第一章 「乙女が紡ぐ物」
タイムよりネェルブライトを借りた後、ロカルノはそのまま真っ直ぐに帰路につく。
元々寄り道をするタイプではないのだが彼は出掛ける前にキルケにある頼み事したのだ・・
それは仮面武闘会に着用する装備の作成・・
本来そんな事をエクソシストな彼女に頼む事はお門違いも良い所なのだが彼女はただのエクソシストではなくコスプレエクソシスト
愛する男のために多種多様な衣装を着こなすキルケ、それ故に裁縫の腕は正しくプロ。
採寸から仕上げまで完璧にこなしている。
最近では小道具まで作るようになっており靴やベルトなどまで扱うようになってきておりクラークにおねだりして
裏庭に館に隣接するように作業小屋まで作ったほどで我流ながら革靴の出来はかなり良くそれようの生地が多数取り揃えており
正しく工場状態になっている
ロカルノはそんな彼女の腕を見込んで装備の作成を頼み、キルケもやる気満々に数日の期間で実に見事に仕上げたのであった
・・・・・・・・
「どうですか!?ロカルノさんのデッサンを見て生地から拘って見ました♪」
談笑室にて満面の笑みを浮かべるキルケ、いつもの如く黒いメイド服に白いエプロンをつけている。
だがエプロンの腹の部分は黒く汚れており彼女の仕事の残り香を感じさせる
対し目の前にいるのは・・
「・・流石はキルケだ、セイレーズに似せた衣装は多種あれどもここまで実物に近づけた出来はそうはない」
漆黒の貴族服を身に纏ったロカルノ・・
下は折り目立った黒ズボンに銀刺繍が施された漆黒のブーツ、
ベルトには祈りを込める乙女の顔が描かれた銀製バックルに陽鋭剣ネェルブライトを下げる帯剣ベルト。
上は襟元が三角に折り外側に折り返されたウィングカラーの白シャツに銀縁の黒い上着・・、袖口は折り返され装飾がなされている
外套は漆黒のマントでそれを黄金の獅子が模られた留め具で止められている
頭部は鍔広な羽根付き帽子、顔を隠す仮面はつけておらずただ黒布を目元に巻いて結びそこに当たる部分を切り出した質素なもの
それでも放つ雰囲気を高貴なる貴族そのもの・・
「でも・・仮面は拘らなくていいんですか?布に穴空けただけなんて・・」
「セイレーズがやった事だからな、それに・・素性を隠す仮面の元になったスタイルだ。仮面武闘会に挑むにはちょうどいい・・」
「そうですかぁ・・(ふふふ・・でもただの物で済ますほどキルケちゃんは甘くないですよ〜♪)」
実はただの布に見えるそれもキルケの独断で細工がされている。
それは昔から伝わるお呪いの一種で、乙女が護符に祈りを込め、口付けをした物を染料に溶かしそれにて想いの男の装飾品を染める。
それにより乙女の想いが乗り移り男を優しく包みこむ・・っというもの。
多少乙女チックな呪いではあるが相応の効果はある、そしてそれをしたのはセシル不在のためにアミルが照れながら引き受ける
・・っと言ってもセシルがいたとしてもキルケが彼女にお願いしたかは疑問が残るのだが・・
「・・それよりも、少し刺繍が多いのが気になるな・・。それにこの金獅子の留め具・・」
キルケの思惑が込められた竜乙女のマスクに気付かずロカルノが言う
怪盗に相応しく少し目立つ衣装なのだが彼には少し引っかかるようだ
「まぁ〜、刺繍は気合を入れた結果・・ですね。派手過ぎないように加減をしましたのでそのくらいでちょうどいいと思いますよ?
盗みに入るなら少し目立つでしょうけど・・」
「闘うには問題はないか・・だが・・」
「ふふふ〜、あっ、金獅子留め具はちょっとしたお茶目です♪いつでもセシルさんと一緒な気分になりませんか!?」
ここらで帳尻合わせ・・
「・・いつも一緒ならばこちらの心労が溜まってしまう・・」
「またまた〜・・あっ、因みにバックルの顔はアミルさんなのであしからずに♪」
やっぱりアミル優勢・・、日頃の行いは大切である
「キルケなりの拘りか・・、まぁいいだろう。それにしても・・全て手作りとは思えない出来だ・・。
一流の職人の仕事だな」
職人の恋人は職人・・っというか素質があったのか・・。恋する乙女は強いのだ
「日頃の努力の賜物です♪刺繍はアミルさんが愛情込めてやってくれましたんですけどね♪」
「・・アミルが・・か・・。やれやれ、一言言えばいいものを・・」
「照れくさいんですよ、因みにセシルさんは何もやってません♪」
「あいつが手を貸せば完成しない事は目に見えている・・さ」
家事全般が大いに苦手なセシルさん、料理もできず裁縫もできず・・・、本妻の座危うし?
そこに・・
「あ・・ロカルノさん・・」
ふらりとアミルが談笑室に入ってきた。少しお疲れの様子で両手の指にはあちこち包帯が巻かれており・・
それが何によるものなのかは言うまでもなく、ロカルノは苦笑いにため息を一つ付く
「アミル・・」
「・・良く・・似合っていますよ」
その表情からして数日徹夜したのは誰にもわかるが自分の疲労を彼に見せまいと二コリと笑みを浮かべ傷だらけの手を後ろに回している、
何気ない心使いとその仕草に普通の男ならばそれだけで惹かれる事間違いなし・・
「アミルのおかげ・・っというところか。それよりも・・」
有無を言わせずアミルに近づきその手を掴む・・
「あっ・・」
「無理をしなくていい。こんなに傷を負って・・」
そう言いアミルの手を握りながら静かに精神集中するロカルノ、彼女を包む手から淡い光が溢れその傷を癒していく
「あっ、いえ・・。私が不器用・・ですから・・」
「ふっ・・まったく・・」
彼女の傷を軽く癒して上げゆっくりと抱きしめるロカルノ、対しアミルも頬を染めながら無抵抗に彼の胸に抱かれる
「ロカルノさん・・」
「すまないな・・私の我侭のために・・」
「・・うう〜ん、ほんと・・セシルさんよりもアミルさんの方がお似合いですねぇ・・」
何気にいちゃついているロカルノとアミルに仕立て屋職人エクソシストなキルケは微笑みながら見つめていた・・。
「そんな事を言っていると・・またセシルが怒り出すぞ?」
「ああっ、そういえばセシルさんここ数日姿が見えないんですよ。
ロカルノさんがルザリアに出かけたのと同じ頃でしたのでご存知ないと思いますが・・」
「ふむ、どうりで館が静かなわけだな・・。まぁまたどこぞで遊び惚けているのだろうさ」
「違いありませんね」
呑気に応えるキルケとロカルノ・・
保護者がいない中ケダモノが放たれているのだがライバル続出故にこれ以上の狼藉は本妻の座が本当に危ないと言う事で目下自粛中。
フレイアに対しては鼻で笑ってはいたのだがアミルの存在がよほど大きく写っているようだ。
そしてそのケダモノは・・・
・・・・・・・・・・・
彼らの館の近くになる町プラハ、そこには今その名を大国に轟かせている鍛冶師がいる
最もそれは犬人の少年鍛冶師、それ故にハイデルベルク国の老舗鍛冶師などによる鍛冶ギルドからは嫉妬の念剥き出しに彼を否定しているのだが
所詮は客商売・・良い物を造れば自然と客足は伸びる。加えて彼には王室などに仕える気がさらさらないゆえに
嫉妬の眼差しを向ける二流鍛冶師なぞ歯牙にもかけず今日も仕事に精を出していた
そしてそんな彼を支える女性が1人・・
「ありがとうございました〜、またよろしくお願いします♪」
小さなカウンターにて明るく客に注文された長剣を渡し挨拶を言う黒長髪女性シャン
黒いロングスカートに白いブラウス、そして質素な白いエプロンを着て接客をしている
一見すると長い黒髪の明るい町娘だが店主リュートを支えるなくてはならない存在。
彼女がいるからこそリュートは仕事に集中できるのだ
「ふぅ・・これで今月の納品は後25件・・か」
小さな椅子を取り出してそれに座りカウンターに伝票を取り出すシャン、そして『仕事完了』の赤いハンコを押し付ける
そして伝票を専用のファイルに閉じ、今月の残りの仕事を確認する
鍛冶工房と言えども造る人間は1人・・受け付ける仕事数のバランスは最も大事と言える
彼女はそれを管理しリュートが無理なく、かつ上出来な作品を作れるように管理しているのだ。
その能力の高さはトップブリーダー並・・?
今月の仕事の見通しが付き一息つこうとした瞬間・・
ピト・・
「・・!?」
不意に足首に冷たい衝撃が走る・・。まるで氷を押し付けられたような感覚・・・
表情を強張らせながらもシャンはゆっくりと足元を見る
そこにはいるはカウンター下で三角座りをして彼女の足首を掴む金髪の悪魔・・・ことセシル
呪で怨な幽霊よろしくそこに佇んでいた
「こんちわ〜・・」
深くゆっくりと言うセシル、上目使いがシャンに強烈な恐怖心を与える。だが足首を掴まれている以上シャンがどうにかできる展開ではない
「あんた・・!?どこから・・!」
自分達の生活場に何時の間にか侵入されている事にシャンは平静さを保てなく狼狽している
「何って・・、そこの入り口からに決まっているでしょう?」
「嘘!客の出入りは私がちゃんと見ていたのよ!?」
何とか足を振りほどこうとするシャンなのだが恐怖で体が強張ってしまいうまく動く事ができない・・
そこに
「シャン!どうしたの・・、って・・セシル!!」
シャンの叫びを不審に思い工房から姿を見せる犬人鍛冶師リュート、思いもよらぬ天敵が一緒にいる事に顔が凍りつく
「ち〜っす・・。今日は遊びにきたんじゃないから、あしからずにねぇ・・・」
「な・・何のようだ!まさか僕達を・・」
「仕事よ、仕事。あんた達を頂くのも悪くないんだけど〜、それやっちゃうと流石にまずくてねぇ・・」
頭を掻きながらゆっくりとカウンターより這い出るセシル。
不機嫌というよりかは寧ろ何かの決意に満ちているような感がする
対しリュートとシャンは敵意がない天敵に警戒していたのだが話だけは聞くっということで奥の工房に通す
・・・その間に万が一のために装備を整えたのは言うまでもなかった
・・・・・・
「なるほどぉ、それで・・ロカルノさんがその仮面をつけたヘンテコな大会に出場して、
優勝して変な仮面を手に入れたらまずいって事で仮装するわけ・・か」
「そうなのよ〜・・。巨大化する仮面よ?もし巨大化したらどうするのよ!?」
説明・・っというよりかはほぼ愚痴なセシルの説明・・、一応リュートとシャンは理解できたのだが・・
「別にいいじゃない。そんな事で店にこないでよ」
「・・ま・・まぁ、僕としては・・巨大化の効果を持つ道具って・・少し気になるんだけど・・」
「リュート!」
その手の特殊な道具には目がない金属馬鹿鍛冶師、巨大化というまさに前代未聞の効果に少しだけときめている
「まぁ、巨大化してもしないにせよ。これ以上ロカの変な仮面愛好癖を増長させたくないの・・」
「それで・・正体がばれないように装備を造ってほしい・・っと。リュート、どう思う?」
「う〜ん、まぁ個人の趣味についてはとやかく言うのは無粋だと思うけど〜、確かにロカルノさんは仮面の事になると目の色が変わる感じがあるしね・・。
その手入れをしている僕としては仕事がある分いいんだけど・・周囲の目というところから考えれば少し抑えたほうがいいのか・・な」
仮面が好きな事と女性の趣味が悪い事を除いてはパーフェクトなロカルノさんなだけにリュートとしても
欠点は少ない方がいいと思っている
「流石リュートたん♪構想は練っているの!鎧一式と剣ね!」
サクサク話を進めるセシルにリュートは少し圧される・・だがここで引き下がっては鍛冶師の名折れ・・
「仕事は請ける!でもそれはロカルノさんのためだ!決してセシルのためじゃないと思ってくれ!」
「わ〜ってるわよぉ・・。そんじゃ、これ報酬・・前払いね」
そう言うとドサっと金貨がギッシリ詰まった袋を置く・・
ステキなズッシリ感を体感できるお宝にシャンの目は皿のようになる・・
「こんなに・・?」
「突然の依頼だし〜、あんたらが私の事嫌っている分上乗せしたって事。そん変わりちゃんとしたもん造ってよね〜」
「僕も鍛冶師だ・・例え顧客がセシルだろうと請け負った仕事はきちんとこなすよ。
でも・・、先のメルフィさんの一件といい・・良くこれだけのお金が・・」
「ふふふ〜♪そりゃ今”ハイデルベルクにユトレヒトあり”でお馴染みの冒険者チームだものぉ・・それなりの値がついてきたってわけよ」
・・それもあるのだが本当はソシエ宅よりくすねた『お小遣い』の一部であったりする
本来ならば自分の好き勝手な事のために使用するポケットマネー、
自腹を叩いてまで恋人の暴走(?)を止めようとする心意気は一応評価は出来る。
「・・、まぁ・・いいけど・・。そんじゃ構想はこれだね・・。採寸したりするか・・ちょっと質問に応えてもらうよ」
「は〜い♪あ・・でも・・スリーサイズな内緒よ♪」
「・・なら、胸が押しつぶされるような鎧ができるけど・・それでもいいのなら・・」
「わ〜ったわよ!!」
ピリピリした空気の中、一時休戦として仕事の内容を話し合う三人・・。リュートとシャンは彼女が上機嫌で帰るその時まで
武器を手放す事はなかったという・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
数日後
ハイデルベルク南部の港街ローエンハイツにてついに仮面武闘会は開催される
普段は賭け事など怪しい行事が行われている円形ドームな闘技場には仮面をつけた怪しい連中が押しかけている
仮面武闘会には観客も仮面を着用しなければならない・・。
そんなわけで右を向いても仮面左を向いても仮面、選手と観客の見分けが全く付かない状況がロビーにある。
「・・・うわぁ・・なんだか・・拘ってますねぇ・・」
その中、黒いケープなゴスロリ少女が周囲を見渡している。
もちろん会場内は仮面着用が定められているが故に東国の白い女性の顔を描いた『おたふく』御面をつけている
その正体はもちろんの事ながらキルケ、そしてその隣にはセイレーズスタイルなロカルノがつまらなさそうに見渡している
「どいつもこいつも形だけの仮面好き・・さ。それよりも・・同行してよかったのか?」
「ええっ、クラークさんとクローディアさんは”ツクヨ”って人に会いにカムイに行っちゃいましたし
ロカルノさんが不在でもセシルさんが出かけていれば館は平和です♪」
残る住民はアミルとメルフィのみ、アミルはロカルノの勝利を祈りながらゆるりと留守番をしており
メルフィは言わずもかな、舎弟を連れて今日も元気に町で遊んでいる
「ふっ・・・、まぁ仮面に触れる良い機会だ。観客席でゆっくりと観ていてくれ」
「選手のエントリーを行います!参加選手はこちらにどうぞ!」
二人が話す中、不意に武闘会関係者の事務官(仮面付き)の声が響く、それに応えるように数人の仮面戦士が事務官の後に並んだ
「では、いってくる」
「はい!がんばってください〜♪」
静かに羽根付き帽子を被り直しロカルノは事務官と共に関係者以外立ち入り禁止の看板が立てられている通路の奥深くに消えて行った
「う〜ん、ロカルノさんはりきってますねぇ・・」
自らの作品を優雅に着こなすロカルノに感心しているキルケ、それだけでもここに来た価値はある。
だがそう独り言を言っている瞬間・・
「ロカルノ・・?貴女、今ロカルノって言った!?って貴女は確か・・サルトル家の・・」
偶然キルケの後ろに立っていた女性が『ロカルノ』という言葉に反応する・・、見れば緑髪のポニーテールの女性がそこに・・
アイスホッケーなマスクを着用しており来ているものはデニムな長ズボンに黒タンクトップという活発な格好・・
「え・・ええ、言いましたけど・・その露出・・セシルさん、ですか?」
「誰が!?あんなパツキンケダモノと一緒にしないで!」
「・・・?そのいきり立ちよう・・。えっと・・どちらさんです?」
結局誰なのかわからないキルケ、アミル派の彼女にとっては今のところ誰よりもロカルノと共にいた時間が長い彼女の存在など知ってはいない
「フレイアよ!フレイア!ちゃんと覚えておきなさい!」
「・・・あぁ〜・・いましたね、そんな人・・」
何気に毒舌なキルケ、ある種フレイアよりも大物である・・
「まったく・・、でっ、サルトル家のお嬢ちゃんがお兄さんと一緒だったの?」
「ええっ、他に付き添いがいなかったので。フレイアさんも出場ですか?」
「・・一応は公僕なんだから参加はできないわよ・・。でも、セイレーズに関わる事なんだから傍観はできないでしょう?」
色々あるのだがセイレーズの実の娘であるフレイア、
それ故にこのたびの一件はきちんと耳に入っており休暇を取って私用で様子を観に来たのだ
「ああ〜、なるほど〜・・。でも・・それを口実にロカルノさんに接触しようとしてません?」
「う゛・・いいじゃない、義理とは言え兄妹なんだから・・どこか不自然かしら!?」
「いいえぇ・・ただ・・少し姑息かな〜っと・・」
おたふく仮面の下ではシタリ顔なキルケさん・・。恋人が義兄妹の関係を乗り越えて結びついただけに
フレイアのコソコソとした行動にやや呆れている
「キルケ・・だったっけ?情報部の総力を結集して貴女を異端審問会にかけるわよぉ?」
仮面により視線はわからないものの放つさっきは某アイスホッケーなマスク着用の連続殺人鬼に等しい
「冗談です♪さて、もうすぐ始まるみたいですよ〜。よかったら一緒に観ます?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、しょうがないわねぇ・・貴女がそう言うなら付き合ってもいいわよ?」
結局のところ、闇雲にロカルノを探すよりも目の前の小娘とともにいたほうが遭遇する確率は高いと踏みその申し出を受ける
「そんじゃ、行きましょう〜♪」
対しキルケはそんな事全く気にせずさっさと観客席に向って行く・・
観客の雑踏が渦巻く中、会場のアナウンスで主催者からの手紙が読み上げられ早速に仮面をつけた戦士達の戦いが始まろうとしていた・・
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