番外  「アル最大のピンチ!!」


人がたくさん歩く繁華街・・
様々な人種が所狭いしと歩いている・・。
この町は有名な教会が沢山ある町で参拝する信者が多い・・

「うわ〜、すごい人だね。でっかい建物もあるし・・」
「あれは・・教会ですね、この町は宗教都市ですし・・」
行き交う人々の中で一人当たりをキョロキョロしている男がいた・・
緑の長髪が特徴の優男だ。肩には短弓、腰には気の杖を下げている。
そして肩には羊のぬいぐるみが・・。
「へぇ〜、教会か。行ってみようよ、レイブン」
男がぬいぐるみに言う
「かまいませんが・・、アルは宗教事に興味があるのですか?」
レイブンとよばれたぬいぐるみが男に返す
「いいや、ただの観光だよ」
「全く・・呑気ですね・・」
「まぁまぁ、せっかくなんだしさ!」
そういいつつアルと呼ばれた男は教会に向かって行った・・
その一連の出来事を影から見ていた者がいた
「うふふ・・、かわいいわね、あの子・・」
素晴らしい筋肉を持つスキンヘッドの大男だ、短パンTシャツ姿で胸にはピンクで「LOVE」と
書いてある。ただ声がやけに高く女言葉で話しているのが気にかかる・・・
っということは・・・・・

教会内部・・、
思ったよりも参拝客が少なくアルを含めても数人程度だ。
吹きぬけの聖堂には様々な像が祭られており、自由に見学できるようになっていた
「へぇ〜、宗教事って興味ないけど・・なんかこう・・神々しいって感じだね?」
建物内部を見渡しアルがはしゃぐ・・
「神なんていませんよ・・」
しれっとした口調でレイブンがつぶやく
「堕天使のくせに・・」
レイブンは元天使であり天界を追放された経歴を持つ。
それ故か神様を嫌いらしい・・
「そんなことよりも向こうにも部屋があるようですよ?」
「ほんとだっ!何かあるのかな?行ってみよう!!」
おおはしゃぎで走っていくアル・・、
そしてその後ろをついて行く筋肉大男・・・・・

奥の部屋は人もいなくて何やら巨大な女神の像が祭っていた・・
「へ〜、よくできているな〜」
細かな像の彫刻にしきりに感心するアル・・、
そこへ・・
ガバァ!!
「おにぃいちゃん!!わしと付き合わない〜!!!」
突然、筋肉ムキムキの大男が飛びかかってきた
「うわっ!!なっ、なんだ!!」
反射的にかわして状況を確認するアル・・
筋肉大男はアルに避けられて柱に抱きついた、しかし・・
バキッ!!バキバキ!!
そのまま柱を強く抱きしめ見事、柱を粉砕した・・・
「すばしっこい子ね♪好みよ・・、うふふ♪」
何事もなかったように振り向く筋肉大男・・・
「な・・、なんだよ・・この人・・」
「よくわかりませんが・・狙われているようですね」
「とにかく・・、逃げろ!!」
急いで別の廊下へ走るアル、
「只今関係者以外立ち入り禁止」という立て札があったが
そんなことを気にしている余裕もなかった・・
「あん、待ってよ〜♪」
大男も走り出す。太ももの筋肉が盛り上がり凄いスピードで・・
アルの人生の中で最大のピンチが始まった・・・・・

「後方から熱源!!凄い速度で接近中!!」
全速力で長細い廊下を駆けているアルにレイブンが言う
廊下にはショーケースに色々小物が展示していたが・・、
今のアルにまぁ見れるはずもないか・・・・
「ええっ!!まだ僕を追っているの!!?」
「そうとしか考えられません、姿が見えました!気をつけてください!」
レイブンが後ろを見ながらアルに報告、確かに短パン姿の筋肉大男が
笑いながらこちらに走っているのが見える・・。
それも砂煙を巻き上げながら恐ろしい加速をして・・・
「気をつけるって言っても・・!!」
ちょうど廊下も突き当たりで部屋があった・・、
アルは慌てて中に入り扉を閉めて頑丈に鍵をかけた。
鉄製の扉だったので破られることは不可能・・のはず・・
中でお茶を飲んでいた司祭が不思議そうな顔をする・・
「はぁはぁ・・・・これで・・、大丈夫のはず・・・」
息を切らせながらアルが言う・・、顔中汗だく・・
しかし・・

ボゥゥゥゥゥン!!

いきなり大きな音がしたかと思うと鉄の扉にハートの形の大穴がぽっかり空いていた
「見〜つけた♪」
穴から筋肉大男が覗いて、嬉しそうに言う。
妙に声が高い・・
「いや〜〜!!!」
まさかの事態にアル大混乱!
「アル、あそこに、はしごが!」
レイブンが告げる。部屋の隅に上に向かう小さなはしごがかけてある
「わ、わかった!」
はしごの大きさからしてあの大男が上れる広さではない・・、
アルは必死ではしごを駆けあがった・・・

・・・・・・・・・
はしごを上るとそこは時計台に続く通路だった・・
「ぜ〜、ぜ〜、まだ、安心はできないよね?」
「下の部屋から熱源が二つ、一つは司祭でしょう。もうひとつは・・・」
「・・まだそこにいるわけだね。何なんだよ、あれは?」
「あの男の言うことを聞いている限り、恨みとかではないですね」
「そりゃあそうだよ、あんな人とは初対面だし」
「聞いている限りでは・・、あなたに一目惚れしたよう・・ですね」
「・・・・・、え!!?」
「付き合わない?とか言ってましたし。
追っかけてくるのはアプローチ・・っといったとこですね」
「あんな激烈なアプローチなんてないよ!それにあの人男だろ?」
「たぶん・・、心は女だと思いますが・・」
「おーまいがぁぁぁぁ!!」
男の素性について恐ろしいことを予想しながら状況を
判断しつつ先に進むアルとレイブン・・

ところが・・

「!!、これって!!」
途中の廊下が巨大なハート型にくりぬかれていた・・
「先回りされた・・ようですね」
「レイブン!索敵急いで!」
アルも、もはや青い顔をしている・・
「・・・・後ろです!急いで走ってください!!」
「何ですと〜!!」
振りかえると薄暗い中でも素晴らしく鍛えられた足が見えた・・
アルは再び必死に走り出した・・

時計台に続く通路・・、その先に螺旋階段があった・・
どうやらこの上が教会の大時計の内部になるのだろう・・
っという事など今のアルに考える余裕はない
とにかく必死に階段を駆け上がっている・・
「はぁ〜、はぁ〜!」
さすがのアルでも体力がかなり消耗している・・、
プレッシャーが強すぎるからだ
精神的負荷というものは肉体にも多大な影響を及ぼす・・・
「熱源、かなり下の方です。どうやら階段にはまだ昇っていないようです」
レイブンがサポートする、こんな事態ではアルもレイブンの索敵のみが頼りだ・・
やがて大時計の機械室にたどり着く・・
これ以上移動するとこはない・・
部屋はかなり広くて時計の機械の他に目につくのは小さな窓が一つだけ・・
「行き止まり・・!?くそっ!」
部屋を見渡しアルが悔しがる。そこへ!
「熱源移動しました!!凄い速度で昇っています!!」
レイブンが敏感に反応して報告、
確かに螺旋階段から地響きのような音が聞こえる・・
「!!、こうなったら人間相手でも・・!」
意を決し弓をかまえるアル・・、筋肉大男が現れた瞬間射抜くつもりだ・・
「熱源・・来ます!!」
レイブンが言った瞬間、階段から大男が飛んできた。階段を上ったのではなく
所々壁を三角飛びをして上がってきた・・ようだ。
「いけっ!!」
気合い一番、アルの弓から矢が発射される・・、矢はまっすぐ大男に向かって走る
しかし大男は避けようともしない。
「むん!」
大男の手がふいに動いたよう見えたが、次の瞬間、
矢は男の人差し指と中指の間にはさまれていた・・
「そっ、そんな・・!!」
あまりの凄技にアルは驚く・・、至近距離での矢をつかむ。
人間の反射神経ではそうそうできるものではない
「もう終わりかしら♪じゃあ愛し合いましょう♪」
筋肉大男はあれだけ派手に動き回ったのに息一つ切らしていない・・
「くそっ、・・・」
弓の攻撃は無理と判断し腰にある仕込み刀を手に構えた・・
「ふぅん、仕込み刀での居合い。それも動きながらやるってわけね」
大男に手の内を読まれ、唖然とするアル・・・
「いいわ、きなさい。しかしそれが防げたら、あなたを・・・抱きしめる!!!(クワッ!)」
クワッ!っと表情を変えてアルを指差し予告する大男・・
・・居合いというものは「心 技 体」全てそろってはじめてできる技。
今の男の予告で不覚にもアルは心を乱してしまった・・
・・・・まぁ誰だってびびるだろうが。
「あんな腕力で抱きしめられたらまず肩甲骨は粉々にくだけますね・・」
恐ろしい結果を淡々とぼやくレイブン
「の、呑気に言ってないで何か策はないの!?」
「こうなってはどうしようも・・・・、そうです!アル・・、(ヒソヒソ)」
レイブンが耳打ちをする。それとともにアルの目に力がこもった
「どうしたの?早くこないとこっちから行くわよ♪」
両手を広げ受け入れOKな大男・・
「たぁ!」
全速で駆けるアル、鞘から刀を放ち斬りつける・・だが!
「峰打ち!?」
男もこれには驚く、刃のついていない峰打ちでの居合いは早さも落ちるからだ
倒すための一撃にはとうていふさわしくない手段だ
その攻撃も大男は鋼鉄の肉体で受け止めたが意外な手段に驚いたため
抱きしめる動作が一瞬遅れた、
これがレイブンの狙いだ。
大男の抱きしめる腕を何とかかいくぐるアル。頭上に凄まじい風圧が起こる。
空振りにより筋肉大男は体勢を少し崩した・・
その間にアルは急いで窓に向かう・・、
いちかばちかで飛び降りるつもりだ!
「成せばなる!成さねばならぬ!何事もぉぉ!!」
ガッシャァァァァン!!!!!
窓を体当たりで破り、飛び降りるアル・・・
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
ボスゥゥゥゥゥ・・・・・
かなりの高さだが下に行商のテントがあったのでそれがクッションとなり無事着地。
どうやら通りでバサールが開かれているようだ・・・
「よし、なんとかなった、ありがとうレイブン!」
「礼は後にしてください。とにかくこの場を離れましょう」
テントの持ち主に謝りながら立ち去ろうとしたその時・・・

ボゥン!!!

大きな破壊音がしガレキとともに大男が降りてきた。
壁をぶち破ったようだ・・
しかも空中で華麗に身体を3回転半ひねっている・・
そして見事アルの目の前に着地。
・・・姿勢も乱れていない・・
「なかなか良い手だったわね、しかしこれで終わりよ♪」
もはや打つ手なし・・、絶望の表情を浮かべるアル・・
その時
「あの・・、あんなところから飛び降りて大丈夫ですか?」
通りかかりの美青年が筋肉大男を心配して言う。
「んっ?・・・おおっ!!」
急に大男の目がハートマークになった・・、ようにアルには感じた
「ああっ、もうだめ!すみませんけど肩を貸してくれます?」
急に座りこみ、しおらしい口調になる大男、
美青年も
「ええっ、大丈夫ですか?」
っと気遣いながら肩を差し出す・・・・
・・・・・・・
やがて二人は人ごみの中に消えていった・・
・・・・・・・・・・・・・・
「・・なんなんだろう・・?」
「・・まぁ助かったようですし、いいんじゃないですか・・」
唖然としている二人、
「とにかく行こう、この町は危険だよ」
「そうですね・・」
逃げるように走り出すアル・・、
しばらくは夜うなされそうだ・・


数分後、通りに男のものと思われる悲鳴が響いた・・。
しかしその悲鳴も礼拝の時間を報せる時計台の鐘の音に消された
その後、・・・あの美青年を見たものは誰もいない・・・

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