第一節  「憎くとも・・」


大国ハイデルベルクの王都
円形で様々なエリアに分かれる大都市の中、中央にあるはカーディナル王が治める白く巨大な城・・
その中に聖騎士フレイア=クレイトスを長とするハイデルベルク情報部が存在する。
国一番の情報機関だけあってその規模は大きく、
城地下一階部分は全て情報部のエリアとなっている
長であるフレイアは王への早急な報告ができるためにその地下スペースに部屋を設けている。
他の情報部の一員も城に近いところに騎士寮を設けているぐらいなのだ

・・時は深夜、その日も仕事は終わり城は眠りにつく・・
情報部も夜勤隊員以外は休みにつき静けさが広がる
そんな中、自分の部屋にて長くスラッとした碧髪の女性麗人フレイアは
ポニーテールの髪を解き就寝の用意をしている。
着ているものも質素で年頃の娘とはかけ離れている
整った目鼻、スラっとした身体は騎士団の中でも憧れの的であるが
彼女には誰にも言うことがない思いがある

「・・・、ロカルノ・・・」

一人の男の名を呟くフレイア・・、その表情はなんとも言えないものである・・

コンコン

そんな中、不意に自室の扉を叩く音がした。
質素は部屋はテーブルとベット、クローゼット以外何もなく
おおよそプライベートというものが感じられない
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは王国指定の紺色騎士制服を着た栗毛の女性。
キチっとした身なりだがその顔は愛くるしくおおよそ騎士とは思えない
髪も肩で揃えて切られてどこか幼ささえ感じる
「どうしたの、アリー?今日は非番じゃなかったの?こんな夜遅くに・・」
「隊長、皆から聞いたんですけどこの間の特殊訓練で
聖剣の扱いを誤って大変な目にあったって言っていたから心配になって・・」
その言葉に偽りはなく心底心配した眼差しをしている
「ああ・・、大丈夫よ。あの刀に心を奪われて暴走しただけ・・」
大丈夫と言いながらかなり沈んでいるフレイア
「心を奪われるって・・聖剣がそんなことを・・」
「聖剣と言っても私が預かっている「血桜」は血を吸う魔刀よ。
何時もなら制御していたけれども今回は相手が相手だったから・・ね」
「相手・・」
「・・、私が一番憎んでいて・・、一番・・親しかった人・・。」
「・・隊長・・・」
「・・ごめんなさい、すこし疲れているの。今日はゆっくり休むわ。
アリーも私が非番の時は責任者となるんだからがんばりなさい。
・・それと、夜更かしはお肌の天敵よ?」
そういうと無理に笑って見せる・・
「・・わかりました。早く元気になってくださいね」
アリーはそれでも心配そうだがこれ以上話しては返って良くないと思い一礼をして出ていった

「・・元気・・か。母さん・・、私は・・どうしたらいいの・・?」

一人になったフレイア・・、思わずその想いを言ってしまうが応える者もなく、
ただ質素な部屋に響くだけだった・・・・



一方・・
「クラーク、数日程王都に行って来る。少し留守を頼むぞ・・」
王都より遠く離れた辺境の街プラハに近い教会。
名が知れ渡っている独立愚蓮隊こと冒険者チーム『ユトレヒト隊』の居城である
木造の館にて仮面の男、ロカルノが突如言い出す
それに対して庭先のベンチにて新聞を顔にかぶせて
転寝をしていたクラーク驚きながら起き上がった・・
「王都だぁ?なんだ、用事でもあるのか?」
見てみればロカルノはすでに準備万端
きちっとしたスーツ姿に旅人用のマントを着て馬を従えてすぐにでも出れる状態だ・・
「まぁな。野暮用も良いところだ」
「そっか・・、じゃあしばらく仕事もできないな」
「・・・ふぅ。私がいなくても仕事の一つでも見つけろ」
仮面で表情はあまり見えないがよほど呆れている様子・・
「だって、俺が出ても厄介事しか舞い込んでこないぢゃん」
「・・違いない・・。まぁいいだろう。留守中セシルが暴れ出さないようにしておいてくれ・・。
私が数日空けることを知ったら嬉々として喜ぶだろう」
「・は・・はは・・。俺には荷が重いぞこんちくしょう・・」
「ふっ、じゃあ・・な」
そういうとロカルノは颯爽と馬に飛び乗り、駆け出していった・・

・・・・

「数日・・か。セシルにはどう誤魔化すか・・」
ロカルノの留守が気付かれないように言い訳を考え出すクラーク・・だが・・・

「どんな理由か楽しみね〜・・」

頭上より危険人物Sさんの声が・・
「なぁ、なんで屋根の上にいるんだ・・?」
「ロカの監視♪」
ひょっこりと屋根から顔を出すは長い金髪のセシル・・。
「じゃあ・・・もしかして聞いちゃってた?」
「もしかしなくても聞いちゃった♪」
「・・忘れろ」
「断る」
「・・ちっ・・」
猛烈な勢いにて最悪の展開に・・
「安心なさい。今回は私もそんなに暴れるほど余裕ないしね」
しかし意外にも『私、暴れません』宣言をするセシル。
そのまま身体をくるりを回転させて着地・・、何時もの如く太もも丸だしの短パンに
お臍丸だしのシャツ姿で薄着もいいところだ
「安心って、そもそもお前、自分が暴れているって言う自覚があったんだ・・」
「うるせい!・・ちょっと複雑だしねぇ・・」
「んっ?お前、ロカルノが王都に行く理由がわかっているのか?」
「妹に会いに行くんでしょう。・・誤解・・っというかすれ違いを埋めるためにね」
苦虫を噛み潰したような表情のセシル、どうやらその複雑さをよく理解しているらしい
「妹・・?すれ違い・・?」
「そっ、あんたも妹がいるんだったらすれ違ってばかりじゃなくてちゃんとしなさいよ」
そう言うとセシルは呆れポーズを取りながら館に入っていった
「っか内容全然わからんぞ・・、おい・・」
一人取り残されたクラーク・・、とりあえずは一番の心配事は解決したので一安心はしたのだが
取り残された感がぬぐいされないのでなんとも言えない状態が続いた


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