番外2  「ケダモノはヘンタイと出会う」


ソシエからの依頼が終わり無事館に到着して数日
ロカルノとアミルの関係が微妙なものになった事以外は特別変化はなかった
ただ・・

「追って連絡するってわりには報酬もくそもないじゃないの・・」

館の居間にてキルケが焼いたクッキーをかじりながらセシルが呟く
お手製で香ばしい香りを立てており談笑室を包んでいたのだが本人は至って不機嫌
「報酬・・ですか?」
彼女の前でハーブ茶を飲みながら首をかしげるキルケ、最近仕事もしていないので何の事かわからないようだ
「この間ママに召集された一件よ、結構手間取ったのに何にもないって・・ねぇ・・」
「ああ〜、結構滞在期間も長かったですしね」
「ふん、妾が行けばすぐに解決できたものの・・」
何気にお茶会に参加しているメルフィ・・っと言えども彼女が飲んでいるのはホットミルク
どうやらキルケが焼いたクッキー目当てのようで一番食べている
里にはなかった焼き菓子がよほど気に入ったのかアミルが注意するほどに病みつきになっている様子・・
「アミルじゃなかったら無理よぉ、あんたの飛行は殺人的だし」
「速いだろう!」
胸を張り大いばり!
竜娘の耳に念仏・・
「だから速けりゃいいってもんでもないのよ。・・でもどうしよ?回復薬(ポーション)大量に買ったから今月ピンチなのよねぇ・・」
「そりゃあんだけの量なら相当な費用ですよね・・、一騎士団の保有量に匹敵するんじゃなかったですかね・・」
店の回復薬買占めてさらにその材料となる薬草をも買ってキルケに調合させたセシル
「そんくらいの用意は必要だったってことよ」
「・・それで、どのくらい余ったんですか?」
「・・・三日ぐらいで大半使い果たしたわよ・・ほとんど意味がなかったかも・・(ヨヨヨ・・)」
まぁセシル以外ならば間違いなく瀕死の重傷を受ける技ばかり受けてきたのだ
それも当然の結果だと言えるのだが・・
「あの量を・・三日で・・」
異常な消費量にキルケも唖然となっている。
そして自分が徹夜で調合した事が無駄になっていたかと思うと少し空しくなってきたり・・
「・・ううむ、あれだ、きっとセシルの母親はショックでこのどうしようもない性格を直そうとしているんだ。
おうおう、母親の愛は麗しいのぉ・・」
「ガキが言うな・・。ただ人間サンドバックが欲しかっただけでしょ?メイドに手を上げるわけにもいかないんだし・・」
「あははは・・」
なんだかんだ言って穏やかな午後の一時・・
そこへ

「セシルさん、郵便が届いてますよ?」

紙袋を持って買い物から帰宅したクローディアが封筒を持ちながら居間へと入りセシルへと手渡す
「・・なんか私に手紙ってパターンはもうお約束よね・・・ほら・・」
差出人の名前を見て嘆くセシル、当然その主はソシエ・・
「さっき言っていた報酬の話じゃないですか?」
「もしくは厄介事、あるいはお前が暴れて壊した備品の請求書だな」
「うっせい!・・何々・・『先日はご苦労様、報酬がまだだったので手紙を書きました。ですがその前に
今回の船の運航データを同封しているので船の魔導ブースターの開発者にそれを持って行きなさい。
報酬はその人から受け渡すように手はずしておきました。
・・尚、この指令を無視したら数日後に首が180度回転するハメになるでしょう・・』・・殺害予告じゃないの!!」
怒りとともに手紙を叩きつけるもそれに逆らえないセシル・・
母は強し・・
「おつかいですか・・、でもそんな周りくどい事をするのも変ですね」
テーブルに野菜が詰まっている紙袋を置きながらクローディアも参加
「そうねぇ・・データの報告なんて屋敷のメンテ班がやればいいものを・・
あぁ拒否権なさそうだし・・さっさと渡してくるわ」
「ふむ、遠かったら乗せてやろうか?最近飛んでおらぬから久々に全力飛行がしてみたい(ニヤリ)」
体が疼いている様子のメルフィ、もちろん飛べる口実のためだけでセシルが落ちても気にしない
「あんたの背中に乗るのはもうごめんよ!!・・それに結構ここから近いみたいね。
東に行ったところの森の奥だって」
「へぇ・・あっ、そういえばその森になにやら変わった女の人が住んでいるって聞いたことありますね
・・たぶんその人でしょう」
ゴシップ好きなキルケ、こうした情報ならロカルノにも勝る・・かもしれない
「・・森の奥にねぇ・・」
「たまにお酒とか買いに来るみたいですね、気さくでいい人だと言っていましたよ」
「気さくでいい人がそんな人のいないところで住んでいるわけないでしょ?裏では何やら怪しい事している証拠よ
まぁ、ママの知り合いならば変わり者には違いないわねぇ・・」
人の事を言える立場ではないセシルだが周囲は納得のご様子
「・・ま・・まぁお気をつけて。出かけたって事はロカルノさんとアミルさんにも伝えておきますね♪」
二コリと笑うキルケにセシルは顔を曇らす
「・・ロカルノはいいにしてもなんでアミルまで言うのよ?」
「それはもちろん、遠慮なく寵愛を受けるためじゃないですかぁ♪」
ウットリ顔なキルケさん、清純なアミルが館中に聞こえるほどの声で乱れた事にロカルノ×アミルを応援しつつある・・
「私は貴方やクローディアみたいに一人の男が複数ハベらすのは苦手なの」
やっている事は無茶苦茶なのにそういうところはきちんとしている女である
「またまた〜、そんな事気にしていたら『パツキンケダモノ』の名前が泣きますよ♪」
「んな不名誉な名に泣かれても逆に嬉しいくらいよ!大体貴方達それでいいの?眼鏡侍を独占できないのよ?」
「独占っていうか・・ねぇ、クローディアさん?」
「え・・ええ、兄上は私とキルケの二人を愛してくれています。独占なんてしなくても・・私達は満足です(ポッ)」
流石に恥ずかしいのか頬を染めるクローディア、自分で恋愛論を披露することなど以前ではありえなかったのだ
「・・異常カップルめ・・」
「・・ぬぅ・・、先ほどから何の話かよう分からんぞ?」
「簡単に言えば私が留守の間にロカルノがアミルに良い子良い子してやろうって計画が発動するかもしれないってことよ」
鼻息荒く言い放つセシルだがメルフィさん全く理解不能
・・性知識のなさは見た目相応なのだ
「頭を撫でるくらい良いではないか。心が狭い女じゃのう」
「だ〜!そうじゃなくて・・もういいわ!行って来る!」
手紙をふんだくって出かけるセシル、ガリマタになりながら勢い良く出発するのであった
「・・何を怒っているんじゃ?セシルのヤツ・・」
「まっ、好き勝手やっているわりには一途なわけですね♪」
にんまり笑うキルケ、何気に面々の中では恋愛上手なのかもしれない・・

・・・・・・・・・

目的地である森はプラハにも程近くセシルは特に何も用意せずに出発、
予想以上の近さに驚きつつも早くも到着しかけていた
「ふぅん〜、こんな森にねぇ・・」
林道はそこそこ手入れされておりちょっとしたウォーキングスポットにもいい感じである
この地域は温暖な気候で森の中だと室温も低く心地よい風が吹いていた
そして眼前には蔦が茂りまくっている館が・・
ユトレヒト隊の館よりも一回り大きい感じだが外壁などの手入れがされておらず
お世辞にもあまり美しい建物とはいえない
「・・ここねぇ・・」
いかにも怪しい事やってますって感じの館にセシルも少し警戒を強める
そこに
「お待ちしておりました、セシル様」
「わざわざこちらまで来ていただき真にありがとうございます」
顔つきが全く同じメイド二人が玄関先に立っていた
身体的な特徴からしては髪の色ぐらいでしか判断できない
「よくわかったわねぇ・・アポ取っていなかったんだけど・・」
「貴方様が参られた事はこの森に入られた時からわかっておりました」
赤い流髪のメイドが静かに言う
「我がご主人が貴方様の到着を心待ちにしております、どうぞ・・こちらに」
青い流髪のメイドが静かに言う
声質もトーンも全く同じ、双子の姉妹かとも思うがどこかしら違和感を感じる
整いすぎた顔に無感情さを持ちまるで人形のようだ
「・・(・・普通の人間じゃないってところかしらね)、わかったわ。案内お願いねぇ」
「「かしこまりました」」
声を揃えてセシルを中に迎える、機械的な動きのままに室内へと案内し出した
・・・・
室内は意外に普通、鉄の扉があるわけでもなく正しく普通の別荘館であり
外のボロボロな光景とは思えないほど手入れされていた
(・・このメイド達の仕事の良さってところかしら)
そう思っているうちに客室の一つに通された

「スレイブたんにファミリアたん、ごくろうさん〜♪」
客室のソファにのんびりと座っているは白衣姿の女性、長めの蒼髪をボサボサ状態にしておりグルグル眼鏡をつけているのが
特徴で呑気な口調が得体の知れない怪しさをかもし出している
長めのスカートをしているのだがソファ前のテーブルに足を投げ出しているのでだらしがなく見える
「貴方が手紙にあったベアトリーチェさん?」
「その通り、私がこの館の主であるベアトリーチェだよ。あんたがソシエの娘かぁ・・
思ったよりも可愛いじゃないかい」
姿勢を正しセシルをジロジロ見るベアトリーチェ、まるで珍しい生物を見たかの如くな視線に本人は少しさぶいぼを立たせる
「妙な事言わないでよ・・ってか貴方があの魔導ブースターを造った科学者かぁ・・」
「よしておくれよ、あんな不完全なままの代物のことなんて。それを完璧にするためにデータが欲しかったんだよ。
あの砲台もぶっ放したみたいだしねぇ・・。どだった?」
「馬鹿でかい怪物を丸々消滅させたからすごいもんだったわよ、まぁ仕組みは謎なんだけど・・とりあえず手紙はこれ」
軽くソシエからの手紙を投げ渡すセシル、事もなく受け取り読み出す
「・・・・・・、ふぅん・・二隻も沈めたかぁ・・相も変わらず豪快だねぇ・・
魔導ブースターの使用データは良好・・
砲台の方は臨界点突破に超爆発をするまでに間隔があり即効性ではない・・か
ふむふむ・・おっ」
「???」
「あんたの母親も中々豪快だねぇ・・。ウィンヒルの屋敷の大改修に加えて最新戦闘船の発注、おまけに
今回の一件で住み主がいなくなった兎人の島を別荘化してそこに兵器プラント建設をするから協力してくれ・・だとさ」
「んが・・、ママ・・そんなことを・・」
「ウィンクの嬢ちゃんが見積もりまでも出しているよ・・。ふぅん、こりゃ・・小国家の年間予算ぐらいあるじゃないかねぇ・・」
「・・どんだけ金持っているのよ・・ママって・・」
底知れぬ母親の財力に言葉もでないセシルさん・・
「海賊狩りはあくまで趣味だからねぇ。若い頃から大金稼いだって言われているから腐るほどあるんじゃないかねぇ」
「・・そんなにあったかしら?」
「娘にゃ贅沢させずに育てたって言ってたからあんたにゃわからんだろうさね」
セシル以上に詳しいソシエ事情を知るベアトリーチェに彼女も怪訝な顔をする
「まぁ、あいつも中々照れ屋だからねぇ・・あんたに自分の事を話すのが恥ずかしいのさ」
「あのママが・・ねぇ・・」
「一生遊んでくらすだけの金は持っているんだろうけどねぇ・・っと、先に報酬を渡しておくかい。ほれ」
ジャラジャラと音がなるほどビッシリ硬貨が入った手袋を取り出すベアトリーチェ
軽く出したところを見ると銅貨袋だろうと思ったセシル、軽い気持ちで受け取って中を確認するのだが・・
「銅貨がたくさんだと便利だけどかさばるのがちょっと・・ってぇ!これ全部・・金貨じゃないのぉ!!」
手袋の中には小金色な硬貨がずっしりと・・流石のセシルも驚愕するのだが・・
「ん・・そだよ〜?金貨単位のほうがわかりやすいだろう?」
ベアトリーチェは全く普通・・
「いやいやいやいやいやいやいや!・・何枚入っているのよ!?」
「400枚単位で分けていたから400枚ぐらいだと思うけど・・少ない?」
「・・・多すぎよ・・」
これだけあるなら数年は遊んで暮らせるだけにセシルも唖然とする
「まっ、適当に渡しておいてくれって言われたからとっておいておくれよ」
「まぁ貰うもんは貰っておきます・・」
「そんでいい〜、それよりもあんた。
ソシエの娘なら・・そっちの系統もお盛んだろう?」
ここからが話の本番と眼鏡を光らす
途端に部屋の空気が微妙な物に変化していく
「えっ・・?そっち系?」
「もちろん♪可愛い子ちゃんへの愛の強姦さね♪」
途端に卑猥な笑みを浮かべるベアトリーチェ
「ぬ・・」
「ふふふふ・・、ソシエの血を引いているなら間違いないだろうねぇ・・」
「って事はママも昔は・・まぁ今も雇っているメイド全員喰っているみたいだけど・・」
「そうだろうねぇ、若い頃は美男子大好きでねぇ・・派手な服着ては襲っていたもんさ
まぁあんたも獣人が好きってな事で捕獲するまでは大変だろうぅ?」
爽やかに笑うベアトリーチェだが空恐ろしい陰謀の香りを漂わせている
「まぁねぇ、私にかかれば大概の獣っ子はちょろいもんよ♪
・・まぁ監視が厳しくは最近はうまくいっていないんだけどね」
「そ・こ・で・だ♪スペシャル報酬としてこのステルス迷彩仕様の腕輪『プレデター』をあんたにやろう♪」
ゴトッとテーブルに置くは見たところ鉄製の腕輪を置く
表面には魔術文字が刻まれており小さな魔石が埋め込まれている
「ステルス?」
「まぁ魔力を消費して装備者の表面に光を屈折させる特殊な光膜を発生させる代物だ。
光膜の効果にて装備者は周りから姿が見えなくなる」
「・・なんか良くわかんないけど要するに姿が見えなくなるわけね」
「そうそう〜、まぁ真っ暗闇の中にいるのと同じ状態になるって言えばいいのかなぁ・・。
相手からは姿のみが見えなくて気配や匂いまでは消せないってわけだ。
まぁその点は普段から『狩り』をしているあんたなら気配を消したりすることなんて楽なもんだろう?」
「そりゃねぇ。って事は並大抵な相手ならばまったく気付かれず捕獲距離まで接近できるってこと!?(ジュルリ)」
涎垂らしながら笑うセシルさん、正しく捕食者に相応しいケダモノっぷり
「ところがどっこい!万能な代物ってのはそうは存在しないんだよねぇ・・ステルス状態は常に魔力を消費する
つまりは限られた時間でしか透明にはなれないのさ。まぁそれでも悪戯じゃなくて普通の仕事でも役立てるだろう。
有効に使っておくれ♪」
「・・いいの?」
「まっ、お近づきの印ってやつさね♪」
「なら遠慮なく♪」
楽しげに腕輪を取り試しに魔力を込めてみた
すると・・

ス・・

見る見る内にセシルの体が透けて見えなくなっていきそこには何もなくなった
「・・本人からじゃわからないじゃない・・」
「自分の手を見てみたら分かるよ〜」
「え・・うわぁ!床が見える!すごいわぁ!!」
「まぁ・・色々使い勝手があると思うから色々試してみるといいさね。・・他はぁ〜・・」
ドンっと金属製の鞄をテーブルに置くベアトリーチェ
「何?頑丈そうな鞄だけど・・小型携帯金庫?」
「そんな役割な代物だ・・中身は・・じゃあん♪」
パカっとあけた中身には衝撃緩衝物に包まれた大型試験管数本
中には碧色の不気味な液体は入っており黒く小さな卵のようなものが無数に沈殿している
「・・何?新手の栄養ドリンク?」
「ちゃうちゃう、これは魔法生物の卵を培養液に浸した状態の代物だよん♪
それも女性の膣内に入り込み暴れまわるのが大好きな物だ!」
「そ・・それってもしかして・・一部の好きモノが愛用している性戯生物ってやつ?」
セシルも冒険者ゆえにその世界の情報は耳にしている
大概は制御不能なままに暴れ被害者の女性達の子宮を使い物にならなくなるまで繁殖し
大災害を巻き起こしその掃討の依頼などの話がたまにあるようだ
「まぁ巷で事件になっているのは未熟な阿呆が作り出した物だよ〜、こいつは寿命が短いし産みつけられた卵も人体にゃ無害だ
そん代わりかな〜り激しい♪卵巣まで犯されるのがまたいいんだよぉ〜」
満面の笑みを浮かべるベアトリーチェにセシルは彼女が『本物』であることを認めた
「あ・・ありがと・・。まぁ拷問用とかにも使えそうねぇ・・」
「下手すりゃ自分用の折檻になるかもしれないかもねぇ(ニヤリ)」
「んがっ!・・え・・縁起でもないこと言わないでよ!蟲使われたらすごいんだから・・」
「ほっほう♪っとなると蟲姦は経験済みかぁ・・流石はソシエの娘だ♪」
「何が流石よ!・・まぁ安全が保障されるならもらっておくわ。使い道ありそうだしぃ(ニヤリ)」
「そうそう、物は使いようさねぇ・・。まぁこんなところかなぁ
そんじゃそろそろ帰っておくんな」
鞄を閉じそれをセシルに渡しながらベアトリーチェは立ち上がり肩の関節を鳴らし始める
「急ねぇ・・。忙しい身なのかしら?」
「さっき言っただろ?ソシエの身の回りのリフォームさ。
大規模な演習地があれば魔導ブースターも完璧にできてあの砲台の出力調整もできる。
兎人の島の別荘化にゃ非常に興味があるんだよねぇ・・」
「・・荒らさないでよ?生き残った子に取っちゃ故郷に違いないんだから」
今頃どこぞの海の上を旅しながら第二の人生を歩み出しているシーラを思い出しながらセシルは顔を曇らせる
「安心しなよ、そんな野暮な事をするほど腐っちゃいないさね。
集落があった場所とは正反対の方向に建設するつもりさ
もちろん、海域の生態系を乱すような事もしなぁい・・この天才だからできる芸当だけどねぇ。
う〜・・!!燃えてきたぁぁぁぁ!!そんじゃ早速準備するから帰っておくれ!!」
上機嫌なまま部屋を立ち去るベアトリーチェ、彼女のペースに流石のセシルも呆然としている
「・・なんか・・とんでもないことになりそうだけど・・まぁいいや。さっさと帰ろう〜」
色々と貰った代物を担ぎながらセシルは無感情なメイド二人に見送られながら館を後にした

・・・・・・
・・・・・・

「ふぅ、思ったよりも時間がかかっちゃったわねぇ」
報酬担いでユトレヒト隊館に到着したのはすでに夜、辺りは真っ暗で
室内の灯りが静かに光っている
「でもこんだけ金貨があればしばらくは遊べるわねぇ・・♪
皆で旅行とかもいいかも♪・・って!」
ホクホク顔だったセシルが一変険しくなる!
何故なら一階にあるアミルの部屋にロカルノがいるのがその窓から見えたため・・
「おのれぃ・・、よし、こうなったら!変身!」
悪知恵を働かせ貰ったばかりの『プレデター』を使い透明状態になる
(貴方達の悪行・・しかと見届けてあげるわ!)
金貨袋などを手早く隠しセシルは音もなく館へと侵入した

・・・・・・

一方そのアミルの部屋では・・
「それで・・話とはなんだ?」
私服のロカルノがアミルに話しかける、以前と違い仮面をつけたままだがその表情はなんともいえないものが漂っている
「あ・・いえ・・それは・・」
対し緊張丸出しのアミル、ベットに座りながらカチコチな状態・・
「・・一度身体を交わったぐらいでは気持ちに整理がつかないか?」
「そうじゃないんです!・・ロカルノさん・・」
「・・?」
「人と竜人では寿命が違います。それはわかっています・・ですけど・・」
真剣な顔つきなアミル、緊張しているが迷いはなくまっすぐに彼を見つめる
「ロカルノさん、私は・・貴方に忠誠を尽したいのです・・貴方と・・供にいたいのです」
「アミル・・」
「恋人などとは言いません。貴方にはセシルさんという素敵なお方がいらっしゃいます。
ただ・・私は貴方の力になりたい、貴方の傍にいるだけでいい・・だから・・」
「・・ふっ、生憎だが私は忠誠してもらうほど立派な人間でもない」
「そんなことありません!貴方は・・とても素晴らしいお方です」
熱っぽい眼差しでロカルノを見つめるアミル
整理したはずの気持ちすらそこには見えている
「アミル・・」
「何故、私の中での貴方への気持ちは大きくなるのでしょう・・。結ばれてはいけないのに・・」
「・・・・」
「それでも、自分の気持ちに嘘はつきたくありませんし、貴方の立場もわかっています」
「・・・・」
「だから私の膣に出した貴方の精液は・・私の貴方への忠誠の証・・と受け止めています
・・ロカルノさん・・、いえ・・ロカルノ様・・・どうか・・」
「・・・・・、ふぅ、好きにしろ・・」
頭を掻きながら軽くため息をもらすロカルノ、彼にはしては焦っているようにも見える
「ロカルノ様・・」
「ただし、『様』付けは止めてくれ。私はそんな身分でもないさ」
「・・あ・・はい。・・・わかりました」
「まぁ傍にいるのはかまわんが・・君はメルフィの目付け役ではないのか?」
「メルフィ様だって何時までも子供ではありません、現に貴方達と出会ってから少しづつ成長しております
・・私は見守るだけで十分ですよ」
「・・ふっ、まあ抑え役に回る事は多々あるかもしれないが・・な」
「ふふっ、そうかもしれませんね。・・ロカルノさん・・」
「・・んっ?」
「ありがとうございます・・」
静かに礼を言うアミル、目が潤んでおり歓喜に包まれている。
「気にしなくてもいい・・それよりも・・セシル。
・・いるんだろう?」
部屋の隅に向けて不意にロカルノが言う
それとともに確かにそこに人の気配が・・
(ギク!)
「え・・部屋の隅には何もありませんよ・・?」
「ふっ、ならば試してみようか・・」
ゆっくりと部屋の隅に近寄りおもむろに蹴りをかます!

バキ!

・・何もない空間から確かな手ごたえと打撃音が・・
「あいた!」
その衝撃で迷彩が解けてしまったセシル、突然目の前に彼女が現れたことにアミルは目を丸くして驚いている
「セシルさん!一体どうして・・」
「あたた・・あっ!解けちゃった・・」
「ふん、報酬で妙な玩具でも買ってきたのか?」
「ち・・違うわよ!これも今回の報酬!潜入任務の際に役立ててくれってもらった物なの!
大体!気配も消していたのになんでわかったのよ!」
強姦に使ってくれ・・っとは説明しないセシルさん。まぁ言ったら言ったでオシオキ小屋直行間違いなしなのだが
「勘だ。姿を消そうが気配を消そうがお前が傍にいると無意識にわかってしまう」
「・・ぬ・・難儀な・・」
「難儀なのはどっちだ。盗み聞きとはな・・」
「・・聞いていて後悔したわよ・・、アミルってば・・・一途だもの・・」
戸惑っているアミルに対して呟くように言う
彼女とてアミルが嫌いというわけではない
「セシルさん・・すみません・・」
「いいのいいの、キルケやクローディアじゃないけど・・貴方だったら・・ロカルノの傍にいてもいいと思うわ
まぁ今まで通りみたいな感じでいいんじゃない?」
二コリと笑うセシル、それにアミルは無言で頭を下げる
・・のだが・・
「ふふふっ、私も心が広くなったものよぉ♪さて・・」「さて、綺麗に話をまとめて水に流そうと思っていたようだがそうはいかんぞ」
不意にロカルノがセシルの首根っこを掴む!
「むぎゅ!・・ちっ・・無理だったか!」
「ふん、プライバシーというものをもう少し尊重させるためにオシオキが必要だな・・」
「あってないものでしょうが!ちょ・・ちょっと!そんなのでオシオキなんていやぁぁぁぁ・・・・」
セシルを引きずりながら退室するロカルノ、アミルはその光景を見つめながら
「・・やっぱり、お似合いですね・・」
廊下から聞こえる罵詈騒音に苦笑するのであった


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