中編  「山道攻防戦、極星騎士団参上」


村に着た時とは違い馬に乗って行くのは
クライブ、タイム、アルシアの3名、残りのメンバーは遅くはなるが歩いて向かう事になった
まぁ、前回とは違い歩き組は火急の用ではないので呑気に山道を進んでいる・・

「やっぱり馬と人間とじゃあ雲泥の差・・ですね〜」
「・・だな、まぁぼちぼち行けばいいんだよ。どうせあの子を治療するのはアルシアとクライブだ」
「そうだな、私達はあくまでクライブの護衛だ」
先ほどまでいた村が小さく見える位置まで上る・・、すでに日は暮れておりクロムウェルの持つ
松明が辺りを照らしている
夜の山歩きは危険極まりないが獣人のシトゥラが先導しているので安心だ
まぁクロムウェルやフィートも武術に心得があるのでこの程度ならば問題ないのだが・・
「今ごろ、アルシアさん達は街についた頃でしょうね〜」
「俺達が到着するのは深夜だな・・、まっ、態々野宿することもないしな」
「こんな山奥で男二人に女一人野宿、ふふっ、確かにやらないほうが賢明だな」
「別に襲いませんよ、スクイードさんに説教されますし・・、んっ?」
「・・・」
急に黙り込むシトゥラとフィート。
クロムウェルも何かを感じたようだ・・
「風が・・止んだ・・・。これは・・」
「村の方に何か来るな、戻った方がいい!」
急にシトゥラが叫ぶ
「へっ、運がいいのか悪いのか、とにかく深夜のパーティーと洒落こもうぜ!!」
松明をかざし今着た道を駆け戻るクロムウェル達・・
月が照らす中、村の彼方から砂煙が舞っているのがかすかに見て取れた・・



一方
馬でシウォングへと向かった3人はすでに屋敷に到着すると行ったとこだ
「・・・これが、アルシアさんの住まいか・・」
ケーラを前に座らせ馬を操るタイムが闇夜にそびえたつ屋敷を見つめる
「・・まぁ、「私達」ねぇ。でもタイムさん、私の事はアルシアでいいわよぉ、同じくらいの年みたいだし」
「ではっ、私もタイムで呼んでくれ。」
ふっ、と微笑む二人・・。意外に仲が良さそう・・
「これだけ大きな屋敷なら遠慮なく治療もできそうですね」
「そうそう、じゃあ馬は置いて早く入りましょう」
馬を野に放ちアルシアの案内で屋敷に入る・・・・
「結ばなくていいのか・・?」
「ああっ、大丈夫よぉ〜、なんだか自然に屋敷の周りに住みついている奴らだしねぇ」
「・・・そうか・・」

既に日も沈んでからだいぶ時間が経っているので
屋敷の住民はすでに自室で就寝準備でもしていると思っていた・・・・が
「遅かったな?」
居間から出てくるライ・・
「あら、待っていたのぉ?」
「まぁ、そろそろ帰ってくるんじゃないかと思ってな。・・そちらは客人?」
「ええっ、こちらがクライブ、あの汗まみれのメモを書いた人よぉ、でっ、こっちがタイム。
クロムウェルのフィアンセ♪」
「ちっ、違・・」
その一言に見事に慌てるタイム
「・・・大変だな〜、俺はライ。ここの主だ。でっ、その子が・・・」
「ええっ、だいぶてこづったけど何とかわかってきたのぉ、これから本格的に治療するわ」
「少しお邪魔します。ライさん」
「おおっ、遠慮なく使ってくれ。タイムさんはどうするんだ?」
「私はこの子を連れて来るのが目的だから・・、どこかで待機しておこう」
「そかっ、じゃあ居間で少しくつろいでくれ・・」
入り口で会話をしていると不意に寝巻きの少女・・ルーが降りてきた・・
「おっ、起こしちまったか・・?」
「・・まぁ、御主達の話のせいでもあるが他にも起こされてナ・・」
「・・?なんかあったのか?」
「ああっ、街の北の方角に魔物の群れが押し寄せているようダ。
念の為に張った『網』が役だったようだナ」
少し眠そうな顔のルー
「・・北の方・・、まさか・・・私達がいた村!?」
話を聞き驚くタイム、先ほどまでいた村が襲撃にあおうとしているのだ・・
「・・ってことはその子の住んでいるところか・・」
寝息を立てるケーラを見つめるライ・・
「どうするんダ。今から準備しても間に合うかどうか・・」
「だからってこの子の帰る場所を潰させはしないさ。よしっ!極星騎士団緊急出動だ!
俺とルー、アレス、リオ、シエルで出る!準備を頼むぞ、ルー!」
「わかった、全く・・、人の安眠を妨げるゲス生物は痛い目を見てもらわないとナ・・」
そういいながら奥へ消えるルー・・
「極星・・騎士団・・・?」
「・・まっ、色々あるんだがとりあえず俺達騎士なの。時間がないので詳しいことは割愛」
「わかりました」
無理に説明してもらうわけにもいかないのでその場で納得するクライブ・・

「じゃあ私はこのままこの子の治療に専念するわねぇ?」
「ああっ、そうしてくれ。タイムさんもゆっくりしてくれよ」
「・・・・わかった。・・村にはあいつがいるはずだ。何とか間に合わせてくれ・・」
「わかってるって!まぁゆっくりしてな!!」
夜中ではあるが屋敷の住民は驚くべき早さで身支度を整え
馬にまたがり出陣していった・・・・





「暗くてわかんねぇがワームみたいだな?」
村より少し離れた大きな山道に立つクロムウェル、
前方に見える群れを見つめぼやく
「・・・見えにくいですね・・」
「では、照明代わりにこれはどうだ?」

パチン!

シトゥラが指を鳴らすと同時に山道の両端に紫の炎が灯る・・
「おおっ、氷山で見たあの幻の炎か」
「ああっ、これで見えやすくなったろう、実際燃える心配もないしな・・」
余裕に微笑むシトゥラ、しかしすぐ表情を引き締め攻撃体勢に入る・・
「・・・・・・・あれがケーラを襲った可能性が高そうですね」
「そうだな、ああいう生物には同種にしかわからんフェロモンがあるらしい。
ひょっとしたらわざとケーラを逃し新たな標的の村を探していたのかもな」
既に獣骨の短剣を構えシトゥラが言う・・
「それは、事が終わってから推測すればいいさ、ともかく!一匹たりとも村に入れるんじゃねぇぞ!フィート!シトゥラ!!」
「もちろん♪蟲ごとき僕の敵ではないことを見せてあげますよ」
「・・ふっ、これでも、無理やり女を孕ますモノは許せない性分でな、せいぜい暴れさせてもらう・・」
二人も気合い十分!
「よっしゃ!!皆殺しだぁぁぁぁ!!!」
「「応!!」」
眼前に迫るワーム・・、ケーラの証言通り大きなミミズのような身体、目がなくて口が以上に大きく鋭い歯がある・・、皮膚はやはり緑だ・・
「それでは、牽制と行きましょうか!!

  『風は去りぬ葉は散りぬ
     命とともに儚く消えよ!! アルティメットノヴァ!!』」

印を切り、そう叫ぶとともに手を前に突きだし、見えない真空球が放たれる!!

ギャァオオオオオオオオオ!!

耳障りな叫び声と共に群れの中央のワームが真空球に飲みこまれ消滅していく・・。
ワームの死骸を通して真空球の形がぽっかりと見える・・
「ふぅ、言霊を使わないと発動できない分、気持ち良いくらい消せますね♪」
直も印を切り術を発動させるフィート
「ひゅ〜♪流石はフィートのとっておき、じゃあ援護は任せて行きますか!!」
「ああっ、いくぞ!!」
中央が消滅したワーム群、左右に分かれた群れにクロムウェルとシトゥラが特攻し
それぞれ見事に払いのけている!

「おらおらおらおらおらおらおらおらぁぁぁぁぁ!!!」
特にすごいのはクロムウェル、手が早く動きすぎて残像で増えて見えるくらいだ・・
拳につけているグローブは最硬度を誇るブラックダイヤを装着した
特注品グローブ『崩天』、クロムウェルの速攻も加わって
柔らかいワームの身体に強烈に食い込む・・
「ふっ、私を孕ませれるか?」
シトゥラは自分が持つ獣骨剣『骸』を巧みに使いワームの身体を切断していく・・。
幻術をうまく使用してワームの感覚を欺き、的確に倒していく姿は華麗にさえ見える・・。
それに加えフィートの風の魔法も手伝いたった3人ながら有利に戦闘をこなしていく

しかし

ワームは数で押しきろうとし、次から次へと雪崩の如く押し寄せ
しだいに彼らを追い込んでいく・・
「ちっ、どんだけ数がいるんだよ!」
息を切らせるクロムウェル・・、足元にはワームの死骸だらけでドロドロとした緑色の液体が水溜りを作っていた
「それだけ・・、産ませたということだろう・・」
こちらも息を切らすシトゥラ・・。
斬撃主体のため、返り血の如く緑の液体をかぶっているがそれ自体は気にしていないようだ
「消耗戦となればこっちは不利・・、シウォングからの援軍は望めませんかね・・」
汗まみれのフィート
強力な魔法を連発したため体力が消費しすぎているのだろう
さらに彼方から来るワーム群を見つめなおも印を切ろうとする・・
「こんな夜中だ!誰も気がつきやしねえしあの街に連絡する奴もいない!なんとかやるしかない!!」

「そうとも限らないぜ?」


突然後から声が聞こえたと共にワームの群れに巨大な火の玉が走る!!
巨大な炎柱と共に爆発が起こり焼け死ぬワーム達・・
「極星騎士団参上・・ってな!」
振り向くと軍服のような服装のライ達が・・、何故かライはルーを肩車している・・
「・・・ライ?おいおい、なんでこの状況がわかったんだ!?」
「ケケケ、街周辺には私が作った結界があってナ、魔物が通ると私に知らせるようにしている
んだ。」
ライの上で不敵に笑うゴスロリ少女ルー・・
「お嬢ちゃん・・、全く、とんでもない奴だな・・」
「ふん、ともあれ、地形が変わらん程度に暴れるゾ!見てろガキ、風よりも炎の方が効果があるのダ!!」
そう言うと再び轟炎を飛ばすルー・・
「やはりその魔力・・、魔女でしたか・・。」
苦笑いのフィート、自分も負けじとルーの轟炎弾を風に乗せ弾丸加速をさせる・・
「ようし!各員ルーの巻き添えを食らわない様に殲滅するぞ!クロムウェル!ここまでもたせてくれて礼を言う、後は・・」
「おおっと!休んでいろ・・なんて言うんじゃないだろな?まだ俺は戦えるぜ!!」
「・・・(ニヤリ)よし、ではもう一暴れ頼むぜ!!」
心強い助っ人が現れ一気に形勢逆転!
怒涛の勢いで攻めに入った・・・・・




その頃
屋敷の一室で薬の調合を終え、それを注射したところだった・・
「・・すう・・すう・・」
静かに寝息を立てるケーラ
顔色も良く良い方向に向かっているようだ・・
「これで、大丈夫よねぇ。」
「ええっ、心拍数も安定、毒素も中和できたようですね」
「毒を持つワームなんて私も資料でしか見たことないのに気付くなんてさすがねぇ」
「まぁ、危険生物への対処の仕方は念入りに頭に叩き込んでいますので・・、アルシアさんも
毒ワームの資料を見ている自体、素晴らしいことですよ」
「貴方に誉められると、悪い気はしないわねぇ・・」
「まっ、それはお互い様と言う事で・・。少し一息つけましょうか。・・タイムさん?」
今まで無言で窓の外を見つづけるタイムにクライブが声をかける
「・・・・・・」
「タイム・・さん?」
「ん・・、あっ、どうした?」
「何ボーっとしていたのよぉ、ライ達が心配なの?」
「まぁ、そうだな。夜半の山道を馬で駆ける事自体危険だ・・」
「・・・っというか、クロムウェルさんが心配なんでしょ?」
「・・・そっ、それは・・・!」
慌てるタイム・・、もうバレバレ
「・・・そんなに魅力的なのかしらぁ、彼・・・」
「だから!違うって・・!!」
むきになるタイム、それ自体肯定に取れる
「まぁまぁ、じゃあ僕達は一息つけます。タイムさんはこの子を見てもらえませんか?」
「任せてくれ、異常があったら知らせる」
「頼むわぁ・・、ふあぁ・・、珈琲でも飲まないとライが帰ってくるまでに眠っちゃいそう・・」
眠気まなこなアルシアが部屋から出ていく・・
同じく欠伸をしながらクライブも後についていく
二人とも緊張の糸が切れたようだ・・。
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
部屋にはケーラとタイムのみ・・。
他の住民も起きているが他のメンバーが出動中なので静かに帰りを待っているようだ
「・・・、クロ・・・」
ケーラの寝顔を見ながら静かにクロムウェルの名を口にするタイム・・
やはり群れの迎撃に出ているはずの男が気になる様だ
「・・・・・・こんな時に、役に立てないなんて・・」
いてもたってもいられない心境のようだ・・。
それ故、彼女らしくなく気づかなかった様だ

・・少女の中から出てきた小さな生物に・・・

それは小さなワーム・・
ベット下から静かにタイムに近づく・・・
「・・・、!!何!?」
不意に太ももに伝わる不快感!
見るにしてもズボンの為に何かがわからない・・
ともあれ、必死に取り除こうとする
しかしそれはタイムの肌を素早く昇り、
やがて・・・

ズズ・・・

「いっ、いや!!・・・ああっ!!!!」
体内に侵入され、ひときわ強い不快感が身体を走る・・。
「く・・・くろ・・・!」
そのまま彼女は意識を失い、地面に倒れた・・・




「ようし、これで殲滅完了・・ってか」
黒煙立ち上る山道・・、
無限に近い魔力を持つルーが派手に暴れた結果だ
「全く・・、こんだけの惨状、戦争でも珍しいぜ?」
クロムウェルが周りの状況を見て呟く
「人の眠りを妨げた罰ダ。まぁ、久々にすっきりしたがナ」
「おおっ、こわ・・。それよりも・・・フィート・・」
「・・ええっ、わかってます」
二人の視線は生き残りのワームがいないか確認するシエル・・
「・・!・・・何だ?」
後から感じたネチッこい視線に気付くシエル
「やはり!!シウォングで見かけたマドンナ!!いや!ヴィーナス!!」
「熟れた果実にワイルドなスタイル!!今いくよ〜♪」
変態モード全開の二人・・、戦闘後なのに元気なことだ・・
しかし

バキ!!

抱き着こうとする二人に繰り出すは爆乳パンチ・・
見事に顎に入り仲良く宙に舞うクロムウェル&フィート・・
「み・・見事なり・・」
「・・・胸が、胸が・・♪」
倒れる馬鹿二人に呆れながらシトゥラが接近
「とりあえずタイムへの報告決定だな。」
「「え゛!!」」
「・・そうそう、おたくのとこのタイムさんがうちの屋敷で帰りを待っているはずだ。ちょいキツイが
二人乗りで行くか?」
「・・そだな、今からあの山道を行くのは辛いし・・、何度もすまないな」
「気にするな。自分の土地周辺を護ってくれた礼だ」
「・・自分の・・土地?」
「いやっ、何でもない。じゃあクロムウェルは俺の後ろに乗れよ。そこの獣人さんは・・シエルんとこが一番しっくりくるか・・、フィートは・・?」
「リオさんの前がいいです!!」
「じゃあアレスのとこで」
「ガーン!」
「擬音でショックを表現せんでいい。ともあれ、行くぞ。村への報告はリオ、頼んでおく」
「はい、ではお先に」
二人のやり取りに笑顔で見ていたリオが一足先に村に
魔物の掃討したことを伝えに走った
「さて、明日も仕事があるし・・、急ぎますか・・・」
深夜の戦闘にうんざり気味のライ、早く我が城に帰ることにした・・




屋敷に帰った頃にはすでに朝日が差してきた・・
しかし
なんだか屋敷が騒がしい・・
「・・?なんだ?ルナがまた全裸で歩いているのか?」
馬をしまうのをアレスに任せながらライが不審に思う・・

バン!

不意に扉が開き出てきたのは秘書レイハ
「よう、帰ったぜ。何があったんだ?」
「ライ、あの・・、タイムさんが!」
「タイムが!!?どうしたんだ!!」
ライより早く返答したのはクロムウェル
「あの・・、ともかく来てください!!」
急いでクロムウェルを連れるレイハ・・
・・・・・・・
急いで一室に案内されるクロムウェル
そこには荒い息のタイムが・・
「クライブ!どうしたんだ!」
「クロムウェルさん・・、うかつでした・・」
「だからどうしたんだ!!」
「ケーラの中にワームがまだ一匹いたようです。恐らく解毒の際にそれから逃れるために体外に出たのでしょう。それがタイムさんへ・・・」
「・・・!!!全く・・、何やってるんだ!このドジが!!」
叱咤するのはクライブにではなく荒い息遣いのタイム・・。
返事はなく意識はないようだ
「すみません、僕とアルシアさんが一息ついた時に・・」
「そんな事はいい!対策は!?」
「ケーラの時みたいには行きません、下手にすると中で暴れ内臓がメチャクチャになります・・。
アルシアさんが今ケーラに使った解毒薬より濃度の濃い物を調合しています。しかし・・」
「しかし?」
「毒素が周ってタイムさんの体力が落ちています。濃度の濃い薬にはタイムさんの体力まで
も削りますので・・、身体が持つかどうか・・」
「・・・なら、タイムの体力が持てばいいんだな!?」
そう言うとともに上着を脱ぎ捨てるクロムウェル・・
「・・おい、どうするんだ・・」
後からついてきたライが聞く
「こいつの身体に陽気を流す、それで体力が回復するはずだ。なんとかもたせて見せる!」
呼吸を整えるクロムウェル

体内の気を利用して発せられる陽気、いつもなら高出力で球体を作りだし敵を溶かすのだが
極微量なら身体を癒す事もできる・・

そこへ試験管を持ったアルシアがやってくる
「・・確かに、回復魔法と併用すれば何とかなるかもしれないわ・・、でも貴方昨日からずっと
動きっぱなしでしょう・・?そんなことしたら貴方の身体が・・」
「だからってこのまま指をくわえて見ていられるか!」
「・・自分の命に代えても・・か?」
「・・・へっ、惚れた女を救えないでてめえの命心配するような生き方は、はなから持ち合せていない!」
「・・わかった。無理するなよ・・?」
「もうしてるよ、それよりもおたくらは他にケーラからワームが出なかったか確認したほうがいい」
「ああっ、ルーに頼んでやってもらおう。じゃあ俺はそっちに専念するぜ?」
そう言うとライは部屋を退室、
残されたのはクライブ、アルシア、クロムウェルの3人・・
「じゃあ・・、行くわよ・・・。」
試験管の中の黄みかかった液体を注射器に移して静かにタイムへ打ちこむ・・
「・・あ・・・あっ・・・ああ!!」
やはり濃度が濃い分、身体にも毒なのかさらに苦しみ出すタイム・・
「・・・いくか!!」
そんなタイムの苦悶の表情を見つめながらもタイムの上着をたくし上げる・・
「・・・ワームの動きは薬でなんとかありますから、心配しないで」
「ああっ・・」
タイムの身体の中心部分に手を添え静かに気を送り出す・・
「・・・・・・・・・・・」
手から発せられる白く淡い光がタイムに当てられるとともに彼女の表情が落ちつく
「薬が全員を周ってワームを殺すのには数時間・・、頑張ってください・・」
「・・・ああ・・」
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・
・・



それより数時間、クロムウェルは必死に陽気をタイムに流しつづけた・・。
それまでに数度、気の使いすぎで衰弱し意識を失いかけてきた
その度に彼は部屋の羽根ペンで自分のふとももを突き刺し、痛みで意識を取り戻した
アルシアも彼の死力の行動に手をかし霊薬などを彼に飲ませた・・。
クライブもワームの除外の頃合いを見計らい、行動を開始する
「・・・・よし、ワームは死滅しています。後はこれを排除するのみです」
「・・タイムの心拍数も正常の戻ったわぁ。もういいわよ、クロムウェル・・・、クロムウェル・・?」
直もタイムに気を送るクロムウェル・・目はじっとタイムの腹へ向けられている
「・・・気を送りつづけながら、気絶している・・・」
「無理したんでしょう・・。アルシアさんは彼を頼みます。僕はタイムさんを・・」
「わかったわぁ・・」
気絶したクロムウェルを抱え、運ぶアルシア・・。
彼らの渾身の仕事・・、それがおおずめを迎えていた・・・






「・・・・ん・・・・、クライブ・・」
既に日が暮れた中、タイムは静かに目を醒ました・・
「起きましたか、もう大丈夫ですよ」
「・・私・・・・?」
何がどうなったかわからない様子のタイム
「ワームが身体に入っただけです、クロムウェルさんのおかげで治療も終わりました。」
「・・ク、クロムウェルは!?」
いきなり起きあがり、クライブの肩を掴むタイム
「今別室で眠っています、貴方の体力をささえるために陽気を使いすぎて気絶しまして」
「・・馬鹿な事を・・」
急いでベットから飛び出す・・・
「あの、タイムさん、まだ安静に・・」
そんなクライブの言葉も届かずタイムは急いで部屋を飛び出した・・

ガチャ

「あ、あらぁ、目が覚めたの!?体調は!?」
いきなり部屋に入ってきたタイムに驚くアルシア
クロムウェルはベットに横たわって眠ったままだ
「大丈夫、なんともないわ・・、クロムウェルは・・?」
「衰弱しているけど命に別状はないわぁ、気絶してながらも私のお尻を触ってねぇ」
「・・・・・・・」
急いできたのが馬鹿みたいに思えてきたタイム・・
「まぁ、いいわ。じゃあ変わってもらえる?私もそろそろ休みたいし・・」
「ああっ、わかった・・。」
アルシアが座っていた椅子に今度はタイムが座った・・。
そのまま部屋を出ようとするアルシア、
しかし何か思い出した様に振り向く
「貴方がこの男に惚れているのがよくわかったわぁ、こいつ、貴方が危ない状態だとわかったら
例え自分の命に代えても救って見せるって言っていたわ」
「・・こいつが・・・?」
「そっ、まぁごゆっくり♪そのうち目も醒めるでしょう」
そういい、静かにアルシア退室
タイムは静かにクロムウェルの顔を見つめる・・
頬がこけており、やつれている
「私のために無茶して・・・、馬鹿・・・」
「・・ううん・・、タイム・・・」
「!・・寝言・・?」
「・・すう・・すう・・・」
静かに寝息を立てるクロムウェル、
「ほんと・・馬鹿・・」
そっと彼に唇を合わせる・・
・・それに合わせるようにしてタイムのお尻に伸びる手・・
「きゃ!・・クロ・・起きているのでしょう?」
「・・へへっ、わりぃ」
静かに目を開き笑うクロムウェル
「もう、私が来る前から目が醒めていたの?」
「いいや、お前が椅子に座った時ぐらいから・・かな?お前の香りがしたから・・。
大丈夫なのか、身体・・?」
「もう心配ないって・・」
「全く、俺が何匹もあのくそ蟲を倒している間になんて情けないことになっていたんだよ・・」
「・・・ごめん・・」
「まぁ、いいさ。以後気をつけるように。お前の腹に宿していいのは・・、俺の子だけだからな」
「・・・馬鹿・・。クロは大丈夫なの・・?」
軽口叩いているわりには身体を全然動かさない。
「大丈夫なわけないだろ?あんだけ陽気使ったんだ。普通死んでいるって・・。
絶対安静だよ」
「・・・・・・」
「そんな顔すんなよ、お前を救えたんだ・・。」
見詰め合うクロムウェルとタイム・・
無言のまま口付けを交わそうとする

しかし

コンコン!

「よう、目が覚めたんだってなぁ・・って・・なんだかお邪魔?」
ライが軽い食べ物を持って入ってきた
「・・い、いや、何でもない!」
「・・おおっ、クロムウェルまで目を醒ましたか。流石は熱愛カップルだなぁ」
「なっ・・、んなことどこで!?」
「フィートが言いふらしていたぞ?夜這いかけたりとか色々やったって。おかげでうちの女性陣お前を見る目変わったぞ・・」
「・・あの野郎・・・」
手を握り締め怒りをあらわにするクロムウェル・・
「まぁまぁ、ともあれ、これで事態は一段落だ。ケーラから出たワームは他にも一匹いたがこちらは問題なく駆除した。」
「そうか、これであのクソ蟲の被害はないな・・。」
「ああっ、ケーラも容態はよくなっている。直に元気になるだろうさ」
「よかった・・」
ほっと一安心のタイム、眠っていただけに彼女の容態がわからなかったので無理もない
「でっ、後はお前のことなんだけど・・、歩けるか?」
テーブルにパンやらを置きつつクロムウェルに聞く
「・・あ〜、無理みたい・・。」
「やっぱりな、ルーの奴が「あいつは自殺する気か?」とか言い出すほどだもんな。回復するまでここにいるか?」
「・・そうしてくれると助かります・・」
「じゃ、そういうことで。また何かあったら呼んでくれや・・」
そう言うとさっさと出ていく・・
どうやらお邪魔だと思ったのだろう・・
「・・・・・」
「・・・・・」
「すまねぇな、仕事が残っているのに」
「なっ、何言うんだ。私のためにそうなったんだ、仕方ない・・」
「へぇ、今日は優しいな?」
「馬鹿・・」
中断されたキスを再開、
静寂の中、舌が絡み合う音がしばし鳴り響いた・・


「二人とも目が醒めたようだ。これで一安心だな・・」
ライが戻ってきたのは執務室
生き残りのワーム掃討をルー、アレス、リオに任せ彼は仕事についていた
通常業務は終わっていたが今やっているのは
事件の記録、亜種のワームの襲撃があったということを書類にまとめて保管しておくのだ
本来、こうしたことをするのは秘書の仕事なのだが今回その
現状は実際に掃討に向かったライが適任となって作成している
ただレイハもそれを黙ってお願いするわけでもなく、ライに頼まれ事をされた・・
「そうですか・・。後はケーラが元気になればいいのですが」
「一応成功したと言っていたな・・」
話に加わるのは獣人シトゥラ、彼女がここにいるのが今回のレイハの頼まれ事に関係する
「・・それで。こんなものしかありませんが・・」
取り出したのは女性用スーツ・・、彼女の着る物はこういった物がほとんどのようだ
「いやっ、かまわない・・。すまないな、返り血まみれの服を何時までも着ていると気が滅入ってくる・・」
ワームの血によってあちらこちら緑色に汚れた姿のままのシトゥラ、そのままだと気の毒ということでライがレイハの私服を貸してやるように頼んだのだ
「いえっ、では、試しに着てください・・」
「うん・・、じゃあ・・」
いきなり服を脱ぎ出すシトゥラ!
「おいおいおい!!」
「???どうした?ライ?」
「・・ここで着替えるの?」
「・・その方が手っ取り早いだろう?」
「・・俺、男・・」
「ふむっ、まあ女には見えないが・・」
「いやっ、だから・・・見られて平気なのか?」
「????・・何も気にすることはないと思うが・・・」
「「・・・・・・」」
オープンな獣人さんにショック!!
「じゃあ着替えさせてもらうぞ?」
「・・ああ」
なるべく見ないように書類に向かい合うライ・・、しかし目の前で美女が着替えているわけで・・
どうしても目が行ってしまう・・・
「・・どうですか?」
「大体は大丈夫だが・・・、胸がキツイな」
そこには獣人ながらにしてスーツなシトゥラ。彼女が言ったように胸がキツイようでシャツのボタンを外したままになっている・・、ワイルドウーマン・・
「胸が・・・、そう・・ですか・・」
かねてより胸に少し自信のないレイハさん、ショックの模様・・
「しょうがないな・・、じゃあシエルにお願いするか・・。すまんな、レイハ・・」
「い・・、いえ・・・小さかったら仕方ありません・・。」
平静保とうとしながらもなんかもうめっちゃ暗いレイハ・・
「レイハ・・?」
「では・・、シエルを呼んできます・・」
ふらっと席を立ち執務室を出て行く
「・・・・、どうしたんだ?彼女?」
「・・・さぁ・・、なんだろ?あんだけ落ちこむのも珍しいし・・」
ライにもわからない様子・・
「ふむ・・、服がキツイという言葉でショックを受けたようだから・・、彼女、自分の胸に
コンプレックスを持っているのでは?」
「あいつがぁ?見ての通りの美乳タイプだぜ?ソレで・・か?」
笑い飛ばすライ・・、彼女の悩みにはまだまだ気付かないようだ・・。
結局シエルの服では胸がダボダボなので間をとってアルシアのチャイナ服でちょうどいい
具合となった・・
「獣人でこの服って・・、なんだか危ないわねぇ・・」
「・・そうか?」
長めのスリットが入った白いチャイナ服、加えて膝まで届く長い白髪が妙に合っており
妖艶な雰囲気を出している
「じゃあ私そろそろ寝るわねぇ・・」
やることやってさっさと出ていくアルシア
「私・・、胸・・」
聞こえないくらい小さな声でぶつぶつ呟くレイハさん・・
「・・・ふむ、とりあえず礼を言おう。ライ、後は頼む・・」
うつむき両手を額に添えて落ちこむレイハを目で見てシトゥラ退散
「ええっ・・ああ・・」
わけがわからないものの仕事の相棒が落ちこんでいるので放ってもおけない・・
それからライは書類そっちのけでレイハを慰めた
(理由は結局わからずしまい・・)

それと同時間・・・・
「う・・・ううん・・・」
「気がついた?」
別の一室で目を醒ますケーラ・・
「先生・・?」
「ああっ、治療は完了。もう心配はないよ」
軽く頭を撫でてよくがんばったと誉めるクライブ
「お外で走りまわれる?」
「もちろんさ。これから君はどんな事も出来る。とりあえずはお姉さんに元気な姿を見せないとね」
「お姉ちゃん・・、お姉ちゃんは・・?」
「村で待っているよ、さぁ、起きあがってごらん。まずはそれからだ」
「うん・・」
ゆっくりとベットから起きあがり、立ちあがるケーラ
「私・・・立ってる!」
「そう、よくがんばったね!」
「先生・・・ありがとう!!」
小さな身体で勢いよくクライブに抱きつく
「はは元気だね・・・、・・・?」
抱きつきながら無言で肩を振るわせるケーラ
安心にした途端に気が抜けて泣き出したようだ・・
「・・お疲れさま」
そんなケーラを優しく抱き締め、彼は自分の仕事にまた一つ誇りをもつことができた・・

翌日
「じゃあ、ちょっくらいってくるわぁ・・」
朝も早くから馬に乗るアルシア、その前には元気なケーラが・・
「すみませんねぇ。本当なら僕かクロムウェルさん達が行くのが筋なんですが」
「いいのよ、私もこの子の治療に関与したんだからこのくらいしたいのぉ、さっ、ケーラちゃん
行きましょう?」
「うん!あっ、アルシアお姉ちゃんその前に・・」
「???」
「ありがとう、先生。私・・大きくなったら先生みたいなお医者さんになる!!」
「・・僕みたいな・・、大変だよ?」
「でも・・がんばる!!」
「そうか・・、じゃあがんばって!何かあったら僕のところまでくるといい。応援するよ」
「うん・・先生・・」
「あっ、ケーラちゃん・・」
馬から飛び降りてクライブの元へ・・
「おいおい、はしゃぐな〜」
「先生」
感謝の証にクライブの頬にキスをするケーラ
「!!・・ありがと、ケーラ」
「・・うん、じゃあ先生、ばいばい!!」
またアルシアの馬に飛び乗り元気良く手を振る
・・・・・・・
・・・・
・・
やがて馬は地平線の彼方に消えて行った・・・
「・・・ふぅ、この瞬間が・・ある意味では一番辛いもんですね・・・」
静かにぼやき不精髭をさすりながら屋敷に戻っていった・・


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