七章  「屋敷の日々」


仮にも、真龍騎公と謳われる男とその姫将の一騎当千達が乗る軍馬である。
体力,筋力は勿論の事、知能の方もよっぽどバカな人間よりかは可也賢い。
だから、二人乗せて軽く駆けている程度でも並の馬の本気走り程度で以上に快適。
配置も念のため(?)、犬少年リュートと共に背後に乗るのは一見傭兵なライであり
元暗殺者娘シャンと共に背後に乗るのはコレまた傭兵姿に黒猫娘のシエル。
シャンは鋼鷹フィアラルの強制停止状態である卵を懐に頭を爆乳に挟まれ完全に填ってるが。
そして、それに並走する銀狼ルナに跨る金髪少年ディ。
「まぁ何だ、ヤッパリ抱締めるのは女の子に限るよなぁ・・・」
「はぁ・・・(悩」
 「・・・・・」
帰路、駆ける馬の上でライの戯言に対し何とも答えようがないリュート。
隣では困った顔にシエルが その猫耳がナニ言ットルネンと言わんばかりにピッピッ。
スッポリ包まれて快適なシャンは、もはや全てが如何でもイイ感にボンヤリと・・・
それでも それ故に、ふと思い出し
 「ライ・・って、もしかして『DNT』指定の人? 英雄?」
「DDT?」
 「それは投術よ、リュート。『DNT』ってのは、接触無用って意味なの。
狙おうと決して暗殺は出来ず、それどころか付近で任務を行えば何故か確実に
邪魔されるので、勿論接触は避ける上で確実に立去ったことを確認するまで
任務は延期しなければならない っていうことだったんだけど・・・」
「へぇ、英雄扱いとは・・・そいつは光栄なことで」
「す、凄い人なんですね・・・」
 「ん、ライは英雄。」
それに関してはシエルは鼻高々。長であり父親代わりのライが有名で
ルナもまた狼状態ながらも何処か嬉しそうに並走し続ける。
「ホント、『DDD』セシルとは天と地ね・・・」
瞬間、セシルという単語に対し反応にシエルは硬直に目を見開いて尻尾膨らませ
皆の前、呆然なディが天地逆転に吹っ飛んで行き受身も取れずにズンガラガッシャン。
馬を急停止に振り返って見ると、道端で娘なルナが身を丸め
 「きゃいん、きゃいん・・・(ガタガタブルブル」
その怯え様は決して思い出してはいけない恐怖を思い出した子供そのもの。
「ど、如何したんですか、ルナさん?」
「まぁ・・・トラウマ? ケダモノなだけあって犠牲者の数も半端じゃないってこった」
 「・・・世間って意外に狭いんですね。私達も・・・未遂ですけど」
「こっちはコレもソレもアレも襲われちまった(怒
マジ知り合いじゃなかったら、即国挙げてでも泣かしたるのに・・・」
とライが指差す先には、ガタガタ震えるルナを抱締めるシエルに
離れた処でバタンQのディ。いやはや、いやはや・・・
結局その日はそれ以上進むのは無理と野営に、子供達を残してシエルとライがテキパキ。
あっと言う間にシエルは獲物を狩りあげ、ライは必要なものを取り揃えて来てしまった。
その手際の良さ、旅暮らしの二人を唸らせるほど。
 「ら、ライって本当に王様?」
「まぁ、王様と言っても都市の代表として祭り上げられたナンチャッテだし」
と、膝枕にルナをシエルを眠らせているその姿は凡そ王よりかは心優しい青年。
「はっ、ココまできて未だ己をナンチャッテとノタまわりますか?性格に難ある
とはいえ、善政をおこなっているからこそ他称王である事をお忘れなく」
事故ったせいで伸びて顔に湿布を乗せてるものの、ディは毎度に毒舌口調。
「んな事ぁ、ガキにいわれなくても分かってる。でもな、コレは重いんだよ」
「はっ、それこそ・・・屈強な戦士がミスリルの鎧着て「重い」と言ってるしか聞こえませんよ」
「ガキャァ・・・(苦笑」
こう口論をしていると、ライが王であり、ディがその配下であるとはとても見えない。
 「やっぱり、ルナってシエルさんとの子・・・なわけはないよね。」
幾ら世間,一般知識に疎いシャンであれ、黒猫娘と人間種男の間に
銀狼少女が出来る事が如何に出鱈目なことぐらいかはわかる。
「義理という意味では正解ですね。 最も、この男は他に3人も囲ってますけど」
 「えっ・・・」
「シエルさんなんて性奴だし、娼婦や幼女、秘書まで・・・」
「ディ手前、失礼なこというな。 シャン、コイツの戯言は気にしないで・・・」
見てみると、少女は既に距離をとりガタガタブルブル
 「お願い・・・許して。 私にはリュートが・・・」
「コラコラ、ちょっと待てぃっ。俺がンな事するかっ!!!」
「では、当人から直接聞いてみたら如何です? シエルさん、如何でしょう?」
とディが尋ねる相手は寝てるはずの大黒猫娘。それが片目開け
 「ん、私は別に性奴でも構わない。 ライの側にさえいれれば・・・」
「・・・はぁ、全く冗談すらなりゃしない。
シエルさんは健気ですねぇ。ルナもそれくらい・・・」
それでも毒舌金髪少年が銀狼少女を見る目は優しく・・・
シャンは、知り合ったこの者達が見たとおりであることを理解した。
んで、静かな犬少年は如何してるかというと、夕食も終わり早々に爆睡してたり。

翌朝、朝も早くに出発した一行は、昼過ぎには都市国家シウォング領に。
整備された街道に、後は一刻もせず居城たる都市シウォングの敷地内。
様々な種の多くの人々が行きかう中、流石に歩速を落さざるえなく
「あっ・・・ども。こんにちは。」
 「何やってるのよ、もう・・・恥ずかしい」
リュートは見慣れぬ人々の多さから思わず行きかう人にへコヘコ挨拶してしまう。
そんな感じで都市部をかするように森へ入っていき・・・
目の前には質実剛健に飾気ない それでも実用的な屋敷が。
「ようこそ我が家へ、チッこい王の居城だけどくつろいでくれ」
・・・普通、王の城と民の間には大きな隔たりがある。
例えそれが大きな城であろうと賢王のものであったとしても。
しかし、ココにはそれがない。
とならば、この都市こそ城ととるならば・・・
馬を繋ぎもせず鞍を外して解放し屋敷に入ると、出迎えるのはスーツ姿の秘書嬢
 「おかえりなさい、ライ。 そちらの方は?」
「ただいま。二人はリュートにシャン、今回の協力者でディ達のダチ。
折角だから暫くウチに泊まることになったんで、よろしく」
 「私は、この方の補佐を勤めているレイハ=サーバインと申します。
御不自由な点がございましたら私に・・・。 ライ、事務の事で話があります」
「お、おう(汗」
子供相手に和やかな挨拶から一転、レイハは伊達眼鏡をキラリーン。たじろくライ。
もはや告げ口があろうがなかろうが、全てバレバレであった・・・
メンバー紹介は省略で、夕食の席には面々が揃い賑やかな事この上なく
 「二人とも遠慮く食べてね。御代わりはたくさんあるから♪」
「あっ、ありがとうございます。ディ君のお姉さん(照」
メイドなリオに声をかけられ、デレデレなリュートを睨むシャン。
その手には鈍い光を放つフォークが・・・が、目的を果たす前にヒョイッと奪取
 「あっ・・・」
「食事中に物騒な気を放つものじゃない。 気持ちは分かるが。」
呆然なシャンを嗜めるのは意外に大人なアレス。
そして、もう片手にあるのは調味料の小瓶。 ・・・いわゆる、唐辛子の。
中フタまで開けると中身を、丸ごと目を奪われたままのリュートのスープ皿へ。
素早く掻き混ぜてしまえばクリームシチューが見事なルビー色に。
未だ事態に気付いていないリュートは、ソレをすくってパクッと・・・瞬後
「ぶほぁっ!!?」
口から火を吹きリュート悶死。なんてかもう、鍛冶に自分で火噴いてヤレって勢い?
「こうすれば穏やかに事は片付く と」
 「・・・・・・(この人って、プロ?」
毎度、何でも屋マガイの事をしていれば自ずとその類の腕も上がってくる と。
結局その激辛シチューを皆に囃し立てられながらシャンの手によって食べさせられ、
その顔が超赤面だったのは照れのためか辛さのためかは別の話であり・・・
夕食後の居間では皆思い思いの姿でくつろぎ・・・因みに、リオ&アレスは後片付け。
「んで、何でまた旅を?」
と、ソファを背に絨毯で座り茶片手なライの回りでは、後ろに妖艶嬢アルシアが
大人の色気を振り撒き、秘書嬢レイハは御茶を手に座り控え
我侭幼嬢ルーはライに凭れてお菓子片手に駄弁り、シエルは寡黙猫化で寄り添うのみ。
その前のテーブルの向かいにリュート&シャン,横に何で?顔のディ&ルナ。
食卓テーブルではナンパ師カインとその相方麗嬢ヒルデが聞耳を立て。
「はい、見習い卒業検定で師匠を唸らせるものを造るための旅を」
「ほぉ〜〜、そいつはご苦労さま。それで何かイイ物が見つかったか?」
「それが中々・・・」
自立思考式魔導機 鷹型使魔「フィアラル」は独りで造ったわけではないので
「師匠を唸らせるもの」にはならないらしい。擬似生物を作ったわけなのだが・・・。
 「簡単に出来れば試験に成らんからナ〜〜」
口回りにクリームをつけてルー 一言。これでも天才少年魔導士の師匠たる身である。
如何イビりたおしてやろうか毎日思案中。
 因みに免許皆伝する気は端よりない(断言。
「参考までに俺達の得物とかでも見ていくか? 街の鍛冶士に紹介してもいいし」
 「随分と気前がよろしいんですね。」
「相手は子供だしな。見せて減るものじゃないし、恩を売っておくのも悪くない。
それに連中の刺激にもなるだろうからな」
流石、自称ナンチャッテ王。 タダで奉仕するような真似はしない。
一騎当千の得物をただで見れるとは、リュートにとっては渡りに船以外
なにものでもないのだが・・・となると暇になるのは相方の御嬢さん。
 「・・・私は?」
 「まぁ、折角だからココで花嫁修業していくのは如何かしらぁ?」
アルシアが言う花嫁修業とはドンナモノか小一時間ほど問詰めたい。実戦つきで。
 「あらん、至って普通の花嫁修業よぉ。料理に礼儀作法
調薬、房術、浮気防止術、男の手玉に取る方法・・・」
こらこらこらこら
 「私も多少なり色々教授できるかと(キラリーン」
レイハさん、貴女は何をヤル気になっているんですか?
「まっ、まぁ、ここならネタに尽きることがないだろうからノンビリしてくれ」
 「・・・・・・(クアアアア」
ホント、色々な意味でネタに尽きることはなさそうである。

夜寝る時間にリュートとシャンはそれぞれ与えられた部屋へ。
リュートは翌日から一騎当千の得物が見られるとあってワクワクと寝付けず、其処へ
コンコン
「はい? 開いてますよ。」
扉を開けると其処にいたのはシャン。その腕には鋼の卵を抱いて
 「今、いい?」
「う、うん。」
二人は連れ立ってベットに腰掛け・・・環境が変わるだけ結構新鮮に
こうしているだけでもドキドキものである。 その中で先口きったのは
 「えっと、フィアラルの事なんだけど・・・」
「う、うん?」
 「如何したの? 変な顔して・・・」
「あっ、うん、何でもない。 フィアラルの事?
 結構ダメージが大きいみたいだけど大丈夫だよ。
 装甲は兎も角、内部の魔導構造の修復が終ったら直ぐ起きるから。
フィアラルが起きたら直ぐ直せるように僕が預かっておこうか?」
 「ええ、フィアラルの事、お願いね♪」
「えっ、あっ、あれ?」
シャンは鋼の卵を預けると、不意打ち唇へキス一発で早々に退散。
唖然としたリュート残して・・・
「・・・・・・寝よっと。」
翌日からの期待など全部すっとんでしまった。
一方、リュートの奇襲に成功したシャンはルンルンに満足で自分の部屋へ向かう。
その時、ふと
「・・・・・・・」
 「はい?」
振り返った其処には誰もいない。確かに誰かに呼ばれたと思ったのに。
瞬間めまいに、気付くと其処はもう自分に与えられた部屋だった。
 「あ、あれ? 私・・・疲れてるのかな・・・」
先日の今日である。激戦のダメージが気が抜けた拍子に出てきた可能性も否めない。
外傷は魔導によって癒してもらってはあったが、所詮見かけだけなのだから。
特にしなければならないこともないので、シャンは目元を擦りつつ寝床へ入り
直ぐに暗くなった部屋を支配するのは、穏やかな寝息。
「・・・・・・」
だけではなかった。もしシャンが先の戦いがなく真に元気だったのなら
それに気付いたかもしれない。 部屋に渦巻く闇を・・・
・・・・・・・・・・・・・・
「っ!!?」
 「・・・どうなさったんですか?」
寝床、突如ビクッと反応する男に、懐の長黒髪が情事後でまどろみながらも尋ねる。
この男の奇行は今に始った事ではないが、人として感情に素直であると考えれば
それは当たり前であるということを娘は知っていた。それはそれで長として困り者だが。
「んや、気のせい・・・かもしれない。 悪い、折角の時を無粋な真似して」
 「仕方ありません。こればっかりは貴方のせいでは・・・調査を急ぐよう手配します」
「ああ、頼む。 でも、今は・・・」
 「あっ・・・」
再び一つになる男女。 夜は未だ・・・長かった・・・。



客人は当然の事に任務上がりの子供二人+尽きた秘書嬢も寝坊で、朝食時に揃う一同。
パンをモグモグ喰らいつつ、それでも
「俺が事務仕事やってる間はアレス,リオ、それと御子様二人が客人の面倒を。
昨日ので分かると思うけど、嫌じゃなければリュートに得物を見せてやってくれ」
子供達は元より、アレス,リオもライがOKを出すなら全く問題はない。
了解に頷くだけである。
 「私はこの後町へ行ってまいりますので・・・」
「ああ、時間が空いた時でいいから。
他の皆は外出する予定はなかったよな? 悪いけど付きあってやってくれい」
他の面々も異口同音にOK。 当のリュートは感激に武者震い。
 「ほらリュート、お礼言わなきゃ」
「あっ、ありがとうございますっ!!!」
それの反応も黙って御飯を食べ続けたり、手を振って応えたりと反応色々。
朝食終った面々は各々自分の作業に、片付けを手伝ったリュートとシャンは
アレスに言われるまま、居間で準備に自分の部屋へ一時退却した四人を待つ。
「楽しみだなぁ・・・どんな業物を見せてもらえるんだろう」
 「よかったわね〜〜、リュ〜ト。 ・・・でもリオさん、メイドなのに?」
己の得物 もとい決戦衣装を見せる事を最も喜んだのは何を隠そうリオである。
しかし、シャンが昨日から観察している限り手腕は一流メイドそのもの。
確かにメイドの中には戦闘警護を旨とするものもいなくはないが・・・と、
 「お待たせ〜♪」
やってきたのは豪華な黒マントで己の身体を隠した四人。マントの膨らみから
武装していることは見て取れるが・・・もはやファッションショーの気配である。
「はぁ・・・何だかな。」
 「だって、決戦衣装着る機会なんてそうないんだもん」
思わずぼやくアレスにブーたれるリオ。決戦衣装は着ないにこした事は無いのは承知。
でも、綺麗なのだから着飾ってみたいというのも女の子の心理なのである。
先ずはリオから頭まで被ったマントを脱ぐとその内には
長金髪の頭には羽サークレット。蒼金色女性用板胸鎧の下には燻白銀色旗袍服型戦闘服。
携える得物は魔導補助長剣「聖星霊刃」に小型円形盾(バックラー)。
 「わぁリオさん、本当に騎士だったんだ・・・」
「・・・・・・(呆然」
 「・・・。 因みに中はこうなっておりま〜〜す♪」
と、リオは悪戯笑みに己のスカートをヒラリ。その生脚の付根はハイレグに白。
「・・・ぶほぁっ(鼻血!!?」
 「!!?」
瞬後リュートのけぞりつつ出血死。 シャン、目が点に口あんぐり。
「何をやっているんですか、姉様はっ!!!」
 「ああ、大丈夫。レオタード着てるから♪」
ゴチン
「そういう問題じゃない。リオ、調子乗りすぎだ」
 「あ〜〜ん(泣」
リュート復活まで暫し間、リオへ義兄弟による説教は省略
「えっと・・・この剣は魔法剣の類ですね?」
 「うん、実用耐え得る儀式用の剣だったらしいの。御陰で魔法を補助してくれて・・・」
持主のリオから熱心に説明を受けるリュートが、それでもリオを直視しないのは
先ほどの光景を思いださないように頑張るのか、監視のシャンが怖いからなのか・・・
一通りリオの武装の説明が終わり、次はアレスに
「・・・・・・」
なんとも表現しがたい表情で脱いだマントの内側は
金縁に黒の軍服らしい上は股上程度までの戦闘服。燻銀色の手甲は殴ってヨシな代物。
携える得物は両刃破壊剣「烈風裂羽」。アレスはそれを黙ってリュートに突き出すだけ。
「えっ?」
「自身で持て確かめろ。話はそれからだ」
促されるまま手に取り、驚きつつも抜き放ち更に驚く鍛冶犬少年。
「しっかり鍛ってあるのに・・・軽すぎるけどこれは・・・」
「修理で今の「烈風裂羽」なる前の姿を見た鍛冶士曰く、これは古代に精霊虫の羽から
鍛えられた試作品だろうとの事だ。それに罅が入り折れかけたから修理で、今に到る」
「修理はどのように、って解かりませんか・・・」
「自分でやらされたから解る。ミスリルの薄刃金を、粉末を繋ぎに・・・」
アレスとリュートが熱心に話合いディが聴いてる間、女の子達は雑談に話を咲かせ・・・
「次は僕ですか。 今更ですけどね・・・」
やれやれとマント脱いだ内側は蒼に白銀飾縁取の貫頭衣型法衣と蒼色のグローブ
その手にあるのは法杖「光晶槍」。 一見、王錫の様に杖先には菱形の玉石。
魔杖としての機能は勿論、魔力を込める事で先の玉石より生み出されるのは魔法の刃。
「ディ君のコレ、凄いよね。見た目の造型も素晴らしいけど機能も・・・」
「僕の先代の前は長い間、家宝の美術品として扱われていたくらいだそうで」
と一度意気投合で大仕事を成し遂げただけあって二人は丸で兄弟の如く和気藹々。
既に女の子達の興味は衣装の話に、ルナは間をウロうろウロ。
流石に忘れられそうになってきたので
 「わんっわんっ!!! ルナも、ルナも」
と皆の注意を引いてマントを脱ぎ捨てた中身は、毎度通り紅に黒飾縁取の特殊な
和服らしきもの+豪華な金縁に、更にその上に金縁の黒い陣羽織。
陣羽織の背には三日月に八方星の白銀エンブレム。
その手には、ルナの身長以上の長さを持つ 狂戦鬼の大太刀「獣皇鬼・砕刃」。
 「・・・ルナって、いつも同じような衣装よね?」
 「普通の服だと『変身』に耐えられないから・・・これでも最近は
普通の服も気をつけて着て御洒落するようになったんだよねー♪」
 「わん〜〜♪」ね〜〜♪
 「『変身』? 普通の服って・・・コレ特殊なの?」
 「うん、私たちの戦闘服と同じ素材。ライ団長がね、ルナの為に
貴重なアラクネ様の糸を使って造ってもらったのよ。」
 「・・・アラクネ様? へぇ・・・。 そう言えばコノ紋章」
 「わん、ルナ、月好き」
 「極星を表す八方星に、銀狼は月女神の化身って言われてるからこうなったの。
私とディは、八方星に慈愛を司る白翼。アレスくんは、八方星に強さを司る竜翼」
 「へぇ・・・」
シャンには小難しいことは分からないが、それでも良く似合うと思った。
一方、少年達は既にルナの手からディへ渡された狂戦鬼の大太刀を取り囲み
「これは大サイズくせに凄い銘刀だけど・・・以上に妖刀?」
「今はルナの支配下にあって、その名の由来たる『呪』が眠らされてますから」
「『呪』強力だぞ。団長ですら避けて使わないくらい。 俺では
封印の上からでも意識を奪われ、端から太刀打ちできなかったからな」
「こ、これが?」
リュートは恐る恐る刀身に触れてみるが・・・刺すような気配以外はない。
「僕は天使の守護があってか『呪』には支配されませんでしたが
最初、ルナがコレを持った時も狂戦士化に大変でしたからねぇ。
激戦にあの普通でない団長すら追詰め・・・結果、ルナが支配下に置き返し
主となったわけですが」
「へぇ、それは・・・凄かったんだね」
話に驚愕のリュート。 しかし、それですら物足りないくらいである。
普通の村人が狂戦士化し一軍を激戦の果てに殲滅,自滅した話ぐらいは良くある。
想像しているのは普通の少女が狂戦士化し英雄がソレを抑えたくらいだろう。
だが事実は人の闘技をもつ獣が狂戦士化に、神剣もつ神人と張り合い・・・
本来なら一国が滅びてもおかしくない事態だった。
「まっ、いいんですけどね・・・」
幾らディとはいえ友にそこまで話す義理はない。 否、友故に話せない。
あの時の感情は当事者のみだけのものだから・・・先の戦いのように。
そして、時を忘れて武具やファッションについて話に華を咲かせ・・・
「お〜〜、賑わってるじゃないか。」
話を中断させたのは、事務仕事を終えたのか肩をコキコキとライ。
既に鎧脱ぎ戦闘服姿のリオが言われえるまでもなく御茶を淹れ差出すのは流石。
こう戦闘服娘が給仕を行うのも中々に違和感と趣きがあって楽しく。
 「仕事、もう終わりになられたんですか?」
「そりゃ、あの程度・・・」
「レイハさんがおられる時にも真面目にすればいいのに・・・」
「変な処で御子様ですからねぇ、ウチの大将は。」
「だって、女の子が困る顔みるの楽しくないか?」
「「「・・・・・・」」」
 「なっ、何でそこで何も言わないのっ」
 「りゅ〜〜とぉ〜〜(ワナワナ」
 「わう? わう?」 何? 何?
「まぁ・・・それはさて置き、小僧どものお宝自慢は
終ったようだから俺等のを見に行くか?」
「はいっ!!!」
怒りに身を震わせる二人を跳ね飛ばす勢いでリュート即答。
一国の一騎当千で名高い英雄の得物などは本来、最高軍事機密なので
見せてもらえる機会など匆々ない。リュートでなくとも鍛冶士なら生唾もの。
もっとも、既に4人分の最高軍事機密に触れちゃったりしてるのだが・・・
連れられてルンルンなリュートは、共にライの部屋へ。入って直ぐ投げ渡すのは破壊剣。
「おっと、おおうっ!!?」
見た目から予想された重さよりも軽く、体勢を崩すも持ち堪え。
「銘は『神狼牙』、神をも殺せる剣。 百聞は一見にしかず。抜いて見てみ?」
いたって普通なライの物言いに釣られて、リュートはあっさり剣を抜き放つ。
解放された片刃は美しい斑目に眠っているかのように鈍い光を放つだけ・・・
「凄い・・・破壊剣なのにダマスカスブレードだなんて・・・これは・・・
ミスリル鋼にオリハルコン鋼、ヒヒイロカネ鋼、メリクリウス鋼までっ!!?
なんて出鱈目な構成なんだっ!!!  ・・・もう、凄いなんてモノじゃない」
ミスリル:破魔銀 オリハルコン:不滅金 ヒヒイロカネ:神鉄 メリクリウス:獄魔鉛
「触っただけで元材料が解かるとは流石流石(チパチパ」
「だ、誰が鍛えたんですか、コレを」
「俺」
・・・・・・・
「はぃ?」
「・・・・・・。 正しくは、鍛冶士の指示に従って俺は鎚を揮ったんだけどね。
実際、仕上げの焼きなましとか拵えはその鍛冶士がやってくれたわけだし。」
「い、いえ、それでも・・・普通はプロの指示に従っても鍛るものではありませんよ?」
「そ〜〜言われても途中から覚えてないからなぁ・・・」
一つが出鱈目なら後に続く全てがもはや出鱈目である。それでも、見てて飽きないのか
リュートは神狼牙を嘗回す様に穴が開きそうなほど鑑賞。 ライも待ちぼうけに。
「も〜〜そろそろいいか?」
「・・・・・・」
「お〜〜い。 はぁ、仕方ない・・・」
と、ライの意識に従い
「おおうっ!!?」
急増化した重量に支えきれず神狼牙は床に転げ落ち、苦笑のライは軽々と鞘に収めた。
一方、犬少年は犬耳伏せて戦々恐々に平謝り。実用剣とはいえ、英雄王のモノである。
それだけで磔打首にされても仕方がない行いをしてしまったのだ。
「すっすっ済みません。 急に重くなって・・・」
「気にするな。俺が拒否したからな。」
「は?」
「俺が拒否したから突然持てないほどに重くなった。それだけのこった」
「・・・・・・」
英雄がそれだけのモノを求め鍛たのなら、そういう事が起こるのも必然なのかもしれない。
「あと、見て面白いのはコレくらいか? 銘は『龍腕』」
と呆然なリュートに出すのは銘の通り龍の腕を思わせる格闘用ガントレット。
触ってみるだけでも解かるくらいに稼動域はつけていることを感じさせないほどの自由性。
素材はミスリルオリハルコン合金と巧みの技に、これだけでも神具クラス。
「これもまた凄いっ。何て代物なんだ・・・」
「『神狼牙』鍛えた俺をみて触発されたんだとさ。俺としてはありがたいけどな」
とライは『龍腕』を己の腕に装着。腕甲に命が宿り龍の腕となる。
少なくとも、リュートにはそう見えた。
次に向かった先は・・・扉にラクガキ文字で『るぅ』と書かれた板がかかった部屋。
ノックに入ると、部屋はモノで散らかり・・・それでも中央の座テーブルの周辺は空き。
座り椅子に鎮座 もとい駄弁っているのはゴスロリ美幼女ルー。
「朝言った通りルー、彼にルーの魔杖を見せてやってくれ」
 「おう、構わんゾ。まぁ座れ」
促されライはルーの隣に。リュートはルーの向かいに。
「えっと、ルー・・・さんは魔導師ですか?」
 「見て解からんか、バカタレ。 コノ容姿で戦士がおったら私が見て見たいわ」
横柄にワガママな物言いにリュートたじたじ。姿に何故か師匠ミョルキルの影が重なる。
「見た目で判断しない方がいいぞ。ルーなんかソレの最たるもんだ。
これでも齢数百年を数える元魔女。ディの師匠でもある。」
驚きながらも納得。そりゃ師匠ミョルキルの姿も重なろうってもの。
 「では、私の魔杖『魔魂』でも見せてやるとするかナ」
とテーブルの下をゴソゴソと弄り、引っ張り出して来たのは以上に大きい杖。
魔杖『魔魂』。名の示す通り、無骨怪奇な樫の木を思わせる柄の先には
そこから生えた五本の爪が大きな球の珠を掴む。 魔杖であるよりかは鈍器。
「いっ!!?」
リュートが思わず覗き込む下には別に変わったものはなく・・・
胡坐かく幼女のスカートが捲りあがって白の可愛いパンティ見えちゃったり。
気を取り直し身体起こして見てみると、ライの「またか」の顔からして
テーブル下から何気なく召喚は今に始ったことではないらしい。
 「コイツの主な役目は、記憶媒体だ。 超、膨大なまでのナ。
後、多少なりとも自動魔導発動機能もあるが・・・全てを教えてやる義理もないか」
色々な意味で関心しとおしである。
次、向かった先の部屋にかかった標識には美しい文字で「アルシア」
しかし、その嗅覚が捉えたのは危険な香り。
ノックに入ると、出迎えたのは色気タップリの衣装に金髪な妖艶美女アルシア。
こうして面と向かうと、誰かを彷彿とさせ・・・
「・・・・・・僕、ココは結構です。」
 「あらん、連れないわねぇ。折角なんだから見て行ってぇ♪」
Uターンに、妖艶な美女に背後から抱締められムニッと乳房が押し潰される
感触が伝わる事態。本来なら喜ばしいのだが、ますます警鐘が烈しくなる。
「あっ、あっ、あのっ・・・」
 「ううん、可愛い。 可愛くって、オネエさん・・・食べたくなっちゃう」
血のように赤い艶唇を舐める舌が、先割れに蛇のように見えるのは気のせい!!?
もはやもう、別の意味でカチコチ。 獣に睨まれた小動物のように萎縮しまくりで。
「おいおい、余り虐めてやるなよ。 セシルの犠牲者なんだから」
 「・・・・・・(は?」
「・・・・・・(睨」
 「・・・・・・おほほほほ、じゃあ私の武具を見せてあげるわねぇ」
一転、気前いい妖艶姐御化したのはライの御陰なんでしょう。やっぱり。
アルシアがマントを取り去り見せるのはマネキンに着せてある己の武具。
ラメ紫色の旗袍服型鱗鎧「艶龍鱗」に、その腰に巻きつけてある鋼茨鞭「龍尾」
足元には鏡の如く風景を反射する円形盾「霊鏡」
「これは・・・魔道具ですか?」
 「そうよぉ。精霊『蛟』を捕らえて力は鋼茨鞭へ魔力は円形盾へ封印したわけ♪」
「うわっ、むご・・・」
 「ううん、当然よぉ。 散々、人の身体嬲ちゃってくれたんだから」
「「・・・・・・」」
そのまま永遠に嬲られ続けた方がよっぽど平和だったのでは? と思ったのは
リュートのみならず、その主のライもである。 毎度ながら。
「でも、其処がまた可愛かったりするんだよな。 困った事に」
「はいぃぃっ!!?」
お、恐るべし、英雄(違う。
次は、いよいよ別の意味でリュート待望のシエル。
部屋には別に綺麗でも汚くもなく無骨簡潔に「シエル」とのみ。
ノックに反応なく、それでもライに従い入っていくと、当の黒猫娘がベットの上で
毎度洗いざらしシャツカットパンツ姿で太股ムチムチに丸まって眠り・・・
「シエル、邪魔するぞ」
 「ん。ん・・・(クアアアア」
猫耳をピッピッと振りつつ、寝惚け眼をクシクシと擦る姿は本当に猫・・・
しばし休題
 「私の武具をみせればいいんだな?」
「おう、頼む。」
 「私は問題ない。 ライが問題なければ・・・『獅子爪』だ」
とシエルが持ってきたのは三刃剣爪×2。 各々頑丈な造りの籠手の腕部は盾
拳部から剣爪が生え、それでも手は自由にもの掴める構造。
「剣爪もの銘刀であることは当然ですが、細工が丁寧で細かく・・・イイ仕事してますね」
「手前、シエルだからって胡麻すっちゃいないか?」
「何をいっているんですがっ!! 僕はそんな事しませんよ」
と言うリュートの米神にはツツ〜っと汗が・・・でも評価は本物である。
 「これ、随分前にライが鍛冶士の処へ送って新しくなった」
「あ〜〜、そういえばそうだったな・・・」
「???」
「いや、ウチは皆、一人の鍛冶士に面倒見てもらってるからな」
頑丈な作りにも関らず、細工(ギミック)は本当に細かい。
その特徴はシエルの三刃剣爪にも良く表れている。恐らく、以前のものと全く別物に・・・
何だかんだ言いつつ、シエルの得物も見終わり・・・
「さて、と・・・」
「もう、これで終わりですか?」
「んや、まだレイハが残ってる」
「え? レイハさんですか? 彼女、秘書では?」
「まぁ・・・これも百聞は一見にしかず(ニヤソ? 丁度もう、帰っているだろうから」
付き従い向かった先は丁寧に簡素で美しく「零葉」と書かれた部屋。
ノックに出迎えるのはお団子ヘアーに伊達眼鏡・スーツ姿の秘書そのもの。
その上に陣羽織を羽織っているのだが・・・違和感ない。
 「どうぞ、お入り下さい。」
促され二人は入り・・・見たものは、床の上に広げられた布の上に並べられた刃物等々。
「・・・・・・」
 「折角の機会なので刃物の整理をしようかと思いまして・・・」
「まっ、いいけどね」
ライとレイハを他所に、リュートは既に被り付き。
「これがレイハさんの主の得物ですね。 可也古いですが良く手入れされてる・・・」
 「『光影』『闇輝』。私の里でその為に鍛えられ伝わり、持って来たものです。
握りは幾度も造り代えられていますが、刃そのものは後何代ももつでしょう」
その刃は光の中よって造られた影の如く、輝く闇の如く・・・完全に夜に紛れてしまう。
鞘へ収めてもその音一つ聞こえないないのは、そのための抜いた事を悟らせないため。
他に目立つものといえば、無数に同じ型の重心は刃先にある小剣 クナイ。 
「これは・・・他のものと比べて随分と目劣りしますね」
 「元より使い捨てするモノですから」
「うわ、これで? 勿体無い・・・銃を持たれては如何ですかっ!!?」
妙案とばかりにその顔に浮かぶ笑み。 銃、古代の射撃兵器。
「それは俺も興味ある。 折角だから、君の『剣』も見せてくれ」
「ええ、いいですよ」
自分の武器を見せるのは戦士の誉である。 鍛冶士もまた然り・・・
処変わり、場所は屋敷裏。三人から離れた処に立てられたのは標的の丸太。
右手に『法皇』左手に『女教皇』。引く引金に轟音と共に放たれるのは剛弾に魔弾。
それは狙い誤らず命中に粉砕。結果に意気揚々の銃犬。 しかし、
 「音が大きすぎます。これでは隠密行動には向きませんね。
携帯性と攻撃力は申し分ありませんが・・・」
「そうですか・・・それは残念」
「折角だから俺に撃たせてくれないか? 意志で威力が変化する方を」
「見ただけでっ!!? どうぞ・・・」
真龍騎公の手に握られるのは『法皇』。具合を確かめつつ、リボルバに弾を込め
次の標的に向けて一発っ!!!  しかし、狙いはずれて端に。
「ふむ。まぁ最初はこんなものだろな」
更に弐発目、参発目。 弐発目は真ん中から少しずれ、参発目が的中。
そして四発目。込める気に標的が粉砕。砲身が白熱するほどの高威力弾で。
「すご・・・」
「こちとら元々気の扱いには慣れてるからな。君も慣れれば、この位撃てる」
熱を失わぬ『法皇』を受け取りアッチッチッなりながらホルスターへ。
「あとは、魔槍銃ブリューナクだけですが・・・撃ってみます?」
「勿論。リュート、君がいいならね。」
「どうぞ。でも、狙いは定めにくいですよ」
背後に携えていた魔槍銃を受け取り、ライはそれで片手で構えてみたり・・・
「・・・ふむ。」
気付き壱考に、相位昇化で銃口から光壁を貫くが如く変化する魔槍銃。否、もう神槍銃。
「ええっ!!?」
「これは俺の剣と同じ『神剣』だからな。俺に呼応したんだろう」
そして金色の龍眼変化に、天に向けて壱発。
傲っ!!!
と放たれた破壊光弾は具現化に光龍へ。 それは、そのまま天へ昇滅。
「・・・・・・僕達の時と弾が」
その主へ返されるブリューナクは相位降化に魔槍銃へ。
「まぁ、その辺りは俺が特別だから・・・。 ブリューナクは君でも気合を入れれば
『神剣』 んや『神槍銃』へ昇化してくれるだろうさ。 何せ、これの真の主は
君達二人なんだから・・・」
何であれ、この事で多く色々得るものがあったのは間違いなかった。
その頃・・・
「ん〜〜、遅いねぇ。折角、僕達の馴れ初めをはなせると思ったのに」
 「まぁ、カインったら・・・」
惚気いちゃつく美男女カップルを見下ろし、部屋の隅に飾られた四聖獣の武具
斧槍『凰翼』,爪長盾『龍爪』,全身完全装甲鎧『玄武甲』
がカンベンシテクレと言わんばかりに鈍い光を放っていた。
後で思い出し、ライとリュートは武具の説明以上に散々惚気話を
聞かされたのはいうまでもない。


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