chapter 2「gold vixen」


栄光と挫折は常に隣り合わせである

それはこの都市でも躊躇に見られる・・。

世界中の企業がこの都市の中央部にビルを建設させておりそこを世界の中心とさえ言う者もいる

そしてその繁栄を極めた反動もありこの都市の裏の顔も底知れない

都市の繁栄はここでは神とさえ言われている『カンパニー』という財閥が巻きこしたモノだ

そして表を繁栄させることは裏をも繁栄させることにもなる・・



「マスター・・、昼間っからバーボン飲んでいていいのですか?」


都市のスラム街・・

その通りの一つにあるガンショップにて銃器を扱うには似つかわしくない

爽やかそうな青年が言う

銃のメンテを行っているために白いエプロンを着用しているのだが油で黒く汚れている

「堅い事を言うな・・、ここじゃ昼間から飲まない奴の方が少ない

それに試射の予定は今日はないだろう?」

褐色肌の逞しい筋肉質の巨漢を持ち短い白髪にサングラスを付けているこの店のマスター

瓶ごと酒を飲み、年代物の古いラジオから流れる放送を静かに聴いている

ラジオからはこの都市のニュースが流れており

繁華街で強盗が起こり治安警察が逮捕、

多数の死者が出た事や駐車場に放置されている車から遺体が見つかったなど内容は終始殺人に関する物

この都市ではそれは正しく日常茶飯事であり、ビジネスを除く事で明るい話題などはほとんどない

それが人々の心にさらに影を落としているのかもしれない・・

「まぁ、ここの流儀だと言うならば何も言うつもりはありませんが・・」

「慣れる事だな、ここじゃ馬鹿正直にしていても悲惨な結末しかやってこないもんなのさ」

「・・はぁ・・」

そうとは言えども彼は酒が弱いがために飲もうにも飲めない

「心配しなくてもそうそう客など来ないさ。わかるだろう?」

確かに表通りは閑散としており客が来るようには到底思えない

「・・なら、なんで店を開けているのですか?」

「やることがないからさ・・昼は・・な」

「はぁ・・」

この男、色々と顔を持っているようで青年も夜中に彼が静かに出かけるのをここ数日で見かけたりしている

それを知っていつつも深くは聞かない事にしている

「ふんっ、さて・・しばらく奥で倉庫整理でもしておくか・・。お前の嫁さんも目を醒ましたらしいからな」

「・・わかりました、お願いします」

天上から聞こえたかすかな足音に二人は気付いたのだ。

それは青年の妻のモノ・・だが、彼女が自分から何かをするわけでもない

マスターもそれはわかっており彼女に食事を作ってやろうというわけだ

いかつい顔をしておきながら彼の料理の腕は良く青年以外のモノは口にしなかった彼の妻も

マスターの料理には口をつけたほどなのだ

それ以降は青年も申し訳なく思いつつもマスターに料理を任せている

その間は青年は店番をしており今も静かな店内を見渡している

このガンショップはライフル銃などはあまり置かれておらず壁やショーケースに並べられている大半はハンドガン

大型の拳銃は壁にかけられておりケースの中にあるのは女性の護身用として広く普及している22口径が並べられている

外から見た店の風貌とは違い銃の手入れは良く手入れされており鈍く光っている

「・・その割にはセキュリティが万全じゃないような気がするんだけど・・」

苦笑いの青年、分厚い鉄柵があるけど防犯カメラなどはない

ただ店のガラスは全て防弾用の強化ガラスなのは青年もすぐ理解できた

だが治安の悪い土地のガンショップというのは襲撃に遭いやすいのだがここはそうした気配は全くない。

この一帯が殺人などが横行している地なのに店周辺だけはそうした騒動はまったくないのだ

これもマスターの影響なのか・・、そう考えながら青年は静かに銃を磨き出した。



・・しばらくして・・



数丁銃を磨いた後、突然店の扉が開いた

ドアに取り付けてあるベルがカランカランと乾いた音を奏でるまで青年は来客に気がつかなくハッと顔を上げる

客は若い女性、漆黒のスーツを着込み長い金髪を軽く先端で括っている

やや薄めのサングラスを付けており周囲を興味深そうに見渡している

「あっ、いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」

「・・メンテで預けていた銃を貰いにね。

しばらく見ないうちに綺麗になったものね・・貴方、バイトさん?」

「え・・あ・・はい、そうです」

「ふぅん・・。あいつが他人を雇うなんてね・・、空爆でも起きそう」

酷い事言いながら肩を上げる女性、だがその動き一つ一つが機敏でただの女性ではないと青年は直感する

「そうですか・・?優しい人ですけど・・」

「丸くなったものね・・貴方は知らないでしょうがあのグラサン親父、あれでも昔は・・」「フォックス」

女性が軽く話しだそうとした瞬間にマスターの声が・・

何時の間にかマスターが奥の扉を開けて静かに女性を見ていたのだ

「あらっ・・久しぶりね、ティーゲル。預けた物はどうなのかしら?」

「ちゃんと調整している、それよりも余計な事を話すな」

「あら?従業員には秘密なのかしら?」

「・・ふん」

何やら犬猿の仲を臭わすマスターと『フォックス』と呼ばれた女性

たださほど険悪な空気は出してはおらず無言で見詰め合っている

「あ・・あの・・穏便にお願いしますね?」

「あらっ、ごめんなさい。別に喧嘩売りに来たんじゃないのよ。

私と彼はいつもこんな感じだから・・ねぇ?」

ニコっと微笑みマスターに向けて言うが彼はいつもよりもブスっとしている

「・・知らん。一応はお得意扱いしてやっているだけだ」

「あらあら、酷いわね」

わざとらしく肩をすくめるフォックス・・

「あの、フォックスさん・・ですね。銃を出しますので少し待ってください」

そう言い青年はカウンターの下に置かれている棚を調べ出す

メンテナンス用の銃はここにいつも置かれているのだ

「・・ふん、お前もプロなら自分で手入れをしろ」

青年を無視して話を進めるマスター・・

何やら言いたい事が溜まっているような感だ

前の会話からして愚痴の数々なのは想像できるのだが・・

「まっ、自分でやるのが普通なんだけど物が物だけにね。

しばらく休む事にしていたからちゃんと調べてもらうと思ったのよ」

「・・酔狂な銃など使うからだ・・」

「あらっ、趣味よ?貴方みたいなリボルバー愛好家にはわからないことかもしれないだろうけど」

「・・ふん・・」

「・・ありました。ですが・・これって確か旧ニホン軍が使用していた『南部式』・・ですよね?」

ゆっくりと起き上がる青年

カウンターに置かれた銃は美しい銀色に光る小型の自動拳銃

丸いトリガーガードが目立ちがっちりしたグリップに比べて細い筒状の銃身はいかにもアンティークな銃を思わせる

「そうよ、名銃でしょう?」

ホクホク顔で自分の銃を手に取るフォックス、久々の相棒の様子に愛でている

「マスター・・こんな骨董品のメンテなんてできたのですか?

第一、ニホンなんてだいぶ前に焦土となって上陸封鎖されましたし・・」

「良く見ろ、銃口付近に『Ri』の字が刻まれているだろう?」

「・・あ、なるほど・・。ルドラ製ですか・・」

「そうよ、それでなければ本当にアンティーク銃にしかならないわ。

因みに中身の構造も色々いじっているから通常のハンドガンの弾を使用しているわ

まぁ、内部の性能からすればそこの22口径とさほど変わらないかもね」

「面倒な事をする・・。ルドラもお前もな。

普通のオートマティックのほうがまだ扱い安い」

「愛着よ、愛着。これでもフルオーダーメイドの高級品よ?態々エンブレムまで彫ってくれたんだし・・

まぁ・・メンテは自分でやれって言われたけどね」

銃口付近の『Ri』の隣に細かく狐の絵が刻まれている

それを見ていちいち仕事が細かいと青年は何気に思う

「ふん、外見にのみこだわったところで意味などない」

「コソコソする仕事だからこれくらいわ・・ね。う〜ん、調子良いみたいね・・流石はティーゲル」

「その分の請求はさせてもらう。ツケはなしだぞ・・?」

「わかっているわよ・・。それに仕事も入った事だし・・ね」

途端にフォックスのサングラスの中の目が怪しく輝く

それは正しく狩りを行う狐の目・・

「休暇は終わりか?」

「いつまでも休んでいたら体がなまるわ・・。あっ、そういやば僕との自己紹介がまだだったわね?

私はフォックス・・まっ、ここで働くぐらいだから言うけど殺し屋よ」

あっけらかんと言うフォックス、だがそれは冗談には聞こえない

それだけの気配を放っているのだ

「僕は・・ライオット・・です。

気になってましたが・・フォックスと言うと・・あの有名な女スイーパーの『ゴールドフォックス』ですか?」

青年・・ライオットが少し緊張しながら言う

「そんなに有名かしら?まぁ『金狐』っていうのも余り褒められている気がしないけどね・・

ライオット君・・ね、・・・本名の方は教えてくれないのかしら?」

二コリと笑いながら鋭い事を言うフォックス、それにライオットは顔色を曇らせる

「・・そっ・・それは・・」

「冗談よ、ティーゲル・・面白い子を見つけたものね?」

「・・・ふん・・」

「そこは余り触れないでもらえますか・・?あの・・」

「わかっているわよ、ちょっと気になっただけ。お詫びに私の仕事の依頼を教えてあげるわ?」

その一言に今度はマスターの眉間に皺がよる・・

「プロが仕事内容を教えていいのか?」

「関係ないとはいかなさそうな内容だからね・・」

「・・何?」

何気に言うフォックスに身を乗り出すマスター・・

「それは・・どういう・・」

「今回の私の依頼はね・・『王 麗華』って女の子の暗殺よ」

その一言にライオットの顔は青ざめる



「・・お嬢さん・・を・・?」



思わず呟くライオット、対しフォックスはただ静かに笑うだけだ

「ふふっ、そういう事。

まぁ数日前から見慣れない子がこの店にいるから貴方の事などは調べさせてもらったわ。

ティーゲルも・・わかっていたんでしょう?この子達の事・・」

「・・・・・・」

無言のマスター、ただジッと壁にもたれているだけだ

「お嬢さんを・・殺すのですか?」

「請け負った仕事はこなすのがプロ・・だけど、

ティーゲルがそれとなく匿っているに加えて貴方みたいな純朴な人間がお供なら・・話は違うかもね」

「・・えっ?」

「お前は知らないだろうが・・フォックスは気まぐれでな。気に入らない仕事は蹴る事が多いんだ」

「そっ、だから・・今回も蹴っちゃおうかしらね?」

「・・依頼が減るぞ?」

「廃業になればここで銃でも磨こうかしらね?

まっ、それ以外にも元々きな臭い依頼主だったから受けるか受けないかの返答はまだしていないのよ」

「・・そうでした・・か、でも、それだと貴方の身が危ないのではないですか?

請け負う前に内容を他人に知らせるなんて・・」

「依頼主の魂胆はわかっているわよ、依頼後に私を殺そうっていう魂胆が・・ね」

「・・何だと・・?」

「まっ、この都市に不穏な空気が漂っているのは貴方もわかるでしょう?

とりあえず〜、今日は臨時閉店にしてゆっくり話さない?」

軽く言うフォックス

ライオットとマスターはそれを否定することなく、その日の店は日が明るい内に閉められることとなった


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