一章  「集いたる者」


雲が漂う大空の下、どこまでも広がる赤い土
この土地独特のもののようで草木はあまり生えていない
そんな一面荒野が広がる中、存在感を出す強固な建物。
質実剛健な黒い屋敷で威圧感を漂わす・・。
入り口には『傭兵公社本部』と現地の言葉で書かれており
入り口の門には警備の兵士が数人警戒しているのがわかる

その屋敷の中、赤い絨毯廊下の突き当たりにある
重厚としか言いようのない扉の前に立つ若い男女
一人は長めの茶髪の青年、公社支給の濃い深緑の軍服を着ており何やらやる気無さそう
制服なのだがだらしなく首元のボタンも外してある
もう一人は黒髪を大きく二つに分けて括った女性、綺麗な顔つきで同じく軍服着用
こちらも男ほどではないがこれまたやる気なさそうだ

コンコン

「16部隊所属、クラーク、ナタリー。只今参りました」
男・・クラークが大きな声で言う

『・・入れ』

中から太い声が聞こえ、それに従い彼らは扉の中へ・・
・・・・・・
その部屋は剣や軍旗などを飾っておりいかにも責任者の部屋だ
中央に巨大な机を置き、そこに座る白髪まじりの男
仙人のような白髪を無造作にし、眼光が鋭く、頬に大きな傷跡がある等、
普通の人間ではないのは誰が見てもわかるだろう

「休暇中すまないな」
腕を組みながら男が大してすまなさそうもなく言う
「・・・でっ、何の用なの?総師。何かのおとがめ?」
女性、ナタリーが大して面白みもないよう言う
二人とも態度はいいとは言えない
「いやっ、お前達は多少この傭兵公社の規則を破っているが
それ以上に成果を上げていることは聞いている。ある程度は目をつぶってやるさ」
総師と呼ばれる男が少しにやけた感じで応える
「あ〜、じゃあなんで呼んだんだ?」
「ふむっ、今言ったように君達の戦果はこちらにも届いている。
そこで・・、君に部隊の隊長を務めてもらいたいのだ」
「・・はぁ?」
「っというよりもクラーク、お前に任せたい。もちろん、異議申立ては聞かない」
両手を合わせて静かに総師が言う
これにはクラークも両手を軽く上げてリアクション
「・・まぁ、言う気もないんだけど・・、それで、21番目の隊を作るってことか?」
「いいやっ、20部隊の中で唯一空いている隊があるだろう・・」
「そういや13部隊ってなかったわね・・。
確かここいらの神さんが死んだ日が13日だから不吉だってことよね?」
「まっ、そうこだわるもんでもないのだが・・。
傭兵と言えども信心深い奴がいるのでそれを考慮してな。
だが、そうも言っていられん事情もある
クラーク、お前は本日付けで傭兵公社第13部隊隊長に任命する」
「・・・へいへい、身に余る光栄でございます・・。それで、隊員は?」
「お前達二人と軍師を一人、後はこちらからの補佐を一人つける。とりあえずはそのくらいだ。」
「えええっ!?4人かよ!?そんなの部隊じゃないぞ!?じじい!」
「これから増える予定だ。とりあえずそれで上手くやってみろ。
すでに他の二人にはそう言っている。兵舎に事務室を設置したからそこで合流してくれ。」
「・・・はぁ、何考えているんだかしんないけど、思いきったことするわねぇ」
「安心しろ、そうすぐに任務は渡さん。当分は4人で交流を作っておけ」
「了解、じゃあ行くぜ〜、ナタリー」
「ええっ、じゃあ総師さん、ごめんあそばせ〜」
大してやる気がない感じで退室する二人、
その姿を総師は少しにやけた感じで見ていた・・






兵舎





傭兵公社所属の傭兵用の居住区及びに事務所をかねている建物であり
それは一つだけではなく部隊の数だけ存在している。
但しお互い顔を見せる事はないためにそれぞれ別のところに建てられており
指令等は伝書鳩や魔法による通信でまかなっている。
13部隊の兵舎はその中でも特に小規模でどうやら武器庫兼用なところらしい・・

「間に合わせ・・、みたいだな・・」

新しい我が家を見てクラークの第一声
建物の感じとしては寂れているとしか言いようがない・・
「まぁ、いいんじゃない?その年で国営傭兵ギルドの小隊長よ?出世を祝って赤飯焚く?」
「いらねぇよ。俺は別に名を売るためにここにいるわけじゃないしな・・。」
「そう言うと思った、とりあえず待ってくれている軍師さんと補佐さんの顔でも拝みましょう〜♪」
ナタリーが勢い良く走り出す、クラークもため息一つついて後を追った


13部隊拠点兵舎は1階建てで、
入ってすぐに隊長室に食堂、さらにその二つが直結した談笑室・・。
その他には作戦会議室、大浴場と一通りの設備は揃っており彼らも一安心のようだ。
後は隊員用の部屋と武器庫・・。武器庫へ行くには何重にも鍵がかけられている扉を
通らないといけないらしく倉庫自体が封印されているようだ
とにかく団長室に入るとそこには一人の男が・・
短い銀髪に眼鏡をしており、学者服装からしても戦士ではない
因みにクラーク達も制服ではなく私服で無頓着な二人はシャツにズボンとラフな格好だ
「待ちかねたぞ?16部隊のエース・・」
眼鏡を少し上げて静かにつぶやく
知的な口調、眼光も鋭く総師までとはいかないが性格がきつそうだ
「悪いな、こちらも急な申し出だったもんでね。でっ、あんたが・・・・軍師?補佐?」
「どちらも似たようなものだが一応は軍師として作戦立案を担当する・・・。」
「そっか、じゃあよろしく頼む、俺はクラーク、こっちがナタリーだ」
握手しようと手を差し伸べるが男はそれを拒否して
「一つ言っておく、作戦に関しては私はプロとしての自負がある。
立案に関しては私に権限をもたせてもらおう」
「ああっ、別にいいぜ?俺達はそこまで頭の出来がいいわけじゃないからな〜、
まっ、ある程度の無茶なら付き合えるし・・。お前は?」
「そうね〜、まぁ面白い作戦なら大賛成よ♪
後は誰一人死ぬことなく無事終了できたら私も異議はないし〜。」
「・・・変わっているな・・、私はフロスティ。フロスティ=テンペストだ」
「よろしくな・・・でっ、補佐さんはまだなのかい?」
団長室にはフロスティしかいない・・。
「一緒ではないからな、どういうヤツか知らないが時間にルーズな奴に補佐が勤まるのか・・」

”しっつれいね!!貴方達よりも早く来て建物の様子見をしていたの!”

不意に入り口付近から声が・・
見れば背の低い女性が立っている、実際はもっと年齢は言っているのだろうが
背の低さと童顔から少女に見えてしまう・・。
長い蒼髪のポニーテールにしており、顔には小さな丸眼鏡をつけている・・
服装も魔術師風の黒めのローブだがなんだか寸法が合っていない感じだ・・
「おたくは・・・?」
「私は貴方の補佐をするように命じられたファラよ、
貴方がクラークね・・・まぁ、報告とおり抜けた顔ね〜」
「まぁよく言われるな〜、じゃあお前さんが俺の補佐をするのか」
「なんか子供みたいね〜、横暴みたいだし〜。
ちゃんとミルク飲んでる?でないと背が伸びないわよ?」
「うっ、うるさいわね!いきなり何よ!貴方!」
「ああっ、私はナタリー。こいつとは同門の仲なの。
なんでか知らないけど一緒に13部隊への配属が決まっちゃってね〜。フロピーもよろしく!」
「フロピー・・」
「まっ、まぁこいつはこういうのだから気にしないでくれ。ともかくぼちぼちやろうぜ?」
「ボチボチって・・、貴方隊長の任務がなんたるかわかっているの!?」
あっかるいクラークにファラが怒り出す、相当短気のようだ
「まぁまぁ、ヒスを起こさずに・・。俺だって周りを従えさせた事ないんだしさ。
必要以上に緊張しても仕方ないだろ?」
「・・まぁ、そりゃあ・・そうだけど・・。全然緊張感ないのはよくないわ!」
「こいつはこういうのよ、能天気なお馬鹿さんだから慣れた方がいいわ。フロピーも憶えておいて」
「フロピーは止めてくれ・・」
「せっかく人が愛称つけてあげてるのに〜」
「とにかく。一応の面々が揃った事だし、一人づつ自己紹介といこうか?」
周りを収め、軽く仕切るクラーク

「そうだな。各員の事は知っておかないと作戦立案もできん。
では私から行こう。私はフロスティ=テンペスト。元11部隊で軍師補佐として勤めていた
・・・まぁ、無能な軍師に降りまわされてここに左遷されたわけだが・・な。
私の作戦ならばどんな戦闘も勝利できる。・・そのつもりでいてくれ」
眼鏡を軽く上げ静かに言うフロスティ。
面々の仲では一番『隊長』の肩書きが似合っているかもしれない

「じゃあ次は私〜♪ナタリー=グレイスよ
元16部隊に所属していたキュートでイケてる女剣士ってやつ?因みにスリーサイズは・・」
「脱線しているぞ・・、自分の戦闘特性とかを教えろ」
「フロピーって無愛想ね!え〜っと、クラークと同じ『アイゼン流剣術』の奥義皆伝者で
刀を使うわ。接近でのチャンバラには自信があるってことでひとつ♪」
「・・むぅ・・、わかった・・」
隊長机に腰掛けてにっこり笑うナタリー。
ピースしながら明るく言う


「次は私ね。私はファラ=ハミルトン
補充補佐要員『イレギュラー』の一員よ。魔法でサポートしてあげる・・以上」
「簡単ね〜、彼女について詳しいことわかるの?フロピー」
「だからフロピーは止めろ。ファラ=ハミルトン。
『黒い炎の魔女』の異名で公社内に名を轟かしている魔術師だ。
公社でも上位に入る優秀な魔術師と聞いている」
「そう言う事。足・・ひっぱらないでね?」
入り口の壁にもたれながら小生意気に言う

「そんじゃあ俺で最後だな。俺はクラーク=ユトレヒト
ナタリーと大体一緒だけど元16部隊所属で左遷。
『アイゼン流剣術』の秘伝皆伝者・・なんだけど・・。得物はこれ」
取りだしたのは刀ではなく片刃の長身ブレード。
軽く柄に蒼い装飾がされているが実戦向きなのがわかる
「・・・貴方、刀使いじゃないの?」
「いや、折っちゃってな、公社にも変わりの業物がないからこれで代用しているんだよ・・」
「・・大した剣士ね」
呆れ口調のファラ
「武器がぶっ壊れる秘伝技なんて使うからよ〜、
もう少し物持ちがいいようにならないと一流とは言えなくってよ」
「・・うるせ〜、ナタリー。大体お前刀二本持っているんだから一振りよこせよ!」
「だ〜め、私ニ刀流の剣士なのよ〜?急に一本になったら調子でないわ」
自慢する様に自分の得物を見せるナタリー
「・・・やれやれ、とんでもないところに回されたもんだな・・」
「ほんとね・・」
口論する刀使い二人を尻目に軽くため息をつく二人。
後に伝説的な戦果を上げた13部隊はこうして幕を上げた・・



「・・でも、結局訓練の相手はお前なんだな・・?」
朝の兵舎前、自分の得物を持つ13部隊の面々
軍師であるフロスティは戦闘関係は見学のみ。
だが、一応は彼も戦闘の経験者であり魔術や剣術を扱うと本人は言っている
ファラも一応の装備をして準備をしたがとりあえずはクラーク&ナタリーとなった
「だってファイターって二人だし、ウォームアップにはこれがいいでしょう?
さぁさぁ、クラーク隊長の初戦闘よ!!」
そういうとナタリーは一気にクラークに飛びかかる!
手に持つ2本の刀が鋭く光りを放ち彼を襲う
「おっと!いつもながら猪突猛進だな!!」
ブレードでナタリーの一の太刀を弾き、弐の太刀はしゃがんでやり過ごす・・
その動作のまま上段回し蹴りへ!

「甘い!」

ナタリーはその蹴りを刀の柄で受けとめる!
そのまま一進一退な攻防へ・・
ナタリーは二本の刀での怒涛のラッシュを
クラークは長身のブレードの一撃と体術でそれに対抗している・・


「・・・年齢の割には二人とも流石だな。他の部隊の隊長クラスだ・・」
それを冷静に見つめるフロスティ。
運動が苦手なようで厚着の服を着て分析している・・・寒いらしい
「新設部隊の隊長に選ばれるだけはあるわね、じゃあそろそろ・・」
フロスティの隣で退屈そうにしているファラが魔杖片手に立体魔方陣を作り出す
「あんた達、邪魔するわよ」
そう言うと魔杖から放たれる漆黒の炎弾!

「「おおおっ!!」」

飛来する黒炎に素早く反応し飛びのく二人・・


ドォン!

二人がいた地点に轟炎を立てて消滅する黒炎
地がえぐられてクレーターになっている・・
「・・・あぶねぇ・・」
クレーターを凝視するクラーク・・

そこへ・・さらに黒炎弾が連続して・・
「おわっ!いきなりなんだよ!!」

ドォン!
ドォン!!

クラークはその爆発を走りながら回避する
「貴方が私の補佐を受けるに相応しいか試してあげる。ナタリー、いいわね?」
中断させられてつまらなさそうにしていたナタリーにファラが声をかける
「・・・まぁ〜、そう言うことなら仕方ないわね。私の分まで暴れてよろしい!
派手にやっちゃって♪」
意図がわかり途端に嫌な笑みをこぼすナタリー、こういうのが好きのようだ
「俺の発言権は!?」
炎弾回避で遠くまで走ったクラークが抗議する
「「関係なし」」
女性二人が即答で・・
「ちっ、しゃあねぇな・・。じゃあ行くぜ?ファラ」
「手加減なんてしないでね?死んじゃうから」
そう言いつつファラはさらに炎弾を連射する!
「手加減するぜ、女の子だしな」
ファラに向かって駆け出しつつ左右に飛んで炎弾を回避・・
「すばしっこいわね、じゃあこれは?」
魔方陣を変えて軽く詠唱するファラ
その瞬間・・

轟!

羽根の形をした炎が放射線を描きクラークを襲う・・
「!!」
「回避しきれないでしょう?黒焦げになる?」
勝ち誇った顔のファラ・・・
「回避できないけど・・、こうすれば!」
おもむろにブレードを振り真空刃を放つ!

真空刃の真空にて炎は存在することができずかき消されてしまう
「私の炎を!?」
「へへっ!甘いなぁ!」
クラークはその間を駆け一気にファラへ接近する
「・・・まだよ!」
目の前まで迫ったクラークに黒炎弾を詠唱する・・が!

パァン!

「きゃ!!」
それよりも早くクラークが地を這うようにスライディング!
体勢を崩し宙に浮くファラをすかさずクラークがお姫様抱っこする
「一本〜♪どんなもんよ?」
「・・・・・・・悔しいけど、私の負けね・・・・。」
呆気に取られていたがやがて悔しそうに言うファラ
「へっへ〜ん。魔術師相手には結構鍛錬しているからな。
まぁ、あの炎弾一発当たってもやばかっただろうけど」
「・・・・・・」
「んっ?どうした?ファラ?」
「いつまでこんな格好で抱っこしているのよ!早く降ろしなさい!!」
顔を赤らめながら怒るファラ・・
「・・・そんなこと気にするタイプか?まぁいいや、ほれ」
ポイっと軽くファラを投げるクラーク
「にゃ!?」
これにはファラも予想できずに・・

ゴン!!

・・派手に尻餅ついた・・
「・・・ちょ、ちょっと!普通そういうのって優しく降ろすのが礼儀ってもんでしょう!!」
「いやっ、普通に着地できると思っていたんだけど・・」
「私はそれほど運動神経はよくないの!貴方みたいな筋肉馬鹿とはいっしょにしないで!!」
尻餅ついたのがよほど悔しいのかそれからファラはクラークへ小言を連発・・
クラークも苦笑いするしかなく訓練はこれで終了のようだ
「・・どういう感じなの?フロスティ軍師さん?私の剣は結構いけるってことはわかったんじゃない?
斬りこみ役には大いに役立つわよ〜♪」
そんな二人を尻目にナタリーがフロスティへ・・
「大体の目安はわかった・・後は実戦データだな・・」
つまらなさそうに呟くフロスティ。
和やかな雰囲気の中、ファラの小言がいつまでも続いた・・


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