chapter 12 「tea time」



ルドラ社の迎撃態勢は社長が本社ビルに足を踏み入れた時点で解除され

それより一般職員はそのまま通常業務を再開、秘書や一部のエリートは本社ビルの損害状況とビル周囲に不審人物がいないかその確認を開始する

時はすでに深夜から早朝へ移ろうかという時間・・だがこの会社は眠る事を知らない

それは街の中心部ならば他の企業も同じ・・街中で爆音や銃声が響いたのにも関わらずその行為に気を留める人物はいない

それがこの都市では当たり前でありいつもの事、さらには夜を徹して仕事をする者など働くという行為に取り憑かれているという事に間違いはない

故に一帯のビルに灯る明かりはどこか不気味であり異常にも見えた

────・・

「・・さて、まずはご苦労。死者が出ずに敵を仕留めれたのも諸君らの日頃の訓練の賜物だろう」

一通り騒動を治まった状態で社長室に迎撃に向った面々を連れいれる社長

防護隊は雇い主の前という事で規則正しく整列、防護メットは取っておりビシっと敬礼をしている

一人怪我をしている者もいるのだが傷口に包帯を巻いているところ、軽傷で手当ても終えているようだ

それに対しファルガンやティーゲル、フォックスは適当に寛ぎウルムナフは言わずもかな・・

「死者が出ていたら現場指揮を放棄して外をうろついていた最高責任者は引責辞任になっていただろうなぁ・・」

「それは言わない約束だ」

「っとまぁ、戯事は置いておきまして・・。防護隊の方もご苦労様でした、ソードタイプ相手では室内戦は不利でしたでしょう」

「いえ、近接戦闘をも想定しています。囲まれなければ撃破できました・・ただ、3匹相手にした隊員が少々手傷を負いまして・・」

「・・使役者相手で見ればよくやったほうだ。その傷は恥ではない」

ぶっきらぼうにティーゲルが言う、彼なりの気遣いか負傷した隊員がはにかんだ笑みを浮かべた

「それで・・ゲンジロウ社長さんはどこに行っていたのかしらぁ?」

「うむ、連中がどこから来たのかと何故治安警察が動こうとはしなかったのかを調べるためにな。

本社防衛はルドラの人間で十分だ。まぁ・・ウルが必要以上の行為をしないようにお前達を招いたんだがな」

「やれやれ、俺達はウルムナフのお守りか・・」

「お守りになるような真似はしてねぇだろうが・・、大体それだったら下の防衛に廻せっての」

「ファルガンの指示は信用に値するからな。不確定要素を放り込むわけにもいかないだろう?」

「いつもながら大した秘密主義ね、で・・収穫はあるの?」

「むろんだ・・面白い結論が出てきた」

「・・面白い・・ねぇ、どんなんだ?」

「簡単に言えば治安警察は『カンパニー』の圧力のせいで操り人形状態になっている」

カンパニー、この都市の発展のきっかけとなった一大企業、中心部のビル群のほとんどがカンパニーの関係で

ルドラ社のような存在は稀になっているのが現状だ・・当然そんな企業であれば周囲への発言権も大きい

「・・カンパニーが・・?」

「それだけではない、襲撃者が現れた方向、それに態々撃墜せずに逃したヘリを追ってみたら奴らの巣がわかった」

「・・本当に上々の結果ですね・・」

「爺自ら動いたんだからな、何も収穫がなければボケてきた証拠だ・・」

「うるさいぞ・・、それで・・巣とは・・?」

「うむ、どうにも奴らは『搭』よりこちらに向ってきたようだ」

搭と言う言葉に防護隊は言葉を失いフォックスは軽く口笛を吹く

ティーゲルもサングラスを光らせ耳を傾けた

「搭・・カンパニーの本拠地・・、この都市で一番巨大なビル・・・そうとなれば夢幻は・・」

「結論を急ぐなよ、ファルガン。搭って言っても広大だ・・だが夢幻とカンパニーが何らかの糸で繋がっている事には違いはねぇか」

「もしくは、カンパニー自体が夢幻なのか・・」

「社長・・それは流石に・・」

「有り得ない話でもあるまい、まぁ現時点では裏のつながりが見えてきた程度だ。これをさらに詰める・・直に関係ははっきり見えよう」

「・・やれやれ、相手が一暗殺組織じゃなくて世界有数のコングロマリットとはねぇ・・」

「殺りがいはあるんじゃねぇのか?」

「そう思うのはお前程度だ・・」

「ふっ、ともかく本日はご苦労。これよりルドラは夢幻の情報収集に全力を言え奇形者に最大の警戒をはらう

そのつもりでいてくれ・・」

「ならば、俺は殴りこみ用の武器開発に精を出すか・・色々と忙しくなりそうだ・・爺、変な呼び出すは受け付けないからな」

文句を言いながら勝手に出て行くウルムナフ、彼も彼とて考えがあるようだ

その態度はふてぶてしいのだがこの状況だとやけに心強くみえてしまう

「うむ・・、では解散と行くか。おおっと、大事な事を忘れていた・・ティーゲルにフォックス、ファルガンは残ってくれ」

「何?まだ何かあるの?」


「下の階に鮪がある、付き合え♪」


その顔は実に満足げであったとか・・、ウルムナフでも断る事ができなかった社長の命令

部外者にも関わらずティーゲルやフォックスは拒否する事ができず結局は付き合う事になった・・


・・・・・・・・・
・・・・・・・・・


ルドラ社襲撃より数日が経過した

それ以降都市の奇形者の目撃が忽然と途絶えておりマーターはその動向に力を注いでいる

襲撃にあったという事実はこの都市ではさほど珍しくないために

ルドラも翌日に襲撃で受けた被害の修復を行い2日ほどで元通りになったという

それ以外表立ってのルドラの動きはない、もちろん裏ではウルムナフやファルガンが動いているのは間違いないのだが・・

そんな訳でマーター内での彼らは待機となり各々戦いに備える事になった


パン!!


いつもの如く射撃場に鳴り響く銃声、この3ヶ月毎日ここで射撃の訓練を行う者がいる

それはライオットは当然のことながらもう一人・・


「どう!心臓部に直撃!ちょっとは狙いが絞れてきたでしょう?」


銀髪ゴスロリドレスの頭領、アザリア・・本格的な戦闘に参加するという事であのコンテナの作戦以来

彼女は銃の腕を上げるために奮闘をしている

小柄で華奢なその体に銃は不釣り合いもいいところなのだが真剣さは誰が見てもわかる

そしてそのライバルとなるのが隣で射撃をしているライオット・・

「うん、いいと思うよ。だいぶ上達したんじゃないかな?」

普通に接する二人、コンテナの作戦以来作戦時にアザリアと行動を共にする事が多いライオット・・

否、実質実戦ではライオットは彼女の保護者状態になっている

コンテナの一件で奇形者と対峙しながらもアザリアを無傷で帰還させた彼のサポートは優秀、っという事で彼に任されたのだ

・・まぁ、それは建前で実際は貧乏くじを引かされただけなのだが・・

そんな訳で二人の関係は以前のような尖った物はなく双方任務のパートナーとしての意識はついてきている

「ふふん、そのうちあんたを越えてあげるわよ!」

「いや・・ははは・・がんばって・・」

気合漲るアザリアに苦笑するライオット、実際アザリアが成長したようにライオットもこの3ヶ月弱、見る見る成長を遂げた

使役者との戦闘も楽にこなすようになりその身のこなしはもう無能とはいえない。

それは周りの教えがいいのにも加えて彼が暗殺者から戦士へと変わったから・・その点が大きいといつしかヘンドリクセンが言った事がある

アサシンでいるという事に彼は心の底で違和感と重圧を受けていた、

そういう性分だったが故にアサシンとしての技能を本能的に拒絶していたと分析している

最もそんな事を当人に伝える事などはしない、言葉では表せないがそれは本人が一番理解している事だからである

「──でも私も自分専用の銃欲しいわね、リクセンにお願いしようかしら・・?」

「どうだろう・・?グロックは扱いやすいからアザリアにはピッタリと思うんだけど・・」

「何・・?扱いやすい銃じゃなければ私は役立たずだって言うの?」

「い、いや!そういう事を言っているんじゃなくて!」

「ふん!別の銃を持ったとしてもあんたが教えてくれたらいいでしょう?ガンショップの店員なんだから!」

「そうだけど、教え方ならエドさんの方がわかりやすいと思うよ?僕の腕が上がったのもあの人のおかげでもあるんだし」

「・・・・・」

「ア・・アザリア、何で睨んでいるのか・・な?」

「何でもない!」

出会った頃の事を思えば親しく話せるようになった二人、

しかし任務のパートナーとなった今でもライオットにはアザリアの睨みがまだ怖いらしい


「やぁ、今日もがんばっているね」


そんな中、射撃場に現れる長めの黒髪の男・・

褐色肌に軽い白いシャツとズボンを着ているのだがそれだけでも全然だらしなく見えない

マーターの工作員は白布で顔を隠している分その素顔がわかりにくいのだが彼はかなりの美男子だと言える

「エドさん、どうしたんですか?」

美男子、ことマーターの参謀とも言うべきエド。

任務中は冷静だがプライベートでは付き合いの良い兄貴分でもある

「今日は非番でね、私も少しは休めとリクセンさんに言われたんだ」

「エドがいなくても大丈夫なの?」

「私がいなくても皆大丈夫さ、それに敵の動きは今のところ読めなくてね」

「数日前のルドラ社襲撃以来事件も起こっていないしね・・、ライオット、襲撃部隊の奇形ES者・・ランクは高いほうなの?」

「実際その目で見たわけじゃないけど、一人・・老人の方は旧夢幻の中核だった御方だよ。

以前の副頭領だった人で人望も厚かった、今思えばあの御方が病で倒れられてから夢幻は・・いや頭領が暴走しだした気がするよ」

「・・直接相手をしたファルガン主任もその遺体を手厚く葬ったようだよ」

「・・うそでしょう!?奇形ES者なのよ!?」

「その老人剣士の場合は病の延命処置として奇形細胞を利用していたようだ、

その証拠にファルガン主任との勝負に負けた後自らその命を絶ったという」

「・・自分で・・?」

「あの御方ならその行為も当然です、しかし・・刀で奇形者を絶命できるのですか?骸は心臓を射抜いてもまだ生きていた・・」

「・・そ、そうよね・・正直頭を吹き飛ばしてもまだ動いていたし・・」

凄惨過ぎる光景故にそれが頭に焼き付いているライオットとアザリア

あの時スティンガー弾は骸の頭を粉砕して絶命させた・・

しかしその体はしつこくうごめいており首なしでも立ち上がるのではないかと銃口を向けていたほどである

「それは素体の強度にも関係していると私は思っている」

「強度?」

「つまりは細胞の宿り主の基本的な体力さ、奇形者が重傷をおった時には奇形細胞の回復が行われるまで元の人間の生命活動を維持しておかなければならない

骸の場合は若い女だ、心臓を射抜かれたとしても奇形細胞が回復するまで命を繋ぎとめる事ができた、

対し翁の場合は自ら心臓を切り裂いたらしい。それでは細胞の回復の間に合わなかったのだろう」

「・・・じゃ、じゃあ・・若い奇形者にはよほどの致命傷を与えないとダメだって事?」

「再生能力の如何にもよるけどそうだね、骸の場合もライオット君が頭を吹き飛ばさなければ勝負はつかなかっただろう」

「・・若い女であの再生能力、じゃあ・・若い男だと・・」

「・・奇形ES者としては最適の身体能力を身に着けれるわけだね、最も・・そのタイプであった玄武はウルムナフ主任に見るも無残な姿に変えられたそうだ」

「新生夢幻になってから入った人ですか・・確かスティンガー弾を乱射したんですね?」

「そうらしいね、流石はウルムナフ主任・・死体の映像が回ってきたけどすごいものだったよ

肉体の硬度を調整できる能力だったそうだけど蜂の巣だ。ハンドガンで仕留めたと言う事になっているがまるで自動小銃に撃たれたかのようだったよ」

「・・スティンガーの威力なら容易いでしょうね、でも・・貴重品だって言っていたのに・・」

「自分で作れるなら貴重ではないのだろう・・、まぁ、そんな訳で訓練に付き合って上げれるよ」

「そうとも言っても後は的を射抜くだけでしょう?」

「アザリア、基本的な射撃をマスターしないと実戦で後悔することになる。

的をきちんと命中するのは当然出現すると同時に近いタイミングで撃たなければいけない、それじゃないと鉛弾を食らうのは君になるよ?」

「う゛・・」

「流石は元STFのエリートですね、アザリアを言いくるめるなんて・・」

「その経歴は別に関係ないと思うのだけど・・」

「でも・・意外よね、大国のトップエリート部隊出身の男がこんなところにいるなんて」

「そうでもない、リクセンさん達は私よりももっと有名だよ」

「マスターやフォックスさんも・・ですか?」

「あぁ・・『GUN OF WEASEL』通称コードG、もしくはウィーズル、少数精鋭の超エリート部隊だ。

最も、隠密部隊だから知っている人は極一部なんだけどね」

「へぇ・・・あのリクセンがね・・」

「エリート集団が集ったわけですか・・」

「エリートだとかは目的のために行動をしているのだったら関係ないよ、私なんて特にね」

「目的・・マーターの皆は奇形者への憎悪に近い感情で戦っていますけど・・エドさんは何の目的でわざわざマーターへ?」

「そうだね・・とある女性のデートのお誘いを受けるため・・かな?」

「はぁ・・?エドが女性・・?」

「おかしいかな?私だって男だ・・女を求める事もある・・むろん、ライオット君だってね」

「こ・・こいつみたいなヘタレが女を求めるわけないじゃないの!!」

「・・アザリア・・なんでそんなに怒るんだよ・・?」

「うるさい!!」

「はははは・・若いね。まぁさっきのは冗談ってわけじゃない・・私は奇形ES者のアサシンに命を狙われている身でね」

「奇形者のアサシン・・夢幻ですか?」

「いあ、単独で仕事をする女性だ。軍属の頃に出くわして以来必要に私を付けねらっている・・仕留められなかったのが相当悔しいらしい」

「・・よく呑気でいえますね・・・」

「そりゃあね、来るなら迎い撃てばいい、相手の腕は立つが負けるつもりもないからね」

「大した自信ね・・、でっ、どういう奴なの?」

「『黒銀の女豹』って私は言っているよ、それでどういうのかはわかると思う」

「・・・骸みたいなのですか・・、良く生き残れましたね・・」

「ははは、まぁ・・彼女も私を殺そうとはしていないようだ」

「・・はぁ?殺すために襲撃しておいて殺す気がないの?」

「──っと、私は思っている。真実は本人に聞くしかないな・・まぁ彼女が襲撃してきた際には他の面々は手を出さないように

約束がされているから・・君達も気をつけてくれ」

「お一人で、その奇形者の相手をするつもりなのですか?」

「まぁ、そういう事だよ」

「無茶を・・」

「そうでもない、奇形者と言えども万能ではない・・アザリア、失礼」

軽く笑い彼女のグロックを取りターゲットを一つだけ射出させた


パンパンパンパンパンパン!!!


計6発、乾いた音とともに発射するのだが人型ターゲットには心臓部に穴が一つ開いているのみで他に変化はない

「何よ、一発しか当たってないじゃない」

「・・そうじゃないよ、アザリア・・エドさんは6発すべて・・全く同じ軌道で撃ったんだ・・」

冷や汗を流しながらまるで怪物でも見るかのような視線をエドに向けて放つライオット

「う・・嘘、そんな事が・・」

「訓練の如何によってはできない事もない、それにグロックは扱いやすいからね・・マグナムともなればコンマ2ぐらいのブレはでるかな」

「・・それでもすごいですよ。ですが・・それほどの精密射撃で奇形者を追い払っているのですか」

「これだけじゃない、一芸に秀でているだけでは彼女には勝てないからね。まぁ・・そういう事さ」

軽く笑いながらグロックを返すエド、優男そうに見えてあなどれない実力にアザリアでさえ呆然としていた

「さぁ、撃ってごらん。不具合があれば指摘させてもらう・・対人で訓練できない分こうした基礎訓練が実戦で物を言うんだ」

ニヤリと笑い訓練開始、二人の銃声がけたたましく響く中エドは静かなまなざしで二人を見つめ続けた


・・・・・・・・・


訓練開始から2時間が経過した

地下施設故に時間の感覚は中々掴めない、加えて必死に撃ち続けた二人に取ってはもっと短く感じたのかもしれない

エドは必要以外の事は口を出さず二人に的確にアドバイスを行う

ライオットは人型ターゲットからクレー射撃へと訓練を変えておりより小さい的を的確に勝つ速く打ち落とすのに汗を流す

対しアザリアはまだまだ、人型ターゲットの急所射撃や銃の手入れなどをエドから教わり本人もまじめに聞き入っていた

みっちりとがんばったが故に疲れも溜まる、射撃場の後片付けをした後にライオット達は上層部にある休憩室で軽く休憩をする

そこにはどこから運んできたのか自動販売機も備えられており簡単なテーブルと椅子が何セットも置かれている物

ただ地下空間ということもあり喫煙用の道具は一切置かれていない

「はい・・アザリア」

「ありがとう」

ライオットが安い紙コップの珈琲を淹れてアザリアに渡す

周辺には人はいない・・マーターの面々は常に動き回っているようなのでここで休憩している姿を二人が見る事はあまりない

っというよりかは二人が眠ってから使用される事がもっぱらであり今は椅子はきちんとなっているがさながら

仮眠スペースのようにもなっていたりする

「流石はエドさんだったね・・。狙いが逸れた時の原因を的確に言ってくれる」

「ほんとほんと・・、化け物ねぇ・・。軍のエリートだってんだから相当な訓練受けてきたのかしら?」

「何というか・・あの人の場合先天的な物っぽさそうな気がするね」

「同感、リクセンもすごいって話だけどいまいち想像できないしねぇ」

「へぇ・・リクセンさん直接現場指揮を執らないのかな?」

「いや・・、リクセンと行動する事って少ないからあんまり見たことないのよ。

前までは単独行動していたし今は何でか知らないけどあんたとペア組まされているしね」

「ははは、確かに・・いつの間にか組まされているね」

普段余り意識しない分休憩まで時間を共にしている事を改めて実感し珈琲を啜るライオット・・であったのだが

何故かアザリアの表情が険しい物に変化してこちらを睨んでいた

「何?ライオットは私と一緒に行動するのを無理矢理って思っているんだ?」

「・・っというかお世話になっている以上拒否権なんてないからねぇ」

「じゃあ何!?ライオットは私と組みたくないの!?」

ギロリと凄まじい眼光でにらみつけるアザリア、少女ながらも中々堂の入った睨みでライオットを威圧する

「そ、そんな事ないよ!確かにアザリアは人の話聞かないところはあるけどうまくいっていると思う!」

「え・・・そ、そう?ならいいんだけど・・」

睨みも数秒、ライオットの言葉にアザリアは急冷却で何事もなかったように珈琲を啜った

「まぁ、僕もペアで動いた事ないから・・アザリアには迷惑かけてると思うし・・」

「そ、そんな事ないわよ!今までの作戦でも結構ライオットに助けられたし」

本格的な戦闘となってもアザリアは突撃しやすい、それを押さえ込んで無傷で勝利を収めてきたのはライオットの判断が良いからである

その分彼には常に苦労が付きまとう。その生い立ちと性格がなければとうに挫折していた事は間違いなさそうだ

「そうかい?・・ありがとう・・」

「れ、礼なんていらないわよ!もう!」

頬を軽く朱に染めながらそっぽを向くアザリア、感情の起伏が激しい彼女

周辺にそんなタイプの人間とのつきあいがないライオットは最初は彼女にとまどいもしたのだが今では微笑むぐらいの余裕が出てきた

・・それでも彼女の睨みには蛇に睨まれた蛙のソレのような状態になるのだが・・

そんなほほえましい会話の中、蒼髪の少女が入ってきた

アザリアと同じようなゴスロリ調のドレスを身にまとい瞳には感情が篭もってはいない

そんな彼女に黒のゴスロリドレスは似合っているとは言い難いのだがマーター内で女性の数は圧倒的に少ない

身長の事もあり彼女、麗華の着物はアザリアと共有している

「お嬢さん・・」「ムッ・・」

意外そうに驚くライオットに対しアザリアは不機嫌そうに軽く睨む

「・・・・」

ゆっくりとライオットの隣に座り何する訳でもなくジッと前を見る麗華・・

「お嬢さんも・・珈琲、飲みますか?」

「・・・・」

ライオットの問いかけに静かに頷く麗華、そんな彼女にライオットは静かに笑い珈琲を淹れてあげる

生気のない瞳はブラックの珈琲をジッと見据え両手でそれを持ちチビリチビリ飲み出した

「・・ふん、自分は何もしなくて大した身分ね」

ライオットの世話になっている麗華に対して明らかに敵意を放つアザリアだが当人は全くの無反応

一番接してるライオットに対してもほとんど反応を示さないが故にそれも無理はないのだが・・

「アザリア・・お嬢さんは自我がほとんど崩壊しちゃっているんだからしょうがないよ」

「何よ、それでもティーゲルのガンショップが襲撃された時に応戦できたんでしょう?」

「それは・・そうらしいけど実際僕が見たわけでも・・。あっ、戦闘術は体に染みついているからそれで戦えたのですか?」

「・・・・」

無反応にチビリチビリ・・それにライオットは汗一つをたらりと・・

「無愛想ねぇ、ライオット・・そんなの放っておいても誰かが世話をするわよ」

「いあ・・そう言う訳にもいかないよ。お嬢さんを守るのが僕の役割なんだ。

・・それに、自我が崩壊する前のお嬢さんはアザリアみたいに活発な性格だったんだから無愛想じゃないよ」

「壊れる前なんて知らないわよ、私に取っては無愛想な女なの!」

いきり立つアザリアだがライオットには何故彼女が麗華に敵意を覚えているか全く理解できていない

「・・・・」

ふと紙コップを置きアザリアの方を見る麗華、相変わらず何が言いたいのかが理解できない

「な・・何よ・・」

「・・・・」

「何が言いたいか知らないけど!私とライオットは今パートナーなの!

ライオットの時間を奪われるのは私にとってもマイナスになる、わかる!?」

「・・・・」

ギロリと睨むアザリアだが麗華には全く効果はない・・

ちなみにライオットはどうしていいのかわからずにおろおろするばかり・・

「とにかく!夢幻との戦いで私達も忙しいの!自分の事ぐらい自分でやってよね!」

「ア、アザリア・・、落ち着いて」

「・・・・」

何故か怒るアザリアに対し麗華は無言のままかすかに頷く

どうやら彼女とてライオットに頼り切りになるつもりもないらしい

「お嬢さん」

「そう、わかればいいの・・。ライオットも、この女を守るのが任務とは言えども過保護にしたら返って迷惑になるのよ?」

「そ・・それは・・」

「・・・・」

コクリと麗華が頷き駄目押し、自我崩壊前が活発な性格であったという片鱗を感じさせる

しかしライオットに取ってはまさしくグウの音もでない状態になり・・

「ほらっ、本人も言っているでしょう?ライオット・・これから戦いも激化するんだし・・パートナー同士もっと話をしないといけないんだから・・

麗華が大切かどうかなんてわ、私にはどうでもいいし・・それよりも・・パートナーとコミュニケーションはもっと取らないといけないと思うの」

「そうだね、確かにそうだ・・。僕も任務の重圧からお嬢さんに過保護にしていたのかもしれない・・

すみませんね、お嬢さん」

礼儀正しく謝るライオットに対し麗華はどこか微笑んだように見えた

「そんじゃライオット、ちょっと手伝って欲しい事があるの・・私の部屋まで来て?ちょっと相談事があるの」

「え・・あ・・わかった。それじゃお嬢さん・・失礼しますね?」

勝ち誇ったかのように席を立ち上がるアザリアに続くライオット

二人が出て行く様を麗華は何も言わず目で追うのみであった、

全くに自分の意志に関わらず女性に振り回される性分なようである


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