第1話  「三丁の古代兵器」


人里離れた森の中・・。
見たこともないような種の木々が連なっている
そこにぽっかりと一軒屋が建っている・・、大きな煙突からモクモク
煙が立ち昇るところを見ると人が住んでいることがわかるのだが・・
壁には蔦が茂っており、なんだか時代に取り残されたような感じが漂う
あたりは空気が澄んでおり秘境とも言える環境だ
「寒くなってきましたね〜、師匠?」
「うむっ・・、倉庫に暖房器具をしまっていたな。そろそろ出すか・・」
蔦だらけの家の中で会話する一組の男女
テーブルに座り静かにお茶を飲んでいる

一人は黒い肌の老婆、見るからに高齢な感じだ。
それでも杖を使っていないようで思ったよりも体力があるようだ
一人は犬人の少年。デニムの工房服を着ており濃い茶色の短めの髪が特徴だ。
見る限り大人しそうな顔つきでいかにも「お姉様ウケ」よさそう・・

「わかりました。じゃあ一通りもってきましょうか」
「うむっ、ついでに薪も補充しておけ」
「了解です」
そういうと少年はさっさと小屋の外の倉庫へ走っていった・・


倉庫はありとあらゆるものが押しこんであり、色々なものがある
穴の空いたやかんから業物そうな剣まで・・
「あったあった・・、んっ?」
倉庫の端に眠る防寒着やら何やら入っている箱を見つけるが
さらに奥に怪しく光る金属の棒らしきものが・・


ガチャ・・



「あったか?リュート」
老婆が戻ってきた少年・・リュートに話しかける・・
「ありましたが、師匠、これってなんですか?」
リュートが暖房器具一式と一緒に持ってきたのは先程の金属棒
「・・・難儀な物を持ってきおって・・。・・・お前も鍛治師の見習いなら
それが何かくらい当ててみろ」
「古代文献で読んだ事がある『銃』だと思います・・が、こんな長身の銃なんて・・」
「ふんっ、遠距離用の改良したものだな。2種類の弾を撃てるように
あいつがカスタマイズしたものだ」
「あいつ・・?」
首をかしげるリュート・・
「お前が尊敬する女錬金術師ミュンだ」
「・・ええっ!!これっ、あの伝説の錬金術師が作った物なんですか!?」
「そうだ。まあ素材の形成等はわしが手伝ってやったがな」
「師匠・・、すごい人と知り合いだったのですね・・」
その一言に老婆は顔をしかめる
「何を言う。ミュンはわしの弟子だ」
「えええっ!!?」
「・・・驚き過ぎだ。ミュンは鍛治師としても中々優秀だったからな。
お前もそれを使って武者修業でもするか?」
顎で銃を指す師匠さん
「これ・・、まだ使えるのですか?」
「アイツが現役時代にかなり無茶苦茶使っていたから・・な。
まぁ一応使える程度に修理はしている
表で待っていろ。すぐにそいつの弾を精製してやる・・」
そういうと師匠さんは工房へと歩き出した・・
・・・・
「これが・・、あのミュンの遺産・・か・・・すごい・・」
一人リビングに残されたリュートは
手にずしりと重みが伝わる銃に感心するのだった



それから小屋の前で師匠を待つリュート。
時間がかかるかと思っていたが言ったとおりすぐ弾を持って出てきた
「これが・・、この銃の弾ですか・・」
銀色の弾を見て興奮するリュート、流線型をしたその弾は気品すら漂う
「魔槍銃ブリューナクだ。・・・装弾したぞ。試しにあの木を狙ってみろ」
装弾したブリューナクをリュートに投げ渡し、
手ごろな大木を指差して老婆が言う
「はい・・、この引き金を引けばいいんですよね?」
「そうだ・・」
細身の銃身に設置されている照準器でを合わせ、
しっかり構えるリュート・・・

ドン!!

ブリューナクが火を吹いた・・のだが木にはなんともない・・
「お前にはそれを扱うのは無理、か・・」
どうやら弾は明後日の方向に向かって行ったようだ
「あう・・・」
「まぁ、使いたければくれてやる。持ち主がもういないものだからな」
「あっ、ありがとうございます。
でもっ・・、この銃を参考にしてもっと扱いやすいものを作れないでしょうか?」
「・・・ふん、ブリューナクは扱いが難しいからな。設計を見直し、
新たに文献を参考にすればそれも可能だろう・・、やってみるか?」
「はい!」
こうしてリュートは女錬金術師ミュンの遺産、
ブリューナクを参考とした銃を造る事になった・・


それからというものリュートは工房にこもり切っているようだ・・
師匠も手を貸してやるも結局は最後に仕上げるのは彼自身ということで
ヒントしか与えていない・・
これが彼女の教育、それが一番力がつくと彼女は確信しているのだ
それはリュートも承知しており耳を垂れ下げながら思考錯誤している



やがて工房にこもって5日・・・



「師匠!できました!!!!」
その日の昼間に工房から勇ましく走り出てくるリュート。
「ほう、5日目にしてやっとできたか・・・。これがそうか?」
手に持つ銀色のリヴォルバー銃を見て師匠
ブリューナクに比べるとかなり小型化している
「はいっ!見てください!」
自信満々に師匠にそれを渡す
「ほぅ、銃身にハルモニア銀を使用したか。なかなかいいところに目をつけたな」
「ありがとうございます!」
「だがこれでは普通の鉛弾は飛ばせても破壊光弾には耐えられないぞ?
・・・どうやらあくまで文献を参考にしすぎて鉛弾飛ばす事ばかり考えていたな?」
誉め殺しとはいかずすかさず酷評、これがこの人の指導。
慢心を芽生えさせる隙を与えない
「あ・・、そうです・・」
耳をダランと落としガッカリするリュート
「・・・参考までにこれを見ろ」
そういうと師匠が懐から一丁の銃を取り出す
「えっ、師匠・・?これは?」
「お前が工房にこもっている間ちょっと造ったのさ。
寝ている間工房も使用させてもらった」
投げ渡された銃はリュート製と違い、銃身が紅い。
リヴォルバーとも違うようでどうやらオートマチック風の仕上がり
「紅い鉱石・・?何なんですか?この赤は?」
「ルビーストーンといわれる紅い鉱石だ。硬度もあるし魔に対する耐性も強い。
内部にも魔石を埋めこんでいるから通常弾以外にも破壊光弾も出せる。
まぁ、威力はお前の物より低いだろうし弾速もブリューナクより遅い。
だが使いやすさは3丁の中で一番だろう」
「へぇ・・」
「それよりもお前は文献に頼りすぎている。
腕はそこそこ着いてきたからそろそろ鉱石の特徴なども学べ」
「でも、ここで調べられる物なんて限界がありますよ?」
「ここで限界なら旅に出ればいい。・・・良い機会だ、鉱石について勉強して来い。
幸い、護身用の武器はここにできているしな」
ニヤリと笑う師匠、その意味も込めてわざわざ作ったようだ・・
「師匠・・、この紅い銃もくれるのですか?」
「元々そのつもりだ。その銃は『女教皇』と名づけた。お前にくれてやる」
「ありがとうございます。じゃあこの2丁とブリューナクを持ちリュート、
鉱石勉強の旅に出ます!」
尻尾を振りながら旅支度にとりかかるリュート
「まて、お前銃の弾の造り方知っているのか?」
「あ゛・・・」
「こんな古代兵器の装備、余所では売っているわけがない。
造り方を教えるからこっちこい」
「あっ、はい・・」
強引に師匠に連れられ工房へ
それより丸二日弾の造り方を習い改めて鉱石勉強への旅路についた・・


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