前編  「母への想い」



・・・強く・・生きなさい・・・
・・ロカルノ・・


「!!・・・・、夢・・?」
ベットから起きあがるロカルノ、仮面を外した素顔は驚きの表情を浮かべている

窓からは朝日が少しはいってきており
彼の資料棚ばかりの部屋を照らしている
隣にはいつものようにセシルが寝ている・・のだが珍しく歯軋りをしていない

「・・・あの人の夢を見るとは・・・な・・」
額に手を押し付けて呟く
あの人・・、彼が母と慕っていた女性。「破壊天女」として有名だった
女錬金術師ミュン=クレイトスその人だ・・

「・・あの人ってだぁれ?昔の愛人?それとも・・・今?」

不意にセシルの声が・・、見ればパッチリ目が醒めている
「・・起きていたか・・」
「まぁね、珍しく貴方がうなされていたから・・。夢でも見たの?」
布団で軽く身体を隠しながらセシルが起き上がる・・。
騎士という規律正しい生活をしていたのに彼女は寝る時はいつもスッポンポンなのだ
「あぁ・・、あの人の・・な。」
「やっぱり愛人?だったら痛い目見てもらわないと・・・・ねぇ」
にこやかな笑みのわりには言っていることはやや物騒だ
「違う、それに痛い目を見せようにもすでに天の上だ」
「そう・・、じゃあ誰なの?」
「私の・・母だ」
静かに呟く
「・・・・そう、貴方にも家族を思いやる気持ちってのがあったのね〜」
「・・ふっ、思いやりがなければお前みたいな歯軋りの酷い女とは寝ない。」
「しっつれいね〜、こういうとこも好きなんでしょ♪」
(・・・・あの人の夢・・ただの夢には思えない・・、何故だ?)
「ちょっと、無視しないでよ〜」
「・・すまない」
「・・・どうしたの?なんか浮かない顔だけど・・」
「まぁ、色々あるのさ。それよりも朝食にしよう。クラーク達はいないことだしな」
「あらっ?そうなの?」
仲間がいないことに全然気付かないセシル
昨日は朝早くから夜遅くまで街に出ていたのだ
「昨日からカーディナル王に直接依頼されてな。他国への特使として出かけている。
クローディアとキルケもついて行った」
「ふぅん・・全然気付かなかった・・」
「昨晩はお前は随分遅くに帰ってきたからな・・。
神父も今朝から隣町の結婚式に出かけている・・」
「あら〜、じゃあ二人っきりじゃない!また愛しあい・・」
「朝食は私が作る。それまで髪でも整えとけ、寝癖でボサボサだぞ?」
そう言うとロカルノは一人さっそうと部屋を出ていった

「私の話も聞けー!」

これにはセシルも怒るが、実際髪がボサボサなので素直に従う事にした・・


「・・でっ、まだ気にしているみたいだけど・・。貴方の母親がどうかしたの?」
二人だとやや広い食堂で優しく声をかけるセシル
簡単に作られた朝食はすでに平らげ食後の珈琲を飲んでいる
「うむ、あの人が亡くなってからそんな夢を見たことがなかったからな」
「・・・なんで、その人は亡くなったの?」
「お前にしては随分気になるのだな?」
「だって、ロカルノって女にほとんど興味示さないじゃない?珍しくってさ」
「お前には示しているつもりなんだがな・・」
「♪♪♪・・・たまには良い事言うじゃない♪」
滅多に言わないロカルノの思いやり発言にセシルは一気に上機嫌・・
「ふっ、まぁ私の母・・っと言っても義理だが・・。ミュンと言ってな。
女ながらに優秀な錬金術師だった」
「ふんふん」
「私は国を捨ててあの人達のところに世話になったのだが、私の第一王子という地位を利用しようとした奴がいてな。そいつを仕留める中、私と父を庇って・・」
「・・・・・そう、ごめんなさい。やな事思い出させちゃった?」
「かまわんさ。それよりも、クラーク達もいない事だ。私達二人でもできる仕事を探さないとな・・」
「ええっ!?あの3人で働いているんだからたまにはゆっくりしましょうよ?」
「駄目だ。こういう時こそ稼いでおかなければな・・。そういう訳で街に行ってくる。
お前は食器でも洗って待っていろ・・」
「えええ!私も一緒に・・」
「たまには食器洗いくらいしろ、家事一つできなかったら嫁にいけないぞ?」
嫁ぎ先の第一候補がそういう限りにはかなりの脅し文句となる
「ぐ・・、わかったわよ!その代わり街の『碧風亭』のパンケーキ買ってきてね!」
「わかったわかった・・」
ともあれ、ロカルノは軽く身支度を整え街へ散策しに行った・・

・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・
・・


それからロカルノは街に仕事を探しに行くものの何故だか気も乗らなく
さっさとセシルが欲しがっていたパンケーキを買い求め
館に戻ることにした・・・

館に戻った時にはちょうど昼時になっていた。
天気は快晴、強いくらい日が照っている
軟らかな風が吹いて草木を撫で、そこだけ時の流れが遅くなっているようだ
「・・・・・、やることもないことだ。たまにはゆっくりするか」
パンケーキを持ち、しばし考えたのち、館へと入って行った

「セシル、帰ったぞ・・・?」
・・・・・・・
返事がないのでとりあえず厨房を覗く
そこには割れた皿が数枚・・・・・
「・・・・・・、皿洗いもできんのか・・、セシル!どこだ!?」
返答もないので仕方なく相方を探す・・
勝手にでかけることはないだろうからまず一番可能性が高い居間にむかう
そこは彼女の昼寝ポイントなのだ
「・・・・セシル?」
居間にはいつもの白いタンクトップにデニムの短パンというラフ姿のセシルがいた・・のだが、どこを見るわけでもなく虚ろに立っている
「おい、どうした・・・?」
「・・・・・・」
「セシル?」
様子がおかしいのでセシルの肩を揺さぶる
「・・んっ?えっ?なんで私居間にいるの・・?ってロカルノ」
「ああっ、どうしたんだ?こんなところに突っ立って・・」
「立っていた・・って・・全然記憶がない・・、私どうしちゃったの?」
「わからん、・・?、その手に持つ珠は何だ?」
知らないうちに大事そうに手に持っている透明な珠
水晶のような物だがわずかに紫色のようだ。
しかし、それは彼らの館内にあるものではない
「え・・?おおっ!なんじゃこりゃ!?」
自分が持つ珠に仰天するセシル
彼女もはじめて見る代物のようだ
「お前も知らない物・・か?」
「ええっ、何時の間にか気を失っていたみたいだけど・・・、何?何かの呪い?
そういうのはもうご遠慮願いたいんだけど・・」
「さぁ、とにかくその珠が関係しているようだな・・少し見せてくれないか?」
「ええっ、気味が悪いから気が済んだら破壊しましょうよ?」
いい気がしないので珠をロカルノに投げ渡す
少し重みのあるその珠は宙を飛びロカルノの元へ・・
「・・・、見たところ水晶球のようだが・・・、!!」

・・・ボゥ・・・

ロカルノが珠を持った瞬間、不意に珠が淡く光り
周りの空間がグニャリと曲がる!
「何!?これ!?」
「空間が歪んでいる・・?セシル!」
急いでロカルノは珠を投げセシルの手を握る

「!!ぬぅ!!」
「あああ!!」
二人が手をつないだ瞬間、意識が無理やりもぎ取られ、
気を失ってしまった


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