終章  「そして新たな道へ・・」


一同がジャンヌ一味のアジトで世話になっている数日で
グラディウスの体勢は見る見る変わっていった・・
グラディウス国は王族が何者かに殺害された事と、
先日まで国をまとめていたダグラス王子とそれを取り巻く数人が忽然と姿を消したゆえ
国営が困難となりサマルカンドの手でまとめている
サマルカンド議長ラファイエットも快くそれを引き受けとりあえずは落ちつきを戻している

傭兵公社についてはその大多数が死傷・・。
もはや国での運営は不可能な状態とあり、
サウスヴァージニアの人間もグラディウスへと追い払い公社一帯は立ち入り禁止となった
・・13部隊の生活道具はそんな中でもジャンヌ一味が取りに行ってくれたのだが・・

そして・・・
「・・・よし、もう大丈夫だな・・。すまないな、ジャンヌ。色々世話になって」
「だからいいって。あんた達がいなかったらあたいらもとっくに処刑されているんだしさ。」
重傷だった身体もアジトでの生活により快調へと向かい旅支度を整えるクラーク、
ここでの休養ももう終わりのようだ
「みんなは・・?」
「表で集まっている。全員準備ができているよ」
「わかった・・じゃあ俺も遅れないようにしないとな・・」
そういうと手荷物をまとめて部屋を出るクラーク
一人になったジャンヌは静かに窓の風景を見つめている
少し長くなった金髪は心なしか女の子しているのか綺麗に整えている

ガチャ・・

「・・いよいよお別れ・・だな」
扉が静かに開き、そう声をかける男・・フロス
彼も包帯が取れていつも使用している旅人用のマントを着ている
「そうだ・・ね。あんたはどうするの・・?」
「・・、グラディウスで暮らすには辛い思いをした。
どこかで傭兵団でも立てて治安の維持でもするつもりだ」
「・・あんたの頭なら・・すぐ有名になるわね」
笑いながら振りかえるジャンヌ、笑っているものの・・何かを堪えている
「・・・、そうだな」
「・・あの・・さ。ここで・・残って一緒に暮らすってのは・・どうかな・・あの・・」
一気にそういうジャンヌだが途中でフロスに口を指で押えられた
「・・私は表に生きる身だ。君は裏から離れられない・・」
「!!・・やっぱり・・そうだよね・・」
フロスの冷たい言葉、それにうつむき、肩を震わせるジャンヌ
「だが・・、私が落ちついた時に・・。君を迎える。もちろん君の家族もな」
「・・フロス・・?あんた・・」
「正攻法で片付けられない事もある。裏の人間も必要だからな・・。
それまで・・待っていてくれないか?」
「・・・ああ・・・必ず・・迎えにくるんだよ!!」
「ジャンヌ・・」
静かに唇を重ねる二人、彼女が恩ということで協力した裏には二人しか知らない
事情があったようだ・・・



一方アジトの前では13部隊の面々が集まっている
アジトの面々には全員挨拶を済ませており、水入らずということでジャンヌ一味も中から覗いている
「さて・・、後はフロス副隊長か。妙に遅いな・・」
「クロムウェルさん、もう副隊長じゃないんですよ?ねぇ隊長?」
旅支度を整えたクロムウェルとアル・・。
公社の制服を着ておらずそれぞれの身体に合った旅人の服装だ
「アル、俺も隊長じゃないぞ?」
「あ・・、そうでしたね・・」
「まぁ、こういうのは慣れだしな。急に治らないってさ。」
笑いながらそう言うクロムウェル、そうこうしているうちにフロスが出てきた
「・・・待たせたな?」
「おいおい、随分遅かったな?トイレ?」
「部隊を代表してジャンヌに礼を言っただけだ」
フロスの冷静な一言・・しかしそれに気付いたシグマが静かに口元を上げた
「そっか・・、じゃあ全員揃ったし・・そろそろか・・。
オホン・・さて、皆の傷も治ったし今日この日をもって傭兵公社13部隊を解散することにした」
「「「「・・・・・・」」」」
「公社が崩壊し、俺も隊長という役割に重みに耐えられないこともあってな。
これからは各自思うように生きてくれ!以上だ!」
至って明るくクラークが叫ぶ

「そうですね・・、皆さんお世話になりました!」
「おう!アルは今後どうするんだ?」
「旅先で出会った友人の所で世話になりたいと思います。
なるべく迷惑かけたくなかったんですが・・」
「そっか・・、元気でな・・。」
彼を気にかけていたクロムウェルも素直にアルの生きる道に激励している
「そういうクロムウェルさんはどうするんですか?」
「俺か?俺は殴る蹴る以外に何か切り札が欲しいと思ってな。修行に出るよ」
「修行か・・、お前の口から聞けるとは思わなかったなぁ」
「へっ、そう言っているのも今のうちだぜ!クラークさん!
今度会った時こそ・・かならずあんたを倒して見せる!!」
入隊してから果たせずにいる目標、全員を目の前にして新たな決意として指差している
「・・おおっ、いつでもこい!まぁ、死にもの狂いじゃないと俺には勝てないぜ?」
「わかってるよ!・・フロスさんはどうするんだ?」
「私か?しばらくは放浪の旅だな・・落ちつける場所を見つけたらそこで自衛団でも作るつもりだ。
・・シグマは?妻の元へ帰るのか・・?」
「・・・・、そうですがその前に一つ頼まれ事がありますので・・」
「頼まれ事?」
「俺がシグマに頼んだんだ。カムイに住むナタリーの妹にあいつの髪とこの刃、
そして書きかけの手紙を届けて欲しいんだ」
一式を包んだ袋をシグマへ渡すクラーク・・
「クラークさん・・、あんたが行くべきじゃないのか?なんなら俺が・・」
「いやっ、俺はあいつに会う資格はない。
それに・・お前が言って伝えられるか?愛していた姉の死を・・」
「・・・・そ・・それは・・」
「・・・、クロムウェル、気にするな。こうしたことは私向きだ・・。
それが終われば木こりとして生活をするつもりだ」
「戦士は引退・・か。名残惜しいな・・」
「・・・、クラークさん。貴方は・・」
「ファラを葬る。どこか静かな綺麗な景色のところにな・・。後は冒険者にでもなっているよ」
勤めて明るく・・、彼が一番傷ついているのは全員が承知しているのだ

「しみったれた話になったな・・じゃあそろそろ行くか!!みんな!また会おうぜ!」
「ああっ、俺達はまた会う!いつか必ず!」
「その時まで、精一杯行きましょう!!」
「・・ふっ、そうだな。では・・・」
「・・・・・、ああっ・・」

「「「「「我は振るう、正しき剣!己が信ずる道を駆けて!!」」」」」
全員拳を合わせて叫ぶ。それはかつて13部隊が掲げていた掟でもあった



・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・



数ヶ月後・・・

戦争の足音が聞こえてきそうな街道を歩く碧髪の青年・・アル
「・・アレス君、こんな状態で大丈夫なのかな・・」
軍テントが見える辺りを見渡しながら目指すは友人の館
そこで悲劇が待っているとも知らずに・・・・




「やれやれ!んな山奥に道場なんてあるのか!?」
険しい山道、雲も下に見えておりおおよそ人が住める状況ではない
「これでガセだったらほんと、たまんないよな・・」
結構後悔しているクロムウェル・・。しかし遥か頭上に門のようなものが飛びこんできた
「・・?あれか。・・見ていてくれ、姉御。俺はもっと強くなる!!もっと・・もっと!」
気合いとともに門へ向けて走り出す。
彼はそこで後にパートナーとなる紫髪の青少年と出会う事となる・・




晴れ渡った街道・・。
位置としてはハイデルベルク国の海岸線沿いの人通りの多い街道だ
そこをゆっくり歩くマント姿のフロス・・
「・・、それで、私の後をつけてジャンヌに知らしているのか?」
付かず離れず後を歩く一見普通の男に声をかける
「わかっていましたか・・」
「伊達や酔狂で傭兵はしていないさ。・・あいつも心配症だな・・」
「親分も本気ですので・・。貴方がいなくなるのはよほど寂しかったらしく・・」
「ふっ、では、早めに迎えにいかなければな・・。
それと、姿を暗ますような事はしないから安心しろと伝えておいてくれ。
監視されるのは好きじゃないのでな」
「・・恐れ入ります」
「・・ふっ」
快晴の中苦笑いをしながら進むフロス・・
悪い気がしないままに海が見渡せる町へと到着した





東国
木々も特殊な種が生え並ぶ道を一人歩く巨漢の旅人・・シグマ
のっしのっしと歩くその姿は熊のようでもある
周りが赤く染まった木の葉の中、それが開けたところに庵がある
そしてその前、落ち葉を掃いている一人の若い女性が・・
右目に眼帯をしているがその風貌はナタリーと良く似ていて・・・・・
「・・・、失礼。ここはアイゼン流剣術の道場ですか・・?」
「・・・はい、・・師範に用ですか?」
見るからに道場破りとでも思ったか警戒している女性
「・・・、いえ、ここにクローディアという女性がいると聞いてやってきました」
「クローディアは私です。」
「そうですか・・、実は・・クラークさんから伝言を・・」
「兄上が・・!?」
「はい・・、実は・・」
ゆっくりと事情を説明するシグマ、
それが終わるのを待たずしてクローディアは声を殺して泣き崩れた・・


そして・・


「すまないな、ようやくゆっくり休めるだろう?」
海に近い小さな雑木林。そこにクラークはファラの遺体を埋めて墓を作ってやった
「・・・、このネックレスと丸眼鏡は持っておくよ。ここに埋めるよりかはいいだろう?」
誰も応えず波の音だけが辺りに響いている
総師との戦いでグチャグチャになったファラの羽根十字のネックレスを握りながらそう呟く
「・・とりあえず、どうしていいかわからないが・・がんばってみるよ。
お前を失った事は辛いけど・・立ち止まっていたら怒るだろ?
だから、俺は行く・・。安心して眠ってくれ・・ファラ」
決意を胸に墓に背を向けるクラーク・・

(がんばれ・・クラーク・・)

立ち去ろうとしたその時、ファラの声が聞こえたような気がした
振りかえって見たがそこにはただ波の音しか聞こえず時が止まったような静けさが支配していた





・・・傭兵公社13部隊・・
畏怖されてきた極少数部隊は静かに解散してそれぞれを道を歩き始める
死んでいった者の気持ちを受け、悲しみを振り払うかのように・・


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