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第六節  「襲撃」






・・・・・・・・

二人が北島の森林に入って二日が経過した
最初にウルフの襲撃があってからというもの定期的に獣の襲撃に遭いその都度二人は撃退していく
厳しい環境ではあるのだがクローディアにとってみればさほど大したものではないようであり
野営等も万全でありミズチも安心して彼女に続いていく
そして三日目の昼、事態は急変するのであった

「・・今日は天候が悪いですね。その分冷えも強い・・気をつけましょう」

木々の隙間から見える空はどんよりと鉛色をしており肌を刺す風は強さを増している
それでも涼しい顔をしているクローディアなのだがミズチの方はかなり耐えているように見える
「そ・・そうですね・・。でもこんな環境で阿闍梨って住めるんでしょうか?」
「確かに人が住むには困難な処かもしれませんが修行僧が住まうには適した環境なのかもしれませんね」
そう言いながらゆっくりと歩を進める
雪が積もった大地は歩きづらく周囲に伸びた木々は方向感覚を狂わせる
相当なサバイバル技術がなければまず遭難してしまい命を奪われるだろう
それはクローディア達も同様、恐らくミズチ一人ならば一晩で迷っていただろう
もちろんクローディアにしてもこの周囲が全て同じ状況で的確に目的地に迎えるほどサバイバル技術は高くない
そこで式神にてチグサと定期的にやりとりを行い、
なおかつ迷わないように目印として等間隔で木の枝を雪の地に刺して来た道を確認しながら進んでいるのだ
こうした技術は隠密を得意とする忍の専売特許、道なき道を進むためのコツを学びながらそれを実践していく
「これだけの地で住むとは、相当精神修行をしている証拠ですね」
「そうですねぇ・・戦巫女も人里離れていますけどここまですごくはないですよ」
同種とも言える戦巫女もある程度世俗からは離れて生活をしている
だが阿闍梨は民の暮らしに関わりを持っており戦巫女はむしろ関わりを避けて陰で役割を果たしている
そうともなれば戦巫女の方が秘境じみたところに生活をしていそうではあるのだが
阿闍梨の総本山ともなればまた違うようだ

「・・、クローディアさん」

しばらく進んだ後、不意にミズチが声をかける
どうやら何か異常を察知したようであり声にも緊張が伺えた
「どうしましたか?」
「───今、結界の中に入りました」
「・・・・そうですか。どういう特性の物なのかわかりますか?」
変化に気付かなかったと言えど流石は歴戦の戦士、
クローディアは顔色一つ変えずミズチに問いかける
「いえっ、どういう結界なのかはわかりませんが・・身体や精神に影響は出ていないですから恐らくは探索系だと思います」
「・・つまりは・・相手に気付かれたと?」
「そうですね・・驚きました、私達戦巫女ならば踏み入れる前に結界の存在に気付くと思っていたのですが
この結界・・踏み込んでもよほど気をつけないと気付かないくらい良くできています」
「なるほど・・道理で私には何も感じ取られない訳です」
「気をつけてください、この状況だと何時仕掛けられてもおかしくないです」
「・・そうですね。現に二人ほどこちらに近づいてきているようです」
結界の存在には気付かないけど気配には敏感なクローディア
人が近づいてくる感覚を素早く察知して刀に手を伸ばす
ミズチも慌てて符に手を伸ばし緊張が二人を包み込んだ
そして

『人か?』
『このようなところで何をしている?』

木々の間から姿を見せるは白い法装束を着込んだ若い娘
手には銀色の錫杖を持ち髪型は二人とも同じでさっぱりとしたもの
質素な見た目とは違い二人ともどこか神秘的な雰囲気を出している
「その容姿、阿闍梨・・」
「いかにも。我らは阿闍梨だ。それよりも貴方達は何者だ?
ここは人が立ち入るには過酷な秘境、迷い込んだにしても不自然だ」
ぽつりとこぼしたミズチに対して凛とした姿勢で返す
余りにも堂々とした振る舞いにミズチは返答に迷うものの・・
「私達はカムイ王の使いとして阿闍梨達の視察を命じられました」
代わりにクローディアが即座に返答する
「カムイ王の使い・・。証拠はあるのか?」
「ここにカムイ王家に認められし武士(もののふ)に贈られる勲章があります」
「・・確かにそれはカムイ王家の紋。・・して視察とは・・?」
「国中の阿闍梨が突然いなくなっては王も驚かれます」
「・・なるほど、それもそうか。こちらとしても急を要する事態故にそうなった故に報告が遅れた。
その事については謝ろう」
「・・急を要する事態・・?」
「その通りだ。今我ら阿闍梨は重大な使命を目の前にしている」
「──・・それは各地に派遣された者達を突如呼び戻してまでの事・・ですか?」
「やむを得ぬ事だ。いずれこちらから報告をするつもりであったが使いがきたのならばちょうどよい。
総本山で事情の説明をさせてもらおう・・
ここにいれば凍え、いつ獣に襲われるかわからんからな」
凛とした声のままそう言う阿闍梨、その声には策謀の色は感じられないが・・
(ど、どうします?クローディアさん・・)
思わず小声で尋ねるミズチ・・、
事態は良く飲み込めていないもののこのまま彼女達についていっていいものかと警戒をしている
(・・・・・、こうなれば仕方ありません)
「どうされた?」
「いえっ、ならば案内をお願いします・・」
「承知した。我らについてこられよ」
クローディアの返答に対しても顔色を変えず踵を返す阿闍梨達
その後を二人はゆっくりとついていき、常に気を緩めないようにと目で合図を行うのであった



─────



銀世界の樹林の先、そこには巨大な寺院があった
大樹林の中でそこだけが綺麗に整地されており、その中で全て木材でできた建築物が存在している
その様は実に異様であり自然の中に一つだけ不自然が紛れ込んでいるかのようであった
しかも過酷な自然環境のはずなのだが寺院の外壁は汚れの一つもなく、
まるで新築のような清潔感が漂っておりそれがかえって奇妙な感覚を与える
クローディアとミズチは阿闍梨に連れられこの寺院の一室に通された。
それまでにクローディアは幾つか彼女達に質問をしたのだがいずれも明確な回答は帰ってこず
”長が説明をする”に終始していた。
ただ、この森で襲ってきた獣に関しては突如凶暴化して群れをなすようになったとの言い、
彼女達も被害を受けていると説明をした
それが本当なのか嘘なのか、クローディアは判断できかねぬ状態で寺院の一室でその長が来るのを待つことになった

「・・ミズチ、寺院に何か結界はありますか?」

「はい、ただ・・簡単な魔除け程度の結界でカムイ国内の寺院に施されているのと同じ程度のものです」

「なるほど・・ほかに何か異常は?」
「ありません。ほんと・・普通の寺院と同じですね」
「そうですか。そうともなると次にどうするか・・ですね」
「クローディアさん、カムイ王の使いって打ち明けて後についてきて・・よかったでしょうか?」
もしかしたら敵の巣に入り込んだかもしれないこの状況にミズチも不安の色を隠せない
「結界に気付かず入り込んでしまいその直後に彼女達がきた以上、あの場で姿を隠しても隠し切れないでしょう
それに彼女達が言うように迷い込むにしてはかなり森の奥地まできていましたからね・・」
「でも、もし阿闍梨が謀反を企てているのならば・・」
「そこらはいかんともし難いところですが、ひとまずここまでの案内では敵意は感じられませんでした。
敵対する者の使いをおびき寄せるにしては彼女達の動作はごく自然なものです
そこまで徹するには歴戦の暗殺者でも難しいものですから・・ね」
「じゃあ・・阿闍梨は謀反を企んでなんかなくて別の問題で集結しただけって事ですか?」
「さて・・、そうだと断定する材料が未だ少ないですからね。
ひとまずはその長の話を聞いてみましょう・・ただし、気を抜いてはいけません。
瞬時に式神を召喚し戦闘に入れる体制を維持する事・・いいですね?」
「・・はい・・」
神妙な面持ちで懐に手を潜らせ札を手に取る
その時・・

『失礼します』


透き通った声とともに部屋の戸が静かに開き一人の阿闍梨が入ってきた
着ている物は他の者と同じ装束、髪はつややかな黒で腰まで伸びており先端で軽く結ってある
目鼻立ちも整っているのだが左目は硬く瞑ったままなのが妙な印象を与えていた
「・・、七天阿闍梨院阿闍梨長リョカと申します」
クローディアに向けて一礼するリョカと名乗った阿闍梨
とりあえず敵意はないもののその存在が部屋の空気をピンっと張り詰めさせる
只者ではない・・、術者ではないクローディアにもそれは伝わり対応に頭を回転させる
「私はクローディア、こちらはミズチ。タケル王の命により阿闍梨との連絡を取りに参りました」
「タケル王のですか・・このような秘境までご苦労様です」
「いえ・・それで、早速で悪いのですが阿闍梨達が何故突然姿を消したのかお教え願えますか?」
「・・そうですね。突如として姿を消せば驚くのも無理はありませんか・・」
「急を要する事態となった・・っとは聞きましたが・・?」
「その通り。現在我ら阿闍梨は重大な役目に努めている最中です」
落ち着いて答えるリョカ、その様子に偽りは感じられない
「・・その重大な役目とは?」
「クローディア殿、何故我らがこの秘境に本山を置いているか・・わかりますか?」
「・・?人目につかぬようにするため以外にも何かあるのですか?」
「ええっ、この北島はカムイの中でも遺跡が多いのはご存じでしょう。
王の墓等として冒険者が探索に入る遺跡も多いのですが全てが全てそう言う訳でもない。
中には太古の魔物を封じている祭壇も数あるのです」
「太古の魔物・・」
「北島は古より環境が厳しい場所、故にカムイを脅かした魔物を追い詰めて封じるにはうってつけの場所だったのです。
激しい戦闘が起こったとしても被害を最小限に抑えられますからね」
彼女の言う事は正にその通り。
実際にカムイではなく大陸でもそうした魔が封じられている場所は大抵人里離れた秘境にある場合が多い。
事実か否か、魔を封じる戦闘は苛烈を極め町一つ消滅したと文献に残っている事すらあるのだ
「・・なるほど、それらの監視をするのも阿闍梨の役目・・っという訳ですか」
「その通りです。そして今封じられているはずの魔物が目を醒ましたが故にそれを封じるために阿闍梨が結集しているのです」
「で、ですが・・そんな事態でしたら報告はカムイ王まで届くはずですよ!?」
「具体的な被害が出ればそうもなるでしょう・・が、偶然冒険者が封を解きそのままそれに気付かず探索を終えたか・・
若しくはその場にいた全員が葬られ行方不明とされているか・・
詳しい状況は不明ですが今北島にいる冒険者でその事に気付いている者はいないでしょう。
ですがすでに事態は異常になってきています」

「異常・・、森での襲撃ですか・・」

「・・ええ、魔物の影響で獰猛な獣がさらに獰猛になっております。
我ら阿闍梨としてはこの事態は鎮めなければならぬため総出で取りかかろうとしているのです」
「じゃあ突然姿を消したというのは・・」
「我らが術です、緊急時に本山に戻れるように特殊な術を我らは身につけていましてそれにて我らは集った訳です」
「・・なるほど、わかりました。ではカムイ王にはそのように報告しておきます。
・・それで、魔物封印への援軍は必要でしょうか?」
「いえっ、これは我らの役目・・迷惑はかけれません。
それが済めばまた寺院の方に戻りますので今しばらくお待ちください・・っと伝えておいてください」
「確かに・・」
「それでは・・、この環境ならば早々立つのも難しい事ですし今日はこちらに泊まってください。
また明日道案内をたてるとします」
「ありがとうございます」
礼をするクローディアに対してリョカも軽く礼をし部屋を出ようとする・・が
入り口で何かを思い出したかのように振り向き・・
「そう言えば・・クローディア殿と仰いましたか──」
クローディアに対して軽く声をかける
「ええ、そうです」
「もしや、先の戦乱で活躍されたあのクローディア殿で?」
「そうです・・ツクヨ先生の二番弟子であるクローディアさんですよ」
何故かリョカの問いに対しミズチが答える・・
「なるほど・・わかりました。いえっ、ご高名は私も伺っていますので・・では、失礼します」
ミズチの言葉に軽く目を細めるもすぐに一礼をして立ち去るリョカ・・
「クローディアさん、有名なんですね・・」
「・・私自身も驚きですよ」
自身の知名度に対して全くの無頓着なクローディア
普段は無表情なのだがリョカに名を知られている事がよほどだったのか驚きの表情を浮かべている
「あははは・・でもそう言う理由で阿闍梨は集まっていたのですねぇ」
「そうですね・・、カムイだけではなく大陸でも魔物を封じた遺跡や洞窟などは存在します。
そうした場所は厳重に立ち入りが禁止されているものですが、
この地では戦乱が長く続いたためにそれを管理する者が阿闍梨しかいなかったのでしょうね」
「なるほど、でもよかったです・・謀反の噂が噂で終わってくれて・・
後はその魔物を阿闍梨達が封じたら終わりですしね」
「ええっ、では早速そのようにチグサさんへ報告をしてください」
「わかりました!それでは今日はこちらに泊まって明朝から帰るように伝えておきますね」
「そうですね・・そうしましょうか」



・・・・・・・・・・

その後、チグサとの交信を終えた二人は夕食を馳走になり早い目に床につく事となった
秘境を歩き続け戦闘を行った疲れもある事に加えて、予想していた事態を免れた事で緊張感がほぐれたらしく
ミズチはすぐに眠りにつきクローディアも静かに寝息を立てている
阿闍梨達もほとんど見かける事はなく周囲は物音一つしない
外は雪が降り始め肌を突き刺すような寒さなのだが室内はどういう仕組みなのか暖かくなっていた
「スゥ・・スゥ・・」
快適な環境故に眠りは深く寝返りすらしない二人・・


そこへ不意に異変が訪れる

・・部屋の片隅から何かが伸びて二人へと近づいているのだ
音もなく忍び寄るそれは生々しい触手であり床の所々から伸びている
それらの先端には小さな針のような物がついており怪しげな液体がそこから漏れていた
そして触手達は寝息を立てる二人を取り囲み針を向け、一斉に襲いかかる
無防備な状態で無数に襲いかかる触手、正に回避不能な奇襲なのだが・・

斬!

闇を裂く一閃・・触手はまとめて切断され得体の知れない液体をまき散らしビチビチと暴れている
その先には愛刀を抜き構えるクローディアと符を片手に防御態勢を取るミズチの姿が・・
だがその間にも触手の数は増えて行き二人を囲んでいく・・
「感覚で捉えるには限界があります、ミズチ、灯りを」
「はい・・っ!?術が・・使えない!これって結界・・!?」
動揺を隠せないミズチに触手は標的を定め襲いかかるもクローディアが盾となり鋭い斬撃で切り払う
「このままでは不利です、突破しますよ」
「・・わ、わかりました!『鳳雛』!」
印を切り彼女の周りには紅の刃が四本出現し意志を持つかのように触手へと斬りかかる
それに合わせるようにクローディアは出口へと向かい扉を蹴破って外へと出た
「森に行きます、全力で駆けて!」
「はい!」
寺院の様子など見向きもせずに雪の積もった森へと駆ける二人・・
それを応用に触手が伸びるのだが浮遊する紅の刃に退けられた
しかし、それでもクローディアは進む事を止めずに足場の悪い森を突き進んでいく
「・・術が使えないと言いましたね、結界ですか?」
「は、はい・・、チグサ様への報告をした時点では使えたのにさっきはできませんでした・・
何時張られたのか全然わかりませんでしたが完全に使用不可能な状態にする強力なものです」
「っとなると今も・・」
「はい・・。さっきから簡単なのを試みてますけどそれさえ・・」
「わかりました・・ならば極力総本山より離れます、いいですね?」
「やはり、阿闍梨は・・」
「どうあれ、あの状態で術が使えないのは不自然です。それにあの触手・・
太古の魔物退治に集っているとは言えどもあんな物が寺院内にいてそれに対処してこないのもおかしいです」
「・・・備えが当たってしまいましたね」
「捕まるよりかはましですよ」
そう言いながら月明かりがわずかに差し込む深夜の森を駆けていく
二人が触手の襲撃を回避できたのはクローディアの提案によるもの、
安心しきっているミズチに対し念のためにっと命令をしていたのだ
っとは言えどもクローディア自身もよもや本当に襲撃があるとは思ってはいなかったために彼女にしては焦りの色が出ていた

(・・あのリョカという阿闍梨の話・・偽りとは思えないのですが・・この事態からすると・・)

「・・っ!クローディアさん!危ない!」
危機を感じミズチが叫び、それに考えるよりも体が先に反応するクローディア
無意識に飛び退いたその瞬間に目の前に炎が燃え上がった
宙より人一人分はあろうかという大きな炎の塊が降ってきたのだ
「これは法術!・・まさか・・!」
周囲を警戒するミズチに対しても宙より炎塊が降りそそぐ
難なくそれをかわすものの炎は一気に雪を溶かし水蒸気が周囲を包み込んだ
『・・・』
一気に悪くなる視界・・その先にはおぼろげに白装束を身につけた女の姿が・・
「阿闍梨・・なるほど、逃がさないというわけですか」
『・・・』
返事はなし、だがその代わりに再び炎塊が現れ二人の間に降り注ぐ
「やらせない!」
炎塊に対しミズチは紅の刃を操りそれを切断する・・
しかし浮遊する刃は炎を断つとともに炎に包まれた、
どうやら炎塊は切断されるとその物体を巻き込むようにできているようであり不自然が動きで刃にまとわりついた
予想外の動きに驚くミズチなのだが、その間にもクローディアは阿闍梨に肉薄し素早く刃を走らせた
その一撃は阿闍梨の首元を正確に捉えその股体は吹き飛ぶ
一応は加減をして峰打ちで払うものの相当な力で打ったがために倒れた阿闍梨の体はピクリとも動かない
「・・殺したのですか?」
「いえっ・・ですが2,3日は目を醒まさないでしょう。大丈夫ですか?」
「ええっ・・、鳳雛の刃にまとわりついた炎は雪で何とか消せたのですが・・生身で斬りかかっていたら全身火だるまになっていましたね」
「不用意に切り払うには無理がありますか・・加えてこの足場の悪さ・・、不利ですね」
「式神が使えたらまだ対抗できるのですが・・」
「現状では仕方ありません、とにかく急ぎましょう・・っ!」
周囲を警戒する二人の近くに再び炎塊が飛びかかり炎上していく
無用な戦いは回避すべきと二人は顔を合わせて暗闇の森を駆けていった


・・・・・・・・

炎の襲撃の中森の中を走る二人・・
先ほどから付かず離れずでしつこく降り注ぐ炎塊は行く手を阻むように絶え間なく襲ってくる
しかし直接二人に対して放っているようではない

(・・誘われている・・、しかし・・)

それがわかっていても対処ができない状況に焦りを隠せないクローディア
そのまま歩を止めて迎え撃つ事も考えたのだが降り注ぐ炎塊の数からして阿闍梨は一人ではない事は明白であり
足止めを食らっていてはさらに増援を招きかねない
仕方なく追っ手を振り切ろうと全力で雪道を走る・・
やや後方を走るミズチはすでに息が上がっている、加えてクローディア自身も限界は近い
足を取られる雪道で全速で走りぬけるのは予想以上に体力を奪うのだ
何とか振り切ろうと走り続けると不意に視界が開けた・・
「・・しまった!」
思わず舌打ちをするクローディア、森を抜けたその先は断崖絶壁・・
眼下にて荒れ狂う極寒の海が広がっている
「誘導されていた・・」
息を切らしながらミズチが呟く・・二人は本山を抜け元来た道へと駆けていたのだが襲撃によりここにおびき寄せられていたのだ
そして

『予想以上に早かったですね・・』

崖に立つ白衣の女僧・・、それは昼間異変の説明をした阿闍梨長のリョカであった
「貴方は・・!」
「阿闍梨長リョカ・・」
眼光鋭くリョカを見るクローディアなのだが当人からは感情というものが伺えない
「しかし、ここまでです。お覚悟願いましょう」
そう言い錫杖を構え殺気を放つ阿闍梨長、
それは彼女の穏やかな口調とは裏腹に女僧とは思えないほどの鋭さを持っており
ミズチは無意識の内に半歩退いてしまっていた
「・・やはり阿闍梨は謀反を考えているのですか?」
「問答無用・・、鬼女の手下にもはや語る資格はありません。覚悟」
刹那に飛びかかり錫杖にて突きを放つリョカ。
刃物ではない杖による打撃なのだが攻撃の鋭さは達人の域に達しており
また得体の知れぬ威圧感を出している
恐らくは当たればただでは済まない、そう考えるよりも先に本能にてクローディアは距離を開かせた
「鬼女・・?一体何を・・?」
「災いは断つ!それだけです!」
そう言い軽く何かを唱えたかと思うと力強く錫杖を薙ぎ払う

轟!

すさまじい爆風がそこより放たれクローディアに襲いかかる
避けるよりも速く一帯を衝撃が襲いかかり彼女の動きを封じる
「・・っう!」
咄嗟に踏ん張りこらえるものの身動きは取れず・・
それも無理はない、後方に伸びる大木ですら爆風の衝撃に傾き根が地より顔が出ているくらいなのだ
「覚悟!」
とどめとばかりに四方から炎塊を放ち、身動きの取れないクローディアに襲いかかる
「やらせない!」
数の多い炎に対し鳳雛を走らせそれを食い止めるミズチ
特殊な武器である刃なのだが的確に扱い炎を切り裂いた
「戦巫女・・何故私の邪魔をするのですか?」
自身の邪魔をしたミズチに対し何故そんな事をしたのか理解できない様子のリョカ
「何故?それならこっちが聞きたい事です!何故私達を襲うのですか!?」
「・・誤解ですね。戦巫女、貴方の事などどうでも良いのです・・ですが、彼女を生かして帰す訳にはいきません」
「クローディアさんを・・?何故です!?」
「貴方が知るべき事ではありません。とっとと失せなさい・・さもなくば共に葬ります」
冷たい眼差しでミズチを見つめるリョカ
昼間会った時とはまるで違う威圧感に思わず体を震わすミズチなのだが・
「ならば、貴方を倒します!」
ここで退くわけにはいかない、クローディアの実力は知っているものの
彼女一人で倒せる相手ではないと直感で感じ取っているのだ
「・・仕方ありません。ならばせめて苦しまぬように仕留めてあげましょう」
「ミズチ、式神が使えない以上鳳雛のみで戦うには危険です。無理をしないで」
「大丈夫です、私だって戦士です!」
「・・ならば援護を。行きますよ!」
そう言いクローディアの体が跳ねる
「無駄です」
迎え撃つリョカは再び錫杖を払い爆風を巻き起こす
範囲からして回避は不可能、だが殺傷能力はなく身動きを封じる事に特化した術のようだが・・
「・・鋭!」
身動きを封じられるよりも先に鋭い銀閃が風を切る・・っと同時に指向性を持った爆風は流れを失い
凄まじい乱風となってクローディアとリョカの動きを封じた
「居合いで我が術を・・!」
「今です!ミズチ!」
「お願い!鳳雛!」
乱れた気流の中で鳳雛の刃がその外よりリョカへと襲いかかる
「くっ・・おのれ・・」
紅の刃は的確に攻撃を行うのだが、リョカは錫杖にて事もなく弾き返す
・・だが、身動きが取りにくい状況では対処はできても死角を生み出してしまい・・
「隙あり・・鋭!」
足を取られる状態でもクローディアは雄々しく踏み込み一閃を放ちリョカへ打ち込む!


斬!

「ぐぅ・・」
切っ先が定まらない状況なれどその一撃は確実にリョカの脇腹を切り裂き吹き飛ばす
「致命傷は裂けました。ですが次はありません・・何故私を狙うのですか?」
距離を置いた状況で尚も居合いの姿勢を取るクローディア
先ほどの一撃で足を取っていた風も消え失せ何時でも踏み込める状態となり
後方ではミズチも鳳雛の切っ先をリョカに向けている
「・・く・・ふふふ・・流石はあの女の手下。ならば本気を出しましょう」
「強がって!観念しなさい!」
「その台詞・・そっくり返しましょう」
そう言い軽く印を切ったかと思うと今まで閉じていた片目がゆっくりと開かれる
開かれたのは血のように紅い目・・
それを見た瞬間ミズチは得体を知れない悪寒に襲われ、クローディアはジッと目を細めた
「くっ・・鳳雛!」
「無駄です」
襲いかかる紅の刃をいとも簡単に回避し瞬時にミズチへと肉薄する
「っ!?」
次の瞬間、彼女の体は凄まじい勢いとともに吹き飛ばされる
「ミズチ!」
「次は貴方です、クローディア=グレイス!」
刹那、標的を変えて襲いかかるリョカ・・
人間の物とは思えない敏捷性なのだがそこは居合いの達人であるクローディア
ミズチの事が心配なのだがそれよりも先に身の危険に対応して素早く飛び退く
「・・鋭!」
すかさず体勢を整え素早い銀閃を放つ
「愚かな・・」
「なっ!?」
必殺のタイミングで放たれた居合いはまるで予めそれが放たれるのを知っていたかのようにヒラリと回避し
次の瞬間に無防備な背に錫杖がめり込む
「ぐ・・ぅ・・」
「自慢の居合いもその程度では悲しいものですね」
「・・はぁ・・はぁ・・」
「今の一撃で満足に剣も振るえないでしょう・・覚悟を」
「・・くっ・・霧拍子!」
「ふっ・・無駄です!」
決死の一刀を放つもののそれよりも速く、錫杖が刃となる

パキッ・・

刃が交わった瞬間、クローディアの刀身は透き通った音を奏で破壊される
「終わりです」
目を丸くするクローディアなのだが、
次の瞬間・・凄まじい衝撃と苦痛を受けその身は闇夜の海へと消えていった




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