「死屍」後編


その町は遺跡の発掘のために作られた、故に町と隣接するように巨大な岩の寺院が
建てられておりその寺院も半分が山の中に入るような形でたたずんでいる
見るからに何かがありそうな場所であり
それを見たホクトも
「・・嫌な予感がする・・、小動物も寄せ付けていねぇ」
っと冷や汗を一つ流し様子を見ている
巨大な入り口の奥は昼だと言うのに真っ暗でよくわからずまるで魔界への入り口のようだ
しかも倒壊しかかっており倒れた柱が足場を悪くする
それを見てトゥクルを放し弓を持ちながらホクトは中に入ってく
アンシャルも彼の後ろに続くのだがいつものような
フラフラとした動きではなくしっかりと中を見据えていた
・・手持ちの松明で照らした内部は至ってシンプル、大きな台座に立つ巨人像があり
他はそれらしい物はない
「パルマゼウスのロザリオ・・」
思わずホクトが呟く、顔もなくただただ人の形をした巨像なのだが手にはサイズこそ違うが
アンシャルが持っていたあのロザリオを握っている
そして巨人像は元いた場所からずらされており奥に通じる道がぽっかりとある
「・・・・」
「この奥に・・、あるわけだな」
「・・・・・」
静かに頷きアンシャルが歩き出した・・、ホクトもそれに続き暗闇の穴を進んでいった
・・・・・・
・・・・・・
巨人像に隠された通路は細長くずっと続いており
山の内部に入っていることがなんともなしにわかる
そして暗い廊下を抜けた先にその部屋はあった
「・・・・・ここ・・」
部屋につくなりアンシャルが呟く・・、
広い円形の部屋は財宝でも置かれていたのか沢山の箱が置かれている。
さらに天上は吹き抜けになっており日の光が差してきている
「山をくり貫いて光を通じている・・?すげぇ仕掛けだな」
「・・・・」
「だが・・こんな所に何を隠していたのか・・」
周りを見渡しホクトが調べるがすでに何もない状態・・
収穫はないのかと頭を掻いたが

”ここには古代の英知が封じられていた・・そう、それも素晴らしき英知がね”

「!?誰だ!」
不意に部屋に広がる男の声、
日の光が遮られたかと思うと目の前に青色の髪の青年が立っている・・
「誰だとは失礼だな、我が町に足を踏み入れたのは君ではないのかね」
高圧的な男、着ている物こそ法衣だが顔はあの記憶球に写るその人・・
「・・ゼイス・・」
不意にアンシャルがそう言った、
「ゼイス・・だって?」
「・・アンシャル・・か。どうやら不完全なままでいるようだな・・」
「・・・・?」
「わからない・・か、それを与えたのはお前を殺してからだったから無理もないか」
「・・・何だと・・?」
「・・・ふっ、君が彼女をこの地に招いてくれたか、
・・ならば礼変わりに真相を教えてやろうか。
どうやら何も知らないようだ」
口元を上げニヤリと笑うゼイスと呼ばれた男
「・・・この遺跡にはある物が隠されていた、
それは生物と同化し圧倒的な能力を発揮する太古の生物兵器だ。
それは予想通り素晴らしい力を私に与えた」
そう言うとゼイスは手刀の形を作ったかと思うと

ジャキ!

手は瞬く間に変化をし鋭い金属刃となった
「自らの肉体を宿主とし私は誰にも負けぬ力を得た、
もう馬鹿な金持ちの下で働くことはなくなった。
この力をアンシャルにも与えようと思ったのだが・・こいつはそれをかたくなに拒否してな。」
「・・・・」
「仕方なく町の連中を喰うついでに殺してからその剣を持たせた・・が、
うまくいかずそのまま死んだと思ってな。
どこかに捨てたのだが・・よもやそのような哀れな姿になっていたとはな」
「哀れ・・だと!?てめぇがアンシャルを殺したんじゃないのか!」
「何・・私達は発掘に使われた下っ端の学者だ。
あのまま生きていても倒壊の可能性のある遺跡で生き埋めになっていたさ・・
そうならず幸せを手に入れるために偶然見つけたこの力を使おうとした、
それの何がいけない?」
すでに人らしい感情を持ち合わせなくなったゼイス、それにホクトも頭に血が上る
「幸せのためには仲間を殺していいというのか!」
「・・その女は強情だったからな、恋仲ということで情けをかけてやったというのに・・馬鹿な女だ」

「あああああああ!!!」

ゼイスのその言葉に狼狽するアンシャル、
すでにアポカリプスは生物化しそれを力任せに叩きつける!
「人喰剣『アポカリプス』・・発見した時お前は随分と気味悪がっていたが
良く似合っているじゃないか・・」
「・・ゼ・・イス!!」
襲い掛かるアポカリプスの刃を寸ででかわし笑うゼイス
「失敗作には興味はない。それに人喰いの剣はこの『レメゲトン』があれば十分だ」
瞬間

ドス・・ドスドス!!

ゼイスの腹が棘のように走りアンシャルの両手とアポカリプスの鍔にある赤い肉塊に刺さった
「!!!」
「肉体は死にアポカリプスの力で命を延ばしている・・だが、この剣が死ねばどうなる・・?
剣の心臓を貫いた・・・人喰剣の散り様を見せてもらおう」
「させるか!」
アンシャルの影から周り込むようにホクトが飛び出し短弓を放つ!
「ぬっ!?」

キィン!

咄嗟にゼイスはアンシャルを蹴り飛ばし手刀でそれを払いのけた
「ちっ!難儀な!」
必殺の一撃を簡単に退かれ舌打ちをするホクト、弓は不利と感じクックリ刀を抜く
「人間が・・私に適うとでも思っているのか?」
「てめぇも人間だろうが!!」

キィン!

鋭い一撃を放つものの鋼鉄のような手刀に受け止められる・・
「違うな、私はその上を行く存在だ。そこの女のような失敗作ではなく・・な」
「ぬかせ!!」

キィン!キィンキィン!キィン!!

連続で繰り出すホクトの連撃をゼイスは片手で捌いていく
「良い腕だ。だが貴様も哀れな・・失敗作に付き合うとはな・・ぬっ!」
ホクトの攻撃の裏をかき背後からアンシャルが不意討ちをかける
「・・ゼイス!」
「・・・何・・?」

ガキ・・!

アポカリプスの刃とゼイスの刃が衝突・・鈍い音を鳴らしながらゼイスを吹き飛ばした
「私を・・捧げる!!」
生気のなかった瞳は殺意の活力がみなぎり力の限りアンシャルは叫ぶ
そしてそれに応えるようにアポカリプスは肥大化・・握りから伸びる触手は彼女を侵食し
それを握っていた右腕全身に及んだ
生物のような刃はさらに巨大化し半月刀になっている
「ほぅ・・、不完全なお前がそこまで使うようになったか・・」
「ああああ!」
アポカリプスを力任せに振るアンシャル、壁ごと切り砕きながらゼイスを切り裂く
「ぐ・・ふふ・・」
身体の半分をアポカリプスの刃が食い込んだゼイスだがニヤリと笑い

ドスドスドス!

指が別れ鋭い刃物となりアポカリプスの心臓を貫いた
「不完全にしては見事だが、心臓が剥き出しな以上勝ち目もあるまい・・アンシャル」
「ゼ・・ゼイスゥ!!」
「な・・何!?」
心臓を切り裂かれたはずなのに尚も剣の力は衰えず・・

斬!

強烈な一撃がゼイスの身体を真っ二つにしさらに下から上に巨大な刃が走る・・
「・・・・ば・・・かな!」
四等分に綺麗に裂かれたゼイス、丁度心臓部分にアポカリプスと似た肉塊が見えた
「・・ホクト!」
「応!」
レメゲトンの心臓目掛けホクトは矢を放つ

気合の篭った矢は白い闘気を纏い心臓に喰らいついた
「!!わ・・たしは・・人間を超える・・存在!こんなことで・・・!!」
「消えろ!下の下が!!」
ホクトの声に反応するかの如くゼイスの身体は砂のように消え果ていった
最後の最後までこの事態を信じられないといった表情だ
・・・・・
「アンシャル、大丈夫か?」
「・・・うん」
「アポカリプスは・・」
「・・・私が・・私を捧げた・・から・・喰らっている・・だけ」
アポカリプスは元の剣に戻らなく生物形態のまま蠢いている
「くそっ!そんなこと!」

ガキ・・ガキ・・

クックリ刀でアポカリプスの心臓を切ろうとしたが全く傷がつかない
「・・駄目、喰らっているうちは・・殺せない」
「アンシャル・・」
「・・・・・復讐は・・終った・・もう・・これで・・」
「駄目だ!剣に喰われて死ぬなんて・・」
「私は・・もう死んでいる・・いいの・・」
「だから駄目だ!そんなの俺は認めない!!」
そう言うとホクトはアンシャルを抱きかかえ元きた道を走り出す
「・・・ホクト・・?」
「お前はそれだけつらい思いをしたんだ!そんな残酷な終り方なんて・・あんまりじゃないか!」
「・・・・・・」
必死に通路を走るホクト・・アンシャルは呆然とその光景を見て
「けど・・もう・・」
「諦めるな、何かあるはずだ!・・何か!!」
・・・寺院を抜け、トゥクルのいる入り口に出るホクト・・
すでに日は沈みかけ辺りは一面黄昏色になりつつある
そこに

「・・無事だったか・・」

人気のなかった町に陣取っている騎士団・・、そして先陣に立つは老騎士オーディス
「・・あんた!何でこんなところに・・?」
「・・ふふっ、私だけではないぞ」
そう言うとオーディスの後ろから馬が現れ、
「ご機嫌よう、ホクト君」
それはヴィガルドの神殿にいたフェフ・・、良く見ないとわからないが少しスリットの入っている
法衣を着ているが清楚感が漂い
洗練された印象を出している
「あ・・貴方まで・・」
「調べていたら気になったことがありましてね。馬に乗ってきたかいがあったようですね」
ホクトの背中に担がれたアンシャルの腕を見てフェフは優しく声をかける
「アポカリプスがアンシャルを喰らっている!何でもいい、こいつを仕留める武器を貸してくれ!」
「ええっ、そのつもりできましたからね。
古文書を隈なく探した結果人喰剣についての記述が見つかりました。
人喰剣は心臓部を打ち抜ければ消滅します・・ですが彼女はすでに死んでいる身。
それがどういうことかわかりますよね?」
馬からゆっくりと降りるフェフ、対しホクトは静かに彼女を見つめ
「・・ああ、せめて・・安らかに眠って欲しいんだ」
「・・・・ホクト・・」
そうこうしている間にもアポカリプスの侵食が増している
「・・わかりました、これを・・」
フェフはホクトに双頭の剣を渡した
「これは・・」
「私がかつて扱っていた『幻凰弓』です。
剣ですが魔力を込めれば弦と矢が展開します・・これならば・・彼女を救えるでしょう」
「・・・やれ、ホクト君」
「・・ああ・・」
オーディス達に見守られながらゆっくりとアンシャルを降ろした
「・・アンシャル、・・俺は・・その剣の心臓を射抜いて・・お前を解放する・・いいか」
「・・・貴方になら・・殺されても・・いい」
「・・馬鹿野郎・・」
そう言うとアンシャルはゆっくりと遺跡の入り口に立ちアポカリプスを構える
ちょうど剣の心臓の位置と彼女の心臓の位置が重なるように・・
「・・・・・」
「草原の神よ・・我に力を・・」

シィ・・・・ン

沈黙が支配する中、幻凰弓の刃から光り輝く弦が出現する・・
そして呼吸を整え弦に触れたとともに光の矢が伸び
矢尻は一直線に彼女の心臓部へと向いている
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
後は矢を放つだけ・・しかし・・それが、できない
その間にもアポカリプスの侵食が進み彼女の胸元が怪しく蠢きだしている
「・・くそっ!」
「ホクト、君も戦士ならば・・ためらうな」
そんな光景にオーディスが渇を入れる
「オーディスさん・・わかった。アンシャル・・・」
「・・・ホクト・・」
「・・・いけぇ!!」

轟!

ありったけの力を込めて矢を放つ、
光の矢は超高速で目標に突き進みアンシャルの身体を貫いた、
それはまるで落雷の如くの速さで一瞬の出来事だった
「・・・あ・・・」
心臓部がすっぽりと消滅している剣を見てアンシャルは唖然とした・・が
すぐに剣は灰のようにユラユラと消えていき彼女の身体から綺麗に剥がれ消滅していった
「アンシャル!!」
フラッと倒れるアンシャルにホクトは急いで駆けより抱きとめる
「・・ありがとう・・これで・・ようやく眠れる・・」
外傷はないが恐ろしく冷たい体のアンシャル、目には確かな生気が篭っているが
それは風前の灯火・・
「アンシャル・・、これで・・よかったのか・・?」
「いいの・・でも・・できればもっと早く・・貴方に・・・会いたかった・・」
スゥ・・っと涙が頬を伝いアンシャルはその手をホクトの頬へ当てる
「・・ああ、俺も・・そう思う・・」
「・・トゥクルに・・よろしく・・ね」
「・・・・」
「・・・・・おや・・す・・み・・」
ゆっくりと目を閉じるアンシャル・・、
死人にようやく安らぎが訪れた
ホクトは強く彼女の身体を抱き締め
「・・・・・・・そちらにいらっしゃる皆様方・・今そちらに一人の女性が参ります・・・。
哀しくも優しき女性です・・親身にしてやってください・・」
天を見つめながら冥福を捧げる祈りを行う
周りの人間はただその光景を見ているしかなかった


・・・数日後・・・・

「・・行くのですか?」
パルマゼウスの遺跡よりヴィガルドに戻り神殿の世話になっていたホクトだが
旅の準備も整ったのでヴィガルドを発つことになった
礼拝堂の教壇の上に安置されたアンシャルを見つめていたホクトにフェフが声をかける
「・・ええ、ここに埋めてやればアンシャルも休めるでしょう」
ヴィガルドまでの帰路、アンシャルの遺体は腐ることなく穏やかな顔をしていた
「わかりました、丁重に葬りますが・・立ち会わないのですか?」
「・・勘弁してください、俺は・・そこまで強くないですよ」
「・・そう。では早く出発したほうがいいかもしれませんね。
オーディスが貴方を守護騎士として迎えたいと目論んでいるらしいですから」
ニコリと微笑むがホクトは冷や汗たらりと・・
「目論むって・・」
「まぁそういう事に前例がありますからね。
ですが・・がんばりなさい、困った時はいつでも相談にのりますよ」
「・・ありがとうございます、それと・・幻凰弓を貸してもらって悪いですね」
フェフより借りたあの剣、アンシャルの事で気を取られ借り物をそのまま持っていたようだ
王都に到着するなりそれに気付き謝りながら返したのだ
「いいのですよ、どうせあれの後継者がいなかったものですから
ですがよく扱えましたね・・、並の物ではありませんが・・」
「かなり物騒な物でしたからね・・。俺も必死で使いましたけど・・
魔力消費が半端じゃなかった、よほどの戦士じゃないと使いこなせないでしょう
では、最後に・・」
静かに眠るアンシャルの元に歩み寄る・・
「・・アンシャル、ここなら寂しくないだろう?
俺も・・たまに来るからさ、ゆっくり休んでくれ」
そう言い彼女と唇を合わせる、死しても張りのある感触が
彼に伝わり生きているのではないかと錯覚させるほどだ
「・・ホクト君・・」
「・・らしくないことをしましたね。では、トゥクルも待ってますので・・これで失礼します」
深く礼をして新たな旅路につくホクト、彼方に赤い馬が走り去るのを見ながら
フェフは静かに目を閉じ
「・・・・つらいでしょう。ですがこれもまた一つの試練・・ですね」
彼に祈りを捧げた
そこへ


・・トクン・・・

「・・・えっ?」
不意に教壇から奇妙な音が・・

・・・トクン・・トクン・・

確かな鼓動・・それにフェフは口を覆い驚く
「・・・あ・・・、わた・・し・・」
アンシャルが・・目を開けた
「アンシャルさん・・貴方・・」
「貴方は・・フェフさん?あ・・私・・生きて・・いる?」
起き上がるアンシャル、死人だった時とは違い活力の篭った瞳をし動きも軽快だ
「・・これは・・一体・・どういうことでしょう・・」
「・・・・奇跡・・っとしか言いようがありませんね。・・身体は大丈夫ですか?」
「は・・はい、心臓も・・きちっと動いています。あ・・の、ホクトは・・」
教壇から飛び降りフェフに詰め寄るアンシャル
「経ったところです。今から行けば間に合いますよ・・目印もわかりやすいですしね」
「あ・・ありがとうございます!では・・!」
そう言うと走り出すアンシャル、死人だった頃の彼女はもういない・・
「あっ、アンシャルさん!」
「は・・はい!」
「・・貴方達に神の導きを・・」
フェフの言葉に深く頭を下げ彼女は駆けて行った

・・・その日、王都ヴィガルドの入り口で一人の青年の驚愕と喜びの叫びが響き渡ったという・・


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