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番外2  「草原を駆ける少女」


辺りは見渡す限りの大草原。
膝辺りまで伸びた草が延々と広がっている中、ポツンと焚き火が見える。
周りには目印になるような木もなく、また道もないのだが
その一帯だけ地が剥き出しになっている・・
冒険者達が何度も利用した休憩所のようなものなのか・・、
そして彼らもまたそこにテントを張っているのだ


時はすでに夜であり空には綺麗な満月が浮んでおり星々も煌いている
「星が綺麗だなぁ、ルザリアから見る夜空も好きだったんだけどここはまた格別だ」
焚き火の前で空を見上げるトゲトゲ黒髪の青年スクイード・・、
簡易の食器を横に置き満足そうに呟く
紺色の騎士団制服を着ているが鎧などは荷袋にしまっているらしい
「ふっ、ルザリアにいる時のスクイードは何時も怒っているからな。それがない分美しさも違うのだろう」
向かい合うように座っている白狐人、シトゥラが少し笑いながら言う
膝まで届きそうな白髪をうまく避けて食器をまとめているようだ
彼女はいつもと同じ布のドレス・・、
騎士団教官として協力しているのだが制服のような着物は肌に合わないらしい
「あ・・あれは・・変態がちょっかいを出すからだよ」
「そうか?それを気にしないでいられるのも心の強さだ。スクイードにはそこが足りない」
「シトゥラに言われるときついな・・、でもどんな感じかな?
ここ数日、移動をしながらガムシャラに身体をいじめてきたけど」
「何っ、もうスクイードは並の戦士ではない。
基本的な能力だけで言えば私の一族でも上位に入る」
「ほ・・本当か!?シトゥラが僕を褒めるなんて初めてだよ」
「ただし、いくら腕だけが良くてもそれを振るう者の心が強くなければ結果はでない。
スクイードに必要なのは心の強さだ」
ピシャリと言ってのけるシトゥラ。それにスクイードも苦笑いをするしかない・・
「そうか・・、がんばらないとな。でも・・シトゥラ、長くルザリアに滞在しているけど・・
帰らなくていいのかい?」
元々シトゥラは下界見物ということでクロムウェルと共にルザリアにやってきたのだ。
それがいつのまにかスクイードの教育係として、また騎士団への協力者として馴染んでいる
・・普通ならその事で不満を持っていて当然とも言える
「そうだ・・な。私も少し気がかりだ。
だが、元々私は白狐(びゃっこ)族の戦士の副リーダーのようなものだ。
私がいなくても一族に心配はないだろう」
「い・・いやっ、そうじゃなくて、家族とかも心配するだろうと思ってさ」
「家族・・か。下界に下りて違いにわかったのだが私達は一族そのものが家族だ。
その中、氷に閉ざされた生活が長く続きすぎたから長様は私が下界に降りるのを許してくれた
・・だから心配はされていないだろう」
「・・・そう、か。でも戻ろうって気にはならないのか?」
「ふっ、スクイードの成長を放っておいて里に帰るのも気が引けるのでな。付き合ってやるさ」
「シトゥラ・・ありがとう」
心強い相方に嬉しく思うスクイード、思わず涙ぐんでしまう
「さてっ、今日は早めに寝よう。・・そろそろこの服も汚れてきた。着替えるか」
そう言うといきなり着ている服を脱ぎ出す・・。
元は布を結んだような感じの代物なので要所要所を解くとあっという間に・・・
「うわっ!シトゥラ!待った!だから僕の前で・・」
「んっ?未だ慣れないか?」
「慣れる慣れないって問題じゃないよ。僕だって男なんだよ?」
「・・私はスクイードを男として見ている。スクイードがその気になっても構わないが・・」
その声にスクイードは顔が真っ赤に・・。
「そ・・そういうのは不道徳だ!少し散歩してくる!」
そう言ってスクイードは逃げるように草原を駆けていった
「・・ふふっ、純粋な男だ。スクイードと共にいるのも悪くはない・・な」
一人笑いながら着替え出すシトゥラ、この余裕が格の違いと言うべきなのか


・・・・
・・・・・・

草原を駆けていったスクイード、緊張しただけあって息も上がり立ち止まる
「はぁはぁ!シトゥラは刺激が強いよ・・」
彼女にはすでにバレバレも良いところだが一応スクイードは欲を抑えている・・つもりらしい
心臓が違う意味でもバクバクなっておりそれを納めるのに必死になっている
「はぁ、シトゥラが里にしばらく帰らないのはいいんだけど・・、僕は・・」
憧れで想いの人であるタイムはもはやにっくきクロムウェルと相思相愛の状態であり
恋愛の対象が徐々に自分に親しく接してくれるシトゥラに傾いているのは自分でもわかっている。
しかしそこは堅物のスクイード、そんなことを言い出せるはずもなく何ともなく今まで続いているのだ
「・・ううっ、悔しいけど・・変態やフィート君が羨ましい・・」
力なくうな垂れるスクイード・・
そこへ
「う・・うううん・・」
「!?・・人の・・・うめき声・・?」
不審に思ったのだがそれはすぐに確信へとつながった。目の前の茂みに人が倒れているのだ
「大丈夫か!君!」
迷いもなくその人を起こす・・、月明かりも手伝ってその容姿がよくわかる

長い黒髪で額には山吹色のバンダナ、そして動きやすい長いシャツとズボン姿の女性だ
格好からして現在彼らがいる『フィン草原都市郡』の中の民族だと言う事がわかる
どうやら気絶しているようだが手には鞘に収まれていない剣をしっかりと握り締めている
柄に楕円系の飾りがありそこから刃が伸びている。
両刃で月明かりを跳ね返す剣身はどことなく寒気を憶える
それはスクイードも見た事がない代物で彼も思わず首を傾げるのだが・・。
問題は得物ではないく倒れている女性自身。
「おい・・」
「ん・・・んん・・」
スクイードの声に唸る女性だが目を醒まさない
ともかく、このままで放っておくわけにもいかず、
スクイードは女性を丁寧に抱き上げシトゥラの元へと戻った
・・抱き上げたとは言えども彼なりに気を使った『道徳的』な抱き方なのだが・・

・・・・・・

テントに戻った頃にはシトゥラも着替え終わっており
意外な持ち帰りに少々驚いたが的確に介抱をした
「う・・・あ・・、ここは・・」
濡れタオルを額に乗せてしばらくして、女性は目を醒ました・・
「ここは僕達のテントだ。・・大丈夫か?」
「あ・・はい・・ありがとう・・」
ゆっくりと起き上がる少女、蒼色の瞳が美しく凛々しさを漂わしている
「一体どうしたんだい?こんな大草原で気絶しているなんて・・。
ジャッカルでも出たら一たまりもないよ?見たところ・・遊牧民だと思うけれども」
「はい、私は草原の民ファク族の人間・・でした。助けていただいてありがとうございます。
私はナンサ。ナンサ=ファクです」
「僕はスクイード=キャンベル。彼女はシトゥラだ。
・・すまないがファク族の人間だった・・っというのは・・」
スクイードが静かに問う・・それにナンサは・・
「・・・、先日、盗賊により・・全滅しました。一族の飲み水に毒を混ぜて・・皆・・」
そう言い青い顔をしながらその惨時を思い出し肩を震わす
「・・・・どうやら大変なことがあったようだな・・。すこし落ち着くといい」
そんなナンサに対し優しく声をかけるシトゥラ。ゆっくりとその事情を聞き出していった

彼女の一族はこの大草原の中でも特に少数の部族であるがそれでも平和に過ごしてきた。
しかし、彼女達の住んでいた近くに盗賊団が住みだし彼女達の存在を疎ましく思ったのか
毒を盛って弱らせ一気に殺したらしい
ナンサは毒に犯されながらも親の決死の助けで馬に乗り逃亡したが
毒の回りがひどく手綱を持っていられなくなり落馬しそのまま気絶したらしい

・・・

「父さんも・・母さんも・・殺されました。若い子なんて・・身体が動かないのを嬲られて・・」
「・・、落ちついて。悔しいのはわかるよ。」
「ごめんなさい、スクイードさん。」
「いやっ、落ち着くのが難しいのはよくわかるさ・・。でも、その剣は・・?
手綱を手放すくらい弱っていたのにその剣だけはしっかりと握っていたよ?」
「これは・・ファク族に伝わる名剣『ナズ』です。
・・これは一族の宝、これだけは奪われるわけにはいかなかったので・・」
「・・・そうか、誇り・・みたいなもんだね」
かわいそうな女性ナンサにスクイードもかなり情が移っている・・
対しシトゥラはあくまで冷静・・、何やら考え込んでいる
「・・・、なるほど、ここからその盗賊団の住家は近いのか?」
「え・・貴方達・・、まさか・・」
「仕留める。下劣な手を使う外道がうろついているのも私は気に入らないのでな」
「シトゥラ・・?」
いつも落ちついているシトゥラの珍しい怒りよう・・
「む・・無茶です!相手は10人、20人じゃないんですよ!」
「その程度か・・、そのくらい物の数にも当てはまらん。スクイード・・いいな?」
「もちろん、ナンサ。君と一族の無念は僕達が晴らすよ」
「・・、貴方達は一体・・?」
二人の動じなさに唖然とするナンサ・・
「僕達・・?僕はルザリア騎士団の騎士さ。シトゥラも臨時だがルザリア騎士団の一員。
それ以上に誇り高い白狐の戦士だけどね」
「ふっ・・」
彼の説明に思わず笑みをこぼすシトゥラ・・
「騎士・・?それにルザリアって・・」
「まっ、国は違うけれども困っている人を放っておくには騎士にあるまじき行為。
僕個人でもそんな卑劣漢は許せないからね、
ナンサ、一緒についてくるのが嫌ならば場所だけでも教えてくれ」
「・・・・い、いえっ、私も・・戦います!」
「ナンサ・・?」
「私だってファク族の戦士です、一族の生き残りとして・・皆の仇を討ちたい・・。」
「ふっ、では得物はその『ナズ』という剣か」
「は・・はい。軽すぎて使いにくいですけど・・、使っていた剣は錆まみれでしたし、
それも逃げる時に落としてしまって・・」
それでも戦う・・っと目が物語る・・、スクイードもその心を感じ、自分の荷物袋の中から剣を取り出す。
「自分に合っていないのならば使うのは危険だ。
僕の剣を上げるよ。多少重みがあるけれども十分使いやすいサーベルだよ」
取り出したサーベルは柄にルザリア騎士団を表す四方に交差する騎士剣の勲章が彫られ
見るからに儀式使用のような一振り
「こ・・こんな立派な物を・・」
「いいよっ、生憎僕には元々斧槍のほうが合っているみたいで
それを使ったことはほとんどないからね。遠慮なく使うといい」
「は・・はぁ」
そうは言われても遠慮してしまうナンサ。静かに受け取り試しに抜いてみる
柄こそ装飾がされているが剣身には余計なものは一切なく鋭い刃がそびえている
「す・・すごい、重さもちょうどいいですし。切れ味も鋭そう・・」
軽く振っただけでもう気に入った様子だ
「僕達の騎士団は備品にも力を入れているからね。
実戦に十分耐えれる代物を支給品としているんだ。・・それでがんばるといい」
「スクイードさん、ありがとうございます!」
「・・得物が決まったら行くとしようか。盗賊というくらいだ。
仕事がうまくいって油断しきっているだろう。・・・ふ・・ふふ・・」
静かに立ち上がるシトゥラ、こうなると彼女は頼もしい・・



スクイード達がナンサと共にいた地点より馬でも半日走らないと到達できない地点・・。
そこに盗賊団はいた。
ファク族の住居ではなく金目を奪って別の場所にて宴を行っているらしい。
男性ばかりの野蛮人がそこにいるだけで20人・・、朝が明けても酒を飲み騒いでいる
さらにはナンサと同じような服装の若い娘達が隅に捨てられるように積まれている・・。
散々嬲られた上に殺されたようだ
「はっ!小さい部族だけど中々の収穫だったな!」
仕切っている眼帯をつけた中年男性が叫ぶ。
ボウボウにのびた髭と黒髪を手入れもせずに酒を舐めている。
「ははっ、違いねぇ!女も良い具合だったしな!手さえつけなかったら良い値で売れたんだけどよ!」
眼帯の男の前でスキンヘッドに蛇の刺青をしたこれまた中年の男が下品に笑いながらそう言う
どうやらこの二人が中心人物で他の面々は少し距離を置いて酒を飲んでいる
「馬鹿野郎、上玉だと売るよりも散々犯すほう良いに決まっているだろう?」
「それもそうか!しかし楽しくてたまらねぇ!今度はもっと女の多い部族をやろうぜ!」
卑劣な手を使ったことに対して全くの罪悪感もなく次の獲物を探っている
そこへ一人の若者が慌てて接近してくる
「頭!あの生き残りが騎士を連れてやってきますぜ!」
「ああ?あの青い顔した小娘がか?
はっ!遊牧民としての誇りも捨てて騎士に命乞いか!・・何人だ!?」
「それが・・騎士が一人に後は獣人の女が一人です。まっすぐこっちに向かってますぜ」
「・・阿呆、たかが三人で俺達に喧嘩を売っているんだ。どうせイカれた正義漢だろ!?
お前等で片付けろ!ただし女は殺すな。その獣人の女も上玉なら売り払ってやろう」
にやけるスキンヘッド・・、その態度に若者も感服したのか雄叫びを上げながら去っていった
「獣人の女か、その騎士野郎の奴隷か?へっ、公共の正義も大したもんだな!」
「違いねぇ!正義云々ぶっこいてもやっていることはやっているもんだぜ!」
スクイードが聞いていたらプッツンしていることを連発する男二人・・だが


ぎゃああああああ!!


けたたましい叫びとともにさっきの若者が吹き飛んでくる・・。血まみれでもう虫の息だ
それに察知したのか周りの盗賊の皆さんもすぐに置きあがり剣を握る・・。
その視線の先には騎士と獣人と草原の民が・・
「略奪も良いところだな。お前達、抵抗するなら遠慮はしない。騎士の名に置いて裁く」
堂々と騎士鎧をまといハルバートをかざす騎士・・スクイードが静かに言ってのける
普段クロムウェルにからかわれ、タイムに怒られている彼だがその姿は正しく戦士

「はぁ!?何言ってやがんだ!すでに俺達の家族を殺っているだろうが!」
「上等だ。やっちまえ!」

「さて、これで口実ができた。シトゥラ、ナンサをお願いするよ」
「任せろ・・、修行の成果、私に見せてみろ」
「了解・・・・いくぞぉぉぉぉぉ!!」
一気に飛び出し問答無用に切りかかるスクイード・・

「うわっ!」「ぎゃあ!」「ぐへぇ」「があああ」

愛用のハルバート『旋空』を存分に使い次々と盗賊をなぎ払っていく。
相変わらずの突進戦法だが一撃一撃の速さは抜群に上がっており
懐にもぐりこまれようなら手の出しようがないぐらいだ

「はっ!てぇい!」
「筋はいい・・。背中から襲われない様に常に後を警戒して戦うんだ」
スクイードの後方にてサーベル片手に見事な立ち振る舞いを見せるナンサ
黒髪のオサゲとバンダナが風に舞い、その姿は踊っているかのようにも見える
そして彼女の背中を守るように戦うシトゥラ・・
ナンサは実戦ははじめてかまだ動きが少し固いがシトゥラはしなやかの一言
骨で作られた短剣を持ち目にも止まらない動きで存分に舞っている
「てめぇ・・、本気で俺達を裁くつもりか!」
これを見てスキンヘッドさんも大怒り。得物と思われる馬鹿みたいにでかい斧を担ぐ
「有言実行が信条だ。大人しくすれば殺しはしない」
「へっ、下らない!てめえらに現実の厳しさを教えてやる!」
そういうと力任せに斧を振り下ろす・・が・・

キィン!

下からすくいあげる『旋空』の一撃が見事に斧を打ち止める・・。
「そんな馬鹿な・・!こんな力・・が!?」
「はっ、ルザリアの変態牛はこんなもんじゃないぞ!!」
クロムウェルを意識したかのような力任せに斧を打ち払い、
隙のできたおっさんに連続で蹴りを繰り出す!

バキ!バキ!!ドガ!!

防具をつけた上での攻撃は威力も大きく骨が折れる音がわかるくらいの蹴りが何発も入り
Mr・スキンヘッドは泡を吹いて気絶してしまった・・
またナンサ達もシトゥラの援護も合って敵なしといったところか、
直接攻撃しかできない盗賊達では太刀打ちできるものでもない
「後はお前だけだな・・、神妙にしろ!」
「・・へ・・、ちっと焼きがまわっちまったか・・だがな!!」
残った眼帯の男がおもむろに手を口に含み

ピィー!!

口笛を放つ・・
「何のつもりか知らないが!」
抵抗はさせない、そう思った瞬間!

轟!!


後方から凄まじい風切り音が鳴り響く!
「!!うっ!」「シトゥラさん!?」
ナンサとシトゥラの悲鳴・・、慌てて後を振り向くと目の前を何かが横切った・・
瞬間その背中にシトゥラが乗っているのが確認できたがそれも一瞬で、
物体は眼帯の男を救い平原の空を飛び去った・・
遠くから見ればそれは魔獣グリフォンだと言うことがわかった。
「シトゥラ!シトゥラァァァァァァァ!!」
シトゥラが連れ去られた・・、その事だけがはっきりと理解でき、
スクイードは我を忘れて狼狽した

・・・・、残っていた盗賊は全て、彼が片付けた・・・


・・・・
・・・・

それからしばらくし落ちついたスクイードはハルバートの手入れをしながら
グリフォンの去っていった方向を見つめる・・その間一言も話さなく感情を押し殺している
対しナンサは無惨に嬲り殺された友人達を墓に埋めてやっている
「・・すみません・・、私のせいで・・シトゥラさんが・・」
「いやっ、君のせいじゃない。全ては僕の不注意だ」
「えっ・・?」
「シトゥラだって女性だ。僕が守ってやる義務がある・・
それを僕は彼女の力に頼っていすぎた・・、これじゃあ元も子もない」
「スクイードさん・・」
「彼女は僕が救い出す。それが今まで僕のために力を貸してくれた彼女への僕の想いだ。
・・ナンサ。この襲撃で盗賊団は大体は壊滅したはず・・、どこか安全なところで・・」
「嫌です!」
強い否定・・、見てばナンサは腰にサーベルを下げて今すぐにでも戦える状態に・・
「ナンサ・・」
「貴方とシトゥラさんは私の恩人です。ファク族の戦士は恩を忘れない・・、
貴方がシトゥラさんを助けに行くというのであるならば私も一緒に行きます!」
「・・・、いいのかい?状況によっては死地に赴く事になるんだぞ?」
敵の戦力はわからない・・、それだけに彼女には無茶をしてほしくないというのがスクイードの本音だ
「私一人ならば・・、諦めてます。
ですが困難に立ち向かう勇気を貴方達から学びました・・。お供します。
それに、あのグリフォンがどこに飛んでいったかなんてスクイードさんにはわからないでしょう?」
「え・・あっ、そこまで考えていなかったよ・・」
その気になれば草原中の草の根を分けて捜すだけの『気合い』はある
実際やったら大草原の片隅で骨となっていただろうが
「私ならばグリフォンなどの生息できる場所などわかります・・、だから・・」
「・・わかった。じゃあお願いするよ。だけど無茶はしないでくれよ、君を守るのが難しくなるからね」
「ありがとうございます・・では、連中が使っていた中で使える馬を探して行きましょう!」
急いで行動を開始するナンサ、ここは彼女に任せたほうがいいと思い
スクイードはシトゥラが連れ去られた方向をじっと睨み、怒りの炎を燃やしていた・・



それよりすぐ、ナンサは逃げずにつながれていた一頭の馬を見つけ
後にスクイードの乗せて駆け出した
流石は草原の民だけあってスクイード達とは乗馬術のレベルが全く違い
馬の力を削ぐことなく全力で走っている
「流石・・だね。すごい安定している」
「気を緩めないで!・・しっかり私に掴まってください!」
ナンサの顔は真剣そのもの・・なのだが掴まれといわれても
そこは純嬢青年スクイードおどおどと腰に手をまわす
「や・・・あの・・これで・・大丈夫か?不謹慎じゃ・・ないよな?」
「スクイードさん!もっと強く抱き締めていないと落とされますよ!」
振り向きもせずナンサの一喝が・・
女性特有の髪の匂いに『強く』と『抱き締めて』に強く反応して赤面になってしまう
・・これから敵地に乗り込むにしては余裕ともとれる・・

・・・・

馬がたどりついたのは草原の中にそびえるような巨大な岩・・、
それが積み木のようにいくつも重なっている。
「これは・・自然でできたものなのか・・?」
「わかりません・・。これは”守護の岩”と呼ばれるもので私達草原の民には大切な聖なる地
・・ですがこの地形を利用して盗賊達の居城になっていることが多いのです。
それに・・グリフォンは高い場所から獲物を狙い定める習性がありますので
こうしたところによく住み付くんですよ」
「そしてシトゥラの連れ去られた方向からしてみるとここが怪しいわけか・・よし・・」
スタッと馬から下りるスクイード・・
背中にかけていたハルバートを取り何時でも突入できる状態になる
「行くのですね・・」
「ああっ、悪いけれども一気にシトゥラの元へと駆ける・・、君は後方から無理のないように戦ってくれ」
「・・わかりました・・。貴方に母なる風のご加護を。そして奴らに大地の怒りを・・」
ナンサは馬を解放しスクイードの手を握り祈りをこめる・・、
そして額に捲いたバンダナを解きスクイードの右肩に括りつける
「ナンサ・・?」
「戦士の証です・・・がんばって。勇猛なる騎士スクイード・・」
「ありがとう、僕は負けない。・・負けれない!」
そう言うと岩肌を軽快に駆けあがる、鎧を着ているのに考えられない動きだ
それほどスタミナと脚力を強化した成果なのだろう

「野盗どもぉぉぉぉ!!逃げられると思ったかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

精一杯の咆哮・・、それが功をそうしたか岩肌から盗賊が数人でてきて弓を構えている・・
「正解か、流石は草原の民だ。・・・いくぞぉ!!」
気合いとともに得物を弓兵の一人に投げつける!

ドス!!
「ぎゃあ!」

気合いとともに投げたハルバート『旋空』は弓を切るどころか
身体まで深く突き刺さり盗賊を絶叫させる
それを見ていた弓兵達、凄まじい力技に怯んでしまう・・・
それがいけなかった。
振りかえった時にはすでにスクイードは目の前・・、
短い黒髪は正しく『怒髪天を突く』のように見えたと思いきや盗賊達は鈍い痛みとともに気を失った
「・・、この奥か・・。シトゥラ・・!!」
気絶している盗賊から得物を抜き連中が彼らの出てきたと思われる空洞に足を進めた





盗賊達の絶叫が響いた時、空洞の奥では・・
「けっ、あの野郎・・おっかけてきやがったな」
忌々しげに呟くあの眼帯の男、その隣では両手足首を縛られたシトゥラの姿が・・、
身包みを剥がされて体には陵辱された痕が見て取れる
「ふっ・・ならば・・お前の命運も尽きたということだな・・」
「よく吠える獣人だ。散々犯されつくした姿をあの男に披露するんだな」
「犯す・・?ふふっ、このくらいの攻めなんぞただの児戯に過ぎん
・・もう少し女の抱き方を学んだほうがいいな」
「・・ちっ、ならあの男を殺した後に壊してやるよ!」

ドガッ!

「ぬっ!」
鋭い蹴りがシトゥラの腹部に入り思わず唸ってしまう・・
そこへ

「貴様ぁ・・」

怒りとともに姿を見せるスクイード。
「はっ、まさかここまで来るとはな。
おかげでこの女の犯された姿を見れてラッキーなんじゃないのか?」
そう言うとシトゥラを起きあがらせ首筋に短刀を押し付ける
綺麗だった白い肌はあちらこちらに痣ができている
「ぐ・・、スクイード・・わかっているな。遠慮はするな・・、甘えは最悪の結果を導く・・」
「シトゥラ・・、わかっている・・わかっているさ・・。だが・・」
歯を食いしばりハルバートを放り投げる
それ見た眼帯の男は心底面白そうに笑い出す
「ひゃ〜はっはっは!!てめぇわざわざ何しにきたんだぁ!ああっ!!?」
「・・・・」
「まぁいい!てめぇは俺のペットの餌にしてやるよ!おい!」
キョオオオオオオ!!
男の声に応えるように咆哮が響き凄まじき風音とともに
あのグリフォンがスクイードの前に飛んでくる。
狭い岩の中でも巧みに姿勢を変えているところを見るとかなり知性は高いようだ
「女の肉じゃないけど我慢しな!ほらっ・・てめぇはこの男が食われるのを見ているんだよ!」
シトゥラを締め上げて視線が反れないようにする男・・
「スクイード・・、その決断・・」
「僕に迷いはないさ・・、そして・・」

疾!!

「なっ・・なんだと!」
スクイードの影から飛かかる人影・・、それは寸分の狂いなく男の手首を跳ね飛ばす!
「間に合いましたか・・スクイードさん!」
返り血も気にせず着地しするは草原の戦士ナンサ・・。
切り裂いたサーベルを地に滑らしながらスクイードに渡す
「いいタイミングさ!計算通り!」
「がぁぁぁぁ・・・小娘・・俺の手をぉぉぉぉ!!」
手首が切り飛ばされたことで半狂乱になる男
・・倒れるシトゥラなどどうでもよく腰のカトラスを手にかけて狂ったようにナンサに斬りかかる
「名剣ナズ・・、願わくば私に力を!」
腰に下げている一族の名剣ナズを手にナンサは叫ぶ・・。
握った感触は以前彼女が扱いにくいと思った時とは違い奇妙なくらいシックリと馴染んでいる。
彼女は知らないのだがナズは使い手を選ぶ剣。
認められた使い手でなければ存分に扱うことができないのだ
「いける・・、みんなの・・みんなの仇!!」
「ぐおおおおおおお!!」

キィン!!

真っ向からの鍔迫り合い!
・・だが・・・

ツー・・・・

男のカトラスに線が入っていく
「な・・この剣ごと・・!?」
「はぁ!!」

斬!!

カトラスの刃を砕き眼帯の男を袈裟斬りが入る!
「あああああああ・・ああ・・・」
肩を深く切られ絶叫とともに気絶し動かなくなる・・。
カトラスで勢いを削がれたのかどうやら致命傷までにはいたってないようだ・・
「よくやった・・ナンサ・・。後はこの畜生だけだ!」
「キョオオオオオ!!」
主の死を見たグリフォン、目が血走っており手がつけられないくらいにいきり立っている
「僕の怒りは・・お前にぶつけようか!!たぁ!!」
勢い良く飛びかかる!・・が・・

ゴウ!

鋭いグリフォンの手がスクイードを叩き落とそうとする!
「甘い・・!」
咄嗟にサーベルを立ててグリフォンの手の甲に深く突き刺す!
「アオオオオオオ!」
鋭い痛みがグリフォンに走り激しく暴れ出す!
その間にもスクイードはグリフォンから飛びあがり・・
「ナンサ!」
「はい!」
合図とともにナンサは地に落ちていた『旋空』を放り投げスクイードはそれを見事受けとめる
「チェストォァァァァァァァ!!!!!」
戦法云々は関係ない渾身の一撃!
気合いの乗ったそら恐ろしい一振りはグリフォンの顔を
縦に真っ二つに切り裂き引導を渡してやった・・。
脳を断絶されたグリフォンは叫ぶこともなく血を噴き出す肉塊へ・・
「シトゥラ・・大丈夫か!」
敵がいなくなったと思いきや真っ先にシトゥラの元へ向かうスクイード
拘束はすでにナンサが解かれているが散々痛め付けられたのか立ち上がれないようだ
「スクイード・・、すまないな。私の不注意で・・」
「いいさ、君を守るのも僕の勤めだ・・辛い想いをしたのかな・・」
痛々しい姿のシトゥラ・・。スクイードは腰につけてある小物入れから
タオルを取りだし汚れた身体を清めてあげる
「・・ふふっ、どいつもこいつもなっちゃいない。女を屈服させるにはもっと強い攻めが必要だ」
「・・シトゥラ・・、全然大丈夫そうだね?」
「結構辛かったがまだまだだ。お前の相手のほうが大変だぞ?」
そう言って笑って見せるシトゥラだが傷が染みるのか顔をしかめた・・
スクイードはそんな彼女をあたふたと慌てながら診てやる
・・ナンサは一人、その光景を羨ましそうに見つめていた・・・




「いいのかい・・」
一夜明けた大草原・・、旅支度の整ったスクイードとシトゥラ・・
シトゥラはいつもの服装に着替えておりまだ顔に痣が残っているもの一人で歩けるくらいには回復した
そしてその前に寂しそうに立つナンサ
「はい・・」
「でももうファク族は君一人だ。ルザリアで生活の保護を受けたほうが・・」
「それでは皆さんに甘えてしまいます。一人でも私はファク族の戦士・・。頑張って見ます」
「そうか・・、がんばれ。私も応援しよう」
「シトゥラさん・・」
「もちろん僕も応援するよ、困ったことがあったらルザリア騎士団まで一報入れてくれ。
すっ飛んでやってくるよ」
「ありがとう、スクイードさん。そのバンダナは貴方に上げます・・草原の神の加護を貴方に・・」
「僕もあのサーベル、君に譲るよ。騎士の誇りと栄光を君に・・」
そう言って固く握手する二人・・、そしてナンサは馬に乗り草原を駆けて行った・・。

・・・・・

「さて、僕達もそろそろルザリアに帰ろうか!」
「そうだな、休暇もほどほどにしておかないとな」
「ああっ、実りが多かった修行だったけどシトゥラを危険な目に合わさせたのは大失態だな」
「そうでもない、お前の男が上がったと私は見ているぞ?」
口元を上げて笑うシトゥラ
「男が上がった・・って?」
「ふふっ、お前の事がたくましく見えたということだ」
そう言うと悪戯なのかスクイードのおでこに軽くキスをするシトゥラ
「え・・わっ!シトゥラ!?」
「さぁ、ルザリアに戻ろう・・」
笑うシトゥラ・・スクイードもそれに微笑んでルザリアへの旅路へと着いた

・・しかし、彼らを待っているのは
ライバルが自分の担当地域で勤務することになったことと
最も嫌う人物の正式な騎士団御用達となったという過酷な現実だった
それを知った彼が放心状態になり旅で得た素敵な想いは一気にかき消されたとか・・


それとは別にそれから大草原の小さな街に一人の少女が現れ街の戦士として参加する
草原の民としては珍しく騎士が使用するサーベルと鋭い名剣を使いわけ
メキメキと上達していった
その珍しいスタイルにサーベルの事を聞く者は沢山いたが彼女はただ
「私が尊敬する人から頂いた」
っと笑って言うだけだった・・


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