終節  「物語は続く」


翌日・・、まだ日が昇りきらぬ状態にセシルは目を醒ました
身体は恐ろしいくらいに快調でまるで羽根のように軽くなった感じだ
周りを見ると昨日眠りについた時と全く同じ光景でロカルノが寄りそうように倒れており
床にはクラークがつっぷした状態で気絶している
「私・・・、勝ったのね・・」
自分の手の平を見てぼ〜っとしていたがやがて現実味が湧いたようだ
「ん・・・、くっ・・、どうやら、無事のようだな」
そんな中、ロカルノが静かに起きあがる・・
「ロカルノ・・、貴方、大丈夫なの?」
「ああっ・・、なんとかな。どうやら先に倒れたクラークの方が思ったよりも危険だったようだな
・・調子はどうだ?」
「良い感じよ・・。もうあの痛みは起こらないわ。」
「そうか、これでこの一件も終わり・・だな」
そう言うとロカルノは床に落ちているレイピアを取りだし部屋を出ようする
「ま・・待ってよ。どこに行くの?」
「もうこの村にいる必要もなくなった。思ったよりも滞在期間が長くなったのでな。
・・・お別れだ」
「そんな、まだ助けてもらったお礼も・・」
「・・いらん。私自身後味が悪かったから手を貸したまでだ。・・急ぎの旅でもないが・・
一箇所に留まるのは嫌いだ・・」
振り向きもせずに出ていくロカルノ
「ま・・待ってよ!」
思わずセシルが飛び起き、裸足のままで廊下に飛び出てロカルノに後から抱きつく
「・・・・、どういうつもりだ?」
「命の恩人・・、だけじゃない。貴方には離れてほしくないの。・・そんな気がして・・」
「止めておけ。私はお前が思うほど良い人間でもない。面倒事が振りかかるかもしれないぞ」
「別にいいわ。1度呪われたんだし・・」
「・・、ふぅ。他人と関わりを持つのは主義じゃないのだが・・な」
「ロカルノ・・、じゃあ・・」
「お前が抱き着いてきた以上、振り払って去っても後味が悪いからな」

”お取り込み中すまないんだけど、俺の存在忘れるなよ・・”

廊下に頭を掻きながら登場するクラーク・・
セシルが廊下に飛び出す時、何気に踏まれていたらしく首をさすっている
「・・・貴方、少しは気を効かせなさいよ」
「うるせ〜、俺だって命の恩人なんだ。不公平はよくないぜ?」
「何よ!さっさと伸びたクセして!」
「俺は魔導は苦手なんだ!あんなことしてあそこまで耐えたこと自体が奇跡だっての!」
「都合の良い自己評価ねぇ・・」
「あっ、なんだよ!ロカルノ!お前も何とか言え!」
「・・やれやれ・・」
何だかんだ言いながらもまんざらでもない様子のロカルノ
しばし口論が続いたものの結局は双方病み上がりの為に休戦になったようだ


しばらくして酒場にて朝食を取る3人
朝ということもあり客は全くいない・・。
マスターでさえ朝からの仕事になれていなく朝食を作る手つきもどこか頼りないものだった
「でっ、これからどうするんだ・・、一緒にいてやるのは良いのだが・・」
「そうねぇ・・。
私も呪いとの戦いに追われていたから治ってからのことなんて考えていなかったし・・」
「二人仲良く旅生活でもすればいいんじゃないか?」
クラークは別にどうでもいいって感じだ・・
「・・・、そうだ!クラーク、貴方冒険者へ商売変えたのよね?」
「・・あ・・・ああ・・そうだけど・・」
「じゃあここを拠点に冒険者のチームとして活動すればいいんじゃないの!!」
何を言い出すんだ、この女・・っといった感じのクラーク
対しロカルノは意外にも
「・・ふむ、それは名案だな。資金も心もとないが・・
メドューサの一件で少なからず歓迎はされるだろう」
「乗り気だな、ロカルノ」
「ふっ、こいつの傍にいると言ったからにはそれなりに生活環境を整えなければいけないのでな」
「あっ!じゃあ〜、クラークって傭兵時代隊長だったのでしょう?リーダーは貴方で決定ね♪」
「『ね♪』じゃねぇ!俺はそういう責任かかる役はもうこりごりしてるんだよ!
そんなことは言いだしっぺの手前がやれい!」
「まぁ、形だけだ。三人だけのチームでリーダー云々と言っても実際は同じだろう・・。
それにセシルがリーダーにしてみろ・・、想像つくだろう」
「・・ちっ、しゃあねぇなぁ!!」
「素直でいいわん♪じゃあ村長に冒険者としての滞在許可取ってくるわ〜♪」
そういいながら一直線で出ていくセシル
クラークはそれを唖然としている
「あいつ、あんなに強引だったか?」
「さぁな・・。」

『もし・・』

朝食を取り続ける二人に不意に精霊の声が・・
「おおっ、精霊さんか。どうしたんだ?まだ何か問題があるのか?」
『はい、あの方、以前よりも欲深くなりませんでしたか?』
「ああっ、少し強引になった・・ようだな」
『やはり・・』
「なんかあるのか?」
『いえっ、魔力増幅により悪魔の呪詛を取りこんだ副作用・・だと思われます。
悪魔の影響を多少受けて貪欲になった・・っということでしょうか』
「「・・・・・・」」
そんな事先に言っておけよ・・っと二人・・
『ですが、彼女の場合は元々欲が強いようですので、同じですか・・』
「勝手に結論つけるなよ!ねーちゃん!」
「クラーク、荒れるな」
女性なんかいないのにそんな事を叫んでいるクラークにマスターも怪訝な顔をしている
『と・・とにかく、あのお方も元気になれてよかったですね。私はこれで・・。お幸せに〜・・』
精霊の声は静かに消えていった

「・・・本当に精霊なのか?無責任な・・」
「さぁな。とにかく、男に二言があるわけにもいかない・・。
それに、あいつが変異した事に対しての責任が我々にもあるだろう・・諦めるか」
「・・ふぅ、まぁ、騒がしいのは別にいいんだけどな」
ようやく諦めがついたクラーク・・だが、不意に疑問が思い出される
「そういやロカルノ、お前、メドゥーサの一件、誰に依頼されたんだ?」
「ん・・?ああっ、それは・・」

「お兄ちゃん!」

言いかけたロカルノに声をかけるはまだ小さい少女・・。
酒場の中をキョロキョロしながら近づいてきた
服装からしてあまり裕福ではない事がわかる
「ん・・、どうした?」
「どうしたじゃないよ!お姉ちゃん助けてくれたお礼がまだなの!」
少女の言葉にクラークが眼鏡をずらす・・
「・・おい、まさか依頼主って・・」
「ふっ・・。すまない、ちょっと野暮用が長引いて徴収できなかった。」
「おっちょこちょいな仮面のお兄ちゃん!はい!これがほうしゅ〜!」
そういうと汚れた手で取り出すのは銅貨一枚。
国の硬貨の中では一番安いもので一枚だと外で一食分食べるのも心もとないくらいだ
「ああっ、確かに頂いた。・・姉さんと仲良くな」
「うん!ありがとう!仮面のお兄ちゃん!!」
そういうと満面の笑顔で酒場を出ていった・・
「・・あれだけの魔物を倒して銅貨一枚か」
「ふっ、姉の行方がわからず道端で靴を磨いていて生計を立てていた少女にしてみれば
金貨よりも貴重な物だ」
「確かに、一点の曇りのない金・・だな。だがそれをセシルに言うなよ?
割が合わないってわめくぜ?」
「違いない・・。これは使わずとっておこうか・・」
「それがいいや。」




この日、小さな村に一つの冒険者のチームが生まれた
彼らの活躍は素晴らしく、後に一人の少女と出会うまで
この村の誇りとなっていった・・・


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