番外2  「豹変彼女」


女騎士セシル=ローズは料理が下手だ。本人が自覚してない分タチが悪い・・
そのため、食事の用意はクラーク、キルケ、ロカルノ、クローディア、神父が担当している

クラークは傭兵出身ということもあり、保存食を利用した料理や多人数で食べれるような
煮物や鍋関係が得意だ。

ロカルノは全般おっけ〜で専用のコック服も所有している本格派。しかしコック姿でも
仮面はとらないのはお約束・・・
なんでも作れるが祖国の濃い味付けのためやや好みが偏る

キルケは家が裕福だったので食べる側、趣味でお菓子作りをしていたのでよくケーキを
作っているが「料理」はまだまだ・・・。ロカルノの傍で手伝いつつ練習中

クローディアは東の国「カムイ」周辺出身ということもあり独特な料理が多い。大抵は薄味で
いくらでも食べれるようなものなのだが、たまに蜂の幼虫などの虫を調理したものがあり
これにはキルケ&セシルは悲鳴をあげて逃げている。
クラーク&ロカルノは「美味い」の一言で普通なのだが・・

神父は主にパスタ系、聖職者なので肉とかが食べれないゆえ自然とそうなったとか・・
味付けは万人好みである意味一番安定している

因みにセシルはスープ関係が得意と言い張っているが実際出来あがるものは
致死ぎりぎりな劇物・・・
以前も親交のある騎士団に詫びで作ったスープが悲劇を生んだこともある

そして今日はロカルノの料理当番・・・

「・・ふむっ、少しキノコが足りないか・・」
教会の厨房、コック姿でロカルノが呟く。なかなか似合っているが仮面が・・
「どうしたの?ロカルノ?」
偶然前を通りかかったセシルが気づく
「いやっ、食材が足りないようでな・・」
「ふぅん、今日はキノコとベーコンのシチューね。ロカルノの得意なやつじゃない」
鍋の様子を見て言い当てる
「そうなんだが肝心のキノコが足りないんだ。セシル、すまないが裏の林で採ってきてくれないか?」
「いいわよ。どんなキノコでもいいの?」
「・・そんなこと言っているから作るものが毒物になるんだ。ほらっ、食べられるキノコの特徴を書いたメモだ。これを見て採ってくるといい」
コック服の内ポケットに入っているメモをセシルに渡す・・」
「おっけ〜、もりもり採ってくるわよ♪」
そういうとさっさと外で出ていった・・
「・・・、まぁ食材選ぶくらいなら害はないだろう・・」
料理がからむと悲惨な結果しか生まない相棒に少し不安を浮べるが
あまり気にしないことにした。
・・しかし・・・

・・・・・
「・・・キノコったってわかんないわよ〜!」
メモと実際の物とは多少ナリとも違うとこはある。そこまでセシルには見分けがつかない・・
「どうしよ?自信たっぷりに言った手前、手ぶらで帰るわけにも行かないし・・」
切り株に腰掛けて悩むセシル
「・・・・、あっ、あんなとこにおいしそうなキノコ!とにかく腹ごしらえしてから考えよ・・」
目の前に生えていたオレンジの妖しそ〜な物を生のまま一かじり・・
野生な事をする女だ・・・・
そして・・・・・・・・・・・



ガチャ

厨房の扉が静かに開く
「・・セシルか。ご苦労だっ・・・・・」
ふりかえったロカルノが固まる・・、そこにいたのはセシル・・なのだが様子が変だ・・
「ロカルノ様・・、キノコの判別ができなくて採れませんでした・・ごめんなさい!」
いきなり「様」づけをするセシル。いつもなら謝りもせず逆ギレするのに
素直に謝っている・・・・
「どっ、どうしたんだ?セシル」
「えっ?どうしたんです?いつも通りですよ。」
長い金髪をさらっと撫でる・・・、表情はいつもの気の強そうなのとはまるで違う・・・・
「この方が女性としては自然だが何か間違っている・・・」
冷や汗をかくロカルノ・・
「お〜い、そろそろ昼飯できるか?」
「クラークさん、まだ早いですよ」
そんなやりとりをしつつクラークとキルケが厨房へ・・
「あっ、クラークさんにキルケちゃん。ごめんなさい、キノコが切れちゃって・・」
「「・・・・・・・・・・誰?」」
見た目はよく知っている彼女なのだが口調はまるで違う・・
「・・セシル・・だ」
「もうっ、誰ってひどい・・、えいっ」
ツンっとクラークの額を突っつくセシル・・・
「・・嘘だ!セシルがこんな大人しい口調なわけない!!おのれ
妖怪め!成敗してくれる!!」
あまりの出来事に動転したクラークが剣を抜く!
「クッ、クラークさん!落ち着いてください!!」
必死で抑えるキルケ
「そんな・・、妖怪だなんて・・・、えぐっ・・」
いきなり泣き出すセシル・・・
その様子にロカルノは思わず仮面がずれ、クラーク&キルケも
完全硬直・・・・
結局今日のメニューは若干キノコのすくないシチューになった・・・

「・・・でっ、どうだと思う?」
食後ロカルノとクラーク、クローディアが話し合う・・
問題のセシルはキルケと一緒に花冠を作っている・・
普段は花を踏み潰すのに、今はまるで聖女のようだ・・
「妖怪・・・だと思うんだけどな〜」
クラークはあの聖女を偽物と思いこんでいる。
まぁそう考えても仕方ないのだが・・・・
「あの変貌ぶり・・、兄上がそう考えても無理はないですね・・」
流石のクローディアも変貌したセシルに唖然としたものだった・・
「だが仕草はセシルだ。食事の行儀はよかったが・・な」
「「ううむ・・」」
「セシルさんが豹変したのはいつからですか?」
不意に神父が話しかける
何時の間にいたのか三人とも気づかなかった・・
「ああっ、キノコが足りないので採ってきてくれと頼んだときはまとも(?)だったが
帰ってくるとあの様子だ」
「ふむっ、ならその採っていた場所で何かあったのでしょうね。
行って見ましょう」
「そだな、キノコが生えているというと・・・裏の林か?」
「そうだ、しかし食べられる物のメモを渡したはずなのだが・・・」
「それを守るセシルじゃないだろうしな・・・・・」
ため息つきつつ豹変の原因を探ることにした・・・・

裏の林を散策する4人。昼下がりの光がさし込む・・
一通り探してみて妖しい場所が・・
切り株の近くにオレンジ色の笠のキノコがかじられている・・

まだ新しい感じだ・・
「これを食ったようだな・・」
呆れるロカルノ
「っていうかこんな妖しいキノコを生のままで食うなよ・・・」
クラークも呆れ気味・・
「これは・・・『性毒茸』ですね」
意外にも神父がその正体を言い当てた
「・・わかるのか?」
「こいつが原因で教会に相談にくることがありますので」
「それで・・、こいつを食うとどうなるのかな?」
「・・まぁ簡単に言うと性格が逆転するんですよ」
「「「なるほど」」」
その一言に三人は納得。
「こいつは毒を持っており精神に異変をきたすのです。この世は全て陰陽で現されており
陽気と陰気の二極の間にその人の性格が当てはめられるわけですけど・・
精神に異変をきたしたら普段は隠れている陰気、または陽気などがでてしまうのです」
「っとなるとあのセシルは普段の性格に隠れた部分か」
「こうしたものはみんな持っているものですよ。誰もが凶暴であり穏便なのです。
一般の方でも豹変することがあり悪魔にとりつかれたと勘違いして教会に相談にくる人が
いるんですよ」
「なるほど、じゃあクローディアがあれを食べればナタリーみたいに四六時中しゃべるわけになるのか・・」
「どんなモノの効果でも、姉上を越えるおしゃべりなんていませんよ・・」
亡き姉のマシンガントークを思い出すクローディア
「でも・・、どうするんだ?セシル・・」
「放っておいても害はないでしょう。直に毒素も抜けますよ」
「「「はぁ・・」」」
しばらくは違和感がつきまといそうだ・・・・

帰ってみると真っ先にロカルノに近づくセシル
「ロカルノ様、はいっ、これ♪」
差し出したのは綺麗な花の冠
「これは・・・どうしたんだ?」
「キルケちゃんといっしょに作ったのですよ。きっと似合いますよ」
そっとロカルノの頭に冠を載せる
「うんっ、よく似合っている!」
「・・ああっ、ありがとう・・」
いまだに唖然とするロカルノ・・
「俺の分はないのか?」
「クラークさんにはあげません、これはロカルノ様だけ・・
この人は・・私だけの王子様なんですから・・・」
いきなり大胆発言に硬直する4人・・
「・・・、後はまかせた。ロカルノ・・」
お邪魔と感じたクラーク達はその場を立ち去った
「・・・・・・・」
「あの・・、気に触ること言いました?」
なんだか不安そうな顔をする聖女セシル
「いやっ、なんでもない・・・。花冠のお礼にお茶でもいれよう。」
「あっ、いいですよ!私がいれます♪」
「なっ!?いやっ!私がいれる!少し座っていてくれ・・」
冠をつけたまま走るロカルノ。いくら性格が変わっても作るものは劇物と睨んだのだ・・

その様子を遠くから見るクラークとキルケ
「しかし、変わりすぎてすんごい違和感だな〜」
「まぁ・・、根は良い人ってことですね」
「あいつの相手はロカルノにまかせよう・・・・。」
「そうですね♪なんだかセシルさん積極的ですし」
「なんたって『ロカルノ様』だもんな〜」
和やかに笑うクラークとキルケ
「あっ、クラークさん、はいっ」
セシルと同じように花の冠をクラークにのせる
「おっ、俺の分か?」
「セシルさんのお手本に作りました。あの人のより綺麗ですよ♪」
「ははっ、キルケも負けず嫌いだな」
「そりゃあそうですよ。あなたは・・、私の王子様なんですから・・」
顔を赤くして呟く
「えっ?俺は王子じゃないぜ?どちらかといえば戸籍もないから平民以下か!はははは!!」
「む〜、そうじゃないです!」
頬を膨らませるキルケ
それをあやすクラーク・・、いつもの風景だ

その日の夕暮れ・・、聖女は儚く消えていく
いそいそと洗濯を取りたたもうとするキルケ
そこに聖女が通りかかる・・が・・・、何やらふらふらしている・・
「あっ、セシルさん。洗濯物取り入れるの手伝ってくださいよ?」
聖女セシルは意外にも家事が好きだったので手伝ってもらおうとお願い・・
「ええっ!私そういうの苦手なのよ〜!!」
その口調はすでの聖女のモノではなかった・・
「・・セシル・・さん?」
「・・どうしたの?キルケ・・?」
様子がおかしい仲間を気にするセシル
「ク、クラークさん!セシルさんがまともになりましたー!!」
・・大声で報告・・・
「なっ、失礼ね!私はいつでもまともよ!!」
違います
その後、走ってきた男性陣にジロジロ見られ
「「まともだ」」
の一言で安堵する・・、その光景をみて俄然セシルは不機嫌になった・・・・


数日後、おかしなキノコのせいで性格が豹変していたことを知るセシル
「もう!毒回っていたなら解毒してくれたらよかったのに・・!!」
「害はないんだし、野生のキノコを生で食べるやつに解毒なんか必要無いだろ?
良く腹下さなかったな・・・」
談話室で座り話をするクラーク達・・
「これでも鋼鉄の胃袋を持っていてね!」
自慢げに腹を叩くセシル・・
「・・!そうだったのですか・・、人工の臓器とは・・・」
その台詞を真に受けるクローディア・・・
「クローディア・・、今のは例えだ」
ロカルノが静かに悟らせる
「あ・・っ、そうでしたか・・、すみません」
照れくさそうに頭を下げる
(意外にヌけているわね・・、楽しめそう・・)
セシルが一瞬邪笑を浮べた・・・・


「クローディア、ちょっと料理作ったの、味見してくれない?」
「私が・・ですか?」
翌日、たまたま仕事やなんやで館にはセシルとクローディアのみで
セシルの劇物料理を知らない彼女はその餌食に・・
「はいっ、この間ロカルノのシチューを参考にしたの」
容器に入れて渡すのはオレンジ色のキノコが・・
「はぁ・・、ではっ・・」
変わったものには食べなれている分何の抵抗もなく食べ始めたクローディア・・・

そして


「クラークさん、一杯買っちゃいましたね〜」
色んな食品を詰め込んだ袋をかかえるキルケ
「そだな〜、まとめて買っておかないとな。食料がなくなるとまたクローディアの虫料理に
なるしな」
「・・・・あっ、あれはいいです・・・・」
グロテスクな料理を思い出し顔が青くなるキルケ
「ははっ、うまいんだけどな〜。あれッ?セシルだ・・」
館の前に何故か立っているセシル
「ほんとだ、セシルさんどうしたんですか?」
「ああっ、ご両人・・、ちょっと困ってね」
「「何が・・?」」
質問に問いかけようとした途端玄関の扉が蹴り飛ばされた・・
扉の前にいたセシルは情けない声を出し飛ばされた・・・・・・
「お兄さんおかえりー!」
「・・・えっ・・・?」
そこにいたのはクローディア・・なのだが・・
「もう買い物に行くなら私をお供にしてくださいよ!セシルさんとお留守番なんて面白く無いですしここいらの町の案内するって言っていたじゃないですか。キルケさんばかりにかまっていてずるいですよ!」
普段から考えられないようなしゃべりの早さ・・
「そういえば、クローディアのお姉さんってしゃべっていないと死んでしまうような人って言ってましたけど・・」
「・・まさしくナタリーだ・・。よしよし、わかったよ。クローディア」
「いいえっ!道場時代から言いたいことがたまってます!来てください!!」
クラークの耳をひっぱり奥に連れていくクローディア
「いたたた・・!おいっ、落ちつけよクローディア!」
クラークもタジタジな状態・・

「・・・セシルさん・・、クローディアさんに何をしたんですか・・?」
「え〜っと、料理の味見を〜・・」
「ええっ!!クローディアさんよく生きてましたね!!」
「失礼な・・・、ほらっ、この間の性格変わるキノコがあるでしょ・・、ちょっと出来心で・・」
「・・はぁ、なるほど・・。」

「ともかく、作ったばかりの扉を破壊させた罪は重いな・・」

何時の間にか後ろで様子を見ていたロカルノがセシルの肩を叩いた・・・
「やったのはクローディアじゃない・・・」
「静粛に。今のお前に発言権は無い」
「あぁん、ロカルノ〜」
今度はセシルを引っ張っていくロカルノ・・

一人残されたキルケどっちも行けず立ち止まるのみ・・・
「・・神父様のところに行こっ・・」



それから数日。ロカルノのベットの横に綺麗なドライフラワーの花冠が飾られた。
あの聖女が作った物とよく似ておりプレートに小さく「from angel」と刻まれている
どこで買ってきたのかとクラークが聞いてもロカルノはお茶を濁すばかりだ・・


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