三章  「迎撃」


セイレーズの進めで老婆から新たな得物を得てから数日、
何度か襲撃を受けたがすべて退けロカルノはセイレーズ邸に到着した・・
そこには何もなかったようにいつもの光景が広がっている
「ロカルノ、ただいま帰りました」
入り口の扉をたたき、そのまま中へ・・
「帰ったか・・、思ったよりも時間がかかったようだな」
そこにはセイレーズがいつものようにお茶を飲んでいる
新聞片手に見るからに優雅だ
「すみません、帰る途中に何度か襲撃に遭いまして・・」
「やはり・・・な」
見透かしたように呟くセイレーズ・・
「あの・・、ここにも・・」
「ああっ、問答無用って奴でな。まっ、『アイツ』の良いオモチャになっているよ・・」
「はぁ・・・」
アイツとはミュンの事、オモチャとは・・・

あああああああああ!!!!

奥の工房から聞こえる聞きなれない男の絶叫
・・まぁ、こういう事だ
「それで、ばあさんから得物をもらったのか?」
「はい・・、これです・・」
布を解いてセイレーズに見せる・・
「ほぅ・・・、これは・・・」
「セイレーズさんも昔使ったと言ってましたが・・」
「ああっ、今の得物を作る時にな。さらに改良が加えられて良い感じだな」
「ありがとうございます」
「よしっ、お前の得物としては上々だ。大事に使えよ・・」
「わかりました。」

ガチャ・・

鈍い音とともにミュンが出てくる
いつも通りの碧髪を括った白衣姿なのだが、男の絶叫後なのでどこか恐い
「あらっ、ロカルノ〜、無事帰ったようね。」
「はい、新しい得物もこの通り・・」
「ああっ、あの婆がね・・。ちゃんと一発殴ってきたでしょうね?」
「・・・あの・・」
「お前じゃないんだ・・・。老人に殴ることなどしないだろう」
「あれは別格よ!!」
やはり師匠とはあまり仲がよろしくない様子のミュン・・
「ともあれ、何か吐いたか?」
「ええっ、流石はミュンさん特性の自白剤♪精神崩壊しちゃったけど吐いたわよ」
「「・・・・・・・」」
「んっ?どしたの?二人とも・・」
「いやっ、でっ・・、どこの連中に依頼されたのだ?」
「まっ、詳しいことはわからないけれども、どうやらダンケルクの貴族院の法衣を着た男に
依頼されたようね」
「貴族院・・か。大方失踪した第一王子を担ぎ出してダンケルクを転覆、
そのままロカルノを王に据えて自分は影から操ろうって魂胆だな・・」
「・・・・・」
淡々と語るセイレーズ、しかしロカルノの表情は険しく怒りに満ちている
「・・・許せないか?」
「・・・はい、・・・俺には・・」
「ふっ、気持ちはわからんでもない。だが、怒りは己の剣を曇らせる。
こうした時こそ平静を保ち活路を見出さなければならないんだ」
「セイレーズさん・・」
「まっ、こいつの場合は平静云々じゃなくて無神経なだけよ・・・。」
旦那の頭をぐりぐりするミュン・・、しかし当のセイレーズは全く相手にせず・・
「ふっ・・、ではっ、大方の目星がついたならそれについて俺は調べよう。」
「ええっ、でもその前に・・・・・」
「ああっ・・」
「???」
無言でうなずく夫妻、ロカルノにはわからないようだ・・
そうしている間にもミュンは自分の得物、魔槍銃ブリューナクを手に持つ
「・・・方位良〜し、開けちゃって、セイレーズ!」
「了解だ・・」
言うがままに入り口の扉を空ける・・

轟!!!!

それとともに扉に向かってブリューナクも魔光弾が疾走する!!
光は一直線に林へ向かい、爆発・・
「ぐあ!!!」
「げぇ・・・!!」
男の絶叫が聞こえ、黒焦げの人が倒れるのが家の窓からよく見える
「やはり、潜んでいたか。どうやらつけられていたようだな・・」
開いた扉に背をもたれ、セイレーズがニヒルに呟く
「こんくらいわからないと駄目よ、ロカルノ・・」
「なんで・・わかったのですか・・?」
近くに人の気配を感じなかったロカルノが驚く
「お前も落ちついていれば気がついたかもしれない、だが俺達と合流するのに気が急いてしまい、
また、黒幕の存在に怒りをあらわにしたことにより平常心が失われていた・・っと言う事だ」
「まだまだ若いわね、まっ、セイレーズほどまでとは言わないけど、
どんな事態にも落ちついて対処できるようにしなさい♪」
「わかりました。」
「よしっ、では俺は少し出かける。放っておいてもここは襲撃される・・、ミュン、任せたぞ?」
颯爽と壁にかけてある黒衣装に着替える・・、慣れてない者が見ると正しく
一瞬の動作だ
「まっかせといて!!黒幕がくれば肉片にしておいてあげる!ほらっ!」
バッと白衣を広げる
白衣の裏側には数え切れないほどの弾丸が・・。
腰のベルトにも赤い色の弾などを装備している
「・・・・・重くないですか?」
あまりの重装備に驚くロカルノ・・
「重いわ・・・、早く全発撃ちたい・・」
「やれやれ・・、まぁ、任せたぞ」
そういうとセイレーズは音もなく外へ出ていった・・


「ほんと、頼りになる人ですね」
あっという間に地平線に消える黒服の養父に感心するロカルノ・・
「でしょ?この私が惚れるのも仕方ないわよ♪」
「ミュンさん・・、その年齢で惚れるというのは・・」
「ああん?」
「いえ・・・、なんでもないです。でも・・・、二人はどうして出会ったのですか?」
野暮だとも思いつつもツワモノ同士の夫婦に興味が湧く・・
「あらあら、ロカルノの割には随分興味があるのね?」
「父と母の出会いなんて、興味がでるものですよ」
「生意気言っちゃって〜、私達はね、同じ孤児院で出会ったのよ。お互い孤児でね・・。
小さな頃からあいつったら無愛想なのにいざとなると頼りになってね・・」
「昔からなのですね」
「そう!でもいつしか二人とも引き取られてね・・、私とある錬金術師の元に引き取られたの。
セイレーズは・・、いくら言っても教えてくれないけど・・たぶん裏社会の組織だと思うわ・・」
「・・・・」
「私の方も中々酷い目にあってね・・、錬金術師というのは表の話。
裏では人体実験大好きな鬼畜野郎だったの・・、
まっ、私も死に物狂いでそいつの書籍に忍びこんで知識を仕込んだから
なんとか死なずに済んだけど・・」
壮絶な過去を思い出し珍しく暗い表情のミュン
「ミュンさん・・」
「ほらっ、私、子供ができないでしょう?それも実験の副作用。子宮がイカれちゃっているのよ・・。
それで、なんとかあんなところから逃げ出そうとしたところをセイレーズに助けられてね。
あいつ、私の状態をどこからか知っていたみたいなの・・。
なんとか二人で逃げ切れて・・後は・・・ずっと一緒。」
「・・・でも子供ができないのに・・」
「らしくないけどね・・、悪あがきっていうやつよ。でも別にいいの。
あいつも言っていたけど私とセイレーズの子は貴方だから・・・ね」
優しくロカルノの頭を撫でるミュン
「つらいことがあっても貴方なら乗り越えていける。
そっ、いつかセイレーズみたいな立派な男になれるわよ・・、私が保障してあげる♪」
「・・ありがとう・・ございます・・」
ロカルノは普段おちゃらけな彼女の本当の姿を垣間見れた気がした


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