chapter 3 「gun of Rudra」
早い内にその日の営業を終了したティーゲル達
だがまだ昼間と言えどもこの地区は余り光が差さないためにフォックスが通された居間には電灯が灯った
本来ティーゲルが独りで暮らしていただけに台所と軽い居間がある程度の家屋スペース、テーブルも小さな物しかないので
ライオットは隅に立ち、フォックスが唯一ある椅子に座った
「儲けが相当少ないの?・・もっと良いところにも住めるんじゃないかしら?」
内装を見て呆れ顔のフォックス、対し一応来客という事でティーゲルは珈琲を入れてぶっきらぼうに彼女の前に置いた
「広さがあっても機能的ではなければ意味は無い。それよりもさっきの話の続きをしろ・・」
そう言い壁にもたれるティーゲル、腕を組む巨漢は迫力が十分でありライオットが小さく見えてしまう
「ええ・・、依頼の話を持ち込んできたのはどこにでもいるチンピラだったのよ・・。
よく手懐けているところを見るとどこか良からぬ集団にも属しているんでしょうね
内容は自分達のボスを捨てた女を殺してくれ・・って。
私に頼むにしては随分と気安い依頼なんだけどね・・、むっ・・私はブラック派だけど・・ちょっと苦いわよ・・?」
説明しながら湯気立つ珈琲を口にし苦言を告げるフォックス、人を殺すという内容なのだが完全に落ち着いている
「色恋沙汰での逆恨みとならばありえない話ではないだろう。お前の評判もあるしな・・」
「まぁ、事実そんな依頼は結構あるんだけど・・。何となく気になったから目標の女を調べたら麗華ちゃんだった・・ってわけ。
事情からして彼女が男をたぶらかせる状態でもないので色恋沙汰って話は完全嘘ね」
「当然です!お嬢さんがそんな事を・・!」
彼女を慕う者として憤りを隠せないライオット、怒りの感情を抑えられないのも若さか
「はいはい、熱くならない。それよりもおかしいでしょう?嘘の情報で人を殺せって・・
まぁ裏社会じゃよくあるんだけど・・。それでちょいと調べたら〜・・どうも『夢幻』が関わっているみたいなのよね」
「・・・・・」
その一言に青冷めるライオット、対しティーゲルは無言の内に煙草を咥え火をつけた
「この都市で一番勢力のある暗殺組織・・『夢幻』か。確かに・・連中ならばチンピラ集団を束ねる事など容易いだろうな」
「えぇ、でも謎なのが何故麗華ちゃんの暗殺を目論むのか〜。
っというかあの組織がまだ存在している事自体にわかには信じられないんだけどね
・・そこんところどうなの?ライオット君」
「僕に・・聞きますか?」
「そりゃね、かつてそこに所属してきた君なら信頼できる応えが聴けそうだし」
あっけらかんと言うフォックスに対しライオットは深く押し黙るも心が決まったようでゆっくりと口を開いた
「頭領の暴走で夢幻は壊滅したはずです、後継者であるお嬢さんも女性であるが故に男を産むための道具としてしか見られずあのような姿になりました・・。
お嬢さんが頭領を殺して逃亡した後の情報では頭を失い消滅したと聞いています。
ですので・・僕には夢幻が存在しているとは思えません」
「・・組織に残った者が逆恨みに殺害を依頼した・・っとは考えられないか?」
ゆっくりと口より煙を吐きながらティーゲルが呟く
それに対しフォックスは少し眉を上げた
「どうかしら・・、一流の暗殺集団で恨みがあるならチンピラ使って私に依頼せずとも直接動くんじゃないの?」
「それに・・お嬢さんが頭領を殺害した事を知る者はいないはずです・・。
それでなくても頭領は狂気に染められもはや正気ではありませんでした・・・、
従う者よりも次の代表の座を狙う者の方が多かったと思います。
そうした者がもう一度夢幻を造り上げたとしてもお嬢さんを狙う理由はありません」
「・・ふぅん、大人しそうに見えて洞察力は良いみたいね」
「それよりも・・お前はどうして依頼を蹴ったら狙われると踏んだ?」
「まっ、女の勘・・って事にしておきたいんだけど・・。その夢幻らしき集団の周り・・きな臭いのよ」
「もったいぶらずに言え・・」
「・・『アレ』が関係しているかもしれない・・って事よ」
目を鋭く開かせフォックスがゆっくりと言う、その一言にティーゲルの体は一瞬硬直し吸殻が宙を舞った
「・・本当か?」
「それらしい噂がある・・だけよ。私も貴方も・・その手の情報は常に探りいれているでしょう?」
「確かにな・・。それだとすでにお前自身も目をつけられいている・・わけか」
「モテル女の辛いところね・・まぁ、貴方もでしょうけど・・」
「あ・・の、先ほどから話がわからないのですが・・」
完全に取り残されたライオット・・、元々この場では彼が置いていかれるのは当然であろうが・・
「ああっ、まっ・・それなりの因縁があるってわけ♪とにかく・・ライオット君の話を聞いて決めた・・蹴るわ」
「やれやれ・・これで完全に狙われるな」
「毎度の事ね。そんな訳で〜、ライオット君に協力しちゃおうかしら?」
「え・・?」
「わかっているでしょう?私がいなくても他に依頼を受ける殺し屋はいくらでもいる事・・。
どの道麗華ちゃんは狙われるわ・・数がいたほうがいいでしょう?」
「いいのか・・?」
「まぁねぇ〜、たぶん、麗華ちゃんを狙う輩と私達の敵は一致していると思うからね」
「何か裏が取れているのか・・?」
何か大事な事を知っているかのようなフォックスの口ぶりにティーゲルは不快感を露にする
彼の気質とフォックスの性格では合わないのは自然とも言えるのだが・・
「これは女の勘♪」
「やれやれ・・まぁ、そういう事情ならば俺も協力しないわけにもいかないか・・」
そう言い、深く息をつきながら煙草を灰皿に押し付ける・・。
「あの・・すみません。僕達のために・・」
「気にするな、それにフォックスが言った通りこの一件・・俺も関係ないとは言えなさそうだからな・・
そうと決まれば・・少し出かけてくる、ライオット・・ついてこい」
「え・・あの・・どこへ・・?」
「ルドラだ・・、相応の準備が必要だからな。フォックス、留守を頼むぞ?」
「はいはい。まぁこの店の武器じゃ事はすまないかもしれないしねぇ・・」
嫌味を含め珈琲を飲み干すフォックス、対しティーゲルは仏頂面のまま新しい煙草を咥えるのであった
この都市の中央部は高層ビルが立ち並ぶ繁華街となっている。
それは『カンパニー』というコンドロマリットの根城でありほとんどがその関連企業となっていた
そんな中に広大なプラントを持つ新参入の銃器製造メーカー『ルドラ=インダストリー』が存在する
ハンドガンからアサルトカービン、バズーカや試作ながらも粒子荷電ライフルなど
幅広い銃器を取り扱う企業でその名は全世界にも知られるほどになった
だが旧世紀から存在する一流メーカーに対してその生産量は小さいのだがルドラを愛用する人は実に多い
それは他の企業では余りしていないオーダーメイド品を取り扱っており今の時代使用する者などいない
アンティーク銃までアレンジを加えて製造している点。
格言うフォックスもその愛好家の一人であり旧世紀、暴走した極東で造られ、幻とまで言われた銃を見事に再現している。
余り現実的とは言えないのだがそれでもその技術力は群を抜いて高く他の企業とは区別されている特殊な企業となっている・・
・・・・・・
「これがルドラ=インダストリー・・」
正面ゲート前に立ち感嘆の息を漏らすライオット、すでに日は傾き黄昏色の光が辺り一帯に差し込んでいる
そしてその前に聳え立つ高層ビル、鏡張りにされているそれは黄昏をより強調しており異様な雰囲気を出している
「なんだ、初めてか・・?」
隣で紫煙を燻らしながら意外そうに言うティーゲル、いつものエプロンを外し灰色のジャケットを着ている。
その外見は私服SPにも見えてしまう。図体のでかさは良い事もあり悪い事もあるのだ・・
因みにライオットは質素なシャツとズボンに青色のジャケットに同じく青い帽子をつけている
それにより二人はまるで親子のようにも見える
「アサシンは、武器購入も色んなルートがありますので・・。こうして表立って製造メーカーに足を運びませんよ」
「・・もっともか。まぁ別に畏まる必要はない・・中が禁煙なのが気にくわんがな・・」
「愛煙ビルは流行らないらしいですからね・・」
ヘビースモーカー故の苛立ちに思わず苦笑するライオット、
武骨そうなティーゲルだが喫煙マナーに対してはキチンとしているようで
麗華の前では吸わないしここに来るまでも携帯灰皿を使用していた
喫煙者には二種類存在し、一つはそこらに吸殻を捨て空気を汚す品が無い者、もう一つは美学を持ち汚す物を少なくさせる者
自分は後者だと言い喫煙に対してそれなりの考えがあることをライオットに知らしめた
「高いビルは換気が難しいからな・・とにかく行くぞ。中は広いからはぐれるなよ・・」
「了解です・・・」
子供扱いに苦笑しながらライオットは先に進むティーゲルの後につき天にそびえるビルへと足を踏み入れた
・・・・・・
一流企業となると受付や警備も違う・・だがどうやらティーゲルはここの常連らしく
いかついサングラス男が入ってきたにも関わらず受付や警備員は軽く一礼をするぐらいでありほぼ顔パス状態・・
それに呆気を取られるライオットであったがティーゲルは何の遠慮もなくヅカヅカと先に進むのであった。
そのまま二人はエレベーターに乗りビルの高層階まで昇る。
流石は一流メーカーと言うべきか、このビルは廊下、床、エレベーターまで白一色で清潔に保たれている
それゆえにどこか冷たい雰囲気を出しておりまた廊下を歩く人が全くいないところがそれを助長させている
やがてティーゲルがたどりついたのは1フロア丸々使った研究室、技術開発部のプレートが掲げられていた
「俺だ・・」
軽く扉前のカウンターにあるフォンにぶっきらぼうに言うティーゲル、対しそれだけでわかる様子で短い返事がしたとともにフォンが切れた
良く見ればセキュリティー面にも気を配っているらしくその隣に手の静脈暗証装置も設置されていた
「・・お知り合いがいらっしゃるようですね」
「知り合いか・・、まぁその表現が一番適切だろうな」
そう言い煙草を携帯灰皿にしまい込んでいると研究室の扉がスライドされた
「いらっしゃい・・、いつも言ってますがここは終日禁煙ですよ?」
中より現れたのは栗色に肩まで届く長い髪と狐の様な糸目と小さな丸眼鏡が特徴の青年
見るからに温和そうな感じなのだが外見ヤクザなティーゲルに対し平気に注意をする
「あいつもそうだろうが・・・、それよりもいるのか?」
「ええ・・彼は出不精の塊ですからね。おや・・?お連れがいるとは珍しいですね」
「あ・・、ライオットです。」
ふと目があったのでなんともなしに会釈をするライオット・・
「店の従業員・・っと言ったところだ」
「貴方が・・珍しいものですね。僕はファルガン・ガーフィルズ、ここの責任者の一人だよ」
穏やかに一礼をするファルガン、おおよそ武器メーカーに勤めているとは思えない物腰の柔らかさを見せライオットも呆然としている
「自己紹介はそのくらいにしておけ・・邪魔するぞ」
「はいはい、どうぞ・・。彼は自分の研究室にいますよ・・」
肩をすくめるファルガンを余所にティーゲルは無機質なまでに片付けられた研究室を横切っていった。
技術開発部のフロアは大きな研究室と責任者専用の個室がセットになりそれが1ブロックとなって幾つか別れている。
研究室同士が隣接する形で他の階に移動するには先ほどの入り口を通らなければならない。
情報機密を嫌うだけあって手の入った構造でありティーゲルは簡単に中に入ったのだが実はかなり高度なセキュリティを組まれていたりする
そんな中他の研究室とは違いやたらと散らかっている1ブロックにティーゲルは足を踏み入れ
その中にある個室の扉を遠慮なく開いた
「・・生きているか・・?」
室内は外の研究室に負けないくらいの散らかりよう・・金属部品が散乱されておりデスクの上には書類が山積み、
唯一ある程度スペースが取れているベットに横たわりアイマスクをつけている男が一人・・
先ほどのファルガンやここの研究員が着ている白い作業着とは違い長い白衣を着用しているのだが見事なまでに汚れており
黒髪はボサボサ、寝ている態度も放つ雰囲気も少しまともではなさそうである
「いきなり何を言いだすかと思ったら・・、まったく、人が仮眠している時に来るなって言わなかったか?」
ゆっくりとアイマスクを取り起き上がる男・・、目つきはかなり鋭く態度は悪い・・
「事前に連絡を入れても繋がる事はまずないお前だ、それにいつ仮眠中なのかは俺の知った事ではない」
「相も変わらずの口の利きようだな・・、ん・・?そっちのガキは?お前のか?」
「あ・・、ライオットです、マスターの元で働かせてもらっています」
元暗殺者なライオット、だがこの男の放つ眼光に萎縮してヘコヘコと礼をしている
「ほぉ、あのボロガンショップに従業員か・・。まぁ腕は良くないようだな・・」
「は・・はぁ・・」
「余り苛めてやるな・・」
「まぁ、良い。俺はウルムナフ・・。ここの責任者の一人だ・・っと言ってもこの部署担当は俺一人だけなんだがな」
ニヤリと笑いながら懐より細葉巻を取り出しそれを加え、火をつける
「相も変わらず良い趣味だな・・」
「安っぽい煙草じゃ俺の脳には物足りないのでな・・・。お前こそ、今時マッチで喫煙する奴なんて貴重じゃないのか?」
「これも拘りだ・・。それよりも出来ているか?」
「あぁ・・、だが換装パーツのカスタマイズは面倒だから後回しだ」
問答無用に立ち上がり尻をかきながら部屋を出るウルムナフ・・、ソレに対しティーゲルは文句を言わず黙ってついていった
「メンテを出すにしては興味深い物だ、ファルガンの奴も熱心に見ていたぜ・・?」
葉巻の煙を撒き散らしながら研究室の大テーブルにある書類を叩き落としていく
その姿は研究者とは思えない乱雑な物・・、本来その知識を纏めているが故に大切に扱うはずの資料がバサバサと床に落ちていく
その様を見てライオットは何故この部署には彼一人だけしかいないのか・・理解ができた
「刀剣趣味のあいつが・・な。奇抜な物だろうな・・」
「さぁな。顧客の要望には応えているんだ・・個人の趣味なんざどうでもいいんじゃねぇか?・・よっと・・」
埋もれた書物の合間から取り出すは銀色に輝くアサルトカービン、
グリップからノズルまで全て金属製でただのカービンではない事は一目でわかる
「これは・・、まさか・・セルフィッシュ?」
「ほぉ・・ガキにしちゃ博識だな。そうだ、こいつは幻とも酔狂とも言われたマルチプルカービン『セルフィッシュ』だ」
「換装機能を持つ次世代主力カービンとして一時話題になりました・・」
「確かに、通常兵器だけでは対処できない兵装を携帯でき状況に応じてその火力を活かせるとして有能な武器である事には違いない
だが結局は使い手の方がそれについていかなかった、武装が多種あるという安心感故に無駄弾が増え、
換装パーツの装着には専門的な訓練をつまなければ実戦では扱えない・・装着して発砲するまでのタイムラグは実戦では命取りになりかねんからな・・
結果・・軍に配備されてそれを使いこなせたのは極少数に収まったわけだ」
いつになく饒舌になるティーゲル、その武器に対する知識の豊富さにライオットは驚きを隠せない状態になっている
「その通り、だが適切な判断の元使用するならば優秀な武器である事には違いは無い。
兵士のキャパオーバーにもなる武装をカービン一つで操れるわけだからな・・。
最も、今はショットガンとデュエルパーツぐらいしか使えないんだがな」
「・・他にもあるんですか?」
「かつて使用されたヴァリエーションには火炎放射器になんてのもあったそうだ、後は対戦車装甲弾とかな・・」
「その二つは工作兵用だな・・、相変わらず特殊な物しか覚えない性質だ・・」
「つまらん武器の製造なんぞ欠伸が出るだけだ・・。それで・・そっちのガキのは・・?何かいるか?」
紫煙を吐きながら腕を廻すウルムナフ・・、悪態の様は凄まじいものである
「僕が・・ですか?」
「専用の銃の一つぐらい持っているもんだぜ・・?銃ってのはそれぞれクセって奴があるからな・・。ついてこい・・いいのをくれてやる」
「え・・あの・・マスター・・?」
「これからお前も戦う事になる。もらっておいて悪い事ではないだろう」
状況に流されるライオットに対しティーゲルは事も無げに言ってのけ短くなった煙草を研究室の机に押し付けながら勝手に出て行く
ウルムナフについていくのであった
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