chapter 19 「good by 『MOTHER』」

別エリアで異形と化してたフォックスをティーゲル達が対処している中、

ライオットとアザリアは別エリアから上へと向かっていた

まず辿り着いたのが武器庫、使役者達が使用するものなのか銃器や刃物がずらりと並んだエリアを横切り

大きめのエレベーターに乗り込みさらに上階へと向かう。

ここらには敵が全くおらず他エリアの戦闘音も聞こえない・・

その様子が二人には実に不気味であり冷たい汗が流れていくる

 

「・・ライオット・・」

 

階数が表示されないエレベーターの中でアザリアが呟く

先ほどからずっと昇っているのだが一向に止まる気配がない・・それだけ直通のモノであり

それが意味するのは・・

 

「最上階付近まで行くみたいだね・・願ったり適ったりだ」

 

ふと微笑むライオット、そう言いながら切り札であるマグナムを握り締める

だが隣のアザリアは心配そうにそんな彼の手に自分の手を重ねる

「無理したらダメよ。ライオット・・」

「ははは・・、心配してくれてありがとう。でも・・僕が終わらせないと・・」

元より無理は承知、単独で突入する事自体無茶もいいところなのだから・・

「ライオット・・」

「アザリア、ここから先は間違いなく最深部だ。危ないと思ったらすぐさま退いた方が良い・・

もう僕が手を貸せるほどの余裕もないだろう」

「わかっているわよ・・でも、逃げたくないの。だから私に何があっても・・ライオットはライオットで行動して」

「・・ありがとう」

静かに微笑み強がる彼女の唇を奪うライオット、

・・それは別離のキス・・

そんな風にアザリアには感じられ彼に抱きつこうとする

しかし時はすでに遅し・・

鉄の棺桶はとうとう目的の階に到着しその扉が開かれた・・

 

・・・・・・

 

そこは広間のような空間・・

灯りは乏しく床にライトが設置されているのだが光量は相も変わらず足りていない。

しかしそこは今までと明らかに何かが違う、十分に動き回れる空間の中

二人は用心深く広間の中央まで歩を進めた

すると・・

 

『ようやく来たようだね・・小龍』

 

不意に周辺に響く聞き慣れた男の声・・

「白龍・・」

静かに前を見て呟くライオット、するとそこの姿を見せる白スーツの優男・・

長めの黒髪に細い目つきで何を考えているのか想像がつきにくい雰囲気を出している

「君ならきっと来ると思ったよ。さて・・私の元に来る・・っという訳でもなさそうだね」

「・・ああ、その通りだよ。僕は君を倒しにきた・・」

「・・そうか、残念だよ。シャオロン・・」

「僕もそう思うよ・・パイロン」

ジッと互いを見つめる二人、それにアザリアが刺すような睨みを向けた

「あんたが夢幻の頭ね!ふざけた事をしてくれて・・!ただで済むとは思っていないでしょうね!」

「おやおや、君は確かマーターの頭領だったか・・。なるほど・・母親に良く似ているな」

「・・っ!?どういう事!?何故あんたが・・!」

「・・・説明するよりかは見た方が早いかな・・・・」

そう言いパイロンはスッと緩やかに手を上げそれとともに広間に灯りが灯る

それにより広間全体が照らされる

見ればパイロンの後ろに大型の水槽が設置されており分厚い硝子の中は薄い緑色の液体に満たされている

その中に女性が沈められいる・・否、正確には人だったもの・・

 

「・・パイロン・・!」

 

静かに親友を睨むライオット、水槽の中にいるのは正しく奇形者

下半身が伝説にあるスキュラのように何本もの触手へと変貌し

両腕は四つに裂かれそこも触手となっている美しくも悲しいクリーチャー

そして人の形を留めるその顔はライオットの隣にいる少女に良く似ていた

「・・シャンファの母に当たる存在、『マザー』だ」

「マ・・マ・・」

悠然と説明するパイロンに対しアザリアは体を大きく震わせる

その顔はアザリアが見慣れたモノであった・・もっとも、体は奇形化し腹部は妊婦のように膨れあがっている

表情はなく呼吸をしているのかもわからない

「そう・・、前マーターの頭領の妻だった女だ。瀕死であったところを実験に再利用した・・

君の母親は我らのために立派に活躍してくれている・・何せ失敗続きであった「母胎」の唯一の成功例だからな」

「ふ・・ざけないで!!!ママを!あんな姿にして!!!」

もはや人間ではない母親に涙を流して激怒するアザリア、対しパイロンは涼しい顔のままだ

「それは済まない事をしたね。だが・・生きている母親にもう一度会えた事について怒るのはいかがなものかな」

「・・・貴様!」

「・・・・、君がそんな事をするとは思わなかった。

シャンファがアザリアに似ているのも納得だけど・・許される事じゃない」

「ライオット、これは人類の進化だ。マザーにより人はより高い位に行ける・・シャンファを見ただろう?

これからはあのような人類が世界を導く・・この試作品のマザーはその名誉に立ち会えたんだよ。

・・まぁ、試行錯誤の故に様々な細胞を混在させた結果、四肢は完全なクリーチャーとなったのだが・・

元より脳はほとんど死んでいる・・機能にも問題はない」

「進化のための犠牲だとでもいうのか・・!?」

「その通りだ、データは取れている・・二人目はもっと人らしい形態を保ったまま母胎として成功しているよ。

君の連れ・・フォックスと言ったか。良い結果を残してくれた」

「っ!?フォックスさんも・・マザーに!?」

「そのために攫ったようなものだからな。さて・・では君達にはシャンファの餌食になってもらおうかな・・」

静かに笑い手を上げるパイロン・・すると彼女の後ろに黒いチャイナ服を着た銀髪の少女が・・

「パパ、殺してもいいの?」

「・・ああ、二人とも殺して良い。では・・シャオロン、任せるよ・・ここで死を与えてくれ」

そう言い優男は音もなく姿を消した

残されるは満面の笑みを浮かべるシャンファ・・

「こんにちわ♪今度こそ殺しちゃうね♪」

何の躊躇いもなく爽やかな声で言ってのける少女、それにアザリアは目を見開いた

「ライオット・・あいつが・・」

「・・ああ、言っていた子だよ・・・」

「ん〜?ああっ!私と良く似ている!お姉ちゃんだねぇ♪」

「・・お姉・・ちゃん?」

「だって〜、同じママから産まれたんだからお姉ちゃんだよ♪

ん〜、残念だな〜、パパが殺せって言うから殺さないと♪」

殺意の欠片もない明るい声、しかしその底にあるはどす黒く染まった殺人者の気配

母親の変わり果てた姿に頭が真っ白になるアザリアなのだが暴走もできず目の前の化け物に殺気立つ

その時・・

 

『・・・・!!!!』

 

水槽の中のマザーが暴れ出す、体中の触手がうごめきだし目はかっと見開きながら苦痛に体をよじるようだ

それもそのはず、妊婦が如く膨れあがった腹はさらに歪んでいき暴れ出す

 

「・・なんだ・・?腹が・・動いている・・」

 

「あはは♪新しい子が産まれるんだよ♪」

戦闘もそっちのけに水槽の近寄るシャンファ、その突拍子のない行動にライオットも唖然とする

そして水槽の中ではマザーがもがき苦しむも声を発する事なく暴れ

触手の中に埋もれた秘部が大きく開かれる・・・

だが・・・そこよりひじり出されたのはブヨブヨとした肉の塊・・

暴れながらそれを排出するマザー、顔は痛みを訴えているようにも見えるのだが

助けに入る事も出来ない

やがて肉の塊は延々と垂れ流され中の液体に溶かされ消えていく・・

全て出し終わったマザーは何事もなかったかのように動かなくなった

「ママ・・」

「ざんね〜ん♪また失敗しちゃったぁ・・やっぱりパパのセーエキじゃないとできないのかなぁ・・」

「・・また・・?君達は・・こんな事を何回も・・」

「ん〜?絶えずやった方がいいってパパが言っていたからずっとなのかなぁ・・ママったらあんな変なの出す度に

馬鹿みたいに暴れ回るんだよ?変でしょう♪」

産みの母に対して気遣いの欠片もない声をかけるシャンファ

それにアザリアがついに限界を超えた

 

「うあああああ!!!」

 

咆吼と共に手に持つペンドラゴンを抜き撃ちまくる・・

それに対しシャンファは瞬間、その姿を消し突き進む弾丸は水槽の硝子にまともに当たる

・・しかし、防弾については完璧なのかまともに打ち込まれた弾丸だが皹一つはいることなく

微かに埋もれた処で弾丸は停止した

「お姉ちゃん危ない〜、まぁいいや。パパが殺していいって言ったから・・死んじゃえ♪」

ニコリと笑い手を伸ばす、するとそこから伸びる肉の槍

それはまるで弾丸のように素早く伸びアザリアの眉間目掛け走る

予想外とも言えるその技に一瞬アザリアは呆然とする・・そのままでいれば串刺しは免れないのだが

それよりも早くライオットがアザリアに飛びつき彼女を抱きつきながらマグナムを放つ

 

破壊音と共に放たれるスティンガー弾、それは攻撃した直後のシャンファには回避しきれるものではなく

その心臓をまともに撃ち抜く・・貫通性において抜群の性能を持ち破壊力に優れるスティンガー弾

・・しかしそれはウルムナフがフォックスを撃ち抜いたのと同じように

心臓部に風穴が開いた状態のシャンファは衝撃で床に倒れ込むとその瞬間には傷口はふさがっていた

「ライオット!」

「気をつけて・・、あいつは普通じゃないんだ。肉の触手も危険だし・・あの身のこなし、そして回復力が異常だ」

アザリアを押し倒すよう抱きしめながら彼女を庇うように前に出るライオット

予想はしていたが何ともないシャンファの姿に改めて戦慄が走っているのか顔色は良くない

「痛いよ、お兄ちゃん」

対しシャンファは何事もなかったかのように起き上がりニコリと笑って見せた

胸部の服は見事に焦げておりそこから完全に元に戻った肌が覗かせる

「ライオット・・何よ・・あれ・・」

「あいつがマーターに甚大な被害を出した奴だ。見ての通りの・・化け物さ」

「ママが・・あんなのを・・産んだの・・」

「アザリア、今はそれは考えちゃいけない!気を抜けば一瞬で心臓を貫かれる・・全力であいつを倒すよ!」

「・・・わ・・わかっ・・た・・」

自分に似た少女・・しかしそれは正しく化け物でありアザリアは呆然としながらも銃を構え直した

「つまんない〜、動けなくしてブチブチ壊しちゃえ♪」

両手を振るうとともに駆けるは肌より伸びる不気味な触手が鞭のようにしなりながらライオット達に襲いかかる・・

「アザリア!とにかくあいつの動きを止める!それからだ!」

「わかったわ・・!」

叫び声と同時に体を動かし肉の鞭をやり過ごす・・

その刹那に肉の鞭は床に打ち付けられ破壊する、衝撃は凄まじく丈夫にできた床を破壊してその破片を周囲に飛び散らせた

まともに受ければその体ごと切り裂かれてしまいかねない威力だが

それを確認するまでもなくライオットとアザリアは二手に分かれて迎撃を行う

「この・・!」

何とかシャンファの動きを止めようとペンドラゴンのトリガーを引くアザリア

後ろでは水槽の中で母だった物が眠りにつくようにたたずんでいる

冷静さを保てる状況ではないのだが彼女は呼吸を無理矢理整え目の前の少女に照準を合わせる

 

乾いた銃声、連続して放たれる弾丸は全てシャンファの体に吸い込まれる・・

 

「決めた!まずお姉ちゃんから殺しちゃえ♪」

 

数発直撃し体に穴が空くも全く動じないシャンファ、

その内の数発は彼女の目玉や口を貫通しているのだが見る見る内に蘇生され

その攻撃が全く無意味である事をアザリアに知らしめる

「うそ・・ハンドガンじゃ・・どうしようもないの・・」

呆気に取られるアザリア・・だが瞬間その体が倒れ込んだ

見れば彼女の足に先ほど床を破壊した触手が巻き付いており引っ張ったのだ

「きゃあああ・・!!」

猛烈な勢いで引きずられるアザリア、まるで遊ばれるように床を引きづり回される

「あははは♪あははは♪」

自身の触手にてアザリアを玩具のように引っ張るシャンファ、豪快に自分よりも背丈の高いアザリアを振り回す

何時しかアザリアの体は宙に浮き出した

 

「く・・っそ!このぉ!」

 

何とかアザリアを解放しようとするライオット、

しかしうかつに撃てばアザリアに当たってしまうが故にその銃撃に戸惑ってしまう。

故にマグナムではなくペンドラゴンにて射撃する・・

シャンファに当てても身動き一つしないが故に狙うはその手より伸びアザリアの足を締め付ける触手

素早く動き回るそれに命中させるのは非常に困難・・

それでもライオットの射撃は正確であり何発かは触手に当たる

だがその触手もシャンファの一部・・鎖ならば撃ち切れたであろうが多少命中してもすぐに再生してしまう

「そぉれ!」

その間にシャンファはアザリアをさらに振り回し宙に浮かせる

そして・・そのまま水槽の硝子ケース目掛け叩きつける!!

 

パァン!!

 

「う・・がはぁ・・」

 

背中よりまともに叩きつけられたアザリア、口からは血が吹き出る

衝撃で強固な水槽のケースも蜘蛛の巣のような皹が入り衝撃の凄まじさを物語っている

「アザリア!」

叫んで見るも返事はない・・、彼女の体はぐったりとしておりそのまま床に倒れ込んだ

「あれぇ?もう動かなくなっちゃった・・、いつもはもっと遊んでくれるのになぁ・・

じゃあ、次はお兄ちゃんだね♪」

「・・・君には・・罪悪感というものがないようだね」

「なぁに?それぇ?」

「・・パイロン、君は・・とんでもない物を造り出してしまった。

アサシンと言えども守らなければならない掟があった・・しかし彼女にはそれはない。

これが・・君の望む物なのか・・」

悔やむように呟くライオット、それにシャンファは何を言っているのかと首をかしげるも・・

「よくわかんないから・・死んじゃえ♪」

爽やかに笑いながら再び手より放たれる肉の槍・・鋭く走るそれに対しライオットは合わせるように動き・・

 

ドス・・

 

鈍い音ともに左肩を貫通させる、飛び散る血飛沫・・

しかしライオットは顔色一つ変えずに自分を貫いた触手をつかみ取った

「・・あれぇ?痛くないのぉ?」

「アザリアに比べたら何て事はない・・。だから・・」

ゆっくりとマグナムを構えその銃口をシャンファに向けた

「???鉄砲は私やパパには効かないよぉ?」

「そう思ってくれていると嬉しいよ」

一瞬悲しげな笑みを浮かべトリガーを引く・・

 

先ほどまでと違った銃声・・、静かな音とともに放たれた弾丸はシャンファへと駆ける

元アサシン故に身体能力は高いライオット故に何度も見たシャンファの触手の動きなどは簡単に回避できる

それでもその突きを受けたのは彼女と繋がるため。

・・高速で移動して回避されないように・・

そして、その弾丸はシャンファの体へと消えていく

 

「・・・・えっ?」

 

体に入った弾丸はそのまま破裂してそれを彼女の中に行き渡らせる

それは劇的であり着弾した胸付近から彼女の体は白く変色していきそれは瞬く間に全身へと広がっていく

「な・・に・・?これ・・やだ・・やだよ・・!」

「君を眠らせる薬さ、ゆっくりおやすみ・・」

ライオットがそう言い終わる前にシャンファの体は石灰のような白一色へと変わり・・動かなくなった

彼を貫く触手も白化され・・脆く崩れ去った

 

「子供を手に掛けるつもりはないのだが・・君はそれに当たらない・・」

 

少女の形をした白塊に声をかける

・・当然、それに返答はなかった・・

 

 

・・・・・・・・

 

それよりライオットはすぐにアザリアの元へ走りその様子を確認した

「・・ライ・・オット・・シャンファは・・」

引きづり回された傷は大した事がないのだが衝突した際に相当衝撃を受けており

目を醒ましたのだが満足に動けそうではなかった

 

「ベリアルで仕留めた・・。少々無茶をしたけどね・・」

 

「そう・・、よかった・・」

「歩ける?」

「・・少し・・無理みたい。足も痛めたみたいなの・・」

「わかった。安全なところまで退避して休んでくれ」

「その前に・・あれを・・殺して・・」

ゆっくりと指さすは水槽の中で眠るマザー・・

「・・アザリア・・」

「あれ・・・ママ・・を眠らさないと・・」

「わかった・・あれだけ奇形化されているなら・・もはやベリアルじゃないとダメだ・・」

「うん・・ごめんなさい。貴重な弾丸なのに・・」

「いいよ、さぁ・・トリガーは君に預けるよ・・。強化装甲用としてのベリアル弾がある・・しっかり狙って・・」

そう言いながらライオットはアザリアの後ろから抱きしめ銃を構えさせる

「ママ・・ごめんね・・」

目に涙を浮かべ、アザリアはトリガーを引く

 

放たれる弾丸・・それは水槽の硝子を安々と砕きかつて母であったモノを無に返すのであった・・・

硝子は砕け中を満たした液体が流れる中、白く崩れ去る哀しきクリーチャーの顔は

静かに微笑み、砕けていった


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