前編  「遠方の地、診察の旅」


貿易年ルザリア・・
いつもの如く人でごった返しているこの町で何時もの如く騎士団の屋敷に入り浸る
不審人物・・
「ねぇねぇ、嬢ちゃん今度飯でも行こうぜ?」
受付嬢を口説く短めの金髪をした青年・・
それを後にかきあげており黒い武闘着調の服装をしている
「クロムウェルさん、私は仕事中なので・・」
「そんな〜、フィートに捨てられた傷を癒してやるよ〜♪」
クロムウェルと呼ばれた男が直も受けつけ嬢に口説きかかる
「!!・・私はフィート君に捨てられていないわよ!!この変態!!」
「おおっ、急に怒らなくても・・」
「とっとと帰れ!!変態!!」
いきなりそこらじゅうの物を投げ出す受付嬢
「うわっ、わかった。わかった!!」
たまらず逃げ出すクロムウェル・・・

しかし

「何をしている・・・?」
ホールに入ってきて殺気をこめながらクロムウェルを睨む赤毛の女性・・
明るい赤毛はすらっと綺麗なストレートで右目を隠している・・。
以外は地味なスーツ姿でいかにもキャリアといった感じだ
「団長・・」
「ようっ、タイム」
受付嬢とクロムウェルが同時に赤毛の女性タイムへ声をかける・・
「私のところまで来てくれと言ったのに何故受付を口説いているんだ・・・・クロムウェル・・・」
「・・わっ、わりぃ・・。そんな恐い目で見るなよ・・」
「・・ふん!ともかくこっちにこい」
「へいへい・・」
怒ったタイムの後について行くクロムウェル・・、受付嬢はこれがいつもの光景なので
大して驚きもせずに自分の仕事についた・・・



「・・・でっ、何の仕事だ?」
連れてこられた団長室でクロムウェルが聞く・・
「・・少し・・長旅になる・・」
部屋の中に置かれた大きな机に座るタイムが残念な顔をしながら応える
「長旅?おいおい、王都への使いはお前の部下でやれよな、タイム団長?」
「違う。お前はシウォングという国は知っているか?」
「シウォング・・、確か最近できた都市だっけ?・・・ってかなり遠いぞ!?んなとこに何の用だよ!!?」
「実は医療連盟よりクライブに依頼があったんだ」
「医療連盟・・?何だそれ?」
「まっ、医者同士の組合のようなもんだ。あらゆる国の医師が定期的に連絡をいれたりしてつながりを持つようにしているんだ」
「それがあのクライブへお願いしたのか・・。あいつも出世欲がないわりには名前が知れているんだな・・」
知り合いの医者の活躍は彼もよく知っている
「・・話を進めていいか?」
「・・・あっ、どうぞ・・」
「どうやらシウォング近辺の村で少女が難病にかかっているらしいんだ。どうもクライブがみないとどうしようもないらしい。そこで・・」
「クライブの護衛・・ってか」
「そうだ。一応交易隊の馬車に乗ることになっているのだがそれだけでは心もとないのでな。
できれば交易隊の方の護衛も頼む」
「わかった。・・だが、お前はいいのか?タイム・・」
「・・何の事だ?」
ピクリと反応するタイム
「長旅になるんだ。難病の治療ともなればしばらく離れられなくなるかもしれない・・。帰りのことも考えると・・」
「少女の命にかかわるんだ・・、仕方ないだろう?」
そうは言いつつもかなり無理している模様・・
「じゃあいいのか・・?お前この前俺が実家に帰った時だって・・」
「・・・しょうがないじゃない!私は・・、ルザリア騎士団長・・。この場所を離れるわけには・・」
思わず狼狽するタイム、先ほどまでの凛々しい口調とは違う・・
「無理するな。団長業務だって他の騎士にできることだろ?俺だって・・タイムと離れるのはきついんだからな・・」
「クロムウェル・・」
「一緒に行こうぜ?どうせお前、俺がいなかったら仕事に手がつかないだろ?」
「そんなこと・・ない・・・」
「あー、もうじれったい!!」
「クロ・・きゃっ!!」
力強くタイムを抱きしめる!そして・・
「んんっ!!・・・ん・・・ん・・・・」
そのまま激しく唇を交わす
「俺と一緒にこい・・、いいな・・?」
「・・・うん・・・・・」
「よろしい・・、じゃあ・・・♪」
「こっ・・、ここでやるの・・?」
「嫌なのか?」
「そういう問題じゃなくてこんなところで不謹慎・・・んんっ!!」
タイムの抗議にもクロムウェル、唇を奪って遮断
結局、しばし二人の世界に入ったようだ・・・


ルザリア発の交易隊・・。
この街自体が貿易がさかんなのでここから各地に旅立つ者も多い
今日もルザリアのゲートから馬車群が次々と出ていく
「すみませんね〜、クロムウェルさんにタイムさん。シトゥラさんやフィート君まで来てもらってありがたいです」
その馬車の中で医療器具一式を入れたカバンを持ち座っている黒髪の優男クライブが周りの人間をねぎらう
「いやいや、クライブもそんな遠国まで行くとは大変だな」
「これも仕事ですからね・・・」
「職人だね〜。フィートやシトゥラはよかったのか?
まぁシトゥラは家主がアレだからいいんだけど」
「色々見ておきたいからな。スクイードにもすでに了承は得ている」
膝まで届くぐらいの長い白髪の狐人女性シトゥラが微笑んで応える
1枚の布をドレスのように巧みに結んだ民族衣装が気高い雰囲気をかもし出している
「僕もいいですよ♪エネだってお母さんと旅行で温泉に行っているんですし」
紫のラーメン頭が特徴の魔術師フィートが明るく応える
こちらは黒いフードを被っており見るからに魔術師な感じだ
「そう言ってもらえると助かります。でもタイムさん・・・」
・・・・・何故ついてこれるのか疑問な様子だ
「・・仕方あるまい。部下には承諾を得ている。団長なしでどのくらいできるかを知るための訓練にもなるだろう・・」
「まっ、こいつの事はいいさ。俺がいないとどうしようもな(ギュ!!)いてててて!」
密かにクロムウェルの肌をつねるタイム・・
「だが、よくシウォングなんて処からのお呼ばれがかかったもんですね〜」
「・・・・まぁ、僕に対する当てつけ・・みたいなものですね」
「当てつけ・・?」
一般世間には疎いシトゥラが首をかしげる
「医療連盟といっても正直はもうけ話を回す組織なんですよ。だから国が発行している証明書を持っている者のみを診察するとか一部の「金のある者」しか相手にしないのが実状です。
僕がそれに気付いたのは不覚にも加入した後でして・・ね。彼らに見捨てられた患者が僕に
周ってくるわけですよ。彼らも『医療連盟』の名を汚されたくないようですしね・・」
「いいように扱われているってわけか・・。だがそれがわかっているなら断れば・・」
「理由はどうあれ、患者を見捨てるのは僕にはできませんので・・。利用されようが何だろうが
僕を待ってくれている患者がいるのなら、どこまでも行く覚悟はありますよ」
照れくさそうに頭を掻くクライブ・・。
普段はおっとりしているのだが心の中には一本筋が通っているようだ
「頼もしいもんだな。それでこそ護りがいがある」
「ははは、シトゥラさんに言われると光栄ですね」
「でもシウォングか・・、この中で行ったことあるやついる?」
クロムウェルが周りに聞いてみる。
「僕は何度か訪れたことがありますよ。まぁ、宿に泊まった程度ですが・・」
応えたのはクライブ
「ふぅん・・、ほんとっ、色々なとこ行っているんだな・・。じゃあ落ちついたら簡単に街の
案内してもらってもいいかな?」
「ええっ、構いませんよ。こんな所まで付き合ってもらったのですからね・・」
苦笑いのクライブ。
ともあれ、交易隊の馬車にて一路希望都市といわれるシウォングに向かう・・







希望都市シウォング
まだ10年も経っていない新たな都市で山々に囲まれた円形の大都市だ
人々の行き来が激しいようで街道にも沢山人が歩いている。
「すげぇな。こんな山の間なのに城塞もないなんて・・。魔物が襲ってきたらどうすんだ?」
馬車から見える風景に感心するクロムウェル。
思った以上の賑わいに少し嬉しいようだ
「この国を治めている真龍騎公ライのおかげだそうですよ?以前も隣国のオブシディアの侵攻を退けもしたそうですしね」
「真龍騎公・・、噂は僕も聞いたことありますよ!何人もオンナノコをはべらせているって話です!!」
ナンパ師でもあるフィートが興味深く話し出す
どうも真龍騎公ライをライバル視しているようだ・・
「まっ、いくらそんな王さんでも
泣かせた数はお前には勝てないだろうな♪」
「・・・だが、ここが目的地ではないんだろ?」
「確かここから少し離れた村のはずだ」
女性陣は街のにぎわいには興味がなくしっかりと本来の目的を覚えているようだ
「ええっ、交易隊もここまでのようですし。ここからは歩き・・っということになりますね」
「まっ、いいんじゃないか?いい加減馬車も飽きてきたしな」


そうこうしているうちに交易隊の人間もそろそろ目的地に着くということなので
一行は町の一角で降りることになった

「さて、こっからの案内はクライブの出番だな・・っておい!フィート!!あれ見ろ!!」
いきなりフィートを引っ張り人ごみを見つめる・・。
そこには黒革のビスチェ、パンツ、ジャケットで決めた長身の猫人の女性が・・。
注目すべきは胸の大きさで爆乳と呼ぶに相応しい大きさ・・
「な・・・な・・・・なんと!!これは・・測定不能です!!これほどの代物がぁぁぁ!!」
「素晴らしい!!あんな熟れた果実を目の前に声をかけなければかえって失礼!行くぞ
フィート!」
「はい!先輩!!」

ゴン!ゴン!!!

「・・・・目的を忘れるな、馬鹿ども・・」
「タイム・・、マジの一撃だな・・」
「ああっ、マドンナが去っていく・・・」
頭にたんこぶ作りながらも猫人女性を目で追う
猫人の女性も音で気付いたのか離れているのにこちらを見ているが
興味がないのかそのまま立ち去った
「・・・でっ、出発してもいいですか・・?」
「「・・・・はい・・・」」









問題の少女がいる村はシウォングよりも山を3つほど離れたところにあった。
流石にそれだけ離れていると人も疎らなようで少数の村人がひっそりと暮らしていた
「・・・・・うってかわって・・だな。」
細い道を歩きながらシトゥラが呟く
どちらかといえば山村、段々畑が見える丘になっている
「まっ、平和そうなのは何より。ルザリアもこのくらい静かならいいのだが・・」
新鮮な空気に表情を緩ますのは貿易都市の治安を任されている騎士団団長のタイム
こうした環境こそが理想なのかもしれない・・
そうした中、一件の小屋の前でじっと何かを待っている女性が・・
「・・あれ・・ですかね・・?」
「よしっ、ここは一つ俺が・・、お〜い!そこのねえちゃん!!」
「・・はっ、はい・・・」
銀色のウェーブの落ちついた女性、年は若いのだろうがやけに老けて見えてしまう・・。
「俺クロムウェルっていうんだけど、医者を連れてきているんだ。この村に用事があるんだけど・・。何か知っている?」
「ああっ、やっときてもらいましたか!!」
銀髪の女性はすがるようにクロムウェルに抱きつく・・
「おいっ、俺は医者じゃないんだよ・・、クライブ、なんとかして・・」
「はいはい・・、僕が医療連盟の紹介で来た医師です。患者は・・?」
「あの・・、中です・・。いっ、妹を助けてください・・」
何やら必死の様子、表情を引き締め静かにクライブは中に入って行った・・。

農具と生活用具のみの質素な室内・・。
その中、ベットで荒い息をしている少女がいた
長めの黒髪に黒い肌をしている・・
(このねえちゃんは妹と言ったが・・、肌や髪の色まで違う・・?)
ふとクロムウェルの脳裏に疑問が浮ぶ
「息が荒い・・、詳しい症状は?」
すぐさま触診を始めるクライブ、こうなっては素人の4人はやることはない・・
邪魔してはなるまいと外に出て待つことになった
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・

「・・・長いですね・・」
「そんな短時間で済むかよ、だが・・、思ったよりも具合は悪いようだな・・」
「そうだな、クライブの腕でなんとかなればいいのだが・・」
「・・・私達が焦っても仕方ない・・。」
小屋の入り口で静かに会話する一行・・、
やがて汗まみれのクライブが出てきた・・。
「・・どうだ?」
「・・・・原因がわかりません。とりあえず沈痛剤を打ちましたが
効果もでない・・。」
「「「「・・・・・・・・・」」」」
「とにかく、手持ちの薬だと効果は薄そうです。そこでシウォングで
薬を探してきてもらえますか?」
「なるほど、あそこなら薬も色々あるだろうな。だがそんな知識俺達にはないぜ?」
「メモを書きます。薬剤師に見せて調合させてください、何だったらここに連れてきてもかまいません」
「・・わかった。俺とフィートで行く。シトゥラ、タイム。ここの警備は任せるぞ?こんな山村だ。何が起きても不思議じゃない」
「わかった。お前も気をつけてな」
道具袋から剣を取り出すタイム、騎士の板鎧も取りだし
装着するようだ
「なるべく早くお願いしますよ、クロムウェルさん。」
「わかったわかった!じゃあ行ってくるぜ!フィート!アレ頼む!」
クライブのメモを取り一気に駆け出すクロムウェル
「任せてください!『舞風』!!」
足に白い風が集まるとともに信じられない加速で二人は駆けて行った・・
「・・流石は『暴れ牛』クロムウェルさんですね・・」
「あいつに任せればすぐ持ってくるだろう。それよりもクライブ、患者の様子を診た方が良い・・」
「わかりました。今ある薬物で何とかつながせましょう・・・」




数時間後
普通なら一日仕事になりかねない山の移動を風の魔法と自慢の脚力で走りぬいた二人・・。
すでに夕日が差し込んであり、今から薬剤師を自力で探すのはかなり困難・・
「ぜー!ぜー!先輩!どうするんです!!」
「案ずるな!冒険者用の酒場で情報を求めればいい!もうひとふんばり走るぞ!」
「せっ、先輩・・・、この街結構広いですよ!!」
「泣き言言わない!ここでいいとこみせとかないとタイム経由でエネに嫌われるぞ!」
「ぐ・・、わかりました!」
「ファイトォォォォォォ!!!」
「イッパァァァァァッツ!!」
夕焼けの繁華街で叫ぶ二人・・、変なよそ者が変なことしているとシウォングの民は
奇異のまなざしで見つめていた・・
・・・・・・・
それから数分後に「冒険」と書かれた酒場を発見し一気に突っ込む二人・・!!
「邪魔するで!!」
「・・・随分息が荒いですね、お客さん・・」
薄暗い店内でグラスを磨くマスターが驚きもせずに言う
「大至急、薬剤師に調合してもらいたいものがあるんだ。優秀な薬剤師はこの都市にはいるか?」
「・・大至急に、優秀な方・・ですか?」
「・・ああ!」
「・・・調合するのは危ない代物ですか?」
「鎮痛剤!近くの村で病に苦しんでいるガキのためだよ!!」
「・・これは、失礼。では・・、こちらの屋敷まで・・」
そっと地図を渡すマスター
「・・なんだこりゃ!街外れ!?また走るのか・・・」
「嫌なら何も・・」
「わかった!わかったよ!!よっしゃフィート!死ぬ気で死ね!!」
「・・・・ぜー、ぜー・・・、うぷっ・・」
こみあげてくるものを押さえながら反論も出来ない様子のフィート
ともあれ、マスターに言われた屋敷に再び駆け出した・・。
村から換算すると既に鉄人レース・・、翌日地獄の筋肉痛は必至か・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
死力を振り絞って言われた場所に到着
そこには質実剛健な屋敷が建っていた・・。
すでに日は沈んでおり、外灯が玄関の扉を照らしている・・
「・・んな街外れに・・、住んでいやがって・・・」
「・・・・・・・・・・」
流石のクロムウェルも疲労困憊の様子、全身汗まみれで後にかきあげてた金髪も
降ろされていた・・・

ドンドン

ともあれ、扉をノックして中の人を呼ぶ・・
「・・・ぜーぜー・・。薬剤師やーい!!!」

ガチャ


「・・お待ちしておりました。貴方が酒場での紹介の方ですね」
扉から出てきたのは秘書風の姿の黒髪女性
「・・おお、あんたが薬剤師?」
「いえっ、私は違います。ともかく中へどうぞ・・」
言うがままに中に招かれた・・

通されたのは執務室のようだ・・。
そこに座って待っている黒いボサ頭の青年・・。
「飯時に訪れるとはよほどなんだな・・」
「すっ、すまないな・・。あんたが薬剤師?」
「まぁ待て。一応ここに通したが薬の使い道を詳しく聞いておかないとな。その如何によっては協力もできん・・」
「・・・まぁ、正論・・です・・ね。先輩・・」
「・・ああっ、説明しよう。実は・・・かくかくしかじか・・・ってなことだ」
「なるほど・・って!かくかくしかじかでわかるか!!」
意外にノリがいい青年
「・・・・すまない。実はこの都市の近くの村で難病にかかっている少女がいてな。俺はそれの治療の依頼を受けた医者の警備に雇われたんだよ。
それで診察したんだけど、どうも手持ちの薬が効果がなく、原因もわからないんだ。
だからこの都市で薬剤師を探して鎮痛剤の調合を頼むってことでここまで走ったんだよ・・」
「・・・なるほど、わかった。協力しよう。・・・俺はライだ。」
「・・・・俺はクロムウェル、こっちでグロッキーなのはフィートだ。
でっ、あんたが薬剤師?」
「こんな薬剤師がいるか?・・おい、どうせ盗み聞きしているんだろ?入ってこいよ?」
「あん〜、つれないわねぇ」
入ってきたのはチャイナドレスに白衣の金髪美女
胸も大きくめっちゃ妖艶・・
「このナイスバディの仔猫ちゃんは?」
「誰が仔猫ちゃんよぉ!」

バチン!!

いきなり腰に携えていた鞭で一閃!
「あいて!!ちょっとしたジョークじゃねぇか!!」
「・・・紹介しよう、うちの薬師アルシアだ。っうか客にいきなり鞭を振るうなよ・・。
大丈夫か、クロムウェル?」
「まぁ、この程度なら・・。全く、俺の周りの金髪は何でこうも・・・」
「???」
「いやっ、何でもない。これが調合してもらいたいモノを書いたメモだ・・」
「・・・汗でビチョビチョじゃない・・。まぁ何とか読めるけどぉ・・・。
・・・・・・」
メモを指でつまみながらアルシア・・
「どんなもんですか?アルシアさん」
「これ書いた人、中々医学に通じた人ねぇ・・・。いいわぁ。やりましょう♪」
「そうか!助かる!じゃあ俺達はシウォングの町で待つ。どんくらい時間かかりそうだ?」
「まぁ・・、一晩もあればできるけどぉ・・。けど高くつくわよ?これぇ・・」
「出きる限りの謝礼はするよ。何だったら何でも言うことを聞いてやっても良い」
クロムウェルのその一言にアルシアの目は怪しく光った。
「おい!こいつに対してその発言は・・・」
「いいわよぉ!!がんばりましょう♪それよりも今言った事、忘れないでねぇ・・」
上機嫌で執務室を離れるアルシア・・・
「・・・クロムウェルさんや・・、あんた・・」
「んっ?薬師のお願い事なんて大方薬草の摂取とかだろ?そんなの軽い軽い♪」
麗紫毒姫の字を持つ彼女を甘く見ているクロムウェル・・
もはやライも絶句のようだ
「じゃあ、今晩はここに泊まっていくか?今から街に行くのは大変だろ?」
「そうしてくれるとありがたいが、いいのか?飯時にやってきていきなりお泊りなんざぁ・・」
「構わないさ。うちの面々はそんなこと気にする奴はいない」
鼻で頭を掻きながらライ
「悪いですね・・・。じゃあ一息つかせてもらいましょう、先輩・・・・」
「そうだな・・・」
名士と思われるライの屋敷に一晩世話になることになった・・



「な・・・な・・・なんじゃこりゃあああああああ!!!」
一風呂浴び、飯をご馳走になろうと居間に入った途端絶句
女性の数が多い!何だかハーレム状態だ・・
銀髪の能天気そうな少女や清楚なメイド服の女性・・
みんながみんな見目麗しい・・
「何を叫んでいるダ、お主・・」
ゴスロリな服装の割には偉く年季の入ったモノの言いかたをする
少女・・
「どこか具合でも悪いのですか?」
清楚な感じのする金髪の女性が少女と違い気遣ってくれる・・
「いやっ、こんな可愛い女の子ばかりなんで少し驚いてね・・、
なぁフィート?」
「ええっ・・、みなさん。平均以上・・凄まじい美貌です・・」
「・・ふんっ、世辞の下手な連中だ」
「お嬢ちゃんはもうちょっと胸が・・な」
「む・・、胸のことを言うナァァァァァァァァ!!」
ボディブローをかます少女・・、しかし鍛えられたクロムウェルの身体には全くの無傷だ
「・・・・・・・・」
その少女をじっと見つめ少し汗をかくフィート・・
「どしたんだ?フィート」
「この人・・・・・、いえっ、何でもないです・・・」
そうこうしているうちに配膳も整いライが入ってきた
「え〜っと、アルシアは自室で薬の調合か。・・あれ、シエルは?」
「街の獣人に囲まれて帰れないと伝言がありました。」
出迎えてくれた秘書風の女性が静かに報告
「・・マドンナ扱いだからな・・。まぁいいや。こちらの二人はクロムウェルにフィート。アルシアに
用があってここに来た客人だ」
「クロムウェルさんは『暴れ牛』の異名をもつ格闘家として、フィートさんは魔法都市で称号を
取った優秀な魔術師として有名です・・ね」
「・・・えっ、有名人か?レイハ?」
そうとは知らないライが驚きながら秘書女性、レイハに聞く
「・・・まぁ、このエロ牛は知らんがこっちのガキは結構その道では名は知れてるナ。まぁ、まだみそっかすだがナ」
「・・・・それって誉められているんですか?」
「まっ、俺達のことはどうでもいいさ。一晩邪魔するぜ?」
「おう。・・・・リオ、後でアルシアの部屋に飯持って行ってくれ」
清楚な金髪女性、リオに言う
「わかりました。では、アルシアさんの分だけ先によけておきますね」
「おうっ、じゃあ頂きますか・・」
客人二人を招き質素ながらの食事が始まった・・。
普段は騒がしく食べるクロムウェルも疲労で静かに食べている
フィートなんかは食べながら寝ている模様・・
その日は二人とも夜這いもせずに力尽きたとさ・・・・・



翌朝
まだ日が昇っていない早朝時に屋敷の外で一人で腕に重りをつけ暴れるライ・・
「・・・おやっ、あんたも朝練か?」
そこにやってきたのはクロムウェル・・、いつもの黒道着ですでに軽く身体を動かしていたようだ
「おおっ、お前もか・・。ってことはフィートもか?」
「いいやっ、あいつは術師だからな。まだ夢の中さ。」
「ふぅん・・。そういや、おたくらってどこから来たんだ?」
「ハイデルベルクってとこさ。まっ、思えば遠くにきたもんだな〜」
「ハイデルベルク・・、確かダンケルクの隣国だったっけ?」
「まぁそうだけど普通逆だぞ?ハイデルベルクは結構大きいのに比べて
ダンケルクって中々小さな国だし・・。そこに知り合いでもいんのか?」
「・・・まぁ、そんなとこだな。よしっ、だいぶあったまってきたな・・」
程よく汗もかき準備万端といった感じのライ
「どうやらかなりできるようだな。どうだい?手合わせ?」
シュッシュッと素振りをしてライを誘うクロムウェル
「それもいいんだが、今はお前の仕事が先決だろ?さっきアルシアの奴眠気醒ましに
珈琲飲みに降りてきたぜ?」
「おっ・・・そうか。じゃあ一旦様子を見て来る・・・」
本来の目的を忘れかけていたようでそのままアルシア嬢の部屋に向かうことにした・・


「お〜い、アルシアさんよ。ヤクはできたか?」
多少問題発言なことを言いながら朝日が差し込むアルシアの部屋に入ったのだが・・

コン!

「レディの部屋にノックもせずに入ってこないで?」
いきなりヒールでの一撃・・
「・・・すみません・・。でっ、できたか?」
多少お疲れの様子のアルシアに聞く
「ええっ、何とか間に合ったわ。さっき一息ついたとこねぇ」
「おしっ、じゃあおくれ。急いで持って行かないとな・・。」
「待って、私も行くわ」
はっきりとした口調で言うアルシア
「え゛・・、いやっ、でも薬あるんだろ?」
「ちょっと気になるのよぉ、メモにあるお薬、鎮痛効果が高いものばかりだけどどれも使用用途がばらばらなの。これだけ薬名に詳しい人がこんな事をするなんて・・」
「それだけあっても効果が期待できないかもしれない・・ってか?」
「そう、これで効果がないと新たな薬が必要じゃなぁい?だから私も一緒に行くのよぉ」
「・・・・・・へぇ・・」
「・・何?その目・・」
「・・いやっ、見た目と違って意外に優しいんだな・・ってな」
「うるさいわね!その分貴方には働いてもらうわよ・・・」
「へいへい、じゃあ出発準備してくれよ。俺もフィートを起こしてすぐ出れるようにする」
「わかったわ。じゃあすぐ用意するからライに馬を数匹借りるようにお願いできるかしら?」
「馬・・あるのか?」
「当然よぉ・・。まさか私も一緒に走ってその村まで行く気だったの?」
「!!・・・そっ、そんなわけないぢゃん♪いやだな〜!!
あはははは!!」
もろ図星なクロムウェルさんでした・・

それからフィートを起こしライにお願いして3匹馬を借りることになったクロムウェル。
アルシアも準備ができ、日が昇ると同時に出発した・・

・・・流石のクロムウェルでも馬の脚力と持続力には勝てない様子で
その日の昼頃にはあの村に到着できた・・
「流石は馬!家庭に一匹は必需だね〜♪」
昨日汗だくになって走った道が一気に過ぎ去って行くのに上機嫌のクロムウェル・・
「でも先輩って、乗馬が得意だったんですね」
「ほんとねぇ・・。これでも乗馬には自信あったのに・・」
アルシアも体力馬鹿なクロムウェルがたくみに馬を扱っていたので驚く
「お前等ね・・。これでも傭兵だったんだからこのくらいできんでどうすんだよ!さぁ、降りるぞ!」
適度なとこで馬から下り気に括りつける・・。
そして段々畑を走りながら小屋へと向かった。
「戻ったか、クロムウェル。・・・そちらは?」
小屋の前でじっと周囲を警戒していたタイムがアルシアのほうを見て聞く
「ああっ、シウォングのヤク師アルシアだ。薬の調合云々で協力してくれる女だよ」
「よろしくねぇ」
「・・あっ、ああ。私はタイム、この変態の保護者だ」
「・・・・・大変ねぇ。貴方・・」
おもっきり同情するアルシア・・
「じゃかぁしい!ともかく中に患者いるからさっさと薬渡してこいよ!」
「わかったわよぉ。それじゃあ・・・」
静かに中に入るアルシア・・
クロムウェルとフィートはタイムと同じく小屋の外で待つことにした
「・・・綺麗な人ね?」
「・・なっ、なんだよタイム・・」
ジト目で見てくるタイム・・・、嫉妬しているようだ
「いや、クロムウェルの事だから何か変なことをしているだろうと思っただけだ」
「何にもしてねぇよ。昨日は鉄人レースだったからな・・」
「・・・まぁ、確かにここからシウォングまでは結構な距離だな」
小屋の向こうの林からシトゥラがそう言いつつ歩いてきた・・
「まぁな。でっ、ここら辺に魔物はいなさそうか・・?」
「その様だな、気配も微塵にない」
感覚の鋭い獣人が言う事だ。信憑性は高いだろう
「・・なら、後の僕達の仕事は患者さんに関するお手伝いってことになりそうですね」
「そこらへんは専門外だからな。せいぜい町への買いだしぐらい・・だろうさ」
「それにも馬があるから大丈夫、これで後はクライブとアルシアがやってくれたら一件落着だな!」
「ちょっと、いいかしらぁ・・。」
小屋から出てくるアルシア・・、表情はやはり深刻・・
「あん?どしたんだ?」
「いいから、そこの坊やも・・」
「えっ、はい・・」
クロムウェルとフィートが頭に「?」マークを浮べつつ中に入る・・

小屋の中はあの銀髪の姉とクライブ、そして患者の少女・・
荒い息遣いはなくなって静かに寝息を立てている・・
「おっ、落ちついたか・・」
「・・っと言ってもやっと麻酔が効いたとこで根本的な解決にはなっていませんがね・・」
「お前やアルシアでもお手上げなのか?」
「まぁ、原因がわからなければ・・ねぇ。」
「そういや、妹さんはいつからこんな状態になったんだ?」
患者の少女の手を握る銀髪娘にクロムウェルが聞く・・。
「つい、2週程前から・・」
「・・何か変わったことは?」
「・・いえっ、なかった・・です」
どこか曖昧な女性の答え・・
「ふぅん・・・・。ちょっと布団をどけるぜ・・?」
少女の布団を剥がし、服をたくしあげる・・
「せっ、先輩!そんなイケナイ事!!」
「・・なぁ、アルシア。この子の腹の皮膚・・、なんだかたるんでないか?」
「そう言われてみれば・・、華奢な体型の割には下腹部の皮膚がなんだか変ね・・。」
「前まで妊婦だったりとか?」
冗談半分で言うフィート、しかしクライブとアルシアの目の色が変わった・・!
「・・その線があったか!」
「ならば、つじつまは合うわねぇ。お二人さん、今からこの子の大事なところを診るから外に出ていってぇ!」
「なっ、なんだよ。来いっていったり出てけって言ったり・・」
「一緒に見る気ですか・・?」
「・・・・・・・・外で待ってます・・・」
「俺も・・・、じゃあお嬢さん。ちょっと来てくれよ?」
「は・・・はい・・」
銀髪の女性を誘い、男性陣二人はまた外へと出ていった・・
「・・・さて、あまり気は進まないですが・・、やりますか・・」
「そうねぇ、もしそうだったら・・ここいら一帯危ないしぃ・・・」
残った医師コンビはそのまま少女の診察を続けた・・・


「な・・なんですか?」
「いやっ、そういやあんたの名前とあの子の名前が聞いてなかったから・・な」
「・・・こんな時にナンパか?」
そのクロムウェルの一言に静かに殺気立つタイム・・
「落ちつけ、タイム。」
「わ、私はエルバ。あの子はケーラです・・」
「ふぅん、じゃあエルバさん、あの子の事を妹といっているけど肌の色や髪の色が違う・・。
おまけにあの子の症状についてもどこか曖昧だ・・。これはどういうことなんだ?」
単刀直入、彼は回りくどいことはしない・・
しばし困った顔をするエルバだが、やがて観念したかのように
ひとつため息をついた
「あの子は・・、私の本当の妹ではありません。・・・かなり前に・・村はずれの森で倒れているのを見て介護したのです。あの子は記憶喪失で身寄りも見つからなかったので私の所で
一緒に住もうと言ったのです」
「・・親切ですねぇ。このご時世、珍しいことですよ」
涙もろいフィート君感動の様子・・・
「あの子は・・、亡くなった私の本当の妹に似てますので・・。ケーラという名も私の本当の
妹の名前だったんです・・」
「・・・なるほど、じゃあ貴方もあのケーラについては詳しく知らないわけだな」
「はい・・、あの、この事はあの子には・・」
「わかってるって、そんな野暮なことはしないさ」
「・・・・ありがとうございます。」
深く頭を下げ、小屋の中に戻っていった


「ふう、外の空気も吸わないといけないもんだね・・」
入れ違いに一息ついたのかクライブが外に出てきた・・。
ずっと診ていたようで顔色もよくない・・
「あっ、クライブさん。患者はどうなんだ?」
「まだはっきりとしたことはわからないけれどもとりあえずの憶測は見えてきました」
「・・・でっ、その憶測というのは?」
今まで静かに話を聞いていたシトゥラが自分から聞き出す
顔にこそ出さないが彼女もケーラのことが気になっているようだ
「あの子は、どうやら危険生物によって生殖の苗床にされていたようです」
「「「・・・・・・・・」」」

危険生物
簡単に言えば人間に害を及ぼす魔物、中には人間の女性に自分の仔を孕ませ出産させるという種も多々ある・・・

「大方、元々あの子が住んでいた村がその魔物に襲われて彼女も連れ去られ、巣で孕まされていたのでしょう。何があったかわかりませんが偶然そこから逃げ出せてここに来た・・っと」
「じゃあ・・記憶喪失というのは・・?」
「そこでの体験があまりにむごかったので自分で記憶を封じた・・ってとこですね。ですがそれが返ってよくない。どんな生物に孕まされたのかがわからないんですよ。
とりあえずは彼女の子宮に残っていた卵の殻らしきものが取れましたがそれだけでは・・」
「おいおい、それが取り除けたら大丈夫じゃないのか?」
「そうもいかないようです。子宮に残っていた殻から毒素が全身に回っているようなんですよ。
だから殻を取ってもあまり事の前進にはなっていないようで・・」
頭を掻きながら悔しがるクライブ・・
「・・じゃああの子の記憶を戻し、どんな魔物に襲われたのかがわかればまだ対処はできるのですね?」
不意にフィートが言う
「そうですね、どんな種類の生物かさえわかればそれにあった治療もできるでしょう・・」
「・・・ならっ、僕がやりましょう」
「フィートが?どうするんだ?」
「僕はこれでも『法王』ですよ?風の魔法が全般ですが催眠の魔法ぐらいはできます。それで
記憶を開かせましょう。もちろんその後は再び記憶を封印しますけど・・ね」
自信ありげに答えるフィート。
「なら、たよりにさせてもらいますよ。」
「あっ、じゃあ先輩、協力してくださいよ?」
「え・・、俺・・?」
「かなり辛い過去を思い出させるのです。暴れ出す可能性はありますからね、女の子を押し倒して動けなくするのは先輩は得意・・(ゴス)・・・いたい・・」
「まっ、どの道俺が適任のようだな・・。じゃあやるか・・」
あまり浮かない顔の男性陣、ともあれ・・っと小屋の中に入って行った
「・・・これであの子が救えればいいんだがな・・」
入り口に残された女二人、何もできない事に少し引け目を感じる
タイムが呟く
「全くだ。タイムも騎士団の仕事が残っているのだから・・な」
「・・ふふっ、我ながら浅はかな行動だったのかしら・・」
日が傾いてきた山村の光景を眺める二人・・。
段々畑のに影がさし、どこかそれが寂しげに見えた

一方小屋の中・・・
「・・おにいちゃん達・・だれ?」
目が覚めた少女・・、ケーラがクロムウェル達3人を見て不審に思う
「ケーラを診察するために来てくださったお医者さんよ」
隣でじっと見守っているエルバが応える
「じゃあ・・、アルシアねえちゃんのお友達?」
「そうねぇ、まぁ・・・、そんなような・・・違うような・・・」
クロムウェルと友人ということにちょっと抵抗を感じるアルシア嬢・・
「まあ、アルシアさんと僕は同業者のようなもんだよ。こちら二人は
僕のボディーガード。強い人だよ」
「そうなんだ・・、いいなぁ・・。私も元気になって色んな事したい・・」
「大丈夫、すぐ良くなるよ。ちょっとごめんね・・」
フィートが身をかがめ、ケーラの頭に手をかざす・・
「???」
「・・・はい・・、おやすみ・・」

パチン!

「・・・あ・・・・れ・・・・」
フィートが指を鳴らすとともにケーラが轟沈・・
「見事なもんねぇ・・」
「朝飯前ですよ、さぁ、ケーラ・・。ちょっと君が封印した記憶をしゃべってもらうよ・・?」
「・・・はい・・」
目を閉じながら応えるケーラ、どうやら催眠成功のようだ
「君は・・、いやっ、君の村は魔物に壊滅させられたのかい?」
「はい・・、突然襲撃されて・・みんな殺されて・・」
「・・・・・・・その後、君はどうなったんだい?」
「薄暗いところで拘束されて・・、魔物が・・、私に・・・い・・いや・・・・」
表情が強張る・・、拒絶反応が出たようだ・・。
冷や汗もかいている
「落ちついて・・、どんな魔物かな?」
「緑の・・大きなミミズ・・目がなくて口が大きくて、気持ち悪い管が出てました・・」
「「・・・・・」」
無言でうなずく医者二人
今のは有力な情報らしい
「・・・!!ひぃ・・・、たっ助けて!おねえちゃん・・・・・!!」
どうやらエルバではなく本当の姉がいたようだ
「落ちついて、ケーラ」
「いや!!こんなの・・・いやあああああ!!!」
突然暴れ出すケーラ、予想は的中された
「先輩!」
「わかっている!よっ・・と!」
巧みにケーラの手を奪い動きを止める
「いや!!いや・・・・・・・・」
「・・・もういいでしょう。辛かっただろう、もう忘れていいんだ・・おやすみ・・」

パチン!

再び指を鳴らすと共に糸が切れたように倒れ、静かに寝息を立てる・・
「この子・・、こんな酷い目に・・・」
エルバが両手を口に添えて驚く・・・・・・
「・・記憶を塞ぐのもわかるな、お二人さん、わかったか?」
「・・ええ、緑・・っていうのはちょっと引っかかりますが・・ね」
「そうねぇ、多分亜種だと思うけど・・、なら、治療法もわかるわぁ」
「ですがここの薬だとまた足りないですね・・」
「それなら私の屋敷に連れてこればいいわぁ。調合できる設備はそろっているしここに比べたら街にも近いわよぉ」
「いいのか?ただでさえ厄介になっているのに?」
思ってもない提案に驚くクロムウェル・・。
本来は薬を調合して「はい、さようなら」という事になるはずだったから
なおさらだ・・
「ここまで来て放っておけないわぁ。こんな子ならなおさら・・」
珍しく深刻そうな表情のアルシア・・
「・・・昔に似たような患者でも診たのか・・?」
「・・・・放っておいて。じゃあ運ぶわよ。馬は私とクライブさんで2匹使うから〜、誰か後一人この子を抱いて連れていってくれないかしらぁ?」
「先輩、出番ですよ?」
「・・・俺ぇ?・・止めておく。タイムにお願いするよ、聞いているんだろ?タイム」
扉の向こうの声をかけるクロムウェル
「ふっ、いいのか?若い娘を背負って馬に乗れるんだぞ?」
・・静かに扉を開けながら応えるタイム・・。
「あのなぁ、そんなことしたら変態だろう?」
「「「・・・違うの?」」」
フィート、アルシア、タイムがハモる・・
「ちゃう!!それに!そんなむごい過去があるのなら女性のほうが安心できるだろう?さっきだって俺達に警戒していたし」
「・・わかった。じゃあアルシアさん、案内を頼む」
「よくってよぉ。貴方達は?」
残った3人に聞く・・
「俺達は歩きで屋敷に向かうよ。元々の依頼はクライブの護衛だからな、それもタイムがやってくれるだろうし、のんびり向かうよ。」
「すみませんね、じゃあ一足先に行かせてもらいます」
カバンをまとめて出発の準備をするクライブ
「あの・・、アルシアさん、妹を・・お願いします」
「まかせておいてぇ、必ず、元気な姿で再会させてあげるわぁ」
優しく微笑むアルシア、それを見てエルバも安堵の表情を見せる
(血はつながらなくても姉妹だな・・)
そんな姿をみてクロムウェルも感心したようだった・・・・・


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