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chapter 20 「Acta est fabula」


マザーが崩れ去った広間、粉々に粉砕した硝子片と中を満たしていた液体でそこは水浸し状態になっていた

反ES弾であるベリアルにより白壊された二人のクリーチャーは脆く崩れさりもはやその姿は原型を留めていない

その中、広間の隅の壁がいつの間にか開かれていた。

それは他の壁と全く同じ塗装がされた隠し通路のようなものでありその先には長く続く広めの通路・・

ライオットはそれを親友からの誘いと理解しまだ満足に動けないアザリアを抱いて通路の入り口まで足を運んだ

 

「ここから先はもうパイロンしかいない。終わらせてくるよ」

 

「ライオット・・」

 

穏やかな声に対しアザリアは泣きそうな顔を浮かべた

「・・僕は大丈夫だよ。それよりもまだ動けないだろ?

ここなら安全だしその内きっとマスターやヘンドリクセンさんが来る

それまでここで休んでいて。これを預けるから」

そう言いながらライオットはペンドラゴンをアザリアに手渡す・・

それは元よりマグナムの消費を抑えるために携帯していたもの・・ここまでくればもはや使う必要はない

「わかったわ・・まだちょっと歩けないけど・・迎撃はできる。だから・・ちゃんと取りにきなさいよ」

「わかっているよ・・じゃあ・・行ってくる」

静かに笑いながらライオットはアザリアの小さな体を床に下ろした

アザリアは咄嗟にライオットの手をつなぎ止めようともしたのだがそれはしてはならないこと・・

名残惜しそうに二人の手が離れた

 

「・・・・・、再見(ザイツェン)

 

聞き慣れない言葉・・、それを呟いたライオットはアザリアの返事を待たずして全力で通路を駆け出す

その姿を見送りながらも彼女の目には大粒の涙が溢れすぐに泣き崩れるのであった

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

果てしなく続く通路、ライオットを遮る物は何もなく前を見て駆ける・・

やがてその後方の通路に隔壁が下りていく

彼を封鎖するつもりはない、ただ退路を断つつもりなのだ

その思惑をライオットは感じ取ったのか後ろを振り向くことなく速度を上げる

・・やがてその先、突き当たりに視界が広がった

 

「・・運搬用のエレベーターか?これは・・」

 

それは縦に吹き抜けの空間、足場は広めで車が数台止められるほどの余裕がある

上を見渡せば夜空が見えており月が覗かせる

戸惑うその時、通路の最後の隔壁が閉まり床が静かに上昇しだした

「・・パイロン・・」

ゆっくり上昇する大型エレベーター、

ライオットは最後の戦いに備え呼吸を整えながらその得物を握り締めるのであった

 

 

・・・・・

 

 

低速で昇り続けるエレベーター、少しづつ空に近づいていきついに塔最上階へと辿り着いた

 

・・そこにはなにもない。あるのはただ広い円形の決戦場、

この都市一番の高さを誇る建造物、

その頂上から見渡す景色は雄大でありながらも殺風景であり体を揺するような強い風が吹いている

上を見渡せば夜空を照らす美しき月・・、これだけ高いと手を伸ばせば届きそうな錯覚を覚え幻想的な想いを抱く

そして

 

「来たか・・こちらで待っていてよかったよ・・」

 

ライオットに背を向けて都市を見下ろしている白スーツの元凶、パイロンの姿が・・

「・・シャンファは死んだ。マザーもだ・・、もう終わりだよ」

「終わり・・?確かにあの二匹は終わったようだ・・が、それは新たな始まりを意味する。

終焉は新たなる開幕、人はそれを繰り返して成長してきた・・。

二匹のデータは次に産まれる者のために受け継がれるのだよ」

「・・・、まだ・・続けるんだね」

「私には、これしかないからね・・シャオロン」

静かに振り向き笑ってみせるパイロン、その顔には何の迷い

「何故だ・・そうまでして何が欲しいんだ。パイロン・・」

「理由などない。それは本能とも言える・・、私は奇形者・・同種の繁栄のみを願うものだ」

「・・パイロン・・」

「そんな顔をするな、シャオロン。私は夢幻の総てを欲しかった・・麗華も含め・・だ。

しかし頭領は私を継がせるつもりではいたがその座を総て譲るつもりもなかった、加えて麗華は婚約が決まっていたが・・

その心は私には向いていなかった・・わかるかね?・・君だよ」

「お嬢さん・・が・・?」

「君という無能のどこに惹かれたのかは謎であったが私に従わないのであるならば利用するだけだ。

だから夢幻を乗っ取り麗華を壊した・・、そして私は人である事を止めたのだ

・・総ては計画通り・・、最も・・君が私の前に現れるとは思わなかったけどね」

「それはそうだ・・かつての僕ならばあり得ない事だろう」

「ふふふ・・壊れた麗華とともに暮らした生活は君を強くさせたようだ。

だが・・君も私を否定した、ならばここで消え去って貰う」

「・・パイロン・・、ならば僕は君を滅ぼし・・奇形細胞という人が犯した過ちを滅する」

「・・正気かな?シャオロン・・奇形ES細胞もまた人の願いより産み出された物だ、

もはや世界に蔓延しつつある・・

そもそも通常のES細胞も完全な物とはなっていない・・

このまま行けば数世代後に細胞に異常をもたらす可能性もある

・・・ならばどうすればいい?

人が行った過ちにより人が住むには過酷になったこの世界で、人が人のままで生きていけるかね?

はっきりと言おう、それは不可能だ。環境に対応していく進化というものはそうは起こらない。

突発的な変異には人という貧弱な種では対応しきれず滅ぶ・・本当ならば今がその時期なのだよ。

・・今の世界は滅んでいてもおかしくはない・・ニホンの末裔、RJの知能による救済がなければな」

「奇形細胞も・・その救済の一環だと言うのか・・?」

「副産物とはいえ私はそう考えている。RJがいなければ放射線と温暖化、環境変化により人は確実に滅んでいた

しかしRJにより世界はまた混乱に包まれる。

人が産み出す物は常に欠陥を孕んでいる・・RJという存在それ自体にも欠陥は含まれている

そしてそれらが行った地球の救済も然り。

旧世紀の地球環境の破壊等を見ればわかるだろう・・

環境の見た目は回復すれども地球の傷は未だに治ってはいない

この愚かなる先人が居続ける限りこの世界は崩壊に走る

・・ならば・・人は人を捨てればいい。

地球上の生物の細胞を自分の物とし地球が『あるべき環境』に戻ったとしても

それに適合し耐え抜く体を手に入れれば良い
・・それは進化だ・・」

「・・、だがそのためにアザリアの母親みたいな犠牲を産んで良いとは限らない・・

パイロン、君の行っている事は結局は私利私欲だろう」

「ふっ・・君にはわからないか・・」

「わかりたくないよ。組織を自分の物にするために総てを壊し人である事を捨て世界を否定する君の言う事など・・」

「・・わかった、では口上はここまでにしよう。ここには誰も入ってはこれない。

シャオロン・・せめて天に近いこの地で死ぬと良い」

「ただで殺せるとは思わない事だよ・・パイロン」

そう言うとライオットはマグナムを一端ホルダーへ戻しどこからともなくナイフを取り出した

それは軍用のサバイバル用であり大刃で木製の握り、

威力と扱いやすさを重視しており刃は波状、素材も軽量化されている

しかし奇形者相手ではそんなものは通用するはずもない

「何のつもりだ・・?シャオロン」

「戦うつもりさ!」

そう言い駆け出すライオット、素早い速度にてパイロンに迫る

対しパイロンは一瞬笑ったかと思いきやその姿が消える、

その刹那にライオットの目の前にその体を表し先制とばかりに鋭い蹴りを放つ

超人的な身体能力、ただの蹴りでもまるで鎌のようでありライオットの首を狙う

しかしただ策もなく立ち向かうライオットではない、加えて彼もアサシンとしての資質も秘めている

常人ならば回避もできないその一撃を身を屈めやり過ごし

そのままパイロンへと斬り掛かる!

鋭き一閃は蹴りの動作を終えたパイロンの肩を深く切り、間髪入れずに飛び蹴りをかましてかつての友を吹き飛ばした

「・・・ふっ・・」

着地しながら息をつくライオット、

慣れぬ接近戦・・しかしかつて行った訓練が体に染みついており見事にカウンターを決めた。

そしてすかさず決着を付けるべきホルダーのマグナムを抜き照準を合わせる・・

しかし、地を転がる白スーツの男の姿は突然音もなく消え去った

 

「隙を作って切り札を撃ち込む・・か。いい手だが私相手に通用すると本気で思っていたのか?」

 

目と鼻の先に瞬時に姿を現すパイロン、緩やかにその手を彼の脇腹に押し当てる

次の瞬間・・彼の脇腹から炎が吹き出た

「ぐぅ・・!」

それはまるで自然発火、

押し当てられた箇所より昇る炎は彼の体を焼き次の瞬間にパイロンはもう片方の腕にて隙ができたライオットを殴り飛ばす

・・緩やかな動作ながらもその威力は絶大でありライオットの体はまるで人形を投げ飛ばすかのように吹き飛ばされ

地面を転げ回る

それにより炎は消えるもライオットの体には深い傷が残った

「ほぉ・・プロテクターか。それがなければ死んでいたな・・。だが、それも紙切れのようなものだ」

感心げに呟くパイロン、対しライオットは弱々しく起き上がった

炎により焼かれたシャツ、その下には黒いプロテクターが着込まれていたのだがそれすらも焼けこげて脆くなっている

「ぐ・・がは・・、火を操る・・なんて・・」

「君の常識で考えない事だな。

自然界には自ら火を起こす術もある・・私用にそれに特化するように創り上げたのがこの細胞だ。

龍の名を持つに相応しいだろう?」

「そうだね・・相応しい化け物ぶりだよ」

「ふふふ・・、君の身体能力ではその銃があろうとも私に当てる事などできない。わざわざ死ににきたようなものだよ」

「パイロン、僕は最初から生きて還るつもりなんてないよ」

「そうか、ならばここで死ね」

そう言うとまた姿が消える・・、人の肉眼ではそれを捉える事は不可能、アサシンとしての優れた身体能力を持ってしても

どう動いているのかわからない

下手に動いても好機はやってこないと周囲を警戒するライオットだが次の瞬間、腹が焼ける感覚顔を歪ませた

「うぐ・・あ・・・あああああああああああああああ!!!!」

見ればプロテクターを突き破り自分の腹に指が突き刺さっている・・そこから凄まじい熱気が昇っており肉を焼いていく

「内側から焼き殺してやるよ、シャオロン」

またしても音もなく目の前まで現れた

「ぐぅあぁぅぁぁぁ・・・!!!」

「苦しいだろう?シャオロン・・、残念だよ・・私とて君を殺したくはない」

「うぅあ・・・・パイ・・ロォォン!!」

気を失うほどの激痛、それに耐えライオットは無我夢中にて決して手放さなかったマグナムをパイロンの腹に押し当てる

「・・ふっ・・」

それを確認してパイロンが静かに笑った瞬間、撃鉄は落とされ爆音が起こりその体は吹き飛ばされた

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・!」

痛みに思わず膝を付荒い息をするライオット、腹部は血まみれ、

肩はシャンファに貫かれた傷も治っておらずすでに満身創痍となっている

しかし今撃ち込んだのは奇形者用に開発されたベリアル弾・・

パイロンに取っては致命傷とも言える傷を負わせたはずである

「手応えは・・あったはず・・だ・・」

目が霞んでくる中、腹を撃たれて倒れるパイロンを見つめる・・

白いスーツにてわかりはしないのだがその皮膚は白く硬化して破壊されているはずである

 

・・否、はずであった・・

 

「ふ・・ふふふふ・・・それが・・切り札か」

 

立てるはずがない体、しかしそれはゆっくりと立ち上がった

見る限り傷は存在していない

「・・そんな・・」

「反ES細胞という奴かな・・残念ながらそれについてはこちらも研究をしていた。

麗華に接触したルドラにハッキングもしたしな・・」

「ルドラを!?そんな・・ウルムナフさん達の情報を盗んだのか・・!」

「RJのシステムは至極厄介であったが手がないわけでもない、最も・・対処が間に合わず私のみにしかそれは行っていないのだがね」

「・・・パイロン・・」

「まぁこれで奇形者に対処する方法がない事がわかった。感謝するよ・・、では・・そろそろ楽にさせてやる」

もはや抵抗の意志はないものと思ったのかパイロンはゆっくりとライオットの前に立つ

「・・そうか、ならば・・僕も決心がついたよ」

「それはいい・・せめて思い残すことなきまま散ると良い」

静かに腕を振り下ろす、だが・・ライオットは傷ついた体に鞭を打ちそれを回避しながらパイロンに抱きついた

そのまま右手に握ったナイフをパイロンの背に突き刺す・・

「・・何のつもりかな?」

「逃げられないようにするため・・だよ」

「何・・?」

「マスター、危険物を勝手に盗んだ事・・最後にお詫びします」

ニヤリと笑い左手に握った物をパイロンの背に押し当てる

それはセルフィッシュ用に開発された切り札であるバーストグレネード、それを単体で爆発できるように簡単に弄った物であり

ライオットはスイッチを握ったとともに球形の爆弾は閃光を放ち周囲を巻き込んでの大爆発を起こすのであった・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

塔の屋上、ライオットの捨て身の爆撃によりその地は炎に包まれていた

凄まじい爆破によりその地点では床が剥がされてすらいた

高温の視界、赤の世界の中でライオットはいた

爆破により両腕は吹き飛び右足も爆破で吹き飛んだ、

体は転げ回った衝撃により腹部の傷は致命傷に至ってしまいもはや痛みすら感じない

「あ・・・う・・・」

微かに唸る、体の機能が失われているのがいやに冷静に伝わるなら霞んだ視界の中で起き上がる人物が・・

 

「シャ・・オ・・ロン!!!」

 

全身焼けこげたパイロンの姿・・、相当な深傷を負っていても尚立ち上がり

憎しみに満ちた眼差しをこちらに向けている

「・・・・ダメ・・か。アザ・・リ・・ア・・、おじょ・・さ・・・・すみま・・せん・・」

もはや抵抗もしないライオット、パイロンが手を下さなくても消える命なのだが

焼けた奇形者は止めを刺そうとおぼろげな足つきで彼に接近してくる

そこに・・

 

「・・・そこまでよ・・・白龍・・」

 

不意に風が吹いた・・そしてライオットを庇うように前に立つ一人の女性の姿が・・

それにはパイロンも目を見開いて驚く

「・・・麗華・・!そんな・・どこから・・!」

「・・暗殺者は裏で動く者、それはどこにでも現れる。・・貴方はそれも忘れたようね」

蒼髪を風に靡かせ流暢に言ってのける女暗殺者・・麗華

「馬鹿な・・精神は、崩壊したはず・・だ・・」

「・・、確かにね・・。だけど・・何時までもそのままでいる私と思った事自体が間違いよ」

「・・・コワレタ・・・ふりをしていたのか!?」

「・・・大まかに言えば・・ね。まぁ、シャオロンが鼻の下を伸ばしていたおかげでもあるんだけど・・

さぁ・・眠りなさい・・」

「来るな!」

怯えるパイロン、その瞬間に麗華の体は風となった

・・恐ろしい速度にてその心臓は抉られ床に突き刺さる・・

そして焼けたパイロンの上に麗華は馬乗りになりその唇と自分の唇を重ねた

目を見開くその体、だが変化はすぐに始まった・・全身に細かい皹が入っていき痙攣を起こしていく

「ナ・・ナンダ!?こんなのシラナイ!ナニヲシタ!!!?」

「何を・・?祖父を使って私を人でないモノにしたのは貴方でしょう・・?

知らないだなんて・・ね」

「バカナ!カ・・カラダガ・・・!!!」

「様々な薬で私を壊したのが失敗ね。この体は奇形者とは相反するモノでできている・・

それを含んだ奇形者は存在することを許されない・・。反ES細胞の弾如きとは一緒にしないでね?」

「シラナイ・・コンナノ・・シラナ・・」

灼熱に包まれた中、焼けこげた奇形者の体は崩れ、墨の如く風に乗り消えていった・・

「・・・シャオロン・・」

消え去ったかつての婚約者など気にも止めずゆっくり立ち上がり倒れる彼の方を振り向く麗華、

しかし・・もはや虫の息である彼にはその表情を確認する事も声を掛けることもできない

 

 

 

「・・・生きなさい・・シャオロン・・いえ・・ライオット・・」

 

 

 

澄んだ声、それが聞こえた時・・ライオットの意識は消えていった

 

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