第一節  「軍靴の予感」


「・・様子はどうだ?」
「全て順調です。結界の干渉を解けば一族の場所も特定できます・・これで・・」
「うむ・・」

所見の大広間にて静かに話をする一組の男女。女性は長い赤髪をしており目は鋭く見る者を圧倒させている。
位の高い煌びやかな軍服を着て玉座に座っている姿は正しく威厳そのもの
そしてその前に静かに膝をつける男性、漆黒の忍装束に口元を布で隠している
彼も眼光は鋭く只者ではないのは素人が見ても一目瞭然だ
「これでシュッツバルケル再興の足がかりになりますね」
忍の男が静かに呟く。
そう、そこは大陸でも有数の軍を保有していたシュッツバルケルの首都、
そして二人がいるのは国を動かすまさに中枢、・・それが意味するは・・
「・・・、そうだな。後は私の号令で動かすだけか」
「貴方様が自ら赴くのですか?」
「ふ・・、その方が民や兵の士気も上がろう・・」
少し微笑む女性・・、玉座に肘をかけ何やら考えこむ
「ですが、相手は伝説の種族・・下手に行動すれば・・」
「下手に行動しなければ良い、それに・・基本的な奴等の動きには慣れている」
「・・マーチス殿・・ですね。」
「・・・・・・・・」
表情を変えなかった女性がかすかに動揺した・・それでも、正しく一瞬でありすぐに無表情に戻った
「調査を進めました。・・それで、彼の居場所がわかりました」
「・・そうか」
極力平静を保っているように感じる女性だが男性にはその心情がよくわかっている
「聞いておきますか?」
「一応な・・。できれば、我が軍に従えさしたい」
「・・、彼は現在ハイデルベルク辺境の町プラハにて神父として過ごしています」
「・・・彼が・・?」
「信じられませんか?」
「難しいな、彼が神父か。・・ならば少なくとも我らの障害にはならないな」
「そうですね、では・・私は計画を仕上げを・・」
そう言うと忍びは音もなく姿を消す

「マーチス、そこまで国を離れて何をやっている・・」

一人残った女性、その男の名を口に出しつつもやがて考えはこれから行う作戦に移った・・






一方
「今日も元気だ訓練が冴える!」
ユトレヒト隊の居城である館の前にて今日も早朝から訓練を開始するクラーク
相手は最近甘えてくる事が多くなった彼の妹であるクローディア
しかし訓練となればそういう感情は不要に剣を交えるのみで真剣そのものだ
「参ります!」
放たれる一閃をクラークは回避しその隙を掻い潜って反撃をする
クローディアはクラークの体術が組み合わさった戦法に距離を開け、近づけさせないように
計算しながら戦う
懐に潜られたら手を打ちようがないのだ
「甘いぜ!クローディア!」

キィン!

「あっ・・」
一瞬の隙を突きクラークの峰打ちがクローディアの刀の柄を下からたたき上げ宙に飛ばした
「まだまだだな、クローディア」
「恐れ入ります・・」
見事に得物を弾き飛ばされて彼女も苦笑い・・、自分の未熟さを恥ながらも兄の腕に感服している

「あ・・、お二人さんここにいましたか」

そこに教会から神父が出てくる。
どうやら朝の儀式が終ったようで今から朝食の準備をするようだ。
さっぱりとまとめられた黒髪をしておりひょろりと痩せている・・正しく聖職者体形だろう
「ああっ、もう飯か。今日はロカルノやセシルもいないから皆で作るか・・って!神父さん危ない!」
見れば弾き飛ばされてたクローディアの刀『月華美人』が回転しながら神父の下へ・・
それも見事なまでにピンポイントに彼の頭上に降りかかっている
「お・・っと」

パシ・・

対し神父は静かにそれを掴んだ・・それも回転する刃を指でつまむように・・
「・・あっ、刀って指で触ったらまずかった・・ですかね?」
「い・・いえっ、また手入れをしますので。・・大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、さぁ、朝食を作りましょう」
笑いながら刀をクローディアに渡し、館へと入っていった
「・・兄上、神父さんは・・どんな方なのでしょう?」
「武芸の経験者だと思っていたんだけれども、軽々と白羽取りをしていることからしてもっとすごいのかな・・?」
「そうですね・・、あれほど自然に受け止めるとは・・」
「まぁ過去は色々あるもんだ。勘ぐるのも悪いしそのままでいようぜ?」
「そうですね。では私も汗を流して朝食の手伝いをします」
「だな、ロカルノもルザリアで親子対面しているらしいし・・一緒に汗を流すか?」
「・・・・・」
途端に顔が真っ赤になるクローディア、それにクラークも思わず吹き出す
「はははっ、そんなに緊張するなよ!」
「・・そ・・そうですね。では・・ご一緒に・・」
照れながら刀を納め中に入るクローディア、想いが伝えられてからは彼女も照れることが多くなったようだ

・・・・

「なぁ、キルケ。神父さんってどんな人なんだ?」
朝食が終わり神父が教会で仕事に入ったのを確認してクラークがキルケに聞く。
神父も最近は新しい住人ミィに儀式の事を教えたりもしているのでさらに忙しい様子・・
それでも彼は手が増えて嬉しいようなのだが
「神父様ですか?見ての通りの優しい人ですが・・」
食器を水につけ終わったキルケ、珈琲を入れながらクラーク達に渡してやる
「まぁそれはわかっているんだけどさ。
結構武力の心得があるみたいだから・・どんな経緯で聖職者になったのかな〜ってさ」
「へぇ、クラークさんが過去を気にするなんて珍しいですね!」
「まぁそうだな。前まで気にならなかったけど今日結構すごいことをやっていたから」
「・・すごいこと?」
「ええっ、今日の訓練で私の剣が兄上に弾かれたんです。
それが神父さんの頭の上に落ちたのですが彼は見事にそれを受け止めましたので」
クラークの隣で珈琲を飲みながらクローディアも説明する。お茶が好きな彼女なのだが
最近は珈琲も飲むようになった・・こちらの文化に慣れてようとしているのだ
「そうなんですかぁ・・。お母様から少し聞いたことがありましたけれども・・神父様は少し例外的に神父になれたらしいですよ?」
「・・例外?」
「そこまでは詳しく聞いていないのです。普通に接していましたので・・」
「ふぅん・・只者じゃないってことか。」
「・・・そうですね。あっ、そういえば昨日ロカルノさんから伝書が来ましたよ?」
「おいおい、ルザリアでフレイアさんと親父に会うのに伝書を送るほど重要なことか?」
昨日からロカルノとセシルはおでかけ・・、すれ違いを埋めたロカルノの妹、フレイアが疎遠だった父と会いたいということで同行した・・・セシルは関係がないのだけれどもフレイアを警戒するために無理やりついていったというわけだ
「ええっ、ロカルノさんの槍の修理がもう終るということですまないけれども代わりに受け取りに行って欲しいと言うことらしいです」
手紙を取り出しながらキルケが読み上げる。
以前の戦闘でロカルノが使用していた槍と重装鎧が壊れてしまいそれの修理を依頼していたのだ。それなりの代物故に時間がかかったようなのだ
「・・そういうのは自分で取りに行けよ・・」
「何でも、フレイアさんとセシルさんが喧嘩をはじめちゃってそれのとばっちりに足を怪我したみたいなんですって。それで帰るのが少し遅くなるみたいで・・」
「「・・・・・・」」
「大変ですね?ロカルノさん・・」
「まぁ・・、あいつの趣味だ・・。それに比べて俺たちはうまくいっているもんなんだけどなぁ」
「これは例外ですよ〜♪ねぇ?クローディアさん♪」
「そうですね・・、兄上の技量です・・」
照れながら褒めるクローディア
「そう言われると照れるな・・。まぁいいや。じゃあコレ飲み終ったらリュートのところに取りにいってくるな。お前達は?」
「家事がありますからね、残念ですけれどもお願いします」
「そうですね・・、ミィちゃんに勉強を教える予定もありますので・・」
「そっか、まぁいいや。そんじゃあちょっと出かけてくるぜ〜?」
椅子から飛び上がり出かけるクラーク、シャツにズボン姿のみなのでそのままどこでも出かけるのが彼であったり。
そして彼女二人はクラークを見送り各々のスケジュールをこなしていった


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