最終節  「剣と弓の物語」

・・・・・・
深い森に覆われた小さな村・・・
そこに向かうには細い林道を通らなければならない・・
そこを歩く一組の男女・・
「久々だけど・・、この道あっている?」
「ここを通るのは3度目なのですからいい加減覚えてください。あっていますよ・・」
「ははは・・、すんません・・」
そんなこと言いながら進む緑髪の男と、長い黒髪の女性・・・



村の詰め所
「おはようございます!セリアさん!」
バンダナを巻いた少女が黒髪を編んだ女性にあいさつをしている
「おはよう、マリーさん。見まわりの時間かしら?」
「ええっ、サブノックさんのおかげで魔物もめっきり少なくなりましたが
それでもまだ気になりますので・・」
「・・とかなんとかいって、アルさんを待っているのでしょう?」
にやけるセリアと呼ばれた女性。
「・・それもありますが・・、決してあの人に会いたい理由だけではないですよ!」
「ふふっ、そういうことにしておきますよ」
「・・それよりもサブノックさんは?」
「屋上で精神統一だって・・。」
「あの人も好きですね・・」
「しょうがないわよ、性分だもの」
和やかに会話する二人・・、
そこへ・・

トントン

「こんちわ〜!今回は迷わずにこれたよ〜」
男の声がした。妙に優しい声だ・・
「・・・!!セリア・・さ・・ん?」
「・・彼ですよ。いってあげたら?」
返事も無しに扉に駆け出すマリー・・

バン

「アル―!!」
ずっと待っていた男に抱きつく・・、はずだった・・
・・・・・・・・
「・・お久しぶりです。マリーさん」
マリーが抱きついたのはアルの隣にいる女性、レイブンだった・・
「・・・その声・・・、まさか・・レイブンさん!!?」
「おやっ、おぼえていたのかい?マリー」
「アル!えっ、・・レイブンさんって女性だったのですか!?」
「・・声で判断してもらいたかったですね・・。女ですよ。」
呆れ顔のレイブン。まぁ丁寧な事務口調なので男女の区別がしづらいといえばしづらい・・
「アルさん、おかえりなさい」
詰め所から出てくるセリア・・
「やぁ、ひさしぶり。セリアさん。サブノックは?」
「屋上にいますよ。呼んできましょう」
そういうとパタパタと足音を立てて奥へ向かうセリア
「・・・・、久しぶり、マリー」
「・・ほんとっ、あのまま村にいてくれたらよかったのに・・」
「ははっ、すまないと思っているからセリアさんとサブノックをここに来させたじゃないか?」
「人手のことじゃなくて・・、その・・、いいわよ!もう!」
「??」
何の事かわからない感じでアルは頭を掻く。
やがて、彼らを迎える祝賀会の準備が行われ始めた・・

アル達の祝賀会は詰め所で静かに行われた・・
村長達もアルが来た事は知っているがとりあえず身近な人間だけでゆっくり話を
したほうがいいとのはからいで村人達は出席していない・・
・・・
宴でアルはレイブンが人間になれたことを報告。
セリア、マリー、サブノックはとても喜び彼女を祝った・・
レイブンも照れくさそうに応対している・・・・・
「あ〜、アル殿・・・、小生からもひとつ伝えたいことが・・」
猟犬姿の悪魔サブノックが気まずそうにアルに言う
因みに彼は村人に阻害される事もなく逆に「聖魔」として崇められている・・
「?、どうしたの?サブノック・・?」
「実は・・その・・、セリアの腹に・・。小生の子が宿ったもので・・・」
セリアは赤面で自分の腹を撫でる・・
「「・・・・・・・」」
自分らが戦っていた間にそんなことしていたのかと思い二人は沈黙・・
「・・まっ、まあおめでとう!それで、式はあげたのかな?」
「アル殿達が帰ってくるまでは控えておこうとセリアが言ったのでまだです」
以前は「セリア殿」だったのに今は「セリア」だ・・・
思ったよりも進展している模様・・・
「そうなんだ・・・。じゃあ今度式を上げないといけないね」
「いえっ、私はサブノック様といられるだけで幸せですので・・」
母親になる心境のためか以前よりも落ちついている感じがする・・
「まぁまぁ、めでたいんだからせっかくだしね♪」
にこやかに笑うアル・・
「いいな〜、セリアさんはフィアンセがいて・・。私も欲しいな〜、ねぇアル?」
すでに酔っているマリーがアルに言い寄る
「えっ?大丈夫だよ!マリーは可愛いんだからすぐ見つかるって!僕が保障する!!」
「・・そうじゃなくって!・・もう!」
頬を膨らませるマリー、何か気に触る事を言ったのかな?っと悩むアル・・
かくして夜は更けていった・・・・・・

・・・・・・・
・・・・
・・・
・・

翌日
マリーは二日酔いでダウン。サブノックは朝から村の見まわりをしている・・・
アルも長旅の疲れでぐっすり眠っている・・
そして・・・
「・・・・、人間にはなれたけど・・、私はどうしたら・・・」
森の中で一人呟くレイブン・・・。
朝の日差しの中、周りには彼女しかしない・・
「・・・・・・、アレス・・、私・・・・・」
うつむきうなだれるレイブン・・、頬を一筋の雫が伝う・・
”・・馬鹿だな、レイブンは”
ふぃに男の声が聞こえた・・、懐かしい声・・
「アレス・・」
振り向くと最愛の男が・・。そして彼女の胸元につけていたあの再来の輝石が淡く輝いている
”その石のおかげでもう一度君と話をすることができたよ・・。あの悪魔に感謝しないとね・・”
「アレス・・、私は・・・・・、私は・・!!」
”おめでとう、人間になれて・・”
「でもっ、あなたはもういない・・・。どうしたらいいの・・?」
”僕はもう死んだんだよ・・、どうにもできないさ。だから・・、僕の分も幸せになってほしい・・”
「・・・・・・」
”僕が一番望んでいたのはなにより君が幸せになることだよ。僕のことは忘れて、精一杯生きて欲しい・・”
「・・・アレス・・」
”さあ、そんなところでうずくまっていたら何も変わらないよ。がんばって!”
「・・わかった・・・・、ありがとう・・アレス・・」
”・・それでいい。じゃあ・・、もう逝くね・・・・・・・さよなら・・レイブン・・・”
そういうとアレスは光の粒となり天に去っていった・・
・・・・
「さようなら・・・アレス・・・」
空を見て呟くレイブン・・
・・・・・・・・

「こんなとこにいたのですか?」
木陰からセリアがそっと近づく・・
「セリアさん・・」
「何やら浮かない顔をしていますけど、どうしたんですか?」
「・・いえ、人間になったのは良いけど・・『生きがい』みたいなのが見つからなくて・・」
「生きがい・・ですか〜」
頬に腕をあて悩むポーズ
「そう・・、何をしたらいいのか・・」
「恋をしたら・・、いいんじゃないですか?」
「恋・・?」
「レイブンさんも想いの人のために天使を止めたのでしょう?恋した時の気持ちはよく
わかるとは思いますが・・?」
「・・・相手がいませんよ」
ふっと空を見る・・
「アルさんがいるじゃないですか!!」
「アル・・?でもマリーさんがいるじゃないですか・・・」
当のアルは気づいてないがマリーがアルのことを想っているのは誰が見てもあきらかだ・・
「まだ付き合ってませんし大丈夫ですよ!
・・そうだ!レイブンさんは『真龍騎公』のお話を聞いた事がありますか?」
「真龍・・騎公・・・?最近独立した都市シウォングの王の通り名・・でしたか?」
どうたらレイブンはあまり知らないようだ
「私も吟遊詩人の噂からしか聞いた事はないんですが・・、遠国シウォングの「真龍騎公」と呼ばれる王は4人の美しい女性を従えて立派に国をまとめている方なんだそうです。
4人の女性は誰も彼を愛し彼もまた4人の女性を愛しているんですって!」
目を輝かせながらセリア・・・、こういう話が好きなようだ・・
あくまで噂なのにセリアの中ではそう信じきっているようだ・・・
「そんな器用な事、アルにはできませんよ・・」
「そんな事ないですよ!天使を人に変えることができたんですから女性2人を愛することも
できますって!!」
「・・・、まぁ、そう考えたらできないこともないような・・・」
「よし!決まり!じゃあお膳立てはしておきますね・・あっもうこんな時間!」
日が昇っているのに気づくセリア
「?、何か用事でも?何なら手伝いましょうか?」
「いえっ、サブノック様と胎教しようと約束していたので。あの方『正義の心を教えるんだ』って
大張りきりなんです!じゃあ!」
そそくさと去っていく・・
「たっ、胎教・・・・、まぁほどほどに・・・」
去っていくセリアに軽く声をかけた・・
・・・・・・・・・・

「恋・・か・・。それも悪くはないですね」

一人で笑い、彼女も村へ戻っていった・・・・・・・・・・・・・


数日後・・
「じゃっ、いってくるよ」
旅支度をしたアルが2人の女性に声をかける。
詰め所にいるのはマリーとレイブンだけだ。
サブノックとセリアは婚約旅行がてら先日レイブンに話していた『真龍騎公』の国に行った。
もちろん、道中でも胎教はきっちりしているらしい・・
「どのくらいかかるの?」
心配そうに訪ねるマリー・・
「場所は調べてあるからそんなに長くはかからないよ」
「道に迷わなければ・・ですけどね・・」
レイブンが毒づく、アルはやや方向音痴なのだ・・
「・・大丈夫!地図も書いたし!ほらっ!」
徹夜して作った地図を見せるが・・、落書きにしか見えない・・
「・・・ま、まぁ気をつけて。待っているから」
「ああっ、ごめんね。せっかく村に来たのに・・」
「アルなりのけじめですからそれも仕方ありませんよ。気をつけて」
「ああっ、じゃあいってきます!!」
そういうとアルはゆっくりと歩き出す・・
・・・
やがて緑の髪も木々の陰に消えて行った・・・・・・・
・・・・・・・・・
「そういやっ、アルはどこに行くんですか?」
ふぃにレイブンに訪ねるマリー。
どうやらアルの行き先を知らないようだ
「昔の恩師ですって。この村にとどまることを報告に行くそうですが・・。
武装をしているところを見ると・・・」
「見ると・・?」
「・・いやっ、彼らしいですね・・ふふっ」
「あ〜!内緒にするなんてレイブンさんずるい!!」
「まぁ野暮用には違いないですよ。それよりもサブノック達もいないんですし、
しっかりと留守を守りましょう・・」
そういい、詰め所に戻ろうとするレイブン
「あっ、レイブンさん。一言・・」
「?」
「私、負けませんから。必ずアルの心を射止めて見せます!!」
ど〜ん!!って宣戦布告!
「・・ふふっ、その勝負、受けて立ちますよ」
レイブンもそれに答える。
結局アルは新たな悩みの種ができたようだ。
そして彼は・・・・・・・

・・・・・・・・・
・・・・
・・・
・・

数日歩き続けてようやく目的の教会に到着・・
レイブンの言ったとおり何度か迷いつつもなんとかたどり着けた・・
教会はやや痛んでいる・・、あまり人気はないがとなりに小屋があるところを見ると無人では
ないようだ・・
「ごめんくださ〜い!!」
教会の扉を開けてアルが叫ぶ
教会内部は清掃されており小奇麗だ・・
「・・何か用かな?」
聖堂を一人の男がやってくる。目元を仮面で隠している・・
「あっ、ここにたいちょ・・・いやっ、クラーク=ユトレヒトって方はいませんか?」
「ああっ、あいつなら今裏手で稽古中だ。用があるならそこに行くいい」
「わかりました。ありがとうございます」
礼を言うと仮面の男はさっさと奥に入って行った・・どうやら何かの作業中のようだ・・
(いよいよ隊長と・・)
高鳴る気持ちを抑えつつ裏手に周る・・
教会裏手の広場には一組の男女が剣を交えている・・
その一人を見た途端
「隊長!お久しぶりです!!」
アルは思わず叫んでしまった・・
「おわっ!なっなんだ!?」
いきなり声を変えられたので驚く男・・
相手の黒いケープ姿の女性も唖然としている・・
「・・・アル!アルじゃないか!」
男・・、長めの髪に細めの優男が懐かしそうに言う
「ご無沙汰しております・・、隊長」
この優男こそがアルが世話になった傭兵時代の隊長クラーク=ユトレヒトである。
二人はしばし昔話をしつつ
語り合った・・・
・・・・・
・・

「・・つまり、ニースって村にとどまることにしたのか?」
裏手の草原にあぐらかいて座っているクラーク
「はいっ、僕の旅は終わりましたので」
さっきまでいた少女は席を外した。アルを気遣っているのだろう・・
「しかしお前がそんな大それた事をしたとはな〜!!」
「いえっ、偶然ですよ。ほんとの偶然・・」
「でも良かったじゃないか?その・・レイブン・・だっけ?大事にしてやれよ?」
「はい!」
「それはそうとして、方向音痴のお前が一人でそんな報告しに来たには他に訳があると見た」
びしっと指差すクラーク
「ばれましたか・・、実はニースに留まるのを機に剣を置こうと思いまして・・」
「剣を置く・・、弓に専念するのか?」
「はい・・」
「・・ふぅん、じゃあ接近戦とかになったらどうするんだ?昔危ない目にあったのを忘れた
わけじゃないだろ?」
「僕には、背中を守ってくれる人達がいるので・・大丈夫です」
「・・わかった。信用できる者がいるならその決断は間違っていないさ・・」
「ありがとうございます。それで、剣を置く前に隊長と勝負をしたくて・・」
真剣な眼差しでかつての隊長を見つめるアル・・
「俺っ・・?・・・けじめってことか?」
「はい・・、是非とも・・」
静かに頭を下げる・・
「・・わかったよ!・・・ただし!手加減しないぜ・・?」
「・・したら怒りますよ」
「はははっ、お前らしい!じゃあ始めようぜ!」
後ろに飛びのくクラーク。腰には刀がさしてある・・
「お願いします・・!!」
アルも静かに立ちあがりかまえる・・。

双方同じ構えをし、お互いを見つめあう・・
「・・・どうやら、俺の技を盗めたようだな・・」
ふっ・・っとにやけるクラーク
「・・成功したことは少ないですよ・・」
身動き一つせずに応えるアル・・
「相変わらず固いな。じゃあお前の旅の成果!見せてもらうぜ!」
そういうと一気に駆け出すクラーク!
「行きます!!」
アルもそれと同時に飛び出す・・!!
高速で接近する2人
『『霧拍子!!』』
同時に鞘から放たれる刃・・・

ザンッ!!!

そのまま交差し着地する・・
「くっ・・・」
肩を押さえ膝をつくアル・・
「腕を上げたな・・、お前の成果確かに見させてもらったぜ」
立っていこそいれどもクラークも肩から血を流している・・
「・・倒すことはできませんでしたが・・ね」
苦笑いをするアル・・、それでも満足そうだ
「あったりまえだ!隊長が隊員に抜かれてたまるかよ!・・さぁ手当てしようぜ。
うちには優秀な回復役がいるんでな・・」
「ありがとうございます・・!!」
お言葉に甘えてクラークは世話になることにした・・
その日は教会に泊まりアルはクラークと遅くまで昔話をした・・・
仮面の男も、後からきた金髪の美女も彼らを気遣って何も言ってこなかった・・・・・
・・・・・
翌日
「何かあったらまたくるといい。相談にのるぜ?」
教会の前でクラークが言う・・
「はいっ、でも・・出来る限りは自分で解決しようかと・・」
「ははっ、良い心がけだ。だがあんまりしょいこむなよ?そのための仲間だ」
「・・わかりました!ありがとうございます!」
深く頭を下げる・・
「ほんっと、固い奴だな〜。さあ!胸を張って行け!仲間のためにがんばれよ!」
「はい!失礼します!!」
そういうとアルは駆け出した・・
仲間の待つ村へ向かって・・・・・・


・・・・・・それは剣と弓の物語・・・・・
   ・・・・・そして、一人の天使の物語・・・・・

the end・・・・・

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