2話 「シャン」


人気のない森
うっそうと木々が茂っており街道からも随分と離れてしまっている・・
当然こんなところを歩いている人間はいない・・、はずなのだが
今一人の少女が道なき道を駆けている・・
首には小さな動物の骸骨をつなげた首輪をしており黒いマントをつけている・・。
短めのに黒髪を揺らして黒い瞳はただ前を見ている・・

しかし

「そこまでだ。シャン」
不意に木々の間に声が響く・・
っと同時に少女を囲む4人の男
こちらも黒ずくめの忍者のような服装をしており、すでに剣を抜いている
「組織を抜けた者の行く末はわかっていような・・?シャン」
「私は・・・あそこには帰らない・・」
シャンと呼ばれた少女はじっと声をかけてきた男を睨む
「ならば・・・、掟に従い骸になってもらおう」
「・・・・簡単には殺られないわ!」
そういうとマントから金属で出来た黒い棒を取り出す。
金属ながら木の枝のようにそこが曲がっている・・
「カラミティテラー・・本気のようだな」
「本気でなければ組織をぬけたりしない!・・『サイズ』!!」
シャンがそう叫ぶと共に木の枝のような棒の先端から碧の液体が噴き出し
大きな鎌の形を成す・・
不思議な事に鎌の形を保ったまま液体はゆらめいでいるのだ
「・・・ふん、ならば始末するまでだ。おいっ、やるぞ」
男の一人が他の3人に合図し攻撃を開始しようとする
・・のだが・・

”すごい!液体が空中で固定している!!”

突如間の抜けた声が響き木の枝から獣人が飛び降りる
長めの犬耳、濃い茶の髪の毛をした少年で
デニムでできた工房服にマントを着た格好で
どう見ても戦士には見えない
「ねぇ、君!この鎌もっとよく見せてくれないかな?」
いきなりシャンにそう声をかける
「・・?今取り込み中なの。わかるでしょ?」
「え・・・・?」
犬少年はハッとし周りを見る・・
どうやら鎌に気をとられすぎていて他の事には頭が周らないようだ
「少年・・、我等の姿を見た以上・・、君も骸になってもらう・・!!」
男はすでに少年を敵として認識したようだ
「君!早く逃げなさい!変に首突っ込んで死んだら馬鹿よ!」
「でも逃げたら鎌が見られなくなるし・・」

・・・・少年の悩みの次元は彼女達とはまた違うようだ・・

「どのみち遅い!死ね!!」
4人のうちの一人がクナイと言われる短刀を取り、少年に向かって投げる!
少年は鎌のことをどうするか考えており全くの無防備・・
だが

ドンドン!!

不意に少年がマントに手を突っ込んだと思いきやいきなりクナイが落ちた・・
「そうだ!このゴタゴタを終わらせたらゆっくり見れるじゃないか!うんうん♪」
呑気に一人で納得する少年・・
手には紅と銀色の銃を握っている・・
「・・何だあれは・・?」
「・・我等が知らない武器だと・・!?かまわん!一気に仕留めるぞ!」
目標はシャンから少年へ・・
それを素早くシャンが割りこみ大鎌を振って牽制する
「君!勝手に割りこんで勝手に喧嘩売って!」
「しょうがないじゃないか、その鎌、とっても興味あるんだし」
「あ〜!もう!じゃあとっとと蹴散らすわよ!」
「了解!この銃の出来を確認するには丁度いいかな?」
そう言いながら空へ飛び立ち、手に持っている武器で男たちへ攻撃する
「ぐっ!鉄の礫を飛ばしているのか!?」
「おのれ!小癪な真似を・・」
高速で飛来する鉄の弾に男たちも回避に専念するしかない
「私もいるのよ!はぁ!!」
少年の牽制の間にシャンが一気に距離を狭めて斬りかかる!

斬!!

男の一人がその一撃で腕が斬り飛ばされる
「ぐぉ・・、おのれ!!」
「ちっ、一旦引くぞ!!」
「覚えれおけシャン!組織を抜けるものは死、あるのみ!」
「そしてそこの少年!貴様も同様だ!いずれは我等の手にかかるのだ!」
男たちは口々にそう叫び一斉に消え去る・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
男達が消えてからもシャンは警戒を解かない・・が、どうやら安全のようだ
「ふぅ・・、何とかなったわね。」
シャンが気を抜いた瞬間鎌の形を成していた液体が
棒の内部に吸いこまれていく
「すごい!中に収納された!!!
持ち主の魔力に影響して?でもそんな材質なんて僕は知らないし・・」
少年は何よりも鎌に興味深々
「ねぇ君・・」
「硬度が上がるという事はやっぱり液体金属だね。
でもここまで自由に変形できる素材なんて僕は知らない。
よかった〜、わざわざ旅に出てまで鉱石勉強にきて♪」
「君!!」
「え!僕・・?」
「勝手に自分の世界に入らないでくれる・・?」
「ごっ、ごめん・・」
「もう・・、手伝ってもらったのは感謝するけど後のことは知らないわよ?
あいつらに目をつけられたみたいだし」
「別にかまわないよ、それよりもその鎌を見せて!」
耳をピョコピョコ動かしながらせがむ少年・・
「(・・・・この人、危ないわね)・・・嫌よ。もういいでしょ?さよなら・・」
そう言いシャンはさっさと歩き出す
「ああっ、君!そんなこと言わず!それ凄い珍しいんだから!」
直もついてくる犬人少年・・・・
・・・いわゆるストーキングというものか・・



しばらくしてシャンは無事街道に出る事ができた・・、
追っ手もどうやらいないらしく安全なようだ・・
唯一気になるのが後ろを歩き、
物欲しそうに自分の得物を見つめる犬人の少年・・
さっきも走って振りきろうと試みたのだが、なんせ相手は獣人。
自慢の脚力も、彼の天性の能力には勝てずぴったりと後ろについてくる・・
「液体・・、ふむふむ、それを収める棒の材質も・・・ぶつぶつ・・・」
後ろで独り言を言い続ける少年・・
流石にこうなると恐ろしくなってくる・・
「ちょっと、君・・」
我慢の限界が来たので回り右して少年に一言いうシャン
「ぶつぶつ・・、あっ、呼んだ?」
「呼んだ?じゃないわよ。一体どう言う了見なの?
人の得物を見せろというわ、しつこくついてくるわ」
「ああっ、僕は鍛治師の見習いなんだ!
珍しい鉱石の勉強をしようと旅していて君のその鎌を見つけたわけさ!」
胸を張っていう少年・・
(・・・これって・・、組織に追われる以上の災難・・・?)
「いい?私はアサシンの組織から追われているの。
・・私なんかにかまっていたら命を落とすわよ」
「う〜ん、じゃあ君のその一件を終わらせたらじっくり見せてくれる?
それまで一緒にいよう!」
どうやらどうやっても鎌を研究したいようだ
「・・・・はぁ。・・・わかったわよ、どうせ君ももう狙われているみたいだし・・」
「そうそう、一緒にいたら戦力アップだし僕の勉強にもなるし一石二鳥だよ♪」
「・・・でっ、君、名前は?」
「えっ?」
「いつまでも君じゃ言いにくいでしょ?名前・・」
「ああっ、僕はリュート!リュート=ボーマンって言うんだ!
見習鍛治師だよ!」
耳を動かしながら握手を求める少年リュート
「・・私はシャンよ。変なことしないでね」
握手を求めたリュートを無視してさっさと先に進むシャン。
リュートも慌ててその後をついて行った・・・
こうして成り行きで二人は出会い、共に旅することになった・・


「でっ、一緒に行動することになったのはいいけど、どこか目的地はあるの?」
街道の途中にある小さな村。
その宿で食事を取る二人・・
シャンはマントを取り鎌をテーブルにかけた。
マントの下は露出度が高く胸と股間を隠す黒いラバースーツにラバーブーツ・・。
胸が小さいが中々色気がある・・。
まぁ動きやすさ重視な結果なのだろう・・。
対してリュートはデニムな工房服にうっすいマントと
白い布で包まれた細長い槍のようなもの
「別に・・、黒幕の存在もわからないから・・
基本的には向こうの出方しだいね」
「?、シャンが組織にいた時の場所にはいかないの?」
「私のいたところも上の方から指示を受けていたみたい。
どうやら幹部は正体を眩ませるため
何回もメッセンジャーを使っているみたいなの。
つまりその一つ一つを倒していかないと
私を始末しようとしている黒幕にはたどり着けないってことよ」
「ふぅん・・、あっ、これ美味しい!」
真剣な話なのに飯に喜ぶリュ―ト
「・・はぁ、でっ、私の武器はこれだけど君はどうなの?昼間なにか飛ばしていたけど・・」
「ああっ、僕の武器はこれ!!」
ゴツンっとテーブルに置く2丁の銃
「・・?何これ?」
「古代で使用されていた『銃』って言われるものさ。
まぁ簡単に説明するなら〜、高速投石機ってところ・・かな?」
「ふぅん・・、随分と珍しい物を使うのね?」
テーブルに置かれた紅と銀の銃を見て呆れるシャン
「そうだね〜、この『法皇』と『女教皇』の2丁はある物を参考にしたんだよ」
「ある物・・?」
「ふふふ〜、まっ、扱い難しいからそれは使うときになったら教えてあげるよ♪」
「はいはい・・、せいぜい足を引っ張らないでね」
「大丈夫だよ♪じゃあ明日あたりにも君がいたところを襲撃しようよ?」
「・・・・何言っているの?って私の話を聞いていなかったの!?」
恐い顔で怒り出すシャン・・
「もっ、もちろん・・。とにかく落ちつきなよ?ねっ?」
「・・はぁ、でっ?どういうこと?」
「つまり、こっちから先制するってことだよ。逃げまわる生活っていうのはプレッシャー強いだろ?
だからここらで先制して向こうの動きを封じるんだよ。
例え黒幕の検討ができなくてもそのくらいの効果はあるだろ?」
「・・・でも、たかが二人よ?」
「二人だからこそできるって!
向こうもまさか二人で襲撃するとは思っていないだろ?
その油断につけこんだらいいんだよ」
「・・・なんとかなるの?結構な規模よ?」
「銃っているのは対多数戦に優れているんだよ?
接近されると弱いけど、そこはシャンがいるだろうしね!」
「まぁ・・、私の鎌も多人数には強いけど・・。そんなにうまくいく・・?」
「大丈夫大丈夫♪たぶんなんとかなるだろうと思うよ?たぶん」
自信があるのかないのか・・
その言葉にやや不安になるシャンであった・・


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