一章 「王国騎士」




遥か昔、一人の騎士がいた

国を救わんと悪しき魔族を討伐し見事討ち取った・・

英雄と化した彼だったが悪魔を倒した際にかかった

血の呪いによりやがて悪しき者へと

変貌していった・・・


「何それ?昔話?」
食堂で赤毛の髪の女性が見ている本に気づき金髪の女性が声をかける
腰まで届く長い髪・・、美しい顔立ちの女騎士セシル・・だ
「そうね、この地に伝わる文献よ」
「そういうの好きね〜、タイムは」
「こういうのっておとぎ話なものが多いけど過去の真実を述べていたものも多いのよ」
タイムといわれた赤毛の女性が応える。長めの赤毛をくくっており
セシルに負けないくらいの美女だ
「ふぅん・・、名誉ある騎士が悪魔の返り血により悪に染まる・・っか。」
呆れ口調で本を見る・・
「まあ貴方はこういうの興味無いでしょうけど・・」
「あはは・・わかる?」
「顔に書いている・・。さてっ、そろそろ午後の訓練よ」
騒がしい食堂の人々も一斉に出ていく
「全く、王都のハイデルベルク騎士団って言ってもやることは
他とかわんないのよね・・」
「ぼやかないぼやかない。さぁ、行きましょう」
食堂から出ていく人々に混ざりセシルとタイムも外に出ていった・・


ハイデルベルク騎士団
王都に設置されたハイデルベルク王国最大の騎士団。
入団されること自体が名誉であり、実力も伴わないと勤まらないエリート集団。
しかし近年の貴族の腐敗の影響も伴って不正に入団して
だらだら過ごしているボンボンもちらほら見かける・・
まぁセシルとタイムはそんな輩とは違い
真っ向から入団を許された優等生なのだが・・

・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
午後の訓練も終わり後は各々に課せられた仕事につく騎士団。
ある者は街の見周ったり、ある者は備品の整理などその内容は多種多様・・
「訓練終わってまだ仕事か〜、嫌ね〜」
延々と続くような廊下を歩きながらぼやくセシル
「セシルは訓練が好きなだけでしょ・・、今日も何人張り倒したのよ・・」
「男だけよ。遠慮したら悪いじゃない」
「全く・・」
先程の訓練でもセシルは先輩など関係無く叩きのめしていった。
その強さに男性からは呆気をとられ、女性から羨望の眼差しが送られている
「セシル。セシル=ローズ」
不意に後ろから声がかかる・・
「何?私のフルネームを知っているってことはファンかしら・・って副団長!」
振り向きながら驚くセシル・・

そこにはハイデルベルク騎士団副団長のオサリバンがそこに立っている。
不精髭にやや禿げかかった頭が特徴な『おっさん』だが中々に強いお方・・

「誰がお前のファンだ?団員の名前くらい知っていて当然だろ?」
「あっ、あはははは・・。何か用っすか!オサリバンの旦那!」
いきなりへ〜こら態度になるセシル
「セシル・・なんだか下品よ・・」
呆れ気味のタイム
「そうだ。実はセシルに一つ頼みたい事があってな」
「・・・!わっ、私これから礼拝堂のお掃除があるので・・・」
嫌な予感を察知し、その場から離脱しようとする・・
「待て。全く・・調子がいい」
騎士の白制服の襟元を掴むオサリバン
「いや〜ん・・」
「馬鹿たれ・・、実は余所の騎士団から一人うちに異動した騎士がいてな。
ここの生活の案内する適任者がいなくて困っていたんだが・・
そいつがお前を指名してな」
「一介の騎士如きが私を指名〜!?」
「セシル・・貴方も同じ立場よ・・・」
「まぁ、そういう訳だ。後にお前のとこに行く様に言っているので頼むぞ」
言う事言ってさっさと帰るオサリバン
・・・・・・・・
「・・・横暴禿げ・・・」
廊下の突き当たりに曲がったとこでひそかに愚痴る
「聞こえてるぞ」
いきなり頭だけを出すオサリバン
「!!何の事ですか!?」
「しらばっくれるな。一月減給で我慢しよう」
今度こそスタスタと去っていったオサリバン・・・・

・・・・・・・・
「減給・・だって・・」
「タイムーーー!!」
泣きつくセシル・・
「我慢しなさいよ・・」
自業自得・・、いかに仲の良い同僚でもこればっかりは・・


その後も減給処分に放心状態で礼拝堂の掃除をするセシル・・
何だか不気味だ・・
「セシル様・・どうしされたのですか?」
司祭も何やら気になっているようだ・・
「いえっ、ちょっとショックなことがあったので」
タイムが壊れた同僚に代わって説明している・・
「はぁ・・、神のご加護を・・」
セシルに向かってお祈りをする司祭・・、この方もなんだか・・
「先輩!!」
不意に礼拝堂に明るい声が響く・・
見ればボーイッシュに緑色の髪を括った女性がこちらに走ってきた
「?あんな子いたかしら・・?」
「セシル先輩!!」
セシルに近づく・・
「ああ・・、あんただ〜れ?」
放心セシル、口調も放心・・
「私クリストファーっていいます!
ルザリア騎士団から本日付けでこちらに配属になりました!」
そんなことおかまいなしに敬礼しながら元気良く挨拶している・・
「本日付け・・、まさか!あの禿げ親父の手先かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「せっ、先輩・・、苦し・・・」
激情したセシルがクリストファーの首を絞める!
「ちょっ、セシル!落ちつきなさいよ!!」
必死で落ちつかせるタイム・・・・・
しばし修羅場が続いた・・・



「でっ、貴方はルザリアってとこから来たの・・」
一日の仕事も終わり寮の自室で新人の事を聞くセシル
「はい!何度もこちらの騎士団に入りたくて届を出しました!」
「まぁ憧れるのはわかるけどね・・」
イスに座るタイムが呟く・・
因みにセシルとタイムは同室であり、
新人のクリストファーもこの部屋に厄介になることになった
「でもルザリアって・・どこ?」
「ここ、ハイデルベルクよりも西に位置する貿易都市よ?
貧富の差が激しいって有名ね」
「そうなんです!私は比較的裕福な家庭なんですけど
何時の日かルザリアの貧富の差をなくしたいと思って騎士になりました!
早くセシルさんみたいな騎士になりたいです!」
「・・私ってルザリアの騎士まで名前が知れているのね・・・」
なぜだか浮かない顔・・
「そりゃあそうですよ!
戦場で100人斬りを実践したとかたった一振りで人間8人切り倒したとか・・
『金獅子』武勇伝は全て覚えてます!!」
「なんか・・めっちゃ脚色されてない・・?」
あまりに大げさな噂に本人も唖然・・
「そうね・・、100人斬りも80人超えてから相手が逃げ出したからそうじゃないし
一振りで8人倒したのはたまたま上にあった木の枝を切り落として
それの下敷きになったからだし・・」
「まぁそういう訳よ。あんまり期待しないで。クリストファー」
「いえっ、それでも立派です!あっ、私のことはクリスと呼んで下さい♪」
「クリス・・、ね。わかったわ。それよりも厳しいわ〜」
「?何がです?」
急にうめくセシルにクリスが疑問を持つ
「セシルは今日、副団長の陰口言って減給処分にあったのよ・・。
でもそんなに落ちこむ事ないじゃない?1ヶ月でしょ?」
「・・・これ、買っちゃったの。ローンで・・」
取り出したのは白銀の剣。立派な飾りが刻まれ高価そうだ
「・・セシル。支給品のロングソードは・・?」
本来騎士の得物は支給されるものなのだ
「全部壊しちゃって・・ね。あの禿げ親父に相談して丈夫そうなの自分の金で買えって・・。
ど〜しよ〜!!生活できないわぁぁぁぁ!!」
「全く・・、そういうことならこの試験受けてみたら?」
タイムが取り出したのは何かの募集用紙
「何・・これ?」
「ブレイブハーツの使い手としての試験応募用紙よ」
「「ブレイブハーツ?」」
?マークが浮ぶ二人・・
「・・・クリスは仕方ないとしてもセシル、あなたは知っていなきゃ駄目でしょう・・」
「あっはははは・・」
笑ってごまかす駄目騎士・・
「でも何なんです?ブレイブハーツって?」
「この騎士団に伝わる聖剣の事よ。湖の妖精の加護を受けたモノで
精狂剣『荒鷹』
 炎光剣『紅輪』
 龍鱗剣『龍光牙』
 魔刀『血桜』
 氷雪剣『氷狼刹』
の5本があるの。
今回はこれまで使い手がいなかった『氷狼刹』の使い手を随時募集しているんだって」
「ふぅん。でっ、その剣もらうと何か良い事あるの?」
「そうね、『聖騎士』としての称号をもらい給料アップは確実、他にも・・」
「受けます!!」
・・・不謹慎な理由で即答・・・
こうしてセシルは『氷狼刹』の試験に受ける事になった・・


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