり込み、同じくレディストロンガーの拳はローズキラーの装甲をひしゃげさす

凄まじい轟音が響いた後衝撃でよろめくこともなくピタリと制止する。

双方素顔が見えないだけに状況が理解できず静寂が辺りに木霊する

だが・・

「く・・」

レディストロンガーの体がフラリとよろめきゆっくりとその背に土をつけた

「・・、ボクサーの一撃は凄まじい。だがそれは同様に装甲をつけられぬリスクを背負う・・足を取られて時点で勝負は決まっていたのだよ」

倒れたレディストロンガーに一礼をしながらも勝ち誇るローズキラー、だが改めてみるとその鎧の傷は決して浅くは無い

「勝者!ローズキラー選手!!」

一瞬で両者の力量がぶつかった勝負に会場は静まり返っていたのだがジルさんの審判にて再び周辺に活気が包まれた

その中、ローズキラーはバスタードソードを抜いて静かに門へと消えていった


「うまく・・化けてはいるみたいですけど・・」


その後ろ姿を見ていたキルケ、元々猫を被るのが得意なとある女性を思い起こしている

「それでもお兄さんにはバレバレでしょうねぇ・・。何のつもりかしら・・?」

「大方、想い人の変な癖を阻止しようとして仮装したんじゃねぇの?」

「・・あ・・あの、黒服パツ金男さん。ローズキラーの正体・・詳しく知ってません?」

「え゛!?な〜に言ってるんだよ!ただの憶測さ!憶測♪」

キルケの突っ込みに慌てる黒服パツ金男、雰囲気からしてバレバレなのだがそこはご愛嬌・・

「ま・・ある意味有名だしね。とりあえずはAブロックは終了で勝ち残ったデストロイベアーとお兄さんが闘ってその勝者が

ローズキラーの相手・・かぁ・・。平坦じゃないわねぇ」

ロカルノの実力は並ではない、だが同様に次の相手となるデストロイベアーの腕も凄まじい。

そしてそれを勝ち抜いて待ち受けるはローズキラー、強敵との連戦にフレイアの顔はしかめる

「大丈夫ですよ!ロカルノさんは負けません!」

「そ・・そうね・・」

「なんてったってアミルさんの祈りが込められた服を着ているのです!腕の一本二本もげようがロカルノさんは無事生還します♪」

「そうねぇ・・って!!この場にいないアミルの事なんて関係ないでしょう!!」

この場にいないのに何故かメインヒロインっぽくなっているアミルに対してフレイアさん嫉妬の炎全開・・

女というのは恐ろしいものである


「アミルがどうかしたのか・・?」


そんな中周囲の注目を集めながら声をかける漆黒の貴族・・

「あ・・お兄さん!」

愛しき男の声に嬉々として振り向くフレイア、アイスホッケー面から覗かせる瞳はときめいている

だが・・

「・・・ん・・?誰だ・・?ああっ、フレイアか・・」

ロカルノの何気ない言葉に轟沈・・、彼女が望む戦いの無謀さが伝わってくる

「ロカルノさん、選手控え室にいなくてもいいのですか?」

「ああっ、Aブロックの試合は終わった。Bブロックの方が終わるまではいいそうだ」

「そうなんですかぁ・・。それにしても注目を集めてますねぇ・・」

周辺の視線は一斉にこちらに向けられておりキルケとしては何だか少し恥ずかしい気にもなってくる

「物好きが多いからなぁ、まっ他にセイレーズの服装を着ているが他にいないんだし

グランセイレーンこそがセイレーズの後継者・・って噂になっているんだろうさ」

苦笑いの黒服パツ金男にグランセイレーンことロカルノの目が鋭く光る

「・・キルケ、そちらは・・?」

「あ・・試合の解説をして頂いている人ですけど名前は聞いてませんでしたね・・一応『黒服パツ金男』で通ってますけど・・」

「どもっ、黒服パツ金男です・・。まぁ、せっかくの仮面大会なんだ・・。名前は伏せておこうぜ?」

「・・ふっ、了解した。だが仕事は放っておいていいのか?・・放置していると妻が怒ると思うのだが・・」

「っ!?まだ籍を入れていないし一応理由は言ったよ!!」

茶化すロカルノに慌てる黒服パツ金男、女性二名とは違い彼には正体がすぐにわかったようだ

・・っというか、わからないほうがおかしいのかもしれない。・・特にフレイアは・・

「お兄さん、この男と知り合いなの?」

「・・、まぁそこは触れないでおこう。それにしてもフレイアの耳にも届いていたのだな」

「そっ、そうよ!お兄さんもお父さんも何の連絡もいれてくれないんだから!私だってセイレーズの関係者よ!?」

「そうとは言えどもお前は正規の職に就いている身だ。セイレーズに関わる一件とは言え表の職にたいして波立たせるのは忍びなかったのでな」

「・・お兄さん〜♪」

兄の言い訳に感動しているフレイア・・だが、どうあれそれは言い訳であり除け者にした事は間違いない・・

しかし母親譲りの楽観さにそんな事に気付くはずもないフレイアさんでした。

「それで・・次の試合で噂のマスク・ド・ダークネスの登場か・・」

目を潤ませるフレイアを無視して次の対戦カードに注目する黒服パツ金男。

彼女の結果がわかりきった恋愛に妄想で慰める彼女の哀れんでの事、フレイアさんに幸あれ・・

「マスク・ド・ダークネス?何なのですか?」

真っ当な人間は先ず知らないディープな世界でのダークヒーローの事など一介の仕立て屋職人コスプレエクソシストが知ろうはずがない

「キルケは知らないか・・。今仮面業界で一番注目を浴びているダークヒーローだ」

「それだけじゃないぜ?通り魔的に悪党を裁く仮面の男として騎士団で噂もされている男だ・・真偽は不明だけどな」

ロカルノならばまだしも黒服パツ金男までマスク・ド・ダークネスに詳しい事にキルケは目を丸くして驚くのだが・・

「あの・・騎士団の情報にも詳しいんですね・・?」

「えっ!?あ・・いや!知り合いの騎士がそう言っていたんだよ・・あ・・ははは・・!」

「ふっ・・芝居が下手なのは相変わらずか・・」

「う・・うるせい!!」

蝶々仮面の中にある目は泳ぎながらも黒服パツ金男は文句を言う。

「お兄さんの友達・・?」

「・・さぁ、始まるぞ」

妹から向けられる疑惑の眼差しなぞなんのその、ロカルノはさっと話題を切り替え次の試合に注目させるのであった



”さぁ続きましてBブロック、第四試合です。

カードはこちら、今仮面業界では彼の噂で持ちきり・・マスク・ド・ダークネスと

東国カムイからの刺客の雅選手!ダークヒーローと噂されるダークネス、女性選手に対しても情け容赦のない攻撃を仕掛けるのか!

見物です!”


白熱するアナウス、渦巻く歓声、その中舞台には一組の男女が戦闘準備に入っている

1人は漆黒の仮面、悪魔を思わすようなトゲトゲがあり目元を解放した珍しい仮面であり顔を下半分、目の周辺を覆うようにできている

着ている物は黒革ジャケットに革ズボン、背には袈裟型に裂かれた十字架マークが刺繍されておりそれは袖元やバックルも同様。

手には黒レザーナックル、足は黒スニーカー

黒一色で統一されているその男はマスク・ド・ダークネス。だが得物は持っておらず特段武装はしていない

・・強いて言うなればその仮面の部分が刺さったらいたそうなぐらいである

そしてその相手となるのが折り目がピチッとついた黒袴に年季を感じる白武闘着着用、その上に赤黒い胸当てを着用した女性『雅』

白く凄まじい形相をした般若面をつけており髪はスラッと長い水色。

だが全体的に体はか細くおおよそ戦闘をするような人物には見えない


しかし・・

「・・あの雅という女・・相当できるな・・」

一目見ただけで彼女の実力を見抜いたロカルノ、彼女から放たれる一種独特な雰囲気に呑まれる事なく正確にその能力を判断した

「そうなんですか?ダークネスと雅は双方素手ですけど・・あの体格差では雅が圧倒的に不利なように見えるのですが・・」

「へへっ、キルケ。戦いは力が全てじゃないんだよ・・」

一般的な感想を言うキルケの隣で黒服パツ金男が静かに笑う・・

「だけど、あの女が不利な事には違いないじゃないの?」

「まぁ・・それはダークネスの実力次第ですね・・。な〜んか見たことある気がするんですが・・」

「マスク・ド・ダークネス。悪魔を彷彿とさせる禍々しき仮面を着用しつつも信念に基き動く男・・。

なるほど・・・、その噂を上らせるには相応しい気骨だ・・。その正体は一流の騎士にちがいない・・」

「あ・・あの〜、ひょっとしなくてもあれってアレ・・」「さぁ!はじまるわよ!!」

注目の試合開始に感極まったフレイア、その声に黒服パツ金男は口からでかかった言葉を掻き消された

っというか、目元が大きく解放されたあの仮面では知り合いならば一目で正体はわかる。

それに気付かない黒服パツ金男とロカルノは鈍感なのか仮面の魔力にとりつかれているのか・・


「第四試合・・レディィィィ・・ゴォォォォ!!!」


正体に気付かない二人を余所に支配は開始される。

開始の合図がなされても突っ込まない戦士達、先ずは様子見と互いの瞳を見つめている

「・・・、俺は女でも容赦はしない。その細腕を折られたくなければ降参しろ・・」

腕を組み堂々とした態度でダークネス

「いえいえぇ、心遣いはありがたいのですけど〜、それだと申し込んだ意味がなくなりますのでぇ」

対し間の抜けた声の雅、ダークネスの勧告を全く聞き入れずゆっくりと構え出した

「・・、東国の拳か。だが・・いかなる武でも俺を止める事はできん!」

気合十分に構えるダークネス、放つ気は闘気に漲っている

「う〜ん、良い気合ですぅ・・。昔を思い出しますねぇ・・では〜・・」

軽くステップを踏んだと思いきや雅の体が音も無く消え去る、ダークネスはそれを驚きもせずにそれと同時にバックステップ!

その刹那、


パァン!


会場に乾いた音が鳴り響いた・・、見れば雅が一瞬でダークネスを追いつめ鋭い拳を突き出しておりそれをダークネスは手を平で受け止めていた

「あらあら、見切られましたか〜」

「鋭い攻撃だが力が足りんな・・」

「それが悩みなんですよね〜・・でもぉ、そこらは手数で補ってます♪」

そう言った瞬間彼女の体は高速で動き、カマイタチのような蹴りを放ちダークネスの首を狙う

それに捕まるダークネスではなく体をかがめて空を切る凶器を回避した。

だが次の瞬間には雅の姿は忽然と消えており岩肌のリングにはダークネス1人残される


「・・・・、速いな・・」


その場で構えたまま動かないダークネスだが目は忙しなく動いており相手を捉えている事が伺える

そして・・


パァン!パァン!!パァン!!


乾いた音が連続で響く、ダークネスが飛びのきながら手を払っておりそれに合わせてその音は広がっていく

だが相手の姿は見えず一般人にはダークネスが手を出すと同時に音が鳴っているかのようにすら見える。

「・・ちっ!」

一向に反撃できないダークネス、乾いた音はなり続け姿の見えぬ相手に防戦一方を強いられる展開となった・・


それを見ていたキルケ一行は呆然としている・・、まぁ彼女達に限った事ではないのだが・・

「何を・・しているのでしょうか?」

「わ・・私にもよく見えないわ。ただ打つ瞬間にあの雅の姿がかすかに見える程度・・」

動体視力に優れたフレイアですらそれについていけず目を丸くしていた

「超高速戦法・・だな、目には捉えきれない動きで仕掛けている。この乾いた音からして音速を超えているか・・」

その中ロカルノだけはその様子を分析し二人が闘う姿を見つめている

「お・・音速!?」

「この乾いた音は雅の拳をダークネスが受け止めた時に起こっているだけじゃないんだよ。

音速を超えた拳は乾いた音を奏でる・・おそらくはそれだろう」

黒服パツ金男もロカルノの意見に賛成のように解説を付け加えている

「で・・でも、そんな速くできるの!?」

「可能だ。最も・・あのように踏み込んで放つとなれば話は別だが突きの速さだけでは優秀な拳士ならばやってのけよう。

・・そうだな・・ルザリアのクロムウェルなんかはできると思う」


「・・・ギク・・」


にやりと笑うロカルノ、体がビクリと震える黒服パツ金男・・

「クロムウェルってあのクロムウェル〜?ルザリア最強って言われているけど大した事なさそうだったわよ〜?

クラーク=ユトレヒト倒すって息巻いていて結局倒せなかったんだし」

対しキルケとフレイアは気がついていない様子、これも仮面の魔力か・・

「クロムウェルは装備が二級品だからな。クラークの戦法を理解し真っ向から全力で挑めば良い勝負にはなるだろう」

「え〜、でもクロムウェルさんっていきなりクローディアさんに抱きついたりしちゃう人ですから〜、勝たない方がいいんじゃないですか?

うかれて何しでかすかわからない人っぽいですし・・」

・・流石の彼女も恋人が敗れる話は気に入らないらしく珍しくふくれっ面になっている

「ま・・まぁまぁ、そのクロムウェルって奴の事は置いておこうぜ」

目の前で自分の事を非難される黒服パツ金男、変装という事に少し哀しさを感じつつもばれないように話を反らしている。

幸い、他の面々もクロムウェルについてはさほど興味が無い様子・・それはそれで哀しいのではあるが・・

「でも、音速拳を放ちながら目に見えない動きなんて・・目の前で行われているのだから信じるしかないんだけど・・」

「普通に鍛えた軽戦士ならまず無理だ。雅の腕を見ただろう?あれは高速戦闘用に肉体改造した結果・・だろうな」

「に・・肉体改造・・ですか・・?」

鋭い黒服パツ金男の解説にキルケ、生唾をゴクリと・・

「なるほどな・・俊敏性を最大限に活かすために無駄な筋肉を落としその上身体強化の術を使ってあの戦法を確立させているのか・・」

「ふぅん・・、でもそれだと一撃が軽すぎない?」

「だから目にも止まらない動きのまま連打しているんだよ、ああやって攻めに攻めているけど同じ箇所を重点的に狙わないとけない、

ダークネスはそれを見切って防戦一方になりながらも致命傷を避けているんだ」

鳴り止まない音速音、1人で舞うように動くダークネスの姿があるが確かに絶えず動いているのがわかる

「すごいリスクね・・。でもあのスピードを見切るダークネス・・一体何者かしら・・」

「さぁな・・。だが噂に違わぬ実力を持っているな」

「・・・(芝居じゃねぇよ・・な・・?)」

ダークネスの正体に気付かない面々が冗談に見えてくる黒服パツ金男、だがそれが現実。

そしてそれを可能にさせている事こそ仮面の魅力、マスク イズ ワンダフル



対し二人の戦いはひとまずは小休止、攻防が止んだと思ったら雅が音もなくその姿をみせた

「はぁ・・はぁ・・攻め手に欠けますねぇ・・」

息が荒い雅、やはり超高速戦法は肉体に相当な疲労を与えるらしくその色は濃い。

速さのために筋力を犠牲にした体、元より短期決戦型の戦いが得意なのだ

「良い攻撃だが・・俺を倒すには一撃必殺の攻撃が必要だ」

「そうしたいのはやまやまなんですが〜、できないんですよねぇ・・」

「ならば降参しろ・・」

堂々と降参を勧告するダークネス、ダークヒーローとは言え女性に対してはそれなりの気遣いはもっているようだ

「心遣いありがとうございます〜、でもぉ・・相手がいるのに背を向けるのは私にはできないんです〜」

穏やかな口調とは裏腹、勝ち目はなくとも決して退く事はしない雅

それにダークネスは深く目を閉じ呆れたようにため息をつくと・・

「・・ならば、果てろ」

キッと鋭く睨めつけ拳を構えた、相手に退く意志がない以上手加減はしない

それが例えか弱き女性でも・・。

それこそがダークヒーロー・・

「ふふっ、ただで負けたら皆に笑われるのでぇ・・一矢報いますよ〜!」

緊張感がない雅の口調とは裏腹に放つ気配は鋭い、

そしておもむろに胸当てを捨て武道着を脱ぐ。サラシにより胸は隠れているのももその体は異様なほど細く

美を感じるには物足りなさを感じさせる

「・・なるほどな、最大戦速で挑むか・・!」

「これをやったのはベイトさんぐらいですが〜、いきますよぉ!!」

音も無く消え去り次の瞬間にはダークネスの懐に踏み込む雅!

そして・・


パァンパァンパァンパァンパァンパァン!!!


連続して放たれる音速音、本気の雅の動きにダークネスはついていけないのか守りを固めそれを受け止める

その腕がくぼんでいるがわかり徐々に服が破れていっている

「・・う・・ぬ!!」

止まらない音速乱舞、目にも止まらぬ速度にて鋭い拳を一点集中させる・・

力はなくても勢いはある、一発一発が骨に染みる衝撃を放ちダークネスの体はすぐさま圧されだす!

だが、流石に体力が続かないのか雅の打撃速度が少し衰えてきており、勝負に出る

「・・はぁぁぁ!」

全力での一撃・・!ボロボロになったダークネスの腕を打ち破り心臓に深く食い込ませようと深く踏み込む!

「っ!そこだ!」

それを勝機とみたダークネス、防御を解き咄嗟に拳を振りかざし・・



パァン!!


乾いた音が会場に響いた・・

「・・・・・」
「・・・・・」

無言のまま見つめある二人・・、双方の拳は双方の胸に当たっている

「私も・・引退・・ですかねぇ・・」

相打ちかと思いきや残念そうに雅がそう言いながらゆっくりと仰向きに倒れた

「良い腕だ。貴女に力があったのならば・・俺はおそらく勝てなかっただろう・・」

1人立つ勝者、ダークヒーローに似合わず挑んできたか弱き女性を賞賛した


「勝者!マスク・ド・ダークネス選手!!」



しばし呆気を取られる観客達を尻目にレフェリーのジルさんは彼の腕を上げて高らかに勝利宣言を言う・・

遅れる事数秒、咳を切ったかのように会場に歓声が響き渡るのは言うまでも無かった。


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