第ニ章 「仮面肉弾戦」
仮面武闘会
それは通常の武技会とは違い主催者が名を伏せているがために開会式などはなく
トーナメント組み合わせのみが公開されており会場は観客も仮面着用となっているが故にさらに異様な空気に包まれる
その中、最前列にて座るキルケは全く動じる事なく売店でポップコーンを買って来てモシャモシャ食べている
「う〜ん・・。仮面着用な割には場内の食事は禁止じゃないのね・・」
そんなキルケの隣で唸るフレイア、仮面を上手くずらして食べているキルケの器用さに感心している
「まっ、目元を覆うタイプがほとんどですしねぇ・・。食べます?」
「ありがと・・。でっ、出場者は計14名、名前からして〜・・どれがお兄さんなの?」
トーナメントの組み合わせは
第一試合はデストロイベアーVSランページマッスル
第二試合はグランセイレーンVSセイレーズ二世
第三試合はローズキラーVSレディストロンガー
第四試合はマスク・ド・ダークネスVS東国般若仮面
第五試合はナイトプリンセスVS白き悪魔「贋蛇武」
第六試合はウィング零VSハンサムガイ
一〜三試合までをAブロック、四〜六試合までをBブロックとし第三試合と第六試合の勝者はシード枠となっており
一試合少なくなっている
「第二試合に出場している『グランセイレーン』がそうです。見た目がほとんどセイレーズと同じなので一目でわかりますよ♪」
「へぇ・・じゃあ、お父さんの服を使ったのかしら?」
凛々しき兄の姿を思い浮かべ仮面の下でにやけるフレイア・・それに対しキルケは別の笑みを浮かべだす
「私が製作したものです♪細かい箇所はアミルさんが愛情込めて作りましたよ♪」
「え゛!!?・・じゃ・・じゃあ・・それに対しお兄さんは・・」
「感謝感激・・ってところですかね、抱擁してましたよぉ〜」
「・・・・キー!!あの娘!!!」
そんな事自分はしてもらった事がない!!っと女の負の嫉妬パワー全開!
まぁ義理とは言え兄と妹の枠を超えれない彼女がそれを成す事などありえる事ではないのだが・・
「まぁ・・今回はセシルさんは全く手伝っていない分アミルさんの株が上がったってところですかねぇ・・
第三位のフレイアさん・・そろそろ潮時じゃないですか?」
「誰が第三位よ!お兄さんと一緒に暮らせていたらそのぐらい私でも・・・!」
「・・っというか、今回の一件、ロカルノさんからの連絡でしたか?」
「・・・・・、さ・・さぁ!始まるわよ!」
「・・(何だかある意味可哀想ですねぇ・・)」
色々と不利な状況でも挫けず(しつこく?)ロカルノに挑むフレイア
その心意気は女として尊敬に値する・・
”さぁ開始しました仮面武闘会、よもや生きている内にその司会進行を行えるとは思いませんでした。
司会は私フランキーが進行致します、どうぞよろしく。
本トーナメントは勝ち抜き戦。ですが主催者の意向によりトーナメントを勝ち抜いた者は主催者であるウィロウ二世への挑戦権を授ける仕組みになっており
もう一戦、真の決勝としてウィロウ二世と対戦する事となっております”
淡々と司会を進め会場にはその声が響き渡る・・
仮面だらけの観客席は静まり返っており一種異様な空気に包まれていた
そんな中キルケだけはいつも通りにポップコーンを掴んでいる
「主催者主導ですねぇ・・。高みの見物ですか・・」
「名探偵の二代目とは到底思えないわね・・。まぁ狡猾なところは適正はあるのかしら・・」
何気に非難をかます娘二人・・、いい根性と言えばそうであるが・・
”それでは早速参りましょう!第一試合デストロイベアーVSランページマッスル!両者入場です!”
フランキーさんの高らかな声とともに円形の死闘場の扉が開かれる。
一方は蝶々の形をした仮面をつけた褐色肌の女性、どっしりとした体格で何故か黒いメイド服姿
一方は赤いブーメランパンツに虎の顔のマスクをつけたマッチョマン
双方とも武器は持っていない
二人ともかなりの巨漢であるがために一緒に入場してきたバニーガールなレフェリーが本当に兎のように小さく見える
”手元の情報によりますとデストロイベアー選手はサブミッションなど関節技を得意としており
ランページマッスル選手はその肉体を最大限扱った打撃技を得意としています!
武器を使用せずにぶつかり合う肉と肉!注目しましょう!!”
「・・・、仮面と関係なしに普通に良い試合そうねぇ・・」
最前列から見える両選手の巨漢ぶりにフレイアさん目が点に・・。
今更ながらにインテリのみの戯事ではない事に気付くのだ
「でも・・、何かお似合いの組み合わせですねぇ・・。これも主催者の意向って奴ですかね・・?
とにかく注目しましょう」
ポップコーンを摘みながらキルケが言うと同時にバニーガールレフェリーのジルさんが開始の合図をかけた
「さぁ・・おっぱじめようかい!」
腕を回し気合十分なデストロイベアー、中々の豪腕が空を切る
「・・待ち焦がれたぞ・・この時を!」
対しランページマッスルは仁王立ちのまま・・タイガーなマスクの中から覗かせる瞳はデストロイベアーをジッと見つめている
「・・??待ち焦がれた・・?」
「リベンジマッチだ!行くぞぉ!!」
問答無用に駆け出しムチムチの体を高速で動かす、巨漢に似あわず俊敏な動きでデストロイベアーに肉薄し体勢の低くしてのアリキック!
「おおっと!良い狙い所だ!」
意表を突くランページマッスルの攻撃にデストロイベアーは距離を空ける、関節技が得意とは言えども低い姿勢からでは中々返せない。
無理をすれば対処はできるのだが早々に仕掛けるほど愚かではない。
相手を見極める能力がなければリングでは勝ち残れないのだ
「・・、おおおっ!」
それはランページマッスルも同じ、飛びのいたデストロイベアーに追い討ちをかけるべく低空の蹴りを踏ん張りそこから超低空のタックルをかます
これも様子見、相手の腕を確認するための挨拶代わりと言っていい
「っ!うっしゃ!!」
真っ向から向ってくるマッスルのタックルに対しベアーは同じように低空でのタックルで突進する・・
ゴチン!っと筋肉がぶつかる音がし双方怯んだのも一瞬、すかさずベアーがマッスルの後ろに回りこみ腕を掴む
そして体重を巧みに使ったバックドロップ!
「ぬおっ!?・・うおおおおおお!!!」
固い闘技場のリング、頭から叩き落されてはタダではすまない。
マッスルは高速で投げられる中、脳天が地に付く前に両手を大地に叩きつけベアーの投げ技から回避する・・
「いいねぇ・・、巨漢の割には良い反応するじゃないかい!」
追撃不要とマッスルを解放し距離を保つベアー、対しマッスルもゆっくりと起き上がる
「当然だ・・。俺はこの一戦のために全てをかけたんだ・・」
マスクから覗かせる瞳は闘志がみなぎっている・・
「私のために・・?」
「デストロイベアー、否ベイト=ブッシュ!この闘技場での俺の唯一の黒星・・今こそ晴らす!」
「闘技場・・?ああっ、昔暴れていた頃の話だね。参ったねぇ・・根にもたれても困るんだけど・・」
頬を掻きながら苦笑いのベアー、自身としての若さゆえの過ちを思い出している
”おおっと!どうやらデストロイベアー選手とランページマッスル!因縁の戦いのようです!
一体どうなっているのかぁ!!?”
「う〜ん、解説は盛り上がってますけど・・第三者としては何が何だかわかりませんねぇ・・」
試合は結構、だが私怨に関しては判るはずもなくキルケは苦笑いをする
「あ〜、あのランページマッスルって奴の正体のはかつてこの闘技場で名を馳せていたレスラーなんだよ。
その当時は『無敗の筋肉王』やら『筋繊維の城』って言われていてな。
唯一苦汁を舐めさせられたのがあのデストロイベアーってわけなんだよ」
「あ・・ありがとうございます・・」
キルケの隣にいた黒い武道着に似た服装の男が親切に説明してくれる、
ベアーに似た蝶々仮面、金髪の髪は後ろにかきあげられており
その口調や声からしてどこかであった事があるような印象をキルケは受けた
「それで・・わざわざデストロイベアーが出場するって事だからマッスルも参戦したの?仮面武闘会と全然関係ないじゃない・・」
「まぁまぁ、そう言ってやるなよ。元々ベイ・・っと・・ベアーは闘技場に参加したのは戯れがてらで本来はメイド職だからなぁ・・。
一般業務の最中に大の大人がリベンジを申し込むわけにもいかない・・って事でマッスルにとっては唯一のリベンジバウトなんだよ」
苦笑いしながらフレイアをなだめる黒服パツ金男、相当な事情通である
「で・・貴方はどっちが勝つと思いますか?」
「それは見てのお楽しみ・・ってか」
ニヤリと笑い試合を注目する黒服パツ金男・・、本人としてはすでにどちらが勝つのかがわかっているようである
「ふふふ・・俺の事がわかる奴もいるようだな・・」
そんな観客席からの声にマッスルが静かに笑う。
そうとは言えどもその体の筋繊維の一つ一つは宿敵との対面にフル稼働中で闘いの続きをしたがっている
「あ〜、あんた・・。あれは悪かったよ、天下一メイド武道会に備えてウォームアップのつもりで・・ね」
「構わんさ。俺のレスラー人生の中で最高の敵と出会う事ができた・・。現役を退いた身ながらここでリベンジさせてもらう!!」
「悪いね、あたしは二代目セイレーズと闘うまで負けるわけにはいかないんだ!今回も黒星を叩きつけてやるよ!」
「ぬかせ!」
気合十分にマッスルが突っ込む、巨漢に似合わぬ動きにベアーは真っ向から迎え撃つ!
ドン!
再びぶつかる肉体と肉体、だがマッスルはすかさず半歩下がりそこからベアーの首目掛けての延髄蹴り!
「おおっ!やるじゃないかい!」
急所を狙う巧みな攻撃に対しベアーとその蹴りを無理やりに掴む、相当な腕力と反射神経がなければできない芸当
だがマッスルはそれを読んでいたのか全く動じる事無く空中で華麗に姿勢を変える!
「関節技はお前だけの物ではない!」
空中での腕ひしぎ逆十字!絞める体勢を整えたまま後は重量任せに押し倒す!
「ぬお・・、巨漢ににあわず中々良い絞めをしているねぇ・・」
「引退してから今まで・・お前を倒す事だけに特訓を積み重ねてきた!打撃でお前は倒せぬ以上仕留めるには関節を極めるしかない!」
ギリギリと腕を締め付けるもののベアーの顔色に変化はない
「良い考えだ!でも・・まだまだ付け焼刃だね!」
「何!?うおお・・!?」
完全に決まったと思われた腕だが瞬間凄まじいまでの力により無理やり剥がされてしまう!
その瞬間ベアーの体は凄まじい速度で足を掴みそのまま四の字固めを極める!
その間1秒足らず、マッスルには何が起こったのかわからず足から激痛が伝わる・・!
「う・・ぐぅぅぅ・・!!ま・・参った・・!」
本家の関節技にマッスル、抵抗をせずに負けを認める・・、彼も一度彼女と対戦した身、その関節技から逃れる術はないのは重々承知しているのだ
「それまで!勝者!デストロイベアー選手!!」
レフェリーのジル嬢の声とともにベアーは四の字を解き手を差し伸べる、マッスルも静かに微笑みながらその手を掴んだ
「・・完敗だ、流石だよ・・ベイ・・いや、デストロイベアー」
起き上がるとともに握手を求めるマッスルにベアーも応え固く拳を合わせた
「あんたはなかなか筋がいいよ。関節技で勝負を挑まなければもっといけたかもしれないね」
「打撃と投げに対する迎撃を兼ね備えているあんただ。うかつに手が伸ばせなかったのさ」
「ふふ・・、またリベンジしたければルザリア騎士団まで足を運びな、そこで働いているから・・」
「馬鹿を言え・・、リベンジは一度きりなのがリングの掟だ。それに・・引退した身で二度も挑むほど恥知らずではない」
そう言いながらベアーとの握手を解き、マッスルは静かに円形のリングから立ち去っていく
その姿に一片の悔いはなく・・
”第一試合、デストロイベアー選手が駒を進めました!惜しくも敗退したランページマッスル選手もすがすがしく立ち去り
正しくナイスバウトです!
それでは第ニ試合の準備を取り掛かります、しばらくお待ちください!”
やたらと興奮するアナウスを余所にキルケ達は悠然と会場を後にするベアーの姿を見つめていた
「すごいですねぇ・・。一瞬で関節を決めるなんて・・」
「ほんとね、あれほどの腕・・騎士団の体術教官クラスなんてものじゃないわ・・」
通常余りお目にかかれない独特な戦いにキルケもフレイアも驚きを隠せない
「『触れれば折られん』って言われるほどの腕だ。マッスルも始終腕を使っての打撃をしなかっただろ?
上半身を攻めようものなら瞬く間に掴まれ関節を絞められるんだ」
「へぇ・・」
「まっ、最後のマッスルの絞めに対して完全に決まる前に抜け出しあっという間に逆転しただろう?
あの速さで動かれたらそうついてはいけない・・。
その点、低空タックルや延髄の急所狙い、そして関節技使いに関節で対抗したところ相当研究したんだろうな・・」
対し隣に座っている黒服パツ金男はこの結果を最初から判りきっていたようでニヤリと笑っている
「あの・・詳しいですねぇ・・」
「ははは・・まぁ格闘技が好きなんだよ。
あのデストロイベアーもその手の世界じゃ有名だしランページマッスルの方も実はかなりの有名選手なんだよ。
仮面武闘会って事で素顔が出ていないけど素顔の対戦ならその手の記者が取り囲んでいただろうなぁ・・」
「は・・はぁ・・」
世の中色々な世界がある、キルケはそれを痛感するのであった・・。
「・・それはそうと・・あんた、どっかで会った事・・ない?」
それとは別にフレイアは先ほどからこの男の事が気になっていたようでマスクの中から覗かせる瞳を睨みつける
「な・・なんの事ですかな、フレイアさん・・」
「・・なんで私の名前を知っているの?」
「ソレハソコノオジョウサンガイッテイタカラデスヨ・・アハハハ・・」
尋問のような質問に男の言葉が片言になってしまう、まぁ正体は言わずもかな・・
だがこのような場で見慣れない物をつけていると意外にもばれないものなのである
これこそが常人にもわかる仮面の魔力・・
「まぁまぁ、別にいいじゃないですか♪親切に説明してくださっているんですし・・」
「むぅ〜・・。なんかあんまり私情を挟みたくない相手のような感じがいたんだけど・・まぁいいわ」
「ありがとよ・・(情報部に仕事さぼっているって実態がばれたらあの爺に何言われるかわからんしなぁ・・)」
キルケの制止に胸を撫で下ろす黒服パツ金男・・、デストロイベアーが心配で応援に来ているのだがサボりには変わらず・・
恋人の許可は取れたのだが他の面々には恥ずかしくて言えないが故に正体を明かせないのだ
「私も会った事あるような気がするんですけどねぇ・・。あっ、第二試合が始まりますよ!!」
隣に座る男の事など何処へやら、歓声とともにレフェリーが出てくる事にキルケの目はそちらに向かれた
”それでは第二試合・・選手の入場です!
東門からの登場はセイレーズ二世選手、我こそはセイレーズの後継者と豪語している猛者です!
そして西門からの登場はグランセイレーン選手、公言はしていませんが彼もセイレーズを彷彿とさせる衣装での登場です!”
アナウスとともに入場する二人の戦士、1人は言わずもかなのロカルノ
そしてもう1人は全身黒で統一した貴族服をきた痩せ型の男・・、ただロカルノがいつも愛用しているような金属マスクを着用している
目元のみを隠す金属面からしてその出来は中々に精巧、ただの仮装ではないようだが口元はにやけている
「第二試合・・はじめぇ!」
そんな事を余所にレフェリーのジルさんは大きな声で試合を開始させる、
この大会で間違いなく注目されるセイレーズの後継者がどちらかなのか知りたいのか
観客は開始と同時に固唾を飲みこむが如く静まり返った・・
「・・ふっ、服装からして随分と勉強をしたようだな・・」
そんな中、ロカルノは静かに笑いながらも仁王立ちのまま。腰に下げる剣には手をかけようともしない
「くくく・・この俺こそがセイレーズを継ぐ者だ。そんな派手な服を着たところであの御方にはなりきれまい」
対しセイレーズ二世はこれでもかとばかりにロカルノを見下している、余裕というよりかは過信の塊、
放つ気配からしても大物とはお世辞にも言いがたい
「確かに派手だが・・、心を込めて作った以上異議を唱えるのは紳士的ではない・・。それにセイレーズは怪盗だ。
闇に溶け込むだけを意識しているわけでもないのさ」
「抜かせ!」
ロカルノの余裕の態度にセイレーズ二世はいきり立ち腰に下げたレイピアを抜く、そこにあるのは黄金のレイピア・・っと思いきや
店売りのソレを多少改造した程度・・、おまけに切っ先の輝きが少しくすんでいる
「・・・・・・、ふんっ、鍍金か・・。まぁ、黄金のレイピアなどそうは用意できん物だからな」
「くっ・・!貴様も抜け!対等で闘ってやる!」
「冗談はよせ、小物相手にまともに刃を向けられるか・・。対等というならばこちらが加減せねばな」
そう言いながらも構えらしきものもせず軽く腕を組むロカルノ、冷静すぎるその態度はセイレーズ二世の神経を逆撫でさせる!
「キサマァ!!!」
激情のまま突っ込み出す漆黒の偽怪盗、予想以上のスピードでロカルノに迫りくる
身のこなしからして彼は素人ではなく玩具のような剣と言えどもそれを補うだけの腕はあるようだ
だが如何せん相手が悪い・・、歴戦の戦士に加えてセイレーズを継ぐ者であるロカルノ、並の腕前では相手にならない
切りかかる鍍金黄金レイピアの刃などかすりもせずに飛びのいた
完全にロカルノを捉えたと思ったセイレーズ二世だったがために忽然と視界から消え去った事にしばし目を疑っている
「・・ふむ、身のこなしからして・・ただのセイレーズファンというわけでもない・・か」
「・・・・、貴様・・」
「さしずめセイレーズの同職・・、だが姿形に拘るところといい身栄えなく刃を振るうところといい・・品のなさまでは真似はできないようだな」
「黙れ!それに何故攻撃をしない!!」
「この服を傷つけさせるわけにもいかなくてな・・、まぁどこまで動けるかの確認をしているのだよ」
キルケの手作りでありアミルの想いが込められたセイレーズ衣装、傷をつけるわけにはいかない、それがこんな小物ならばなおさらである
「俺こそがセイレーズの後継者!馬鹿にするのも大概にしろ!」
「・・やれやれ、自称だとはいえそこまで堂々というのも困りモノだな。何を基準にしているのか・・・。
まぁいい・・そろそろ終わらなさいと客も暇だろう」
軽く息をついた瞬間、ロカルノの姿が音も無く消える・・
「え・・?」
正しく一瞬の出来事にセイレーズ二世は何が起きたかわからずに固まる
次の瞬間・・
カツ・・ン
彼が装着していた金属マスクが闘技場の地に転げ落ちる・・。そして彼の真横で軽く黄金のレイピアを構えるロカルノの姿が・・。
一瞬にして音も無く彼の隣に移動しネェルブライトにて仮面を軽くはねて落としたのだ
「・・仮面武闘会規定その壱・・出場者は仮面を取られ素顔を曝け出した時点で失格となる・・」
固まるセイレーズ二世に軽く声をかけるロカルノ、だがそれも一瞬で素早くネェルブライトを鞘に収めた
「そ・・そこまで!規定によりセイレーズ二世選手!失格で勝者はグランセイレーズ選手!!」
余りの早業に周囲が静まり返る中、ジルさんの言葉が静かに闘技場に響きそれとともに会場から張り裂けんばかりの喝采が鳴り響いた
「あ・・そ・・んな・・・」
何が起こったのかわからないセイレーズ二世、曝け出された素顔だが目が泳いでいる・・
「セイレーズを名乗るにはお前は荷が重い。冷静さを欠いた牙は私には届かないのでな」
そう言いロカルノは静かに西門に消えていくのであった
・・
「・・お兄さん・・(うっとり)」
それを見ていたフレイアは完全に悦った表情で蕩けている・・、次の試合の準備をするべくセイレーズ二世は惨めに退場し
会場は興奮のルツボになる中、完全に自分の世界に入っているご様子
「・・・悦るのは結構ですけど・・別に付き合っていないんじゃないですか・・・」
「うるさいわね!改めて惚れ直しただけよ!」
「あははは・・・、まぁ、がんばってください・・。ところでパツ金黒服男さん、今の試合どうでした?」
結果が見えている恋愛に走る乙女にせめて一時の妄想を、キルケは優しく放っておく事にして隣の男に聞く
「ん・・?そうだなぁ・・まぁカードが悪すぎたってところか。セイレーズ衣装対決なんだろうけど
ロカ・・っと、グランセイレーンなんぞ放つ気配からして並じゃないだろう?ウォームアップなんだろうさ」
「へぇ・・、じゃあ次のデストロイベアーと闘ったらどうだと思いますか!?」
「正直、なんとも言えないな。完全な異種格闘技だろうしいくらグランセイレーンでもベアーに捕まったらただではすまない。
まぁ、つまらない前座な分見ごたえはあるだろう」
「そうですか〜・・、ううん・・楽しみですねぇ♪」
1人素直に武闘会を楽しんでいるキルケ、そんな彼女を余所に武闘会は次の試合へと駒を進めていくのであった
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