chapter 6 「female guardian」


マーターの下層部は住居スペースとして扱われ上層部は情報収集や作戦会議を行うメインルーム、

武器庫など活動を行う設備が整えられている

ライオット達は下層、蟻の巣のように複雑に設置された部屋を借りてその後メインルームへと移動した。

因みに麗華の部屋は最下層に・・、ターゲットとされているために油断をしてはいけないと言うヘンドリクセンの提案であった



「さて、現状俺達と小競り合いを起こしているのは夢幻の下部組織と思われる。

プロのアサシン組織があんだけ無駄弾撃ったりしないからな」



メインルーム、作戦会議室にティーゲル、ライオット、フォックスが集められヘンドリクセンが説明をし出す。

彼の隣にはそれの補佐をするためかエドが端末を扱っていた。

他の面々はそれぞれの行動をしておりアザリアはあのまま自室にこもっている

作戦会議室は無機質なコンクリートの岩肌に囲まれた質素な物で中央に大きなテーブル、

壁には大型のディスプレイがかけられており端末と接続されている


「確かに、あれは夢幻のやり方ではありませんね・・乱暴過ぎます」

「まぁアサシンって感じじゃないしなぁ・・。

でっ、調べた結果なんだが連中は『XYZ』って言う余所の都市で暴れていたギャング団だって事がわかっている」

説明とともエドが端末を触りディスプレイにその情報を映し出す

そこには拠点地、その人数や行動パターンなど詳細な分析が行われていた

「・・ほぉ、大した数だな・・」

「だからこそ、ここに移動してきたんだろう。遠征のつもりでここに来て夢幻に『喰われた』ってところか。

まぁ捨て駒にするには厄介な連中だ・・武装なども見ただろう?」

「AK74やあの装甲車両ですね」

「あぁ、あの車の方は俺達で『トーチカ』と呼んでいる。一台回収したがまぁすごい装甲だ・・軍用車両よりも強固じゃないかな?」

「だからバズーカで吹っ飛ばした訳だな。だが・・その車の出所などはわかるのか?」

「調べたところ、裏マーケットではそのような物は出回っていませんでした。恐らくはXYZの自作だと思いますが・・」

車両データを写し出しながらエドが補足を行う。

トーチカと呼ばれる装甲車両の内部や外装の映像がディスプレイに移りその異様さがよくわかる


「これは〜、自作って割にはすごい出来ね・・」

口笛を吹いてフォックスが感心する、軍関係者ゆえにその構造にはわかるようだ

だが素人目に見てもドアなどの分厚さに驚く事は間違いない

「連中が作ったのか、夢幻からの支給品なのかはとりあえずわからんが・・これが3,4台こられると重火器がないと対処できないな」

「・・あのAKもかなりカスタマイズされていましたしね・・」

ライオットが敵から奪ったアサルトライフル、それはマーターの解析員に渡され分析が行われている

「あぁ、見る感じAK74ーAを独自にカスタマイズされた物だな。

・・まぁ名ライフルって奴だ。亜種など腐るほどあるだろうが・・」

「旧ロシア製として有名だものね、故障も少ないし扱いやすい。

もはやロシアって国が滅んだのに銃だけが今も健在っていうのは・・皮肉ねぇ」

「お前にしてはセンチメンタルだな・・。

まぁAKライフルは製造量が多い分出元がわかりにくい、それ故テロリストなどが愛用するライフルとしても有名だ」

にやりと笑いながらヘンドリクセンは手を挙げエドに指示を出す

・・それと同時に端末からAKライフルの解析資料を映し出した

「これは・・」

「AK74伝統である5.45mmx39弾使用はそのまま

発射炎を抑えるために大型化していたフラッシュハイダーを改良し短くしたA型よりもさらに銃身を短くしている、

アサルトライフルらしい小回りの良さが特徴だ。

それに・・軽量化もされていた、ライオット君にはわからなかっただろうけどな」

「そうですね・・、でももって扱いやすい感覚は伝わりました」

「詳しく分解していないのでまだわかりかねますが・・現状態だけでもかなりデリケートなカスタマイズです。

街中で数に物を言わせる組織がチューンしたとは思えないですね」

ライオットの方を振り向きながらそう言うエド、銃知識においてもかなり豊富なようで優秀な人材だというのが伺える

「どこぞで買った代物にしても分不相応だな・・、まぁ・・ここまでくると夢幻からの援助と見て間違いなさそうか」

ティーゲルが顎髭を摩りながら静かに笑う

「まぁ、XYZってのはとどのつまりは夢幻の噛ませ犬&捨て駒ってところね」

「だな・・、おまけに何か脅かされているのか連中、必死で仕掛けてくる・・下部組織とは言え油断しないほうがいいな」

「・・敵の事はこのぐらいでいいだろう、それよりも・・俺としてはこの組織の方で聞きたいことがある」

「そうそう、私もね」

ティーゲルとフォックスが知りたい事・・それはヘンドリクセンも感づいている様子で苦笑いを浮かべた

その様子だけでもかなり食えない人間だということがライオットにもわかる

「・・アザリアの事か?」

「当然よ、あんなお子様が頭で命の張り合いをしている・・その意味を知っておかないと協力しにくいってものよ」

「それに、お前がここに属している訳もな」

「やれやれ・・、やっぱ言わんとだめか。俺がここに属しているのは・・まぁ、前頭領が俺の恩人だったからだ

軍からお払い箱になった俺はその人の誘いがあって協力するようになったんだよ」

「へぇ・・、だから急に行方不明になったのね」

「あぁ、裏組織に属するのに周りに言いふらす訳にもいかないだろ?」

「お前らしい・・、でっ、あの子供についてはどうなんだ?」

「事情は簡単さ、アザリアはその前頭領の娘だ。前頭領が奇形ES者に殺害されたのを機に頭領になったのさ・・復讐心に燃えながらな」

「・・正気?」

「ここにいる奴は皆前頭領を信頼している・・当然その子もだ

そしてあいつは奇形ES者の殺害に取り付かれ放っておくと銃器を持って徘徊しかねない。・・それならどうする?」

激しい気性のアザリア、ヘンドリクセンが大げさに説明しているように見えるのだが

彼女と会った事がある者なら決して大げさではない事がわかる

「それほどまでに・・」

「あぁ、放っておくわけにもいかない、監視するにしても限度がある・・それなら親父さんの後を継ぎ頭にするのが一番だって事さ」

「・・無謀ね、死ぬ確率高いわよ?」

「そりゃな。まだ銃を持って日が浅いが必死に敵を倒そうと前にばかり出る、手を焼いてしょうがないんだが・・こうするしかないんだよ。

まぁせめて一般人に見せるためにああいうドレスを着せているんだがなぁ」

どうやら黒地のゴスロリドレスはアザリアの趣味ではないらしい・・

「で・・守り切る自信はあるのか?」

「ある・・っとは言い切れないな。戦場に出る以上生い立ちは関係ない、誰にでも弾は飛んでくるからな・・・

だが、無理やり普通の生活を強要させるよりかは良いと思っている」

「・・やれやれ・・」

「まっ、そんな訳で一つ頼むよ・・」

「いいだろう、まぁ・・その衣装を身に包むつもりはないがな」

やや呆れ気味なティーゲル、煙草を取り出し火をつけて一服を堪能する・・

ここが地下なのだがそれに対し文句を言う者は一人もいなかった


・・・・・・・・・・・


秘密組織マーターと協力するようになったライオット達

しかしすぐに何かをやらなければいけないほど事態は表面化されておらずもっぱら情報収集などが彼らの任務となった。

夢幻の足がかり、XYZの動向に加えヘンドリクセンはライオット達が襲撃にあった際に治安警察がこなかった点をも調査対象にし行動を開始している

フォックスは彼らとは別に独自の情報網を使い単独行動をし、ティーゲルはヘンドリクセンと行動を共にしている

ライオットはと言うと麗華の世話をしながらもこれからの戦いに備え少しでも戦力になるように射撃場に篭る機会が多くなった。



ドォン!ドォン!


地下射撃場にて愛用のマグナムを撃つライオット・・、情報機器だけでなく火器に対しての設備も完備されている

施設故に射撃場ももちろん兼ね備えている。

ウルムナフ製のマグナムはかなり拘ったチューンをされているが通常のマグナム弾も装弾でき、

彼はこの設備にある全てのマグナム弾を撃ちつくすかの如くな勢いでターゲットを射続けた

「ふぅ・・」

イヤープロテクターを外し軽く息をつく、本格的な戦闘に備えティーゲルやフォックス、

何よりもヘンドリクセンに射撃の手ほどきを受けその成果は徐々に出ている

その上達ぶりは彼らの教え方がうまいのは当然の事ながら何よりもライオット自身の努力の賜物とも言える。

硝煙を体にしみこませんばかりに撃ちまくる、自分の銃を自分の手に馴染ませその狙いは完璧にさせるために・・

「これでレーザーポインタを併用すれば・・」

うわ言のように呟き愛銃を見つめる、外れ弾は一つもなく極力心臓部を狙いそれが間に合わない場合は瞬時に肩などに狙いを切り替える

動きとしては抜群と言え十分実戦に通用するレベルまで高めたと言える

「奇形ES者がどんな物かはわからないけど・・急所をこの38口径で射抜けば無事では済まない筈だ。これで・・お嬢さんを・・」

仕えるべき主を思い改めてマグナムを握り締めるライオット

その時・・



「・・・・・・」


いつもながらの仏頂面でアザリアが射撃場に入ってきた。あれ以来ライオットは彼女と碌に話をしていなくかなり気まずい空気が流れる

「・・終わったの・・?」

睨みながら尋ねるアザリア、少女ながらにその威圧はすでに立派な物で思わずライオットはたじろいでしまう・・

「あ・・もう少し撃ちたいかな・・っと思っているんだけど・・」

「そう・・」

ブスっとしたままそのまま壁に持たれるアザリア、

文句を言わないがこちらを睨んでいるようにも思えてライオットは軽く冷たい汗を流す・・

だが向こうが何も言わない以上こちらから声をかけ辛く、気を取り直して弾を込めていく

「・・スゥ・・」

無能と呼ばれても暗殺者、一度集中し出すと周りの事は見えなくなりただ目の前から現れるターゲットを射抜くことに気配を集中させる

そして・・


ドォンドォンドォン!!


両手でしっかりと構えマグナムから火が噴く、ここ数日ずっと同じ事を繰り返しただけに結果は上々・・

未だ大型拳銃特有の衝撃に手を痺れる事もあるが狙いは正確、ターゲットの急所近くを射抜いている

「・・よし・・」

ようやく自分が納得できる命中になり思わず安堵の息を漏らすライオット・・

だが・・

「・・・・・・うるさい・・」

ふと後ろから聞こえるアザリアの声・・振り返ってみたら彼女は耳を手で塞いで恨めしそうにこちらを睨んでいた

「えっ!?あ・・イヤープロテクター・・してなかったの!?」

「する前に撃ったじゃない」

「ご、ごめん。あの・・撃たないの?」

「あんたがいなくなったら撃つ」

思いっきり嫌われている感にそれに慣れていないライオットはどうすればいいのかかなり焦る・・

「あ・・でも僕、薬莢とかの後片付けがあるからさ。ほら・・他のレーンもあるんだし・・」

「・・・」

「いや・・ははははは・・」

気迫に圧されるライオット、我ながら情けないと思いつつも笑う事しかできない

「わかったわよ・・」

ブスっとしながらイヤープロテクターを装着するアザリア、

その様子を見てライオットはホッと胸を撫で下ろし後片付けを開始した。

彼の人柄というべきか、射撃を行った後はきちんと後片付けをして自分の得物の状態も確認しておく。

彼も世話になっている人物・・

その身分をわきまえ自分の身の回りの事はきちんとしておかなければならないと毎回こうして掃除をしているのだ


パンパンパン!


台に置かれたマグナム弾のケースを締まっていると隣でアザリアが射撃を開始した

(・・あれ・・?)

必死になって撃つアザリアの姿、それにライオットは疑問を浮かぶ

彼女が持っているのはグロック17、古い歴史を持つも未だに現役な優秀なハンドガン。

強化プラスティックを多用して扱いやすい銃身や安全装置がしっかりしており安値で扱いやすい銃。

その分護身用としても優秀で何より狙いがつきやすい。

だが、鬼気迫る表情でトリガーを引くアザリアの想いを裏切るかのように弾はターゲットに当たらない

「・・くっ!」

それは本人も気にしているようで弾が命中しない事に苛立った様子だ。

(あれは・・あっ・・)

ジッとグロックを見ているも不意にアザリアと目が合った・・当然、相手は睨みつけてきている

「何!?」

「え・・あ・・いや・・」

「人の射撃見て楽しい!?終わったのならさっさと出て行って!」

たたみかけるようなアザリアの罵声、とてもライオットが太刀打ちできるようなものではなさそうだ・・

「ちょ・・ちょっと待って。そのグロック・・見せてもらっていいかな?」

「・・なんで・・・?」

「あ、興味がわいたから・・かな・・」

「・・すぐ返してよ・・?」

不機嫌そのものに投げ渡す、撃ったばかりで銃身がまだ熱いのだがそれを器用に受け取った

「ありがとう、これは・・君専用の物なの・・かな・・?」

「そうよ、リクセンが用意してくれたの・・」

「そうなんだ。ありがとう・・良い銃だね」

一通り銃を見た後にアザリアに返す・・、一応話をしてくれるのだが彼女はまだライオットを毛嫌いしているらしく

丁寧に渡された銃をふんだくるように取った

「もういいのならさっさと出て行って、気が散るのよ」

「・・それなんだけど、もう少し肩の力を抜いたほうがいいよ?」

「何?先生ぶろうって言うの?」

「あ・・まぁ・・力みすぎているのは誰が見ても同じだと思うから・・ね」

「・・ふん」

「試しにこれで撃ってみなよ、反動が強い分力むぐらいの姿勢がちょうどいいよ」

そう言い自分のマグナムをアザリアの台に置くライオット。

さっさと出て行けば良いのだがそうしないほうが良いと何故か思い射撃のアドバイスまでしだしている

「マグナム・・、でも・・派手ね。あんたには不釣合いじゃないの?」

「う゛・・まぁ、塗装は僕の趣味じゃないから・・。とにかく試しに撃ってみなよ」

「まぁいいわ。そこまで言うなら・・」

軽く息をつきマグナムを持つアザリア・・だが手に持った瞬間その表情が微妙に変化する

「何・・?これ・・」

「ははは・・、大型だから重いかな。反動もすごいから・・しっかり構えていないと怪我をするよ?」

「う、うるさいわね!このぐらい私にだって!」

気合とともに両手でマグナムを構え、先ほどまで掠りもしなかったターゲットに照準を合わせるのだが・・

「・・もうちょっと足を広げて・・そう、そんな感じ・・」

彼女の後ろに回りこみ彼女の姿勢を矯正する

先日まで逆にティーゲルに指導されていた分この光景を彼が見たのならばさぞかし笑う事であろう

「こう・・?」

「うん、後は銃門で照準を合わせて・・」

「・・・」

先ほどまでむき出しの殺意は静まり、ライオットの言葉通りに照準を合わせトリガーに手をかける・・


ドォン!


「きゃ!」

マグナムからは火が噴き衝撃でアザリアの体は大きくよろめく、だがそれはライオットも予測できておりアザリアを後ろから抱きとめてあげた

「・・ふぅ、大丈夫?」

「うん・・凄い衝撃・・手が痺れる」

「それがマグナムだからね。でも・・ほら・・」

「あ・・」

彼が指差す先には見事に心臓部を撃ち貫いたターゲットが・・・

「お見事、集中してよく狙えば君でも大丈夫だよ」

「そう・・ね」

「まぁ、マグナムは重いし衝撃がすごいから・・普通の銃の方が君にあっているのは間違いないかな・・。じゃあ・・僕は行くね」

彼女の姿勢を正し、マグナムを返してもらうのだが当の彼女はマグナム射撃の衝撃で茫然自失の状態だ

「うん・・」

しばし我を忘れたように心臓部を打ち抜いたターゲットを見つめるアザリア

自身の射撃が命中したのがそんなにすごいことなのか、ライオットが射撃場から出た後もその状態は続いていた




・・・・・・・・・


射撃が終わり一息ついたライオットはそのままメインルームへと向った。

今日やる事はもう終わり後は麗華の世話をするだけなのだがせめてその間に手伝う事はないのかと聞きに行こうとしたのだ

相も変わらずマーターの人間は慌しく作戦行動をしており

メインルームで一箇所で雑談をしているのはティーゲルとヘンドリクセンぐらいなもの・・

だが今日はもう一人、見慣れた人物が何故かここにきていた



「・・ん・・?よぅ、ガキんちょ・・マグナムに慣れたか?」



さも当然のようにメインルームのデスクに腰を下ろし軽く手を上げる白衣の男・・ウルムナフ

「ウルムナフさん!?どうしてここに・・」

「セルフィッシュのパーツを持ってきたんだよ・・。後は弾の補充とメンテ終了品の受け渡し・だな」

面倒くさそうに細葉巻で一服つけながら言うウルムナフ、彼はいつでもどこでもこの態度らしい

「へぇ・・あ・・じゃあウルムナフさんもマーターの一員なのですか?」

「そいつは違うよ、ライオット君。俺達はウルムナフとは古い知人なだけだ・・大体こいつに主義主張があると思わないだろう?」

軽い口調のヘンドリクセン、彼がそう言うように変人なウルムナフに対し極めて自然に接している

「うるせぇ・・御崇高な理想なんざ俺にはどうでもいいんだよ。

それよりもガキんちょ、市街地での戦闘の事はファルガンやティーゲルに聞いた。ちったぁ・・やるようだな」

紫煙を吐きながらニヤリと笑うウルムナフ、ふてぶてしい態度だがここまでくると慣れである

「マスターはいいとして・・ファルガンさんが・・ですか?」

「あぁ、あいつもあいつなりに都市犯罪のデータを取っているらしい。

その手の情報収集はここに負けないぐらいのものがあるさ・・

それでだ・・お前ならこいつを扱えるだろうと思ってもってきたんだ」

そう言うと白衣の内側から金属製のシガレットケースを投げ渡す、

いつもながら突拍子がないのだがライオットはそれを難なく受け取る

「あの・・僕は喫煙はしないのですが・・」

「アサシンが見た目で判断するな、中を見てみな」

「え・・・あ・・」

彼に言われたままケースを開けて見るとそこには厳重に梱包されたマグナム弾が6発、

一発一発小さなプラスティックのケースの中にあり

それが普通の弾ではないという事がわかる

「俺の特製マグナム弾だ。火薬の配合から使用金属まで・・全てが最高機密の塊って奴だな」

「こ、これが・・」

「銃だけでなく弾にも拘るのが俺さ。そいつは通称”スティンガー”貫通性能を極限まで高めた特殊ブリットだ。

実戦に使用された事はないがマグナムで厚さ6mmのチタニウム合金板を貫通できた。

まぁ・・遮蔽物やプロテクターなんざ全て無効化できるだろうな」

「そ・・そんな事ができるのですか!?」

ケースに収められた弾丸に戦慄を覚えるライオット・・

「特注物だからな、その変わり一発の弾丸は通常の弾の100倍はする値段だ。・・なんせ作り出せるのは俺しかいないのだからな」

「ウルムナフさんって・・」

「これだけ悪態ついていてルドラをクビにならない訳がわかっただろう?弾丸に使用している金属もお前特製なんだってな?」

「あぁ・・俗に言う『第三の金属』って奴だ」

先の短くなった細葉巻を遠慮なく他人様の机に押し当てる、ティーゲルと同じ悪人面でヘビースモーカーでも大した違いである

「第三の金属・・?」

「第一の金属は古代より使用されてきた鉄や銅、第二の金属は旧世紀に多用されたアルミやチタン、

そして第三の金属はそれらを複合した超合金や複合精製のレアメタルの事だ」

ライオットの疑問に対しティーゲルが応える、そのごつい体躯に似合わず中々に博識のようだ

「そうなんですか・・」

「まぁ、大まかな分類だ。昨今金属加工技術の進歩により独自の金属開発は盛んになってから提唱された分類だからな・・。

大方、扱いやすさに秀でた強化プラスティックや万能セラミックに圧されてきたためにやったパフォーマンスだろうよ」

「・・だろうな、分類別けしても今でも鉄やアルミは多用されている・・レアメタルの価値を上げる呼び名って奴か」

「それに新種金属の分類別けに困るのだろうさ・・。俺が作った奴もな・・。

ともあれ、ガキんちょ・・そいつは拳銃の弾としては最高の威力を発揮する。だが製造数は殆どないと思え。

ルドラ内でしか造れない超レア物だからな・・やばい時にだけ使えよ」

「は・・はい・・ありがとうございます・・」

「いつもながら素直な奴だ。・・それで・・噂の嬢ちゃんは何処だ?」

「自室で待機している、今連れてきているところだ。言う事を聞いてくれれば・・だがな」

苦笑いを浮かべるヘンドリクセンに対しライオットは顔をしかめる

「自室で待機・・って、お嬢さんの事ですか?」

「あぁ・・、俺が連絡して頼んだ。麗華の血と髪の毛を奴に調べてもらう」

煙草を口に咥えながらティーゲル、一応ここは禁煙ではあるのだが・・愛煙家は遠慮をしてくれない

「お嬢さんの・・?一体どうして!?」

「落ち着けガキんちょ、奇形ES者がその女を狙う理由ってのがはっきりしない

生い立ちが関係しているのかもしれないのだが俺達の見解じゃ彼女の体に何かその理由ってのがあるかもしれないと考えているんだ」

「お嬢さんが・・?」

「経歴は聞いたが・・普通の半生じゃないだろう。別に異常がなけりゃそれでいい・・

俺も生体実験の真似事をしてまで年頃の女を調べるほど腐っちゃいねぇからな」

「でも・・ウルムナフさん、銃器の開発者ですよね・・?採血って・・」

「俺を誰だと思っているんだ・・?それに生物兵器開発の方にも食指を伸ばしている、人体に関してはちょいと詳しい。

それを利用した毒ガス弾なんてのも開発したんだが・・あまりに凄惨過ぎるデータが出たんで完全排除した」

「人の生殖機能に影響を及ぼす毒を詰め込んだ爆薬だったか?・・非戦闘員に対する被害が深刻過ぎると言われていたな」

「まぁ、国のど真ん中に落とせば間違いなくその国は滅ぶだろうな・・ジワリジワリと奇形児が増えて・・。

だが流石に趣味が良くねぇ、依頼主にキャンセルしたよ・・鉛弾とセットでな」

「・・貴方って・・」

「ま・・そう言う訳で偉そうぶったヤブ医者よりかは腕は良いぜ?」

「そうだな・・、非人道兵器については俺はノーコメントだがこいつは俺達の部隊の軍医だった経歴まで持っているんだ・・その点は安心していい」

「そうだったのですか・・、あっ・・お嬢さん・・」

その気配に思わず振り向く・・見れば麗華が無感情な瞳のままでそこに立っていた

「この子がそうか・・なるほど、良い腕している・・。

俺はウルムナフ、話は聞いていたと思うがお前のために血とかをちょいと貰う。・・いいか?」

「・・・・・」

不思議な雰囲気を出す麗華に対しウルムナフは全く気兼ねなく話しかける

対し麗華は無言のままかすかに頷き彼の目の前まで歩き腕を差し出した

「・・良い子だ」

その態度を気に入ったのかウルムナフは珍しく上機嫌っぽく注射器を取り出し手早く麗華の血を採血した。

その手際の良さは彼が軍医であった事を実感できそうなぐらいで痛みがあるのかないのか麗華は全くの無反応・・

「・・これでよし、そんじゃ結果はまた連絡する。せいぜいがんばんな」

やる事やったらさっさと還る、それが流儀なのかウルムナフは手際よく麗華の血をしまいこみ、身支度を整えた

「あぁ、何かあったら連絡する。道中気をつけろ・・と言っても無駄か」

「リクセンも・・俺を誰だと思ってるんだ?全く」

不敵に笑いながらウルムナフは軽く手を上げてさっさと立ち去るのであった

「いつもながら・・不思議なお方ですね・・」

「あれがあいつらしさだろう。まぁ・・やばいもん作らせたら世界一だろうが・・それなりのポリシーがあるからまだマシさ」

「違いありませんね・・。あっ、リクセンさん。一つ・・いいですか?」

「ん・・?なんだ?」

「アザリアについて少し聞きたい事があるんですが・・」

ライオットのその一言にヘンドリクセンの表情が一瞬固まる・・がすぐにいつもの彼に戻った

「おや、ああいうのが好みだってのかい?デートのお誘いをするにゃ君だともう少し心臓に毛を生やさないといけないな」

「違いますよ・・。彼女がリクセンさんからもらったグロック、標準がメチャクチャでした・・何故そんな物を彼女に・・?」

射撃場で感じた違和感、それは彼女の照準と弾の軌道が明らかに反れているからだ。

もっとも、本人は感情が溢れているが故にそれに気付いていないのだろうが・・

「あぁ・・、・・それか。別に整備不良の奴を渡しているわけじゃない・・ありゃわざと狂わしたんだよ」

「で、ですが・・それであれをもって実戦になると・・」

「あいつが実戦に出る場合はでしゃばったとしても攻撃される前に援護はしているさ」

「どうしてそんな事を・・」

「どうして・・か、まぁ理由としては単純なんだがな。お前、あのぐらいの女に銃渡して親の敵を討てと平気で言えるか?」

いつになく真剣な表情でライオットに問うヘンドリクセン

「それは・・」

「女子供の手を血で染めるのは俺達も遠慮願いたい、それでもあいつの気持ちも理解できる。

だから俺はあいつを試したんだ。あの銃の仕様がおかしいと思いそれで俺に突っかかってきてでも

まともな人殺しの兵器で戦いたいって言うのなら・・ちゃんとしたのを渡す」

「・・銃は自分を守る最大の武器・・それに気付かないのであるなら戦士として認める訳にはいかない・・っという事ですか」

「まぁな。俺としては射撃場でパンパン音を鳴らして満足してくれたらそれでいいと思っているんだが・・」

現実はそう簡単にはいかない・・。後の言葉を濁すヘンドリクセンは何ともいえない顔つきになる



「・・そんな悠長な事をしている暇もないだろう、いずれ本人の意思を確認すべきだ」



そんなヘンドリクセンにティーゲルは呆れるようにそう言い放つ

「わかっちゃいるんだよ、そんなの・・。でもよ、お前も戦地で見ただろう?チャイルドソルジャーって奴をさ・・」

「・・ああ」

「理不尽に銃を握らされ死んでいくガキどもなんて山ほど見てきた、だから・・子供に銃をできるだけ持たせなくないんだよ」

軍人というのは見たくもない光景を嫌でも見る職でもある。

彼らが見てきた光景、それは人の心を砕くほどのものであっただろう

「ですが・・・、あの様子じゃいつ戦場に突っ込むかわかりません。

いざという時のためにちゃんとした銃を持たせる必要もあると思いますが・・」

「まぁ・・な。結論がまだ出ていないんだが・・最後はあいつの意思を尊重したいとは思っている。

結果、それであいつが命を落としてもな」

呟くヘンドリクセン、それにティーゲルとライオットはどうにも応える事ができず

重い沈黙があたりを支配するのであった


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