弐章  「銃犬の旅」


空は絶好の快晴・・
眩しい光が草木を照らしている。正に天の恵みだ
・・っと言っても彼方の山には暗い暗雲が立ち込めているのだが・・

そんな中全く人通りのない街道を一組の男女が歩く。
街道は人の行き来があまりないのか草が生え放題で悪路とも言える
「今どこらへんになるのかな?」
男女の一人、獣人の少年が女性に聞く
丈夫そうな工房服、濃い青が特徴だが使いこまれており所々白くなっている
背中には白布で包まれた長い棒状の物が
「ヴィガルド近辺って感じじゃない?随分遠くまで来たものね」
地図片手に呟く女性
黒い流髪の少女、服装も黒革の短パン、胸元を黒い布で括っている。
こちらも肩に金属の棒を背負っているようだ
「まぁ、ここまで来るなんてはじめてだしね。でも晴れているからいいんじゃない?」
「リュート、良く見なさいよ。山の向こうに黒い雲があるわよ。直に雨じゃない?」
「あっ、ほんとだ・・。流石はシャン!」
「君って本当・・」
「鉱石馬鹿ね・・って?」
「わかっているなら言わさないで」
「は〜い!」
「馬鹿」
微笑みながら道を歩く二人・・

そこへ

「・・・・人がいなかったら魔物か」
突如立ち止まりため息をつきながらリュートが呟く
「いいんじゃないの?気がねなく殺せるってもんよ?」
そう言いながらシャンは背中の黒光のする棒を取り出す
「まぁ・・そうだけど・・。」
犬少年リュートは後を振り向きながら懐に手を突っ込み
銀色と緋色の拳銃を取り出す
その先には肉が腐り剥がれ落ちた狼
目はすでにないが確実にこちらに敵意を放っている
「はじめてみる種類だけど・・。ゾンビ?」
「さぁ・・。でも死んでも団体行動のようね」
あちらこちらでガサガサ騒がしいのを二人は感じ取っている
「じゃあ・・いこうか!」

ドン!ドン!!

空を裂く銃声とともに二丁の銃から火が吹く
ゾンビ犬はリュートに襲いかかろうとしていていたが光弾と銀弾に撃ちつらぬき
奇妙な鳴き声とともに動きがとまる
周囲はその光景を見ていたらしく、撃たれた瞬間草の間から一斉に飛びかかる!
「仲間思い・・みたいね・・・『シザーズ!』」
シャンがそう叫ぶとともに棒のが瞬時に大鎌へ・・。
重量感が漂う鎌なのだがシャンはそれをいとも簡単に振りまわし

疾!!

強烈な真一文字斬りを放つ。飛び出しだゾンビ犬も真っ二つにされた
その後も数匹ゾンビ犬が襲いかかったが二人は無傷のままそれを撃退・・
見事な手並みと言える
・・・・・・

「これで全部・・かな?でもアンデットなんてはじめてだよ」
「ネクロマンサーでもいるのかしら・・。でも久々に良い運動をしたわ」
鎌の刃を消し、大きく伸びをする
「どう?僕が改良をした『カラミティー』は?」
「良い感じね、刃も大きくなったし柄も軽くなった・・。
流石は名鍛冶師のリュートね♪」
「いやぁ、ははは・・。久々の自分の得物を使うんだからウンと使いやすくしないとね」
「そうねぇ、いつも剣だの槍だのでカラミティー持っていなかったし・・。
さっ、日が暮れるまでに街にいきましょう?」
そういうとシャンが先にトコトコ歩き出す
「わかったよ・・でも、こんなゾンビ犬がでてくるんじゃまともな街なんてないんじゃないかな?」
「しょうがないわよ、廃村でもあったら雨風しのげるしね」
「う〜ん、そうだね。じゃあ行こうか」
銃を軽くしまい二人は仲良さそうに手をつなぎながら街道を進む
向かう先には暗雲が立ちこめていた


その日の夕暮れ、黒い雲のために周囲は余計に暗くなっている時に
二人は山の中腹にある村に到着した
・・・彼らの予想とは裏腹に村は賑わっており酒場にも人が沢山いた
「あんだけ寂れた街道だったのに打って変わって・・ね」
酒場の一席に座るシャン、すでに空き席は彼らの座ったテーブルしかなく
狭いながらもワイワイガヤガヤしている
「前の街と仲が悪くて遮断しているとかじゃないのかな?」
シャンと向かい合うように座る。
椅子は4つあるのだが残りの二つは彼らの荷物をとりあえず
置いているようだ
「色々あるのね。でも宿も私達でギリギリだったし・・運がよかったわ♪」

ここは1Fは酒場として、そして2Fは宿として運営している。
冒険者や交易隊など一夜だけ泊まる人が好むスタイルで街道沿いの街によく見かける
二人は食事を頼むついでに宿泊の予約も入れたようだ

「日頃の行いだね!布団で寝れるのも何日ぶりか・・」
「全くね〜、貴方も鍛冶師であり錬金術師なら持ち運び可能なベットを作りなさいよ」
「そっ、それはどちらかと言うと大工じゃないかな・・」
「それもそうね、うふふふ」
何気に突っ込むリュート、それに笑うシャン。
性奴だった時とは違い今では笑顔も見せ髪を伸ばしたり女の子をしている
対し全く変わらないリュート。それが彼の持ち味かもしれない・・

「はい、おまたせ!酒はいいのかい?」

そんな中に一通り酒のつまみのような揚げ物を持ってくるウェイトレス
・・っというか「おかみさん」。
ごつい体格でお団子頭の気前が良さそうな女性だ
「ええっ、一応は未成年・・かもしれないので」
「僕もお酒はだめなんで」
「そうかい・・、あっ、あんた達相席いいかい?今来たあの子達も二人なんだけどさ・・」
ちらっと酒場の入り口を見るおかみさん。
そこには金髪の少年と緋色の瞳が特徴の銀色の獣人少女がキョロキョロしている
見たところ傭兵の装備をしている
「ええっ、構いませんよ。見たところ僕達と同じくらいですしね♪」
「そうかい、ありがと!あんた達!・・そう!あんた達だよ!ここ空いたから!!」
元気良く声をかけるおかみさん、少年少女もそれに気付き申し訳なさそうに近づいてくる

「すみません、わざわざ・・」
金髪少年が頭をぺコリと下げる、獣人少女は後ろで何も言わずについている
「いえいえ、あっ、どうぞ。」
荷物を避けて席を空けるリュート。
お互いが向かい合うような形で食事となった
「山中なのに意外に混んでますよね〜
僕達も後少し遅かったら今晩野宿ですよ」
なんともなしに緊張するのでリュートが世間話でも・・っと切り出す
「ここは近くで最近新たに遺跡が見つかったって噂になっていたから、
それで冒険者が集まったんだと思いますよ?」
金髪の少年が少し笑いながら応える
「へぇ・・、そうなの。あっ、どうぞ?」
少年とは違い獣人少女は物静かに皿に盛られた揚げ物を見ていたので
シャンは快く皿を中央に置く
「わぅ、ありがと!」
少女は短く礼をして食べ物に手をつける
「ああっ、ルナ!いきなり食べるなんて・・」
「ディ この人 良いって言った」
ディといわれた少年に対してはやけに傲慢になるルナといわれた少女
どうやらこれが彼らの日常会話のような感じだ
「いいですよ。でも君達もその遺跡の調査に・・?」
「まぁ・・そんなところです。貴方達は?」
「私達は〜、そうねぇ。行く当てのない旅・・っとしか言いようがないわね。全てはこの子しだい」
軽くリュートの頭を小突くシャン
「そう言う事で・・。でも遺跡かぁ・・。珍しい鉱石がありそうだね!行く?シャン?」
「そういう行き当たりばったりなのは止めなさい。
だいたい遺跡調査しているのならもうめぼしいものはないんじゃないの?」
油で揚げた芋を軽く食べながらシャン、
ゴタゴタに巻きこまれるのは嫌・・っと顔が言っている
「あう・・、それもそうか。」
「ふぅん・・。まぁあまり良い噂がない遺跡なので近寄らないほうがいいですよ。
魔物もわんさかでるらしいですし・・。
あっ、遅くなりましたけど僕はディ。彼女はルナです。よろしくおねがいします」
隣で骨付き肉にかぶりついているルナに軽く触りながら挨拶をするディ
「ああっ、僕はリュート=ボウマン。」
「私はシャンよ。よろしく、ディ君」
「はい。ほらっ、ルナも・・」
「よろしく リュート シャン」
片言の言葉で挨拶するルナ、どちらかというと食べる事に集中しているようだ
「まぁ、せっかく旅の出会いなんだから堅苦しい事はヌキにして食事にありつこうよ♪
干肉に飽きてきたところだし」
「リュート、肉だけでなく野菜も食べなさい?」
「あう・・、犬人に野菜は不要だって」
「また君はそう言うヘリクツを・・はい!」
そう言うとシャンは盛りつけてある野菜をバランス良く取りだしリュートの前に置く
「ノルマよ?ちゃんと食べないと酷いんだから」
「シャン〜・・」
とほほ・・っと言った感じのリュート、4人はしばし暖かい食事を堪能した


そして・・

「悪いですね・・。部屋まで一緒になって・・」
リュート達が泊まる部屋にディとルナも入ってくる
世間話をしていて彼らが今晩は野宿だと聞いて
リュートが一緒の部屋に泊まらないかと誘ったのだ
これにはシャンも驚いたが彼のお人好しは今回に始まったことでもないので
反論するわけでもなくそのまま・・っということだ
「いやいや、野宿ってのもたまにはいいもんだけど毎日になると・・ねぇ」
「全くで・・、まぁルナはどこででも寝れるけど・・」
「ディ うるさい(カプ)」
ディの腕を軽く噛むルナ、それでも慣れているのかディはまったく無反応だ
「ははっ、仲が良いようですね。じゃあ僕とシャンはこのベットに寝るから・・
ディ君とルナちゃんはこっちに寝ればいいね?」
「・・・、狭くない?」
「そっかな?寄れば大丈夫だよ!」
男と女が同じベットで寝るというのに全然普通のリュート。
まぁそうなってもいいような関係なのだが人前ということもありシャンは恥ずかしいようだ
「あっ、じゃあ僕はソファで寝ます。ルナはベットで寝なよ?」
「んっ・・(クアアアア)」
「ううん、人それぞれだね。じゃあ寝る前に〜♪」

部屋の小さな机に懐から二丁の拳銃を取り出すリュート
昼間の戦闘での残弾確認とメンテを行うのだ。弾はシャンがいつもやってくれており
リュートはもっぱらバラして組みたてる・・っという具合だ
「これ 何?」
「文献でしか読んだ事ないけど・・古代兵器の『銃』・・じゃないかな?」
机に置かれた銀と緋色の拳銃をまじまじと見つめるディが言う
「よく知ってますね〜、そうです。まぁ文献たよりに再現した代物ですよ♪」
「へぇ〜、そうなんですか」
「ディ じゅうって?」
「ああっ、簡単に言ったら鉄の弾を飛ばす機械だよ。でもよく再現できましたね」
「まぁ、僕がはじめてってわけでもなかったので・・」
苦笑しながら頭を掻くリュート、そうこうしている間に手早く銃を解体してチェックをしている
「でもディ君も知っているなんて・・。銃ってそんなに有名だったの?」
「ええっ、僕も歴史の勉強で習いましたけれども
古代ではかなりポピュラーな武器だったみたいですね。
武術などとは違って誰でも簡単に人を殺せるって書いてありました」
「そうだね、簡単に言ったらこの引き金を引いたらそれでいいんだし・・」
瞬く間にチェックを終わり組みたてに入るリュート、トリガーを見ながら少し悲しそうに呟く
「ふぅん・・。でもそんなものならなんで途絶えたのかしら?」
「それは、古代の都市はこの銃のために壊滅したんだよ。
ディ君も言ったとおり誰でも簡単に殺せるからね。
それが国中に広まったから大変なことになったんだ。返り血を浴びることなく
殺せる事にしだいに罪悪感が薄れて殺戮に継ぐ殺戮・・それで別の大陸の都市は全壊して
それを見たほかの都市は『銃』の危険性に気付き封印したんだよ。」
「そう、だから歴史書の中には『銃』については
かなり悪質なものだって書かれてあり後世にその教訓を生かそうとしたのが伺えますね。
・・でも複製できたってことは設計図も残っていたみたいですが・・」
気が合うのか・・。まるでコンビのようにテンポ良くしゃべるディとリュート
元々一般知識のないシャンはただ頷いてそのお話を聞いている
ルナは全く興味がなくベットにクテ〜っと・・

しかし
「!! ディ!」
突如ルナが飛び起き窓の方を見る
「・・出番、かな?」
ルナの叫びに何か察知したようなディ。途端に真剣な顔つきになる
「??・・あっ、警報機が作動している」
今度はリュート、荷物袋の一部が赤く点滅している。
取り出してみると拳ぐらいの大きさの魔石だ
「警報機・・?」
「ああっ、大気中の魔素の異常を感じたら発光するように作ったんだ。
光の強さからして遠くだけど確実に異常だね・・。」
「便利なものを持っているんですね・・」
「リュートは鍛冶師であり、錬金術師だからね・・。
でもこれってどちらかと言うと発明家じゃないの・・?」
「まぁそれは置いておいて。知った以上はそのまま寝れないし・・、真相を確かめようかな!」
そう言うとリュートは立ちあがり置いてあったあの棒状の物を取りだし準備をする
「え・・、でも危険なことに・・」
「いいのよ、ディ君。貴方達もどうやら動くみたいだし・・。」
「シャンさん・・」
「まっ、ともかく行こう!ルナちゃん、詳しい状況ってわかる?」
「わん!ついてこい!」
そう言うとルナは元気よく窓から飛び出した・・
「・・・僕達は階段からいきましょうね。」
「・・いいの?」
「お行儀が悪いのはいけないって言っているんですけどねぇ・・」
ため息一つ、ディは部屋を飛び出していった・・



ルナが駆けてきたのは街の出口・・。
街はにぎわっているが流石にここいらになると人通りは少ない
「この先・・ですね」
「がう・・」
暗く延びる道の先を静かに見るディとルナ
「確かに警報機の反応が強くなってきている・・。この先って・・」
「遺跡への道みたいね、看板があるわよ」
街の門に大きく『遺跡はこちら→』という看板が立ってあるのをシャンが気付く
「じゃあ・・予想は間違いない・・か」
「ん・・・」
「予想・・?あっ、人が来るよ!」
闇の中からフラフラと歩いてくる人・・
見る限りには傭兵のような格好をしておりすこしうつむいている
「ちょっと・・どうしたの・・?」
事情を聞こうとシャンが傭兵に近寄るのだが・・
「シャンさん!危ない!」
傭兵は有無を言わずいきなりシャンに斬りかかる!

キィン!

「な・・・何?この人・・、目が死んでいる」
なんとかその攻撃をカラミティで受けとめる。
剣も業物なのだが振り方や持ち方は素人そのモノだ

「がう!!」

唖然とするシャンの背中をルナが台にして飛び起き
何時の間にか手には彼女の身長を越えるほどの大太刀が・・
そして・・

斬!!!

問答無用に傭兵を真っ二つにする・・
「ディ!」
「はい!」
身体を半分切断されてもなお動く傭兵にルナが鋭くディへと叫ぶ
ディもわかっているらしく素早く光の矢を放ち傭兵の肉片にぶつける
「・・・・」
魔法の矢を受けても無言のままの傭兵、しかし動きがにぶくなりやがて発火して消えていった
「・・・なっ、なんなの・・、これ・・」
「生屍・・それも強化されたものですね・・。かなりしぶとくなっている」
「街道であったゾンビ犬といい・・、物騒な事だね。でもこの人・・遺跡のほうから来た・・?」
「多分、遺跡に原因があるのでしょう、ですが・・これは少し手間ですね。」
焼けて灰になった傭兵を見ながらディが呟く
「そうだね、街の冒険者さん達には到底対処できないだろうし・・。街の守りもきちんとしないと・・」
「でも遺跡に行った冒険者が全部こうなった可能性もあるんでしょ?
街を守りながら遺跡調査なんてできるの・・?」
「結界を張れば対処できますけど・・。街全体を覆うとなれば時間がかかりますね・・。
それに魔力の消耗も大きいですし・・」
「♪あっ、それなら良いものがあるよ!」
耳をピョコンと立てて背負っていた棒のようなものを取り出す
丁寧に巻かれた白い布を取り出すとそこには長身の銃が・・
「銃・・こんな長い物があるなんて・・」
これにはディもはじめて見るもののようで目を丸くして驚く
「へへっ、魔槍銃ブリューナク。僕のお気に入り・・かな・・じゃあ!」
鞄から何かの碧魔石を取りだし装弾、そして街の上空に向けて発射する!


パァァァァァァン・・

小さな破裂音とともに魔石は砕け小さな粒子が街を覆うように飛散する
「ディ君。魔法が使えるならあそこに結界になるような魔法をお願い!」
「わ・・わかりました・・じゃあ!」
軽く詠唱し先ほどと同じ光の矢を粒子の中に放つ・・
そうすると・・、
「・・・なるほど、魔石の粒子間を光のエネルギーが耐えず反射して街を覆う結界とするのですか・・」
「そう!粒子となったら空気よりも少し軽い重量にしたから中々地には落ちない・・
朝まで街を覆ってくれるよ」
ものすごい速さで反射を繰り返す光、やがて軌道は見えなくなり粒子が少し光る程度におさまった
「なんか・・難しい話ね・・」
「わう・・」

「じゃあ遺跡に向かおうか!」
「でも・・先に出迎えがあるみたいだね・・」
結構気が合う二人、遺跡へと足を進めようとしたが

ザッ・・ザッ・・

暗闇から姿を見せる傭兵達・・動きがふらついているところを見ると・・
「全滅・・みたいね」
「・・・どうせ街には入れないんだし・・殲滅しながら突き進もう!行くよ!ルナ!」
「がう!!!」
「じゃあ僕達も牽制しながら行こう!シャン!ルナと並んで斬りこんで!」
「了解!いくわよ!ルナちゃん!『シザーズ』!」
液体の魔鎌が姿を現し突っ込むシャン!
ルナの大太刀とシャンの魔鎌、対多数戦に優れる刃が生屍を切り刻む・・
「僕らは後方援護・・だね。後始末は任せて突っ走って!」
リュートが二丁拳銃を立て続けに撃ちながら二人に叫ぶ

「わん!任せろ!」
「遺跡までの道案内ってわけね!」

「息が合ってますね〜、じゃあ僕達も頑張りましょう!」
「そうだね!」
シャン&ルナが直線で道を作り、ディ&リュートが側面からの敵を迎撃。
闇が支配する山道を銃の炎とディの光の矢が照らした

いくら多数とはいえ屍と化した傭兵達は動きが鈍く戦闘能力としてはかなり低い・・のだが
その分タフで胴を切り払っても動いている。
しかしそこは今まで数々の修羅場を潜り抜けた者達。
全員を相手にはせずに女性人は真一文字に生屍を切断、それでも襲いかかってくる
ものを男性陣が焼却処分するという役割分担で斬りぬけていく
・・・・
やがて一行は陰湿な空気が漂う洞穴に辿りついた
「どうやら・・、傭兵達は全部片付けたみたいだね・・」
付近からあの生気のない足音が消えて安心するリュート
「いくらもう人間じゃないって言っても・・、あまりいい気はしないわね」
「くぅん・・・」
「それは仕方ありませんよ。・・元凶を倒さない限り・・」
全員ここまでは準備運動程度のようでまだまだ余裕のようだ・・
「でもここが遺跡ねぇ。なんか霧も出てきたみたいだし、あんまり良いところじゃないわね」
「・・・・」
「んっ?ディ君どうしたの?」
「いえ・・、ともかく探索しましょう。護衛にこれを使いましょうか」
そう言いながらディは手をかざし宙に宝石のように綺麗な魔石を表せる
リュートが作り出すモノに比べると正しく宝石で美しい
それが見る見る内に剣と盾を持つ魔装機兵(レギオン)へと姿を変える
「す・・すごい!魔石でそんなものができるなんて!」
「リュートさんのは錬金技術に鍛冶法を組み込んだものが主流ですからね。
僕のほうは錬金石に魔導を組みこむのが主ですので・・。
ともかく、出口の確保はレギオンに任せましょう・・僕達は中へ・・」
そう言うとディは気合いを込めて中に入る・・。
「・・何があるかはわかんないけど・・、物騒な状況には変わらないか・・」
静かに一同は中に入る・・
周囲には濃い霧が立ちこめていた

洞穴内部は正しく洞穴であり遺跡とは思えない状況
鍾乳石が至るところ垂れており妙に水気が多い
「これが・・遺跡?」
「っというかこの洞穴の先が遺跡につながっているんだろうね・・。
でも・・警報機がこれだけ赤く鳴っているなんて・・」
リュートの鞄の一部が赤く光っている・・、それだけ危険なところなのだろう
そして・・
「シッ・・来る!」
一人静かに辺りを見ていたルナが突然叫ぶ

ボコ・・

不意に土の中から手が出てきて腐乱した人間のようなものが次々と這い出てくる
「躯喰鬼・・、それもこんなに・・」
早速魔法を詠唱し出すディ
ルナとシャンはどこから現れるかわからない敵に少しためらいながらも近づいてくる
躯喰鬼から切り払う
「・・ここは僕が適任・・だね。みんな下がって!」
そう言うと颯爽と二丁の拳銃『法皇』と『女教皇』を取りだし構える
「確かにルナちゃんの刀とか私の鎌だと地面削るだけ見たいだし・・お任せね」
「了解!ではでは・・撃ちまくり天国へようこそ!!」

ドン!ドン!ドン!!ドン!!ドン!!!

轟!

まるで踊るように銃を撃ち続けるリュート、
多少距離が離れている敵には魔槍銃ブリューナクへ素早く持ち替え魔光弾を放つ!
地から生えてくる躯喰鬼はまるでもぐら叩きにでも合うかのように次々と撃ち倒されていった
・・・・
「まっ、こんなところかな?」
素早くリロードをしたリュートが銃口から出る煙をフッと吹きながら呟く
「さっすがね♪」
「ディ 役立たず」
「僕は足場に結界張っていたんだよ、いきなり足元に現れたら危ないだろ?」
「なるほど、ディ君って頭の回転がいいのね」
「・・まぁ、結局は見せ場をリュートさんへ譲っただけなんですが・・ね」
苦笑いのディ・・しかしその顔も一瞬で引き締まる
今度は天上・・さらには洞穴の奥から
さっきとは比べ物にならないくらいの躯喰鬼、傭兵の生屍が出てくる・・
さらにはリュートたちが街道で出くわしたゾンビ犬も・・
「小休止終わりって事・・?これだけいると弾のリロードがおっつかない・・」
「だったら接近して斬るまでよ!」
「駄目だシャンさん!こんな足場の悪いところでもし足を滑らしたら一気に・・」
「でも・・」
「ここは、・・レギオンで対抗しつつ僕とリュートさんで攻撃します。
ルナとシャンさんは討ち逃した敵を切り払ってください!」
そう言いながらディは洞穴入り口で見せた魔石を見せ放り投げる・・
ディ達から離れた処でレギオンと化する魔石。
計3体のソレは一つは剣と盾を持つタイプ、
一つは長槍を持ち装甲が厚いタイプ
一つは両手が武器碗となり弓による援護が専門となるタイプ
三体のレギオンは発動してすぐに陣を組み、躯喰鬼に迎え撃つ
「僕が造った中でも結構な自信作だ。そう簡単に落とされはしない!」
そういいながら光の矢を放ちレギオンの援護をするディ
しかし・・

・・アリガタイ・・・

不意に洞穴に響く男とも女とも取れぬ声・・
「!!!! ディ!!」
「ついにご対面・・って処ですか」
ルナの狼狽にディも少し汗をかきながら応える・・
見ればレギオン達の正面に霧が集まって顔を成しているのだ
「あの霧がゾンビ達の主だったってことなの!?」
「そう・・、あれが冒険者達の命を奪い抜け殻を操っていた者・・ヴァリゴラです」
「この!」
試しに『法皇』の弾丸を撃ち込んでみるが全く手応えがない
「相手は気体です。ここはレギオン達と連携して魔法で・・えっ!!?」
ディが会話の最中に驚く・・
霧の一部がレギオンの中に潜りこみ、レギオンが不規則な動きを見せているのだ・・
そして・・

シュッ!

弓兵が矢をこちらに向けて放つ!
「このっ!・・乗っ取られたって事・・?」
矢を『カラミティ』で払いのけながらシャンが呟く
「・・・・・そう・・ですね。こうなってはかなり不利・・」
「だったら、銃で!」

チュイン!チュイン!

法皇の弾丸をレギオン達はものともせずにこちらに向かう。
それに続くように躯喰鬼達もゆっくりとディ達へ近づく
・・宙に浮ぶ霧の顔はせせら笑うようにこちらを見、何もしゃべらない
「・・あの魔装機兵は装甲を強化したものばかりです。生半可な攻撃では対処できません。
加えてこの敵の量・・僕の魔法で対処できるか・・」
「ディ 一旦引く!」
歯を食いしばりながらルナが叫ぶ
「そうですね、このまま戦うのは危険です、一時退却しましょう!」
「・・わかった。リュート、敵を怯ませるのはよろしく!」
「任せて!じゃあディ君、1.2.3で出口に走って!」
シャンの言葉を理解しリュートはブリューナクへと持ち替え
金色の装飾がされた紅い弾を装弾している
「わかりました・・1・・・」

「2」

「3!いくわよ!」
ディ、ルナ、シャンが一斉に走り出す!
それを負う様に躯喰鬼達がレギオンを追い越し押し迫る
「フラムタスクカノン!シュート!」
リュートがトリガーを引くと同時にブリューナクの銃口から紅い閃光が走り躯喰鬼を消滅させていく
その衝撃にリュートも吹き飛ばされる・・が

ガシッ!
「良い位置ね♪引くわよ!」
飛ばされるリュートをシャンが掴みそのまま一気に外へ・・
紅い閃光が消えたあの空間には3体の魔装機兵とあの霧の顔だけが残っていた・・


・・・・・・
「はぁはぁ・・、ここまでくれば一安心かな」
洞穴の入り口。あれから追撃もなく4人は無事に生還した
そこにはあのレギオンが正常に作動して周囲を見張っている
「でも、何で追ってこないの?」
「収穫だあったからですよ。
それに、まだあれは結界で守られている僕達に直で襲いかかる力はないようでしたしね・・」
レギオンをしまいながら悔しそうに言うディ。
彼にしてみればあそこでケリをつけるつもりだったのだろう
「収穫・・あのレギオンか・・。厄介なのが敵についたみたいだね・・街は大丈夫かな・・」
「それは大丈夫でしょう・・まだ手先を使うぐらいしか動けないはず。
あのレギオンだって歩かせるのがやっとでしょう」
「そう・・、でもどうする?このままだと危険よ?」
「そうだね〜。残り弾数も少ないし・・一旦街に帰るしかないんじゃないかな?」
「その前に、この入り口を封印しておきましょう。
あいつらの動きを封じる程度の結界ならすぐに張れます・・。
本腰をあげてきたのなら話は変わりますが・・」
そう言いながらディは洞穴入り口に立ち印を切り始める
「でも・・、貴方達妙にあの霧について知っていそうだったわね・・。何かあるの・・?」
「ディ・・」
「・・・わかっているよ、ルナ。・・・・よし、これでしばらくは安心だ。」
「ディ君。君達は・・」
「多少あの霧の魔物について知る者達・・ですよ。本性は少し勘弁してもらいたいのですが・・」
「なるほど・・、まぁそこいらは詮索無用ってことね」
「ありがとうございます。
それで、どうも僕達だけでは手に負えない事態になってしまったようです。
この一件、解決まで協力してくれませんか?」
「何言っているんだよ、ディ君。僕達もここまで見ておいて「さようなら」ってできないしね。
・・できる限りのことは手伝うよ」
「右に同じ、これも何かの縁だしね」
「・・ありがとうございます」
身なりを整え頭を下げるディ。彼らの申し出が心底ありがたいものなのだろう
「わう リュート シャン よろしく!」
「改めてよろしくね、ルナちゃん」
「じゃあ一旦街に戻ろうか。そこであの化け物の情報とか聞こう・・このままでも大丈夫なんだろう?」
「ええっ、しばらく・・ですがね。では行きましょう・・」
洞穴を走っただけにドロだらけの4人とにかく一時戦略的撤退・・

結界が張られ入り口に無数の光の糸が交差する中
あの霧がまるで彼らを見ているように集まっていた・・


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